リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
ここまで読んでくださる皆様に感謝を。
今回も割と難産でした……次回は11/10(日)に投降できるといいな。
”異邦人”あまりに耳慣れない単語だった。
いったい自分は何を語られるのか。喉がどうしようもなく乾く。
エニルは手探りでリアルの手元、ペットボトルを掴み、蓋を開けた。
ぬるくなったミネラルウォーターを一息に飲み干し、エニルは短く息を吐く。
「さて、エニル。
まずはこの映像を見て欲しい」
今いる場所はGBNの運営しか入れない秘匿サーバーに作られた、応接室だ。
カツラギの言葉と共に、壁の大型モニターにGBN内の映像が映し出された。
大空でコアブースターとチェイスする見覚えのない流線形の航空機がそこには映っていた。
「君ならば、きっとこの機体が何か知っているはずだ」
試しているつもりか。旧知の有人の言葉にエニルは軽く鼻を鳴らし、映像へ意識を集中する。
一緒に映ったコアブースターと大きさを比較するに、かなり大きめの航空機だ。
恐らくはTMSの飛行形態だ。しかも機体に刻まれているのはジオン空軍のエンブレムだ。
「……まさか!?」
アクシズでもネオジオンでもなく、ジオン公国が有するTMSなど、一つしかない。
エニルの反応にうなずき、カツラギが次の映像を映す。
先ほどの航空機がMS形態へ変形し、コアブースターにザクマシンガンを撃ち込んでいた。
「MS-06 ザクスピードだと……」
「そう、外伝系の漫画に掲載されたかなりマイナーに分類される機体だ。
まだゲーム以外で映像化されたことはないはずだが、やはり知っていたか」
なんてマニアックなガンプラだ。エニルはダイバーの渋すぎる選択に思わず舌を巻く。
ジオン公国軍が開発したとされるTMSの試作機だ。正式採用はされておらず、正式な形式番号はない。
GBNにNPC機としてすら実装されておらず、もちろんガンプラとして一般販売もない。
「航空機形態とMS形態をフルスクラッチか。
まさか幻の変形機構まで再現したと言うのか?
なんて愛に溢れた、そして素晴らしいビルダーだ」
エニルは惜しみない賞賛をザクスピードの製作者に送った。
ザクと名こそつくが、この機体はザクⅡと共通したパーツはほとんどない。
これほどのビルダーが何か問題行動を起こしたなら、実に惜しい。
カツラギがエニルの言葉を受け止め、ゆっくりと語る。
「エニル。良く聞いてくれ。
これは、ガンプラではないのだ」
カツラギの言葉が理解できず、エニルは表情を強張らせた。
「待て、つまりガンプラとしてではなくCGモデル……NPC機と言うことか?」
いや、違う。エニルは自分の言葉を自分で否定する。
カツラギがわざわざ対面で呼び出す事実が、その程度であっていいはずがない。
「この戦闘において、正規にログインした形跡のないアカウントが二つ確認された」
「……GBNへの不正アクセスがあった、と?」
かすれた声でエニルは言葉を発した。
ぐらり、まるで世界が音を立てて揺らいだかのような衝撃だった。
「一つは、エグリー大佐。ザクスピードを操るダイバーのアカウントだ」
エニルは小さく短く呼吸を繰り返し、心臓の鼓動を落ち着かせようと努める。
カツラギがエニルを見つめ、ゆっくりと言葉を続けた。
「もう一つはザクスピード。この映像の機体そのものが、我々運営の手を介さぬ謎の存在だ」
つまりこのザクスピードは、ダイバーギアを介さず違法に接続した”謎のガンプラもどき”と言う事だ。
悲鳴のように短く息を漏らし、エニルはもう一度、リアルのミネラルウォーターを飲み干した。
「なるほど、このザクスピードこそが件の“異邦人”か」
「その通り。無論、口外無用で頼む」
通常、ダイバーが持ち込むガンプラにアカウントはない。
あくまでダイバーに紐付いたIDが刻まれるだけだ。
ガンダイバーがポーカーフェイスを貫く。
エニルはカツラギに真顔で頷き返し、問いを投げかけた。
「しかも、わざわざ”異邦人”などと名付けたと言う事は、
ザクスピードだけでなく、同様の事例が幾つもあるのだな?」
「君は理解が早くて助かる」
