リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回は頑張って12/1(日)19時 予定です

……4話もめっちゃ長くなるってわかって頭抱えております。
よいこのみんなは、プロットもっと練ろうね!



ミッション4-6 作戦目的を最終確認しよう!

 

 

 青年と少女にとって、それは苦い記憶であった。

 

「諸君。戦いへ望む前にこの映像を見てほしい」

 

 青年の言葉と共に、室内の照明が落ち、壁の大型モニターが点灯する。

 ここはGBNのサーバー上の一室だ。

 場にいるのは青年と少女を含め、モニターを前に18人。

 

「これは……私が参加したとある模擬戦の映像ログだ」

 

 語る青年の横に少女は無言で立ち、じっとバトルの映像を見返す。

 映るのは黒海沿岸(UC0079)のバトルフィールドだ。

 画面中央、巨体の黒いガンプラと、ダークブルーのガンプラが対峙する。

 巨体の胸部から、画面を埋め尽くすようにビームの閃光が幾度もほとばしる。

 

「この大型ガンプラを見たことあるものもいるだろう。

 我らが上官、ロンメル大佐の製作したサイコガンダムだ」

 

 解説を行う青年と傍に立つ少女を含め、18対の瞳がバトルの様相を眺める。

 このバトルは、少女と青年が参加した交流会の映像だった。

 ダークブルーの敵機を迎撃しようと、サイコガンダムが胸部から濃密な拡散ビームの弾幕を張る。

 ぞっとするような弾幕だ。

 障害物へ退避し、やり過ごす他ない。映像を視聴する皆がそう思っただろう。

 

「ハサウェイをやったなぁ!」

 

 だが敵機、ダークブルーのジェガンが弾幕をものともせず、サイコガンダムへの距離を詰めていく。

 とても正気の判断とは思えない。

 けれど、現実にジェガンはこの弾幕を的確に掻い潜っている。

 サイコガンダムの胸部拡散ビームを小刻みなステップで避け、ジェガンがついには白兵戦距離まで詰め寄る。

 

 近距離のジェガンへ、サイコガンダムが迎撃に両手指のビームを放つ。

 ジェガンが身をよじり、最小限の被弾をビームシールドで受け流す。

 閃光のように踏み込み、ジェガンのビームダガーが一閃。

 サイコガンダムの右手首が正確に斬りとばされる。

 視聴者から一斉にどよめきが起こり、少女は小さく頷いた。

 そうだ、間違いない。このジェガンはエースだ。

 

「このダークブルーのジェガンはジェガン・D。

 “ガンプラ商人”エニル・エルが作成した高出力ガンプラだ」

 

 ガンプラの性能は恐るべきものがある。だが、恐るべきはガンプラだけではない。

 青年の解説を聞き流ながら、少女は画面を注視する。

 傷ついたサイコガンダムをかばうように、僚機のザク改が飛び出した。

 ザク改が手持ちのミサイルランチャーを撃ち放ち、すかさずヒートホークで斬りかかる。

 けして悪い攻撃ではない。だがジェガンがさらに上手だった。

 ジェガンがミサイルを短いステップで誘導を切り、下から突き上げるようなタックルで迎撃する。

 ヒートホークを握るマニピュレータをかちあげられ、ザク改が体勢を大きく崩した。

 体勢を崩したザク改にジェガン・Dが組み付き、そのまま抱え上げる。

 

「ここからだ、目を離すなよ」

 

 どよめく視聴者を制し、青年がモニター画面の注視を促す。

 ジェガン・Dが全身のスラスターを全開、ザク改を盾にしたままサイコガンダムへと突進する。

 ビームを撃てばザク改に当たる。ビームの迎撃を諦めたサイコガンダムへ、ジェガン・Dがザク改を投げつける。

 サイコガンダムがザク改を受け止めた直後、ジェガン・Dが曲芸のように身体を捻る。

 猛烈な突進の勢いそのまま、ザク改とサイコガンダムの腕を足場代わりに蹴り飛ばし、高々と宙を舞った。

 まるで曲芸のような動きだ。ここの皆で誰がこれを出来ようか。

 サイコガンダムの巨体を飛び越え、ジェガンが身体をひねって背後へ降り立つ。

 

「……勝負あり、だ」

 

