リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

44 / 98
9/8(日)にあとがき+搭乗ガンプラを投稿予定です




ミッション3-14 僕らはみんな、譲れない

 

「うーん……完敗。

 楽しかったけど、悔しいな……」

 

 大破エフェクトのかかったジェガン・Dを見上げ、ロウジは眉をひそめた。

 ここはGBN内、フォース共通のガンプラハンガーだ。

 隣にはルブリス・ジェミニXが、仲良く大破エフェクトで置かれている。

 

「今週のフォースバトル、7戦2勝5敗かー。

 もーちょいイケると思ったんだけどねー」

 

 ロウジの横で、セセリアが清々しい表情で肩をすくめる。

 最後の一人ハサウェイは、盛大に敗北を悔しがりながら先ほどログアウトしていった。

 

「大人げないぞー、先輩ダイバーさん達!

 ボクらを奇跡の勝利の余韻にもっと浸らせろ!」

 

 公式エキシビジョンマッチで、デミダイバーズは劇的なバトルを繰り広げ、勝利した。

 その結果、デミダイバーズの名は結構知れ渡り、バトルの申込みが増えたのだ。

 それも古参、ベテランのダイバー達からばかりだ。

 

「いやほんと皆階級高くてびっくりだよね。

 大尉中佐大佐、一人准将までいたよね。

 准将って言ったらキラ・ヤマトじゃん。鬼強!」

 

 今までの知人ではエニルが少佐でクランプが大尉、有名人のロンメルでようやく大佐だ。

 公式エキシビジョンマッチの後、デミダイバーズはバトルを申し込まれ今週7戦を行った。

 その対戦相手達は皆ロウジにとって異次元の階級、異次元の強さばかりだったのだ。

 

「いやー、GBNのフォースランキング上位層って凄いんだね……」

「みんな、多分プロじゃないんでしょ?

 あんなに強くてあんなに面白い人達ばかりなんて」

 

 セセリアのしみじみした呟きに、ロウジは笑って同意する。

 プロに勝てた、自分達はプロより強い!

 そんな思い上がりもあっという間に打ち砕かれた。

 プロを目指す、なんとはるかな道のりだろう。改めてロウジはセセリアの夢の困難さを実感した。

 

「生意気な新人、シメてやる!かと思ったら

 イキのいい新人、遊んでくれ!って感じだったよね」

「ベテランダイバーってヒマなの?

 僕すごい楽しかったから良かったけどさ」

 

 皆フレンドリーで、お節介で、ユーモアたっぷり、バトル以外におしゃべりも大好きなダイバーさん達だった。

 知らない人相手にチワワみたいに震えていたロウジも、すぐに緊張がほぐれ、打ち解けることが出来たものだ。

 きっと自分達より何倍も長く、GBNを楽しく遊び、ガンプラに愛を込めて作り上げて来たのだ。

 

「アバターのドレスアップもおしゃれだったよね!

 スタイル抜群でかっこいいおねーさんも多くてさ、

 いやー、実に有意義な対戦だった」

 

 にひひと笑うセセリアの足を思い切り踏んでやる。

 思わずぴょんと跳ねたセセリアを見ながら、ロウジは、冷たく言い放つ。

 

「……セセリアのえっち。

 残念だけどジェガン・Dの返却期限だし、

 しばらくはベテランさん達と遊ぶのも封印ですー」

「ちぇ。ま、しょーがないか。

 最近負けた後、ハサウェイが舌打ちを隠せなくなってきてるもんね」

 

 足の甲を涙目で抑えるフリをしながら、セセリアが苦笑した。

 バトルは楽しい。けれど負けるのは悔しいものだ。

 ロウジだってちょっとは悔しい。人一倍結果にこだわるハサウェイが悔しくない訳はない。

 負けも必要な経験だが、勝ち目の薄いバトルばかりというのは辛いものだ。

 

「デコトレーナーも使用自粛中だし、ルブリスも全面改修中でしょ?

 しばらくバトルはお休みで、貰った報酬のガンプラ作るのに専念しようよ」

「そうだね、ルブリスをロウジ向けにしっかり強化改修しないと」

 

 セセリアが背筋を伸ばしてこちらに向き直り、悪戯っぽく笑って問いかけてくる。

 

「……と言う訳で未来のプロ、ロウジ選手に今日もインタビューの時間です!

