リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

43 / 98
エンディングその1です。
ロウジがシーンくれって言ったのでその2が次回あります。

次回は9/1(日)19時予定です


ミッション3-13 明日はいつもそこにある

 

 

 

『Battle ended WINNER! ……デミダイバーズ!』

 

 システムメッセージが流れ、ファンファーレがやかましく響く。

 勝利の実感など、まるでない。ふわふわした気持ちのまま、セセリアはただモニターを見つめ続けていた。

 アバターの視界がゆっくり暗転し、転送エフェクトが身体にまとわりつく。

 ゆっくりと意識が浮上し、視界にバトルスタジアムの光景が移り始める。

 ガンプラバトルの終了と共に、ダイバー達のアバターがGBNの世界に再生成されていく。

 エレベーターが到着する時のような浮遊感と共に、セセリアの足の裏に地面を踏みしめる感覚が戻ってくる。

 

「セセリア、やったよ!

 僕ら、勝ったんだよ!!!」

 

 尻尾を振る大型犬のように、ロウジが全力ダッシュで飛びついてきた。

 危うくひっくり返りそうになりながら、すんでのところで受け止める。

 ロウジがりんごみたいにほっぺを紅潮させ、きらっきらの目で見つめてくる。

 ロウジアバターのぬくもりと重みが、じんわりとセセリアの緊張しきった神経を解きほぐす。

 

「……あ、そうか、勝ったんだ」

「勝ったんだよ!

 セセリアと、ハサウェイのおかげ!」

 

 ようやく、実感が湧いてきた。

 ロウジのぼさぼさ頭をわしゃわしゃ撫でまわし、背中をばしばし乱暴に叩く。

 あ、そうだ、ハサウェイだ。強敵にかっちょよくトドメを刺した殊勲を労わないと!

 GPベースの前で、ハサウェイは無言で立ち尽くしていた。

 両の拳が固く握り締め、多分勝利の余韻を静かに噛みしめていたのだろう。

 

「ほら、ロウジ」

「……あ、うん」

 

 セセリアはしーっと指を一本立ててロウジをなだめ、二人揃ってハサウェイの前にとっとこ歩いてく。

 ロウジといっしょに満面の笑みを浮かべたまま、ハサウェイが余韻を味わい終わるまでじっと待つ。

 心の中で秒数を数え、なんだか面白くなってきて100秒を数えたぐらい。

 ようやくハサウェイの目が焦点を取り戻し、こちらに気付いてくれた。

 

「……うわぁ、なんだなんだ二人とも!?」

「ハサウェイ、いぇーい!!」

「ダブルエース、うぇーい!」

 

 ロウジが満面の笑みでハサウェイに飛びつく。

 ハサウェイがひっくり返らないのを確認してから、セセリアも二人へ揃って抱きしめる。

 

「さっすがハサウェイ、見事なフォロー!」

「やったねハサウェイ、サイコーの結果じゃん!」

「ありがとう。二人の……お陰だ!」

 

 生真面目くんなハサウェイが、はにかんだ笑顔を浮かべる。

 笑顔、ごちそーさまです。いやぁ、骨折った甲斐があるってもんだね。

 後ろで、ゆっくりしたテンポの拍手が聞こえた。

 あ、やっば。バトル相手への敬意とか、頭からすっ飛んでた。

 抱き着きを解除し、慌てて背後へ向き直る。

 

「勝利おめでとさん、デミダイバーズ諸君」

 

 穏やかな笑顔を浮かべたエセリアが、そこに立っていた。

 セセリアは前に一歩進み、勢いよく頭を下げる。

 

「ボクら、ちょっとはしゃぎすぎだね。

 マナー違反、ごめんなさい!」

「ええよ、ええよ。

 勝利を喜ぶのは、勝者の義務で権利や」

 

 うーん、大人。同じアバターだなんてとても思えない。

 セセリアはゆっくり顔を上げ、三人足並みを揃えてエセリアと向かい合う。

 まずはロウジが口火を切った。満面の笑顔で勢いよく喋り出す。

 

「ありがとうございました、エセリアさん!