 見事。少女は賞賛を込め、呟く。

 背後へ振り返ろうとするサイコガンダムを、ジェガン・Dのビームダガーが滅多切り。

 膝裏、左肩口、頭部、そして胸部。斬撃の軌道を目で追えたのはこの場に何人いるだろう。

 いくらロンメル大佐が作り込んだ強固なガンプラだろうと、あれではひとたまりもない。

 油断なくダガーを構えたジェガン・Dの背後で、切り刻まれたサイコガンダムの全身から爆炎が噴き出す。

 

『Battle ended』

 

 システムメッセージと共に映像ログが終了する。

 苦い敗北だった。だが、それ以上に敵ながら見事と言うしかない。

 少女は腕を組み、対戦の記憶と映像を噛み締めた。

 映像ログがダークブルーのジェガンの静止画で固まり、室内の照明が通常に戻る。

 

「映像は以上だ。私とプルツー二人はサイコガンダムの僚機として戦った。

 結果は見ての通り、相手は恐るべき手練れだった!」

 

 だが我らとて、半年前のままではないぞ、グレミー。

 壇上で場を仕切る青年、グレミーの言葉に、少女、プルツーは深々と頷いた。

 あの時僚機として共に敗北を味わった青年、グレミーは、今回も少女、プルツーと共にある。

 この一室は、GBNでグレミーが所持する旗艦サダラーンのブリーフィングルームだ。

 そしてこの場に集まる18人は、グレミーの指揮でレイドバトルに挑む同志たちである。

 

「諸君、このジェガン・Dを駆るダイバーは、今回我々がもっとも注意すべき相手だ!

 防衛側、敵陣営のエース……”デミダイバーズ”のロウジ・チャンテである」

 

 グレミーの言葉に、集まった同志たちにさざなみのように驚きと高揚が広がってゆく。

 恐るべき手練れだと皆がきちんと理解してくれたようだ。

 賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。

 プルツーは腕を組み、小さく頷く。

 皆が正しく理解できたなら、この苦い記憶には大いに意義があったと言うものだ。

 

「見ての通り、グレミーのザク改が一蹴され、サイコガンダムも滅多切りだ。

 ロウジは手ごわい相手だが、この機会に是非ともリベンジと行きたいところだね」

 

 同志たちを鼓舞するように、プルツーはあえて強気に笑ってみせる。

 

「プルツー。目指すべきは陣営としての勝利だぞ。

 無論、ロウジが出現した場合、君の力には大いに期待するが」

 

 冷静な調子でたしなめてくるグレミーに、プルツーはにっと不敵に笑って頷きを返す。

 アバターは甘いフェイスの金髪坊やだが、グレミーは今回の攻撃側陣営の総指揮官だ。

 そしてフォース“第七機甲師団”の下部組織、“第七士官学校”に所属2年目の俊英でもある。

 

「判っているさ、グレミー。

 流れを読む力は貴様の方が上だ、アタイを上手く使ってみせな」

 

 プルツーも見た目はクールな風貌の小柄でスレンダーな少女だ。

 ここにいる誰よりも幼く見えるが、グレミーと同じ所属2年目の古参。

 隊のエースであり、実質的なグレミーの副官ポジでもある。

 

「グレミー。防衛側はフォース“アッガイマフィア”だと聞いたぞ。

 ロウジ・チャンテが防衛側として出撃して来るのは確実なのか?」

 

 戦闘隊長を務めるこわもてのネオジオン軍人、ラカン・ダカランが冷静にそう指摘する。

 ラカンも同じく”第七士官学校”2年目、戦闘部隊の指揮官を担う猛者だ。

 グレミーがうなずき、壁際にたたずむ女性ダイバーへちらりと目線をやる。

 そちらの女性ダイバー一人と横の男性ダイバー二人の計三人は”第七士官学校”所属ではない。

 

「ラカン、これは確かな筋からの情報だ。

 皆に彼女らの事を改めて紹介しておこう。

 今回傭兵として参戦していただく”GM-ARMS”の方々だ」

 

 グレミーの紹介に続き、傭兵参加者の女性ダイバーが一歩歩み出る。

 

「初めまして、”第七士官学校”の皆様。

 先ほど動画でも紹介いただいた”ガンプラ商人”エニル・エルだ。

 今回は縁あって傭兵としてご一緒させていただくこととなった」

 

 クールな良く通る声で挨拶したのは、エニル・エル。

 まさに先ほどの動画で大暴れしたロウジ・チャンテの機体を製作したガンプラビルダーだ。

 これがGBN黎明期から続けてきた古豪……エニルを見やり、プルツーは緊張ににじむ汗をぬぐう。

 

