リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回は8/18(日)19時だと思われます



ミッション3-11 ただ楽しいだけのバトルをしよう

 

 経験は財産であり資産なのだそうだ。

 豊富な経験は、立ち塞がる障害へ最適な対応策を導いてくれる。

 けれど時には、豊富な経験がむしろ視野を狭めてしまうこともある。

 過去の経験に目の前の事象をあてはめ、同じように対処すればいいと思い込む。

 なんて驕りだ。今振り返れば、そう思う。

 

 

 

 残り時間、360秒

 

 あと6分、余裕やな。残り時間を確認し、エセリアは舌なめずりした。

 ウルトラデストロイの蹂躙形態、デスレックスにはまだ目立った損傷はない。

 時間切れに持ち込めば挑戦者側が敗北となる。これならよゆー逃げ切れる。

 冷徹に計算しながら、エセリアはデスレックスの多数の武装制御に使うキーボードのボタンをリズミカルに押し込む。

 

「四連速射砲、喰らえやっ!」

 

 近接距離で間合いをうかがうダークブルーのジェガン・D目掛け、

 胸のスーパースキュラと左腕の四連イーゲルシュテルンが猛烈な射撃を浴びせる。

 猛烈なジェガン・Dが最小限の横ステップを小刻みに繰り返し、先ほどより近い遮蔽へと飛び込む。

 背面サブモニターに、遮蔽の影から飛び出すキャプテンZが映る。

 デスレックスの左腕をぐいと後ろに回し、四連イーゲルシュテルンと背面ビーム砲で牽制の射撃を撃ち込んでやる。

 キャプテンZが大きな横ステップで射撃を回避し、さらに奥の遮蔽へと逃げ込んだ。

 

「……やっぱ、一番動きが良いのはロウジくんやな」

 

 射撃の対処を見やり、エセリアは挑戦者の危険度に序列をつけた。

 ジェガン・Dの射撃への避け方は必要最小限で、的確だ。

 キャプテンZは機動力こそ勝るが、回避の動きにだいぶ無駄がある。

 白兵を狙う動きを見る限り、この2機に陽電子リフレクターを抜ける危険な遠距離火力はないようだ。

 白兵武装、体当たり、自爆。危険な白兵攻撃各種も、こちらの射撃で十分に牽制可能だ。

 飛び込んできたところで、デスレックスの白兵能力なら互角に殴りあえる。

 挑戦者側で一番動きのいいジェガン・Dに目を配り、警戒する。それでチェックメイトだ。

 

「ジブンら正直ようやったで、デミダイバーズ諸君」

 

 通信回線を開かず独り言、エセリアはもう勝ったつもりでバトルを振り返る。

 会敵してからの初手、ちょっとやらかした感があった。

 ウルトラデストロイキャノンを的確に回避され、右腕シュトゥルムファウストと言う切り札を早々に切った。

 ルブリス・ジェミニXを戦闘不能に追い込んだものの、

 引き換えにシュトゥルムファウストを破壊され、陽電子リフレクターの一基を失ってしまった。

 そのせいでキャプテンZのハイメガランチャーへの対処にだいぶん苦慮したものだ。

 

「ウルトラデストロイキャノンも、レックスフォームも見せた。

 ウチにきっちり切り札出させてるんやから、大したもんやで」

 

 けれど、そのハイメガランチャーはもうない、先ほど確実に壊しておいた。

 背中を向けて攻撃を誘っておいて、テイルスタビライザーの一閃。あの奇襲は我ながらなかなかだった。

 より脅威度の高い武装を優先して潰すことが出来たのはエセリアの狙い通りだ。

 距離を取ってハイメガで牽制され続けたら、だいぶ面倒だったろう。

 ただ、突貫してきたキャプテンZの狙いも十分に判る。

 おそらくは、ハイメガの銃剣突撃からのゼロ距離射撃を狙っていた。

 成功していれば、デスレックスが一撃大破していた可能性も十分にある。

 

「さぁ、ハイメガを失ったハサウェイ君をいなしつつ、

 ロウジ君と白兵で切り結べば仕事は完了や!」

 

