リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

49 / 98
セセリアがちょっとだけ登場します。
多分ミッション4では唯一の出番です。

次回の投稿は10/27(日)です


ミッション4-2 戸惑う誰かに手を差し伸べよう。

 

 

「ふふん。ロウジもついにネビュラ勲章ゲットしました。

 これで名実ともにエースの仲間入りだよ!」

 

 手にしたスマホ越しにロウジのはつらつとした声が聞こえる。

 得意げなロウジの表情が声だけでありありと思い浮かぶ。

 ガンプラ作業の手を止め、セセリアは自室で一人、思わず笑顔を浮かべた。

 

「自作ガンプラで難関レイドバトルのランダムマッチングなんて、

 人見知りさん基準で、すっごい頑張ったじゃーん。

 えらい、めっちゃえらい!」

「ふふふ。ま、ハサウェイがいっしょだったし。

 ガンプラはセセリアの助言あってこそだけどね」

 

 得意げになった次は、皆のおかげだと謙遜する。

 まったくもっていつものロウジだ。照れくさがる顔がすぐ思い浮かぶ。

 ここはセセリアのリアル自室、ガンプラ作成中の机の前だ。

 ロウジが体験した楽しいGBNライフを、セセリアは聞かせてもらっていた。

 

「デコヴォルヴァでテストしてた新武装、実戦での使い心地はどうだった?」

「ザウォート・ヘヴィのビームキャノンとミサイル、よかったよ!

 デコトレーナーでの使用でも、反動や命中精度も問題なかったし。

 不足してた中距離火力が凄く補強できたと思う。

 実戦的な武装に関してはやっぱりペイル社は一段上かもしんない」

 

 週末の夕食後、今は週に一度のおしゃべりタイムだった。

 カノジョらしい事がしたい、と甘えるロウジの希望で作った時間だ。

 

「あと、ディランザのヒートアックス。めっちゃ良かったね。

 デストロイに痛烈な一撃ぶち込めたもんね。

 ただし、うっかりその時、左腕犠牲にしてその一撃で使えなくなったのは要反省かな。

 気に入ったから、ヒートアックスの塗装を完璧に仕上げて正式武装にしちゃうね」

「えええ……まぁいいけどさ。ドン引きされても知らないかんね。

 後やっぱり、予備武装としてビームサーベルあった方がいいよ。

 デコヴォルヴァのサーベル、そのまま共有しちゃうといいよ」

 

 忙しいセセリアだが、おしゃべりの時間はとても有益だ。

 この時間だけはガンプラ作りの手を止め、ロウジとたわいないおしゃべりに興じる。

 ロウジのニーズや率直な意見をきちんと吸い上げられるし、

 早口でぺちゃくちゃ喋るロウジ、皆が知らないロウジを独り占めできるのは正直悪くない。

 

「レイドバトルで、一緒の戦場でコンビネーション組んだ相手がちょーびっくり!

 顔見知りのクランプさんだったんだよ。すっごい頼もしかった!」

「ああー、GBN初体験の時にバトったグフの人だよね?

 すっごい偶然。ランダムマッチングでそんな事あるんだ」

 

 この秋、セセリアは完成したルブリス改良型をガンダムベースのコンテストに出品し、

 師匠と仰ぐガンプラプロビルダー、ロウジのパパに弟子入りを正式に認めてもらった。

 今は進学に悩みつつ、プロを目指してガンプラ作りの腕を磨く日々を過ごしている。

 

「それでね、クランプさんのフォースメンバーにガデムさんっていう知らないおじさんがいてね……」

 

 ロウジが一週間の出来事を楽しげに語り、セセリアは笑顔でうなずき、相槌を打つ。

 師匠に出されたガンプラ作りの課題をこなすのに追われ、しばらくロウジと一緒にGBNは出来ていない。

 

「知らないおじさんにロウジのファンだって言われてフレンドなった!?

