リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
文章量がえらいことに
マフティーだったころ、自分は最強無敵の天才で、周りは雑魚ばかりだと思ってた。
ハサウェイになって、自分には足りないものばかりだと思い知らされた。
マフティーとしての仮面と自信を失ったけれど、いっしょに周囲への偏見も無くなった。
自分に何が出来て、何が出来ないのか。手探りで確かめながら仲間と遊ぶのは、それほど悪くない。
「ねえ、デミトレーナーのデミって、なんて意味なんだろ?」
いったいロウジは唐突に何を言い出すのか。
本日バトル予定の相手がやってくるのを待つ間の、雑談タイムのことだった。
愛機キャプテンΖのコクピットで、モニターに映るロウジの笑顔を眺めながらハサウェイは首を傾げた。
「うーんと、デミグラスソースとか、デミカップとか?
なんかイタリアとかそう言う感じのシャレオツな感じじゃない?」
「デミヒューマン、デミゴッドとかもあるな。
”もどき”とか”まがいもの”とかだろうか」
テキトーなセセリアにハサウェイは呟き返し、正解を調べるためにGBNのスマホ型アイテムで電子辞書を起動する。
時刻は平日の夜。そろそろ週末も近付いてきたころだ。
ここは林の立ち並ぶ湖畔のキャンプ地、GBNの非戦闘エリアの一つである。
すぐ真横にはロウジが乗るダークブルーのジェガン、そしてセセリアのルブリス・ジェミニが膝つき駐機されている。
「ほら、僕、デミトレーナー好きなんだよね。
ブリオン社のベストセラー、いかにも量産機って感じの簡素なパーツと優しそうなフォルム。
盛大に転んでも大丈夫そうな単純な作り、いいよね。
何より、アスティカシア学園の学生の皆が乗ってるってのが凄く親近感湧くんだよね。
ああ……リアルにもデミトレーナーいないかな。
僕絶対免許取って通学に使うのに……」
キミ、ほんと人との会話下手だな?
検索がヒットするより前に、ロウジが怒涛の勢いで喋り出す。
ハサウェイは苦笑いしながらロウジの話に注意を向け直した。
「いいねー。リアルでデミトレあったらさ。
ボク、学校壊して期末試験ぶっ壊しちゃうね!」
「せんせー、犯罪者予備軍がここにいまーす!?」
セセリアのセリフにロウジが悲鳴を上げておどける。ほんと仲いいな、キミら。
ハサウェイは笑いをこらえながら、手元の電子辞書の結果を呼び出した。
「えっと、辞書によると。”Demi”とは”半分”とか”部分的に”って意味らしい。
この場合、学生や訓練生を指して半人前とか未熟者って意味なんじゃないかな」
「ああー、なるほど! ってことは、デミトレーナーはさ。
半人前のお前達を鍛えて、一人前にして送り出してやる!そんな意味の命名なんだね。
ありがとハサウェイ。疑問が一つ解決した!」
お役に立てて何より。笑顔のロウジにハサウェイは笑顔で頷いてみせる。
その直後、モニターの半分をパステルカラーのイラストが占拠した。ハサウェイの思考が一瞬止まる。
「で、さ。これ、どうかな?