 びっくり箱みたいなすっごいギミックのガンプラ、さすがプロですね!

 とってもとっても、楽しいバトルでした!」

「ジブンこそ、EXAMの高機動よー使いこなすわ!

 今思い出しても鳥肌立つレベル、いい意味でキモかったで。

 絶対に疲れ出るで。あったかい風呂入ってしっかり休みや?」

 

 オカンかアンタは。いや、リアルはホントにオカンかもしれんけどさ。

 エセリアの台詞選びに、こっそりセセリアは忍び笑いする。

 実際、緊張解けたらぐったりするのはありえる。後でロウジに電話一本入れとこう。

 続いてハサウェイが、生真面目に背を伸ばして一歩進み出る。

 

「プロとは、本当の強さとはどういうものか。

 あなたに教えて貰った気がします」

「テキトーやで、テキトー。

 ウチをかいかぶりすぎちゃう?」

 

 嘘つけ、あの山のような切り札奥の手の数、絶対接戦を演出するための仕込みでしょ。

 ハサウェイの賛辞をとぼけて謙遜するエセリアに、セセリアはこっそり舌を出す。

 さて、それじゃボクの番かな。一歩進み出た瞬間だった。

 

「セセリアちゃん。

 次は、プロの舞台でやろや」

 

 エセリアが、穏やかな笑顔で手を差し出してくれていた。

 セセリアの情緒がバグり、一瞬完全に思考がフリーズする。

 プロが、自分の実力を認めてくれた。思いもよらないごほうびだった。

 

「高校から専門学校、同時に下積み、実戦、トーナメントに出場。

 ……うーん、5年かな。いや、10年はかかるんじゃないかな?」

 

 夢見心地の自分を戒めながら、セセリアは呟く。

 願えば夢は叶うだなんて、世界はそんなに甘い訳がない。

 けれど、それが夢を諦める理由になんか、なるはずがない。

 

「どれだけかかるか、わかんないです。

 けど、必ずもう一度、あなたと戦える舞台へ上がります。

 今回みたいなラッキーじゃなく、ボクらの実力で!」

 

 穏やかな笑顔のエセリアを見返し、静かに宣誓する。

 つい数日前から歩き始めた夢への道のりを、今度も諦めずに歩いてゆく。

 たったそれだけの、ささやかで誠実な誓いだ。

 

「必ず、あなたのガンプラとバトれる作品を仕上げ、

 ロウジといっしょに挑戦させてもらいます。

 ガンプラ心形流のエセリア・ドート!」

 

 差し出された手をしっかりと握りしめ、セセリアはまっすぐな眼差しでエセリアを見やる。

 調子乗りで、やかましくて、ガンプラに真面目で尊敬できる、プロのガンプラビルダーさん。

 心から尊敬します。素直な気持ちを乗せ、セセリアはにっこり笑顔で笑って見せる。

 

 

「そん時を楽しみに、ウチはプロの頂で待っとる。

 ……ウチも挑戦するわ。ジブンらみたいにな」

 

 エセリアが強気な笑顔で、力強く手を握り返してくる。

 顔も声も同じだけど、エセリアが今いる場所は、セセリアにとっては遥かに遠い。

 プロになったら、アナタそっくりの顔で笑ってみるよ。

 エセリアの今日見せてくれた先輩としての背中を、セセリアは深く心に刻み込むのだった。

 

『はい、動画撮影ここまで。これにて公式エキシビジョンマッチは完了です。

 皆さん、バトル本当にお疲れ様でした!』

 

 モニターにトロンが映り、バトルスタジアムの照明が切り替わった。

 まぶしいライトが落ち、目に優しい通常モードライトアップへ移る。

 