 なぁにそれ! 人見知り克服、すっごいがんばってるじゃん」

「うん。今度いっしょにPVPレイドミッション遊ぶ約束もしたんだ!」

 

 セセリアはガンプラ修行、ロウジは対人関係がんばる。お互い今は我慢の日々だ。

 目的を持った課題をこなすうち、ガンプラ作りの腕が上がってる実感もある。

 

「ハサウェイがリアル事情でいないんだ。

 不安だけど、ジークジオンで頑張ってみるね」

 

 少し不安そうに、それでもロウジがけなげに宣言する。

 ロウジだってそうだ。リアルでもGBNも、小さな一歩を積み重ねているのが判る。

 すぐ後ろに隠れるロウジを思い出し、セセリアは感慨深く呟く。

 

「ふふ、ボクがいなくても大丈夫じゃん。

 すごいや。でも、ちょっとさみしいな」

「は? 君がいなくてわたしはもっとさみしいんだけど」

 

 ロウジの拗ねた声は、すっごい不意打ちだった。

 なんてかわいい事言うんだこの子ってば。

 危ない危ない。傍にいたらぎゅっとしたくなってたじゃん。

 

「ごめんごめん!

 ガンプラコンテストの結果出たら、また一緒にお出かけしよ?

 甘いものとかたっぷり奢るからさ、機嫌直して!」

「ガンダムベースのカフェでやってるピンクハロちゃんパンケーキセット1380円ね!」

 

 めっちゃ甘えた声でロウジがおねだりしてくる。

 うわ高っか。容赦ない値段設定にセセリアは思わず苦笑い。

 

「ルブリス・ガーディアンエンジェル、入選してるといいね。

 すっごい頑張って作ってたんでしょ?」

「うん、もちろん。キミが超かっちょよくバトれるよう気合入れたさ!」

 

 おねだりの結果を聞くことなく、ロウジが話題を切り替える。

 忘れないようにおねだり内容をメモしておきつつ、セセリアは腕を組んで胸を張る。

 

「でも、コンテスト入選しちゃうと実機がガンダムベースに展示され、

 所有権がガンダムベース側に移行するまでは考えてなかったなぁ……」

「あはは。パパの厳命でコンテスト結果出るまで使用は自粛だもんね。

 ルブリスの出来なら入選するって評価してくれるんだよ、きっと」

 

 一転、セセリアは苦笑いと共に天を仰いだ。

 コンテスト入選した場合、実機が入賞作品としてガンダムベースにしばらく展示される。

 賞金と名誉と引き換えに、展示中はガンプラ製作者でも、ガンダムベース側の許可なしには自由にバトルに使用できなくなるのだ。

 セセリアが作る渾身のガンプラなら、ロウジ用のカスタム機以外ありえない。そう思って選んだテーマだったのだが。

 

「そもそもいきなり入選とか、うぬぼれだとは思うんだけど……

 くっそー、せっかくキミのために魂込めて作ったのに!」

「それでも、可能性はゼロじゃない。

 結果出るまでルブリスでバトるのは封印だよ、がまんがまん」

 

 さとすようなロウジの声に、セセリアは小さく息を吐いて唇を引き結ぶ。

 結局、ロウジのために作ったルブリスなのに、実戦デビューはまだお預けだ。

 正直、ロウジが文句言わずに我慢してくれるのは救いだ。

 

「最近、パパからの課題、どんなのやってるの?」

 

 ロウジがのんびりした声で話題を変えた。

 セセリアは机に積まれたガンプラの箱とテーマの走り書きメモへと目線を落とす。

 

「今、”顧客の要望をくみ取ったガンプラ作り”って課題を出されてさ。

 学校の知り合いにプロ志望の修行の一環って説明して、無償でガンプラ作成代行してるよ」

 

 もちろん目の前にある作りかけのガンプラも、顧客からの依頼で作成中のものだ。

 予算は師匠が補助で3000円出してくれるが、顧客に満足してもらえるものはなかなか難しい。

 

「え。学校の人に夢のこと話したの!?