「ロウジが防衛側で参加する。本人から聞いた言葉だ、間違いない。

 ロウジ・チャンテには機体を提供した仲であり、フレンドだ。

 だからこそ全力で戦う。そのつもりでガンプラを調整してきたつもりだ。

 クライアントであるあなた方が勝利を掴む助力となるよう、傭兵として自由に運用してほしい」

「こちらこそ、よろしくお願い致します、エニル。

 基本、”GM-ARMS”のお三方には母艦の近辺で遊撃を行って貰うつもりです」

 

 グレミーがうやうやしくエニルへ頷き、大型モニターを操作する。

 登録名、デコトレーナー。ピンクに塗られたファンシーなガンプラが映し出される。

 

「今回のロウジの機体は恐らくこの機体、デコトレーナーとなる。

 このデータは半年前のもので、現在のロウジはバトル向けにこれをカスタムして運用している。

 ガンプラ作りの腕前は未熟な点もあるが、バトルの腕前は先ほど見ての通りだ」

「我々の攻撃陣営の我々にとって、このピンクの機体とロウジ・チャンテが最大の脅威となるだろう。

 我々は今作戦においてロウジ・チャンテを”ピンクの悪魔”と呼称する!」

 

 なんでも吸い込みそうな悪魔だな?

 グレミーの命名センスが実にひどい。

 プルツーは無表情に、忍び笑いを噛み殺す。

 

「警戒は勿論だ。グレミー、俺達は具体的にはどう対処する?」

 

 プルツーと同じことを思ったか、ラカンが苦笑いしたまま挙手し、発言する。

 

「”ピンクの悪魔”とのバトルは、白兵距離での高機動戦になるだろう。

 前衛に出現した場合、部隊のエースであるプルツーが迎撃に当たる。

 後方に出現した場合、傭兵部隊のお三方に対処していただく。

 それ以外の人員での対処はラカンと言えど厳禁だ。

 戦場で遭遇した際は速やかに離脱するか、防戦に徹して増援を待つように」

 

 外部戦力を生かす鍛錬ということで、必ず傭兵を雇うのが“第七士官学校”流だ。

 エニルたちは傭兵でもかなり上澄みの部類だろう。

 

「任せろ、グレミー。

 是非とも前衛へ追い込んでくれ」

 

 グレミーの指示にプルツーは不敵に笑い、プルツーはエニルへ堂々と言った。

 

「エニル・エル、そして傭兵のお二人。

 あなた方の出番はないよう全力を尽くす。

 だが、万一の時はよろしくお願いする」

「リベンジに意気込む気持ちはよくわかる、プルツー。

 どちらがロウジを相手しようと、うらみっこはなしだ」

 

 クールに微笑むエニルに、プルツーは小さく頭を下げた。

 多分、この三人全員、我々の誰よりも強い。一度お手合わせ願いたいものだ。

 プルツーがゆっくり顔をあげた瞬間、システムメッセージが時間を告げた。

 

『バトル開始まであと300カウントです』

 

「さぁ諸君、ミーティングは終わり、行動の時間だ。

 自慢のガンプラのコクピットへ移動し、出撃態勢へ移行せよ!」

 

 グレミーの宣言に場の全員が頷き、自分のアバターをガンプラコクピットへ転送させていく。

 いよいよか。ダイバーギアを身に着けたプルツーの生身が、小さく武者震いした。

 グレミーを除く全員の移動が完了するのを見送り、プルツーはグレミーへ声をかける。

 

「ブリッジに座って後方指揮ばかり、前線が恋しくないのか?」

「とんでもない。

 ここでしか見られない景色、私は気に入っているよ」

 

 気遣いのつもりの言葉に、グレミーが明るく笑って肩をすくめた。

 指揮官なんて貧乏くじ、望んでやるヤツの気がしれない。プルツーは首をひねる。

 だがグレミーは、このブリッジにいることを選んだ。

 グレミーが忙しく、手元に大量の情報を呼び出し準備を開始する。

 邪魔せぬよう無言で敬礼し、プルツーは自分のアバターを愛機へと転送した。

 視界が切り替わり、全天周囲モニター型のガンプラコクピットが広がる。

 

「……やっぱり、ここが一番落ち着くな」

 

 愛機のコクピット座席に背を押し付け、プルツーは小さく深呼吸した。

 あの時は僚機だったグレミーとの距離が、いつの間にか随分遠くなった気がする。

 プルツーはダイバーギアの操縦桿を握り、柄にもなく感傷にふけるのだった。

 

 

 

 美しく編隊を組んだガンプラの出撃は実に美しい。

 愛機のコクピットで、プルツーは全天周モニターを眺めていた。

 既に出撃した愛機の直下、コクピットのプルツーの足元側に旗艦サダラーンが位置する。

 旗艦のカタパルトから、友軍のガンプラ達がスラスター光を輝かせ次々に出撃していく。

 

「悪には悪の報いが!

