リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ミッション2-10 敗者の立場に甘んじよう

 

 信じてはいた。

 けれど勝利がこの上なく嬉しいのは別腹なのだ。

 

「やったねぇ、ロウジ!!」

 

 決闘を終えて会議室に戻って来たロウジに、セセリアは全力タックルからハグ、髪の毛わしゃわしゃのフルコンボをお見舞いした。

 戸惑い逃げるロウジを捕まえ頬ずりする。何だかロウジの目が赤い気がするが気のせいだろう。

 

「やめてよセセリア、恥ずかしい!!」

「チューしてあげたい!」

「ガチでやめて!?」

 

 セセリアは手を離し、満面の笑みでもう一度ロウジを出迎える。

 

「ロウジ、やったね! 楽しかった?」

「……もちろん!

 ホントありがとう、セセリアが守ってくれたおかげだよ!」

 

 今度はロウジから抱きつかれ、セセリアがちょっと顔を赤らめる番だった。

 仕方ないな。セセリアシールドも寛大な心で許してあげやう。

 にこにこ笑顔でたっぷり一分ぐらい抱き合い、セセリアはようやくロウジの一人じめを終える。

 

「やったな、ロウジ」

「勝利おめでとう、ロウジ君

 ……素晴らしいバトルだったよ」

「エニルさん、ロンメルさん!」

 

 近寄ってきたおっぱいさんとモフモフさんにロウジを渡してあげる。

 さぁ、存分に褒められてくるが良い!

 

「ありがとうございました、エニルさん。

 本当に最高にデコトレーナーにぴったりのスペシャルウェポンでした!」

「赤い彗星の人にも、きちんとお礼を言っておくようにな?」

「もちろんですっ!」

 

 シショーにつなぎを取るとか、この人マジで顔広いよね。

 密かに感心するセセリアであった。

 

「うわぁ……ほんとにめちゃめちゃモフモフですね!」

 

 そして案の定ロウジが許しを得てロンメルのモフモフを堪能し始めた辺りだった。

 会議室へ帰還したマフティーを見て、セセリアは目をこすり、不思議そうに呟いた。

 

「……なんかマフティー、縮んでない?」

 

 マフティーのアバターが変わっていた。

 生真面目な青年風から、繊細そうなセセリアと同年代くらいの少年アバターに。まるで若返ったかのようだ。

 若マフティーは突っ込むセセリアに一礼してからロンメルの前へ歩いていく。

 ロウジが慌ててロンメルから離れ、マフティーのアバター変化に目を見開いた。

 

「あっ! 若ハサウェイだ!」

「ふむ、ハサウェイ・ノア(0093)なのだね」

「はい、その通りです。ロウジくん。ロンメル大佐」

 

 静かな口調で若マフティーが答え、ロンメルの前で静かに胸を張って立った。

 

「ハサウェイ・ノアはこの決闘の敗北をもって、

 マフティー・ナビーユ・エリンのダイバーネームとアバターを封印することを誓います」

「……そうか、うん。それが良いだろうね」

「良くなぁい! 名前変わったから決闘無効!とかずるない!?」

 

 セセリアは叫ぶが、マフティー……もといハサウェイは無視してそのまま続ける。

 

「ハサウェイ・ノアはマフティー・ナビーユ・エリンとして敗北したこの決闘の結果を引き継ぎ、遵守することを誓います」

「……ならば、よろしい」

 

 とても偉そうにセセリアは許した。

 めっちゃハサウェイが苦笑してるが知ったことか。

 

「ロウジくん、まずは試合中言った通りだ。

 キミのガンプラを醜いなどと貶めたことも、重ねてすまなかった。訂正する」

「はい、わかりました!