 笑われたりしない?」

「するよ。そこまでいかなくてもびっくりはされる。

 無責任に応援されるのも、ガチで心配されたりもあったかな」

 

 心配そうなロウジに、セセリアは軽い調子で言う。

 そもそも、家族にだって大反対された。

 条件付きで許して貰えたのは、師匠が作ったプロ挫折後の人生セカンドプランを見せて説得したからだ。

 

「でも、それが当たり前の反応だよ。

 ボクが夢を目指して努力を始めたの、たった半年前なんだし」

 

 努力をしたことのない人間が夢みたいなことを言っても、説得力がないのは当然のことだ。

 部屋の鏡に映る自分を見ながら、セセリアは小さく笑う。

 鏡に映る背だけが高いチャラい日焼けしたガキの顔は、とてもプロになるような人生を歩んできた人間には見えない。

 

「……辛くなったら、無理しなくていいんだからね?」

 

 なんでキミの方がしんどそうな声するのさ。

 やさしいロウジの声に、セセリアは努めて明るく返す。

 

「キミこそ、なかなかいっしょに遊べなくてごめんね。

 ガンプラ部のある工業高校へ進学のとか考えると、どうしても時間がね」

「寛大な御心をもって許してつかわす!

 エニルさんのイベントだけは、絶対いっしょにいくからね?」

 

 なにそのむつかしい言葉。きっと無意味にロウジが偉そうに胸を張ってる。

 セセリアが勝手な想像で笑いをこらえた瞬間、スマホのアラームが鳴りだした。

 

「よし、三十分経過。

 プロ志望のセセリア、ガンプラ作成に戻ります!」

「うん、がんばって! 

 ……だいすきだよ」

 

 またキミってば不意打ちするんだから!

 スマホを握り締め、セセリアは真っ赤な顔で声を絞り出す。

 

「ボクも、だよ」

 

 今日はこれがせいいっぱい。

 スマホの通話を切り、大きく息を吸い込む。

 

「いよっし、やるぞ。

 もうひとふんばり!」

 

 ロウジ成分はたっぷり補給出来た。

 また夢へ一歩にじりよるため、セセリアはガンプラへ向き合うのだった。

 

 

 

 学校の宿題終わらせ、家の手伝い完了。

 学校おやすみの休日、今日はソロだ。何をするのか、自分一人で決められる。

 もちろん何をするのか決まっている。GBNにログインして半日たっぷりガンプラバトルだ!

 

「サイド3への行き方、教えて貰えませんか?」

 

 そう意気込んでログインした早々に、切実な声が耳に飛び込んできた。

 思わず足を止め、声の方へロウジは目を向ける。

 辺りの人へと必死に呼びかけていたのは、見知らぬキャラの姿をした女性ダイバーさんだった。

 アバターの外見年齢は、大学を出て社会人になったばかりだろうか。

 ピンクの髪をヘアバンドでまとめ、OLさんみたいにきっちりとスーツを着込んだ、きれいなお姉さんだった。

 

「教えてください、サイド3への渡航方法!」

 

 大きなボードをヒッチハイクみたいに掲げ、お姉さんがセリフを繰り返す。

 ここはGBN、いつものPVPありサーバーのロビーだ。

 時刻は休日のお昼過ぎ、道行くダイバー達の数も多い。

 けれど、お姉さんのうったえに足を止めるダイバーは誰もいない。

 まるで駅前でアンケートを求めるちょっとめんどくさい人に思えちゃうからかもしれない。

 

「プリーズテルミージオン公用語!」

 

 声を張り上げるお姉さんのアバターの頭上に、ニュービーマークが控えめに浮いている。

 そっか、お姉さん、GBN始めたばかりなんだ。

 まるであのときの僕みたい。心がずきりと痛み、ロウジは自分の胸を両手で押さえる。

 初めてログインした時のロウジは、訳も分からず右往左往するばかりだった。

 あの時は、エニルさんがいてくれた。

 どうしてここに、エニルさんがいてくれないんだろう。

 

「あの、えっと……お姉さん?」

 

 気付けば、ロウジはお姉さんに恐る恐る声をかけていた。

 お姉さんが怪訝そうにこちらを向く。

 ロウジ自身だって自分の行動にびっくりだ。

 やっぱり見知らぬ人との会話は怖い。声が詰まり、全身が震える。

 しっかりしろ僕、このままじゃただの不審者だ。

 

「あなた、ジオン公用語、わかります?」

 

 お姉さんが、真剣な表情でロウジへ問いかけてくる。

 ジオン公用語? ロウジは内心首を傾げた。

 みんな喋ってるのは日本語だ、もちろんお姉さんも。

 

「ジオン公用語、喋れます?