 罪には罪の報いが下されるのだ!」

 

 グレミーの高圧的な演説が、出撃する友軍を鼓舞するように響いていた。

 まったく、こんなマイナーな演説までよくも選んだものだ。

 プルツーは愛機である赤いキュベレイのコクピットで一人笑った。

 

「「「「悪には悪の報いが!」」」」

「「「「罪には罪の報いが!」」」」

 

 出撃シークエンスをよどみなく実行しながら、参加者一同がシュプレヒコールをきちんと返す。

 もちろんプルツーも友軍と一緒に声を張り上げた。

 無意味は承知、やりたいからやっているだけだ。

 グレミー軍の姿をアバターで選んだ以上、多少は原作に沿いたいではないか。

 

「さぁ、諸君。シュプレヒコールご参加ありがとう!

 無論のこと相手は悪でもなく罪もない。

 敬意を払い、油断なく戦いに臨もう。

 いよいよ、楽しいレイドバトルの始まりだ!」

 

 指揮官様はお忙しいことだ。プルツーは小さく肩をすくめる。

 自陣営の隅々まで忙しく気を遣うなど、とても出来る気がしない。

 愛機の各部チェックすら、これほど気を貼ると言うのに。

 

「プルツー、キュベレイP2C、オールグリーン!」

 

 全体回線を通し、プルツーは澄んだ声で報告をあげる。

 今回の愛機は、原作でプルツーが使っていた赤いキュベレイMK-Ⅱをさらに高機動にカスタムしたものだ。

 グレミー軍として出撃する事が決まった時に組み上げた、自慢のガンプラだ。

 

「ラカン、ドーベンウルフ、オールグリーン。

 スペースウルフ隊もオールグリーン。

 攻撃隊は相互フォロー可能な陣形で、開始まで待機だ」

 

 前線指揮官を務めるラカンの報告がプルツーに続く。

 陣形の中心に位置する3機のドーベンウルフはいかにも頼もしい。

 

「スペースウルフ隊の諸君。

 ドーベンウルフは大火力により、敵拠点破壊の主力となる。

 ラカンと連携し、コロニーへ突入を最優先してくれ」

 

 グレミーの細かい捕捉が全体回線で響く。

 ラカン率いる3機は、もっとも操縦の腕が得意なメンバーだ。

 武装が多く、運用が複雑なガンプラだろうと、その性能を十全に発揮してくれる事だろう。

 

「ガザの嵐隊の諸君。

 ガザDは遊撃並びに強行偵察が主任務となる。

 基本的には正面からの打ち合いは避け、後方支援と一撃離脱に徹するよう」

 

 どうやらグレミーは全ての小隊へ声をかけるつもりのようだ。

 陣形の外周でスラスター光を輝かせるのは、アクシズの傑作可変機、ガザDだ。

 機動力自慢の可変機ばかりで編成されたガザの嵐隊は広い戦場で重要となるだろう。

 

「プルクローン隊、アバターを揃えてくれて感謝している。

 諸君らが今回の正面戦闘の主力だ!」

 

 次にグレミーが声をかけたのは量産型キュベレイばかりで編成された2個小隊だ。

 プルスリー隊3機、プルトゥエルブ隊3機の計6機となる。

 スペースウルフ隊の前方に2個小隊3機ずつ、フォーメーションを組んで展開中だ。

 小隊長はそれぞれにいるが、面倒を見るのはプルツーの管轄だ。

 

「気合入れていくぞ、プルクローン隊!

