リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回8/4(日)予定です。


ミッション3-9 バトルに思いを託してゆこう

 

「ウルトラデストロイ、恐るべきガンプラだ。

 さぁ、第七士官学校の諸君、よく見ていたまえ。

 デミダイバーズがあの難敵をどう攻めるのか」

 

 ロンメルの渋い声が、フォースネストの観戦ルームに響き渡る。

 観戦ルームに集まるのは、ロンメルの率いる第七機甲師団の下部組織、第七士官学校のダイバー達だ。

 まだ経験浅いダイバー達が観戦用のモニターを食い入るように見つめる。

 この観戦、きっと良い教材となるだろう。

 ロンメルは満足げに頷き、安楽椅子に腰掛け直し、モニターを見つめる。

 モニターにはムービーシーン終了を告げるカウントが開始されていた。

 

「クランプ、サイコガンダムの操縦者としてはどう見るね?」

 

 ロンメルは隣に座るクランプへと問いかける。

 クランプはもちろん現在も在籍している新人ではない。第七機甲師団の卒業生で、独立を選んだベテランダイバーだ。

 先だっての交流会でサイコガンダムを駆り、ロウジ達と対戦したのはこの渋い顔の男である。

 

「どちらの実力も知る身としては実に楽しみです。

 特に模擬戦で手痛い戦術ミスをしてしまったハサウェイくん、

 本番での奮起を期待しています」

「うむ、ニュービーも三日会わざれば刮目して見よ。

 半人前を自称するデミダイバーズ諸君の可能性を期待しようではないか!」

 

 公式エキシビションマッチはリアルタイムでGBN中へ放映される。

 プロビルダーがガチガンプラを蔵出しするとの情報もあり、注目度はうなぎのぼりだ。

 このフォースネストだけでなく、恐らくGBNロビーでも多くのダイバーが固唾をのんでモニターを見守っていることだろう。

 

「年甲斐もなく胸が躍りますな」

「オンラインで年の話は禁句だぞ?

 ……さぁ、いよいよ、激突だ!」

 

 いくつになっても、こう言う時の顔は変わらんものだ。

 少年のような眼差しのクランプに、ロンメルは目を細め、間もなくバトルが再開するモニターへ向き直る。

 

『Movie Scene Finished』

『さぁ、いよいよバトル再開です!

 バトル開始から移動で180秒が経過、残り約720秒!

 通常ならロックオン距離ギリギリから始まる遠距離戦。

 主導権を握るのは挑戦者かターゲットか!』

 

 トロンの実況と同時に、挑戦者側の2機、ルブリス・ジェミニXとキャプテンΖが素早くビルの影へ飛び込む。

 まるでそれを見届けてからと言ったタイミングでウルトラデストロイが挨拶代わりにビーム砲門を開放する。

 胸部の三連装スーパースキュラ、右手指の五連スプリットビームガンが合計八本のビームを放ち、

 挑戦者が元いた中央大通りの道路に激しい破壊を巻き起こした。

 

「やはりデストロイ。

 ビーム兵装だけでも凄まじい威力ですな」

「あえてビーム兵装を見せたように見えるな。

 余裕か、それとも何かの布石か」

 

 凄まじい破壊力に新人達がどよめく。

 それを横目に眺め、ロンメルはクランプと共に冷静に頷きを交わす。

 

「セセリア、オレが仕掛ける!」

 

 デストロイの火力に度肝を抜かれたのは観客達だけではない。

 小隊内通信で僚機に叫んだハサウェイが、まるで自分を鼓舞するようにロンメルには思えた。

 カメラがキャプテンΖへ寄り、ハイメガランチャーを腰だめに構える姿が大写しとなる。

 

「おーけー、行っちゃえ!」

 

 観戦者と僚機にだけは聞こえる小隊内通信でタイミングを示し合わせ、

 キャプテンΖとルブリス・ジェミニが遮蔽物であるビルの影から飛び出す。

 スラスターをふかし、ビルの上へ。ウルトラデストロイを見下ろすようにキャプテンΖがハイメガランチャーを構える。

 

『ウルトラデストロイの猛射に、ルブリス・ジェミニXとキャプテンZが手にした火器を構え、反撃の姿勢!」

「この一撃で!」

 

 トロンの実況に、ハサウェイの叫びが続く。凄まじいビームの奔流がハイメガからほとばしった。

 ビームの奔流へ対し、ウルトラデストロイが左腕の大型シールドを斜めに構える。

 ウルトラデストロイへ直撃軌道のビームがネジ曲がり、斜め後ろへ着弾する。

 

「陽電子リフレクター!