 でも実際貴方の美しいΖにはまだまだ及びません、頑張ります!」

 

 めっちゃロウジも笑顔で頭下げてるし。

 

「粛清と称して貶めた他のガンプラにも、申し訳ないと思っている。

 バトルはするが、あのようなマフティーめいたやり方は二度としない」

「……めっちゃ漂白されてるじゃん、気持ちワルっ」

「どう言われても仕方ないが、オレも傷つかない訳ではないんだ」

「……セセリア?」

「はいはいロウジ……すんませんっした」

 

 ロウジに諌められ、セセリアは自分と同じ背の高さぐらいのハサウェイに、不承不承頭を下げて謝った。

 でも本当に、何があったのだろう。

 

「セセリア・ドート。

 キミへの謝罪はロウジくんへの謝罪に含めたと思って構わないかどうか?」

「べっつにー?

 ロウジが納得したなら良いよ。お好きにどーぞ」

 

 セセリアは肩をすくめ、ハサウェイを観察する。

 河原で殴り合って判りあう、漫画じゃないんだから。

 不思議そうに見つめるセセリアの視線が居心地悪かったか、ハサウェイが咳払いして語りだした。

 

「……楽しかったんだ、ロウジくんとのバトル。

 自分のストレスの八つ当たりでバトルしてた自分が、ひどく無駄なことをしていたと思い知らされた」

「それでここまでキャラ変わるぅ?」

「うん、きっと悪い魔女にかけられた呪いが解けたんだね!」

 

 ロウジがドヤ顔で唐突に言う。時が一瞬止まった気がする。

 ハサウェイがくしゃっと顔を歪ませ、腹を抱えて笑い出した。

 

「ふふ、あはは!

 キミの自慢の魔法には、かなわないね!」

「もう、ロウジってば!」

 

 セセリアもつられたように笑い出し、ロウジも、エニルも、ロンメルも笑顔になる。

 肩を揺らして笑いながら、セセリアはロウジとハサウェイの背中をべしべし叩きまくった。

 

「そんな魔法使えるなら、これからもばりばりバトル勝てそうじゃん!」

「あ、ごめんセセリア。ブラスターロッド折れて消えちゃったんだ」

「……ぇ゙?」

 

 申し訳なさそうに言うロウジに、間違いなく空気が凍った。

 

「……待ちたまえロウジ君、ガンプラの装備は消えたりしないよ?」

「実物をスキャンしてデータで所有権を移譲したと聞いたが。インベントリに残ってないのか?」

「……こちらのログにも、確かにブラスターロッドが消滅したと出ているな。出ているが……消滅!?」

 

 ロンメル、エニル、ハサウェイと集まって深刻な表情で言い合う。セセリアだってパニックだ。

 

「ちょい待ちロウジ!

 使い捨てのチェーンマインだってシュツルムファウストだって、消滅したりしないよ!?」

「……いいんだよ、セセリア。

 だってアレは、赤い彗星の人がくれた一度きりの奇跡の魔法なんだから」

 

 ロウジ一人だけが、マイペースだった。

 

「……うん、後でガンプラハンガーとインベントリ、大捜索しよ?」

「……本当になくなっていたら、バグ報告しておくようにな」

「はいエニルさん、わかりました!」

 

 返事だけは素直なのである。ロウジめ。

 その後迎えに来たクランプと共にロンメルが辞去し、エニルも何か作業があると言って別れた。

 なんだかんだあってセセリアはロウジとハサウェイ3人で、ロウジのガンプラハンガーへ移動した。

 

「ロウジくん!

 ……それで、すまない。君との約束を果たしたい」

 

 ハサウェイが唐突に真剣な顔で声を張り上げた。

 約束?と首をかしげてセセリアは思い出す。そう言えばロウジがなんか叫んでた。

 

「あ、はい!

 えっと……嫌だったらすぐにフレンド切ってくれていいので」

 

 ほらまたロウジてば予防線張るぅ。

 心で肩をすくめながら、向かい合う二人を見守る。

 一分経過。二分経過。ついには五分が経過した。

 

「……ごめんハサウェイ!