ガンダイバーフェイスに悪い顔をさせ、カツラギが説明を続ける。
「発端はこのザクスピードだ。
第11回ガンプラ鳥人間コンテストに乱入し、この映像のコアブースターを始め、ガンプラへの攻撃を行った。
その後、ダイバー有志による包囲を受け、無事に撃破された。
なお、撃墜と同時にザクスピード並びにエグリー大佐のアカウントは消滅し、追跡も不可能となった」
行為だけは、典型的な迷惑ダイバーだ。
だが、アカウントが作成され、撃墜後に消滅するという挙動には異様なものを感じる。
「この件に端を発して、特別な調査チームを作り、情報収集に努めた。
結果、ここ半年に同様のアカウントが数例観測された。
どれも戦闘行為を行った後、迷惑ダイバーとして自治の範囲で討伐されている」
「どれもまた……マイナーどころの機体ばかりだな」
後方モニターにポップアップした映像資料を吟味し、エニルは率直な感想を呟いた。
パーフェクトザク、アモンドック、ゼファー。
機体名なら辛うじて覚えがあるが、搭乗者となるとエニルすら知らない名前がほとんどだ。
「このうち一機、パーフェクトザクに搭乗したアカウント、Dr.Qが名乗ったのだ。
我こそは”異邦人”なりとね」
「コミュニケーションできる相手か。
実際に事実かどうかの裏はとれたのか?」
エニルの問いに、カツラギが首を横に振る。
真偽は不明だが、とりあえずの呼称として”異邦人”でひとくくりしていると言う事か。
「いいや。残念ながら、パーフェクトザクは戦闘不能と同時に自爆してしまった。
依然、”異邦人”の目的が不明のままだ。
現在のわれわれは、GBNの被害を抑えながら、情報収集に努めている」
確かに情報が必要だ。エニルは真剣な顔でうなずいた。
不正アクセス者の”異邦人”達が、ただの迷惑ダイバー程度でとどまればまだいい。
将来的にGBN全体に悪影響をもたらす事も十分考えられる。
「”異邦人”からの直接の情報収集は出来ていないが、手掛かりはあった。
これを見てほしい。”異邦人”のアカウントが出現した時期の分布だ」
新たに示された折れ線グラフを確認し、エニルはうめいた。
「この2ヶ月の間に集中している……?」
エニルはゆっくりと顔を上げ、カツラギを見る。
エニルの呼ばれた理由がようやくわかった。
「そう。2か月前、君が監修として参画したブラスターマリステージの実装が発表された。
“異邦人”の来訪数が、その後大幅に増加しているのだ」
やめたはずのタバコが無性に吸いたい。
煙の代わりにため息を吐き出し、エニルは天を仰ぐ。
「まさか、マイナー機体愛好者による抗議デモだと言うのか?」
ブラスターマリを実装するより、もっと他に実装すべき作品があるだろう。
そう思う過激なファンがいたとしても、おかしくはない話だ。
「抗議デモとは言わない。
だが、一連の事件を有識者に相談したところ、
ブラスターマリステージの実装が呼び水になった可能性は高いそうだ」
なんて笑えないジョークだ。エニルはアメリカンな仕草で肩をすくめてみせた。
確かにこれは、対面で話すような事態だ。
ブラスターマリステージ実装に関し、エニルは協力者として大きく関わってきた。
企画凍結も覚悟し、エニルはカツラギに向き直る。
「現状、運営側はブラスターマリステージ実装をどう考えている?」
「現状のままなら延期や企画凍結はしない。
ただし、サプライズの宣伝行為はなしだ。
逆に宣伝のためにブラスターマリ登場を予告し、注目を集める」
エニルは呆れたように笑った。
「ブラスターマリに、囮になれと言うことだな」
「サブマスターを招集し、トラブル対処能力の高いフォース有志を招待し、万全の態勢で望むと言うことだ」
つまり運営は謎のテロリストを挑発し、行動を起こさせようとしているのだ。
「企業が無償でデバッグ作業をさせるのはどうかとおもうぞ」
「残念ながら、このGBNにおいて、戦闘力で運営は有志ダイバーにかなわないんだ」
エニルの軽口に、カツラギから真面目くさった返答が返って来る。
考えてみれば、GBNはまったくもっておかしな世界である。
そこらの一般市民が正規軍の一個小隊とやりあえる力を持っているのだから。