 本日の対戦相手の皆さんのガンプラ、どうでしたか?」

「んもう、セセリアってば。

 その言い方、やめてって言ったじゃん!」

 

 プロになるだなんて、一言も僕言ってないよ。

 ロウジは頬を膨らまして軽く抗議する。

 セセリアの握った掌はインタビューマイクを持っているつもりだろうか。

 

「今回の相手、すっごく強かったね。

 特にリーダーの若い男の子、一番経験浅そうなのにすっごい上手かった!」

「そうだね、ガンプラもめっちゃ丁寧な作り。

 びっくりだね、誰かのサブアカウントなんじゃって思うぐらい」

 

 エキシビジョンマッチを経て、セセリアはロウジにガンプラカスタマイズをより細かく聞いてくるようになった。

 未来のロウジ用ガンプラ作成の前哨戦だそうだ。

 

「初代ガンダムベースのプレーンな作りだけど、

 近接武器のナギナタがめちゃめちゃ厄介だったね。

 こっちのビームダガーがリーチの長さを活かされて完封されちゃった。

 弾き、そらし、武器落とし。すごく精緻で華麗な白兵モーションだったね。

 オリジナルだったらすごいと思う!」

「リアルタイプ武者ガンダム辺りのモーションなのかもね。

 機体名は太陽のガンダムって意味らしいよ!

 設定の盛り方と堅実な武装構成、すごくロウジ好みの機体ぽいよね!」

 

 ロウジは満面の笑顔で、今回の対戦相手のガンプラを評し、セセリアが笑ってうなずき、聞いてくれる。

 すごかったのは、今回だけではない。どの機体も、たっぷり愛がこもったガンプラばかりだった。

 ガンプラ作りは正直詳しくない。やりとりがセセリアに役立ってるかは判らない。

 けれど、セセリアとおしゃべりする時間が増えるのは正直、嬉しい。

 

「やっぱり、ナギナタに対抗できるような長物も選択肢として欲しいね。

 出来ればトップヘビーなジャベリンやアックスとかじゃなく、

 出力強化した大型ビームサーベルみたいな剣が格好良くて嬉しい」

「大型武器。やっぱ実体剣、恰好いいもんね~」

 

 対戦相手への論評が終わり、ロウジの発言は反省を踏まえての機体の改善要望へ移っていく。

 セセリアが楽しげに同意しながら、”長物””両手剣”とキーワードを手元で打ち込んでいく。

 

「今回、ペース握られてDモード使えなかったけど、

 EXモード系は今後も使っていきたい?」

「ぜったいほしい。切り札としての運用もあるけど、何より恰好いいじゃん。

 フォームチェンジとかドレスアップとか、ロマンだよ!」

 

 セセリアが鼻歌交じりにルブリスの仮想データを手元へ呼び出し、忙しく仮組していく。

 実体剣、ライフル、背面に増設された武装はエアリアルのエスカッシャンだろうか。

 

「……おっけー、ありがとロウジ。

 これでルブリスの改修方向性が決まったよ!

 ルブリス、もっとロウジ向きにカスタマイズするから、お楽しみに!」

 

 めちゃめちゃ楽しげに、セセリアが宣言してくれた。正直、セセリアは凄いとロウジは思う。

 どれもこれも、ロウジの要望はエニルさんへと同じぐらいめんどくさいものばっかりなのだ。

 

「パパに聞いたんだけど、

 そのルブリス、ガンプラベースのコンテストに出品するんだって?」

「うん。秋のコンテストまでに、自信作を一つ出品すること。

 シショーへの正式な弟子入り条件の一つなんだ。

 だからルブリスの改修は、プロを目指す道のりの第一歩ってわけ」

 

 セセリアが照れ臭そうに頬を掻く。

 その横顔を見ながら、ロウジは不安が胸をざわめかせるのを感じた。

 

「本気でセセリア、プロ目指すんだ……」

 