 ”ピンクの悪魔”を落としたら、その時はエースの座を代わってやる」

 

 プルツーは全体回線でプルクローン隊の仲間を鼓舞するように叫ぶ。

 量産型キュベレイは、ファンネルだけでなく肩にアクティブカノンを装備した重装ニュータイプ機だ。

 今回は拠点攻撃と近接戦闘に備え、シュツルムファウスト装備のギラドーガシールドまで保持している。

 

「プルツー、あまり煽るな……」

 

 苦笑するグレミーにたしなめられ、プルツーはバツが悪そうに黙り込む。

 コクピットのレーダーには布陣した攻撃隊の総勢が映っている。

 4個小隊12機、それに加えてプルツーの1機、合計13機だ。

 

「さて、攻撃隊の諸君。

 我々攻撃側と相手防衛側の勝利条件と敗北条件は同じだ。

 第一が敵拠点の破壊、もしくは制圧。

 第二が敵ガンプラの全機撃墜となる。

 我々は第一条件、敵拠点の制圧を目指して作戦行動を行う!」

 

 自軍の全体回線で、グレミーが丁寧に最終確認を行う。

 何せ、グレミー、プルツー、ラカンの三人を除き、今回の”第七士官学校”は皆所属1年目のメンバーだ。

 所属してまだ半年も経っておらず、レイドバトル参加も初めてとなる。

 

「敵拠点はサイド3内部、防衛軍の配備された軍事基地となる。

 あの特徴的なズムシティ官邸は拠点ではないため、誤爆に注意すること!

 攻撃部隊はスペースウルフ隊3機、ガザの嵐隊3機、プルクローン隊6機。

 加えて遊撃にプルツーのキュベレイP2C1機の13機で行う!

 指揮官はスペースウルフ隊のラカン・ダカランが務める」

 

 全18機中の13機、戦力のほぼすべてを攻撃につぎ込む形となる。

 機関の護衛に残るのはグレミー、偵察機のアイザック1機、”GM-ARMS”の3機のみだ。

 新人達のデビュー戦にふさわしい、戦力の質によるごく単純な力押しだ。

 普段の模擬戦通りにフォーメーションを組み、火力を集中する。

 奇策や搦め手を使いこなすのはもっと集団戦に慣れてからがいい。

 

「防衛軍側の主催はフォース“アッガイマフィア”だ。

 かわいさをメインのファンプラ主体のフォースで、恐らくほとんどの敵機はアッガイだろう。

 とは言え、ガチバトル好きなダイバーのサブアカウントが混じっている可能性もある。

 交戦の際はけして油断せず対処するように」

 

 当然、相手がかわいさ売りのファンプラでも手加減はなしだ。

 ガチバトルにエントリーした以上それが礼儀だ。

 プルツーは真顔を作り、全体回線であえてグレミーに疑問を投げかける。

 

「かわいいアッガイさんだが、容赦なく撃っていいんだな?」

「……君がアッガイをかわいいと思うとは意外だったな?」

 

 グレミーのからかいに、プルツーは愛機キュベレイP2Cの火器をサダラーンのブリッジへ向けてみせる。

 

「かわいくないグレミーは容赦なく撃つぞ」

「すまない、私が悪かった!

 プルツーがかわいいもの好き。皆、わかったな!」

 

 かすかな笑い声がいくつも回線でさざめく。

 人をいじって後輩をリラックスさせようとはご挨拶だな、グレミー!

 プルツーは鼻を鳴らし、全体回線で通達する。

 

「……判ったな、皆。

 アッガイは容赦なく撃て、責任は全部グレミーだ!」

「相手がかわいさを利用してだましうちをかけてくる可能性かもしれん。

 そういう事だ、覚悟はしておけ」

 

 ラカンが渋い声でまとめの台詞を吐く。

 まったく新人達は手間がかかる。プルツーは無言で肩をすくめた。

 アッガイのかわいさに見惚れ、だまし討ちを喰らって終了など、初体験としては悲しすぎる。

 前もって想定しておけば、実際の対処もスムーズだ。

 

「グレミー、続けていいぞ」

「攻撃隊はサダラーンから発進し、サイド3周辺の宙域を制圧。

 スペースポートから内部へ潜入し、コロニー内の敵部隊を突破し、軍事基地の破壊を行う」

 

 グレミーの最終確認はまだまだ続く。

 まったく事細かによく気のつくことだ。本当にマネ出来る気がしない。

 

「我々はこの旗艦サダラーンが拠点となるため、撃沈が敗北につながる。

 だが、防衛側は母艦が敗北条件に入っていない。

 よって敵母艦は基本的に無視して構わない。

 侵攻ルート上に配備されており、戦力的に余裕がある時のみ、撃沈を狙う」

 

 グレミーの説明を聞きながら、プルツーは追憶に沈む。

 半年前のフォース“デミダイバーズ”との模擬戦が転機だった。

 当時のプルツーとグレミーは同期でもぱっとしないダイバーだったように思う。

 上官のロンメル大佐が何を基準に二人をサイコガンダムの僚機としてにメンバーに選んだかはわからない。

 だが、結果として二人はサイコガンダムを守りきれず、残機同数での引き分けに辛うじて持ち込むしか出来なかった。

 