フォースエンブレムの試作案、描いて来たんだけど」
どうやら犯人はロウジらしかった。
モニターに映るイラストには、ピンク色に塗られたデミトレーナー、ロウジの愛機デコトレーナーが描かれていた。
デコトレーナーが、三色に塗り分けられた逆三角形マークを胸の高さに掲げたバストアップだ。
「デコトレーナーが持ってるこの逆三角形は、セセリア、ハサウェイ、僕のイメージカラーで塗ってみました。
ええとほら、三身合体!」
「……三位一体な。ZZガンダムじゃないんだからさ」
「いーねいーね、相変わらずめっちゃ上手じゃん!」
控えめに言って、天才では? ハサウェイは心の中でセセリアに同意した。
描かれたデコトレーナーが照れくさそうにはにかんでいるようで、とても人間くさい。
多分ロウジはファンイラストをよく描いているのだろう。
本職の人からするときっと至らないところもあるのだろうが、ハサウェイにはまるで天才に思える。
「はにかむデコトレがかわいくていいね! ハサウェイはどう思う?」
「もうこれで本決まりだろ。さすがはリーダー、いい仕事するな」
「やめてよ、褒めすぎじゃない!?」
真っ赤になって恥じらうロウジが、はにかむデコトレーナーと重なって見えた。
まさかロウジにこんな才能があるなんて。ハサウェイは驚きと羨望に、わずかに目を細めた。
「よっしじゃー、リーダーがフォースエンブレム作ってくれたし、次は……」
「セセリア、ストップ。お客さんがお越しみたいだよ!」
コクピットのモニター上部で通信の着信アイコンが輝き、ハサウェイは慌ててセセリアを制した。
着信名を見て、ハサウェイの心臓の鼓動が跳ね上がる。大きく深呼吸し、通信受諾のボタンを押した。
「ハサウェイ君。こちら”第七士官学校”混成部隊、バトルフィールドに現着した」
「はい、ロンメル大佐、こちらハサウェイ! 問題なく湖畔で待機中です」
渋くかっこいい声と共に、通信ウィンドウに愛らしいオコジョの姿が映る。
今回の待ち合わせ相手を指揮する大物ダイバー、ロンメル大佐だ。
尊敬するロンメルを前に、ハサウェイは緊張しながらロウジ達に声をかけた。
「”ロウジとゆかいな仲間達”諸君、準備は……っっ。
……いや、すまない。君達、このフォース名で本当にいいのかね?」
ロンメルがむせる音がコクピットに響いた。
渋い声で笑いをこらえながら確認され、ハサウェイの顔が思わず赤らむ。
「え、ええと正式フォース名はすいません、今!」
ハサウェイは慌てた様子でフォース内チャットでアイデアを求めた、その結果。
「フレッシュチルドレン!」
「……え、ええとロンドベル二軍」
「水星海賊団とかどうかな?」
「すいません大佐、やっぱりそのままでお願いします……」
ノープランでまともなネーミングが出れば、そもそも仮決めとかしないのである。
ロンメルが口元に手を当て、声を殺して肩を揺らすのが見え、ハサウェイは死にたくなった。
「そう言えば、ロウジくんはピンクのデミトレーナーではないのだね」
「あ、はい。そうなんですロンメルさん!
デコトレーナーはバグ発覚で使用自粛中なんです。
今日はエニルさんの新作、ジェガン・Dでお相手いたしますよ!」
大佐ほどの人でも、ロウジと言えばデコトレーナーなのか。ハサウェイはかすかに口元を緩めた。
フォースエンブレムのデコトレーナー、大正解だったようだ。
「なるほど、エニル少佐の新作か、それは楽しみだ。
さあ諸君、ガンプラの準備は万全か?」
「はーい。よろしくお願いします!」
「よろしくー!」「行けます、大丈夫です!」
ロンメルの声に、ハサウェイは汗ばむ掌で操縦桿を握り直す。
これ、ひょっとすると本番より緊張するかも。ハサウェイは緊張の面持ちでモニターを睨みつける。
「バトルフィールドは黒海沿岸(UC0079)全域!
