リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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セセリアが駄々をこね始めて展開を大幅書き直したため、
書き溜めた貯金がなくなりました。

6/16(日) 短めですが何とか間に合いました、更新します


ミッション3-2 フォースネストにお邪魔させてもらっちゃおう!

 

 正直なところ、自分がリーダーに向いてるなどと思ったことはない。

 

「失礼なことしちゃダメだよ、セセリア!」

「はぁい、リーダー。もうエニルさんがえっちだって言いませ〜ん」

「セセリアっ!?」

 

 グエルへのボロ負けを経て、次の日の朝だった。

 GBNロビーの片隅、人気のない場所でロウジはセセリアとじゃれあっていた。

 まったくもう。セセリアは本当にいつも通りなんだから!

 ぶつぶつ呟きながら、小さく息を吐き出す。少し緊張がほぐれたのにもロウジは気づかない。

 ただでさえロウジは、この前からリーダーなんて言う向いてない役職に祭り上げられたばかりなのだ。

 ロウジは大きく息を吸い込み、意を決してエニルへ通信を送る。

 

「エニルさん、僕とセセリア、揃ってます!」

 

『エニル・エルにフォースネストへ招待されています。いきます/ごめんなさい/またあとで』

 

「いきます!」「いっきまーす!」

 

 承諾台詞を合図に転送が始まる。ロウジの視界はモザイクがかり、ブラックアウトしていく。

 次に目を開いた時、ロウジはセセリアと共に見たことのない部屋の真ん中に立っていた。

 明るく、広い空間だった。中央に大きなジオラマが置かれ、その横に立派な机とソファの応接セットがある。

 壁の一面には大きな観戦用モニターがかかり、残りの壁にはガンプラ作成用の個人机が六つ並んでいた。

 

「ここが……エニルさんのフォースの、フォースネストかぁ」

「へー、ガンダムベースの、ガンプラフリー作成ブースぽいね!」

 

 知らない場所に気後れし、ロウジは思わずセセリアを盾にするように背中の後ろに逃げ込む。

 GBNで”フォース”を組む利点は幾つかある。

 その理由の一つがこれ、サーバーにフォース共有で所有出来るプライベートエリア、”フォースネスト”である。

 

「自分達だけの秘密基地! ボクらも欲しくなっちゃうじゃん」

「うん、僕達も頑張らないとね、セセリア」

 

 きらきら目を輝かせるセセリアに、ロウジもにっこり笑う。

 本来、関係者でないロウジ達はフォースネストには入れないが、

 冒頭でエニルに招待を受けた結果、ロウジはセセリアと一緒に入室する事ができたのである。

 

「正解だ、セセリア。ここはガンプラベースがモデルにハウジングしてある。

 と言っても、実際のガンプラ作成はリアルで、なんだがね。

 奥にはオンラインショップと接続したガンプラ販売スペースも作ってある。後で案内しよう」

「あ、エニルさん!」

 

 聞き覚えのある声にロウジはぱっと表情を輝かせ、セセリアの背中から顔を覗かせる。

 エニルが、腰の後ろに手を当て胸を張り、いつものクールな笑顔を浮かべていた。

 

「ようこそ、二人とも、歓迎するよ」

「エニルさん、いつものセクシーな格好じゃないじゃん!?」

 

 叫ぶセセリアをロウジはチョップで黙らせる。

 確かにエニルの衣装は普段の露出度の高いバルチャールックではない。

 清潔感あるワイシャツとスラックス、その上にダークブルーのエプロンがとても良く似合っていた。

 

「ガンダムベースの従業員ルックですよね!

 仕事が出来る雰囲気でとってもお似合いだと思います!」

「ボクはいつもの方が好きだなー」

 

 無言でセセリアに追撃のチョップ。エニルさんが笑いこらえてるじゃんか、もう!