 わたしの言葉、通じてますか?」

「通じてますよ、大丈夫!」

 

 ああ、やっぱり。お姉さん、凄く困ってる。

 言葉の意味はわからない、けど、助けになりたい気持ちが勝った。

 相手の不安を和らげようと、ロウジは声を上げて笑いかける。

 

「何か、お困りですか、お姉さん?」

「ええ、私、困ってるわ。

 でも、あなた、大丈夫?」

 

 おせっかい焼く時のセセリアを真似て、フレンドリーに声をかける。

 声が震えていないだけ、我ながら上出来だ。

 でもお姉さんには何か不満があるらしい。

 

「あなた、大人じゃないわよね。

 わたし、困ってて、助けてほしいのだけれど」

 

 事実の指摘が、ぐさっとロウジに突き刺さる。

 確かにロウジはいかにも頼りない。

 でも、しょうがないよ。

 ここにはエニルさんもセセリアもいない。

 この人を助けられるのはロウジだけだ。

 

「判ります。僕より、お姉さんの方が困ってる。

 だから、何かお手伝いさせてもらえませんか?」

 

 がんばれ僕、GBN歴半年の力を見せる時だ!

 精一杯の気持ちを言葉に乗せ、ロウジは言い募る。

 

「そうね、その通りだわ。

 大人が誰も手を貸してくれないんですもの!」

 

 その気持ちが通じたのだろうか。

 お姉さんが難しい顔をやめ、ふわりと笑ってくれた。

 

「ごめんなさい、そしてありがとう親切な方。

 私はマリコ、とっても困っています。

 わたしに、あなたを頼らせてもらえるかしら?」

 

 マリコが浮かべた大人びた表情に、ロウジは思わず見惚れた。

 こうして、ロウジのはじめての人助けミッションが幕を開けたのである。

 

 

 

 

 表通りから少し離れ、ちょっと奥まった通りに置かれた小さなベンチへ。

 ロウジはマリコと共に場所を移し、軽い名乗りと自己紹介を済ませ、休憩していた。

 

「すごいわね。

 使い捨ての透明容器に入った飲料水。

 品切れのない自販機……」

「すごいですよね、GBNでもタイアップドリンク売ってるなんて。

 雰囲気出しのためのアイテムだと思ってましたけど、

 ちゃんと爽快感がありますね!」

 

 有名企業のロゴ入りコーラをごくごくと飲み干し、ロウジはちょっぴり目を見開いた。

 二人で飲んだペットボトルのコーラは、自販機オブジェクトからGBN内通貨でロウジが購入したものだ。

 

「ご馳走様、ありがとうね、ロウジ」

 

 差し出された空っぽのペットボトルを受け取り、インベントリから遺棄する。

 しゅっと足元においたペットボトルがポリゴンに分解され、きれいさっぱり消え去る。

 

「おそまつさまです、マリコさん

 きちんとリアルでも水分補給してくださいね」

 

 にっこり笑みを返しながら、ロウジは注意喚起する。

 GBN内の飲料水で、リアルの身体へ水分が補給される訳じゃない。

 でも、しゅわしゅわした感覚と清涼感があり、リアルで飲んだみたいに錯覚してしまう。

 

「そうだ、ふと気になってただけれど。

 見た事ない学生服ね、サイド6辺りの私学?」

 

 急に話を振られ、ロウジは目をぱちくりさせた。

 最近のガンダム見てない人なのかな。

 左胸のマークを指さし、ロウジはのんびり解説する。

 

「これはアスティカシア学園の制服です。

 MS開発の大手、ベネリットグループって企業がスポンサーの学園なんです」

「ふぅん。ともかく、連邦の仲間じゃなさそうね。

 連邦の連中に借りを作るのシャクだから、よかったわ」

 

 冗談めかしてウィンクするマリコに、ロウジは穏やかに愛想笑いを返す。

 割とジオン派寄りの人ぽいね。マリコの趣味傾向をこっそり心でメモりつつ、ロウジはマリコに改めて向き直る。

 