「あーあ、終わっちゃった。夢みたいな時間だったね」

「この夢、いつか現実にするから。

 もう少しだけ待っててね、ロウジ」

 

 名残惜しげに呟くロウジの頬を突き、セセリアは明るく笑うのだった。

 

 この公式エキシビジョンマッチは、後日改めて運営チャンネルで再投稿された。

 リアルタイム勢の評判を聞き、その視聴者数は相当なものを記録した。

 動画のエンディングには、勝利を喜ぶデミダイバーズ3人のシーンと、挑戦者を激励するエセリアが使われた。

 最後のシメはエセリアとセセリアの握手シーン、もちろん全員の許可済みである。

 セセリアのささやかな誓いは電子の海に記録され、一生モノとなったのである。

 映像が、セセリアにとっての黒歴史となるかどうか、まだ今は判らない。

 

 

 

 

 休みをとっておいて大正解だった。

 腕時計で時刻を見ながら、エセリアは苦笑いする。

 ガンプラバトルで激戦を繰り広げた疲労が、一夜明けた今日も身体の芯に残ったままだった。

 案の定、目覚めた時には昼前、約束の時間ギリギリ。

 エセリアは予約しておいたおしゃれなレストランまで小走りで駆ける羽目になったのであった。

 

「改めて、はじめましてやな、トロンちゃん。

 エセリア・ドートや」

「こちらこそ、はじめまして、エセリア。

 2代目トロンだ。正体は口外禁止でよろしく頼む」

 

 予約しておいた個室で向かい合い、エセリアは真面目くさった顔で挨拶を交わす。

 ここはリアル、関西のとある個室ありのイタリアンレストランだ。

 相手は今回の仕事の相棒、トロン。もちろんリアルで対面するのは初めてだった。

 

「……いくつになってもこの瞬間は緊張するな」

「こっちこそ、いきなり罵声投げられへんで良かったわ」

 

 トロンとエセリアは、一転してくだけた態度で笑い合った。

 アバターとしての付き合いしかない相手とリアルで対面、緊張するのはエセリアにもよく判る。

 

「あーんなプリチーなエセリアちゃんがネカマやとか、

 びっくりしたんちゃう?」

 

 何せ、エセリアの中身は男なのだ。

 イメージと違うと抗議されても仕方ない。

 エセリアはフランクな仕草で肩をすくめた。 

 

「こちらこそ、こんな年増で申し訳ない」

「いやいや何をおっしゃいますのん。 

 トロンちゃん、めっちゃ上品でおキレイやで。

 お子さんいる言うとったの、信じられへんわ」

 

 謙遜するトロンを、エセリアは全力で褒めちぎる。

 この会談をセッティングする時に聞いた情報によれば、恐らくトロンの年齢は30を超えている。

 だが、体型、立ち居振る舞い、見た目はとても若々しい。

 

「世辞でも嬉しいよ」

「いやいや、本音に決まってますやん」

 

 クールな知性を感じる、眼鏡をかけた美人さんだ。

 正直、子持ちでなかったら全然イケる。エセリアの正直な感想である。

 

「さて……」

 

 ランチパスタコースの注文を終え、エセリアはノンアルコールのドリンクが入ったグラスを掲げる。

 

「ひとまず昨日で公式エキシビジョンマッチも折り返しだ。

 ヘビーなバトル、そして前半終了、お疲れ様でした」

「おつかれさんっしたー!」

 

 乾杯の挨拶が個室に響く。

 アルコールの方が格好つくのだが、残念ながらトロンがこの後仕事らしい。

 

「昨日のバトル、反響上々みたいやん。

 いやぁ、ロウジくん達様々やね!」

「……ホントにな。大反響だったよ。

 アレは本当にガンプラかと、運営が泡を食ったぞ?」

 

 上機嫌の呟きに、トロンが笑いながら釘を刺す。

 セセリアは笑いながら目をそらす。

 

