リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
苦労していますが次回は12/15(日)予定です
猫の手も借りたいとはまさにこのことだ。
「ギレン隊、ガルマ隊、一機中破!
敵軍の連携に押され気味です!
ボスアッガイ隊健在ですが、敵エースに手を焼いています!」
レーダーとモニターを睨み、マリコは声を張り上げる。
2機を失ったはずの敵軍だが、むしろ押されているのはこちらの方だ。
ビームかく乱膜と奇襲で先手を取ったが、即座に敵は対応してきている。
たぶん敵軍は、火器制限状況下でのバトルも想定しているのだ。
「ギレン隊、ガルマ隊、基地から支援射撃の間接砲撃いくぞ。
敵軍を砲撃範囲へ押し込めぇい!」
「間接砲撃地点、レーダーへ表示します!」
ガデムの指揮に、マリコは自軍のレーダーへ情報を乗せる。
状況が刻一刻と変わる。指示にあわせ、必要な情報を取捨選択するのにマリコは必死だ。
「こちらキシリア隊。
スペースポート、封鎖完了!」
待っていた報告だ、マリコは急ぎカメラを戦場から切り替える。
正面モニターに、敵の侵入してきた2箇所のスペースポートが映った。
コロニー公社の人たち、ごめんなさいね。反射的にマリコは謝罪の言葉が浮かぶ。
学生運動まっさかりのサイド6でよく見た、実にアナーキーな風景だ。
スペースポートが内側から金属板が打ち付けられ、見事に封鎖されている。
「スペースポートの映像を確認!
レーザートーチで溶接完了しています!」
「キシリア隊、任務完了。
部下をパッシブセンサーとして残し、
キシリアアッガイはボスアッガイの援護に回ります!」
マリコはボスアッガイ、ガデム両名へと報告をあげた。
キシリアアッガイが凛々しく叫ぶ。
「よし、ロウジくんの行動開始じゃ。
マリコくん、誘導を頼む!」
「……了解!
ロウジくん、矢印のポイントへ移動して!
業者用の重機搬入口があるわ」
マリコは大きく深呼吸し、レーダーでロウジへ所定のポイントを指示した。
ここがわたしの剣ヶ峰!
マリコは気合を入れ、サブモニターをデコトレーナーのカメラと同調させる。
「ロウジ、了解!
……え、こんなところが外に繋がってるんですか?」
「普段は使われない、建設時の業者用トンネルよ。
裏口としてこっそり使ってる悪い子がいるだけでね!」
不安げなロウジに、マリコはにやり笑って胸を張る。
つまり、マリコの会社は悪い子だった訳なのだ。
「まず最初の分かれ道を右!
そのまままっすぐ、障害物まで」
「了解、右へ!」
事前にマップは確認済、こちらの世界でもまったく同じルートで外へ抜けられる。
「うわ、なんですこれ!
クラッシュした作業用重機の残骸!?」
「ガンプラなら障害物を越えられるでしょ!
飛び越えたらそのまままっすぐ!