「それで、ええと……

 マリコさんは、サイド3への行き方を知りたいんでしたよね」

「ええ、そうよ。

 わたし、気付いたら、いきなりこのデカい建物の中だったの」

 

 マリコの説明はまったく要領を得ない。

 

「気付いたら、ロビーにいた?」

 

 ロウジは面食らい、思わずオウム返ししていた。

 

「最後の記憶は、灼熱する大気圏で愛機が優しい光に包まれるところまでよ。

 ここ、天国とか極楽浄土とか涅槃とか、そう呼ばれる場所じゃないわよね?」

「とっても平和で楽しい場所ですけど、

 死後の世界じゃない事は保障しますよ」

 

 なるほど、マリコさんは多分、キャラの役柄に入り込むタイプの人なんだ。

 ロウジは苦笑いしながら、主観性の強いマリコの説明を解釈した。

 じゃあ、僕もあわせよっか。小さな善意でロウジは決断する。

 

「ここはロビー、色んな場所へ移動出来るとっても大きな宇宙港なんです」

 

 ガンダム世界の登場人物風に、ロウジはマリコへ説明を行った。

 

「そっかー……サイド3行きの定期便に乗れさえすればいいのに。

 わたし、おサイフ落としちゃったみたいなの、通信機もないから、知人への連絡もできないし。

 だから、ロウジくん、サイド3への航路に詳しい船乗りさんと知り合いだったりしない?」

「多分何とかなると思います。

 ただ、問題が一つあって……」

 

 マリコお姉さんの問いに、ロウジは腕組みして考え込む。

 船乗りの知り合いはいない。だが、GBNでサイド3を訪れるのに宇宙船は必要ない。

 

「……どの、サイド3です?」

 

 何せ、宇宙世紀の物語において、サイド3がクローズアップされた作品はたくさんある。

 一年戦争時代ののUC0079、ガンダムUCに出てくるUC0100、クロスボーン・ゴーストのUC0153で3つ。

 一年戦争モノのパラレルであるサンダーボルト版、THE ORIGIN版で2つ。

 GBNで観光用の交流マップとしてだけでも、上記の5つが登録されている。

 

「ああ、そうね。サイド3だけじゃわからないわね。

 コロニーのバンチはどこでも大丈夫よ。

 ジオン公国のコロニーなら、だいたい知り合いがいるもの」

 

 公国であり、共和国ではない。時間軸はUC0079のようだ。

 まるでちょっとしたクイズだ。ロウジは少しばかり楽しくなっていた。

 

「お知り合いに有名人の方もいらっしゃるんです?」

「一番有名な人なら……そうね。

 ジオンのエース、シャア大佐とも顔見知りなの。

 もっとも、わたしがあなたより小さい頃の事よ。

 たぶん、向こうは覚えてなんかいらっしゃらないでしょうけど」

 

 イオでもダリルでもない。じゃあ多分サンダーボルト版じゃないな。

 後はTHE ORIGINかどうかだが……これは正直、判断がむつかしい。

 しいて言うなら、マリコさんは知らないキャラだ。

 ロウジの初代ガンダムの知識は、連邦VSジオンやギレンの野望で覚えたものだ。

 ゲームに出て来ないキャラだとすれば、THE ORIGINにのみ登場キャラである確率が高いように思える。

 

「良し、判りました。

 じゃあ、手近なサイド3へ行ってみましょう。

 もし違ったら別の場所へ向かえばいいですし」

「うそ、ホント!? 助かるけれど……

 そんな気楽に渡航が手配出来るものなの?」

 

 戸惑いと喜び半々にマリコが声をあげる。

 ロウジはちょっと気取った仕草で格好つけてみせた。

 

「実は僕、転移の魔法が使えるんです」

「そう……あなたも、魔法使いだったんだ?」

 

 マリコがふわりと笑い、のんびりうなずいてくれた。

 即興のロールプレイだが、ロウジの言葉選びはどうやら正解だったらしい。

 

「マリコさん、小隊の申請を出します。

 転移は小隊単位なので、YESを押してもらえます?」

「あらほんと、なにかメッセージが出たわ」

 

 臨時小隊メンバーリストにマリコの名が出るのを確認し、ロウジはシステムウィンドウから非戦闘エリアへの移動を選択する。

 サイド3(THE ORIGIN)へ。文字を確認し、ロウジは神妙な表情でマリコへ頷いてみせた。

 

「では、行きます!