 後はニュービー達に見せ場を作りつつ時間切れまで粘れば、良い感じに互角が演出できる。

 勝利の道筋は見えた。プロとして踏んできた場数がエセリアにそう言っている。

 そして同時に、バトルに沸き立っていた心が、急速に冷えていく。

 ……結果の見えた消化試合、つまらへん。

 悪い癖だ。これは大事なプロとしての仕事のはずだろう。

 自分の楽しみより、皆を楽しませなければ。

 自問自答の声がエセリアの心でぐちぐちと喧嘩を始める。

 

「エセリアさん!」

 

 ロウジの溌溂とした声が、エセリアの意識をバトルへ引き戻した。

 一瞬我を忘れていた。慌ててエセリアはモニターとレーダーへ注意を引き戻す。

 遮蔽物のビルの屋上、ダークブルーのジェガン・Dが腕組みして仁王立ちしていた。

 後方サブモニターに、慎重にバックステップを繰り返し、後退するキャプテンZの機影が映る。

 

「デスレックス、本当に凄いですね!

 かっこよさ、耐久性、バトルの意外性、どれも一級品です!」

「そっちこそ、自慢するだけの事あるで。

 量産機とは思えへんポテンシャルや、ジェガン・D、やるやん!」

 

 オープン回線で笑顔を浮かべるロウジに、エセリアも笑顔で言葉を投げ返した。

 ……すまんな、ロウジくん。バトルの相手は自分自身やのうて、ジブンらやったな。

 リスペクトの言葉をかけながら、エセリアは静かに反省する。

 距離をとったキャプテンΖがウェイブライダーへと変形し、一気に後退した。

 後退したフリして奇襲するようなフェイントではない、レーダー反応も間違いなく遠ざかっている。

 僚機を下げたやと!? 歴戦のプロとしての経験がエセリアに全力で警鐘を鳴らす。

 間違いない、デミダイバーズは、何か仕掛けてくる気だ。

 たとえば、味方を巻き添えにするような真似を!

 

「あなたはすごい。プロはすごい!

 ……でも、僕達は。

 デミダイバーズは、負けません!」

 

 ロウジの宣言と共に、ジェガン・Dが激しい蒸気を吹き出した。

 同時に、脚部、肩部、胸部につけられていた灰色の増加装甲が追加装甲と一緒に排除され、地面へ落ちる。

 ダークブルーのガンプラボディから、ひときわ大きな駆動音が聞こえた。

 

「EXモード!?」

 

 時間制限付き、デメリットを背負い機体の能力を大幅に上昇させる、文字通りの切り札だ。

 つまらない消化試合なんて、とんだ甘い見積もりや! エセリアは少し前の自分を叱咤する。

 増加装甲が地面に落ちたわずかに後、ジェガン・Dの頭部、メインセンサーを覆っていた狙撃型バイザーが内側から弾け飛ぶ。

 

「D(ディスティニー)モード!」

『EXAM system stand by』

 

 ロウジの叫びと、甲高いシステム音声の叫びが重なり合う。

 ジェガン・Dの狙撃型バイザーの下から、ジムタイプのゴーグルアイが覗く。

 ゴーグルアイは、狂気をはらんだ悪鬼のように真っ赤な輝きで満ちていた。

 赤い眼をしたジェガン・Dがビルを蹴り、飛ぶ。

 ふわりと、まるで重力を無視したような動きで着地し、足がさらに鋭く地面を蹴りつける。

 

「”青い死神”ぃ!?」

 

 ジェガン・Dってのは、ジェガン・ディスティニーやったんか!

 エセリアは操縦桿をがっしり握り直した。

 赤い眼のジェガン・Dがまるで忍者のようにデスレックス目掛けて疾駆する。

 なんて速さや! 先ほどまでの動きとの落差で、残像が見えるように錯覚さえした。

 軽い衝撃と共に、激しいダメージアラートが点灯する。

 ジェガン・Dの軽く振り抜いたビームダガーが、胸のスーパースキュラの砲門を軽く切り裂いていった。

 

「いくら、速くたってなぁ!」

 

 右だ! 右手のクローアームがダークブルーの機影を薙ぎ払う。

 その瞬間、ジェガン・Dが正面モニターから消えた。

 右足外側装甲にダメージアラート!

