リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回7/14(日)

※7/7訂正
 うっかり微調整ミスって修正前を投降してしまいました。
 大まかな流れは変わっていますので申し訳ございません。


ミッション3-6 モブだって負けたくない

 ガンダムが、好きだった。

 歴代の主役機達が、好きだった。

 でも、自分はスーパーエースじゃないと気付いた時から、

 量産機の方が、もっと好きになった。

 モブの自分には量産機がお似合いだ、そんな気持ちがなかったとは言わない。

 けれどきっと、好きって気持ちに嘘はない。

 

 

 

「さて、ロウジ。だいぶ夜も更けてきた。

 眠気と親御さんのご機嫌は大丈夫か?

 打ち合わせの続きは、明日にしてもいいんだぞ」

 

 しっかり睡眠時間を確保した良い子セセリアとハサウェイ、対して悪い子ロウジの番だとなった。

 日付が変わる前には絶対に終わらせねばならない。

 エニルはロウジと応接スペースのソファに腰を下ろし、机を挟んで向かい合った。

 

「いえ! 出来れば明日からは機体を使って実戦したいです。

 だから、使用ガンプラだけは今日決めておかないと」

 

 やる気満々、頬を紅潮させ、目を輝かせてロウジが告げる。

 それならば、手早く方針を決めてやろう。

 

「わかった。じゃあまずはセセリアからの作戦レポートだ。

 フォーメーションはロウジが前衛アタッカー、ハサウェイが遊撃アタッカー、セセリアが防御寄りサポート予定、

 実戦での司令塔はセセリアが務めてくれるはずだ。

 デストロイのデータもざっとでいいから本番までに目を通しておくようにな」

 

 ひとまずセセリアのレポートの要点をかいつまみ、エニルはロウジに渡してやる。

 ロウジがデータを受け取りうなずくのを確認し、エニルはロウジに問いかけた。

 

「CPUのデストロイは無事倒せたようだが、ガンダムXの性能に満足はいったか?」

「はい。凄くかっちりした作りでライフルもサーベルも抜群の性能です。

 装甲も固くて、ごり押しして近接するのも出来ます。

 ただ、僕が前衛アタッカーやるなら、背中のサテライトキャノンが実質デッドウェイトになりそうですね……」

 

 申し訳なさそうな顔で、それでもロウジがきっぱりと性能が物足りないと言ってくる。

 その表情に、エニルの心は決まった。

 ロウジがバトルを楽しめるために、出来るだけガンプラを用意してやりたい。

 クールな表情で頷き、具体的な機体名を提案しようとした時だった。

 

「だから、エニルさん。

 僕をジェガン・C(キャラバン)に、もう一度乗せてもらえませんか?」

「……待ちたまえ。ジェガン・Cはバトル向きのカスタムをしていない。

 サテライトキャノンなしのガンダムXよりも性能で劣るぞ?」

 

 ロウジの朗らかなお願いに、エニルはクールな顔に困惑を浮かべた。

 

「一日待ってくれ。フレンドのつてを使って、ガンダムXよりも近接戦闘に優れたガンプラを準備してくる。

 クロスボーンX2、デスティニーガンダム、ガンダムピクシー辺りなら用意出来るはずだ」

「待ってください。僕はエニルさんのガンプラがいいんです」

「ならば、ガンダムXを近接白兵戦向けにカスタムしよう」

「……いいえ。

 出来るなら僕は、エニルさんのジェガン・Cであのデストロイに挑みたいんです!」

 

 ロウジがぐっと応接室のテーブルに身を乗り出し、はっきりした声で宣言した。

 以前の打ち合わせで、ロウジが言いかけて呑み込んだセリフをエニルは思い返す。

 ルブリス・ジェミニでは足りない。ロウジは確かにそう言いかけていた。

 

「ルブリス・ジェミニでは勝てない。

 だから、プロに勝てるような性能のガンプラが必要だ。

 キミはそう思っているんじゃなかったのか?」

 

 エニルの問いに、ロウジが顔を赤くしてソファへ座り直す。

 恥ずかしそうに顔を覆い、ロウジがぼそぼそと呟いた。

 