無重力の警告看板を越えて突き当たりを右、左!」
マリコの指示に従い、狭い通路をロウジのデコトレーナーが高速で駆け抜けていく。
デコトレーナーのカメラを注視するマリコが目の回りそうになる。
よくもまぁあんな軽業めいた操縦が出来るものだと思う。
「エレベーター穴をまっすぐ上昇。
その後左、右、その後まっすぐでゴールよ!」
「……マリコさん、一人じゃ僕絶対、迷子ですよこれ!」
ロウジの悲鳴に、マリコは笑う。
先輩に教えられた時、同じことを叫んだものだ。
実際、子供がうっかり入り込むと捜索隊が結成されるレベルだ。
「さぁ、そこのハッチを開閉すればもう宇宙空間よ。
カボチャの馬車がお待ちかねよ」
サブモニターをデコトレーナーのカメラから周辺映像に切り替え、マリコは額の汗をぬぐう。
うん、いいタイム。スペースポートを抜けるのとさほど変わらない。
「デコトレーナー、脱出完了。
ドズル隊、ピックアップ願います」
自軍レーダー上でロウジのマーカーを点灯させ、合流を促す。
デコトレーナーの現在地はサイド3のコロニー外周部だ。
ロウジくんがキュベレイと派手にやりあった場所とは正反対の位置に渡る。
「マリコさん、ありがとうございました。
思う存分、暴れてきます!」
「がんばってね。
戦いたい人が、いるんでしょ?」
満面の笑みのロウジへ、マリコもにっこり笑って背中を押す。
楽しんできなさい、ロウジくん。
これは遊びよ。あなたとアッガイマフィアさん、そして敵の皆さんにとってのひのき舞台。
ロウジの頭を優しく撫でてやるつもりで、マリコはサムズアップで送り出す。
「いってらっしゃい。
わたしの魔法使いさん」
「行ってきます、マリコさん!」
ロウジの笑顔を見送り、マリコは意識を切り替えた。
さて、ロウジくんばかりにかまってはいられない!
サイド3内部では激戦がまだ続いているのだ。
「サイド3内部のオペレーションに戻ります!」
「よろしく頼む!
ワシを砲台の操作に専念させとくれ」
これは戦争じゃないから、負けたって失うものはほとんどない。
でも、遊びだから、負けたら悔しいじゃないか。
戦場にいなくても、マリコだって勝ちたい気持ちは皆と同じだ。
「こちら旗艦パプ……」
マリコがオペレーター席で叫ぼうとした瞬間だった。
ザザザッ。耳障りな音が通信回線を封鎖する。
レーダーがホワイトアウト、モニター目視以外の全ての目と耳が奪われる。
「なんじゃあ!?」
「まさか、ミノフスキー粒子の戦闘濃度散布!?」
ガデムの悲鳴に、マリコは悪寒が背筋を駆け抜けた。
モニターの機影もあちこちで戸惑う様子を見せている。
イレギュラーだ、とびっきりの。
「……ちら、ボスアッガイ!
マリコくん、今の電磁障害はなんや!?」
だが、異変はほんの一瞬だった。
ボスアッガイの叫びと同時にレーダーの表示が元通りに戻る。
「こちらパプア、不明です!
ミノフスキー粒子の高濃度散布の可能性しか……」
「戦闘続行じゃ、マリコくん!」
ガデムの叱咤に、マリコは意識を切り替える。
そうだ、今は現状への対応を!
「こちらパプア!
ビームかく乱膜、在庫全部総ざらいします。
有効時間、600カウント。
大暴れしちゃってくださいね、皆さん!」
レーダーとモニターを睨み、マリコはオペレーター席で声を張り上げるのだった。
戦況は一進一退の戦況だった。
猛烈な違和感に、思わずプルツーは叫んでいた。
「ラカン!
“ピンクの悪魔”はいたか!?」
ロウジ・チャンテがどこにもいない。
サイド3内部で奇襲を警戒し、もうずいぶんと時間が経過した。
「一切の目撃情報がない!
身を潜めて奇襲を狙っているかもしれん……」
いや、単なる奇襲なら、いくらでも機会はあったはずだ。
執拗に喰らいつくボスアッガイを右手のランスであしらい、
プルツーは愛機のコクピットでレーダーと周囲へ目を配った。
「ええい、うざったい!」
キュベレイが放ったタックルに、ボスアッガイが大きくふきとぶ。
だがその勢いそのままにボスアッガイは華麗にバク転し、近くの武装コンテナへと飛び込む。
追撃をかけようとブーストボタンへ指をかけた瞬間だった。
「サイド3外周部に高ジェネレーター反応!