 そして、背面サブモニターに赤い目の悪鬼が映る。

 左膝裏関節部にダメージアラート!

 激しい警告音と共にコクピットが大きく揺れる。

 ジェガン・Dが凄まじい勢いの横ステップでデスレックスの側面から背面へ回り込み、

 駆け抜け様に右足をダガーで引っかき、左膝裏の非装甲部位を切り裂いていったのだ。

 傷は浅く、全体耐久性へのダメージとしては多くない、だが厄介だ。

 

「小癪な……デバフ狙いの部位攻撃かっ」

 

 叫ぶ間にも、経験がエセリアに有効な武装を咄嗟に選択させた。 

 敵機は背面、尻尾の間合いより内側だ。背面の対空拡散ビームを範囲優先でぶちまける。

 ダークブルーの残像が短いステップを刻み、距離をとって離れる。

 操縦桿を握り締め、短く素早く切り返す。

 デスレックスが背面へ振り返り、左腕の四連イーゲルシュテルンを構える。

 

「逃すかぁ!」

 

 発射の瞬間、巨体を支える右足膝が悲鳴を上げた。

 がくりと巨体が傾き、イーゲルシュテルンの曳光弾が逸れ、ビルの窓ガラスを無駄に粉砕する。

 

「ちぃ、機動性を殺された!

 誰の入れ知恵だか知らんが、ええ判断しとる……」

 

 システムからのダメージ報告がサブモニターを埋め尽くす。エセリアはロウジの判断に舌を巻いた。

 

「かくれんぼしとる余裕なんてやらんで!」

 

 レーダーの位置を頼りに、ジェガン・Dが盾にするビル群へテイルスタビライザーを叩きつける。

 建造物が根本から吹き飛び、瓦礫が舞い上がる。

 

「アカン、こんなもんか!

 やっぱ格闘性能もだいぶ落ちとる」

 

 機体の旋回速度が低下している。尻尾の有効性もこれでは半減だ。

 舞い上がる瓦礫の煙の中へ、エセリアはデスレックスをためらわずに踏み込ませる。

 瓦礫のカーテンの向こう、ダークブルーの機影が見えた。

 

「捕まえたで!」

 

 傷ついた脚部でデスレックスが突進する。

 ダークブルーの機影の進行方向を塞ぐように右クローアームを叩きつける。

 飛んで避けたジェガン・Dの脚部目掛け、デスレックスの牙を繰り出す。

 とった! エセリアが快哉を叫んだ瞬間、ジェガン・Dが足を畳み、曲芸のように身をひねる。

 ジェガン・Dのマニピュレーターがデスレックスの頭部を抑え、手首を起点にぐるりと飛び越えた。

 

「なんやとぉ!?」

 

 左側へ逃げたジェガン・Dがビームの刃を振り抜いた。

 頭部メインカメラ横にダメージアラート!

 左側サブモニターに映るダークブルーの機影目掛けて繰り出した左クローアームが虚しく宙を切る。

 左腕肘上にダメージアラート!

 回避と同時にビームダガーで装甲を浅く切り裂き、ジェガン・Dが通り魔のように逃げ去っていく。

 

「EXAMシステムで上昇した機動力をここまで使いこなすんか……!

 回避モーションと同時にビームダガーで的確に刻んできおるやん」

 

 アレは容易には捕まえられまい。エセリアは歯噛みしながらデスレックスを背後へ旋回させる。

 振り返った瞬間、建造物の屋上を蹴ってじぐざぐにこちらへ迫るダークブルーの機影が見えた。

 

「鞍馬山の天狗さんかいな!」

 

 まるで牛若丸の八艘飛びのようだ。あまりに身軽な動きにエセリアは叫ぶ。

 牽制に放った四連イーゲルシュテルンを身をひねった避けられ、着地の隙もビームシールドできちんと防がれる。

 あっという間にジェガン・Dが白兵距離、危険な間合いへ飛び込む。

 

「ようこそ、おいでませ!」

 

