リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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今年最後の投稿となります。
今年1年、拙作にお付き合いくださいました読者の皆様、
本当にありがとうございました。

来年もエタらない限り自己満足で描き続けたいと思っております。
お時間と興味が続く限り、よろしくお願い致します。

次回は年明け1/5(日)です。
多少文章が短くなるかもしれませんが、続きは投降します。

確実に4-12では決着つきそうにないので4-13か4-14に伸びます。


ミッション4-11 自分に再び問いかけよう!

 

 ここからは正真正銘、延長戦だ。

 表示時刻から目を切り、エニルはリアル手元でペットボトルの水分を補給する。

 レイドバトルの終了予定時刻はとっくに過ぎた。

 もうしばらくすれば日付も変わり、リアル用事のある人間は睡魔のアンブッシュに怯える時間だ。

 だと言うのに、ここにはたくさんの人間が居残り、熱気に満ちていた。

 

「グレミー軍、出撃可能メンバーと機体リスト、出揃いました!」

「アッガイマフィア、メンバー表、こちらも出揃ったで!」

「”GM-ARMS”三機、続けて協力させていただく」

「ガデム並びにロウジ、マリコ、続いて参戦じゃ」

 

 まったく、ダイバーと言う人種はお祭り好きが過ぎる。

 エニルはジェガン・Kのコクピットで一人、口元に笑みを浮かべた。

 画面上に表示されたガンプラとダイバーの数は開始時のほぼ6割、生き残った戦力のほぼすべてだった。

 幾つか機体とダイバーが出撃時と違うものは、リアル用事の都合で交代したのだろう。

 それだけ、理不尽な乱入にフラストレーションを感じた人間が多かったのだろう。

 

「ほいじゃ、総指揮官頼むで、グレミーくん。

 ワシは前線指揮官に専念させてもらうわ!」

「よろしく頼む、グレミーくん。

 パプアの艦長席はいつでも譲る準備出来とるぞ」

「謹んでお請け致します、ボスアッガイさん、ガデムさん。

 現在、オペレーターと共に移動中です。まもなく接舷します」

 

 ジェガン・Kのモニターに表示された通信ウィンドウ越しで、グレミー、ボスアッガイ、ガデムの会話が飛び交う。

 どうやらチャットサーバーとレーダーは正常へ戻ったようだ。

 皆はガンダム特有のミノフスキー粒子の散布と思っているようだが、恐らくは違う。

 例の”異邦人”達の出現……不正アクセスによる過負荷でチャットサーバーやレーダーが一時的にダウンしていたのだ。

 事前打ち合わせにない事例だ。おそらく今回の事件は今までより遥かに大規模なもののはず。

 三人の会話を聞きながら、エニルは心を引き締めた。

 

「敵ボスガンプラ、出現した超ド級戦艦と共にサイド3目掛け移動中じゃ。

 交戦開始距離まで推定、約600カウント。

 エニル女史、そちらは間に合いそうか?」

「こちらエニル。到着は問題ない、もうまもなくパプアが目視可能距離だ。

 だが複座機能はぶっつけ本番だ。ロウジとの打ち合わせ、敵を追い込む罠の準備、時間は幾らあっても足りない。

 到着次第、格納庫へロウジを向かわせてほしい。すぐに打ち合わせを進める」

 

 エニルは緩やかにスラスターをふかし、ジェガン・Kの脚部がサイド3外壁へ接地させた。

 そのままオートラン移動をON。ジェガン・Kがコロニー外壁を駆け、あっという間に景色が後ろへ流れていく。

 

「了解だ、ロウジくんを待機させておこう。

 それで、エニル女史。

 予想される敵戦力について情報の提供をいただけるかな?」

「了解だ! あくまで原作のスペックだが、敵のガンプラは極上だ。

 性能はほぼ忠実に再現されていると思ってくれ。

 そして、敵の陣営だが……

 UC0099ネオジオン残党が所有する重MSグラン・ジオング。

 そして超ド級戦艦アウーラ。及びその艦載機ファントム多数が敵の標的となる」

 