 内心ぷんすかしながらロウジはセセリアを抑え込み、エニルの前に出てしっかりとお辞儀する。

 

「本日はお招きに預かり、ありがとうございます!」

「おいでませ、我らがフォースネストに。

 ここがアタシのリーダーを務めるフォース、ガンプラ商人ギルド、“GM-ARMS”の根城だ」

 

 エニルが芝居がかった仕草で微笑み、そっと腕で応接セットを指し示す。

 

「と言っても、見ての通り、今は誰もいないがね。

 だから、そう身構えなくていい。応接スペースで座って話そう」

「だってさ、ほら。良かったね、ロウジ」

 

 知らない人と喋らなくてすむ! ロウジはあからさまに安堵の息を吐き出した。

 からかうように笑うセセリアにうながされ、ロウジは先に応接室へと腰かける。

 残念だが特にお茶やお菓子は出なかった。ゲームで飲んでも食べても、リアルの身体は回復しないし。

 

「まずは、フォース結成おめでとう、ロウジ」

「はいっ。まだ名前も決まってない仮設フォースですけど、

 セセリアとハサウェイと一緒にがんばります!」

 

 エニルに祝福され、ロウジは嬉しそうに返答する。

 本当は仮設フォースはよろしくない。フォース名を決めてから申請すべき話だ。

 貴重な休日、皆で揃って遊ぶ時間を相談に費やしたくなかったため、テキトーな名前で申請しまったのである。

 平日に案を出し合い、来週までにはフォース名変更申請を出すと言う形で落ち着いた。

 

「ふふ。ロウジがリーダーになったんだったな」

「いえーす。ロウジしかいないっしょ! ハサウェイも同意してくれたし」

「リーダー向いてるとか、僕は思わないよぉ」

 

 エニルに優しく言われ、セセリアに肩をぺしぺし叩かれ、ロウジは唇を尖らせる。

 自分は周りをしっかり見れないし、人の相手が得意な訳じゃない。

 

「僕はエニルさんと違って人見知りするし、思慮深くないし……」

「ロウジはロウジのいいとこがあるっしょ」

 

 セセリアがロウジの頭をわしわし撫でつつ、気楽に言ってくる。

 まったくもう、他人事だと思ってさあ。

 ロウジにとって理想のリーダー像は、目の前にいるエニルだ。

 人当たりが良くて顔が広く、思慮深くて、きれいでかっこいいおねえさん。

 でもそれにしては、この空っぽなフォースネストはおかしい気がする。

 誰もいないフォースネストを、ロウジは不審そうに見回した。

 

「……ところで、エニルさん。

 ひょっとして、僕のためにわざわざ他のメンバーさん追い出したりしました?」

「まさか! いくらアタシがキミに甘くとも、そんな事はしないさ。

 メンバーは皆、リアルのガンプラコンテストの方に出す作品の追い込みを頑張っていてね」

「あー! ガッコのガンプラ部、そんなポスター貼ってたね」

 

 なるほど。ロウジはぽんと膝の上で手を叩く。

 全国的に公式ガンプラコンテストが近い。プロビルダーを目指すガチの人たちは必死なのだろう。

 確かに、ロウジのパパもガンプラ作成の追い込みで地獄だと言っていた。

 ブラスターロッド作ったり、その後バグ報告祭りだったり、だいたいロウジのせいなのだ。

 

「そこで本題だ、ロウジ。見ての通り今の我がフォースには人手がない。

 ブラスターロッド調達の報酬として、我々の代わりにあるバトルへ挑戦してほしいのだ」

「……はい、なんでもやります!」

 

 ごくりと息を飲み、威勢よくロウジは言う。

 ロウジはエニルに、この前武装と勝利をプレゼントしてもらった大きな大きな借りがある。

 お金はない。GBN内通貨もない。働きで返せるなら、何でもするつもりだった。

 

「ふふ、ありがとう。だがまずはこの動画を見てくれるか?」

 

 くすりと笑い、エニルが壁の大型モニターのスイッチを入れた。

 スピーカーからアップテンポのBGMが流れ出し、GBNの公式マークがモニターに映る。

 

『公式エキシビションマッチ“フォースで挑戦、大型機を倒そう!”開催中!

 ターゲットの大型機を見事撃破したフォースには、豪華賞品のプレゼントと……

 番組後半にて、宣伝、自分語りなんでもありのフリートークタイムをサービスしちゃいまぁす!」

 

 甲高い実況音声が、立て板に水とナレーションを開始する。

 ロウジは目を見開き、モニターの映像に見入った。

 巨大なガンプラが爆炎とビームの嵐の中を悠然と歩き、全身の火器で、無数のガンプラを吹き飛ばす。

 

『今回のターゲットは、関西地区、放出ガンダムベース提供、1/144HGデストロイガンダム!