勝敗は陣営の全ガンプラの大破もしくは陣営リーダーの降伏宣言により決する。
NPC配置なし、トラップ使用禁止、戦績記録なしの非公式戦。
これよりフォース間交流会を開始する!」
『”第七士官学校”から3VS3のPVPが申し込まれました。受諾しますか? Yes or No』
ロンメルの渋い声と共に、システムメッセージが宣言される。
今日は、ロンメル率いる”第七機甲師団”の下部組織”第七士官学校”の相手と、
両軍の練度向上とガンプラの性能テストを兼ねた模擬ガンプラバトルなのだ。
あの人に、無様なところは見せられない。
中空に浮かぶシステムメッセージのYesをフリックし、ハサウェイは力強く操縦桿を握り直す。
バトルエリアへの転送を確認しながら、ハサウェイは叫んだ。
「ハサウェイ・ノア、キャプテンZ、いきまーす!」
放射されたメガ粒子の弾幕が、モニターいっぱいを埋め尽くす。
遮蔽物として逃げ込んだ林が、メガ粒子砲の火力で吹き飛ばされていく。
汗ばむ手で操縦桿を握りしめ、ハサウェイは愛機のコクピットで叫んでいた。
「これが、ロンメル大佐が作ったサイコガンダム……
メイジン級のビルダーが作れば、大型機のパワーはこれほどまでか!」
GBNの森林オブジェクトが、燃え、吹き飛び、なぎ倒される。なんて圧倒的な火力密度だ。
はるか遠方に映る敵機、黒い巨体は、明らかに通常のガンプラより2倍ぐらい大型だ。
MRX-009 HGのサイコガンダム。それがロンメル大佐が模擬戦用に用意してくれたガンプラだった。
「乗ってるのは大佐ですらない誰かだってのに、近づくどころじゃない……!」
自分のふがいなさに歯噛みしながら、ハサウェイは破壊された遮蔽物を放棄し、別の遮蔽物へ飛び込む。
このサイコガンダムは、対デストロイの仮想敵としての対戦相手だ。
遠距離からのビームは、まるで通じない。近接距離からの白兵か、ゼロ距離ハイメガを叩きこまねばならない。
「ハサウェイ、上!」
セセリアの警告とほぼ同時、コクピットにロックオンアラートが鳴り響く。
振り仰いだモニター上方に、飛来するミサイル、10発以上!
「だいじょーぶ、ボクにお任せ!
ハモニカ砲、発射ぁ!」
横から飛来した、扇状に広がる幅広のメガ粒子砲の帯が、ミサイルを次々に飲み込み、消し飛ばした。
レーダー反応、味方機のレーダー反応を追うと、遮蔽物の影から乗り出した、ルブリス・ジェミニの姿がある。
「ふっふー、さっすがエニルさん製のディバイダー!
チャージ速度もビーム密度もグンバツ!」
セセリアが上機嫌に叫び、ルブリスが構えた真ん中にビーム発射装置を備えた大型デバイスを得意げに構えた。
デバイス左右に装着された装甲板が展開し、ブースターを左右に備えた大型シールドへと変形する。
ガンダムXディバイダーが使用する装備、その名もディバイダーだ。
シールド兼優秀な追加スラスターであり、展開ギミックによって多連装ビーム砲、通称“ハモニカ砲”が使用可能になる。
「鬱陶しいな、サイコの後ろでチョロチョロする二機!」
ハサウェイは舌打ちしながら、サイコガンダムの影に見え隠れする二機の敵機を睨む。
ジオンカラーの陸戦ガンダムと、ザク改だ。
どちらも豊富な手持ちの実弾火力を備え、サイコガンダムを盾にミサイルを撃ちまくってくる。
「鬱陶しくてもあの二機は後回し!
実弾装備の仮想ウルトラデストロイ対策の模擬戦なんだから、
サイコガンダムをビーム兵器と白兵で落としきらなきゃ意味がないんだから」
「わかってるよ!!」
苛立たしげにハサウェイは舌打ち一つ。良くない癖だがなかなか治らない。
その直後、モニターのサイコガンダムが巨体を左後方へ向けた。
巨体の胸部と指のビームが放射され、サイコガンダム目掛けて飛来したミサイルを撃ち落とす。
「来た、ロウジだ!」
サイコガンダムの視線の先、ダークブルーのジェガンが猛烈な機動射撃戦を繰り広げ始めた。
ロウジ、すごい。遮蔽物すらない距離で、あの濃密なビームを避けて立ち回ってる!
「行くよハサウェイ、手はず通り地上低空から敵陣を挟撃だ!」
「任せて、先に行く!」
ロウジに負けてられない! ディバイダーがミサイルの迎撃完了したのを見届け、ハサウェイは大きく操縦桿を押し込んだ。
愛機キャプテンΖが飛行形態、ウェイブライダーへと低空で変化する。
ぐんと加速のGがアバターにかかり、モニターの光景が高速で流れていく。
「ハサウェイ、TMA形態はダメだってば!」
「大丈夫、あんなミサイルなんか振り切ってやる!」
あっという間に距離が詰まる。陸ガンとザクが慌てた様子で新たな武器を取り出し、こちらにロックオンする。
ロックオンアラートと共に、ミサイルとキャノンがウェイブライダー目掛けて迫る。
「そんなもの、当たるもんか!」
ロンメル大佐に、いいとこ見せるんだ!