レーダーに4機、うち1機は“ピンクの悪魔”です」
旗艦サダラーンに随伴する偵察機アイザックの通信が響く。
思わず目を見開き、プルツーはレーダーの範囲をコロニー外まで広げる。
確かにコロニー外周に敵軍の反応が4つ。1つは大型機の反応がある。
取り逃がした獲物をずっと警戒していたというのか!
「ええい、いったいど……」
自分の迂闊さにプルツーは歯噛みした瞬間だった。
ザザザ、ガリガリガリガリ。通信に激しいノイズが走った。
同時にレーダーが真っ白になり、何も映さなくなる。
「ミノフスキー粒子!?」
アッガイマフィアめ。こんなものまで!
プルツーは心で叫び、意識をモニターへ集中する。
はかったようなタイミングで、キュベレイP2Cのモニター正面に動きがあった。
置かれた武装コンテナの影から、ボスアッガイが飛び出してくる。
戸惑う仕草の僚機の量産型キュベレイを抑え、プルツーはランスを構えて前へ飛び出す。
ボスアッガイの頭部につけた装備から三連ブーメランが飛び出し、変則的な軌道でキュベレイP2Cへ襲いかかった。
「ゾゴックブーメラン!?」
小刻みなステップで避け、ブーメランと連携して飛び込んでくるボスアッガイへランスを突きこむ。
ボスアッガイが鋭くバックステップでランスを避け、至近距離からもう一撃頭部ブーメランを飛ばす。
手を変え品を変え、よく粘る! プルツーはたまらずバックステップで距離をとる。
周囲は変わらずビームかく乱膜が舞い散り、火器が制限されている。
「……き大型機、サイド3を離脱!
4機がサダラーンへ向かってきます」
異常は一瞬だった。通信と同時にレーダーも通常通りに回復する。
原因は不明だが、状況は変わらん! 歴戦の場数がプルツーを支える。
だが、新人達はそうもいかない?
プルスリー隊の量産型キュベレイが緑色塗装のアッガイの火器をまともに食らう。
ええい、好き放題に!
隙ありとばかりに突撃してくる敵の緑アッガイ目掛け、プルツーは手元からランスを投射した。
慌てて回避行動する緑アッガイを抜き放った右手のサーベルで牽制し、プルツーは叫んだ。
「慌てるな、プルスリー隊!
勝つのは我々だ!」
背後からロックオンアラート!
低い姿勢から潜り込んでくるボスアッガイへ、振り返りざまにサーベルを叩きつける。
クローとサーベルがつばぜり合い、キュベレイP2Cは飛び退る。
ランスを右手で回収し、戦場をモノアイで睥睨する。
「諸君、恐れるな!
敵の切り札は我々の勝利を覆すものではない」
プルツーの激に続き、指揮をとるグレミーの冷静な言葉が響く。
確かにプルツーはボスアッガイに抑え込まれ、僚機も緑アッガイと砲撃に翻弄されている。
現状の戦況はほぼ互角、敵の攻撃部隊がサダラーン目掛けて出撃した。
だが、それがどうしたというのだ。
「想定通りだよ、諸君。
“ピンクの悪魔”は“GM-ARMS”が対処する。
旗艦の直衛に私が務める」
「貴様の直接戦闘は久しぶりだな。
しくじるなよ、グレミー!」
敵と同様、グレミー軍にも切り札はある。
「負けんよ、私が出る以上はな!」
誰よりも信じる相手が旗艦にいる。何を不安がる必要がある。
個別回線でグレミーを激励し、プルツーはそのまま個次の相手へ切り替える。
「エニル・エル!」
「プルツー、どうした?」
通信ウィンドウのエニル・エルは、あくまで冷静だった。
戦闘の高揚そのまま、先輩ダイバーへプルツーは言葉を叩きつける。
「ロウジ・チャンテは頼んだ!」
「了解、任されよう」
なんと頼もしいことか。プルツーは満足げにうなずき、自機の周囲へ目線を戻す。
「攻撃隊、押し返せ!