「今後、公私いずれの状況でも、”異邦人”と遭遇した際はこのプログラムを発動させてくれ。
”異邦人”との戦闘を公式サプライズミッションと偽装する事が出来る。
周囲のダイバーと共闘しつつ、”異邦人”の情報収集に努めてくれ。
サブマスターを名乗る事は厳禁だが、調査のためにシークレットでサブマスター権限を使用しても構わない」
「了解だ。詳しい規定を教えてくれ」
エニルは書面で契約を交わしあい、カツラギと詳しい条件の詰めに入る。
実際に遭遇した際のROE、外部ダイバーへの情報開示レベルなど、細々と打ち合わせが続いた。
やがて、時報のチャイムが応接室になった。
エニルは書面をデータ化して手元に取り込み、呟いた。
「せっかくの”異邦人”との接触と言うのに、
蓋を開けてみれば、対話ではなくガンプラバトルか」
「残念ながら我々は時代へ取り残されたオールドタイプに過ぎないのだよ」
同じく書類をデータ化して収納しながら、カツラギが真面目な顔でそう返す。
「エニル、これは世界の危機なのだ。
対話を目指すのも結構だが、武力に対しては武力で対処するほかない。
”異邦人”と遭遇した場合は。くれぐれもよろしく頼む」
「武力で対処できない相手が出ない事をせいぜい祈るとしよう。
木星に封じられたギガンティスが逆襲してこないとも限らんからな」
マイナー漫画のネタに、カツラギが思い切りせきこんだ。
あまりに激しい反応に、エニルは反省する。
世界もろとも因果地平のかなたへリセットされるのは、運営としては勘弁願いたい光景だろう。
「すまない。ジョークとしては物騒すぎたな」
「その時はエニル、君はメガゼータで最前線送りだ」
気さくな口調でブラックジョークを投げ合い、エニルは席を立った。
自分がニュータイプなどと驕れるような歳ではない。
だがたとえ頑迷なオールドタイプだろうが、守りたい世界はあるのだ。
『エリア:アーティ・ジブラルタル(UC0153)』
目をつむって数十秒、気が付けばここはもう、目的地だ。
モニターに表示されたシステムメッセージが、マリコにそう教えてくれている。
「ロウジくんの魔法、本当にすごいわね……」
作ったばかりの愛機、ザクのコクピットでマリコは感嘆する。
ガンプラハンガーから繋がる発艦カタパルトで、マリコとザクは射出の時を待っていた。
「あの、マリコさん。出撃する前に……ちょっと、お話が」
「どうしたの、ロウジくん?」
唐突に通信ウィンドウが開き、ロウジの深刻そうな顔が映る。
マリコは背筋を伸ばし、穏やかにロウジへ問い返す。
「ごめんなさい、マリコさん。
ずっと言い出せなかったんですけど……」
ロウジがもじもじと身をよじり、意を決したように深々と頭を下げた。
「僕、魔法使いなんかじゃありません!
このエリア移動は、GBNのシステムによるものなんです……」
その態度、とっても見覚えあるわ。マリコは小さく笑みを噛み殺した。
やんちゃな弟たちが、しでかしたいたずらを告白する時のヤツだ。
「ロウジくんは、どうして自分を魔法使いだって言ったの?」
「えっと……”ロールプレイ”って、キャラになりきる遊び方があるそうなんです。
マリコさんが深刻な状況の異邦人だと知らず、ジオン公国民のなりきりだと思っちゃって!
だから、調子を合わせるつもりで、格好つけたんです……」
なるほど。ロウジくんなりの、ほんの小さな親切心のつもりだったわけだ。
マリコはふわりと微笑み、悲痛な声のロウジの言葉をそっと止めた。
「正直に言ってくれてありがとう、ロウジくん。
やっぱり、そうだったのね」
「き、気付いてたんですか!?」
優しい赦しの言葉に、ロウジがびっくり顔で目を見開く。
確証はなくとも、マリコはうっすらとは気付きつつはあった。
「じゃあ、わたしも同じようにGBN内の転移、出来るようなるのね?」
「はい、ゲートを介せば今すぐにでも。
その場からの転移も、小ミッション幾つかこなせばいけるようなりますよ」
このGBNが仮想世界であり、システムの多彩な補助がある。
そして、あれだけ親切なロウジが、魔法絡みの助言が全くないのは不自然だろう。
マリコは穏やかにうなずき、ロウジへ言葉を投げかけた。
「ジブラルタルの空港で、ソフトクリーム奢ってくれる?