「……ごめんなさい、エニルさん。

 作り上げたガンプラを貸してもらってる身だってのに、

 セセリアの優しさに甘えてとんでもないことを言いかけたって今は思っています」

 

 ロウジがゆっくりと顔を上げ、エニルへ視線を向け、言って来る。

 

「その上で、僕は改めて贅沢を言います。

 デストロイと戦えるガンプラが要る。その気持ちは確かです。

 ガンダムXもいいガンプラでした。

 エニルさんが誰かに乗ってもらうために凄く丁寧に調整してくれたのがわかります」

 

 言い募るうちにロウジの声量が上がり、ロウジの上半身がまたもテーブルの上へせり出してくる。

 

「けれど、僕はエニルさんの作ったジェガン・Cでエキシビジョンマッチに挑みたいんです。

 だって、ジェガン・Cは僕に初勝利と色んなものをくれました。

 僕の思い出のガンプラなんです!」

 

 ただ強いだけでなく、思い入れのあるガンプラを使いたい。

 ロウジの気持ちはよくわかる。エニルは無言で胸の下で腕を組んだ。

 だが、今回ばかりはロウジにジェガン・Cを使わせたくない。

 

「ロウジ。アタシはプロじゃない、アマチュアのガンプラビルダーだ。

 今回戦う相手のようなメイジン級のプロのガンプラビルダーより、ガンプラ作りの腕は劣っている。

 それは、判っているな?」

 

 エニルは努めて冷静に、優しく諭すようにロウジへ語り掛けた。

 自分はプロになるのを諦めた人間だ。そんな自嘲がエニルの心の底にはずっと眠っている。

 プロを目指す事から”逃げ”たガンプラで、プロのガンプラには勝てまい。

 自分がモブでやられ役の量産機だと突きつけられるのが恐ろしい。

 そんな情けないコンプレックスが、ジェガン・Cを使わせたくない理由だった。

 

「はい、エニルさんはプロではなくてもすごく立派なガンプラビルダーさんです!

 でも、今回のデストロイがとっても凄くしっかりした作りで、

 エニルさんよりも上手なビルダーさんだってのも、判っているつもりです!」

 

 エニルの内心と対比するかのように、ロウジの返答はあまりに明快だった。

 思わずこぼれそうになる笑みを嚙み殺し、エニルはさらに言葉を重ねた。

 

「基礎の実力で劣る側が勝利を目指すなら、カスタムのコンセプトを絞り、性能を特化させた方がいい。

 ましてや、ジェガン・Cのようなロールプレイ重視のカスタムをするなど、もってのほかだ」

「ジェガン・Cは確かに、行商人ロールプレイをするためにカスタムされてました。

 けれど、ロール重視のガンプラだからって、エニルさんが手を抜いて作ったガンプラには見えませんでした。

 戦闘向けにカスタムするのを許してくれるなら、十分にガチバトルに耐えるものになります!」

 

 ロウジの明快な回答が、丁寧にエニルの逃げ道を潰していく。

 まったく、子供は無邪気で残酷だ。エニルは心の中で苦笑し、ロウジに向き直る。

 いい加減、この情けないコンプレックスと向き合ってやろう。エニルは静かに心を決めた。

 

「ロウジ、正直に言おう。

 アタシはジェガン・Cをプロとのバトルに使うのが恥ずかしいんだ。

 あのガンプラは……プロになるのを諦めたころに作ったガンプラだから。

 それでも、ロウジはジェガン・Cがいいんだね?」

 

 いつも通りのクールな笑顔を装い、エニルは本音を吐き出す。

 口に出すと、いっそう己の情けなさが際立つ。

 そもそも、プロを諦めたことを“逃げ”だなどと、無意識にアマチュアを下に見た無礼な考えだろう。

 

「はい、僕はジェガン・Cに乗りたいです!