 はじめは、ロウジの軽口から始まった。

 今のルブリスじゃ、プロのガンプラには勝てない。

 そんな考えなしの言葉に奮起したセセリアが、ガンプラ作りを本気で考えだした。

 ロウジのために、ガンプラを作る。セセリアの気持ちは確かに正直嬉しい。

 けれど、あれよあれよと夢は膨れ上がり、セセリアはガンプラビルダーとしてプロを目指す事になっていた。

 

「うわ、ロウジひっどい。

 またボクが調子乗ってテキトー言ってると思ったでしょー」

「思ってないよ。

 そこでふざける君じゃないもん」

 

 笑顔でおどけるセセリアの横に静かに寄り添い、ロウジはセセリアの手元に目線を落とす。

 プロと今の自分達の距離がどれほど遠いか、ロウジはこの一週間で身に染みて感じた。

 セセリアが踏み込んだのは、努力を重ねても、届かないかもしれない遥かな道だ。

 自分の言葉が、セセリアの将来を袋小路に追い込んだのではないか?

 そう思うと、ロウジの胸は不安にぎゅっと締め付けられる。

 

「君は僕のために最高のガンプラを作るって言ってくれたよね。

 あれ、めちゃめちゃ嬉しかったよ……」

 

 心からの言葉だ。セセリアの献身が嬉しくないわけがない。

 けれど、だからこそロウジは強く思う。

 仲良しの友達で、大事な幼馴染だけど、今のセセリアとロウジはあくまで他人なのだ。

 

「改めて言われるとめっちゃ恥ずいね。

 だってボク、まだ一機も完成させてないじゃん」

 

 セセリアの言葉を聞きながら、ロウジは静かに息を吸い込む。

 だから、言わなきゃならないことがある。

 たとえこの言葉が的外れだとしても、ロウジがセセリアの未来を縛るのならば。

 足が震える、心臓の鼓動が鳴り止まない。

 震えるな、僕の声。ロウジは精一杯に胸を張り、静かに告げた。

 

「セセリア。

 君が好き、愛してる」

 

 精一杯の誠意と想いを込めて、アバターの口からロウジは愛を告白した。

 

「……ちょ、ま。

 待って、今なんて?」

 

 びっくり仰天を言葉と顔いっぱいににじませ、セセリアがぎこちない動きでこちらを向く。

 一度溢れ出した想いは止まらない。ロウジは続けざまに言葉を投げかけてゆく。

 

「君はキレーなおねーさんに目がないし、

 せっかちで大ざっぱでデリカシーもない。

 勉強嫌いで授業中寝てはノート借りて内容聞いてくる。

 でも……」

 

 とてもとても長い時間をセセリアと一緒に過ごしてきた。

 たくさんの出来事をセセリアとわかちあってきた。

 この先、セセリアがいない未来なんて考えた事もない。

 セセリアの表情を見る余裕もなく、ロウジは必死に言葉を紡ぎあげる。

 

「君は地味で目立たない僕の容姿を褒めてくれて、

 上がり症でつっかえる僕の言葉をじっと待ってくれる。

 そして君は、好きなことには全力全開で頑張れる。

 ……そんな君が、僕は好きなんだ、セセリア」

 

 好きならセセリアの未来を縛っていいのかなんて、わからない。

 この想いがセセリアの献身に見合うものかもわからない。

 それでも、言わずにはいられなかった。

 

「プロにもしなれなくっても、

 すごいガンプラを作れなくっても、

 それでも絶対、君が……好きだ」

 

 言った、言っちゃった。三度も好きって言った。

 顔が熱い。心臓の鼓動がめっちゃうるさい。

 ギアバイザーが読み取った数値で、多分アバターの顔も真っ赤になってるだろう。

 返事はどうだろう。答えを知るのが怖い。

 言葉を吐き出すのに必死で、いつの間にかロウジはきゅっと目を閉じてしまっていた。

 セセリアの返事を待つ時間は、まるで無限に続くかのようだった。

 

「……ロウジのおバカ、フライングだよぉ!」

 

 今まで聞いた事ないような、めちゃめちゃ情けないセセリアの声だった。

 

「……ルブリスかっちょよく仕上げて、

 ボクから言うつもりだったんだ!」

 