 フレンドってどうやって申請するの?」

「……ごめん、オレもわからない。

 申請したことも受けたこともなくって」

 

 どっちもコミュ苦手組かぁい!?

 噴き出すのをこらえたの自分をセセリアは褒めても良い。

 エニルとロンメルが背を向けている。

 肩が揺れている。ダメだあっちも頼れない。

 

「もう! ロウジってばボクがいないとなんにもできないんだからぁ!」

 

 つつがなく、三分ほどでフレンド登録終わりました。

 セセリアからは様子見、ボクは安い女じゃないのです。

 

「じゃ、これからはフレンドだね、ハサウェイ!」

「……うん。よろしく、ロウジさん。……ロウジ」

「よろしく、ハサウェイ!」

 

 なんか二人の空気出しててムカついたので、結局フレンド申請しました。

 そしていざ一緒に遊ぼうとした時だった。

 

「ごめん、ロウジ、セセリア。

 オレ、悪い魔女の魔法で、GBNは2時間までなんだ」

 

 ……うん、凄く身に覚えがある魔法だネ!

 めっちゃ申し訳なさそうに言われ、セセリアはずっこけかけた。

 

「ううんいいよ、リアルは大事だよ!」

「平日は1時間。20時からなんだ。ダメかな?」

「ダメな訳ないじゃん!」

 

 申し訳なさそうなハサウェイの頭をぺしり、セセリアは胸を張る。

 まぁセセリアのリアルミッションが、終わらないかもしれないのだが。

 大慌てでログアウトするハサウェイを手を振って見送る。

 

「えっと……ハサウェイ!

 ……また、明日!」「また明日ぁ」

「ああ、また明日!」

 

 そしてセセリアは、ロウジに真顔で向き直った。

 

「あのさロウジ、ハサウェイの言う悪い魔女ってさ……」

「……うん、多分リアルママだよね?」

「……明日、謝っとこか?」

「そうだね……」

 

 二人揃ってビミョーな顔で、セセリアはロウジと消失したブラスターロッドの大捜索に時間を費やしたのであった。

 

 

 

 正直、自分の笑顔が苦手だ。とても嘘くさくて。

 

「ハロー、視聴者の皆、エニル・エルの“……また逢えたわね”チャンネルだ。

 今回はなんと!いつもと趣向を変え、先日行われたアスティカシア学園式決闘の解説をさせてもらおうと思う!」

 

 割とつらい。ハイテンションな声で虚空に語り掛け、エニルは内心で苦虫をかみつぶした。

 真正面のモニターには、視聴者へ向けて愛想よく語り掛けるエニルの顔が映っている。

 

「さらに今回は大物ゲスト!

 立会人を務めたロンメル大佐の解説も使用許可をいだいている!

 少しでも聞き応えのあるものになっていればありがたい」

 

 動画テスト視聴用モニターにフェレットのロンメルが現れ、自己紹介してお辞儀するのが映る。

 ここはエニルのガンプラハンガーだ。エニルはその一角に機材をセットし、配信用の動画への声入れ作業を行っていた。

 公式のエニル・エルはこんな顔もこんな喋りも絶対しない。エニルの中で現実と公式が解釈違いで大喧嘩を始めそうだ。

 

「さて! 今回の注目の対戦カードは……」

「あの。すいません、エニル・エル少佐」

 

 エニルの心臓が大きく一つ跳ねた。

 背後からとても申し訳なさそうにかけられた言葉に、エニルは反射的にモニターのスイッチを切る。

 小さく深く呼吸を繰り返し、ゆっくり心臓の鼓動を落ち着かせ、振り返る。

 

「……やあ、ハサウェイくん

 すまない。まだログイン無理な時間帯だと思っていたよ」 

 

 油断だった。

 余裕たっぷりな大人の仮面をかぶりなおし、困惑するハサウェイへとクールに声をかける。

 決闘から2日後の平日の夜、エニルはロウジ経由でハサウェイから遭いたい旨を伝えられていた。

 

