リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
国勢調査調べ
将来なりたい職業、小学生 男子の部
プロのガンプラファイター 2位
プロのガンプラビルダー 5位
ガンプラ関連の仕事 28位
プロは、多くの人々があこがれる存在だ。
だから、魅せてやらねばならない。
卓越した技術と、ガンプラを全力で楽しむ姿勢を。
実に、感慨深い。フォースネストにここまで人間が集まったのは久しぶりだ。
人でごった返す観戦ルームを眺め、ロンメルは一人頷いた。
ムービーシーンに入ったバトルの間、観戦者達が口々に感想を隣の仲間と語り合っている。
「左手を捨て、弱点部位を見せつけた。
これは大型機にいったいどんなメリットが……?」
「EXAMの時間切れを狙わず、短期決戦を狙うための誘いですね。
おそらく、プロとして魅せプレイの意識もあります」
「なるほど確かに、機動力を奪われた大型機ではEXAMを捕まえるのは至難の業だ」
バトル開始直後、第七士官学校のメンバーとクランプだけだった。
それが第七機甲師団メンバーまで集まり、ついには立ち見まで出始めた。
やはり、親しい仲間と観戦するのは別格なのだろう。
「では、挑戦者側は挑発に乗るべきじゃなかったんじゃないのか?」
「いいえ、罠ではあるが、同時にチャンスです。
挑戦者側の疲労も見たでしょう?
同じ真似を繰り返せば機体より先に集中力の限界が来ます」
熱く語り合う観戦者達を眺め、ロンメルは虚空へ静かにつぶやいた。
「……二代目メイジン・カワグチ。
あなたが愛したガンプラバトルは、まだ続いています。
あなたが望んだものとは、少し違っているかもしれませんが」
偉大な先人をしのび、ロンメルはしばし感慨にふける。
ムービーシーンの終了を告げるシステム音声が、ロンメルを現実へと引き戻した。
『Movie scene restart』
『さぁ、いよいよバトル再開!
EXモードを発動させた挑戦者のジェガン・Dが隙をうかがう!
対して、弱点をさらし、軽量化したデスレックスはどう迎え撃つのか!』
「さぁ、諸君。モニターに注目だ。
ハイレベルの駆け引きとアクションを見逃すな!」
トロンの実況に、ロンメルは手を叩いて注目を集める。
お行儀よくしんと静まり返った観戦ルームで、ロンメルもまたモニターへ食い入るように見入る。
きっとこの戦いを見て、ガンプラを始める者もいるだろう。
誰かに憧れ、背を追い、楽しい遊びの輪は脈々と続いていく。
かつては自分もそうだった。懐かしさに目を細めながら、ロンメルは眼前のバトルを見守るのだった。
焦りはもうない。心はいつになく澄んでいる。
愛機デスレックスのコクピットで、エセリアは静かに吼えた。
「さぁ、いつでも来ぃや。
デミダイバーズ!」
残り時間、240秒。
正面モニターにはジェガン・Dが隠れる遮蔽物のビルが映っている。
ミサイルは全て投棄し、スーパースキュラも潰された。左腕のイーゲルシュテルンももうない。
だが、焦る必要などどこにもない。ジェガン・Dは来る、この胸部ジェネレーターを狙うために。
レーダーの機影が動く。やはり真正面、最短距離だった。
デスレックスよりも高い遮蔽物を軽々と飛び越え、ダークブルーの機影がモニターへ降ってくる。
膝を曲げて軽やかに着地し、狂気じみた赤に輝くジェガン・Dのゴーグルカメラが、低い姿勢からデスレックスを睨む。
「勝負だ、デス・レックス!」
ロウジの叫びと共に、ジェガン・Dが地を蹴った。
ダークブルーの残影と共に地を駆け、赤い眼の悪鬼が最短距離でデスレックスへ迫る。
「あくまで真正面かい!」
エセリアは賞賛と驚きがないまぜになった叫びをあげる。
確かにジェガン・Dが疾駆する速度、確かにすさまじい。
「ただ速いだけで通じるほど、プロは甘ないで!」
舌なめずりするように、エセリアはキーボードのボタンを押し込む。
肘から先を失ったデスレックスの左腕が持ち上がり、ジェガン・Dを向く。
小さな炸裂音と共に、とっておきの隠し武器がジェガン・D目掛けて飛び出す。
ブラックナイトスコード愛用のニードルガンだ。弾数も威力も控えめだが、十分な威力!