ぐいと操縦桿を傾け、機体を急旋回する。
ミサイルよりも速い速度でウェイブライダーが実弾の中を駆け抜け……
無数の炸裂音と共に、ダメージアラートがコクピットを激しく揺らした。
凄まじい速度のままウェイブライダーが墜落し、森林オブジェクトを破壊しながら地面と激突する。
「……何!? 今のはなんだ!?」
心臓の鼓動が跳ね上がる。けっして命中などしてなかったはずだ。
かわしたはずのミサイルやキャノンが至近距離で炸裂し、破片の雨を御見舞いしてきたのだ。
「今の、近接信管の対空ミサイル!?」
叫ぶとほぼ同時、ロックオンアラートが鳴り響く。
モニターいっぱいに、迫るミサイルの雨が映る。
「ハサウェイ、避けて!」
「こんなもの、タネがわかればさぁ!」
操縦桿を短く切り返し、MS形態に変形と同時に盾を構え、ミサイル目掛けて真正面から突っ込む。
近距離でミサイルが炸裂し、無数の爆発と散弾が盾とガンプラへ突き刺さる。
痛い、だが軽傷だ。このまま突っ切り、サイコガンダムの背後を叩く!
まさにその直後、ミサイルの爆煙の中からぬっと、拡散ビーム発射体勢のサイコガンダムが現れる。
「しまっ!?」
こちらを迎撃しに向き直っていた!?
回避も間に合わず、拡散ビームの凄まじい嵐が吹き荒れる。
左腕がもぎ取られ、足が、右腕が吹き飛ぶ。
どうやらオレは、またやらかしたらしい。激しいダメージアラートと共に、モニターがブラックアウトする。
こちらにもう用はないとばかりにサイコガンダムが向きを変える。
サイコガンダムへ突進するダークブルーのジェガンが、バトル最後に見えた光景だった。
「ロウジのジェガン・D、良かったね。ロンメル大佐も褒めてたよ。
バトル巧者のベテランが操る大型機相手でも、十二分に立ち回れる。
対ミサイル装備もあって、インファイトに持ち込む機動力もある」
セセリアの言葉がハサウェイの耳を素通りしていく。
交流会は無事終わり、ハサウェイ達はエニルのフォースネストの応接室スペースを借りて反省会を行っていた。
「ロンメルさん作のサイコガンダムもめちゃめちゃタフですごかった!
実弾装備ガンプラに乗ってた新人のお二人も、すごく敵として厄介な動きで、
仮想デストロイガンダムとしてすごくいい練習になったよ!」
楽しそうなロウジの声も右から左だ。ハサウェイは応接室のソファに身を深く預け、深く息を吐き出す。
ハサウェイが落とされたあの後、セセリアが敵僚機二機を抑え、ロウジがサイコガンダムとタイマンを行った。
サイコガンダムは落とせたものの、直後にタイムアップ、結果は両軍撃墜数1で結果は引き分けとなっていた。
「いやー、しかしまさか、ロウジがほぼソロで削り切るまでとは。
これは本番、期待しちゃうかんね?」
「うん、たぶんデストロイもっとはるかにヤバいだろうけどさ、何とかやってみるよ!」
セセリアとロウジの会話を、ハサウェイは無言のままただ聞いていた。
ロンメル大佐の前であんな無様な真似を。またロウジの役に立てなかった。
ハサウェイの頭を言葉がぐるぐる回り、無力感が喉の奥からせり上がってくる。
事前情報はあった、打ち合わせもした。なのに頭に血が上ってあのザマだ。
「……ハサウェイはうん、惜しかったね。
あれが可変機の天敵、近接信管の対空弾頭だね。
GBNの上位層は、高速飛行するTMA、飛行機モードも平気で叩き落としてくるんだよね。
本番でも、敵の対空兵装減らすまでウェイブライダーは封印した方がよさそー」
「……くそぉっ!」
何もできなかった。あふれる自責の念がハサウェイの喉からほとばしった。
テーブルに拳を力いっぱい叩きつける。握りしめた拳が小さく震えていた。
敵陣営はサイコガンダムを操るベテラン以外、まだGBN歴半年未満の新人だったらしい。
ハサウェイは油断から新人に迎撃され、追い立てられてサイコガンダムに狩られたのだ。
ロウジの奮戦でサイコガンダムは落とせたが、ハサウェイは勝利に何も貢献出来ていない。
「こーらハサウェイ。モノに当たっちゃダメだぞー?」
おどけたようにセセリアにたしなめられ、ハサウェイは我に返った。
突然の叫びに、ロウジが怯えたように身をすくませている。
「ごめんハサウェイ、本番では僕がもっとうまくやるから……」
「違うよ、ロウジ!