 エニルさんはすごいんです。

 エニルさんのガンプラは強いんです。

 エキシビジョンマッチで、僕が、証明してみせます!」

 

 あまりにも朗らかに、ロウジが言い切る。

 あまりにも眩しくて、エニルはついに口元を隠し朗らかに笑うしかなかった。

 

「まったく、キミは……

 アタシはプロとアマの代理戦争まで頼んだつもりはないぞ」

 

 テーブルの上に身を乗り出したままのロウジのぼさぼさ頭へ、エニルはそっと手を伸ばす。

 無邪気な小悪魔の頭を掌で優しく叩き、エニルは静かに問いかける。

 

「ロウジ、量産機が好きか?」

「はい! ジェガンやネモの、のっぺりしたモブ顔がとても好きです!」

 

 百点満点の笑顔だった。エニルは満足げにうなずき、柔らかな笑顔を浮かべる。

 

「わかった。ジェガン・Cをキミに託す。

 機体の性能差は100戦すれば99敗するほど圧倒的だろうが、

 ロウジの”好き”が命じるまま、思うさまに戦いたまえ」

「ありがとうございます、エニルさん!

 たとえ負けたって、量産機ここにありって意地を見せてやります!」

「次のエキシビジョンマッチ、1%の勝利を掴みとれるよう祈っている」

 

 意気込むロウジのぼさぼさ頭を撫でながら、エニルはダイバーギアが示す時刻に目をむいた。

 どうやらタイムリミットのようだ。エニルは慌てて手元のガンプラデータをロウジへ送信する。

 

「ロウジ、今日はもう休みなさい。

 実は、ジェガン・Cはバトル向けにカスタムを調整中なんだ。

 必ず明日までに改修をすませ、バトルに耐えうるようにしておく。

 名前はジェガン・D、設定と武装のバランスはまだ歪で、実戦テストすら済ませていない。

 キミのガンプラファイターとしての力、明日から存分に貸して貰うぞ?」

「ええっ!? 新型機の、テストパイロットまで任せてもらえるんですか!」

 

 発破をかけるつもりのエニルの言葉に、ロウジが逆に目を輝かせた。

 ログアウトコマンドを打ち込み、姿が薄れていくロウジが、明るい声で言い残す。

 

「ありがとうございます、エニルさん。

 エニルさんのガンプラに恥じないようなバトルにしてみせます、絶対に!」

 

 ロウジの姿が消えたフォースネストの跡片付けを行いながら、エニルはそっと虚空へ笑みをこぼす。

 

「ロウジ、礼を言うのは、こちらの方だよ」

 

 ロウジの言葉と笑顔があったから、エニルは自嘲の泥沼から這い出すことが出来たのだ。

 世話を焼いてやらねばならない存在が出来た。夢を託せる相手が出来た。

 成果の出ない努力が嫌になった。自分の才能に絶望した。

 プロを諦めた幾つもの理由が、エニルの心に思い浮かんでは消えていく。

 

「プロのビルダー達だって、プロになる事がゴールじゃない。

 そこから長い時間をかけ、ずっと研鑽を続けているんだ。

 プロであることを諦めたからって、そこがデッドエンドじゃないものな……」

 

 ログアウトコマンドを打ち込み、エニルはゆっくりと誰もいないフォースネストを見回す。

 GBN、ガンプラバトルネクサスオンラインは、エニルがプロを諦めた後に作られたゲームの世界だ。

 このフォースにある思い出の数々が、エニルがプロを諦めた後に歩いてきた道のりの証だ。

 そうだ、自分はただ無為に時を過ごしていただけではないはずだ。

 

「ああ、こんな時間にすまない。

 ジオラマのコルレルあっただろう。

 あれのモーションデータをもらえないか?」

 

 現実世界に戻ったエニルは、今も交友の続くGBNのフォース仲間達に矢継ぎ早に連絡を取り始めた。

 

「ありがとう、恩に着る」

 

 快諾してくれた仲間に礼を言い、エニルはギアバイザーを外す。

 ダイバーギアのすぐ傍に飾られたままのガンプラ、ジェガン・Dと名付けた愛機をエニルは慈しむように見やった。

 

「ロウジ、アタシだって、好きさ。

 ジェガンの量産機らしさを残した、クールなフェイス」

 

 棚のラックからカスタム用のパーツを取り出し、エニルは決意と共に工具を握りしめる。

 自分の持てる限りの技術を尽くし、愛機を強く麗しく飾り立ててやろう。

 モブの量産機乗りにだって、ゆずれないものはあるのだ。

 

