リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回は12/29(日)

多分バトルも後ミッション4ー12ぐらいで終わる…はず
何とか頑張ってみます。
もしどこかで無理が出たら正月休みを一週間戴くと思います




ミッション4-10 全力で事態を収拾しよう!

 

 弾薬庫に引火し、ブリッジを貫かれたサダラーンが轟沈する。

 

「ジオンの船は良く燃えるな。

 無念と弾薬をたっぷり積んでるだけの事はある」

 

 見事に沈む大型艦を眺め、男はグラン・ジオングのコクピットでシニカルな笑みを浮かべた。

 次の獲物を求めて周囲を見回し、こちらへ迫るスラスターの噴射光を見とがめる。

 

「ジオンのクソ虫め。

 無能な護衛機がおっとり刀で今頃ご登壇か」

 

 母艦を落とされた無様な敵をあざ笑い、男は悠然と敵機へ向き直った。

 敵機が胸部からすさまじいビームの雨を噴射する。

 だが甘い。グラン・ジオングの機動力はやすやすとビームの雨をかいくぐった。

 

『NZ-000 クィン・マンサ』

 

 骨董品のデカブツめ。モニターに浮かぶ敵機の形式番号に、男は鼻を鳴らす。

 敵機、クィンマンサが大型のサーベルを引き抜き、果敢に切りかかる。

 手慰みに相手をしてやろう。グラン・ジオングがサーベルを引き抜き、真っ向からサーベルを受け止める。

 

「貴様、何をした!

 何故、こんな……!」

 

 若いまっすぐな怒りが接触回線で響き渡る。青い、実に青臭い。

 遊んでやる気すら失せるぜ。男は冷徹に最短で最適の手段をとる。

 

「俺も貴様らも、戦争やってんだろうがよ!」

 

 グラン・ジオングの胸部が不気味に輝き、強烈なフィールドが発生した。

 敵機、クィン・マンサが糸の切れた人形のように動きを止める。

 男は愛機右肩の大型クローを無造作に敵機胸部へ突きこみ、えぐり込む。

 頑丈な装甲圧をクローの速度と高度で強引に突破し、内側でメガ粒子の砲門を開く。

 コクピットは胸か、頭か。どうせジェネレータは胸部だ、派手に吹き飛ぶがいい。

 

「骨董品が棺だ。実に贅沢だな?」

 

 クィン・マンサをグラン・ジオングの高出力メガ粒子砲が撃ち貫く。

 大型機自慢のIフィールドバリアーだろうと、この距離では全くの無意味だ。

 

「これは……!?

 貴様、何者……!」

 

 クィン・マンサの断末魔と同時に、敵パイロットの悲鳴が聞こえてくる。

 死出の旅路のはなむけに、だ。男は慇懃に名乗りを上げる。

 

「ヌーベル・エゥーゴのタウ・リン。

 テロリストだよ」

 

 男の名は、タウ・リン。

 UC0099、月破壊を目論み死んだ、最悪のテロリストだった。

 

 

 

 

 遠目で見えた光景に、エニルは絶句した。

 

「クィン・マンサが一撃!?」

 

 お肌のふれあい回線で、ロウジの悲鳴がエニルのコクピットへ響く。

 暗礁宙域での決闘は”no contest”、無効試合と言う最悪の結末で終わった。

 訳のわからぬまま一時休戦を決め込み、ロウジとエニルは暗礁宙域を脱出する。

 そして、目撃したのは恐るべき蹂躙の光景だった。

 

「無効試合の原因は”陣営外の未確認機によるサダラーンの撃破”だったな。

 ……となると、犯人は十中八九アイツか」

 

 あの火力なら、それが容易にできる。

 驚愕に泡立つエニルの心が、そう呟いた。

 

「大型、高速、重装甲の三拍子揃った強ガンプラですよ!?

 それがものの一分もかからず、あんなあっさりと!」

 

 混乱しきった声で、ロウジが声を張り上げる。

 確かに、恐るべき事態だ。

 だが、真に恐ろしいのはクィン・マンサが強制的に外部から動きを止められたこと。

 

「……最悪の相性だ!」

 

 アレをやはり装備しているか、グラン・ジオング!