 愛機の移動をシステムに任せ、エニルはオンライン首脳会談へ集中する。

 ガデムの問いに、エニルは簡潔に説明を述べた。

 

「……ううむ、ムーンクライシスとは。

 随分とコアなところから持ってきたものじゃな」

「申し訳ない、寡聞にして存じあげません。

 ゲームオリジナルの機体ですか?」

「ああー! ムーンクライシスか!

 タイトルぐらいは聞いた事あるで!」

 

 反応は三者三様だった。

 うっすらと三人の年齢層がうかがい知れる。

 

「長編漫画のラスボスコンビじゃな。

 ……いささかヘビーな手ごたえじゃな」

「ジオンの名を冠する機体が弱い訳あるかい」

 

 ガデムとボスアッガイのベテランコンビが軽口を叩きあう。

 ベテラン二人の反応に、グレミーが無言で表情を引き締めるた。

 その目測は恐らく正しい。何せ相手は月を滅ぼしかけたテロリストどもだ。

 特に強化人間のタウ・リンはGBNの上位ランカー達がよだれを垂らして対戦を切望する相手だろう。

 

「グラン・ジオングはジェガン・Kとアウーラで対処する。

 グレミー軍並びにアッガイマフィア諸兄に願いたい。

 艦載機ファントム多数を突破し、アウーラを沈めてほしい」

 

 まったくもって面倒極まりない相手だ。エニルは苦笑し、天を仰ぐ。

 

「……なるほど。クィン・マンサの動きを止めた例の機能のせいですね?」

「それもある。だが現実的にアウーラ撃沈を狙うなら、グラン・ジオングにこれ以上戦力を割けんのだ」

 

 納得顔のグレミーに、エニルは真顔で事実を告げる。

 グラン・ジオング単機であれば囲んで足を止めて袋叩きで勝ち筋は幾らもある。

 

「のぉエニル女史、確かアウーラはバリアを装備しとったろう?

 同型艦の艦砲一斉射撃でようやく抜けるクラスの強力無比なもの。

 MSの出入りすら拒むようなものじゃった記憶があるぞ」

「フロスト兄弟の戦略兵器をもってそれに対処する。

 最低でも無人機ファントムが発射の妨害に来る。

 そこを諸兄は全力で敵を迎撃してほしい。

 グラン・ジオングが迎撃に来ればこちらで迎撃を行う」

 

 ガデムの指摘がありがたい。エニルは筋道立てて戦略の青写真を語る。

 原作と違い、こちらに大型空母ベクトラはない。

 戦略兵器搭載しているフロスト兄弟がアウーラ相手の唯一の勝ち筋だ。

 

「なるほど、戦略兵器で撃沈出来ればよし、最悪でもバリアに穴が開く……

 穴を開けたところに対艦装備の機体が飛び込めば、落とす手段は幾らでもあります」

「アッグ装備の出番やな! アッガイマフィアの爆発力見せたるでぇ!」

 

 にやりとグレミーが笑い、ボスアッガイが戦意高く叫ぶ。

 まったく頼もしい限りだ。エニルは操縦桿を握り、小さく頷く。

 

「敵艦の速度に変化なし。交戦開始まであと約420カウントじゃ。

 各指揮官は準備の出来たガンプラから戦場へ展開させてくれい!」

「グレミー、了解!」

「ボスアッガイ、了解!」

 

 短い首脳会談は終わった。エニルは正面モニターに目を向ける。

 ジェガン・Kの快足によって、停泊するパプアが目視距離になっていた。

 固定用ワイヤーによって数珠つなぎにされた補給用コンテナがパプアから放出され、多数のガンプラが群がっている。

 

『はい、Pとマーキングされたものがパプア提供のコンテナです!