「リスペクトしたブツがあるだけや。

 アレは全部ガンプラとフルスクラッチやで」

「……システムが認識しているからにはそうだな。

 アタシも全部チェックしたが、違法パーツは一つたりともなかった」

 

 トロンの眼鏡の奥の瞳は笑っていない。

 エセリアは運ばれてきた前菜、生ハムのサラダを食べるのに没頭するフリをする。

 好きで格好いいものを詰め込んだ結果が、あのウルトラデストロイだ、後悔はない。

 

「グレーゾーンだと判っているようだな。

 真似してレギュレーション違反が続出するようでは困るんだ。

 お叱りが上から降りて来ないぐらいに留めておいてくれよ?」

「えろう、すんまへん」

 

 トロンが苦笑し、短く息を吐き出した。

 本気で怒っている訳ではないと知り、エセリアはこっそり安堵の息を吐き出した。

 

「旧バトルストーリー、好きだったんだ」

「渋いところつくやん。

 ウチは平成のアニメ版の方やなー」

 

 トロンとエセリアはしばしモチーフにした作品についての思い入れを語り合った。

 歓談は前菜の皿が下げられ、じゃがいもの冷製スープがやって来るまで続いた。

 

「たとえモチーフが他社製品だったとしても、

 丁寧で堅実な作りこみ、可変合体機構を始めとする多数のギミック、段階を踏んで披露する切り札。

 そして何よりガンプラへの溢れんばかりの愛。

 ウルトラデストロイ、実にいいガンプラだったよ」

 

 素直な賞賛がずしんと身体の奥に響く。

 エセリアは照れくささを誤魔化すように冷製スープを口に含む。

 

「お、このビシソワーズ? なかなかいけるやん。

 スープは温かいのが一番や思うけど、

 プロが作るもんはやっぱり違うねんな」

「昨夜のバトル、まさしくプロの仕事だったよ。

 スランプは抜けたみたいで、何よりだ」

 

 トロンの指摘に、エセリアは微妙な顔でスプーンを置く。

 しばらくふてくされてたのもお見通しだった訳かい。

 今度はエセリアが苦笑いする番だった。

 

「この仕事の話来た時、妙やな思ったんよ。

 しばらくぱっとしないガンプラ心形流の師範に、

 GBNの運営が急に声かけてくるんやもん。

 ひょっとしてトロンちゃん、口利いてくれたん?」

 

 冷製スープを飲み終えたトロンを、セセリアはじっと見やる。

「ああ、推薦させてもらった。

 GBN関西主導の企画でもあり、ちょうど良かったからな」

 

 上品な仕草で口元をナプキンでぬぐい、トロンはこともなげに答えた。

 誰が、と言う疑問は解けた。だが何故、と言う疑問が新たに湧いてくる。

 

「ははぁ、ありがたいことやけど、そらまたなんでなん?」

「単純さ、キミのファンだからだよ」

 

 思わず、エセリアはぽかんと間抜けに口を開けた。

 トロンが微笑み、発した言葉はあまりに意外だった。

 

「少し、青春時代の昔話をしよう。

 三代目メイジンの座を賭け、アタシは仲間やライバル達と激しくガンプラバトルを繰り返していた」

 

 店の人がスープの皿を下げていく。

 ノンアルコールで口を湿らせ、エセリアはトロンの話へ真剣に聞き入る。

 

「意気込みだけは立派だが、実力はとてもトップに届くようなものではなかったよ。

 三代目メイジン・カワグチがデビューした第七回ガンプラバトル選手権でも、

 アタシは関西のメンバーが集まるブロックで予選落ちさ」

 

 そらまたエライバトルしたもんや。

 エセリアは相槌を打ちながら心で呟く。

 第七回選手権は相当な群雄割拠だった。

 確か関西ブロックで、トロンの兄弟子が初陣を飾り、世界大会行きの切符を手に入れたのもその時のはずだ。

 