 かのガンプラ心形流のプロビルダーがブラッシュアップしたツワモノガンプラ!

 現状、ターゲットはなんと挑戦者3組を相手に無敗です!

 皆様の挑戦、お待ちしておりまぁす!』

 

 なんて奇麗なガンプラだろう。デストロイガンダムを一目見て、ロウジは思わず感嘆した。

 横にちらりと目をやれば、セセリアもきらきらと目を輝かせている。

 

「映像は以上だ、ロウジ、そしてセセリア。

 ハサウェイには先に相談し、”キミ達が良ければ”と承諾をもらっている。

 キミ達フォースで、このターゲット撃破ミッションの挑戦者となってほしい」

「……ロウジ、受けよう! めっちゃおもしろそーじゃん!」

「これ、メイジン級のプロが作ったガンプラですよね?!

 このデストロイガンダムとやりあえるんですか?」

 

 思わずロウジはテーブルに身を乗り出し、エニルに詰め寄った。

 エニルが目を丸くしているのに気づき、ロウジは顔を赤らめてソファに深く座り直す。

 

「その通りだ。気軽に申し込んだら抽選に当たってしまっていてね。

 ルールは公式が用意したメイジン級のデストロイガンダムとの1VS3マッチだ。

 もし勝てたら、アタシが用意したフォースで行うイベントで行う宣伝動画を流させてもらう」

 

 良かった、フリートークしろって言われたら大事故確実だった。

 こっそりロウジは安堵しながら、挙手して質問を投げかける。

 

「……えっと、エニルさん。

 良く考えたらデコトレーナー、使用自粛中です」

「ボクのルブリス・ジェミニで複座でいーじゃん」

 

 気楽な笑顔で言ってくるセセリアを真顔で見やり、ロウジは言う。

 

「……ダメだ、セセリア。相手はプロのメイジン級ガンプラなんだよ。

 ルブリス・ジェミニはいいガンプラだ、けど……」

 

 きっと勝てない。その言葉を、ロウジは思わず言いよどむ。

 セセリアの笑顔が傷ついたように固まる。

 長い付き合いのロウジには、セセリアの瞳が揺らいでいるのが良く判った。

 

「もちろんセセリア君と二人乗りも選択肢だな。

 ただ、今回はこちらからの依頼でもある。

 デコトレーナーが間に合わなければ、アタシのガンプラを一機レンタルしよう」

 

 即座にエニルがフォローを入れてくれた。

 小さく息を吐き出し、ロウジはエニルにこっそり頭を下げる。

 そして吸った息を吐き出し、ロウジはさらに生真面目に背を伸ばし、質問を投げかける。

 

「……エニルさん。もちろん最善は尽くします。

 けれど、勝てなかったら……どうしましょう」

 

 胃が責任感できゅっとなる。頼まれた仕事は、出来るだけきっちりこなしたいのだ。

 エニルの微笑みが、ロウジを安心させるようにさらに柔らかくなった。

 

「勝敗は問わない。アタシからの依頼は、我々の代わりに出場して貰うところまでだ。

 キミ達ならきっといい試合を見せてくれる、気軽に楽しんでくれればそれでいい」

「いけるいける! エニルさんのガンプラにロウジの腕なんでしょ?

 もちろんボクとハサウェイも支援するし、まぐれ勝ちだって夢じゃないっしょ」

 

 先ほどの傷ついたような気配はどこへやら、セセリアは明るく言ってくれた。

 

「知らない他人との会話とかその辺、ロウジの苦手なとこはボクがテキトーに喋るからさ。

 このバトル、ボクも挑戦したい。最高峰のガンプラの実力、味わってみたいんだ」

 

 セセリアが強気な笑顔で、ロウジの背中をそっと押してくれる。

 息を吸い込み、ロウジはまっすぐエニルを見る。

 

「……判りました。僕達でエニルさん達の代理、謹んで務めさせていただきます」

「よろしく頼む。

 数日中にリハーサルと顔合わせのメールが公式から届くはずだ」

「ほいほーい。んじゃハサウェイにもメール送っときまーす」

 

 セセリアがハサウェイへのメールを打ち始める。

 多分、エニルも知り合いにメールを打ち始めたのだろう。

 話題が途切れ、会話がなくなり、部屋はしんと静まり返る。

 エニルが作業の手を止めたタイミングを見計らい、ロウジはそっと質問を投げかけた。

 