「”ピンクの悪魔”は要警戒だ、早急に位置を捕捉する事が最重要となる。

 攻撃隊が接触した場合、部隊のエースであるプルツーが。

 攻撃隊が突破された場合、”GM-ARMS”に対処していただく」

 

 プルツーは、あの時目撃したロウジ・チャンテの強さに魅せられたのだ。

 個人技を磨き、突破力を意識した。気付けば同期でも卓越した戦闘力を持つに至った。

 だがグレミーは強さではなく、指揮戦術能力に傾倒したのである。

 いつの間にかグレミーが同期の指揮を任されるようにまでなっていた。

 

「さて、諸君。長々付き合ってくれてありがとう。

 いよいよお待ちかねのガンプラバトルだ!」

 

 気付けば、カウントはもう60秒を切っていた。

 いつの間にか、サダラーンの後方に3機の反応がある。傭兵参加の”GM-ARMS”だ。

 プルツーは後方の3機目掛けて愛機キュベレイP2Cを小さく会釈させ、スラスターをふかして前に出てゆく。

 ダークブルーのジェガンが会釈を返し、サダラーンのブリッジが発光信号を送ってくれた。

 ”武運を祈る”だと? まったく気取ったことだ。

 

「私、グレミーは諸君らが強いガンプラ作りのために精進していることを知っている。

 自軍の戦力を充実させる、それこそが戦略の第一歩であり、我々は戦う前から戦略で相手を上回っていると言えよう!」

 

 最後まで同志たちを鼓舞しようと、グレミーが熱い台詞を叫んでいた。

 

「防衛側が多少小細工を弄しようと優位は崩れない。

 正面から堂々と敵を打ち砕き、勝利を手にしようではないか!」

 

 堂々と演説を終えたグレミーの横顔をモニターで眺め、プルツーは心で呟く。

 この偉そうに指揮をとるお坊ちゃん、実は総指揮をとった今までの二戦負けなしだ。

 つまり、今回敗北するなら、駒である我々が不甲斐なかったからだ。

 

「まったく、グレミーは本当に偉そうな口を!」

 

 間もなくバトルが開始する。

 攻撃隊の最前列へと位置取りを変え、プルツーは語気荒く呟いた。

 

「プルツー、一つ言い忘れたことがあった」

 

 まるで聞いていたかのように、グレミーから個人通話が点灯した。

 プルツーは慌てて背筋を伸ばし、通信に応答する。

 

「どうした、グレミー?」

「前線は、君に任せる。

 私の分まで頼んだぞ」

 

 たったそれだけ、短い言葉だ。

 だがそこにはグレミーの信頼がずしりと乗っていた。

 “ブリッジから動けない私の分まで”ときたか!

 プルツーは目を見開き、遅れて込み上げてくる笑いをコクピットで弾けさせる。

 

「任せろ、グレミー。

 貴様に言われるまでもない!」

 

 高らかに叫び、プルツーはダイバーギアの操縦桿をがっちり握り直す。

 さぁ征くぞ、我が愛機、そして同志たち。

 我々の奮戦で、親愛なるグレミー・トトに三勝目をプレゼントするのだ。

 

 

 

 

 たぶんこれが、青天の霹靂ってヤツだ。

 頭の片隅で、そんな事をふと思った。

 

「なんやて!?

 敵軍に傭兵で”GM-ARMS”のエニル・エルがおる……」

 

 大げさなびっくり仕草で、通信ウィンドウのボスアッガイさんが立派なターンエー髭をゆらゆら揺らす。

 

「そうなんです、ボスアッガイさん。

 敵指揮官に許可を貰ったそうで、先ほどご本人から通信をいただきました」

 

 レイドバトル開戦間近、ここはパプアに格納されたデコトレーナーのコクピットだ。

 ボスアッガイさんに、ロウジは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

 

「”第七士官学校”のダイバーさんはもちろん手ごわい。

 そこにベテランが傭兵として加わるとなると……」

「……すっごく、しんどいバトルになると思います」

 

 ロウジの大恩人で、一番尊敬する先輩ダイバーが敵陣営として参戦する。

 つい先ほど知らされたのは、びっくり仰天の事実だった。

 確かに先約があるとは言ってたけど、まさか敵味方に別れるだなんて!