「リアル事情が幾つも重なり、バトルは引退しようと思った時だ。

 ガンダムベースの野良試合でキミを見かけたんだ。

 まだ学生だろうに、実に大人顔負けの威勢のいいファイターだった」

 

 懐かしげに目を細め、トロンは思い出話を続ける。

 楽しげなトロンの様子と反比例するように、エセリアの頬に冷や汗が増えていく。

 

「あまりにも威勢よくさえずるもので、自慢のガンプラを掴んでキミに挑んだんだ。

 結果は惨敗、三戦して全敗だったよ。ガチ路線でのバトルは、その日限りで引退を決めた。

 それ以来、キミのファンなんだ。ガンプラ心行流の麒麟児どの」

 

 ヤバい。まるで覚えてへん。エセリアは、居心地悪そうに足を組みなおした。

 印象深いバトルであれば、記憶のどこかに引っかかっているはずだ。

 エセリアにとって、当時のトロンが本当にその他大勢に過ぎなかったのか。

 

「実力に劣るものが負け、実力に勝るものは上ってゆく。

 キミが強すぎただけだ。気に病む事など何もない。

 さ、メインディッシュが冷める前に食べてしまおう」

「……ほな、いただきます」

 

 トロンが全てを見透かしたように柔らかく微笑み、フォークを手に取った。

 エセリアは神妙な表情で、運ばれてきたパスタに挑みかかった。

 

「お、今日の日替わり大当たりやな。

 トマトとチーズの素朴な味にバジルソースがええ感じやん」

「良くこんな店知っているな。

 今度個人的に使わせてもらおう」

 

 エセリアはトロンとしばらく食事と感想に終始した。

 よくよく考えてみると、ファンの美人さんにスランプの醜態さらしてたん、なかなかしんどいな?

 美味なランチでリセットされた思考に羞恥が紛れ込んでくる。

 

「なぁ、トロンちゃん、恥を忍んで聞かせてもらうんやけど」

 

 恥のかきついでだ。食後のドリンクをエスプレッソで頼み、エセリアは堂々と尋ねた。

 

「大人なってから、昔は良かったって嘆くん、トロンちゃんにもある?」

「無論あるとも。

 今の変わり映えのない日々と比べ、青春のきらめきはあまりに眩しい」

 

 当然のようにトロンに肯定され、エセリアはほっとした顔でノンアルコールの最後の一口を飲み干した。

 

「プロになって、大好きなガンプラを仕事にして、

 ガンプラ心形流じゃ師範になって。

 プロらしく、師範らしく、んなことばっか考えて息苦しくてな。

 なんもかんもつまらへんわーてなってもうてん」

「追い込みすぎて思考の袋小路に入りこむ。

 真面目で真摯な人間にはままあることだ」

 

 エセリアの呟きに、トロンが優しい声で心に寄り添ってくれる。

 プロとしてお金をもらう責任が、エセリアの肩にずっしりと重くのしかかっていたのだ。

 

「やりたいようにやったら、めっちゃ楽しかったわ。

 難しいこと考えすぎてたみたいやね!」

 

 今は肩がとても軽い。エセリアはけして、責任を忘れた訳ではない。

 ただ、プレッシャーに縛られてシロッコのような最期を迎えるのはごめんだと言うだけだ。

 

「プロが最高のパフォーマンスを出す方法はプロの数だけある。

 キミは楽しみ、遊び心をもって挑戦することがスタイルだったようだな」

 

 食後のデザートと飲み物がやってきた。ランチのコースもこれで終わりだ。

 フォークでティラミスを切り取り、クリームと共に口に運びながらトロンが言う。

 

「大人になると、毎日の仕事が変わり映えのない繰り返しに思えるものだ。

 推しキャラの声優が結婚報告をブログにあげたって、

 推しキャラがアニメ登場直後に原作の週刊誌で無惨な最後を迎えたって、

 夜が明ければまた仕事の日々が始まる」

「昨今の少年マンガ、ガンダム並にキャラ死ぬもんな……」

 