 

 

『トロンちゃんがあなたのガンプラハンガーへ移動を希望しています』

 

 着信アイコンがエセリアの視界の端で点滅し、システム音声が広い空間に響き渡った。

 がらんと広い、何もないGBNのガンプラハンガーだ。

 エセリアは手元で見ていた動画の音量をあわてて下げ、トロンの来訪を許可する。

 転送エフェクトが発生し、派手なロックシンガー衣装に身を包んだリアル等身の美少女アバターが現れる。

 

「お邪魔するね、エセリアちゃん。

 ……うっわ、見事にデフォルトのガンプラハンガー」

 

 礼儀正しくお辞儀をした後、トロンが呆れたように声を発する。

 本当に周りには何もない。唯一あるのは飾り気ない椅子ぐらいだ。

 

「いらはい、トロンちゃん。

 まあしゃーないやん、サブアカウントやで?

 お客さん招くんやったら、もうちょいおしゃれにハウジング頑張るんやったなあ」

 

 エセリアは愛想よく笑い、トロンへと同じ椅子をもう一つ用意した。

 

「トロンちゃん、お疲れさん。

 エキシビジョンマッチの方針変更、いけそうなん?」

「なんとか上の人には納得してもらえたよ。

 カツラギさんは胃を抑えてたけど」

「さっすがトロンちゃん、出来るオンナは仕事が早い!」

 

 堪忍な、カツラギさん。エセリアはこっそりと心の中で知己のGBNのゲームマスターへ手を合わせた。

 

「まったくもう、調子いいんだから

 匿名掲示板のアンチスレがpart化しても知らないからね?」

「え、アンチスレが立ってもうてるん?

 ひっどいわあ、ウチこんなにプリチーやのに」

 

 いやあ良かった良かった。にこやかに雑談しながら、エセリアはこっそり胸をなでおろす。

 これでちゃんとセセリアちゃんもバトルに参加出来る。

 まあもちろん手加減なんかはせーへんけどな!

 

「後は、本番のあなた次第よ、エセリア。

 リアルでガンプラの調整しなくていいの?」

「ちゃうねんトロンちゃん、これは情報収集なんや

 敵を知り、己を知れば百式危うからずって言うやろ?」

「百戦危うからず、ね。 まぁ、やる気出してくれたみたいて何より」

 

 たしなめるような口調のトロンに、エセリアは肩をすくめてにやりと笑ってみせた。

 見ていた動画の音量を上げ、トロンにも見えるように動画視聴ウィンドウを拡大してみせた。

 

『GBNはとても自由で、楽しいゲームです。

 ですが、アタシには一つ不満がありました。

 それは、GBNを楽しむためにはガンプラ作りが上手でなければならないと言う風潮です』

 

「怖いもんやろ。今のご時世、アーカイブ探ればいくらでも映像と音声が残っとる」

 

 動画の音量に負けないように、エセリアはトロンへ向けて声を張り上げた。

 動画では、露出度の高い女性アバターがクールな声で視聴者へ向けて語り掛けている。

 

「あら、ずいぶんと古い動画じゃない、5年ぐらい前かしら」

「このキレーなおねーちゃん、セセリアちゃんの関係者なんやろ?

 フォース”GM-ARMS”代表……エニル・エル少佐」

 

 トロンも動画を眺め、懐かしげに目を細める。

 エセリアは露出度高い女性アバターを指さし、セセリア達との会話ログを確認する。

 間違いない、エニル、GMーARMS、両方の単語がヒットした。

 

『始めたばかりでPVP仕掛けられ、訳のわからないまま襲われて嫌になった。

 少数ですが、アタシはリアルで確かにそんな声を幾つか聞いた事があります。

 有志の自治の動きで減りはしましたが、未だに初心者狩りのPVPを仕掛けるダイバーはおります。

 運営はついにサーバーがPVP拒否可能なサーバーとフリーのサーバーに分ける事を決めました』

 

 動画はGBN黎明期、GBNが出来てまだ間もない時代のものだった。

 ガチ勢とエンジョイ勢のすみわけも十分に出来ておらず、当時は様々な問題が起きていたそうだ。

 一風変わったエンジョイ勢、”ガンプラ商人”のフォースにインタビュー、と言う趣旨のようだ。

 

「アニメの公式キャラのアバターなんだから、美人さんなのは当然じゃない」

「いやいや、トロンちゃん。甘いで!