 慌てて目を開けると、そこにはトマトのように顔面真っ赤なセセリアがいた。

 それってつまり。空転してた思考がゆっくりかみ合う前に、セセリアが言った。

 

「ボクだって、キミが好きさ、ロウジ。

 キミのいいとこ、いっぱい知ってる。

 ボクは望んでキミといっしょにいるんだよ!」

 

 ふわああああああっと砂糖よりずっと甘い何かが全身を満たしていく。

 天国なんてあるのかな。あったよロアビィ今ここに。いや落ち着け僕。

 セセリアがそっと手を伸ばし、ロウジに掌を重ねてくる。

 まっすぐにこちらを見て、セセリアがゆっくりと語り出した。

 

「真面目ちゃんなのにどんくさくて、

 知らない人が苦手で人前ではガチガチ、

 悪口言われても相手を傷つけたくなくて言い返せない。

 リアルじゃ冴えないモブとか思い込んでるキミだけど……」

 

 言葉だけだとひっどい悪口。でも、セセリアの表情は真剣だった。

 重ねた掌から伝わってくるぬくもりが、ぶっきらぼうな言葉の裏の優しさのように思える。

 

「遊びのゲームでマジになってワッショイ大暴れ。

 誰かのいいとこ見つけて褒めるのが大得意で、

 繊細で傷つきやすくて、誰かの心にそっと寄り添える。

 そんなキミのこと、ホントのホントに大好きだよ」

 

 また好きって言ってくれた!

 好きってセセリアに言われるごとに、コロニーが一基空から落ちてくるみたいな衝撃がロウジの心に走る。

 

「ゲームで負けて悔しがりながら相手を称えるキミが好き。

 大好きなガンダムの世界ではしゃぐキミが好き。

 奇跡の逆転勝利して、はにかみながらピースするキミが好き。

 どんな苦労だっていいさ、キミが楽しく遊んでくれるなら。

 ボクはそんなキミの笑顔が好きになったんだから」

 

 真正面からのセセリアの言葉が、ロウジの心を完璧にノックアウトした。

 ソーラレイの直撃でも喰らったみたいに、全身がどろっどろに溶けているみたいだ。

 全身を駆け巡った砂糖より甘い幸福感が、もう一度足先から頭まで登ってくるのを感じる。

 今、アバターもリアルも、絶対絶対すっごい顔してる。

 こつんと肩をぶつけるように一歩近づき、ロウジはにひっと白い歯を見せて笑う。

 セセリアもへらっと、とろけきった顔で笑う。

 

「セセリア、マジひっどい顔……!」

「ロウジこそ、何それ、キャラ崩壊すぎるっ!」

 

 ここに誰かがいなくて、ホントに良かった。見せられる顔なんてしてない。

 うふふ、だか、うへへ、だか、そんな間抜けな笑い声しか口から出てこない。

 大好きな人と、両想いだった。こんなに嬉しい事はない。

 ロウジとセセリアは掌と肩を触れ合わせ、しばらく幸福感に浸っていた。

 

『ガンプラが修復完了しました。いつでも出撃できます』

 

 ロウジを我に返らせたのは、システム音声だった。

 いつの間にか敗北したガンプラの出撃不可ペナルティが終わるまで時が過ぎたのだ。

 すまし顔のセセリアの頬をつつき、ロウジが笑う。

 

「僕のためにプロめざすとか。

 セセリアってば、無茶しちゃって」

「知ってる?

 ロウジ、キミの背中には、すっごく高く飛べるキレーな翼があるんだよ」

 

 このおバカ、いったい何を言い出すの?!

 真面目な顔で言い返され、ロウジはセセリアの頬を突いたままフリーズする。

 

「キミのバトル、ホントにすっごいもん。

 リアルで初めて一緒にゲームで遊んだ時からそうだった。

 GBNだってそうさ、奇跡の魔法も、皆の力で紡いだプロへの大勝利も、キミがボクに初めて見せてくれたものだよ!