 この黄色が装甲リペア材、赤が弾薬、青がエネルギーチャージャーだそうです。

 両軍共通ですから、焦らず順番に補充して場所を開けてってください!』

『アッガイマフィアの武装コンテナ、こっちっす!

 グレミー軍の人たちも良ければどうぞ!』

『さぁ、連合軍の諸兄。このコンテナは我々兄弟からのプレゼントだ。

 こちら”GM-ARMS”提供のスペシャルウェポンとなる。

 一人一つずつ持っていくといい』

 

 陣営通信で忙しく情報共有がされ、多数のガンプラが迅速に補給を行っている。

 深夜だと言うのに、集まった面々の戦意に衰えは見えない。

 まったく、ダイバーと言う人種はモノ好きばかり。エニルは口元をかすかに緩める。

 遊びだからこそ全力で。先達の教えがこのGBNに今も生きている。

 

「こちらエニル・エル。パプアを目視した。まもなく着艦する。

 右腕を交換後、対グラン・ジオング相手の忍法の仕込みを開始する!」

「了解じゃ。ロウジくんをすぐ向かわせる」

 

 我らの楽しい遊び場を、”異邦人”どもに汚されてなるものか。

 決意を新たに、エニルはジェガン・Kをパプア目掛けて跳躍させるのだった。

 

 

 

「アンチ・ファンネル・システム!?」

 

 パプアの狭い通路に、プルツーの叫びが響き渡った。

 

「その通りだ、プルツー。

 グラン・ジオングは胸部に“AFS(アンチファンネルシステム)”を装備しているとのことだ」

「お前があっけなく落とされた理由がそれか、グレミー」

 

 冷静なグレミーの通信を聞きながら、プルツーは慌てて周囲を見回した。

 喧騒溢れる格納庫とパプア周辺と違い、パプアの通路はしんと静まり返っている。

 

「その通り。

 そして君をグラン・ジオングに向かわせない理由でもある」

 

 諭すようなグレミーの声に、プルツーはため息を小さく噛み殺す。

 愛機キュベレイP2Cの補給と修繕は終わった。

 いざクィン・マンサの仇討だ、と意気込むプルツーだが、

 命じられたのは対アウーラ作戦への参加だった。

 

「ローゼン・ズールの使用するサイコ・ジャマーと類似した機能を持つシステムだ。

 原理は省略するが、ヤツがAFSを起動した瞬間、周囲のサイコマシーンとIフィールド装備の機体が動作を停止する」

「もういい、良く判った。

 つまり我々とグラン・ジオングは最悪の相性って事だ」

 

 不服を叫んでは見たが、筋道立てて説明されてみれば納得の理由だ。

 グレミーにわざわざ時間を使わせたのが申し訳なさを感じる。

 

「キュベレイP2Cを対艦仕様に変更し、作戦に従事する。

 あまったギラドーガシールドを回してもらうぞ」

「すまない。プルツー、よろしく頼む」

 

 出来るだけ声と表情をやわらげ、プルツーは冷静に通信を終えた。

 アウーラの方とて殴り甲斐のあるデカい獲物だ。獲物の代償で不服ではない。

 ただ、残念なだけだ。

 

「……ロウジ・チャンテと肩を並べられると思ったのだがな」

 

 あの日、はるかに遠かったあの背中。

 自分はいったい、どれだけ近づけただろうか。

 感傷的に呟き、狭く古めかしいパプアの通路を進む。

 曲がり角を曲がった瞬間、ずしんと衝撃が腹と頭部に走る。

 

「いった……ぁ!?」

「わきゃあ!?」

 

 思わず悲鳴が口から突いた。痛みはなくともびっくりが勝る。

 物思いが悪かった。うっかり出会いがしらの正面衝突だ。

 壁に叩きつけられ、プルツーはノーマルスーツの機能で固定される。

 相手ダイバーが弾き飛ばされ、無重力通路でぐるぐると回る。

 

「すまない、大丈夫か?」

「ごめんなさい!