敵と我ら、どちらが先に拠点を落とすかと言うだけだ!」
ラカンの力強い鼓舞が響く。あちらは任せていいだろう。
星のめぐりが味方せず、“ピンクの悪魔”は旗艦狙いで飛び立った。
一度、初心に帰ろう。目指すは勝利だ。
プルツーは力強く宣言する。
グレミーに任された前線を制する!
「ゆけ、ファンネルたち!」
たとえビームは放てずとも!
温存していた残りのファンネルを一斉に解放する。
無数のファンネルが近くのアッガイ2機へと一斉に群がる。
ボスアッガイが素早く火器で迎撃しながら下がる。
だが緑アッガイは迎撃と退避に迷い、ファンネルの突撃を全身にまともに喰らう。
「まず一機!」
ボスアッガイへ牽制にランスを投射し、スラスターを全開する。
よろめく緑アッガイの頭部目掛けて伸ばした袖口からビームの刃が伸びる。
狙い過たず、ビームサーベルが緑アッガイのモノアイから後頭部へ突き抜ける。
力なくうなだれる胴体を蹴り飛ばし、飛び退る。
爆発を避け、キュベレイP2Cは悠然と周囲を睥睨する。
『リックアッガイ頭部大破、戦闘不能!』
「さぁ来い、アッガイマフィア。
ここにロウジ・チャンテを置かなかったことを後悔させてやる!」
敵に予備戦力などあるまい。正面から叩き潰し、敵拠点を破壊する!
敵機の残骸の前で、プルツーは不敵に笑みを浮かべるのだった。
コロニー外壁に着陸したそれは、あまりにごついカボチャの馬車だった。
「お待たせだぜ、ロウジくん!
こいつがアッガイマフィアの秘密兵器だ!」
「うわぁ……すごい!」
ドズル隊のアッガイ3機の姿に、ロウジは目を輝かせた。
デカい。ゴツい。ド派手な機体がそこにいた。
「アナハイムから強奪してきた最新兵器を装備したぜ。
名付けて……デンドロアッガイ!」
「これなら、確かに推進力は抜群ですね!」
機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORYに登場する強襲用大型兵器、GP-03デンドロビウム。
本来ガンダムが収まるはずのところに、アッガイがすっぽりと収まっている。
「アッガイ01!」
「アッガイ02!」
「アッガイ03!」
「「「我らGPアッガイ!」」」
デンドロアッガイの背面大型コンテナ部分に、2機のカスタムアッガイがくっついている。
1機目は背中にブースターポッドを装備した高機動タイプのGP-01型アッガイ。
2機目は長大なバズーカと盾を装備した重砲撃戦用のGP-02型アッガイだ。
戦闘向きカスタムしたアッガイ部隊、それがドズル隊。
これは確かに切り札だ。ロウジはうきうきで各アッガイの姿を堪能する。
「ロウジくん、デコトレーナーを背面中央に接続を。
一気に敵旗艦を強襲する!」
おっといけない、見惚れるのは後だ。
デンドロアッガイの背負う大型武装コンテナの背面、接続アーム部をデコトレーナーがマニピュレーターで握りしめる。
「デコトレーナー、接続完了!
舞踏会場までよろしくお願いします、ドズル隊の皆さん」
「アッガイ01OK!」「アッガイ02接続OK!」
「いよっし、ドズル隊プラスワン……行くぜ!」
大型MA特有のスラスター出力で、デンドロアッガイがコロニーから離陸する。
ごっついカボチャの馬車の背で、デコトレーナーは凄まじい速度で宇宙空間を飛ぶ。
「こちらガデム、ドズル隊への最終確認じゃ。
敵旗艦は恐らくサダラーン。
最大でグレミー隊2機と傭兵隊3機が迎撃してくるじゃろう」
「来ます。
エニルさんが、必ず!」
指揮をとるガデムの言葉に、ロウジは断言した。
きっとエニルさんは待っている。確信がある。
「うむ。傭兵の迎撃はロウジくんに任せる!