 ……お手を失礼」

 

 万一にもはぐれたら困る。そっとマリコのしなやかな手を取り、ロウジは目を閉じた。

 

「光と風を司る精霊よ。

 ロウジ・チャンテの名によって命ず。

 我が前に開け、はるか遠けきところへ繋ぐ門」

 

 朗々たる詠唱が、まったく無意味に辺りへ響き渡る。

 ロウジが黒歴史ノートに書き連ねた、まったくオリジナルの呪文詠唱だ。

 呪文を唱えるふりをしながら、ロウジはしれっとシステムウィンドウで転送開始を選択する。

 自分とマリコの姿が光に包まれるのを確認し、ロウジは詠唱を続ける。

 

「時を司る精霊よ。

 ロウジ・チャンテは願う。

 我らを運べ、時を飛ばし、彼の地へと。

 疾く!」

 

 詠唱を結ぶタイミングで、ちょうどロウジのアバターが光に包まれ、テクスチャーが分解された。

 同時に視界がホワイトアウトし、漆黒の宇宙空間でローディングが始まる。

 体感大体30秒くらい。ゆっくりと周囲の景色がダイバーギアのバイザー越しに見え始める。

 

『非戦闘エリア サイド3(THE ORIGIN)』

 

 システムメッセージの説明を目視し、ロウジはゆっくりと周囲の景色を見回す。

 まるで大魔王の居城のような首相官邸が目に入る。

 間違いない、ここはサイド3のズムシティだ。

 

「テレポート完了、ヨシ!

 ありがとう精霊さん」

 

 エリア移動完了を確認し、ロウジは存在しない精霊へと茶目っ気たっぷりにお礼を述べた。 

 もちろん、即興の呪文詠唱はロウジオリジナルである。

 

「マリコさん、もう大丈夫ですよ」

 

 気付けばマリコが、目を閉じて身体をぎゅっと強張らせていた。

 わかる。初めてだとエリア移動、ちょっとびっくりするよね。

 まだつないだままだった手を離し、ロウジはマリコを安心させるように優しく声をかけた。

 マリコが目を見開き、弾かれたように顔を上げて周囲を見回す。

 

「あの勇壮で神秘的な建物!

 あれこそは我らがジオン公国のシンボル。

 間違いないわ、ここはサイド3……ズムシティ!」

 

 うん、やっぱりあの建物、目立つよね。

 魔王さんの住む城みたい。

 

「マリコさん、もう大丈夫そうです?」

「ええ。知り合いに連絡してなんとかしてもらうわ。

 お金と通信システムを貸してもらわないと」

 

 ほっとした顔のマリコとは裏腹に、ロウジは難しい顔だった。

 何せ、本当に問題なのはここからだ。

 

「本当にありがとう、ロウジくん。

 お礼がしたいから、もう少しだけお付き合いしてもらえる?」

「はい、もちろんです!」

 

 ロウジは笑顔で答え、マリコを送り出す。

 マリコさんが行きたいサイド3、ここでよかったのか。

 ズムシティ官邸へ駆け込むマリコの背を、ロウジは難しい顔で見送るのだった。

 

 

 

 答え合わせは、すぐに終わった。

 ここはマリコの目指していたサイド3ではない。

 まるでこの世の終わりみたいなマリコを見れば、ロウジにもはっきり判る。

 ズムシティ官邸のロビーに置かれた休憩用長椅子で、マリコが力なくうなだれていた。

 

「はい、マリコさん。お水です。

 これ飲んで、一息入れましょ……?」

 

 憔悴したマリコを心配し、ロウジはペットボトルのお水をそっと差し出す。

 マリコが震える手でペットボトルの蓋を開け、半分ほどを飲み干す。

 ペットボトルに残る水をじっと見つめたまま、マリコがかすれた声で呟いた。

 