虚をつかれたか、ジェガン・Dは横ステップで飛び退って回避する。
「もろたで!」
その瞬間を狙いすまし、エセリアはデスレックスを突進させた。
長い脚で地面を抉るように蹴りつけ、漆黒の巨体がジェガン・Dへ迫る。
飛び退るジェガン・Dを迫るデスレックスが捉えた。
右手のクローアームが叩きつけるようにジェガン・Dを襲う。
その瞬間、ジェガン・Dが膨れ上がり、爆発した。 いや、違う。
「ダミー・バルーン!」
ジェガン・Dがダミーバルーンを繰り出し、攻撃を避けたのだ。
チャフとダミーバルーンの残骸が舞い散り、デスレックスの視界が奪われる。
互いに視界とレーダーが封じられ、機体は共に至近距離。
殴れば当たる、互いに必殺の距離だ。勝負は敵の手の読みあいで決まる!
上か、左右か? それとも背後? いいや、違う。
「真正面!」
エセリアが迷ったのはほんの一瞬。だがその一瞬を稼がれた。
ダミーバルーンの残骸をビームの刃が切り裂き、赤い悪鬼が飛び出した。
真正面、最短距離、胸部に空いた排熱口目掛け、まったく無駄のない仕草でビームダガーが突きこまれる。
激しい衝突音が響き、コクピットが真っ赤なダメージアラートで埋め尽くされる。
身体ごと全身でぶつかるようなジェガン・Dの全身全霊の突きが、決まった。
ジェネレーターを守るように差し出された、デスレックスの右クローアームに。
ビームダガーの刃が右クローアームへ深々と突き刺さり、鋭さと短さ故に、ジェネレータへは届かない。
ジェガン・Dが身をひねりもう1つのビームダガーを突きこむ。
だが、デスレックスの牙がジェガン・Dの頭部へ食らいつく方が早かった。
「頭部を失えば、EXAMは使えへん!」
鈍い破壊音と共に、鋭い牙がジェガン・Dの頭部をもぎとった。
突きこまれたビームダガーが狙いをそれ、デスレックスの右腕に突き刺さった。
『EAXM システムロスト』
『右腕損傷甚大、右クローアーム使用不可!』
だが、そこまでだ。異音を発し、頭部を失ったジェガン・Dがあおむけに倒れていく。
大破からの爆発を警戒し、ゆっくりとデスレックスを下がらせる。
爆発はなかった。代わりに激しい排熱音と熱気がダークブルーの全身から吹き出す。
システムを制御する頭部を失い、EXAMが強制終了だ。残り時間、まともに動けはするまい。
「……紙一重、やったな」
ぞっとしたように口元をぬぐい、エセリアは荒い呼吸を繰り返した。
それでも、エセリアは賭けに勝った。弱点をさらけだし、敵の攻撃を誘導する。
白兵で敵が狙う箇所を限定できれば、鈍った反射速度でも負けやしない。
それでも、右腕を持っていかれたのはロウジとジェガン・Dを褒めるしかない。
「念のため、トドメ刺しとくか……?」
ジェガン・Dへ尻尾を叩きつけようと構えながら、周囲の伏兵を目視とレーダーで警戒する。
その瞬間、夜空を切り裂き、満月から一筋の青い光が降ってきた。
「月は、出ているか?」
「……は!?」
オープン回線で、高らかにセセリアが叫んだ。
エセリアは愕然としながら、背面サブモニターで青い光の降り注ぐ先を見やる。
レーダー反応、はるかに遠い。それでも距離など関係ない。
慌てて背後を振り返り、真正面に青い光を捉える。
夜の闇だろうと、デスレックスのメインカメラではっきり目視出来る。