 戦慄がエニルの口から言葉となってこぼれる。

 傍らのデコトレーナーが、おびえた仕草でこちらを向く。

 

「……そこまでの相手って事ですか?」

「あの“乱入者”はグラン・ジオング、恐るべき強敵だぞ。

 このままでは各個撃破されて終わりだ。

 恐らく、キミですら単独では相手にならん」

 

 不安げなロウジに、エニルはきっぱりと言い切った。

 グレミー軍はほとんどが相性負けする。

 アッガイマフィアは火力と装甲で圧し潰される。

 このジェガン・Kやフロスト兄弟とて、正面から当たって相手になるかどうか。

 

「だがロウジ、あの”乱入者”に一泡吹かせてやりたくないか?」

「はい、もちろんです!

 ……エニルさんのバトルを邪魔したのは、だいぶ許せません」

 

 意気軒高なロウジに、エニルは口をかすかに緩める。

 

「ならば、頼みがある。

 こちらは忍者らしく、この場に潜んで乱入者の情報収集に務める。

 その間にロウジはフロスト兄弟と合流し、サイド3方面の残存戦力を結集してほしい」

「了解です!

 エニルさんこそ、お気をつけて!」

 

 素直な返事を残し、ロウジのデコトレーナーがゆっくりと離れていく。

 

「気をつけろよ、ロウジ」

 

 エニルの呟きに返事は返らない。

 通信は雑音で埋まり、チャットサーバーとレーダーはまだ回復せぬままだ。

 エニルは暗礁宙域に身を隠したまま、グラン・ジオングの様子をうかがう。

 ロックオンどころか、最大望遠でも敵の姿は豆粒でしか見えないような距離だ。

 急がなければならない。アレは恐るべき敵だ。

 エニルは浅く息を吸い込み、胸の前で手を引き結ぶ。

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前!」

 

 九つの印を素早く結び、裂帛の気合で呪文を唱える。

 これぞ九字護身法! モニターに是と非の文字が浮かぶ。

 エニルは是の文字を選択、システム起動を承認する。

 

「開け、心眼センサー!」

 

 ジェガン・Kの胸部が開き、鈍く輝く高感度センサーが展開した。

 モニターの感度が一気に上昇し、コクピットにこの戦場の情報が洪水のように流れ込んでくる。

 グラン・ジオングの映像をワイプし、最大望遠。

 キーボードを叩き、エニルはGBNのシステムへアクセスを試みる。

 

「臨時パスコードKE168046。

 サブマスター権限の仕様を要請!」

 

『エニル・エルのサブマスター権限が承認されました』

 

 エニルの視界に浮かぶ情報がさらに増える

 運営にしか見えない情報と、システムへの直接情報開示が解禁されたのだ。

 

「当該機の全データ並びにアクセス経路の分析を開始!」

 

『未確認機、アクセス経路不明。

 ガンプラネーム、“グラン・ジオング”

 ダイバーIDなし、ダイバーネーム“タウ・リン”』

 

 やはりか! エニルの確信が事実へ変わる。

 

「当該機並びにダイバーを“異邦人”と断定!

 “異邦人”出現をゲームマスターへ最優先アラート!」

 

 当該機は目的不明の危険な乱入者だ。エニルは表情を引き締める。

 可能な限り速やかな撃退が必要不可欠となるだろう。

 

「敵機の目的は不明。サブマスター権限によりシークレットミッション発動申請。

 現有戦力による対象の速やかな撃破を試みる」

 

 レイドバトルをサーバー全体に広めて救援を呼び込む手もあるが、あくまで次善の策だ。

 事態をなるべく広めず解決するためには、現有戦力で対処するのが好ましい。

 

「当該機をデータベース登録!

 当該機並びにその陣営を”乱入者”と呼称し、

 ミッション討伐対象ガンプラ“グラン・ジオング”と指定!」

 

 突如、グラン・ジオングが首を巡らせ、はっきりとエニルを見返した。

 この遠距離、ましてやカモフラージュ中のジェガン・Kに気付けるはずがない。

 だが、グラン・ジオングのカメラはモニター正面でこちらを捉えて動かない。

 

【”乱入者”とは失礼だな。”覗き見ヤロウ”】

 

 通信とは違う、メッセージがモニターにはっきりと浮かぶ。

 グラン・ジオングから目視で個別通信を送れるような状況ではない。

 ニュータイプ通信だと!? ぞわりとエニルの背筋を悪寒が突き抜ける。

 そうか、タウ・リン。お前は……強化人間だったな。

 

【随分と差別的な物言いだな】

 