 やはりデストロイ、遠距離防御は鉄壁か……」

「上手い、射角を斜めで受けて軌道を逸らしたな」

 

 地味だが、バトル巧者らしい挙動に、ロンメルは大きな声で解説を添えた。

 続いて、ルブリス・ジェミニXがビルの真横から飛び出し、ディバイダーを射撃モードで構える。

 収束モードに調整された威力重視のビームが、デストロイ目掛けてディバイダーからほとばしる。 

 だが、今度はデストロイが盾さえ構えない。全身の陽電子リフレクターが収束ビームを無造作に受け止めた。

 

『挑戦者の息の合った連携攻撃、遠距離からのビームの猛攻だ!

 だが、デストロイはやはり鉄壁! 挑戦者側の反撃を悠然と受け止める!

 遠距離攻撃では大型機の牙城を崩すにはやはり難しいのか!』

 

「同じ無効化でも、デストロイの対応が違うだろう?

 ディバイダーは効かないが、ハイメガは有効打を与える可能性があると言う事だ」

 

 トロンの実況に合わせ、ロンメルは解説を添える。

 新人達から驚きと気づきの声が幾つもあがった。

 

「ほんじゃあ次はウチの出番やな!」

 

 エセリアが叫び、デストロイの肩部と腹部に増設されたランチャーが無数のミサイルを打ち放つ。

 これはいやらしい。ロンメルはにやりと笑い画面を見守る。

 腹部ミサイルは直線軌道、肩部は空に打ち上がって落ちてくる迂回軌道だ。

 角度とタイミングをずらし、一手の攻撃で時間差の二手での対処を相手に強要する。

 

「セセリア、任せた!」

「おっけー、ぶちこんじゃえ!」

 

 挑戦者はそれに対し、連携で対処を決めたようだった。

 ルブリスがディバイダーで迎撃の構えをとる。

 帯状に広く放たれたディバイダーのビームが、まずは真正面のミサイルを迎撃。

 ほぼ同時、キャプテンΖが放ったハイメガが、デストロイの構えた左腕の盾に真正面から突き刺さる。

 今度は逸らす事も出来ず、ハイメガの一撃が陽電子リフレクターを貫通する。

 だが、構えた盾に弾痕が刻まれ、本体装甲までは届かない。

 

「やった、抜けた!?」

「ハサウェイ、ミサイル回避備えて!」

 

 反撃に備え、そのままビルの影へ飛び込むルブリスとキャプテンΖの頭上から迂回軌道のミサイルが降り注ぐ。

 ルブリスのディバイダーの帯状ビームが上方へ打ち上がるが、完全なロックオンが間に合うタイミングではない。

 打ち漏らしたミサイルが降り注ぎ、炸裂。近接散弾をルブリスとキャプテンΖへ浴びせる。

 

「やっぱ対空弾頭じゃん!?

 ハサウェイ、損傷は!」

「軽微、行動に支障なし!」

 

 キャプテンΖが手にしたハイメガランチャーを背負い直し、ショットランサーを手持ちに交換する。

 ルブリスが遮蔽からメインカメラを覗かせ、デストロイの様子を伺う。

 その途端、ルブリス目掛けてビームが浴びせられる。

 慌ててルブリスが遮蔽に飛びこめば、今度は頭上からミサイルが迫る。

 

「ハイメガは角度によっては陽電子リフレクターも貫通するようですが、

 この距離ではやはり有効打とはなりえませんな。

 そして、恐らくはエネルギー切れで再チャージ中と見ました」

「……ひとまず、ここまでの立ち回りは及第点。

 サイコガンダムとキミを模擬戦に駆り出した甲斐もあったというものだ」

 

 クランプの言葉に、ロンメルも頷きを返す。

 ルブリスとZの2機は、遮蔽を利用し、デストロイの猛攻を何とかしのぐことは出来ていた。

 

「ただ、我々と対戦した時と、デストロイの攻め方が違いますな。

 前回はもっと容赦なく遮蔽物を壊して来ていたはずなのですが」

「なるほど……きっと、何かそれは意図があるね」

 

 ロンメルはクランプへにやりと笑い返し、新人たちに聞こえるように呟いてみせた。

 やはり歴戦のベテラン、目のつけどころが違う。

 ビームは遮蔽で隠れ、ミサイルはディバイダーとマシンキャノンで撃ち落とす。

 その繰り返しが3度ほど続いた後だった。

 

『主砲身、冷却完了』

 

 デストロイが肩部のミサイルランチャーを上空の迂回機動で打ち出した直後だった。

 単調な流れを断ち切るように、電子音声が静かに響き渡る。

 

「さぁて、お遊びは終わりや、こいつのお披露目といくで!」

『交戦開始より60秒経過!