天頂近い満月が、まずエセリアの目を引いた。
「月は出ているかと、聞いている!」
街はずれの山の上、天文台の建物に機体を半ば埋め込むように、半壊したルブリス・ジェミニXの姿があった。
手にしたディバイダーを、まるで和弓を放つように縦に構え、狙撃姿勢をとっている。
青い光は、月から降り注ぐマイクロウェーブの照準用レーザーだ。
レーザーを受けたルブリス・ジェミニの胸部が淡く輝き、背面に背負うガンビットランチャーが展開する。
「マイクロウェーブ……エネルギー変換開始!」
「サテライトシステムの、リフレクターかっ!」
エセリアは思わず叫んでいた。ガンビットランチャーが展開し、黄金色に輝くパネルが現れる。
この距離でも見落とすはずがない、ルブリス・ジェミニXが黄金色に光り輝くXの文字を背負っていた。
機動新世紀ガンダムXを代表する決戦兵器、サテライトキャノンがこちらに狙いを定めている。
「……次は、ボク達と勝負だ、デスレックス!」
オープン回線に顔を出したセセリアが、こちらを真正面に見据えて言い放ってきた。
デスレックスのコックピットに、敵機からロックオンされたことを示すアラートが甲高く響き渡る。
「ロウジくんが足と遠距離火器を潰し、執拗に左腕を狙い、陽電子リフレクターを奪う。
そして、エースが奮戦する間に、大破した機体を調整し、決戦兵器の砲撃準備を進めていたんやな……!?」
背筋がぞくりと震える。エセリアは口元に笑みを浮かべ、セセリアをたたえる。
「そう、ロウジがつないだ勝利への道だ!
両腕の陽電子リフレクターを失った今、いくらプロが作ったガンプラだって、
サテライトキャノンを受けきれるような防御力は残ってないでしょ!」
セセリアに勝ち誇る様子はない。むしろ何か見落としはないかと必死に頭を巡らせているようだった。
自分達の戦力を事前に分析し、勝ち筋を幾つも用意してきたに違いない。
「冷静な分析やな、セセリアちゃん。
確かに、防御力では受けきれへん。
ハイメガ以上の砲撃を隠し玉に用意してるとは、とんだ誤算やったわ」
何回リスペクトの言葉を投げただろう。どれも正直な気持ちだ。
エセリアは操縦桿を放り出し、エセリアは凄まじい勢いでキーボードを叩く。
バトルの展開によっては封印しておくつもりだった機能を、全て解放しなければならないようだ。
「なら、こっちの最高火力で対処したる!」
背後で動かない瀕死のジェガン・Dは後回しだ。ここからは時間との勝負!
正面モニターで超長距離のルブリス・ジェミニXを真正面に捉え、尾部テイルスタビライザーのスパイクが次々と地面へ打ち込む。
「テイルスタビライザー固定、砲撃姿勢よし!
放熱ファンユニット全開!
増設リフレクター展開よし!
プラフスキー粒子吸入開始!」
背面に備えた放熱ファンが全開で回り出し、胸部放熱口が勢いよく蒸気を吐き出す轟音がコクピットに響く。
凄まじい勢いでエネルギーチャージ開始のカウントがモニターを流れていく。
同時に、背面に増設した四つの突起物が展開し、黄金色のリフレクターとなる。
デスレックスの背負うXの輝きを見て、セセリアが叫んだ。
「……そっちも、まさかサテライトシステム!?」
「サテライトシステムMや。
デスレックスの巨体を粒子加速器とし、決戦兵器を放つ!