「……ありがと、ロウジくんは優しいわね」

「落ち着いたら、他のサイド3へ回ってみます?」

 

 このままマリコさんを放っておけない。

 純粋な親切心から、ロウジは手助けの続行を申し出た。

 

「ううん、大丈夫。ありがと。

 でも多分、あなたの魔法でも帰れないから……」

 

 どこかふっきれたように呟き、マリコが残る水を一息に飲み干す。

 そのまま勢いよく立ち上がり、空いたペットボトルを回収ボックスにそっと押し込む。

 

「少し、歩きながら話しましょう」

「はい、お供します」

 

 笑顔を浮かべ、マリコが誘う。

 マリコの顔色もだいぶ良くなったようだ。ロウジはほっとした顔でマリコの後に続いた。

 官邸を出て、表通りに移る。非戦闘エリアのここは、いわば観光地だ。

 まばらな人影の殆どは雰囲気出しのために配置された人間NPCだ。

 ワイワイ騒がしいのは、同じく観光に来ているジオン軍服やパイロットスーツ姿のダイバー達だろう。

 官邸の方へつるんで歩いていくダイバーの一団に目を細め、マリコが静かに呟いた。

 

「ずっと、拭いきれない違和感があったの」

 

 マリコの横顔は、とても真剣なものだった。

 ゆっくりとマリコの歩調にあわせながら、ロウジは静かに頷き、続きを待った。

 

「あの大きな宇宙港、ものすごく活気があったね。

 連邦の人もジオンの人も、他にもよくわからない軍服の人がいっぱい、それも皆楽しそうに。

 中立地帯のサイド6や月面都市だって、あんな雑多で……平和な雑踏、見たことなかったわ」

 

 確かに、ロビーはいつもお祭り騒ぎだ。

 それと比べればこのサイド3は人気がない。官邸を少し離れると、ダイバーの姿はほとんど見受けられない。

 観光用に設定されたこのエリアは、一年戦争時とは思えないほど静かで、とても穏やかな雰囲気だ。

 

「それに、ロウジくんの奢ってくれたドリンク。

 きれいで清潔な使い捨て容器、自販機に品切れもなく、

 最初のとことズムシティで全く同じ品ぞろえ。

 びっくりするくらい流通と経済が安定してなきゃ、こうはならない」

 

 マリコが道をそれ、人気のない裏道へと迷いのない足取りで入っていく。

 やっぱりマリコさん、サイド3にめっちゃ詳しいんだ。

 ロウジは正直、現在地を把握するのをほとんど諦めつつある。

 

「ズムシティの官邸で、違和感は決定的なものになったわ。

 デギン首相のでっかい絵こそ同じだけれど、警備度合いがまるで違う。

 一般市民がご自由にどうぞ、なんて終戦直後の空気でもありえないわ」

 

 一歩二歩とマリコが先に進み、ゆっくり笑って首を横に振る。

 まるでサスペンスの探偵の謎解きを聞いている時みたいだ。

 いよいよ真相に迫るのか。ロウジは思わず生唾をごくりと呑み込んだ。

 その時、ロウジの視界が大きく開けた。

 マリコとロウジの歩みが裏道を抜けたのだ。

 180度開けたパノラマの空間に、ロウジは思わず見入り、声を漏らした。

 

「わぁ……すごい!」

「お父さんが教えてくれたひみつの場所よ。

 景色はいいし、何より、ないしょ話には最適なの」

 

 ロウジは目を輝かせ、手すりを掴んで周囲を見渡した。

 吹き抜ける風が、ダイバーギアごしに頬を揺らしている気がする。

 そこはまるで展望台みたいな、長めのいい場所だった。

 丸いコロニーの壁面と、そこにたくさん作られた様々な建物、そして大型のスペースポートが見てとれる。

 

「ロウジくん、笑わないで聞いてくれる?

 あなたを信じて、話したいことがあります」

 

 真剣な声音に、ロウジは弾かれたように景色から目を外し、マリコを見やる。

 色んな感情がまじりあった瞳で、マリコが微笑んでいた。

 マリコがまるで消えてしまいそうにはかなげで、ロウジは緩んだ頬を引き締め、背筋をまっすぐに伸ばす。

 

「はい。聞きます!

