リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
ちょっとずつ書き溜めて、文章量の貯金を取り戻してきました
ボクのガンプラが弱くても、ボクはロウジの傍にいられるだろう。
けれど、そんな未来で、ボクは胸を張っていられるだろうか?
「ルブリス・ジェミニはいいガンプラだけど……か」
セセリアの感傷的な呟きが、誰もいない部屋に響き渡る。
学校の生徒指導室ぐらいの小さな小部屋に、上品なソファと机の応接セットが置かれている。
セセリアはソファに深く背を預け、ぼんやりと天井を眺めた。
ここは運営さんの使う応接室兼小会議室、時刻は夕ご飯を食べ終えたばかりの平日の夜だ。
運営さんとロウジ達の打ち合わせ予定の日、セセリアはだいぶ早くログインし、この部屋に通して貰ったのである。
「まー、ボクがマフティーとやりあったの、すごいきつかったもんなあ。
ガンプラの性能の違いは戦力の決定的な差だよ、ウンウン」
セセリアのおどけた台詞が、誰もいない小部屋に虚しく響き渡る。
あのデストロイガンダムには、ルブリス・ジェミニでは勝てない。
あの時。ロウジは確かにそう言いかけていた。
「相手はおそらくメイジン級の、プロのガンプラビルダー、かぁ……」
ソファを握るセセリアの手に自然と力がこもる。
ロウジに乗ってもらうために、ロウジと一緒に楽しく遊ぶために。
そう思って、セセリアは真剣にルブリス・ジェミニを作り上げたつもりだった。
確かに自分はまだ、子供で、学生で、アマチュアだ。
ならこのまま、大人で、社会人で、プロになれば追いつけるのか?
今のセセリアにはまるでわからなかった。
「プロとアマ、ボクのガンプラ、ナニが違うんだろ……?」
「お困りのようやな、かわいこちゃん!」
いきなり死ぬほどうさんくさい関西弁のしゃべりが響き、セセリアは目を見開いた。
いつの間に部屋にやってきていたのか、壁際にすっごく格好つけたポーズでたたずむダイバーが一人。
正直超びっくりしながら、ソファを立ちあがってセセリアは”そいつ”へ指を突き付ける。
「ちょい! 立ち聞きとかノーマナーじゃんよー」
「すまんすまん、1000億プリチーさを誇るうちのかわいさに免じて許してや」
「おっけー、許す。ボクのかわいさは宇宙一だもんね」
関西弁ネイティブな身にはすごく慣れ親しんだノリだ。
セセリアは驚きを忘れ、軽妙な台詞のキャッチボールを始めてしまう。
掴みかからんばかりの勢いの歩調を緩め、壁際の”そいつ”の目の前で立ち止まり、
セセリアはおどけたポーズで元気いっぱい、挨拶を叫ぶ。
「初めまして、セセリア・ドートでっす!」
「奇遇やな。ウチもセセリア・ドートっちゅーねん」
まるで鏡のようにポーズをとり、”そいつ”も自己紹介を返してきた。
そりゃまあボク、びっくりもするよ。
何せ”そいつ”は、水星の魔女本編終了後、秘書姿のセセリアのアバターだったんだから。
背の高さも同じ、CVも同じ。”そいつ”はまるで鏡でも見てるようなレベルでそっくりだった。
「ややっこしー!? どーすんの? 格ゲーみたいに色分けでもする?」
「そこは大丈夫。ウチのダイバーネーム見てみ?」
にやりと笑って”そいつ”が通信ウィンドウを開く。
そのダイバーネームを見て、セセリアは豪快に噴き出した。
「”エ”セリア・ドート! パチモンじゃん!」
「どーも、関西弁をしゃべるエセっぽいセセリアちゃんや。
エセリアちゃんって呼んでな☆」
「ぷぷー。似合ってるよ。エ・セ・リ・アちゃん☆」
エセリアがかわいこぶってポーズを決め、握手を求めてきた。
セセリアはかわいく煽ってやりながら、手をがっしり握りしめる。
「感謝せーや? 運営権限でウチがリネームしたったんや。
まあ、こっちはイベント用のサブアカウントやからな」
「ええー……まさかと思ったけど、マジで運営なんだ」
運営さんの部屋に出没する時点で、運営さん側だとはセセリアも思っていた。
ただ、こう。プロでメイジン級のビルダーなら、それらしいたたずまいとかもっとあるじゃん?