 良く引き付けて、今度は左のクローアームを繰り出す。

 ジェガン・Dが上半身を大きく逸らし、クローアームをすかす。

 同時にダメージアラートが2つ、左右のビームダガーが両側から左手を裂いていった。

 右のクローアームを振り下ろすが、そのままジェガン・Dが後ろにバク転してそれを避ける。

 

「……魅せプレイかっ!」

 

 取られた距離を追う足がない。左手のイーゲルシュテルンで嫌がらせの弾幕を張るが、余裕をもって避けられる。

 ジェガン・DにEXAMを使われたとは言え、エセリアとデスレックスは完全に手玉に取られていた。

 残り時間、270秒。

 まだ……60秒程度しか経ってへん! モニター上部の制限時間に目を向け、エセリアは思わず毒づいていた。

 敵機接近アラート。時間を気にしたせいで、一瞬ジェガン・Dを見失ってしまっていた。

 どこだ……上か! 振り仰いだモニターに、夜空を背負うジェガン・Dが映る。

 赤い眼の悪鬼が、ダークブルーの残影を残し、デスレックス目掛けて上空から飛び込んでくる。

 バイタルパートを守れ! 左手の大型手甲をかざし、コクピットとジェネレータを守る。

 ダメージアラートが小刻みに響き渡る。また、左腕だと!?

 ジェガン・Dの着地を狙って繰り出した右クローアームを繰り出す。

 ジェガン・Dがカウンターも狙わず大きく跳び退り、再び距離を取って逃げ去る。

 叫びを口に出す余裕もなく、エセリアは短く息を吐き出した。

 

『左腕裂傷、極大! 左腕白兵、左腕火器共に使用不能』

 

 コンディション・レッド。システム音声が冷徹に告げる。

 ビームダガーの度重なる斬撃が、左腕部を半ば断ち切ったのだ。

 装甲の切れ端でつながっただけの左腕がだらりと垂れ下がる。もう、動かせない。

 左腕のクローアームとイーゲルシュテルンが失われ、デスレックスの攻撃力は大幅に低下した。

 

「敵の狙い見抜けへんたぁ、ウチもヤキが回ったな……」

 

 60秒近くをかけて、左腕を使用不能にされた。相手の戦術は見事だ。それ以上に自分がふがいない。

 敵機をレーダーと目視で追いながら、エセリアはにじんだ汗を静かに拭った。

 機動力を殺され、左腕と武器は失った。エセリアは冷静に分析する。

 

「……それでも、有利なのはまだこっちの方や」

 

 ジェガン・Dのビームダガーによる傷は鋭いが、浅い。

 浅く切りつけるだけで大破させられるほど、エセリアのガンプラはやわじゃないのだ。

 コクピットやジェネレータなどのバイタルパートにクリティカルしない限り、デスレックスは落ちない。

 攻撃を控えて守りを固めれば、時間切れまで確実に逃げ切れる。

 

「……いや、塩すぎやろそれ」

 

 自分の皮算用に、思わずエセリアはコクピットで独白した。

 そんな消極的な判定勝ち狙い、ホントにプロのすることか?

 舐めていい相手やない。プロの意地にかけてゼッタイに負けは許されへんやろ!

 相反する意見がエセリアの胸中でせめぎあう。

 

「エセリアさん」

 

 その時、オープン回線でロウジの声が響いた。

 まさか、煽りか? 疑った自分を、エセリアは即座に恥じることとなる。

 

「ようやく……左腕一本いただきました。

 あんな、複雑な……変型機構なのに、固すぎです!

 やっぱり……デスレックス、すごい、です」

 

 呼吸も荒く、息も絶え絶え、それでもリスペクトの言葉を忘れない。

 通信ウィンドウに映るロウジの笑顔は、顔中汗びっしょり、疲労が色濃かった。

 EXAMなんてじゃじゃ馬を操り、精密な高機動戦闘を繰行い、被弾と紙一重のカウンターを幾度も繰り返すのだ。

 疲労するも当然だ。エセリアは無言で拳を固く握りしめた。

 

 キミはそこまで必死にやっとるんやな。

 キミはそこまでガンプラに真摯なんやな。

 

「なぁエセリア。ジブン、恥ずかしならんか?」

 

 エセリアはへらへらと作り笑いを浮かべ、自問自答した。

 ガンプラバトル始めたばっかのニュービーが、必死に、真摯にバトルに向き合っている。

 ならば、プロが取るべき態度は時間稼ぎの判定勝ち狙いなどではないはずだ。

 

「トロンちゃん、ごめん。

 ムービーシーンの追加申請や。一分でええ」

『……ええ!?