 すぐに信じられるかは判りませんが、笑わないって約束します」

 

 微笑みをかすかに喜びの色に染め、マリコがふわりとうなずく。

 一言一句聞き漏らすまいと、ロウジは全身全霊で集中する。

 

「ここは、わたしの故郷、サイド3じゃない。

 それどころか、ここはきっと……わたしの元いた世界じゃないわ」

 

 ロウジは声もなく目を見開き、マリコの顔をじっと見つめた。

 ”元いた世界”!? ファンタジックなワードに、マリコの言葉に数秒遅れ、ロウジの心臓の鼓動が大きく跳ねた。

 ロウジが事態を呑み込むのを待ってくれていたように、マリコがゆっくりと続いて語り始める。

 

「ジオン公国は独立戦争を挑み、終戦協定を結んだわ。

 けれど戦争は終わらなかった。グリプス戦役、アクシズの帰還、そしてシャアの反乱。

 終わらない戦いの渦にずっとわたし達の世界はあった。

 わたしは大気圏で燃えるアクシズを支えながら、不思議な光を見たの」

「……サイコフレームの、輝き?」

 

 思わずロウジが漏らした言葉に、マリコは肯定とも否定とも言えない微細な表情で微笑む。

 

「たぶんその時、わたしは世界の壁を越えたの。

 確証はないけど、そうとしか考えられない。

 もしかしたら今のわたしは、幽霊みたいなものなんじゃないかしら」

 

 笑うどころの騒ぎではない。事態が大きすぎて、理解が追い付かない。

 その言葉を信じるなら、マリコさんはガンダム世界の元住人だってことじゃん!

 

「わたしは、“異邦人”のマリコ。

 ジオン公用語だと、マリコ・ストレンジャーね」

 

 誰に言えって言うんですかっ!?

 声にならない悲鳴をあげ、ロウジは無言のまま天を仰いだ。

 世界の命運を揺らがすような秘密なんて、モブな自分には手に余るに決まってる!

 

「”異邦人”のわたしとのファーストコンダクター、それがあなたよ。

 ロウジくん。誰にも、言わないでね?

 

 マリコに見えないようにこっそり後ろ手でリアルの手をつねる。めっちゃ痛い。

 本当なら、眉に唾を付けてみたい。こんなの夢にしか思えない。

 それでも間違いなく、目の前の事態は、目の前のマリコさんは現実の存在だった。

 

「信じます。マリコさんが、違う世界からやってきたたこと」

 

 言葉を噛みしめるようにロウジは呟き、マリコをじっと見つめる。

 今日と言う日を、多分ロウジは一生忘れないだろう。

 ロウジが受領したのは、はじめての人助け、なんてことないミッションのはずだった。

 今、目の前に提示されたのは、とんでもないシークレットミッションだったのである。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・転移ゲートを使わないエリア移動

 

 GBNでは通常、エリア移動はゲートを介して行われる。

 ただし、ロビーなどの非戦闘エリアにおいては、例外的にダイバーが直接移動コマンドを入力する事で移動が可能だ。

 移動の利便性を確保するために、後年アップデートで追加された機能である。

 ニュービーには解放されていないが、 簡単なチュートリアルのお使いミッションをこなす事で解放される。

 移動先は各エリアに設定されたエリア移動先の場所となっており、その先の移動は徒歩や、ガンプラなどで行われる。

 あえて旅行気分を楽しむ場合、高速移動できるガンプラを持っている場合、エリア移動でワープせずに飛行によって移動する事も可能だ。

 もちろん、世界観の違う宇宙世紀からコズミックイラへ移動する場合はエリア移動するしかない。

 もちろん、ロウジのオリジナル呪文はちょっと変わったロールプレイの一環である。

 小さいころに、もし自分に魔法が使えたら、ってオリジナル魔法や詠唱を考えた人もきっといるはずだ。

 ロウジはそう言う設定にやたら凝る、ゆかいな性格だったのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。