そうしたら水に流してあげます」
「判りました。
楽しい観光にしましょうね!」
『進路クリア、発進どうぞ』
まるで会話の終わりを見計らったかのように、システム音声が発艦を促した。
「ザク、マリコ・ストレンジャー。出ます!」
さぁ、楽しい観光の始まりだ。
はりきって叫び、マリコは操縦桿を握りしめるのだった。
ロックオンアラートがマリコを追い立てる。
モニター真横、上方から斜めに撃ち込まれたビームの光が地面で炸裂した。
完成したばかりの愛機ザクのコクピットで、マリコは必死に叫ぶ。
「ねぇ、ロウジくん。
わたし、頼んだの観光案内だったと思うんだけど!」
「ごめんなさい、アーティ・ジブラルタル、通常フィールドなんで……
普通にCPUとのランダムエンカウントが発生しちゃうんです!」
これはうっかり居眠りで、ロウジくんをお待たせしちゃった罰なのかしら。
マリコは無我夢中で操縦桿を握り、心の中で思わず嘆いた。
戦場はアーティ・ジブラルタル(UC0153)、マリコが観光を希望した場所のはずだ。
背後には宇宙引越公社マークが入った管制塔と、天へ向かって斜めに突き出された巨大なレールが映っている。
「後ろの敵機、地球連邦じゃないよね!?
一体どこのどちらさん!?」
「所属はベスパ、イエロージャケット。
ザンスカール帝国の傑作量産機、トムリアットです!
こっちのヤツは……後一機!」
マリコが知らない勢力の名前、まったくもって地球情勢は複雑怪奇だ。
不気味な飛行音が背後から聞こえる。紫の機体、トムリアットが複数機、空からザクを追っている。
既に別の敵機と交戦中のロウジと合流するため、マリコは悲鳴を上げ、ザクを必死に駆けさせる。
多分方角はこっちだ、さっき爆発の光が見えたもの。
レーダーどころか、周囲の景色を見る余裕なんてない。
「ビーム兵器の上に単独飛行の出来る機体とか、バケモノすぎない!?」
初めて踏みしめた地球の大地、もっとのんびり感慨にふけりたかった。
ロックオンアラートが鳴り響き、マリコは慌ててアームレイカー式操縦桿を真横にスライドさせる。
素人マリコの必死の操作に応え、ザクが右へ左へステップし、ビームの攻撃を何とか回避する。
トムリアットが放つビームライフル、びっくりするぐらい狙いが正確だ。
「ごめんロウジくん、もっかい重ねて聞くけど!」
「マリコさん、そのまままっすぐ!」
ロウジの強い声に背中を押され、マリコのザクは真正面の遮蔽物の影へと飛び込む。
ジブラルタル飛行場の管制塔の高い管制塔、そして飛行場の建物がザクへの射線を遮る。
バーニアの噴射音と共に、スラスターをふかしたピンクの機影がザクと入れ替わるように遮蔽物から飛び出した。
ロウジのデコヴォルヴァだ。
盾とビームカービンを構え、マリコをかばって果敢にトムリアットの編隊へ立ち向かう。
マリコは慌ててザクごと振り返り、遮蔽物の影からザクの頭部を覗かせた。
ザクの正面モニターに、激しいビームの銃撃戦が上映される。
「この敵機、機械制御ガンプラで、兵士さん乗ってないのよね!?」
「はい、そうですマリコさん。
これ全部機械的にプログラミングされたNPC機!」
ロウジくん、強い。マリコは目を見開いた。
先にロウジが会敵していた別の敵機はとっくに排除されている。
そして今もロウジが、マリコの先ほどの疑問に答えながら1対3の戦闘を淡々とこなしている。
敵のビームを軽々と避け、時には盾で受け止め、ビームカービンの斉射が的確に敵の陣形を切り崩していく。
「マリコさん、だから遠慮しなくて大丈夫!