 そっちこそ、だいじょぶですか!?」

 

 ぐるぐる回る衝突相手に手を差し伸べ、回転を柔らかく止めてやる。

 ほぼ同時に謝意と気遣いの言葉が飛び交い、思わず顔を見合わせる。

 プルツーは相手と近距離で見つめあい、ほぼ同時に叫んだ。

 

「……”ピンクの悪魔”!」「赤キュベレイのエースさん!」

 

 ロウジ・チャンテが目をまん丸に見開いている。

 プルツーは唖然と心でぼやく。

 両陣営トップエースの顔合わせにしては、いささかしまらない出会いではないか?

 

 

 

「え、プルツーって、あの時の陸戦ガンダムだったの!?」

 

 場所を移し、ロウジとプルツーは短い自己紹介を終える。

 ロウジが素っ頓狂な驚きの声をあげ、プルツーはかすかに苦笑する。

 

「そうだ。”第七士官学校”と“デミダイバーズ”との交流戦。

 サイコガンダムのお供をしていた陸戦ガンダムだ」

 

 トップエース会談の舞台は、すぐ傍のパイロット待機所だった。

 待機所とは名ばかり、まるで古い遊覧フェリーのような小部屋だ。

 こじんまりとしたスペースに、置かれているのは自販機と色の変わったベンチだけ。

 

「嘘でしょ!?

 今回の遭遇戦、正直ビビったもん。

 たった半年であんな動き出来るようになるなんて、天才じゃない?!」

「いい手本があった。

 無心に追いかけた結果、それだけだ」

 

 驚きと尊敬にきらきらする眼差しで見つめられ、プルツーはぶっきらぼうに呟く。

 

「そっか、“第七士官学校”やっぱりいい環境なんだね!

 やっぱり上を目指すなら、そう言うとこの方が良いのかな」

 

 お前だ、お前の事だぞ、ロウジチャンテ。

 目指すべきお手本、ロウジ・チャンテのすっとぼけた言葉に、プルツーは内心で呆れる。

 コイツ、本気で言ってるな?

 このぼさぼさ頭のモブ顔の少年は、自分が憧れの対象になるなど考えた事もないのだろう。

 

「作戦は聞いたか?」

「うん、あらましは聞いた。

 グラン・ジオング討伐、君が横にいてほしかった!」

 

 まったく、この無自覚トップエースが!

 この上ない賞賛を不意打ちで投げかけられ、プルツーは思わず口元を手で覆う。

 

「”ピンクの悪魔”が手助けを欲しがるか。

 グラン・ジオング、それほどの相手か」

「その呼称、やめない?

 僕は二つ名持つようなタマじゃないってば」

 

 照れ隠しに投げた言葉で、ロウジが照れ臭そうに頬を掻く。

 何をバカげたことを言っている。プルツーは語調を強め、さらに言葉を重ねる。

 

「グラン・ジオング。

 今度こそ、勝てるのだな?」

「……勝ちを断言出来る相手じゃない。

 まともにぶつかって勝率は五割もないかな」

 

 ロウジのふやけた笑顔が消え、負けん気の強さが顔を覗かせる。

 

「射撃じゃダメだ、軽いビームじゃ装甲に弾かれる。

 重いビームだって機動性の高さで軽々と避けられる。

 そもそも、強くて速いビーム使いがほとんどいない」

 

 まるで別人のようにきりっとした顔でロウジが敵の評価を口にする。

 冷静で正確な評価だ。ロウジの戦闘巧者ぶりが伺える。

 

「白兵もかなりしんどいよ。

 二本の腕と肩に増設されたクローアームによる計四本の腕。

 タイマンだと思った以上に鉄壁だ。

 ただ速いだけじゃ、真正面では絶対に崩せない」

「同意見だ。

 四本腕の異形、使いこなせばああも恐ろしいとはな」

 