「そう、ウチはガンプラ心形流のプロビルダー、エセリア・ドーテ!
ジブンらの対戦相手を務めるデストロイガンダムのパイロットや」
「ってことはボクよりだいぶGBNのベテランさんだね?
よろしく、エセリアパイセン!」
ネットだと話を盛る人が多いが、さすがに、運営応接室で嘘はないだろう。
セセリアは素直に敬意を払い、笑顔で頭を下げる。
「ってより、セセリアちゃんも確かに総ログイン時間短いみたいやけど、
フォースメンバー、のきなみログイン時間エライ少なない?
名前も仮決めっぽいし、ずいぶんフレッシュなメンバーばっかのフォースなんやな」
「えへ。ボクは最近アバターごとアカウント作り直した経歴詐称の復帰勢です。
リーダーのロウジなんかはマジのガチでフレッシュだよ」
ハサウェイもプレイ歴は長いらしいのだが、家庭環境や時間制限もあり、あまりログインしていないらしい。
フォースの中では、結果的にセセリアが一番古株のベテランなのである。
「ほぉ……それなのに手ごわいバトルイベント挑戦するなんて勇気あるやん!」
「えへ。実は知り合いのベテランダイバーさんから挑戦権利を譲ってもらっちった」
しかしこう、エセリアパイセン、セセリアは凄く波長が合う。
この会話のノリ、リアルでも多分お調子者の関西人系キャラなのだろう。
自然と話は盛り上がり、気付けばセセリアは気軽に色々話してしまっていた。
「ほら、あのデストロイ、プロビルダーの作っためっちゃ出来のいいガンプラじゃん?
シショーがいるとはいえアマチュアのボクが自作したガンプラじゃ、手も足も出ないだろーなーって」
15分近くも世間話の末、打ち解けたセセリアは、思わずそんな本音を吐露していた。
「なるほどなぁ、それで”プロとアマのガンプラ、どう違うのか”っちゅー訳か。
……けど、ジブン、ほんま運がええで」
「運がいい?」
本音を聞いたエセリアが真面目な顔で小さく頷き、得意げににやりと笑い、何かを取り出す。
それは、GBNのサーバー上で、現実そっくりに再現された1/144デストロイガンダムのガンプラだった。
「予定よりまだ30分ほどあるやん。
ガンプラバトル、どや?」
「……よろしくお願いします!
さんきゅーエセちゃん。話が分かるぅ」
セセリアは表情を輝かせ、ダイバーギアを操作し、模擬戦の申し込みを送信する。
一も二もない。今の自分とプロビルダー、どれほど差があるのか確かめるチャンスだ!
ダイバーギアの操縦桿を握るリアルの手にも、力がこもっていた。
そして、300秒が経過した。
「……ダーメじゃん、これ。まるで相手になってない!」
モニター越しに見上げる空が、とても青い。
セセリアの愛機、ルブリス・ジェミニは被弾で墜落し、無様にビルの残骸に埋もれていた。
ダメージアラートの鳴りやまないコクピットで、セセリアはやけっぱちの叫びをあげる。
握りしめた操縦桿は、手汗でベットベトだ。
「敵の防御はカチカチ、火力は精密。
ルブリス自慢の大型ビームライフル、豆鉄砲扱いとかさー!」
バトルフィールドはコロニー・ヘリオポリス内部だ。
遠距離、よーいどんで始まったガンプラバトルだが、ここまでの展開は終始一方的だった。
セセリアの攻撃はデストロイの前にまるで通じず、正確で圧倒的な火力を前に近づくことさえ出来ない。
背中のガンビットランチャーは喪失しており、全身も無傷な部位を探すのが難しいぐらいだ。
「……どや? プロとアマの違い、感じるとこはあったやろ」
いやまったく。思い知りました。エセリアの通信に、セセリアはふっと息を漏らす。
デストロイのコクピットから響くエセリアの声におごりはない。むしろ優しいぐらいだ。
追撃を入れてこないのは、多分こちらが方針を決めるのを待ってくれていたのだろう。
「プロだから強いんやない。プロになるぐらい努力を重ねてきたから強いんや
セセリアちゃんはガンプラ作りの筋ええで。バトルの腕もまあまあや。
けど、ウチとタイマンで勝つにはジブン、ちょーっとばかし早かったな」
間違いない。この人はきっとプロだ。セセリアはバトルを通じて確信した。
いったい、どれだけガンプラ作りを重ねてきたのだろう。
いったい、どれほど濃密なバトルを体験してきたのだろう。
とても今のセセリアには想像できない。この人は、それぐらい強い!