「エニルさん、あの……僕、やるからには最善を尽くしたいんです。

 エニルさんみたいな、フォースの立派なリーダーには、どうしたらいいですか?」

 

 すっと、エニルの顔から微笑が消えた。

 真剣な顔でロウジの顔を見つめ、何か言葉を探すように黙り込む。

 さっきもロウジは、迂闊な言葉選びでセセリアを傷つけてしまったばかりだ。

 エニルさんなら、きっと何か答えをくれる。

 ロウジは真剣な顔で、エニルが口を開くのを待った。

 

「ロウジはまず、キミがGBNをフォースの仲間と一緒に楽しむよう考えなさい。

 そうすれば、セセリアもハサウェイもきっと一緒に楽しんでくれる」

 

 そんな簡単な事で? ロウジは思わず戸惑う。

 真剣なエニルに続き、にっこり笑顔でセセリアが肩を叩く。

 

「ぱーぺきで立派な人間、ぱぱっと目指してぱぱっとなれる訳ないじゃん。

 むつかしく考えすぎず、ちょっとずつ目指していきなよ。

 キミが人見知りだけど、真面目っこでがんばりやなのは判ってるからさ」

「一緒に遊んで、楽しい。一緒に少しずつ続けていくにはとても大事なことだよ」

 

 すっと、言葉が心に沁み込んでくる。

 肩がふわっと軽くなった気がした。

 勢いよく立ち上がり、ロウジはエニルに頭を下げる。

 

「……ありがとうございます、エニルさん。これからも精一杯、楽しみます!」

「よっし、それじゃ早速ぅ! エニルさんにフォースネスト案内してもらお?」

「あ、それいいね! まずあのジオラマ見せてください、エニルさん!」

「もちろんだ。皆の作った自慢のガンプラ、じっくり見ていくといい」

 

 笑顔を浮かべれば、笑顔が返ってくる。

 単純だが、結構難しい事なのだと思う。

 ソファから立ち上がるセセリアに先んじて、ロウジは笑顔でジオラマに駆け寄った。

 

「うわぁすごい! ヴァサーゴにアシュタロン、ベルディゴに、Xのディバイダー、コルレルまでいる!」

「お、ボクでも知ってる。ガンダムXシリーズのガンプラだよねこれ!」

「皆が揃えてくれたからな。特にコルレルは傑作だぞ、ビームナイフでどんなガンプラもズタズタだ」

 

 セセリアと一緒にジオラマを眺め、ロウジは目を輝かせ歓声をあげる。

 ありがとう、皆。僕はきっと出会いに恵まれた。

 ロウジは心の中で、そっと感謝の言葉を述べるのだった。

 

 

 

 

「もう、”GM-ARMS”は解散しても構わないのではないか?」

「他人事のように。無責任なことを……」

 

 ソファに深く腰を預け、エニルは顔の出ない通信ウィンドウをにらみつける。

 サウンドオンリーの通信音声が、フォースネストにことさら大きく響いた気がした。

 通信ウィンドウの上部には“赤い彗星の人”と、ダイバーネームが表示されている。

 この男、別の名前でこのフォースに所属していた相手なのである。

 

「誰もいない静まり返ったフォースネスト……まるで墓標ではないか」

「なら、アタシは墓守かな?」

 

 エニルは手探りでリアルのペットボトルを手に取り、ふたを開けて中身を飲み干す。

 ロウジとセセリアにフォースネストを案内し終え、満足した二人を送り返した。

 子供達二人がいない部屋は静まり返り、いっそうエニルに孤独を感じさせる。

 

「……そうだな、確かにここは墓標か。

 余人には判らない、大切な思い出をしのぶための場所」

 

 懐かしげに目を細め、エニルはソファからゆっくりと立ち上がる。

 フォースの新規募集を停止して、もう何か月経っただろう。

 20人を超えるメンバーリストの中で、今年ログインしてくれたメンバーは片手の指で足りる。

 毎年更新していた中央のジオラマも、ずっと同じガンプラ達で固定されたままだ。

 

「薄情者の誰かさんと違い、まだ顔を出してくれる仲間だっている。

 本当に最後の一人になるまで、看取らせてもらうさ」

 