 ロウジの戦術眼の確かさに、プルツーは満足げに頷く。

 先だってのバトル映像は見た、正直なところ、アレはバケモノだ。

 

「四本の腕の防御を突破するなら、単純計算で二倍の手数がいる。

 キミが傍にいてくれたなら、どちらか片方を囮に崩すことは出来たと思う」

「実戦で試せないのが残念だな」

 

 ロウジの言葉に、プルツーは笑って首を横に振る。

 

「ロウジ・チャンテ。

 タイマンでアレとやりあう以上、勝ち筋は一つしかないと思っている」

「奇遇だね!

 僕もあるよ、アレに一撃入れる道筋。

 ……答え合わせしてみようか?」

 

 にやりと笑うロウジに、プルツーは笑みを浮かべ、頷く。

 

「射撃と白兵、どちらも厳しいが、狙う手は……」

「白兵。貫通力の高い一撃で急所を抜く」

 

 プルツーの言葉に、ロウジが応える。

 同じだ。プルツーは笑みを深くし、さらに言葉を続ける。

 

「罠やギミックで体勢を崩し」

「最速で初見殺しを叩きこむ」

 

 出した答えはまったく同じだった。

 顔を見合わせ、プルツーはロウジと同時に笑い出す。

 背中を追いかけ続けた相手が、手が届きそうなところにいた。

 この上ない手ごたえに、プルツーの心がじんわり温まる。

 

「ごめん、プルツー。そろそろ僕は行くよ。

 具合的な初見殺し、エニルさんと打ち合わせしないと」

 

 すまなそうに両手をあわせるロウジの背中を叩き、入り口の方へ押しやる。

 

「行ってこい、ロウジ・チャンテ!

 その代わり、終わったら映像ログを寄越せ。

 貴様の模範解答、魅せてもらおう」

「おっけー!

 その代わり、プルツーの対艦戦闘の映像見せてほしいな。

 僕、対艦撃沈経験がないからお手本にさせて!」

 

 無重力慣れしてない様子のロウジが、もたもたした動きで廊下の移動用レールを掴む。

 その背中へ向け、プルツーは精一杯のエールを送った。

 

「勝てよ、ロウジ・チャンテ。

 次に貴様を負かすのはこのプルツーだ!」

「ありがとう、プルツー。

 君は僕の、ライバルだね!」

 

 満面の笑顔でそう言われ、プルツーは再び口元を手で覆った。

 無邪気な笑顔に乗せた信頼が、ずんと腹から闘志を燃え立たせてくれる。

 

「グレミー、そろそろ出るぞ。

 キュベレイP2Cの整備と補給は万全だろうな?」

 

 たとえ相手が超ド級艦だろうと、初見の高性能無人機だろうと知ったことか。

 任せておけ、ロウジ・チャンテ。貴様のいない戦場はこちらで制してやる。

 決意を新たに、プルツーはアバターを愛機のコクピットへと転移させた。

 

 

 

 アレは、わたしが止めなければならない相手だ。

 グラン・ジオングが出現して以来、抱え続けた思いだ。

 ずっと、マリコは誰にも打ち明けられずにいた。

 

「敵戦艦、加速しました!

 戦闘エリア到達まであと30カウントです」

 

 オペレーター席でマリコは声を張り上げる。

 補給艦パプアのブリッジのモニターは、溢れる情報でごった返していた。

 

「敵艦名称はアウーラです。マリコ女史」

「指摘感謝です、グレミーさん。以後、敵戦艦をアウーラと呼称!

 プルスリーさん、アウーラの補給中の各機に離脱の指示を」

「了解、補給中のガンプラへ警告を発します!」

 

 視覚情報にくわえ、飛び交う会話量も増大した。

 艦長席のガデムのさらに上に総指揮官としてグレミーが着任し、

 オペレーター席のマリコの横にはプルスリーがオペレーターとして着席した。

 ブリッジの人数も2人から4人と倍増だ。

 

「ガンプラ各機、離脱開始!