 間違いない。これは幻聴でも何でもない。

 グラン・ジオングの操縦者、タウ・リンの声がこちらに伝わっているのだ。

 落ち着け、強化人間と言ってもエスパーじゃない。

 こちらの全てを読み取れるほどの万能さはないはずだ。

 浅く呼吸し、エニルは黙り込んでキーボードを叩き続ける。

 

【まぁいい。ショーには観客が必要だ。

 もうすぐ、地獄の窯の蓋が開く。

 特等席から大人しく見ていな。

 この世界が壊れていく様を……】

 

 果たして、つまらなそうにグラン・ジオングはカメラをこちらに向けるのをやめた。

 ゆっくりとスラスターをふかし、サイド3方面への移動を開始する。

 先ほどのメッセージを最後に、モニターに心の声が表示される事もなくなる。

 待っていろ、タウ・リン。お前の好きなようにはさせん!

 強い意志を指に乗せ、エニルはキーボードを叩く。

 

『A secret mission has been issued』

 

 英語のシステムメッセージが表示され、少し遅れて詳細なミッション条件が表示される。

 今、エニルが申請して即席ででっちあげた突発のミッションだ。

 そして一ダイバーとして参加中のエニルへもシステムからの告知が届く。

 

『運営より、シークレットミッション”乱入者を討伐せよ”が発令されました。受領しますか?』

 

「こちらサブマスター・エニル。

 レイドバトル参加者の現有戦力を統合し、”異邦人”討伐へ向かう。

 レイドバトル攻撃側と防衛側を統合し、チャットサーバーの再構築!

 並びにレーダーの復旧を急いでくれ」

 

 システム担当へのメッセージを投げつけ、エニルは大きく息を吐きだした。

 体裁だけは整えた。だが本当にこのミッションはクリア可能な難易度なのか。

 

「高難度ミッション、テストプレイもなしでぶっつけ本番だな……」

 

 学生の頃を思い出す。なんどプレイヤー達にクソゲームマスターと文句を言われたことか。

 頼むぞ、ロウジ。エニルは祈るように呟き、撤収の準備を始めるのだった。

 

 

 

「ミノフスキー粒子ってこんなに厄介なものだったんだ……」

 

 愛機デコトレーナーで、ロウジはぼやいた。

 エニルの依頼で出発したものの、ロウジは誰とも合流出来ずにいた。

 普段の索敵で、いかにレーダーと通信に頼っていたかがよくわかる。

 デコトレーナーのメインカメラを四方にめぐらせ、ロウジは不安げに索敵する。

 遠くに見えるサイド3の光がなければ、宇宙空間で方角すら見失っていただろう。

 

「……スラスター光!」

 

 遠方に、サイド3方面へ向け撤退する複数の光を見つけ、ロウジはほっと息を吐いた。

 アレはガンプラのスラスターの噴射光だ。数は多分……2。

 アッガイマフィアさんか? フロスト兄弟なら一番ありがたい。

 周囲を警戒しながら、ロウジは見えた光の方へ緩やかにスラスターをふかす。

 カメラの望遠機能で画像を拡大し、そちらを見やる。

 光が不規則な機動で動き、明滅する。激しい光が帯状に放たれた。

 ロウジはぎょっと目を見開き、ブーストボタンを全力で押し込む。

 

「違う……戦闘だ!?」

 

 ロウジが目撃したのは戦闘の光だった。

 追手が1、追われているのが2!

 拡大された画像で、機影が判明する。偵察機のアイザックと、ドズルアッガイさんだ。

 アイザックを守るようにドズルアッガイさんが前に出る。

 まるで猫がネズミをもて遊ぶように、巨大な“乱入者”グラン・ジオングが悠然と攻撃を仕掛けている。

 

「……ごめんなさい、エニルさん!」

 

 ロウジでもヤツにはかなわない。エニルの忠告が心をよぎる。

 だが、襲われる味方を放置する選択肢はなかった。

 

「こっちを……向けぇっ!」

 

 ロックオン距離に入るなり、ロウジはデコトレーナーの右手ブレスレットのビームガンを乱射する。

 牽制にすらならない遠距離だ、少しでもこっちを向いてくれ!

 だが、願いも虚しくグラン・ジオングがドズルアッガイに掴みかかる。

 凄まじい突進速度で大型クローが胴体に突き刺さり、メガ粒子砲の光がドズルアッガイを貫く。

 

「ああ……っ!?」

 

 そして、グラン・ジオングが頭部を巡らせ、デコトレーナーを見やる。

 そして口元から放熱。まるで悪鬼が笑ったかのようだった。

 こいつ、わざわざ見せつけるように!

