リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
次回更新は6/2になると思われます。
ヒールを演じるのも楽じゃない。
悪ぶって、挑発して、ベビーフェイスにはいいところで負けてやる。
観客の盛り上がりを支配するもう一人の主役だ。
けして誰にでもできる役割じゃないのだ。
「……ほんま、ヒールやるのも楽やないわ」
愛らしい少女ボイスでぼやきながら、ウチはデストロイのコクピットを出た。
アバターが転送されたのは、ソファと2つとテーブル1つが置かれただけの狭苦しい応接室だ。
ここはGBNの裏側、一般人が入れない場所、運営側関係者が待機するための場所である。
ウチはソファの1つに疲れた身体を預け、ぼんやりと応接室の天井を見上げる。
『お疲れ様。今回の試合はこれで終了です!』
明るく甲高い声と共に応接室の壁に通信モニターが開き、派手な格好の美少女が映る。
ウチは慌てて愛想良い笑顔でモニターへ向き直る。何せ、この美少女は実況を務めてくれた今回の相棒だ。
まぁ、ウチとて今は立派なピチピチ美少女なんやけど。
「そっちこそお疲れさんやね、トロンちゃん」
『あっはは、こっちは実況ですからね。
そっちみたいに多対1の神経削るバトルしてないもの』
労いの言葉に、明るく良く通る高い声が返ってくる。
多分アバターの年齢設定は10代後半から20代前半だろうか。
緑のロングヘアーに真っ赤なメッシュ、パンクファッションに身を包んだイケイケのギャルだ。
名前はトロン。たしかSDコマンド戦記のストーリーに登場するロックバンドのヴォーカルだったはず。バンド名は……ペナルティキックオールディーズだったか?
「あんなバトル、お茶の子さいさいやで」
『そう? 今回割とガチでやってた気がしましたよ。
ちょっと戦いがセメントすぎ、エンタメ要素放り捨ててない?』
格好つけてニヒルに肩をすくめるウチに、トロンがまるで子供をたしなめるように優しく言ってくる。
ぎくりと、思わずウチはバツの悪そうに頬をかく。
どうやら、トロンにはお見通しだったらしい。
「……マジで!
アレは!アカンやろ!」
ウチはぷるぷると身体を震わせ、応接室のテーブルに拳を叩きつける。
「魔法少女は美少女にだけ許された特権やで!?
年齢を百歩譲ってもハモンさん級の美女までや!
それを男が使うとか、ましてや渋さが魅力のおっさんが使うとか!
絵面が犯罪者なるっちゅーねん!」
ウチ、渾身の叫びであった。
生理的にアカンモノはマジでどうしようもない。
『OKOK、クールダウンしましょ。
そんなに怒っちゃ、キュートな顔が台無しよ。
……うん、そうね。挑戦者さんには悪いけど、正直アタシもちょっとゾワッとしたもの』
「いやマジヤバいってアレ。
よいこのダイバーの皆にトラウマ植え付けてまうで」
トロンに免じて、ひとまず憤りは忘れることにする。
アバターをソファに深く腰かけさせし、ウチはリアルで手元に置いたペットボトルを手探りで飲み干した。
『先日の動画での派手なインパクト、真似したくなる気持ち、よーく判るんですけどね』
「……なんかマイナーな動画で披露されて、めっちゃバズったんやろ?」
『すごかったですよー。 使用のための1200秒チャージを乗り越え、
メイジン級のビルダーがフルスクラッチした魔法のふとん叩きを使って大変身!』
「……ええなあ。さぞ凛々しいおねーさんが誕生したんやろ?」
やりたいことをやる。それがアカン訳じゃない。
ウチも「型に囚われない」「己の心のままに」と習ったものだ。
ただちょっと、どうしても……譲れない一線があるだけだ。
「……うん、まぁ。今回はちょい頭に血がのぼってもうたわ。
次はもうちょい挑戦者に華持たせたるよう気ぃつける」
『素直なキミ、大好き。
実際そろそろ挑戦者のいいとこも見たいな。
これで当エキシビジョンマッチ、挑戦者の皆さん3戦全敗ですし』
困った顔のトロンちゃんもかわええな。
そんなこと思いつつ、ウチは真顔で議題を投げる。
「なあ、トロンちゃん。
……この企画、挑戦者の客層設定ミスってる思うで」
『公式エキシビションマッチ“フォースで挑戦、大型機を倒そう!”
達成者には豪華プレゼントと宣伝化のフリートークあげちゃいます!
……ふむ。この企画にどういう難点がございまして?』
めっちゃトボけた顔でトロンちゃんが聞き返してくる。
そんな顔も色っぽくてええな。余計なこと考えるウチであった。
「ターゲットの機体をHGデストロイガンダムやって事前に公開したやん?