キミは、セセリアも……何も悪くないんだ」
ロウジに申し訳なさそうにフォローされ、ハサウェイはいたたまれなさに身悶えした。
血を吐くような思いでハサウェイは叫ぶ。そう、悪いのはハサウェイ自身だけなのだ。
「……ジェガン・D、良かったよ。
しかも、さらにアレをチューンナップしてもらうんだろ?」
「……うん、白兵武装のリクエストと、強敵相手の隠し玉についてだね。
エニルさんにいっぱいいっぱいわがまま言うんだ」
ハサウェイがさらに言葉を重ね、ロウジが息を吐き出し、ようやくいつもの笑顔に戻ってくれた。
そのままのキミでいてくれ、ロウジ。ハサウェイは心の中でほっと安堵した。
「頼りにしてる、リーダー」
「うん、ハサウェイも!」
「じゃ、反省会は終わりね。
ロウジはエニルさんとこ行ってらっしゃい。」
「うん。ばりばりのサイキョーに仕上げてもらってくる!」
「ちゃんと隠し玉、実用のめどついたらボクらに絶対に教えてね?
ロウジを最大限生かすため、ボクとハサウェイとの連携、絶対必須だかんね!」
ロウジがソファから勢いよく立ち上がり、奥の部屋の方へと元気よく駆けていく。
しつこいまでに念を押すセセリアに、ハサウェイは無言で噴き出した。
笑った事で、少しだけ胸が軽くなるのが判る。
「じゃ、ハサウェイは手持ち武装の相談でもする?
……何さ。そんなにおかしい?」
「ごめんごめん。……仲良しだな、キミ達」
いつの間にか、セセリアもまた眼鏡モードだ。
そんなことに気付かないほど、自分はどうやら落ち込んでいたらしい。
ぷうっと頬を膨らますセセリアに、ハサウェイは慌てて頭を下げるのだった。
「色の微調整もこれでふぃにっしゅ!
ハサウェイ、キャプテンZさわらせてくれてサンキュー。
Zがハイメガランチャーがウィングバインダーにハードポイントあるのは知ってたけどさ、
ちゃんと他の手持ち武装もマウント出来るのは完成度高いね」
「……いや、こちらこそありがとう、セセリア。
すごいな、正直元々の武装リストにあったみたいに思えてくる」
「ふふふ、伊達にオリプラ作ってはシショーにダメ出しされて来てないかんね」
実に自然な色合いだ。ハサウェイは思わずうなった。
セセリアが得意げに示したキャプテンZの立体モデルに、レンタル予定の手持ち武装が違和感なく溶け込んでいる。
「いやーしかしハサウェイ、お目が高いね。
この武装お勧めだよ、サブウェポンにマシンキャノン2門ついてて牽制やミサイル迎撃に便利だし、
切り札として使えそうな対陽電子フィールドにも有効な質量兵器を備えてる。
ハイメガランチャーはエネルギーめっちゃ食うから、つなぎにはやっぱり実弾武装が最適だよ」
「明日、実戦で使って身体で感覚を覚え込むよ」
別に褒められるほどの事ではない。ハサウェイは頬を掻いた。
エニルのレンタル可能武器リストから、セセリアが作った厳選おすすめ実弾武装リストから選んだだけだ。
自分のガンプラの調整もあるだろうに、セセリアは全体に目を配っている。
ガンプラやバトルの知識量も豊富で、フォースの司令塔はセセリアしかいない。
まったくもって、セセリアはただの調子乗りのアホの子ではない。
「賢者は歴史から学び、愚者は経験で学ぶ……
せめて賢者ならずとも愚者として経験を糧にしないとな」
「ハサウェイ、その言い回しすっごくこしゃく! 頭よさそー」
「その言い草はひどくないか!?」
まったく、ちょっと褒めたらこれだ。
けらけら笑うセセリアに、ハサウェイは憤然と鼻を鳴らす。
ただ、セセリアと比べて自分はどうだ。今回は笑われてしかるべき結果じゃないのか?