「動画編集の作業中、申し訳ありません。

 本日、魔法をかける魔女がアジトにいませんでしたので……」

「いや、声をかけてくれてありがとう。

 アタシの作業より、君のログイン時間の方がよほど貴重だよ」

 

 編集用オブジェクトを片付け、代わりに簡素な椅子オブジェクトを設置し、座るようハサウェイにうながす。

 本当はマイルームやフォースネストを使うべきなのだが、ハウジングはセンスがもろに出てしまうのだ。

 必要ないところは手抜きをしてしまう。時間の足りない社会人の悲しいサガであった。

 

「それで、今回の君の要件は確か……

 壊れたまま使っているZの頭部を補修したい、だったね?」

「はい。隻眼のZはマフティーの印象が強すぎます。

 このまま遊んで、ロウジやセセリアに迷惑をかけたくないですから」

 

 完璧な敬語ではないが丁寧な言葉選びと態度だった。

 どうやらしっかり教育された礼儀正しい子らしい。エニルは心の中でセセリアと比較し、感心する。

 

「確か、キミの大切な人が作ってくれた思い出のガンプラなのだったね?

 その人に修理を頼むわけにいかない理由があると言う事か」

「はい。兄さんとは留学中で会えなくって。

 ……あ、兄さんと言っても肉親じゃなく、近所に住んでただけの人なんですが。

 外国の大学院のゼミで、プラフスキー粒子を研究しているそうです」

「ほう……メイジン級の良いガンプラだとは思ったが、優秀だね、お兄さん」

 

 思った以上に大物だった。クールにハサウェイへ応対しながら、エニルはかすかに眉を動かした。

 ひょっとして、エニルが名前だけは知っているような相手かもしれない。

 

「ひとまず候補は3つかな。

 1.HGUCの新品のZガンダムのパーツを取り寄せ、頭部ごとすげかえる。

 2.他の機体の頭部を取り付ける。

 3.角とえぐれた片目部分を隠すパーツを後付けする」

 

 ハサウェイに渡して貰ったガンプラのデータを映像再現しながら、エニルはハサウェイへ丁寧に説明を行う。

 ハサウェイのZガンダムは、何度見てもほれぼれする完成度だった。

 エニルよりも間違いなく腕が上だ。今回力を借りた赤い彗星の人で、ようやく互角だろうか。

 ガンプラが作成された時期を考えると、今ではそれ以上の腕になっている可能性もある。

 

「本来一番自然なのは1だが、同じガンプラパーツであるせいで、多分ガンプラの完成度の差が露骨に出てしまう」

 

 シミュレート映像に素組で新品のZガンダムヘッドを選択肢1を試すと、やはりシステム警告が出た。

 ガンプラの作り込みボーナスが消え、大幅に弱体化してしまうようだった。

 

「2はΖザクなどの前例もある。もともと別パーツを外付けする分、完成度の差による違和感はそれほどない。

 ただ恐らくどの頭部でも変形が出来なくなってしまう可能性が高いな」

 

 続いて2を試してみる。有名なザクヘッドを乗せてみる。変形が出来なくなり、全体的に性能が落ちてしまった。

 Zプラスやデルタプラスの頭部をつけてみると、比較的マイルドな性能低下ですむようだった。

 

「だからオススメは3だな。ジムスナイパーII系のバイザーをつけるなどしてカスタムするか」

 

 シミュレーター映像をいじり、仮のプランを幾つか作り、ハサウェイに提示してみる。

 

「それを元に、キミがチャレンジしてみるといい」

「……あの。実際の作業をお願いできそうなビルダーさん、ご存じないですか?」

 

 視線をさまよわせながら、おずおずとハサウェイが言う。

 エニルは小さく息を吸い込み、居住まいを正す。

 

「……差し支えなければ、理由を聞かせてもらってもいいかな?