 ウルトラデストロイがついに真価を発揮するのか!

 その肩に備えた長大なウルトラデストロイキャノンがビルの影に隠れた挑戦者へ向けられる!』

 

 エセリアが威圧的に叫び、トロンの実況が追随する。

 ウルトラデストロイのテールスタビライザーが接地し、がっしりとスパイクが地面に撃ち込まれる。

 なるほど、実弾の反動をああして受け止めるのか。尻尾を通じて地面へと完全に固定されている。

 実弾での高火力兵器、ガンダム世界ではほとんど見られない。

 ビームでなくあえて実弾を選んだのは、ロマン重視の拘りだけではないはずだ。

 ロンメルは楽しげに笑い、皆へと宣言する。

 

「さぁ、デメリットを背負って強化したその威力、どれほどのものか。

 諸君、画面に注目といこう!」

 

 高らかに笑いながら、ロンメルは汗ばんだ拳を秘かに握りしめる。

 自分ならどう攻略するか。選択肢が無数に浮かんでは消えていく。

 このひりつく戦場にいるのが自分でないのが、少しだけ悔しい。

 きっとこのバトルを観戦中の他のダイバー達も、同じ気持ちだろう。

 頑張りたまえ、デミダイバーズの諸君。次はきっと、自分達がそこに立ってやる。

 ロンメルは心の中で呟きながら、一人のダイバーとして観戦を続けるのだった。

 

 

 

 

 たとえその激励が聞こえたとしても、当事者達に応える余裕などなかっただろう。

 

『主砲身、冷却完了』

「さぁて、お遊びは終わりや、こいつのお披露目といくで!」

 

 デストロイがシステム音声を発した。エセリアが得意げに叫ぶ声が聞こえる。

 もちろんヤバいのは判っている。ハサウェイは操縦桿を握り、小さく舌打ちした。

 上方からの飛来物警告に、マシンキャノンで上空への弾幕を張る。

 ミサイルが誘爆、撃ち漏らし無し。小さく頷き、遮蔽物に身を寄せる。

 安全な遮蔽で一撃目をしのぎ、可能なら距離を詰めてカウンターだ。

 ハサウェイがそう心で呟いた瞬間、背筋が総毛だった。

 ”安全な”遮蔽で? ザフト基地を放棄した時の記憶がフラッシュバックする。

 

「セセリア、遮蔽物を捨てよう、罠かも!」

「……おーけー!

 ハサウェイ、回避に専念!」

 

 僚機だけに聞こえる小隊内通信で、ハサウェイは唐突に叫びを上げた。

 セセリアも同じことを思ったようだった。

 ハサウェイは全力でスラスターを吹かし、真横へと回避機動を取る。

 

「いくで、デミダイバーズ!」

 

 オープン開戦でのエセリアの台詞が、雷が間近で落ちたような轟音にかき消される。

 一瞬耳が聞こえなくなったかのようにハサウェイは錯覚した。

 間一髪だった。ルブリス・ジェミニXとキャプテンZの背後で、遮蔽物があっという間に瓦礫の山に変わる。

 

「ヤっバい! なにアレ?!」

「セセリア、次が来るっ!!」

 

 頑丈な建物が盾にすらならない! ウルトラデストロイキャノン、凄まじい威力だ。

 安堵している間などない。容赦ないロックオンアラートがコクピットに鳴り響く。

 再度の轟音が鳴り響き、ウルトラデストロイキャノンの次弾がモニターいっぱいに映し出される。

 それはまるで赤熱した巨大な火球のようだった。

 

「南無三!!!」

 