旗艦狙いは誰でも構わん。
サイド3内部はボスアッガイ達が奮戦中じゃ。
こちらの前線が崩壊する前に、ブリッジもしくはエンジンブロックにデカい一撃を叩き込んでくれぃ!」
「ドズル隊、了解!」
「ロウジ隊、了解!」
時間との勝負ってことだ。
ロウジはごくりと生唾を飲み込み、操縦桿を握り直し、浅く呼吸を繰り返す。
「サダラーン、目視!」
ドズル隊の報告と同時、激しいロックオンアラートが響いた。敵旗艦から激しいメガ粒子砲の砲撃が始まる。
だが、デンドロアッガイは構わず直進する。
「ビームは通じない、このままいくぜ!」
「了解!」
ロウジが応えた直後、サダラーン周辺空域で無数のロケットエンジンの光が瞬いた。
サダラーン周辺に漂う小型隕石が、順番にデンドロアッガイ目掛けて飛んでくる。
「か、回避ぃぃぃ!!」
「うひゃあ、衛星ミサイル!?」
巨大質量と速度の合わせ技、単純でそれゆえ対策しづらい。
ジオンの要塞が使用した防衛手段として猛威を振るった歴史あるトラップだ。
どんなガンプラでも、あんなもの当たったらひとたまりもない。
スラスターの急制動で、デンドロアッガイが進路をジグザグに変える。
「多分、迎撃部隊が来るぜ。
備えてくれ、ドズル隊各機、ロウジくん!」
「はい、そう思います!」
回避機動で速度を殺して、次はどうやって足を止めに来る?
次の動きは、ロウジの予想外のものだった。
正面モニターに映るまだ豆粒のようなサダラーンの背後で、カラフルな信号弾が打ち上がる。
「なんだあれ、信号弾!?」
「いいえ、違います……アレはバルチャーサイン!」
アレは、エニルさんからの宣戦布告!
血が沸き上がる。ロウジの戦意がレッドゾーンへ跳ね上がる。
「敵の傭兵が、来ます!」
いくつもの衛星ミサイルが飛び交う中、ロウジは決死の思いでレーダーと目視で全周警戒。
レーダーの反応と、ロックオンアラートは同時だった。
「直上!
衛星ミサイルの影です!」
衛星ミサイルの影から飛び出した2機のガンプラがビームを撃ち下ろす。
デンドロアッガイの速度にあわせたお手本のような偏差射撃だ。
ビームはデンドロアッガイのIフィールドに弾かれるが、敵機は委細構わずこちらへ追走する。
「なんてスピード!」
ロウジと01アッガイが放ったミサイルとビームの迎撃をくぐり抜け、ガンプラが悠然と直上で並走へ軌道を変える。
これは挨拶代わりだとばかりに敵機から通信が飛び込んできた。
「未来を作るのは……アッガイマフィアではない」
「カテゴリーFと呼ばれた我々だ!」
台詞と同時に2機のガンプラが変形し、悪役顔のガンダムへと姿を変える。
「ゲテモノガンダム!!」
「フロスト兄弟だぁ!」
通信ウィンドウにもそっくりな顔の美形アバターが並んで二つ、ロウジは思わず歓声を上げていた。
機動新世紀ガンダムXに出てくるフロスト兄弟の愛機、ヴァサーゴとアシュタロンだ。
間違いない。この人たち、ぜったいぜったい超強敵だ!
迎撃に! そう決意した刹那、出鼻をくじくようにフロスト兄弟からロウジへ通信が響く。
「いいのかい少年」
「君の相手は僕らかい?」
からかうような声音に、ロウジは咄嗟にデンドロアッガイから離脱した。レーダー反応、もう一つ!