 

「逃げる相手を追うのが……そんなに楽しいですか!?」

 

 思考が沸騰する。スラスターを全開、ロウジは叫ぶ。

 グラン・ジオングはデコトレーナーに気付いた上で、逃げるドズルアッガイを落とすのを優先したのだ。

 肩から伸びた大型アームがデコトレーナーに向き、激しいメガ粒子の帯が放たれる。

 

「そんなものっ!」

 

 片側に残ったスカートのスラスターをふかし、ビームを回避。

 グラン・ジオングから断続的に撃ち込まれる両肩のアームのビームをかいくぐり、

 デコトレーナーが最短距離でグラン・ジオングへの距離を詰める。

 右腕のブレスレットから放たれたビームがグラン・ジオングの肩アーマーで弾け、呆気なく霧散する。

 対ビーム装甲! 敵機の厚い防御にロウジは目を剥く。

 

「大きい。30m級のガンプラ!

 装甲も分厚くて、火力も……うわわ!」

 

 グラン・ジオングの肩口から伸びた二本のクローアームから、お返しとばかりに猛烈なビームが放たれる。

 こっちは食らったらタダじゃすまない!

 ロウジは慌てて操縦桿を握り、必死に回避行動を取る。

 その時、ロウジの視界の端でかすかにスラスター光がきらめいた。

 襲われていたアイザックがサイド3方面へと離脱しようとしているのだ。

 余裕を作ったら、こいつはまたあっちを狙う!

 

「遠距離でダメなら……!」

 

 ロウジはサーベルを引き抜き、グラン・ジオングへと構える。

 いくら対ビームの装甲でも、白兵武器を完全シャットアウトは出来ないはず。

 アイザックの離脱を支援だ!

 ロウジはグラン・ジオングの砲火をかいくぐり、猛然と白兵距離へと詰め寄る。

 突進の勢いそのままに、右からの大型クローの付け根、関節部を狙ってサーベルで突き!

 だが、グラン・ジオングはその動きを読んでいた。

 大型クローの内側から素早くサーベルが抜き放たれ、サーベルを受け止める。

 

「か、隠し腕ぇ!?」

 

 違う、隠し腕じゃない。ロウジは即座に過ちを悟る。

 最初に腕と思っていたのが、グラン・ジオング肩アーマーなのだ。

 肩アーマーから生えた大型クローと、通常のマニピュレーター、敵機は4本の腕を持ってるんだ!

 それはつまり、近接白兵戦において圧倒的なアドバンテージを持つ。

 サーベルを受け止められ、デコトレーナーの動きが止まる。

 すかさずグラン・ジオングがクローをデコトレーナーの右手首へ叩きつける。

 

「うぁっ!?」

 

 激しい衝撃が走り、離したサーベルが吹き飛ぶ。

 吹き飛ばされたデコトレーナーの視界もぐるぐると回る。

 サーベルを握ったままだったら、手首から先がへし折れていただろう。

 

「まだだっ!」

 

 叫びと共に、デコトレーナーがスカートスラスターの内側から最後のサーベルを抜き放つ。

 奥歯を噛みしめ、ロウジは愛機の姿勢をAMBACで立て直す。

 すかさず反転し、グラン・ジオングへ突進。

 モーションの大きな突きでなく、小さな払いで敵の姿勢を崩しにかかる。

 だが、そのどれも通じない。

 フェイントは余裕をもって見切られ、危険な攻撃は弾かれ、避けられ、即座にカウンターが飛んでくる。

 

「……この人、強い!」

 

 悲鳴のような称賛の声がロウジの喉から漏れる。

 敵機のカウンターへ盾代わりにかざした左腕が、クローの直撃で千切れ飛ぶ。

 ダメだ、射撃戦でもかなわず、白兵戦でも4本の腕の防御を崩し切れない!

 距離をとろうとした瞬間、グラン・ジオングが猛烈な攻めに出た。

 突き、突き、払い、近距離のビーム。

 大型のクロー2本とサーベルによる猛烈なラッシュだった。

 

「うひゃっ!」

 

 何で避けられたか、ロウジ自身すら判らない。

 クローに肩アーマーをぶち当て、足でクローを蹴り飛ばし、

 サーベルをサーベルでそらし、ビームを辛うじてすかす。

 

「き、奇跡的ぃ」

 

 もう一度やれと言われても、絶対無理!