 仏様に祈って操縦桿を必死で倒し、回避機動を強引に斜めに逸らす。

 赤熱した火球が凄まじい衝撃波をまとい、まるで空間そのものを切り裂くように飛んでくる。

 スラスター全開、回避機動。直撃は避けた。

 それでもかすめた余波がキャプテンZを襲う。

 激しく吹き飛ばされ、ほとんど墜落するように地面へ叩きつけられる。

 オートジャイロがなんとか働き、辛うじて遮蔽物の影へ四肢から接地した。

 安堵に息を吐き出すハサウェイを、ロックオンアラートが追い立てる。

 

「セセリア!!」

「……だ、だいじょぶー!」

 

 キャプテンZと肩を並べるようにして、全力でふかしたスラスターで、遮蔽物の影を飛び出す。

 空中へ飛び出し多とほぼ同時、背後でビルが吹き飛ぶ。そして容赦なく再度のロックオンアラートが響く。

 回避機動を変更! ハサウェイは操縦桿を折れそうなほど急旋回させた。

 無我夢中でふかしたスラスターが、再度軌道を強引に変える。

 

「なんだよ、もう……っ!?」

 

 デストロイの様子を見る様子もない。次に飛び込む遮蔽物をモニタートレーダーで真っ先に確認する。

 

「……ハサウェイ、違う、ヤバい!!!」

 

 アラートから着弾までが遅すぎる? セセリアの叫びと、わずかな違和感がハサウェイの注意を後方モニターへ移す。

 どっと全身の毛穴から汗が噴き出す。飛んできたのは砲弾ではなく、巨大な鉄拳だった。

 

「このヤロっ! 思い込みか!?」

 

 判断をミスったハサウェイ自身への罵声が思わず漏れる。

 後方モニターに、結構な速度で飛んでくるデストロイの右前腕部の拳が映しだされる。

 事前に調べた知識が一瞬でハサウェイの脳裏を駆け巡る。

 

 両腕部飛行型ビーム砲 シュトゥルムファウスト。

 手甲部分にビーム砲、シュナイドシュッツSX1021を備えるデストロイの腕部。

 本体から分離し、ドラグーンシステムによる遠隔操作が可能な、アームユニット兼攻盾システム。

 

 つまり、あの砲撃と同レベルの一撃必殺の威力を持つ質量兵器であり、軌道を自由に操作出来る!

 思考が一瞬で脳裏を駆け巡る。回避に避けるような時間は、なかった。

 飛行軌道を強引に捻じ曲げたキャプテンZ目掛け、飛来する拳がホーミングする。

 

「ハサウェイーっ!」

 

 コクピットを揺らす衝撃は、予想より遥かに軽かった。

 遅れてハサウェイは理解する。

 セセリアのキャプテンZがルブリスを跳ね飛ばし、攻撃からかばったのだ。

 

「セセリアっ!」

 

 続いてコクピットに響いた衝撃音は、予想通りに激しいものだった。

 振り仰いだメインモニターに、鉄拳に殴りつけられ、おもちゃのように吹き飛ぶルブリス・ジェミニXが映る。

 続いて拳は、巨大ドラグーンユニットとしての役割を全うした。

 吹き飛ぶルブリス目掛け、腕部の指から放たれた5本のビームと手甲部分のビーム砲が容赦なく追撃する。

 

「うああああああああああああああああっ!」

 

 よくも。よくもやってくれたな仲間を!

 悲鳴を雄たけびで塗りつぶし、ハサウェイは操縦桿を激しく切り返した。

 思い切りふかしたスラスターが、シュトゥルムファウストへの距離をあっという間に詰める。

 レポートで、見た場所! 思い切り押し込んだウェポントリガーが、慣れ親しんだ突き攻撃モーションを繰り出す。

 キャプテンZ右手のショットランサーが陽電子リフレクターの防御を突き破り、巨大な鉄拳の手甲に突き刺さる。

 ゼロ距離でサブウェポントリガーをさらに押し込み、ショットランサーの穂先が射出され、さらに深く突き刺さる。

 

「せめて道連れ、バリアの一つぐらい!」

 

 キャプテンZの足でシュトゥルムファウストを蹴りつけ、スラスターを吹かす。

 確信と共に左手のグレネードを発射する。果たして、陽電子リフレクターはもう発生しなかった。

 ショットランサーがえぐった深い傷口へグレネードが炸裂し、追い打ちをかける。

 プロのガンプラだろうと、これなら! 巨大な拳が黒煙をあげ、墜落していくのを眺め、ハサウェイは呟く。

 果たして、レーダーに映っていたシュトゥルムファウストの反応が消滅する。

 