 やけに実感がこもったトロンの言葉に、エセリアはしみじみとうなずく。

 

「それでも今日は、心が随分と軽いよ。

 昨日のエキシビジョンマッチ、本当に心が沸き立った。

 またバトルがしたい、そう思えたよ」

 

 エスプレッソのカップにたっぷり角砂糖を入れながら、トロンが微笑む。

 

「変わり映えのない日々に、鮮烈な風を吹き込む。

 キミのバトルには、それだけのパワーがある。

 忘れないでくれよ、アタシの推しのプロビルダーどの」

 

 砂糖よりも、クリームたっぷりのデザートよりも、その微笑が甘い。

 トロンの笑顔がエセリアの胸にじんと染み込む。

 今日から、また頑張ろう。年上のファン殿の言葉に、エセリアは力を貰った。

 

「サインならいつでも受け付けてまっせ」

「今日のところはここの支払いのサインだけで結構だ」

 

 ジョークでかわされ、エセリアはわざとらしく肩を落としてみせる。

 伝票に支払いのサインをした上で、店員に電子決済をお願いする。

 

「ごちそうさま。

 年下におごってもらってすまないな」

「美人さんとのデート、お値打ちやで。

 公式エキシビジョン、残り全部終わったらまたどっかいこや」

 

 控えめに微笑むトロンに、エセリアは明るく言い放つ。

 けして安くない出費だが、とても有意義な時間だった。

 

「覚悟しておけよ、残りのバトル大変ヘビーなものになるぞ。

 バトル好きのベテランダイバー、有名フォースからの応募が目白押しだ。

 ざっと見ただけでフォース、”虎武龍””百鬼”の名前もあった」

「うっへえマジか。

 確かどっちもバトル大好きフォースやん!」

「……キミとデミダイバーズのバトルが、彼らに火をつけたんだ。

 きちんと責任取って、面倒をみてやれ」

 

 真面目くさった顔のトロンへ、エセリアはおどけた仕草で肩をすくめた。

 ファンがいて、応援してくれている人がいる。

 ならば、プロとして魅せるべき姿と言うものがあるはずだ。

 

「本当に大変なバトルになるが、

 エキシビジョンマッチが終わった後、まだ元気があれば……

 個人的に、頼みたい仕事がある」

「プロなんで、お金はいただくで。

 いくらトロンちゃん相手でも、そこだけは絶対譲れへん」

 

 嬉しい提案に、エセリアは気取った仕草でポーズをとった。

 たとえがめついと言われようとも、こればっかりは譲れない。

 

「無論だ。報酬は弾む、とまでは言い難いが、

 キミの腕と責任感に見合うだけの額は用意しよう」

 

 いただいた報酬に見合うだけの、ガンプラを作る。

 いただいた声援に見合うだけの、プロの技を見せてやる。

 ずっと抱え続けてきた、譲れない矜持だ。

 エセリアは変わらぬ決意の炎を心にともらせる。

 今までも、明日からも。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ネカマ

 

 オンラインゲームでアバターをプレイヤーと違う性別で遊ぶこと。

 特に男性が女性アバターを使うことを言う。多分かなり古い表現である。

 オンラインゲーム黎明期は女性アバターを使い、丁寧語だと女性と思い込まれることなどもあった。

 女性キャラだとレアドロップ装備をぽんとくれたり、

 逆に通りすがりにつきまとわされて「キミいくつ?リアルであわない?」とか聞かれたりすることもある。

 GBNでは作成に性別の制限はない。エセリア以外にもアバターが性別と違うキャラは結構設定されている。

 エセリアがエセリアになったのに深い理由はなく、『水星の魔女で一番エロくてかわいい』からである。

 これは個人の感想であるので、悪しからずご了承いただきたい。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。