 凛としたたたずまい、堂々とした受け答え、実にクールで素敵やん」

「そうね、確かにエセリアちゃんもとっても愛らしい容姿なのに、

 関西弁でやかましくてパチモンみたいだって評判だもんね」

 

 急に褒めるやん、照れるわぁ。

 エセリアが肩をすくめる間にも、画面でエニルがクールな声でご高説を垂れていた。

 

『ガンダムと言う作品は好きだけど、ガンプラを作るのが下手、苦手と言う人はいます。

 そんな人が、ネットワークでリアルに作られたガンダムの世界に入り込んでみたいと思う事もあるでしょう。

 そんな人達に、質のいいガンプラを提供できる手段になりたい。

 アタシ達が”ガンプラ商人”と言う遊び方を選んだのは、それが理由の一つです』

『つまり、GBNでのアナハイム・エレクトロニクスを目指すと言う事でしょうか?』

 

 エニルに問いかけを発した画面外のインタビュアー、トロンちゃんの声だった。

 思わず二度見したが、目の前のトロンは首を横にふった。5年前だし、中の人が違うのだろう。

 

『残念ながら、我々はそんな大それたものではありません。

 アマチュアが趣味で行う範疇ですし、製作できるガンプラの数にも物理的な制限があります。

 我々、”GM-ARMS”は、趣味で製作したが使用の機会に恵まれないガンプラ達を、

 ゲーム内通貨による販売で、もしくはフォース開催のイベント賞品としてガンプラを譲渡しています。

 無論、我々はガンプラ販売免許をもたないアマチュアビルダーですからリアルでのお金はいただきません。

 自分が作ったガンプラで、他の人が楽しんでくれる。その事実だけが我々の報酬なのです』

 

 高尚なご高説をエニルが語り終えた辺りで、エセリアは動画の音量を小さくする。

 

「つまり、このフォースはアマチュアの中でも上澄みのガンプラビルダーの集まりっちゅーことや。

 スタンスはガチ寄りややエンジョイ系っぽいけど、ガンプラ作りの腕はプロの端っこにはいそうなレベルやし。

 セセリアちゃんがしっかりしてる訳やわ、たぶんシショーってのもこのエニルやで」

 

 モニターで流れる映像は”GM-ARMS"が提供するガンプラのバトル動画へと移り替わった。

 ガンダムX、フォースインパルスガンダム、ホビーハイザック、ジムカスタム……

 エース機、換装機、ファンプラ、量産機、どいつもこいつも特徴をとらえた丁寧な作りばかりだ。

 エセリアはため息をつきながら、有志のデータベースでエニルに関する検索をかけた。

 

「エニル・エル。本名不明。受賞歴不明。GM-ARMSフォースリーダー。

 GBN歴は初年度から、2020年アナザーガンダム部門のGBNジオラマコンテストで機動新世紀大賞を受賞する。

 二代目メイジン・カワグチのガンプラ塾出身との噂があるが、本人は否定している。

 ……いや嘘やろ!? 二代目メイジンっちゅーたらガチ系ガンプラビルダーの開祖やん」

 

 出典不明で”?”マークの付いた真偽不明の情報を読んで、エセリアは目を剝いた。

 事実なら、三代目メイジン候補同士でしのぎを削っていたような相手だ。

 たとえアマチュアだとしても、恐らくはプロ並み、セミプロクラスの可能性が高い。

 

「さすがに眉唾なんじゃ? 二代目メイジンのポリシーは、”勝利至上主義”に”弱肉強食”でしょ。

 ”ガンプラ商人”なんてエンジョイ系とはまるで正反対じゃない」

「……いや、逆に信ぴょう性あるとも言えるで。

 ガンプラ塾出身ちゅーたらせいぜい二桁人数やろ。

 当時を知る人間ならカンタンに特定出来るようなところがあるんかもしれんで」

「と言っても、結局真実を知る方法なんてないわ。

 あまり相手を大きく見過ぎるのも良くないんじゃないかしら」

「そやな。実際バトルするんは、無名のセセリアちゃん達や。

 ま、楽に勝たせてもらえなさそうな事だけは確かやな」

 