デスレックスの正真正銘、奥の手や!」
ワザを借りたで、兄弟子。にやりと笑い、エセリアはセセリアの言葉を肯定する。
バトルフィールドに満ちるプラフスキー粒子を吸収し、エネルギー変換して決戦兵器を放つ。
月が出ずとも使用出来る、ガンプラ心形流に伝わるサテライトシステムの独自改良型だ。
「最後の一勝負といこか、デミダイバーズ!」
砲撃モードに入ったモニターが画像を拡大し、超遠距離のルブリス・ジェミニXが大きく映し出される。
凄まじいエネルギーがデスレックスの全身を駆け巡り、頭部口腔内に設置された砲身へ集まってゆく。
激しい帯電の音と共に、チャージ時間のカウントが刻々と流れる。
ロックオンカーソルを確認しながら、エセリアは高らかに叫んだ。
「荷電粒子砲、発射よぉーい!」
後はチャージ完了次第、トリガーを引き絞る。
カウントを見つめながら、エセリアは静かにその時を待つのだった。
「いったい切り札、奥の手、幾つあるってんだ。
これが……プロの本気!」
路地裏に身を潜めたキャプテンΖのコクピットで、ハサウェイは呟き、身を震わせる。
強いのはわかりきっていた。けれど、予想を遥かに超えている。
シュトゥルムファウストと引き換えにルブリスが痛打を受け、背面からの攻撃を尻尾で迎撃され、キャプテンΖはハイメガと右手首を失った。
EXAMを解放したロウジのジェガン・Dさえ、攻撃を誘い込まれて頭部にカウンターを喰らい、ほぼ戦闘不能だ。
「オレ達は今、本気のプロとやり合ってるんだ……!」
歓喜が、ハサウェイの身体を震わせた。
GBNの、プロのガンプラビルダー達、頂点の世界を垣間見れた。
その実感が、たまらなくハサウェイは嬉しかった。
「やり合って、勝つんだ。
そうでしょ、ハサウェイ!」
「そうだったな、セセリア」
小隊内通信で、エネルギーチャージ中のセセリアから激励の声が飛んでくる。
ハサウェイは緊張でにじんだ汗をぬぐい、操縦桿をにぎり直した。
大型機のレーダーに映らないようスラスターを使わず、キャプテンΖが低速静音で物陰を小走りに移動する。
「セセリア、こっちからじゃ死角だ。
ロウジのジェガン・D、状況は?」
「デスレックスの付近に頭部全損で転倒中!
システムのオーバーロードとメインカメラ破損だよ。
今、教えた通りにリカバリーかけてはいるみたいだけど……」
セセリアからルブリス視点の画像が転送されてくる。
ハサウェイはジェガン・Dの無惨な姿に思わず絶句した。
動けるように戻ったとしても、あれではまともには戦えまい。
「……セセリア、作戦に変更はないんだな?」
「ボロボロのルブリスとボクらに、次のチャンスなんてない!」
まったくその通りだ、セセリアの言葉にハサウェイは苦い顔で同意する。
高台のルブリス・ジェミニXだって、もはや自力では移動も難しいほどぼろぼろだ。
キャプテンZが射出したワイヤーで機体を建物に固定されていなければ、砲撃姿勢を保つ事すら難しいだろう。
「デスレックスだって皆の奮闘でボロボロだ!
ロウジがつないだ最後のチャンス、ボクらの全部をぶつけるよ、ハサウェイ!」
確かに、ルブリス視点のデスレックスも無傷ではない。
左腕はなく、右クローアームも力なく垂れ下がったままだ。
ロウジを誘い込むために開けたジェネレーター直結の吸気口が、凄まじい蒸気を吐き出し続けている。
「ボスの対応パターン、DではなくAに確定!
サテライトシステム、チャージ完了まであと30秒。
フォーメーションXの遂行後、動ける全員でフォーメーションZへ移行!」
「ハサウェイ、了解。
兄さんのΖは、オレのキャプテンΖは、まだ負けてなんかない!」
小隊内通信にセセリアの指揮が響き渡る。
ハサウェイも操縦桿を握り直し、気勢を上げる。
通信ウィンドウが開き、ロウジも顔を覗かせた。
「ロウジも、ラジャー!