 ぶっつけでムービーシーン演出やるつもり?』

「こっちでやるからカメラ権限ちょうだい」

『……んもぉ!

 了解、デミダイバーズに了承を取ります!』

 

 トロンに真剣な表情で要請を行い、エセリアは手元のキーボードを猛烈な勢いで叩き始めた。

 遮蔽物の影に隠れたレーダーの機影は動かない。おそらくロウジが必死で息を整えているのだろう。

 

「左腕パーツパージ!

 胸部前面装甲排除、オートジャイロでバランス調整開始」

 

 もはや重石にしかならない左腕を排除し、胸部の覆う増加装甲をパージする。

 左右のバランス調整はシステムのオートジャイロに任せ、各部の機能をチェック。

 軽量化による機動性の増加、装甲を解放して吸気口を増やし、放熱を強化。

 これなら限定的にだが、機動性は100%に近いものを取り戻せるはずだ。

 ちょうど作業を終えた辺りで、システム音声がムービーシーンの再突入を告げた。

 

『Movie scene restart』

『大型機の提案と挑戦者の受諾により、ムービーシーンを開始します。

 時間は1分間、制限時間カウントはその間、残り258秒で停止されます!』

 

 ありがとな、トロンちゃん。

 迅速な対応をしてくれたトロンへ礼を述べ、エセリアはロウジへとオープン回線で言葉を投げかける。

 

「なぁ、ロウジくん」

『……喋らんでええで。ゆっくり息を整えとき』

 

 言葉で問いかけると同時に、エキシビジョンマッチの記録に残らないよう、エセリアはロウジへ秘匿通信を入れた。

 別にこれは対戦相手に不公正に情けをかけた訳ではない。ほんの少し、礼をしてやりたいだけだ。

 いつから自分はこんな大切な気持ちを忘れてしまっていたのだろう。エセリアは自戒した。

 

「楽しんどるか、ガンプラバトル?」

「……はい、とっても」

 

 深呼吸を繰り返しながら、それでもロウジがにっこり笑顔で言って来る。

 まったくもって、エセリアが見習わなくてはならない態度だ。

 楽しそうにバトルをできずに、観戦者を楽しませられるものか!

 バトルに負けるよりも、楽しむ気持ちで負けていいはずがない。

 エセリアは静かにうなずき、ロウジへうさんくさげな笑顔を作ってみせた。

 手元のキーボードでトロンから権限を借りたメインカメラの操作を行い、現在のデスレックスをモニターで大写しにする。

 

「ええ返事や、キミ達はよう頑張っとる。

 そこで! やさしいやさしいエセリアちゃんは、そんなロウジくん達にチャンスをあげよう思うねん」

 

 機能最優先のデスレックス、なかなかに我ながら悲惨そうな見た目だ。

 動かない左腕を切り落とし、装甲を排除した胸部はコクピットが無防備に見える。

 解放されたコクピット部分から、凄まじい熱気が煙となって吐き出される。

 

「見ての通り、デスレックスモードのコクピットはここやない。

 けど、この排熱を見て判る通り、デスレックスのジェネレーターはこの奥や。

 ジェガン・Dのビームダガーがここに突き刺されば、見事ジブンらデミダイバーズの逆転勝利っちゅー訳やな!」

 

 エセリアは弱点をさらし、声高に宣言する。

 これは決してなめプではない。勝利のための布石だ。

 

「なんで、そんな真似を……?」

「ロウジ、乗っちゃダメ!