デコトレーナーのスラスターを全開、ロウジはフロスト兄弟と反対側、直下側へ潜り込む。
果たしてそこには、猛進するもう一機のガンプラがもう一機!
ダークブルーのジェガンが、大型の対艦ライフルを構え、迫る。
「させません!」
狙いはきっと、デンドロアッガイのIフィールドジェネレーター!
咄嗟に盾を構え、射線を塞ぐように真正面からブーストボタンを全押し。
ダークブルーとピンクの軌道が交錯し、激突する。
発射寸前の対艦ライフルとセセリアシールドが激突し、そのままデコトレーナーとジェガンが正面衝突する。
「っっ……!」
凄まじい音と衝撃、視界がぐるぐると回る。
数秒の後、オート制御のAMBACで機体が静止する。
機体のパラメータが結構イエロー、シールドがどこかへ飛んでいった。
左腕のブレスレットやアーマーは全損で、腕が動くのは奇跡に近い。
慌ててレーダーを目視、デンドロアッガイもフロスト兄弟も、はるか前方だ。
そして間近に、敵反応が一つ。
気付いた瞬間、対艦ライフルそのものが飛んできた。
「なっ!?」
投げつけられたライフルを斧で跳ね飛ばし、返す刀でダークブルーのジェガンへ振り下ろす。
ビームの刃がヒートアックスとぶつかりあい、激しいつばぜり合いが発生する。
「また……逢えたわね。ロウジ!」
「ごあいさつですよ、エニルさんっ!」
色っぽい呼びかけに、ドキリとしながらロウジは叫ぶ。
全弾もってけ! スラスターで後退しながら、ロウジはミサイルをばらまく。
ジェガンがバルカンで迎撃し、お返しとばかりに肩のミサイルを撃ち放つ。
ミサイルとジェガンの軸線をあわせ、ロウジは肩のビームキャノンを撃ち込む。
ジェガンがそれを避け、ビームサーベルで斬り込む。
ジェガンのヒートアックスで打ち払い、つばぜり合いエフェクトと同時に言葉が飛び出す。
「よくもやるようになった、ロウジ!」
「舐めないでください!
ジェガン・Dの性能、僕の身体が覚えてます」
エニルの乗機、ダークブルーのジェガンをロウジは良く知っている。
スタークジェガンタイプのブースターと増加装甲をつけたジェガン。
ウルトラデストロイ相手に戦い抜いた思い出深いガンプラだ。
半年前でも絶対忘れない、長所と短所どちらも体に染みついている。
「デコトレーナー、良く改造したものだ。
ファンプラとは思えん!」
「いくらエニルさんだからって、
やすやすと勝ちを譲るほどやわなガンプラじゃありません!」
デコトレーナーをお褒めに預かり光栄だ。けど、勝負は別!
ミサイルをばらまき、高機動を生かしてアックスで突撃する。
バルカンの迎撃で誘爆するミサイルの中へ、ヒートアックスを振るう。
「甘い!」
勢いの乗った一撃、だが衝撃が走ったのはロウジのコクピットだった。
回避直後のカウンターのサーベルがミサイルランチャーへ突き立っていた。
「よくも!」
ランチャーとビームキャノンをパージし、斧で弾いて投げつける。
態勢を崩すジェガンへデコトレーナーが足から突っ込む。
デコトレーナー渾身の大質量ドロップキックがジェガンの肩ミサイルを吹き飛ばす。
「なんて足癖だ!」
「エニルさんこそ手癖の悪い!」
エニルの悪態に叫び返し、ロウジは思わず笑みを漏らす。
まるで夢のような時間だ。強いエニルさんとやりあえるなんて。
どうかこの楽しいガンプラバトル、まだまだ続きますように。
勝利を願いながらも、ロウジはそう呟くのだった。
「敵傭兵、衛星ミサイルの影から出現!