たとえダイバーだって、撃墜してもされても怪我人や死傷者は出ません!」
ロウジが叫び、デコヴォルヴァのスラスターが全開に輝く。
狙いは敵陣右端、大きく回避行動をとって孤立したトムリアットの下半身へ。
デコヴォルヴァが盾を構えて猛烈なタックルだ。
トムリアットが大きく吹き飛び、もんどり打って墜落する。
すかさずビームカービンが追撃し、墜落したトムリアットを完全に撃破する。
だが中央と左端、フリーのトムリアット2機がデコヴォルヴァへ銃器の狙いを定める。
マリコはごくりと生唾を吞み込み、覚悟を決めた。
「どこでもいいから当たって!」
悲鳴をあげながらマリコは操縦桿を前へ倒し、ウェポントリガーを引き絞る。
遮蔽物から飛び出したザクが、空中のトムリアット目掛けてマシンガンを乱射する。
マシンガンの弾のほとんどは虚しく空中へ消えていくが、そのいくつかがトムリアットの各部に着弾する。
「あ、当たった!?」
まさかの命中弾に、マリコはマシンガンを浴びてよろけたトムリアットを呆然と見上げる。
確かに命中はした。だが、ビームローターを盾に持つトムリアットは頑強だった。
左端のトムリアットの狐目が不気味に輝き、ロックオンアラートがザクのコクピットに響き渡る。
「や、ちょっと待って!?」
調子に乗って飛び出したせいで、敵機と距離が近い!
脚部の四連マルチポットからミサイルがザク目掛けて連続して放たれる。
激しい炸裂音とダメージアラートが響き渡る。
大きくよろけ、バランスを崩すザクをあざ笑うようにトムリアットがふわりと優雅に舞い降りる。
正面モニターに、ライフルを構えたトムリアットがカメラアイを輝かせる。
やられる?! マリコは心で悲鳴を上げ、身体を硬直させた。
だが、横合いから飛んできたビームカービンの斉射が逸れに割り込んだ。
ビームローターの根元を吹き飛ばされ、トムリアットが墜落する。
続け様にスラスター音が響き、残った真ん中のトムリアット目掛けてデコヴォルヴァが踊りかかる。
ビームの迎撃を盾で受け流し、そのまま逆手に構えたビームサーベルを下から上へと振り上げる。
「ナイス援護です、マリコさん!」
切り飛ばしたトムリアットの爆発を背負い、デコヴォルヴァが墜落したトムリアットに流れるようにトドメを刺す。
あっという間に敵の編隊を沈黙させ、ロウジが朗らかにマリコをほめてくれた。
ナイスだなんてとんでもない。結局決め手は全部ロウジだ。
デコヴォルヴァの動きだって、マリコの時とはまるで違う。
そしてこの作りたてのザクも、そのデコヴォルヴァより動きはさらに鈍い。
『おのれ、リガ・ミリティア!』
「ロウジ君、いかにもパワー自慢そうなガンプラが!」
歌舞伎役者のように見得を切り、フィールド端に見慣れない敵が出現する。
マリコはモノアイを巡らせ、ロウジに警告を発した。
「ボスガンプラ、メッメドーザですね。
あいつを倒せば戦闘ミッションは終了です!」
「オッケー、ロウジくん。
楽しい観光を邪魔した罪、味合わせちゃいましょ!」
明るく叫びながら、マリコは冷静だった。
ロウジくんにぶつかってもらい、わたしは後ろから援護!
だってわたしは、ロウジくんよりずっと弱いのだ。
遭遇戦が教えてくれた残酷な事実を、マリコはしっかりと心に刻み込む。
「ランダムエンカウントの敵だって、
敵機撃退でミッションクリア、全機撃墜でボーナスです。
せっかくだからGBN通貨しっかり稼いじゃいましょう!」
「ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します、
ロウジ教官!」
軽やかなスラスター噴射の音と共にデコヴォルヴァがボスガンプラの迎撃に飛び立つ。
マリコはロウジを追い、ザクのスラスターを思いきりふかすのだった。
ロウジとマリコ、二人は手にした黒い炭酸飲料のペットボトルをそれぞれ掲げる。
乾杯、そして一気に飲み干す。心地よい清涼感と程よい酸味と甘み、そして炭酸の刺激が身体を癒してくれる。
初戦闘の疲労を、マリコはしみじみと実感した。
「お疲れさまでした、マリコさん。
とんだ災難でしたね……」
「お疲れさま、ロウジくん。
びっくりするほど凶暴な敵パイロットだったわね、
何よ、『機体はそのまま、パイロットは死んでもらう』って!」
ロウジの労いに、マリコは愚痴りながら似てないモノマネを披露する。
時は先ほどのバトルの直後、ここはロウジが所持するガンプラハンガーだ。
コンテナハウスの外に置いた椅子へ腰かけ、マリコはロウジと向かい合って座っている。
「わたしのザク、ちゃんと直るのよね……?」
「大丈夫ですよ!