 制限時間、残り540秒。

 

 それはウルトラデストロイの複数ある陽電子リフレクターの一基を破壊できたことを意味する。

 心で快哉を叫んだ瞬間、ロックオンアラートが冷や水をぶっかけてきた。

 

「息つく間もくれやしない!」

 

 悪態をつくハサウェイの目に、低空軌道で飛んでくる多数のミサイルが映る。

 砲撃でないなら何とでもなる。ロックオンからのマシンキャノン掃射で、迎撃は完了した。

 ルブリスは!? レーダーに僚機のレーダー反応はあるが、とても弱い。

 ハサウェイは僚機のレーダー反応目掛け、一目散にキャプテンZを駆けさせる。

 

「セセリア、無事か……!?」

 

 モニターに映ったルブリスの姿に、ハサウェイは絶句した。

 左腕は肩からちぎれ飛び、左足も膝から先がない。

 頑丈なディバイダーの盾装甲部分が吹き飛び、内部構造が露出している。

 美しく塗装されていた全身もビームの余波で黒いまだらが出来ている。

 キャプテンZが軽傷で済んだ代償が、この無残な光景だった。

 

「オレをかばったせいで、こんな!」

「……だいじょび、まだ動くよ!」

 

 明るいセセリアの声で、秘匿音声が届いた。

 ハサウェイは安堵に大きく息を吐き出す。

 ルブリスが右手でぎくしゃくした動きでサムズアップしてみせる。

 

「ごめん、ハサウェイ。

 ちょっと死んだふりしてダメージコントロールする。

 なんとか飛んで、支援だけできるようするから……」

 

 ルブリスの動きのぎこちなさに、ハサウェイは奥歯を噛みしめた。

 確かにまだ動く。だがとても戦えるような状況には見えない。

 セセリアが戦闘不能、模擬戦の時とは逆だ。

 

「ロウジを、おねがい。ちょっとの間だけ」

「わかった、やってみせる!」

 

 仲間を助けられない。それがどれほど辛く悔しいか。

 明るい声ににじんだセセリアの無念を、ハサウェイは痛いほどよくわかる。

 自分の焦燥感を固い決意で圧し潰し、ハサウェイはダイバーギアの操縦桿を握りしめた。

 その決意に応えるように、遠い炸裂音がコクピットに響き渡る。

 

「ロウジ、ジェガン・D、参上!

 ただいまよりウルトラデストロイへ攻撃を開始する!」

 

 ロウジが来た! ルブリスにキャプテンZがサムズアップを返し、遮蔽物を飛び出す。

 モニターにジェガン・Dのダークブルーの機影が映る。

 各部に追加装甲とスラスター、両肩部にミサイルランチャーを増設したそのシルエットは、

 ガンダムUC冒頭で出てきたスタークジェガンをハサウェイに思い出させる。

 明らかにスタークジェガンと違うのは、ジェガン・Dの頭部だ。

 凸型のメインカメラ部分に、ジムスナイパー2型の狙撃用のバイザーが隠している。

 狙撃のためのものでないのは、手にした武器がハイパーバズーカであることから明らかだ。

 

「……ロウジ!

 こちらハサウェイ、挟撃して援護する!」

「了解! ハサウェイ、セセリアは!?」

 

 ロウジの声に不安が混じったのは、気のせいだろうか?

 弱気な自分とロウジを鼓舞するように、ハサウェイは声を大きく張り上げた。

 

「敵の右腕と引き換えにルブリスが大破した!

 セセリアはきっと何とか支援するために機体をダメージコントロールしてる!