「実際、頭はいいつもりなんだがな……
どれほど知識を詰め込んでいても、頭に血が上ると視野が狭まり、今回のようにああなる」
まったくもって面目ない。口に出して言いかけ、小癪な言い回しだと思ったので呑み込む。
「本番前にいたい目あって良かったじゃん」
「出来れば、そろそろ結果が欲しかったんだ」
ねぎらうように言うセセリアに、ハサウェイは思わずぼやく。
ロウジと互角のライバルのつもりでいたのに、バトルの活躍では置いて行かれるばかりだ。
「ごめん、そうだよね、ハサウェイ。
そりゃ勝ちたいよね。活躍もしたいよね」
きりっと真顔でセセリアに頭を下げられ、ハサウェイはまんまるに目を見開いた。
「……正直、だいぶきっついバトルやってると思うよ。
ロウジってさ、結果より過程を重視するって言うか、
いいバトル出来たら勝っても負けてもたのしかったー!で終わっちゃうからさ」
「少しは判るよ。マフティーとしての敗北、無駄じゃなかったもの。
けど、やっぱりオレは結果で出てほしい。
結果が出ないと努力まで無意味に思えてくるんだ」
膝の上で手を組み、ハサウェイは弱音を吐いた。
大人は結果でしか見てくれない。ハサウェイの心に染みついた感覚だった。
「ボクが思ったいじょーにロウジがバトル大好きっこだったんだよね。
結果、ロウジがバトルにわがままで、ボクがそんなロウジ全肯定マシーンなわけで。
いくら長い付き合いだからって、ちょっとロウジを優先しすぎちゃってたかな……」
気遣いの鬼かこいつ。申し訳なさそうなセセリアに、ハサウェイは思わず口元を緩める。
けして自分がないがしろにされていないのだ、多少ロウジ優先でも別に構わない。
だってロウジとセセリアの関係は特別なんだもの。悪戯っぽく声を潜めて問いかける。
「ロウジのこと、好きなんだ?」
「いやいやいや、単にめっちゃ付き合い長いだけやし!」
セセリアの関西弁、初めて聞いた。ちょっと顔も赤い気がするぞ?
にんまり笑いそうになりながら、ハサウェイは膝を合わせてセセリアに向き直る。
「リアルのロウジも、小柄ですばしっこいわんこキャラなのか?」
「まっさかー。真面目なだけが取り柄の、あんまり要領もよくないどんくさっこだよ」
内緒ね、って指一本立てながら、セセリアが声を潜めて教えてくれた。
悪口だとは思わない。だってセセリア、すごく優しい顔をしてるもの。
「すっごい人見知りで、人前で喋るのだいぶ苦手なんだよね。
勉強は真面目に頑張るけど、とにかく人前だとあわわってなっちゃうんだよね。
身体を動かすことも好きじゃないし、学校じゃまるで目立たないモブキャラ扱いかな」
「冴えないあの子の秘密をキミだけが知ってる、って訳だ」
ハサウェイはにやっと笑い、セセリアがちょっとドヤ顔で胸を張った。
「ロウジ、知らない人と接することがあんまりなくってさ。
だからときどきロウジちょっと距離感間違う事もあると思う。
ボクも気を付けるけど、イラっとしたら言ってね」
真面目に言って来るセセリアに、ハサウェイは笑顔で頷き返す。
きっとこのアホの子、リアルの方でもロウジを色々フォローをしているに違いない。
「ふふ。やっぱりキミは、絶対ロウジに必要だね、セセリア」
「キミだって必要さ、ハサウェイ」
思わぬ言葉に、ハサウェイはセセリアをじっと見返す。
「うっかりボクが正座待機した時、
ボクの代わりにロウジについててくれたじゃん」
「バトルの事じゃないのかよ!」
なんだ、そんな当たり前のこと。ハサウェイはアメリカンな仕草で肩をすくめた。