 いっつもキミは、見たことのない景色のところまでボクを連れてってくれる……」

 

 セセリア、またとんでもなくキザな台詞を吐いちゃって。

 ロウジは顔中真っ赤に火照らせ、慌てて指を引っ込める。

 

「プロを目指す夢は、譲れない。

 キミの翼にふさわしいガンプラはボクが作る。

 キミを出来るだけ高い空まで連れていきたいからね」

 

 おかしい、呟くセセリアがちょーカッコよく見える。

 子供っぽい自分の仕草が恥ずかしくて、慌てて指を引っ込め、ロウジは目を伏せた。

 セセリア。僕だって君に感謝してるんだよ。心の中でロウジはそっと呟く。

 新しい世界に連れ出してくれるのは、いつも君だった。

 結局恥ずかしくてお礼は口に出されずに消え、代わりにロウジは意地悪な疑問を投げかける。

 

「なら、ガンプラ心行流への入門、断って良かったの?

 プロ輩出率も高く、レベルの高い若手と競い合える。

 活動実績も豊富で、進学に就職にも有利だってエセリアさん言ってたよ」

「ほぎゃ!?

 ちょっと待ってエセリアさん、何さらっとばらしてくれてんのさ?!」

 

 すっごい慌てた様子でセセリアがこっちを向き直る。

 先日エセリアからこっそりメールが送られてきていたのだ。

 ガンプラ心行流への入門を誘ったが、断られた、と。

 

「ふふ。すっごい親身になってくれてるじゃん、エセリアさん。

 セセリアってばモテモテ、妬けるぅ」

「あのねロウジ、言っとくけど多分エセリアさんは……」

 

 冗談半分、口元を隠してロウジは忍び笑いする。

 わたわたと変な動きしなら、セセリアが弁解しようとした時だった。

 

『ハサウェイ・ノアからセセリア・ドートへメッセージの着信があります』

 

 甲高いシステム音声が響き、セセリアとロウジは顔を見合わせる。

 ほんとに君ってばモテモテだね。

 見ていい?とアイコンを指すセセリアに、ロウジはもちろんだと笑顔でうなずく。

 

『セセリア、遅くにごめん。 

 明日でいいから相談乗って!!』

 

 メッセージを開封した途端、ハサウェイの叫びが飛び出す。

 あまりの声量に、ロウジは思わず唇を噛んでのけぞった。

 

『今夜のバトルで手も足も出なくって、めっちゃ悔しくってさ。

 オレ、キャプテンZを強化できないかうんうん唸ってたんだ。

 煮詰まっちゃったから、まずは小さなところから不便さを無くしたい。

 ショットランサーみたく、ハイメガにもサブウェポンのヘビーマシンガンを増設したい!

 どうか、このプランについて意見聞かせてください。

 我らが親愛なる整備主任どの』

 

 ハサウェイ、めっちゃやる気じゃん! ロウジは口元に手を当て、笑いをこらえる。

 めっちゃヒートアップして、最後に頼み事だったと思い出して語調が丁寧になるの超ウケる。

 声だけで、リベンジに燃えるハサウェイの姿が目に浮かぶようだ。

 

「あはは、良かった。

 ハサウェイ、意気消沈してないか心配してたんだけど……」

「……ハサウェイ、段々バトルゴリラになってきてるぅ。

 これさ、ロウジに悪い影響受けてなぁい?」

 

 なんか地味にひどいこと言われた。

 ロウジは抗議の代わりに、笑顔でぐりぐりとセセリアの脇腹を肘でえぐる。

 

「じゃ、がんばって、セセリア。

 デミダイバーズの誇る作戦参謀兼整備主任どの!」

「リーダーのパワハラだー!?

 ボクの仕事量地味にめっちゃ多くない?」

「だいじょーぶ。どーせ君、授業中寝るじゃん」

「ロウジのノートコピーしてもらうからね、もー!」

 

 じゃれあうように、遠慮のない言葉を投げかけあう。

 一歩踏み出したはずなのに、びっくりするほどいつも通りのやりとりだ。

 やがて就寝時間を告げるアラームが鳴り、今日のGBNは終わる。

 明日も、今日と変わらないこの関係が続いていく。

 それだけで、ロウジは幸せだった。

 

 

 

 