 どうすれば良いかわからず、ロウジはボスアッガイさんに相談したのだ。

 

「ロウジくん、今までエニルとバトった経験はあるん?」

「ありません、ごめんなさい。

 ずっと、エニルさんは僕の一番頼れる味方でしたから……」

 

 正直、ショックだ。エニルが自分の敵に回るなど、ロウジは考えた事もない。

 自分が見放されたみたいで、心が定まらない。

 

「そかそか、それなら今回のレイドバトル、楽しみやな!」

「……楽しみ?」

 

 だから、ボスアッガイの言葉に、ロウジは目をまん丸に見開いた。

 

「少なくとも、エニルはめっちゃ楽しみにしとるやろ!

 世話を焼いた後輩ダイバーが立派になり、バトルで自分に挑んでくる。

 これはダイバー冥利に尽きるってもんやで。

 ……ロウジくんは、どないや?」

「僕、は……」

 

 ロウジは大きく一つ深呼吸、エニルさんが敵だと言う困惑を事実として受け止める。

 尊敬するエニルさんと、強いエニルさんと戦える。

 アバターの胸に手を当て、ロウジはゆっくりと心の声を聞いてみた。

 

「とっても、楽しみです。

 今の僕の実力、思いっきりエニルさんにぶつけてきます!」

 

 ロウジの答えはとってもシンプルだった。

 結果がどうなるか判らない。けど、精一杯やるだけだ。

 エニルさんだって、それをきっと期待してくれてるはずだ。

 

「その意気や、ロウジくん。

 いよっし、そいじゃ作戦の最終確認といくで!」

「はい!

 僕の役目は遊撃……自分の判断で暴れる事でしたよね?」

 

 ボスアッガイさんの言葉に、ロウジは満面の笑顔で頷く。

 

「そうや。ワイらとロウジくんは連携の練習しとらへんからな。

 遊撃が一番ロウジくんの強みを生かせるやろ」

 

 ロウジはシステムウィンドウを呼び出し、勝利条件と敗北条件を確認する。

 条件は両軍ともにシンプルだ。”敵の拠点の破壊もしくは敵の全滅”となる。

 

「最初は探り合いと小競り合いから始まるやろ。

 浮いたコマがあったらうまく削ってくれれば一番いい。

 で、最終的に目指すものは……」

「敵の全滅での勝利は難しいって事でしたよね。

 だから陣営としての勝利を目指すため、防衛側の拠点……”敵母艦の撃破”を目指します!」

 

 アッガイマフィアさんは頑張ってくれると思うが、どうしても戦力不足は否めない。

 だから一点突破で母艦を狙う、それがボスアッガイさんの語った作戦だった。

 

「敵もおそらくこちらの拠点、サイド3軍事基地を狙ってくるやろ。

 パターンは幾つかあるやろけど、小競り合いから始まり、多分サイド3内部でがっつり殴り合いや。

 サイド3内部で防衛線を築き、アッガイマフィア総出で敵の主力を受け止める。

 そしたらワイかガデムがロウジ君へ指示出すから、サイド3外部でドズル隊と合流や」

 

 作戦の良しあしはロウジには判らない。

 ただ、この作戦にロウジの力が必要だ。そう皆が言ってくれたのだ。

 

「ドズル隊は高機動高火力の隠し玉を準備した編成の小隊や。

 ロウジくんはドズル隊と随伴して母艦直撃狙ってくれ。母艦をボカーンしてワイらの勝ちや!」

「了解です、思いっきりアックス叩きつけます!」

 

 自分は与えられた場所で、全力を尽くすだけだ。

 びしりとこちらへ腕を突き付けるボスアッガイに、ロウジは元気よく返事する。

 

「多分、エニルも遊撃として動いて来る。

 ロウジくんが一番の脅威であるロウジくんの対処にあたるはずや。

 ……エニルが出て来たら、ロウジくんが対処頼むで!」

「はい! ……でも、いいんですか?