 ……セセリアの分も、オレが2倍働く。任せろ、リーダー!」

「さんきゅーハサウェイ、頼もしい!」

 

 たとえ虚勢であっても、嬉しそうなロウジの声は救いだ。

 ハサウェイはブーストボタンを深く押し込み、同時にメインウェポンの交換を行う。

 キャプテンZがショットランサーを背負い、チャージも半ばのハイメガランチャーを右腕に抱えなおす。

 モニターに映るジェガン・Dの位置は、デストロイを挟んで向かって左手側だ。

 先に攻撃を始めたのはジェガン・Dの方だった。

 肩部のランチャーからミサイルを放ち、ジェガン・Dがミサイルの後ろに隠れるようにデストロイへ迫る。

 ウルトラデストロイがそのミサイルをビームで撃ち落とし、肩部と腹部から大量のミサイルを吐き出す。

 ジェガン・Dが空中横方向にローリングしながら手にするバズーカの散弾で迎撃しきる。

 激しいミサイルとビームの砲撃戦の向こうで、ウルトラデストロイが動きを止めた。

 テールスタビライザーががっちりと地面を噛みしめ、ウルトラデストロイキャノンの砲撃姿勢をとる。

 

「まずい!」

 

 ハサウェイは叫び、ブーストボタンから指を放す。

 スラスターを切って自由落下、ウルトラデストロイをロックオン。

 キャプテンZは即座に空中からハイメガランチャーを撃ち放つ。

 まだ距離は遠い、だがウルトラデストロイの背面斜めへ目掛け、ハイメガはまっすぐ伸びていく。

 ウルトラデストロイがテイルスタビライザーを引き抜き、身をよじる。

 斜めに構えた左腕部の盾からリフレクターのフィールドが発生し、逸れたハイメガがデストロイの肩部へ着弾する。

 リフレクター、弱体化してる! 手ごたえを感じ、ハサウェイは拳を握りしめた。

 

「ええとこなのに、邪魔せんといてんか!」

 

 オープン回線でエセリアが苛立たしげに叫び、ウルトラデストロイがキャプテンZへ半身を向き直らせる。

 複数のロックオンアラートがけたたましく鳴り響く。

 胸部のスーパースキュラが飛んでくる。遅れてミサイルの激しい発射音も響く。

 全身から一気に血の気が引く。遮蔽物の影に飛び込み、大慌てで手持ちをショットランサーへ持ち替える。

 遮蔽物の影目掛けて飛んでくる。ミサイルをマシンキャノンの弾幕で何とか迎撃しきる。

 圧力がヤバすぎる。懐に飛び込むどころじゃない!

 だが、こっちが気を引けば、その分ロウジが動ける。

 ジェガン・Dを示すレーダーの機影がデストロイへの距離を詰めるのが判る。

 浅く息を吸い込み、小隊内通信でロウジへ指示を飛ばす。

 

「ロウジ、肩のキャノンの威力と連射速度、めっちゃヤバい!

 絶対に撃たせちゃダメだ。尻尾が接地したら攻撃して妨害して!」

「おっけー!

 ハサウェイ、ナイス牽制」

 

 遮蔽物からそっと身を乗り出し、モニターでデストロイの機影を拡大する。

 よし、こちらを向いてない。ハサウェイは慎重に遮蔽物の影からキャプテンZを飛び出させた。

 ロウジの迎撃へ向き直ったウルトラデストロイの側面を眺め、ハイメガへと持ち替える。

 ロックオン完了の直後、ウルトラデストロイが完全にこちらに背を向けた。

 背面に対空の拡散ビーム砲?! 大慌てで自由落下するキャプテンZの頭上と横を合計6門のビームが通り過ぎていく。

 

「……オレは囮だ。

 ロウジを、デストロイの懐へ放り込む!」

 

 決意を込めて、ハサウェイは叫ぶ。

 今日はそれが、セセリアじゃなくオレの役目だ。

 ハサウェイは大きく深呼吸し、ウルトラデストロイを睨み据える。

 

 制限時間、残り480秒。

 

 バトルフィールドは時間が経過し、夕焼けが辺りを赤く染めていく。

 バトルは間もなく、折り返し時間を迎えようとしていた。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・実況音声と対戦相手との会話について

 

 ガンプラバトル中のコクピット視点の場面では、実況音声が一切描写されていない。

 これはもちろんトロンがサボっている訳ではもちろんなく、

 バトル中のプレイヤーには実況音声は聞こえないようになっているからである。

 これは、実況音声がバトル中のダイバーからは判らない情報を含むためである。

 対戦相手の弾切れや死んだふり、僚機の位置取りなど、トロンにはもちろん全てが判ってしまう。

 対戦相手の会話も、小隊内での通信は聞こえないが、通信の数だけは判る。

 エセリアと挑戦者の間で会話が行われているのは、オープン回線での全体通信である。

 うっかり通信を別チャンネルに誤爆した時はミノフスキー粒子のせいで誤魔化そう!

 

 

 

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