「ギブアップしてもええで、セセリアちゃん」
優しい声でそう言われ、セセリアは強気に笑ってみせた。
たとえ今、届かない相手だとしても、一歩踏み出すことを諦めたつもりはない!
「ジョーダンきついよエセリアちゃん!
もう少しだけ、遊んでもらうかんね!」
「いよっし、その意気や。来ぃや、セセリアちゃん!」
お願いジェミニ、もう少しだけ頑張って!
愛機、ルブリス・ジェミニのボロボロのスラスターにむち打ち、セセリアは愛機と共に空へと舞い上がる。
コロニーの大地に仁王立ちするデストロイから、大型のミサイルが迎撃に打ち上がる。
コロニーの人工太陽を背負うような位置にまで舞い上がらせ、スラスターをカット。
ミサイルの迎撃に頭部バルカンをフルオートで放ちながら、自由落下の速度にスラスターを乗せ、デストロイへ突貫する。
「真正面、カモネギ、ごちそうさまやな!」
デストロイ右手の指5本、ビームが正確に対空迎撃に飛んで来る。
機体を半分持ってかれたっていい! 愛機を半身に捻り、右腕のライフルを盾にする。
収束した5本のビームが、ルブリス・ジェミニのライフル、右腕、右半身をごっそり持っていく。
ダメージは多大、それでも愛機はまだ動く。
致命的な損傷と引き換えに、距離は詰めた。
ダメージアラートで真っ赤に染まるモニターで、デストロイの頭部が至近、白兵距離で大写しになる。
「届けぇ!」
せめて一太刀! 叫びと共に、ウェポントリガーを引き絞る。
ルブリス・ジェミニに残る左腕が腰の後ろでサーベルを引き抜き、サーベルを真正面へ思い切り突きこむ。
だが、懸命なその一撃でさえ、届かなかい。
サーベルはデストロイが構えた太い左腕に突き刺さり、半ばを半壊させたところで止まってしまっていた。
「……くっそ、ダメか」
これが、今の実力差だ。爽やかな笑顔で、セセリアは敗北を受け入れる。
「惜しかったやん、セセリアちゃん」
デストロイの口元、ツォーンMK2のビームが発射姿勢に移る。
けれど今日のこの挑戦が、無駄だったなどとは思わない。
セセリアが敗北を覚悟し、操縦桿から手を離した瞬間だった。
『はい、ストッープ!!』
強制的な割り込み通信と共に、ガンプラの動きが止まる。
バトルフィールドがぼやけ、ポリゴンが分解されるようにふわーっと消えていく。
セセリアはこの現象を知っている。権限を持つ誰かさんが、バトルを強制切断したのだ。
「あ。ちょ、トロンちゃん。せめてあともう少し!」
『もう少しじゃありません!
いったい全体、何をなさっていらっしゃいますの、アナタ達?」
高い声で、お叱りの言葉がきんきん響く。
……え。ボク、ひょっとして何かやらかした?
セセリアは困惑の表情を浮かべたまま、じっとり浮かんだ冷や汗をぬぐうのであった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・模擬戦
エキシビションマッチの一種で、ダイバーが対面でいる場合に行う事が出来る限定バトルのこと。
戦歴には含まれず、ガンプラの大破による出撃不可時間が存在しないが、通常通りの実弾を使ったバトルが行われる。
複雑な設定は出来ず、使用出来るバトルエリアは一部の限定されたフィールドのみとなっている。
公式戦ではないため、バトル映像はバトル当人以外には閲覧できない。
対CPUも可能だが、敵機は汎用量産機しか選べないため、CPUの練習には適切なバトルミッションを使われる
主に作ったばかりのガンプラの性能テストなどに使用されるが、野良アッガイ使い同士のダンスバトルなどにも使用される。