 グラン・ジオングが口部から苛立たしげに放熱する。

 そして両肩のクローアームが、あらぬ方へと向けられた。

 

「……こいつ、またっ!」

 

 違和感が悪寒に変わり、全身を戦慄が突き抜ける。

 離脱するアイザックを、狙っている!

 クローから、アイザック目掛け、高出力のメガ粒子砲が放たれる。

 ロウジにできるのは、デコトレーナーを射線へ飛び込ませる事だけだった。

 

「うあああっ!?」

 

 放たれたメガ粒子砲がデコトレーナーへとマトモに着弾する。

 激しい衝撃がコクピットを揺らし、ダメージアラートでモニターが真っ赤に染まる。

 片方残っていたスカートスラスターが完全に吹き飛び、片足が根こそぎ持っていかれた。

 そして、ガンプラのへしゃげる嫌な音が響く。

 グラン・ジオングのクローがデコトレーナーの右肩と残る片足を挟み込んだのだ。

 

『正義の味方ってのは、大変だなあ?』

 

 死ぬ、負ける。敗北の予感に震えるロウジに、嘲るような声が届く。

 接触回線が開いたのだろう。

 歴戦の傭兵と言った風な東洋系の男性の顔が通信ウィンドウに浮かんだ。

 グラン・ジオングのパイロットに違いない。

 

「狙いましたね、撤退する機体を!」

 

 卑劣とは言いたくない。けれど、ロウジは通信相手へ猛然と噛みついた。

 余裕の表情で、通信相手がまさに嘲るように笑う。

 

『逃せば敵が増える。うまく狙えばお人好しが釣れる。

 狙わない理由がねぇよな?』

 

 ロウジは唇を噛む。完全に掌の上だったってことだ。

 そして、ビームサーベルの柄がコクピットの真正面へと突きつけられる。

 僕も、ケイトさんみたいに焼き殺される!

 

『心配すんな、平等に皆殺しにしてやる。

 さっき逃げたヤツも含めてな』

 

 淡々と告げる通信相手に、ロウジは焦る。

 脱出しないと! けれど、逃げたところでこのままじゃ……

 

『……新手か?』

 

 通信相手の呟きに、ロウジは脱出装置のレバーを躊躇なく引き絞った。

 炸薬と圧縮空気の音とともにロウジの身体が直上方面、頭部の非常脱出ハッチから投げ出される。

 直後、デコトレーナーのコクピットがビームサーベルで焼き尽くされた。

 脱出装置の勢いで宇宙空間に投げ出されたロウジの身体を異形の機影がかっさらう。

 

『ロウジ・チャンテを救出したよ、兄さん!』

 

「フロスト兄弟の……オルバさん!」

 

 ロウジを保護したのは、ガンダムアシュタロンのMAモードだった。

 

『よくやった、弟よ!』

 

 アシュタロンの爪越しに通信の声が響く。

 グラン・ジオング目掛けて激しいビームの奔流が伸びる。

 デコトレーナーの残骸を置き去りに、グラン・ジオングが大きく回避行動を取る。

 

「メガソニック砲!

 シャギアさんのガンダムヴァサーゴ!」

 

 アシュタロンがいるなら、もちろんヴァサーゴも!

 あ、違う。2機とも番組後半の強化型だ……確か、チェストブレイクとハーミットクラブ。

 隕石にクローを固定し、腹部の大火力ビーム砲を輝かせる異形のガンダムをロウジは見た。

 

『逃げるぞ、弟よ!』

『しっかり掴まっていることだね。

 ロウジ・チャンテ』

 

「……り、了解!」

 

 敵機との交戦も最小限。

 アシュタロンMAモードが大きく旋回し、離脱軌道をとる。

 後方のグラン・ジオングの大型クローが光る。

 ロウジは慌ててクローにノーマルスーツの身体を固定した。

 アバターでなければ身体がちぎれとびそうな激しい横Gがロウジを襲う。

 グラン・ジオングのビームが飛んでくるのを、アシュタロンが大きな機動で回避する。

 

『兄さん、もういいよ!』

『よくやった、オルバ!』

 

 恐ろしい追撃戦はあっという間に終わった。

 快足を飛ばし、アシュタロンがグラン・ジオングを振り切る。

 同時にヴァサーゴも素早く隕石の裏に身を隠す。

 お手本のような一撃離脱だった。

 ロウジは長く深い息を吐き出し、礼を述べる。

 