 数えきれないほどの思い出を、どうして手放せようか。

 ジオラマに触れながら、エニルは心の中で呟く。

 昔はGBNが自分たちの居場所だった。

 ログインすれば、仲間達が誰かいて、”おかえり”と”ただいま”が飛び交っていた。

 けれど、もう今はきっと仲間達の多くに、リアルで”おかえり”と”ただいま”が言いあえる人がいるのだろう。 

 他の大切な人達と過ごす時間が増え、自分だけの趣味で埋まっていた時間がスケジュールから押し出されていく。

 歳を重ねるにつれ、ゲームを卒業する人が増えるのも、きっと自然なことなのだろう。

 

「ロウジが言ったんだ。”エニルさんみたいな立派なリーダーになりたい”とね」

 

 目を細め、優しい顔でエニルは呟く。

 正直なところ、エニルは引退さえ考えてもいたのだ。

 初めてGBNをプレイするロウジを、ロビーで見かけるまでは。

 ロウジを教え、導いてやるつもりで、楽しむロウジの姿にエニルはどれほど救われてきたことか。

 気付けばエニルは、週末に時間を作って必ずログインするようになっていた。

 

「だからせめて、立派なリーダーのフリぐらい続けてやらねばな」

「君は元から、立派なリーダーだよ」

 

 目をしぱたたかせ、エニルは顔の見えない通信ウィンドウを見やる。

 急に優しい声で言うんじゃない。驚くじゃないか。

 誤魔化すように、エニルは話題を急転換する。

 

「そう言えば、ブラスターロッド消失事件、謎は解けそうなのか?」

「完全に迷宮入りだ。名探偵でも寄越してくれ。

 カツラギと私は頭を抱えっぱなしだよ」

 

 共通の知人である運営メンバーの名前を出し、”赤い彗星の人”が苦笑する気配があった。

 先日起きた、フルスクラッチしたブラスターロッドが何故かGBNとリアル両方で消失すると言う珍事のことだ。

 もちろんブラスターロッド製作者である”赤い彗星の人”にも運営のGMから聞き取り調査があった。

 

「だから、デコトレーナーの使用解禁はしばらくかかるだろうな」

「すまんね。キミも大事なコンテストの追い込み時期だと言うのに……」

「何としてでも間に合わせるとも。さもなくば、誰よりもロウジが気に病む」

 

 生真面目な返答に、エニルはかすかに笑みを浮かべる。

 ロウジの姿に救われたのは、どうやらエニルだけではないようだった。

 

「そうだな。キミこそ愛しい我が子にいい格好したいだろう、パパさん?」

「……結果がついてくるかは、判らないがね」

 

 エニルは静かに笑いをかみ殺す。

 この男、ロウジみたいな予防線の張り方までするのである。

 

「幸運を祈る。身体には気を付けてな。”赤い彗星の人”」

「君こそ、気を張りすぎるんじゃないぞ。エニル・エル」

 

 互いにエールを投げ合い、通信を切る。

 エニルは手早くフォースネストを片付け、そっとログアウトコマンドを選択した。

 さあ、イベントに出品するためのガンプラの追い込みだ。

 そして、クランプにリベンジするためのガンプラも仕上げねばならない。

 フォースメンバー達とカラオケで歌った主題歌を口ずさみながら、エニルはスケジュールを考えるのだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ガンプラ心形流

 

 ガンダムビルドファイターズシリーズに登場するガンプラ造形術の流派である。拠点が関西のため、所属者は西日本、特に関西地区が多い。

 「型に囚われない」「己の心のままに」を是としており、自由なガンプラビルド及びガンプラバトルを追求するスタイルを貫いている。

 つまり他者へのリスペクトさえあればなんでもありな流派であり、所属者も個性派揃いである。

 多くのプロビルダーを輩出し、名門大学への推薦入学も得られる進路として人気も高い。

 本作の時間軸はビルドファイターズから約10年経過しているため、創始者の珍庵は第一線を退き、ヤサカ・マオ、サカイ・ミナトの二人の若き師範が関西ガンプラビルダー界を牽引している。

 なお。もっとも名前が売れているのは、美少女ガンプラの監修であるらしい。

 肖像権はきちんと守ろう。メイジンとの約束だよ!

 

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