トドメ刺されなきゃ、体当たりでも自爆でもなんでもする!」
一番機体がズタボロのロウジが一番意気軒昂じゃないか。
ロウジにやる気で負けるものか。ハサウェイは静かに拳を握りしめる。
キャプテンΖはまだハイメガと右手首を失っただけだ。
ショットランサーは弾切れでも、シールドはまだある。グレネードも、サーベルもある。
たとえ全て武器を失っても、体当たりしてでも食らいついてやる。
「行こう、デミダイバーズ!」
「「「「ゴー・ファイ!」」」」
三度目の叫び、きっちり声が揃う。
ハサウェイは操縦桿を握りしめ、キャプテンΖを静かに移動させる。
残り時間、150秒足らず。
間もなく決着がつく。モニターで状況を注視しながらハサウェイは大きく息を吸い込んだ。
この戦いに、悔いなんて一片たりとも残してやるものか。
『プラフスキー粒子充填100%
荷電粒子砲、発射準備良し』
砲撃モードへ移行したモニターに、待ち望んだシステムメッセージが流れる。
必殺の決戦兵器の正体は、大型MAに搭載可能なまでに小型化したジェネシスだ。
エセリアはジェネシスではなく、荷電粒子砲と呼ぶと決めていた。
「……いよし、間に合った!」
これで負けはない。トリガーに指をかけたまま、エセリアはガッツポーズを取った。
レーダーにジェガン・D以外の敵影はなく、背面サブモニターのジェガン・Dに動く気配はない。
そこまで見て取り、エセリアは正面のルブリス・ジェミニXへ意識を集中させた。
恐らくまだチャージ完了していないはずだ。
ルブリス側はチャージ完了次第に撃って来る。
横綱相撲を目指すこちらと違い、挑戦者に先撃ちを狙わない理由がない。
「さぁ、セセリアちゃん。
機動新世紀ガンダムX、最終話の再現といこか!」
オープン回線でエセリアは叫び、そのときに備えて集中力を研ぎ澄ます。
待ったのは5秒にも満たない。
ルブリス・ジェミニのリフレクターが、ひときわ大きく輝いた。
向こうにも、こちらのチャージ完了は伝わったようだった。
まるで荒野で決闘に挑むガンマンのように、セセリアがおごそかに宣言する。
「勝つのはボク達だ、エセリア・ドート!」
黄金色のXを背負った二機のガンプラが、超長距離を挟んで向かいあう。
月からのマイクロウェーブをリフレクターでエネルギー変換した、ルブリス・ジェミニX。
バトルフィールドに漂うプラフスキー粒子を放熱ファンで吸入し、エネルギー変換したデスレックス。
セセリアとエセリア、同じ顔、同じ声の操縦者がにらみあう。
戦局を一変する決戦兵器を放つトリガーに指をかけ、静かに心を研ぎ澄ませてゆく。
二つの決戦兵器が解き放たれたのは、ほぼ同時だった。
「サテライト・ディバイダー!
いっけええええええ!」
セセリアの叫びと共に、ルブリス・ジェミニXが構えたディバイダーの砲口にエネルギーの光が膨れ上がる。
リフレクターによってエネルギー変換されたマイクロウェーブによる、必殺のサテライトキャノンによる砲撃だ。
来る! エセリアはゆっくりとトリガーを引き絞り、腹から声を振り絞る。
「収束荷電粒子砲、てぇぇぇぇぇ!」
背面の放熱ファンユニットと四つのリフレクターから猛烈な稲光が弾けた。
デスレックスはフィールドに充満するプラフスキー粒子を限界まで吸収し、変換したエネルギーを全身を駆け巡らせていた。
全身を巨大な粒子加速器と化したデスレックスを猛烈なエネルギーが駆け抜け、口腔内からほとばしる。
怪獣王が口から放つ破壊光線のように、猛烈なエネルギーの奔流がデスレックスの口から吐き出される。
サテライトキャノンと荷電粒子砲、必殺の決戦兵器による恐るべき奔流が、中空でぶつかりあった。
「……ぅっ、ぐっ!」
さすがのエセリアも、思わずうめいた。
モニターが、凄まじい閃光で一瞬完全にホワイトアウトした。
自動で明度が調整され、モニターに超兵器のエネルギーの激突が映し出される。
デスレックスが口から吐き出すエネルギーの奔流は、まだ尽きる様子を見せない。
サテライトキャノンの恐るべきエネルギーの奔流も尽きる様子はない。
まったく互角、数秒間、二つの決戦兵器の破壊エネルギーが空中で対消滅しあい、虚空へと消えていく。
「負けんな、デスレックス!」
「がんばれ、ルブリス……!」
エセリアとセセリアの必死の叫びが、オープン回線で重なり合う。
エネルギーの余波で暴れる操縦桿を、エセリアは必至で抑え込む。
「ふんばれ、デスレックス!