ドズル隊と交戦に入りました!」
パプアのオペレーター席で、マリコは報告に声を張り上げる。
サイド3から遠く離れ、ドズル隊へフォローする手段は何もない。
ガデムはサイド3内部の盤面把握に必死だ。
ボスアッガイは敵エースのキュベレイと激戦中。
マリコだって暇とはとても言える状況じゃない。
「ロウジくんはどうなっとる!」
「傭兵の奇襲を迎撃し、そのまま一機と交戦中の模様です!」
ロウジは傭兵1機の奇襲を防ぎ、そのまま高機動戦闘に入っている。
敵旗艦を直接狙う余裕はとてもない。
サイド3内部は苦戦続きだ。アッガイマフィアの残りは7機、敵攻撃隊の残りは9機だ。
デコイで数を誤魔化し、砲台の援護で必死の防戦を続けているだけだ。
「ドズル隊、敵傭兵を分断!
デンドロアッガイ、サダラーンへ向かいます!」
レーダーの光点が大きく動くのを確認し、マリコはモニター映像をデンドロアッガイへと映す。
どうやらドズル隊3機の2機がそれぞれ傭兵2機を抑え込みにかかったらしい。
飛んできた衛星ミサイルを大きく旋回してかわし、デンドロアッガイがサダラーンへ一直線。
だがまさにその時、レーダーに新たに大きな光点が現れる。
「……敵旗艦直上に、大型ジェネレーター反応!」
アレもガンプラなの!? 大型の機影に、マリコは目を剥く。
カタパルトから離陸し、サダラーンを守るように巨大な敵機が前に出る。
ロックオン距離突入と同時、デンドロアッガイが猛烈な攻撃を開始した。
「ドズル隊、敵旗艦へ攻撃開始!」
右腕部に装備された超大型メガ粒子砲と、ウェポンコンテナからのミサイルが解き放たれる。
恐ろしい威力のビームの奔流がサダラーンと敵大型機目掛けて伸びる。
だが、敵機は悠然とそのビームを真正面から受け止めてみせた。
周囲にまとったIフィールドバリアーがビームを弾き、霧散させる。
敵大型機がお返しとばかりに、胸部からメガ粒子の奔流を噴射する。
拡散する凄まじいビームがミサイルをまきこみ、爆発の花が虚空に咲く。
「ドズル隊の敵旗艦攻撃、敵大型機の妨害により失敗。
敵大型機のデータ照合完了、NZ-000 クィン・マンサです!」
「第一次ネオジオン最強と名高い大型MSじゃ!
あんな手間のかかるガンプラを作り込んでおるのか」
マリコの報告に、ガデムが感嘆の声を漏らす。
スラスターをふかしたデンドロアッガイが、大型のサーベルを構えて突撃する。
クィン・マンサも同じく大型のサーベルを抜き放ち、前へ出る。
大型機同士のサーベルが衝突し、激しいつばぜり合いが発生した。
「クィン・マンサとデンドロアッガイ、交戦を開始!」
ううん、厳しい! 報告を上げながら、マリコは内心悲鳴をあげる。
手数が足りていない。敵旗艦への奇襲は失敗した。
サイド3内部も数の少なさで徐々に戦況が悪化しつつある。
後一機いれば、手の空いた敵旗艦へ直接攻撃をかけられたかもしれないのに。
「マリコくん、どうする?
出撃するならワシのザクⅠを貸すぞ」
確かに、ロウジくんやドズル隊を助けたいならそれしかない。
だが、果たして今から間に合うか?