ちゃんと所定の時間後にはきっちりシステムが完全に修復してくれます」
『ザクⅡは現在大破中です。再出撃可能まで900秒』
マリコの視線の先では、頭部を失ったマリコのザクが大破判定で修復を受けていた。
メッメドーザとのバトル、最終局面だった。
ザクマシンガンを失い、ヒートホークで果敢にメッメドーザへ切りかかった時だった。
ロウジとの連携で敵機に痛打を浴びせる事は成功したものの、メッメドーザの反撃でザクは撃墜されてしまったのだ。
「……もし、あのまま敵の攻撃がコクピットに直撃していたら」
マリコは悪寒に身体を震わせ、自分の方を掻き抱いた。
ロウジが言うには、撃墜されても負傷や死亡なんてないらしい。
だがリアルが存在しないマリコのアバターの身体が、果たしてきちんと再構成されるのか?
真っ赤なダメージアラートが鳴り響くコクピット、今思い返しても背筋がぞっとする。
「……やっぱり、わたしは弱いわね。
これじゃバトルミッションを一人でこなしてお金稼ぐなんて、とても無理」
「大丈夫、僕がフォローするんで少しずつ慣らしていけばいいんです!」
このGBNはやはり、ガンプラでのバトルが目的の世界らしい。
バトルが価値観の世界で、わたしはバトルもガンプラ作りも最低ランク。
やっぱり、今の私には保護者が必要だ。マリコは自分の非力さを痛感した。
ボスガンプラとのバトルでも、マリコはそれを嫌になるほど思い知らされたのである。
「ダメよ。それじゃ、ロウジくんにずっと負担を負わせることになっちゃう」
「いいえ!
先輩として、ニュービー……新人さんのお世話するのはとーぜんのことです」
負担だなどととんでもないとばかりに、ロウジは得意げに胸を張る。
そうか、わたしはこの世界にとって”異邦人”であり、何も知らない”ニュービー”なんだ。
小さな気付きに、マリコは口元に手を当て、驚きを飲み下した。
「ニュービーだったころ、僕だって先輩の人にとってもお世話になりました。
僕がマリコさんをしっかりお世話出来てるなら、光栄です!」
笑顔のロウジを前に、マリコはそっと目を細める。
ひょっとすると、このGBNと言う世界はとてもやさしい場所なのかもしれない。
少なくともロウジが周囲の人に恵まれていたのは間違いない。
「そうね。ロウジくんはわたしの大事な情報源で、パトロンさんだ。
”生活基盤を整える””自衛能力を持つ”などと、GBNで生きていけるのはあなたのおかげね」
でも、だからこそだ。マリコは優しく微笑みを浮かべ、ロウジへ告げる。
「ロウジくん。わたしは方針の転換を決めました。
あなたが信頼するほかのダイバーさんにわたしを紹介して欲しいの」
やさしいあなただからこそ、一人に甘えっぱなしになってはいけない。
社会人として自立して生きてきたからこそ、マリコは固く決意した。
だってあなたは子供で、何よりもたった一人の個人なのだから。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・GBNに未実装の作品について
GBNには数多くの作品のステージが実装されている。
だが、開発力は有限であるゆえ、未実装のステージももちろんある。
優先順位は基本的には知名度による。アニメ、OVA、映画として映像化されたものを最優先とし、
小説、古いコミック、ゲームブック、TRPGリプレイなどの作品はどうしても優先度が下がってしまう。
もちろん、マイナーな作品を愛するダイバー達はガンプラを改造、フルスクラッチなどして参戦もする。
だが、ステージとして実装されると言うのは、自分の愛した作品が公式に認められることだ。
マイナーな作品愛好家にとって、GBNでの実装は悲願の一つなのだ。
ブラスターマリもどちらかと言えばマイナーな作品に分類される。
異例の実相を見たのは運営の特殊な判断によるのは、本編へ記した通りである。