ジブンはウチがゆずれない矜持を詰め込んだ、サイコーのガンプラや!」
凄まじい決戦兵器の反動がデスレックスを襲い、激しいアラートがコクピットに幾つも響き渡る。
決戦兵器の凄まじいエネルギー放射、そのバックファイアだ。
無論、ルブリスも同じだ。砲撃モードに拡大されたモニターで、ルブリスの各部が凄まじい過負荷で煙を噴き始めている。
五秒……十秒。決戦兵器の互角の激突は、唐突に終わりを告げる。
ぱきり。モニターに映るルブリス・ジェミニXの手首から、無惨な音がここまで聞こえたような気がした。
ディバイダーを構えた手首があらぬ方に折れ曲がり、ほとばしるビームが大きくそれる。
デスレックスから放たれた帯電した粒子の奔流が押し寄せ、ルブリス・ジェミニXを真っ黒いエネルギーの奔流が呑み込む。
激しい破壊の音とエフェクトが弾けた後、そこには何も残っていなかった。
天文台、高台の地形、ルブリスが落としたディバイダー、その全てを荷電粒子砲が削り取り、激しく焼け焦げた跡だけが残る。
『ルブリス・ジェミニX消失。
セセリア・ドート、戦闘不能!』
システム音声が響き渡る。
エセリアは拳を握りしめ、小さくガッツポーズした。
まるで、ガンプラがため息をついたかのようだ。
握りしめた拳をほどき、エセリアはモニターを走るシステムメッセージに慌てて目を通す。
猛烈な蒸気が、轟音と共にデスレックスの胸部放熱口から吐き出された。
張りつめていた糸が切れたかのように、デスレックスの巨体が大きく揺らいだ。
テイルスタビライザーががっちりと地面を固定していなければ、転倒していたかもしれない。
『警告、ジェネシス照射による過負荷甚大。
熱暴走により陽電子リフレクター活動を休止。
粒子加速システムレッド、ジェネレーター熱量イエロー。
頭部メインカメライエロー、脚部関節負荷イエロー
放熱ファンシステム全開、排気開始。回復まであと10秒』
「うんむ。ちっとばかし調子乗りすぎてもうたな……」
正面モニターを数えきれないほどのシステムアラートが流れる。
完璧な勝利を求めた結果がこれだ。エセリアは思わず頬を掻いて苦笑いした。
挑戦者の土俵に乗り、真正面から打ち負かすため、決戦兵器の打ち合いに持ち込んだ。
こんなにジェネシスを照射し続けたのは初めてだ。
さすがのデスレックスも熱暴走を起こし、動きが止まってしまっていた。
吸気から排気に切り替わった放熱ファンユニットの全力稼働の音は、まるでデスレックスからの抗議の声だ。
「挑戦者は残りあと2機や。
動けるようなったらジェガン・Dにトドメを刺して、キャプテンZを……」
エセリアの甘い考えを叱るように、デスレックスのコクピットに特大のアラートが鳴り響いた。
レーダーに感あり、対物接近アラートだ。
何気なくレーダーに目をやり、エセリアは思わず目をひん剥いた。
「速っや!? なんて速度や……!」
超遠距離から遠距離、レーダーに映る光点があっという間に距離を詰めてくる。
正面モニターに映った機影に、エセリアは己の調子乗りな性分を呪った。
「ウェイブライダーかっ!」
キャプテンZの、TMAモード、速度が自慢の高速移動形態だ。
レーダー圏外、ロックオン圏外から遊撃機による奇襲か!
遠距離から中距離、あっという間に距離が詰まる。
「この瞬間を、待って……いたんだ!」
「その台詞は違うキャラやぞ、キャプテンんっ!」
ハサウェイ・ノアの叫びが、オープン回線に響き渡る。
真正面の機影を迎撃するためウェポントリガーを引き絞り、アラート。
回避行動をとるため、操縦桿を斜めに傾けり、アラート。
「動け、デスレックス、何故動かん!」
ヤバい。マジでヤバい。オーバーロードしたデスレックスが動かない。
金縛りにされたThe・Oさながら、エセリアはガチで狼狽の叫びをあげる。
中距離から近距離、ウェイブライダーの機影が大きくなる。
『ジェネレーター冷却完了、稼働開始』
「ようやった!」
エセリアの叫びと共に、デスレックスの機体が大きく身じろぎする。
敵機は近距離から白兵距離。白兵で、叩き落とす!