「ありがとうございました、オルバさん。

 シャギアさんにも後でお礼を……」

「勇敢と無謀は違うよ、少年」

 

 まったくもってご指摘の通り。

 今さらながら震え始めた身体をロウジは力なく抱きしめる。

 

「あんなバケモノに、勝てるんですか?」

「少なくとも、我らがリーダーは勝つつもりのようだ」

 

 オルバの言葉に、ロウジは無言でサイド3の灯りを見つめる。

 そうだ、エニルさんは戦力を集めろと言った。

 

「エニル・エルは待っている。

 ジェガン・Kのメインシートを開けて」

「……使わせて貰えるんですか、“Jの影忍”を!?」

 

 思いもよらぬ言葉に、ロウジの心へ再び火が灯る。

 食い入るように、ロウジはオルバへ問うた。

 

「我らがエニルはサブシートに座るそうだ。

 言っていたぞ、少年が勝利の鍵だと。

 どうする、ロウジ・チャンテ?」

 

 ずしりと重い期待が実体化してロウジの眼前に突き付けられる。

 深呼吸し、ロウジは静かに心を決める。

 

「乗らせていただきます。

 そして今度こそ……勝ちます!」

 

 選ぶ道なんて決まってる。ロウジは力強く宣言する。

 エニルさんが信じてくれているんだ。僕の腕を!

 

「もちろん、ワシらだってそのつもりやで、ロウジくん!」

「ボスアッガイさん!」

 

 突如通信が会話し、やかましい関西弁の声が耳元で聞こえた。

 ロウジは声を弾ませ、システムウィンドウを操作する。

 通信ウィンドウにボスアッガイと、後ろでわちゃわちゃするアッガイマフィアの皆さんが映る。

 

「運営から突発シークレットミッションが発令されたんや。

 ロウジくんにもきとるやろ?」

「え、あ、これか!」

 

 味方捜索とバトルで気付かなかった。

 視界の片隅でシステムメッセージの着信が点灯している。

 

『運営より、シークレットミッション”乱入者を討伐せよ”が発令されました。受領しますか?』

 

「攻撃側のグレミー軍と呉越同舟、延長戦に備えて準備中や!

 ロウジくんの力、もうちょっとだけ貸してもらえへんやろか」

 

 ロウジを運ぶアシュタロンは、サイド3直上へとたどり着いていた。

 眼下に、スペースポートからわらわらと出てくる色とりどりのアッガイ達が見える。

 そのすぐ横で隊列を組んで出てくるグレミー軍のMS達も見える

 アッガイ達がこちらへ手を振り、グレミー軍のMSがこちらへ敬礼するのが見える。

 そうだ、僕は一人で戦ってた訳じゃないんだ。

 心にじんわりと温かなものが染み込んでくる。

 

「もちろんです、ボスアッガイさん!」

 

 力いっぱい叫び、ロウジはミッション受領を選択する。

 そしてロウジを乗せたアシュタロンはサイド3外部に接舷した補給艦パプアへ辿り着く。

 パプアから色とりどりのコンテナと固定用のワイヤーが放出されている。

 アッガイマフィアとグレミー軍が次の戦いのための準備を進めているのが判る。

 

「さぁ、行くが良い、ロウジ・チャンテ。

 間もなくエニル・エルもパプアへやってくる」

 

 アシュタロンがガンダムへと変形し、相対速度を殺し、穏やかに静止する。

 人用のエアロックは……あそこだ。狙いを定め、ロウジはアシュタロンを蹴って移動を開始する。

 

「はい、本当にありがとうございました、オルバさん!

 シャギアさんにもよろしくお願いします」

 

 接触回線ではなく個人宛通話に切り替え、ロウジはオルバへ礼を述べた。

 じたばたもがいて不格好に体をひねり、アシュタロン目掛けてゆっくりと手を振る。

 

「兄さん共々、キミの活躍を期待している。

 キーワードは25話だよ、少年」

 

 謎かけのような言葉に、ロウジは一瞬考えこむ。

 

「機動新世紀ガンダムXの25話?

 ……あぁ!」

「そう……」

「「君達は希望の星だ」」

 

 期せずして、声が揃う。

 同じ作品を見て、同じガンダムと言う作品を愛して。

 だから僕達はここにいる。一緒に戦える。

 ロウジは拳をぐっと握りしめ、決意を叫ぶ。

 ”僕”は負けた。けれど”僕たち”はまだ、負けてない!