 無論、口外はしない」

「オレ、ガンプラ、作った事がないんです。

 だから、修理とかとても……」

 

 補修プラン作成の手を止め、エニルはハサウェイのセリフに真剣な顔で頷く。

 

「ひょっとして、ご両親の教育方針なのかい?」

「……はい。女の子がそんな遊びするもんじゃない。って。

 まあオレもそう思います。女子には理解を得られないし、男子どももバカにしてきます」

 

 驚きのカミングアウトに、エニルは全力でクールな表情を保った。

 正直意外だった。けれど何も悪い事ではない。

 アバターはもちろん、使用者の性別に制限されるわけではないし、そう言う遊び方ももちろんある。

 

「あ、ガンダムは好きで、ゲームも好きですよ。

 成績を維持する事を条件に、兄さんの作ってくれたこのガンプラで遊ぶ時間は勝ち取りました。

 ……いろいろあってショックな時、成績落としてママにこのZ、床に叩き落とされちゃいましたけど」

「そうか……それは、辛い思いをしたね。ハサウェイ」

 

 沈痛な表情で、エニルはお悔やみを述べる。

 ハサウェイの明るい声と表情がむしろ痛々しい。

 ハサウェイがマフティーなどやっていた理由が、少し垣間見えた気がした。

 

「いいんです。その時ばかりは大喧嘩しましたから!

 おかげでGBNの事だけは、遊ぶ時間以外はノータッチです」

 

 明るく言われ、エニルは暗い気持ちを強引に切り替えた。

 冗談めかした表情で指一本立て、ハサウェイへ言う。

 

「とりあえず、性別の件は内緒にするようにな。

 ……男どもにモテモテすぎて、絶対にトラブルの元になるからね」

「え、そうなんですか?!」

「今まで会った男子がガキか、見る目がないだけさ。

 ガンプラ界隈も、GBNもだいたい男ばっかりだからね。

 そんな中、同じ趣味の女がいるともなると……すごくモテるぞ」

 

 エニルも昔はそうだった。まあ、今は昔話などどうでもいい。

 ハサウェイに向き直り、大人の仮面をかぶって親目線でロールプレイを続ける。

 

「あと、別にガンプラが男限定の趣味って訳ではない。

 アタシの娘も、GBNで男の子に混じってヤンチャに遊んでいるよ。

 ガンプラだって未熟なりに作っているとも」

「え、そうなんですか!?」

 

 驚き目を見開くハサウェイに、エニルは笑ってうなずいてみせる。

 そして、真面目な表情でそっと言い添える。

 

「……だから、キミがガンプラを触っていけない理由はないんだ。

 アタシはやはり、キミのZガンダムはキミが直してやるべきだと思う」

 

 ハサウェイはしばらく考え込んでいるようだった。

 親の教え、今まで培ってきた価値観、それを覆すのは容易ではない。

 未熟な自分が触って、自慢のガンプラを台無しにしてしまう恐怖も無論あるだろう。

 

「修復、やってみたいです!

 たとえみっともなくても、あのZガンダムはオレのガンプラなんですから!」

「そうか、わかった」

 

 にっこりと微笑み、エニルはハサウェイの選択を尊重した。

 ついでに初心者向けの工具や塗料などをチョイスし、リストを渡してやる。

 

「では、初心者が丸々やると言う観点で候補をあげて行こう。

 まず塗装は不慣れだろうから、GBN上でシミュレートした3Dデータを作成する。

 良いプランがあったらおこづかいで、ガンプラベースの3Dプリンターでパーツ成形してもらうといい」

 

 会話をしながら、エニルは準備しておいたパーツを次々にハサウェイに提示していく。

 傷ついた頭部を隠すため、ジムスナイパーIIのバイザーで隠す。

 えぐれたデュアルアイ部分に埋め込むように、V2やコマンドガンダムなどのモノクルタイプのスナイパーアイを装着する。

 思いつく限りの補修プランを提示し、データを全て手渡す。

 

「すごい。選択肢がこんなにもあるなんて……」

「壊れたら直す。作り上げる。それがガンプラビルダーの生業さ。

 ……まぁ、慣れてるんだよ。何せGBDって古いシステムだと、ガンプラが実際に壊れたんだ。

 正直、今の便利さに慣れてしまえば、不便だったあの頃にはもう戻れない」

「……良くわからないけど、すごかったんですね、昔」

 

 ハサウェイの憧憬の眼差しへ、エニルは軽い調子で言ってみせる。

 

「けれど、選び抜き、最高のガンプラへ仕上げるのはキミにしか出来ない」

「どれもカッコよく見えて選べません!