デスレックスの巨体が身を屈め、迫るウェイブライダーに喰らい付こうとバネをためる。
その瞬間、ダメージアラートがコクピットを大きく揺らした。
背面サブモニターに目をやり、エセリアは絶句する。
頭部を無くしたジェガン・Dが身を起こし、胸部コクピットを全開していた。
「ノーロックオンで、ビームジャベリンの、有視界射撃、やと!?」
『放熱ファンユニット、破損!』
アラートの犯人は、背後から投げつけられた鋭いビームの刃だった。
狙いは偶然か、必然か。デスレックスのもう一つの急所にビームの刃が突き刺さっていた。
放熱ファンユニットの破損に巨体が大きく揺らぐ。
迫る敵機を迎撃するには、その一瞬は致命的だった。
高速接近するウェイブライダーが、全推力を乗せてデスレックスへ衝突する。
「こ、こ、か、ら……いなくなれぇ!」
ハサウェイの渾身の叫びが響き渡る。
ウェイブライダー突撃、Zガンダムが最終話で見せた捨て身の一撃が、デスレックスの胸部排気口へ突き刺さる。
この世の終わりかと思うようなやかましいアラート、激しい衝突音。
ガンプラ同士が激しくぶつかり合い、そして砕け散る。
エセリアは笑みを浮かべ、静かに宣言する。
「……キミ達の、勝ちや。
デミダイバーズ」
当然の結果だ。ブラックアウトするモニターを眺め、エセリアは静かに敗北を噛みしめた。
ジェネレーターと言うウィークポイントに、ウェイブライダーの全推力を乗せたガンプラ一機分の質量が突き刺さったのだ。
どんな機体も耐えられる訳がない。
「その勝利への執念、プロ顔負けやったで」
聞こえないのを承知で、エセリアは静かに拍手する。
ウェイブライダー突撃は、予備動作も攻撃モーションもとても大きい。
普通なら避けて当然の、魅せ技の類を、見事に命中させたのだ。
けれど、この結果を油断や驕りとは思うまい。
挑戦者達は、執拗な攻撃で武装と部位を削り取り、切り札奥の手を吐き出させ、全力砲撃後に生まれる隙をついた。
これは、ロウジ、セセリア、ハサウェイ、三人の懸命なバトルが生んだ、当然の帰結に過ぎない。
「楽しい、ほんまに楽しいバトルやった……」
全て予定通りだと言うように、満面の笑みでエセリアは拍手した。
敗北はたまらなく悔しく、勝利がたまらなく妬ましい。
けれど、今だけは勝者をたたえよう。
それが、奢らずバトルに挑んだ、敗者の責務なのだから。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・GBNにおけるレーダーの仕様
ガンダム世界ではミノフスキー粒子などによって、レーダーは機能しない。
だが、多くの電源ゲーム、多くのガンプラバトルを経た結果、
レーダー不能により有視界オンリーでは円滑なバトル進行が難しいため、
GBNではレーダー機能とマップ機能が標準装備されている。
基本的に、ロックオン可能距離とレーダー有効距離はほぼイコールだ。
例外として、偵察機や大型機、完成度の高いガンプラはとても広いレーダー有効距離を持つ。
GBNのレーダーに機影が表示される条件としては、下記のようなものがある。
モニターの目視で捉える、熱感知で捉える、振動感知に引っかかる、飛行物探知する、などだ。
通常の機体であっても、遠距離や超遠距離などであれば、下記のような対策を行う事でレーダーの探知を免れる事が可能だ。
物陰に身を隠す、ブーストやビーム兵装の仕様を控える、慎重な歩行を行う、飛行しないなどだ。
基本的に中近距離では移動する限り振動感知でレーダーに映り、奇襲は難しい。
煙幕、ミノフスキー粒子散布、ステルス機能、ミラージュコロイド、ダミーバルーンなどにより、レーダーを誤魔化すことは可能だ。、
このような機能はバランス調整のために戦闘力の低下とセットのため、戦闘力と隠密能力のバランスはダイバーの悩みの種である。
ちなみに、ウルトラデストロイ並びにデスレックスは、運営権限で強制的にレーダーに映るよう調整されている。