ロウジが緊張で足元と口調がおぼつかないから、セセリアの代わりを少ししてやったぐらいのことだ。
「バトルだって頼りにしてるの決まってんじゃーん。
ロウジはバトルが一人前だけど、それ以外イマイチ。
ボクはバトルがまだまだだけど、それ以外ならそこそこ。
ロウジとボクはどっちも半人前、二人あわせてようやく一人前ね!」
「……オレだってガンプラ作りはド素人、半人前のダイバーだろ。
オレら全員、デミトレーナーに鍛えて一人前にしてもらうか」
あまりにあっけらかんとセセリアが自身の未熟を断言する。
その明るさにつられるように、ハサウェイも自分の未熟さを肯定した。
それこそ三人とも、アスティカシア学園に通う学生達と年齢は変わらないだろう。
バトル前に交わした雑談を思い出し、ハサウェイはうなずく。
「半人前のダイバー、いわばデミダイバーってとこだね」
「セセリア、それだ!」
天啓が、ふってきた。
ハサウェイは中指をぱちんと鳴らし、ソファから勢いよく立ち上がる。
取り出したホワイトボード型アイテムに、ペンで文字を丁寧に書いていく。
「フォース名、”デミダイバーズ”
……どうだ?」
真顔でホワイトボードを突き付け、渾身のアイデアを叩きつける。
未熟な半人前三人、三人力をあわせてようやく一人前と半分ってところか。
未熟は、恥じゃない。それはすなわち、成長の可能性なんだから。
「ハサウェイ、いいね。大天才!」
満面の笑顔で答え、セセリアもソファから立ち上がる。
テーブルごしにグータッチをかわし、セセリアがホワイトボードをもぎ取る。
あっけにとられる間もなく、セセリアがロウジとエニルさんのこもる奥の部屋への扉へ走っていく。
「リーダー、リーダー!
ハサウェイがサイッコーのフォース名出してくれた!!」
やかましい声に耳をふさぎ、ハサウェイは照れ隠しにそっぽを向く。
めんどくさそうに部屋から出てきたロウジだが、すぐに満面の笑顔でこちらへサムズアップしてくれた。
フォース名の命名で、ようやく一つロウジ達に貢献できたようだ。
「ごめんセセリア、そろそろ先落ちる。フォース名変更任せていい?」
「おっけー任せて、ばっちし運営さんへ申請しとくね!」
「ありがとハサウェイ、明日もよろしくね!」
時計を見やり、ハサウェイは慌ててログアウトコマンドを選んだ。
雑務を任せて申し訳ないが、これも仲間同士の助け合いだ。
満面の笑顔で手を振るロウジとセセリアに、こちらも控えめに手を振り返す。
「また明日ね!」
足りないものだらけの仲間と、互いに補い合って手探りで歩んでいく。
明日は今日よりきっと、一歩でも成長できるはず。ハサウェイはひそかに拳を握りしめるのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・近接信管の対空弾頭
通常のミサイルなどは命中した時点で爆発し、ダメージを与えるが、
敵機の近くに来た時点で炸裂し、破片を散弾のように浴びせる特殊弾頭のことを言う。
威力は低めで、MS形態ではほぼ脅威とならないが、
よろけが墜落につながる可変機の飛行形態(TMAモード)や飛行MSに対して特に有効となる。
特に手持ち火器による迎撃が難しいTMAモードの足を止めるために使用される。
バズーカ、ミサイル、ロケットランチャーなどの設定変更で使用可能となるが、
威力と弾数が低下するのと、カスタマイズ精度が必要なために初心者にはお勧めされない。
迂闊に使ってもブラン大佐に「散弾ではなぁ!」と言われるのが関の山である。