 陣営の勝利のために、母艦をボカーンを優先すべきなんじゃ」

 

 母艦を、ボカーン。ボスアッガイさんの台詞を繰り返し、ふと気付く。

 ひょっとして場を和ませるジョークだろうか。

 ワンテンポ遅れておかしさが襲ってきた。ロウジはコクピットで一人忍び笑いする。

 

「どうせ、誰かがエニル・エルを相手せなアカンのや。

 ロウジくんに頼りっぱなしじゃなくって、ワイらも頑張らんとな。

 どうしても指示必要な時だけこっちが指示飛ばすわ。

 ……頼んだで、ロウジくん!」

「はい!」

 

 ボスアッガイさんが通信ウィンドウから消え、ロウジはデコトレーナーのコクピットに残される。

 いよいよだ。息を吸って、吐いて。短く何度も繰り返す。

 ロウジが今いるガンプラの中はとても狭い。戦場ではコクピットにたった一人だ。

 

「こちら旗艦パプア。バトル開始60秒前です。

 ロウジ君、発進準備よろし?」

 

 マリコさんからの通信に、ロウジはそっと掌に小さな金属の社章を握りしめる。

 でも、僕は一人じゃない。マリコさんがいる。ボスアッガイさんがいる。

 ガデムさんも、アッガイマフィアの皆さんがいる。エニルさんだって敵として待ってくれている。

 

「こちらロウジ。

 あなたの魔法使い、いつでも出撃可能ですよ、マリコさん!」

 

 うん、もう大丈夫。にっこり笑い、ロウジはマリコさんから貰ったお守りをそっとしまいこむ。

 武装、ガンプラの各部パラメータ、オールグリーン。愛機デコトレーナー、問題なし。

 ノーマルスーツのパラメータ、問題なし。

 心の準備、問題なし!

 ダイバーギアの操縦桿をがっつり握り直し、ロウジはブーストボタンを押し込む。

 システムがロウジの出撃準備OKを感じ取り、ブリッジへとコールを入れてくれた。

 

「ダイバーID:0357779 ロウジ・チャンテ 曹長。

 使用ガンプラ デコトレーナー・フルドレス!」

「挑戦者、魂の代償をリーブラに!」

 

 後は、渾身の出撃台詞をつぶやくだけだ。

 デコトレーナーに合わせたロウジの出撃台詞に、マリコさんがきっちり台詞をあわせてくれる。

 

「勝敗はガンプラの性能のみで決まらず、

 ダイバーの技のみで決まらず。

 ただ、結果のみが真実!」

「アーレア・ヤクタ・エスト。レイドバトル参加を承認する」

 

 これは決闘ではなく、レイドバトルだ。

 マリコの承認宣言と同時に、パプアの格納庫前方の扉が開く。

 

「フィックス・リリース!」

 

 マリコの台詞と共に、パプアのカタパルトが起動した。

 強いGが全身にぐっとかかり、視界があっという間に後方へ流れていく。

 小さな衝撃と音が響き、デコトレーナーがカタパルトを蹴る。正面モニターの視界がぐっと開ける。

 足下にサイド3のコロニー、そしてそれ以外は全て宇宙空間だ。

 

『Battle Start』

 

 システムメッセージと共に、前方はるか遠く、スラスターの明かりが幾つも出現した。

 遠すぎてまだデコトレーナーでは見えないが、何かは判る。

 攻撃側陣営、ロウジにとって敵軍の母艦と敵機が、バトルフィールド、サイド3並びに周辺宙域へ出撃したのだ。

 

「……正々堂々、お相手させていただきます。エニルさん」

 

 エニルのクールな笑顔を思い浮かべ、ロウジはもう一度、短く息を吸って吐く。

 マリコさんのお守りを思い浮かべ、ロウジは叫んだ。

 

「さぁ来い攻撃軍、“第七士官学校”の精鋭さん!

 ロウジ・チャンテが相手です!」

 

 こうして、ロウジの初のPVPレイドバトルは幕を開けたのである。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・GBNにおける偵察機について

 

 GBNではおおまかに分けて3パターンの機体が運用されている。

 身を潜めて情報収集を得意とするタイプ……アッガイのような隠密偵察機。

 遠距離からの情報収集が可能で、分析能力に長けたタイプ……アイザックのような情報支援機。

 自慢の機動力で敵陣に切り込み、目視と敵のアクションから情報を持ち帰る……ガザDのような強行偵察機。

 ガザDは厳密に言えば偵察特化のガンプラではない。

 機動力自慢が偵察機としての機能を生かしているだけであり、撃墜の危険もある。

 隠密偵察と情報支援はどちらもガンプラのリソースを大きく使用するため、オプション火器の積載に制限を受ける。

 偵察機はセンサー能力に非常に優れており、敵軍の位置情報、搭載している武装などの情報を収集し、自陣営と共有される。

 PVPのレイドバトルや新規ミッションでは敵軍の情報が秘されて始まるため、偵察機の情報は非常に大きい。

 つまり、開戦時に名乗りを上げて位置をバラすと言うことは……?

 

 

 

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