ウチはもっとこうメタった対策ガチガチの来るんか思うたんよ」
『うんうん。初見殺しが強い機体で大暴れするも、
タネがバレた本編後半はやられ役に転落。
いいガンプラ選択だと思いますよ?』
ちゃんと肯定してくれるトロンちゃん好きやわぁ。
顔は真面目なまま、ウチの内心の余計な思考は留まることを知らない。
「ところが、挑戦者、報酬に釣られたライト層ばっかりやんか!」
『あはは、確かに公式動画に顔出ししたぁい!って感じの挑戦者さんでしたよね』
「1回目はミーア、ラクスのダブル歌姫コンビにオマケやろ?」
『マネージャーに砂漠の虎さん配置するのは渋いですね』
「2回目はSDの殺駆三兄弟やろ?しまいには戦場でスイカ割り始めおるし」
『休憩室で視聴してたカツラギさんにはバカウケしてたらしいですね』
「やっぱ挑戦者選び、カツラギさんの趣味かーい。
結局さっきの3回目が一番マシやったな……
もっと対策をメタったガンプラやったらヤバかったやろし」
歴代挑戦者の顔ぶれを思い返し、ウチはシニカルに肩をすくめた。
正直なところ、負けてやりたくなる相手ではなかったと言うのが本音だ。
いくらヒール役をロールプレイするとはいえ、公衆の面前で負けたら格が落ちる。
それを嫌がり、わざわざアバターを新規作成したのがこの顛末だ。
「この時期、各地でメイジン杯とか大きなガンプラ作成大会開かれてるやろ?
ガチビルダーやガチバトル好きの面子がそっちに専念してるんちゃう?」
『そんな忙しい時にイベント出場とか、キミは大丈夫なの?』
「ええんよ、ウチは審査する側の方やねんから」
『あ、やっぱりプロさんなんだ?
絶対そうだと思ってました!』
さすがトロンちゃん、見る目あるわ。
ここは素直に得意になっておく。
「……で、まぁ、結論として。
おっさん3人とか、サービスしてやる気もおきへん」
『OK、その本音は聞かなかったことにしておきます』
トロンちゃんが肩をすくめると同時に、応接室にチャイムが鳴り響く。
『おっと失礼、勤務時間終わりみたいですね。
改めてお疲れ様!
アタシも雇われ側ですが、客層へのご意見、きちんと上の運営さんに伝えときますので』
「来期のために頼んだで、トロンちゃん。
とりま今期は何とかウチで盛り上げたるさかいな」
仕事の拘束時間は終わりだ。
ウチは大きく背伸びし、ソファから立ち上がる。
この控室もきっと次の誰かがすぐ使うだろう。
ウチは退室コマンドと、ついでにログアウトコマンドをダイバーギアに打ち込んだ。
「トロンちゃん、無理なお願いかもしれへんけどさ。
次の挑戦者、トロンちゃんみたいに若くて可愛くて、出来ればガチれるヤツら希望で頼むわ!」
『OK、キミぐらい若くてかわいい女の子希望って伝えておきます!』
トロンちゃんのいい笑顔を見ながら、GBNからログアウトする。
ギアバイザーを頭にかぶったまま、思わず苦笑がこぼれる。
「……ウチぐらい若くてかわいい女の子、なぁ」
BGMが途切れ、静かな自室へとウチは帰って来た。
ギアバイザーを外す時、とても重く感じるようになったのはいつからだったろう。
「年のことも。ウチはどのツラして言うんやって話やんな」
ペットボトルの残りを飲み干し、ウチは狭い部屋で一人ぼやく。
自分ではまだまだ若いつもりだが、いつまでも学生気分ではいられない。
壁に飾られたトロフィーや賞状を懐かしげに眺め、ウチは呟く。
「コンテストを審査する側……
もう、挑戦者側には戻れへんちゅーこっちゃ」
自由になる金は増えた、一人暮らしも余裕だ。
部屋にはガンプラを飾るスペースもたっぷりあり、誰にも文句など言われない。
けれど何故だろう。挑戦者だったあの頃は良かったなどと思うのは。
「……アカン、思考まで年寄り臭くなってまうわ!」
ボヤきながらウチは、積まれたガンプラの箱へと手を伸ばし、ガンプラ作りを始めるのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・トロンちゃん
GBNの運営公式チャンネルで司会や実況を行う美少女アバター。
中の人は複数人いるが、3話では全員同じ人物が中の人を務めている。
最近のダイバーには良く勘違いされるが、GBNのオリジナルアバターではない。
コミックボンボン全盛期のSDガンダム出身のため、SDモードとリアルモードの2パターンのアバターを持つ。
本作中の公式配信中はSDモードのアバターを選び、裏方ではリアルモードで過ごしているようだ。
バンド名は諸説あるが、今回はペナルティキックオールディーズを公式として記載する。