 ……何かヒントとか、その」

「キミがこのコが世界一カッコいいガンプラだと思う理由だ。

 自分の中の想いと対話したまえ」

 

 “好き”を言語化するのは難しい。

 だが、エニルの言葉にハサウェイがうなずくその眼差しには、思索の確かな方向性があった。

 あとはハサウェイが悩み、決めてくれる事だろう。

 

「ああ、そうだ……大人の一人として、キミに一つ言っておきたい事があってね」

 

 いわゆる、老婆心と言うヤツだ。

 シミュレート映像を見比べ、唸るハサウェイへとエニルは言葉を続ける。

 

「大人の趣味だって、ほとんどが無駄な時間だよ。

 生産性もないし、将来性もない。他人から見たら何の意味もないものさ」

 

 まるで悪い魔女の呪いを解くかのように。

 優しい声と真剣な顔で、エニルはハサウェイへ語り掛ける。

 ハサウェイが戦闘中、ロウジへ投げかけた台詞だ。

 エニルには確信がある。あれはきっと、マフティーが親しいものから投げかけられた言葉だ。

 

「ただ、好きなことをやって、楽しいだけ。

 それはとても大切な事で、絶対に意味のあることさ。

 ”好き”なことは胸を張って”好き”だって言えば良いんだ。

 ……もちろん、将来のための勉強や課題は済ませた上でね?」

「……はい。覚えておきます」

 

 真剣な顔で、ハサウェイはうなずいてくれた。

 きっとこの子は、真面目で繊細で、親に素直な良い子なのだろう。

 

「たぶん、キミのご両親も、キミのためを思って言ってくれているんだろう。

 けど、大人だって、いつも完璧でミスのない存在じゃないからね。

 悩んだら、他の大人に相談してみなさい」

「はい、その時はまた是非お願いします!」

 

 明らかに社交辞令ではない満面の笑顔で、最後にハサウェイが頭を下げてくれた。

 

「まったく。アタシよ、何を偉そうにと言うヤツだぞ」

 

 ガンプラハンガーから退出するハサウェイを見送り、エニルは苦笑いする。

 自分が立派な大人だなどと、エニルは胸を張って言えるつもりもない。

 それでも子供達の前でぐらい、いい大人のふりぐらいしてやりたいではないか。

 今日もやんちゃに遊んでいるだろう娘の顔を思い出し、エニルは作業へと戻る。

 エニルは自分の笑顔が苦手だが、その時のエニルは、実はとても優しい顔をしているのである。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・リネームとアバター変更

 GBNにおいて、ダイバーはダイバーネームとダイバーIDで管理されており、IDは変更不可能だが、ネームの方は課金アイテムを使用することにより、ダイバーの任意で変更が可能だ。

 悪質な利用者に対しては変更不可にしたり、逆に卑猥な単語の場合はGMから強制変更をかけるケースもある。

 マフティーに対しては、あくまでPVPの一貫であり、運営的には処罰対象外であったようだ。

 IDはデータ管理に紐づいており、フレンド登録、ブラックリストなどはIDを使用する。

 マフティーは犠牲者の何人かからはブラックリストに入れられており、ハサウェイもそのダイバーと関わることが出来ない。

 アバターの変更は無償で気軽に出来る。あなたも色んな課金アイテムで、お気に入りのアバターを飾り付けよう!

 

 

 




次が5/8 2話のエンディングとなります。
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