 大きく息を吐いて、”わたし”はギアバイザーを取り外す。

 視界が見慣れた自分の部屋に切り替わる。自分の呼吸音とクーラーの作動音しか聞こえない。

 裏通りに面した夜中の住宅街は電車も車の音も聞こえず、とても静かだ。

 まだ、全身が熱い。心臓の鼓動が鳴りやまない。

 

「……だめ、眠れる気しなぁい」

 

 せめて、横になって身体だけでも休めよう。ママとの約束だし。

 ”わたし”はもう一度大きく深呼吸しながら寝る準備を始める。 

 外したギアバイザーをそっとダイバーギアのフックに引っ掛け、固定する。

 ダイバーギアにセットされていたデコトレーナーのガンプラを取り外し、

 埃防止のアクリルショーケースへ丁寧に安置する。

 

「おやすみ、デコトレーナー。

 きっともうすぐ、きみと遊べるよ」

 

 ここ数週間使用自粛中の愛機に愛しげに語り掛け、自室の電気を消す。

 ベッドに倒れ込み、”わたし”は真っ暗な天井をぼんやり見つめる。

 好き。セセリアの声がまだ耳に残ってる。

 ダメだこれ、ぜったい眠れない。甘くとろけるような幸福感が、頭からつま先までいっぱいに詰まってる。

 すっごくだらしない顔でにやつき、”わたし”は枕に顔をうずめて足をじたばたさせた。

 

「ほぎゃあ!?」

 

 枕もとのスマホが突然振動し、”わたし”はみっともない悲鳴を上げた。

 誰だいったいこんな非常識な。ぷりぷり怒りながら画面を睨んだ”わたし”の鼓動が大きく跳ねた。

 セセリアだ!? 浅く息を吸い込みスマホをタップ。声を潜めて、怒った口調で語りかける。

 

「……ちょっと!

 親しき中にも礼儀あり。いくらなんでも非常識じゃない?」

「ごっめーん!

 どーしても明日になる前に話したい事あって」

 

 いつも通りのおバカテンションで、声量だけ抑えて夜中の内緒話モードだ。

 電話越しに聞こえたセセリアのリアル音声に、さっきとまた違ったドキドキが始まる。

 

「明日でもいい事だったら明日ぶつかんね」

「うわぁん暴力反対ー!

 うん、あのさ……」

 

 声だけ怒ったふりして、”わたし”は緊張しながらスマホを強く握りしめる。

 セセリアはこういうとこでは非常識な事はしない。うっかり奇麗なおねーさん絡みで羽目を外さない限り。

 本当に必要な事なんだろう。不安と心配でぐるぐるしながら、”わたし”はセセリアの続きを待つ。

 

「キミが好きです。

 リアルでも、ボクのカノジョになってくれますか?」

 

 不意打ちだ、がつんと心をぶん殴られた。

 不安なんて吹っ飛んで、驚きと喜びが胸の中で手を繋いで仲良くラインダンスを始める。

 やり返された! 頬っぺたを朱色に染めながら、スマホを両の手で握りしめて身体をプルプル震えさせた。

 

「……ごめんね、夜遅くに。

 これ、絶対言っとくべきだと思ったんだ。

 キミ、リアルではどうなんだ、とか考え始めてぐるぐるしちゃいそうだし……」

「……ううん。

 ありがと、嬉しいぃ……」

 

 消え入りそうな声で、”わたし”は呟く。ロウジの声とはまるで違う、内気で引っ込み思案な”わたし”の声だ。

 この言葉は、セセリアの誠実さだ。

 驚きと愛しさでどうかしそうな頭の中、”わたし”は必死に声を張り上げた。

 

「”わたし”も君が好きです。

 リアルでも、彼氏になってください」

「良かった! 今、とっても幸せです!」

 

 懸命に”わたし”が絞り出した声に、照れくさそうだが明快にセセリアが返答する。

 幸せ、嬉しい、ハッピー。ポジティブワードがむくむく湧いてきて、心をいっぱい埋め尽くす。

 リフレインする幸福感を噛みしめながら、”わたし”は小さく決意を固めた。

 

「……ねぇ。後ちょっとだけ今夜の”わたし”に時間くれる?」

 