 いい勝負どころか、下手をすれば敗北も覚悟せなアカン。

 アマチュアのガンプラビルダーだって、どんな野生のツワモノが混じっているとも限らない。

 エセリアは拳を握り締め、強気な笑みを浮かべた。

 トロンがふわりと笑みを浮かべ、安心したようにエセリアに声をかけてくる。

 

「うん。いい顔なったね、エセリアちゃん」

「マジサンキューやで、トロンちゃん。

 こんなやる気なったん、ガンプラバトルの全国大会以来かもしれへん」

 

 トロンへ笑顔で礼を言い、エセリアはゆっくりとうなずいた。

 どんなに相手が強かろうと、みっともないバトルは見せられへん。

 

「長い人生、ガンプラ一本で生きていくことを決めたヤツらがプロなんや。

 人生で寄り道できるようなアマチュアさん達と違うて、不器用なガンプラバカばっかりや。

 得意分野のガンプラバトルだけで負けたら、なーんも残らへんさかいな!」

 

 アバターの拳を握り締め、エセリアは力強く宣言した。

 それがエセリアの、ゆずれない矜持だった。

 

「そうだね、サイコーのバトル、期待してるよ。

 プロってのは、全ガンプラビルダーの憧れなんだから」

「おぅ、見ててやトロンちゃん!

 セセリアちゃん達の作戦もバトルの奮闘も、ワイのウルトラデストロイで粉々や!」

 

 胸を張り、高らかにエセリアは笑う。

 トロンがにっこり微笑み、指一本立てて告げた。

 

「エセリアちゃん、一人称ブレてる」

「……ほな、ウチはウルトラデストロイの再調整してくるな。

 トロンちゃん、遅くまでお疲れさんやで!」

「はい。お疲れ様。本番がんばってね!」

 

 気付かなかったふりして、エセリアは大慌てでログアウトコマンドを打ち込んだ。

 にこやかに手を振るトロンに見送られ、GBNから退出する。

 キーボードをたたくリアルの手が汗ばんでいた気がする。

 

「……プロとしての誇りと腕、見せたるわ。

 楽しみにしててや、トロンちゃん。セセリアちゃん」

 

 誰もいない自室で呟き、エセリアはギアバイザーを外す。

 まるで学生時代に戻ったように、やる気と体力が無限に湧いてくる気がする。

 いつも重くて仕方がないギアバイザーの重量、今夜はまるで感じられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・GBNにおけるガンプラのレンタル

 

 GBNではガンプラ販売が通常のネットゲームの課金に相当するため、

 基本的には1ダイバー1ガンプラ以上を推奨しており、ガンプラ製作のための導線も手厚い。

 だが、ガンプラビルダーとガンプラファイターでタッグを組む事は世界選手権レベルのガンプラバトルでは王道であり、

 製作者以外のガンプラを使用することは選択肢の一つとして考慮されている。

 1日~7日間と期限付きでガンプラの使用権限を委譲する事により、ガンプラのレンタルが可能となっている。

 主に初心者向けとして、GBN側もレンタル用のガンプラを用意している。

 また、課金したダイバーは他者にレンタルするためのシステム、レンタルハンガーが使用できる。

 ダイバー側はレンタルハンガーを通してビルダーにGBN内通貨を支払い、ガンプラをレンタルする。

 GBN内では現金による完成ガンプラの販売や現金によるレンタルはサポートされていないが、

 外部サイトやビルダーとの直接交渉により、プロのガンプラを購入して遊ぶダイバーも少なくない。

 レンタルしたガンプラは用意された武装を選ぶ、オプションを換装する、以外にカスタマイズすることは出来ないが、 

 今回のエニルは直接意見交換し、カスタマイズ済のものを逐一レンタル処理すると言う形をとっている。

 アニメの流行で人気のガンプラは変わるが、6月は花嫁強奪用のフリーダムガンダムが特に人気となっている。

 

 

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