 ぜぇったいぜぇったい罠だから!」

 

 息を整えながら、ロウジが戸惑いを発する。

 たまらずセセリアが通信に割り込み、ロウジを制止した。

 エセリアはにやりと笑い、挑戦者達へ声高に宣言する。

 

「ご名答! あたりまえやでセセリアちゃん。

 真正面からキミらをぶっ潰すためにウチはこうしてるんや」

 

 装甲を排除し、排熱を強化したのも、ジェガン・Dの速度に対応するためだ。

 直撃すれば大破となるバイタルパートのジェネレーターの位置をさらしたのも、狙いあってのことだ。

 

「全力で挑んでくる相手を真正面からカッコよくボコして勝つ。

 それがウチの掲げるガンプラ心形流や!」

 

 高らかに言い放ち、エセリアは自分を鼓舞するように呟いた。

 ガンプラ心形流、心のままにガンプラと向き合う造形術だ。

 ガンプラを、ガンプラバトルを楽しむことのプロやぞ。

 GBN始めたばっかのニュービーに“楽しむ”気持ちで負けられるものか。

 

『ムービーシーン、後30秒で終了です』

 

「セセリア……」

「……おっけー、やんなさい。

 そんで、勝ちんしゃい!」

「今はキミに任せる、ロウジ。

 後のことはオレらに任せて全力で行け!」

 

 トロンの時刻カウントに遅れて、ロウジが決意の眼差しで言葉を発する。

 セセリアとハサウェイがロウジの背中を押す。

 ロウジがふわりと笑い、頷く。エセリアは口元に小さく笑みを刻み、小声で呟いた。

 

「……孤軍奮闘してても、キミは一人じゃないんやな」

 

 EXAM使用中は、大幅な能力強化と引き換えに、味方さえ敵機体と認識し、攻撃対象にしてしまう。

 どこかに潜んでいるセセリアだけでなく、ハサウェイが前に出てこないのは同士討ちを避けるためだ。

 今、エセリアの眼前の敵はロウジとジェガン・D単機だ。だが、けしてロウジ一人ではない。

 

『ムービーシーン残り10秒、カウントを開始します』

『さんきゅーな、トロンちゃん。今度ランチでもおごらせてや』

 

 秘匿通信でトロンへ礼を述べ、エセリアは操縦桿を握り直す。

 勝負や、デミダイバーズ! エセリアは心中で気勢を上げた。

 必ずセセリアとハサウェイも、歯がゆさに耐えながら勝機をうかがっているはずだ。

 

「エセリアさん。

 D(ディスティニー)モードも残り120秒。

 それでも、勝つのは……僕達デミダイバーズです!」

 

 ロウジが、静かに宣言する。

 

「120秒やて?

 60秒で仕留めたる。

 かかってきぃや、デミダイバーズ!」

 

 エセリアは、傲然と宣言する。

 

『Movie scene finished』

 

 システム音声がバトルの再開を告げる。

 オープン回線の通信を切り、エセリアは楽しげに笑った。

 

「おおきになぁ、ロウジくん。

 初心っちゅーやつを思い出させてくれて!

 3機ともぶっ壊してかっこよく完全勝利したる。

 ガンプラ心形流の師範、マジにさせた代償は甘ないで!」

 

 残り時間、250秒。

 手負いの獣と赤い眼の悪鬼が激突する。

 勝利の天秤がいずれに傾くか、それは間もなく判ることだろう。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・EXモード

 

 制限時間付きで機体能力を上昇させる特殊能力の総称。

 トランザム、スーパーモード、EXAMなどがある。

 特定の機体や、特定の装備などを付けた上でガンプラの完成度が高くなるとオプションとして使用可能となる。

 制限時間が切れるなどでEXモードが終わると、反動で機体能力が著しく低下する。

 機動力が大幅に上昇し、それに伴い白兵能力が大幅に上昇するが、

 急な操作感覚の変化により、ダイバーには高度で精密なガンプラ操作と集中力が必要とされる。

 

 ジェガン・Dは赤いゴーグル型カメラを狙撃バイザーで隠し、狙撃バイザーを排除する事でEXAM発動のキーにしている。

 発動している能力はEXAMと同様だが、エニルとロウジはこの能力をD(ディスティニー)モードと呼んでいる。

 対戦するエセリア側は正式名称を知らず、システムによるEXAM起動音声しか判らないためEXモードと総称している。

 デスティニーモードと呼んじゃうとすごい勢いで分身し始めるので要注意だ!

 

 

 

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