ガデムの誘いに、マリコはしばし考え、ゆっくりと首を横に振った。
「……いえ、やめときます。
今日はオペレーター席がわたしの戦場です!」
この楽しい遊び、職務放棄はとてもできない。
直下のサイド3へ目を向ければ、オペレーターの仕事はいくらでもある。
「うぉぉいガデム、残りのウェポンコンテナはどこや!?」
「すいません、今ピックアップします!」
ボスアッガイの叫びに、マリコは慌ててレーダー上に残るウェポンコンテナの位置をポップアップさせる。
「支援砲撃行くぞ、もろともでもいい、押し込めーっ!」
「支援砲撃着弾、レーダーに表示します!」
マリコはひっきりなしにレーダーをいじり、トラップを起動させては敵の足を引っ張る。
「はいそこ、空は通行止めです!」
強引に包囲を突っ切る量産型キュベレイの一機を狙い、ビルとビルの間にワイヤーネットをめぐらし、行く手を塞ぐ。
完全に予想外だったのか、クモの巣にかかる虫のようにガンプラが思い切り突っ込み、からめとられる。
もがく量産型キュベレイにアッガイが飛びかかり、白兵戦を開始する。
「がんばれ、アッガイさん!」
皆、本当に必死に頑張っている。とても、楽しそうに。
敵旗艦サダラーン周辺に目を向ければ、あちらも激しいバトルが展開されている。
「うわーっ! 虎の子のアトミックバズーカやられた!」
「くっそ、当たればサダラーンも一発なのに……
見逃してくれんか、フロスト兄弟め!」
ドズル隊が傭兵と激しくやりあい、デンドロアッガイがクィン・マンサと白兵戦を開始した。
「吹っ飛べ、お坊ちゃん!」
「アッガイごときに、このクィン・マンサを抜けるものか!」
そしてロウジの方へ目を向ければ、ピンクのデコトレーナーとダークブルーの敵機が激しくぶつかりあっている。
めまぐるしく攻守が入れ替わる、すさまじい高機動戦闘だ。
「なんて足癖だ!」
「エニルさんこそ手癖の悪い!」
激しく武器とガンプラをぶつけ合い、敵傭兵の女性とロウジが言葉までもぶつけ合う。
ロウジくん、とても楽しそう。手元を忙しく動かし、サイド3内部の罠を操作しながらマリコは微笑む。
ボスアッガイさんいわく、敵傭兵のあの女性はロウジの憧れの先輩だそうだ。
「がんばれ、わたしの魔法使いさん」
きっとあれは、ロウジくんが待ち望んだバトルだ。
ならばサイド3側の敗北で、ロウジくんのバトルを中断させる訳にはいかない。
「トラップ地点を表示します。
可能なら敵を押し込んでください!」
わたしはわたしに出来る事をやろう。マリコはオペレーター席で声を張り上げる。
楽しい遊びに必死で挑むダイバー達に、マリコはそっと心でエールを送る。
がんばれ皆、あなた達の手で勝利を掴みとれ!
サイド3をめぐって激しいレイドバトル。
それを見つめる一つの意識があった。
広いGBNの電子の海に漂いながら、
意識はいつしかこのレイドバトルに見入っていた。
レーダーと通信回線に侵入し、ただ見守る。
憧れの人と、慕う後輩のバトル。
未熟でいくつもの懸命な者達が、激しく意志をぶつけあう。
数多の意志が集うこの海で、今この瞬間。
この争いこそがもっとも素晴らしい。
この場にふさわしい望みは何か。
誰も知らないこの意識が、静かに不気味にレイドバトルを見つめていた。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・支援砲撃とトラップの操作
サダラーンとサイド3基地には砲台があり、NPCによる自動砲撃も行われる。
だがもちろんダイバーによる手動操作の方が精度は高い。
防衛側はガデムが、攻撃側はグレミー→アイザックが支援砲撃を担当している。
アッガイマフィアは数の不利を補うため、デコイによるレーダーのかく乱や支援砲撃を駆使し、
落とし穴やワイヤーネットなどのトラップなどで補い、ぎりぎりで互角のバトルに持ち込んでいる。
サダラーン防衛のための衛星ミサイルと言い、両軍、入念に準備を行ってこのレイドバトルに臨んだ事がうかがえる。
おそらくロンメル大佐もご満悦のことだろう。