 変わらない関係が好きだけど、セセリアは、ほんの一歩だけでも進む事を決めたんだ。

 きっと明日は、いつもとほんの少しだけ違う明日がやってくる。

 いつも通りの日常を過ごしながら、夢に向かって二人で共に歩いてく。

 なら、”わたし”も一歩、小さくでも何かを変えなきゃならないはずだ。

 

「なーに?」

 

 きっと真面目な顔で、きみは”わたし”の言葉を待ってくれてるんだろう。

 ”わたし”は息を整え、考えを整理し、ゆっくりと言葉を絞り出す。

 

「”わたし”の背中に翼があるとか、思ったことなんてなかった……」

 

 ただ楽しいだけで夢中で挑んできただけだ。バトルだって別に自信があるわけじゃない。

 仲間と出会いに恵まれて、たまたまいいところで勝ってきただけだ。

 でも、他でもないセセリアが保証してくれたんだ、信じるさ。

 

「約束する。

 ”わたし”、強くなる。

 きみの後ろに隠れてばかりじゃなくて、もう少し、はっきり喋るよう……がんばる。

 君以外にも、リアフレ増やせるよう、声もかけてみる」

「……うん。うん」

 

 優しい声の相槌に、にっこり笑顔のきみが思い浮かぶ。

 セセリアは、本当にいつも優しい。勇気づけられ、”わたし”は言葉を続ける。

 

「もちろん、ガンプラバトルももっと少しずつ頑張ってみる!

 未来の”わたし”がプロにだって負けないように。

 ……きみが望む場所に、君を連れていけるように」

 

 電話越しに、”わたし”はささやかな誓いを結ぶ。

 今まで気づかなかったようなささやかな翼だ。

 けれど、傍にきみがいてくれるなら、きっと空だって飛べるはずだ。

 

「うん、いっしょに、ちょっとずつ頑張ってみよーね。

 ……ごめん、廊下で足音聞こえた、マジヤバ!」

「おーまいがー。ここまで、今日はここまで!」

 

 セセリアが焦ったように言い、”わたし”は笑って電話を切る準備をした。

 

「ぐっない、また明日」

「おやすみ、また明日!」

 

 電話がきれた後も、”わたし”は夢見心地のままスマホを握りしめたままだった。

 ずっと心がふわふわしたまま、身体はぽかぽかあったかい。

 ”わたし”はベッドに大の字に寝転がり、スマホを握ってない方の手を天井へ伸ばす。

 何もないところで掌をぐっと握りしめ、ふわっと”わたし”は笑う。

 

「……ぜったい、もう。離さないもん」

 

 昨日までも、君はずっと傍にいてくれた。

 明日からも、君はずっと傍にいてくれる。

 当たり前の幸せが、明日も続く。

 どんなごほうびより甘くとろける未来絵図だ。

 電気を落とした真っ暗闇の中、自室の天井を見つめ、”わたし”は呟いた

 

「きみの傍だけは……譲れない」

 

 どんな夢や願いよりも強い、譲れない想いだった。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ヒマなベテラン陣

 

 オンラインゲームが煮詰まってくると、既存のコンテンツを遊び尽くしたベテランはヒマをもてあます。

 すると、どうなるか。選択肢の一つが、新人の世話を焼き始めることなのである。

 最初の村やエリアにとどまり、チャットのやり方やバザーの使い方、システムについて教えてやる。

 場合によってはパワーレベリングしたり、初心者向きの武器防具を譲ったりなどもする。

 対価は感謝と、新鮮な刺激、初心を思い出すことなどだ。

 チュートリアルが未整備で、オンラインゲームが未知の遊びだった頃の文化である。

 GBNについてはベテランダイバーは新人への干渉は控える傾向にある。

 基本的なチュートリアルは揃っているし、自分達の干渉で新人達の体験の新鮮さが失われるかもしれないからだ。

 今回のバトルにおいては、イベントに応募するほど外向きに活発で、さらにプロを撃ち破ったと言う経験から、

 ロウジ達を素敵なおもちゃと思ったのだろうと考えられる。

 行き過ぎると不幸しか産まないが、適度であれば新人とベテランの交流は互いにとても有意義なのである。

 




第3話はこれにて完結です。
おまけを投稿して、第4話は9月末ごろになると思われます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。