 

 

 

 交戦を短く切り上げ、敵機が逃げる。

 射程距離外へ見事逃げのびた敵機を、タウ・リンは悠然と見送った。

 

「ガキどもばかりと思ったが……

 どうやら、きちんと動けるヤツもいるらしいな」

 

 無理に追う事もあるまい、どうせもう一度サイド3でぶつかるだけだ。

 敵機のスラスター光がサイド3の方へ向かうのを見送り、タウ・リンは呟く。

 

「アナハイムの業突く張りどもめ。

 どんな面の皮をしてやがる……」

 

 奇襲をかけてきた腕利きの1機はガンダムタイプだった。

 恐らくあのゲテモノTMSも変形すればガンダムの顔がついているはずだ。

 歴戦の戦士タウ・リンが知らないと言う事は、AEが作った新型に違いあるまい。

 

「ヤツらには一度地獄を見せてやるほかあるまい。

 なぁ、そう思わんか?」

 

 タウ・リンは虚空へ言葉を投げかけ、グラン・ジオングの相対速度を緩めた。

 虚空から突如、巨大な艦影が現れる。

 まるではかったかのように、グラン・ジオングが巨大艦の甲板へと緩やかにランディングする。

 

「……やはり、お前もか、アウーラ」

 

 タウ・リンは巨大艦の名を当然のように呼ぶ。

 自分とグラン・ジオングがここにいるのだ。

 同じ戦場で散ったはずの超ド級戦艦がここにいても不思議ではない。

 

「おい……タウ・リン。

 まさかここが地獄って訳じゃなかろうな?」

「こんなサービスのいい地獄があるものかよ」

 

 アウーラから聞こえた戦友の言葉に、タウ・リンは鼻を鳴らす。

 タウ・リンは確かに一度死んだはずだった。

 血と共に自分が流れ出し、失われる感覚は今なお鮮明に思い出せる。

 

「見ろ、あの遠くに見えるアレは、サイド3のムンゾだぜ。

 平和のヌルさにすがり、全てを忘れる事を選んだクソどもの巣……」

 

 あの忌々しいザビ家の遺児によって、グラン・ジオングのコクピットを貫かれたものだ。

 だが、コクピット内モニターに映るタウ・リンの顔はUC0099当時の姿のままだ。

 

「ああ、見間違える訳がねぇな、タウ・リン。

 我が物顔のギレン・ザビが演説をぶっていた頃とあそこはまるで変わらん」

 

 死は全てに平等だ。それがタウ・リンの流儀だった。

 無慈悲に全てを失う恐怖だけは富めるブタどもも貧者も変わらない。

 

「せっかく黄泉より舞い戻ったんだ。

 どうせなら派手にやろうぜ、タウ・リン」

「……そうだな。亡者なら亡者らしくしてやるとするか」

 

 だが、死んだはずのタウ・リンが今またこの宇宙に存在している。

 愛機グラン・ジオングと言う死をもたらす力をてにしたまま。

 理由などわからない。だが、心に満ちる行き場のない憎悪が抜け落ちるはずもない。

 

「故郷を失い、泣き叫ぶザビ家の遺児の顔。

 想像すれば多少は溜飲が下がろうってもんさ」

 

 タウ・リンはシニカルに笑い、愛機グラン・ジオングの操縦桿を握り直す。

 

「……行くぞ、グラン・ジオング。

 この世に生きる全てのものに、等しく災禍をもたらしてやれ」

 

 敗残兵のやることなど決まっている。

 破壊と略奪だ。今の気分に実にふさわしい。

 亡者らしく生者を地獄へ引きずり込んでやろうではないか。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ニュータイプ会話

 

 ニュータイプ同士の感応力を使用したコミュニケーション。

 強いニュータイプ同士であれば全裸で謎の空間で対話することも可能。

 ニュータイプからそれ以外であれば断片的な意思や短い文章程度となる。

 GBNにおいてはニュータイプ及び強化人間に付随する特殊スキルとして表現される。

 ミノフスキー粒子環境下などのジャミング状態での会話や文章による意思疎通が可能となるが、

 基本的に通信制限のないGBNではあまり目立った使用は見られない。

 本文では強化人間タウ・リンの高い察知能力と強すぎる害意が文章となって示されたものと思われる。

 

 

 

 

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