 ジェガン・Kのみ格納庫で作業続行中です」

「エニル女史は参謀だ、状況だけ逐次伝えて放任でいい!」

「マリコくん、新規展開したスキウレ隊は出撃したか確認頼む!」

「了解! スキウレ隊の状況直ちに確認します」

 

 ガデムの指示に、マリコはサブカメラを切り替え、ガンプラ周辺映像を映す。

 まさにそのタイミングで、ブリッジ上空を光が三つ緩やかに移動していった。

 大型ビーム砲ユニット、スキウレだ。砲撃手のガンプラが三機接続し、スラスターを吹かして移動を開始している。

 

「アッガイ01、アッガイ02、ザクⅡ、各機移動を開始しました!

 作戦開始時刻までには配置に付ける模様!」

 

 そのうち一機は、マリコ製作のザクⅡだ。

 グレミー軍の希望者に一時的に所有権を移譲し、砲撃手としての借用を許可している。

 ああもう、忙しい! マリコは悲鳴を心の中で噛み殺した。

 ロウジに敵が”異邦人”だと打ち明けるなど、とてもじゃないがする暇がない。

 マリコは席を離れられず、ロウジは今もエースとして新たな機体で出撃準備中だ。

 

「アウーラ、戦闘エリアに出現!

 艦載機を展開させています」

「ええい、”忌むべき訪問者”でもあるまいし!」

 

 そして襲来する”異邦人”の方も、マリコに余裕を与える気はさらさらないようだった。

 マリコの報告に、ガデムがよくわからない嘆きを叫ぶ。

 戦闘エリアに出現した超ド級戦艦が、甲板から次々に艦載機を射出したのだ。

 

「艦載機データ照合……エニル女史の提供データと90%一致。

 高性能無人機、ファントムです! その数、9!」

「展開が速い!

 補給物資コンテナを切り離せ!

 敵さん、すぐさま仕掛けてくるぞ!」

 

 プルスリーの報告に合わせ、すぐさまグレミーの指示が飛ぶ。

 

「マリコくん、グラン・ジオングはどうか!」

「グラン・ジオングの出撃を確認。

 敵外見に変更なし、敵陣最後尾に展開。

 ただちにジェガン・Kへアラートを発信します!」

 

 ガデムの指示に、マリコはジェガン・Kへ映像情報とメッセージで状況を通達する。

 マリコと同じ”異邦人”だと言うのに、この機体から感じる強い害意はなんなのだ。

 大型のクローアームと腕を組み、傲然とグラン・ジオングが首をめぐらす。

 確かに、モニター越しにマリコはそいつと目が合った。

 まるで悪鬼のように笑う男の姿が、マリコには確かに見えた。

 

『さぁ、ベルを鳴らせ。ショーの始まりだ』

 

「グラン・ジオングより音声通信。

 ダイバーネーム、タウ・リン!」

「敵巨大戦艦に高エネルギー反応!」

 

 プルスリーに続き、マリコは報告に声を張り上げた。

 この超長距離からの砲撃!?

 ありえない、理性はそう否定する。

 だが本能が危険を警告する。あの敵はやる!

 

「アウーラより超長距離からのメガ粒子砲、来ます。

 サイド3外壁への直撃コース!」

「射線上のガンプラへ退避勧告ーっ!」

 

 巨大戦艦アウーラから、凄まじいエネルギーの奔流がほとばしった。

 要塞砲並のメガ粒子だ。恐ろしい破壊の光がコロニー外壁へと突き刺さり、マリコは悲鳴を噛み殺す。

 

「砲撃、サイド3外壁へ直撃!

 外壁中破、空気流出アラートが発生!」

「バカな!? いくらネェル・アーガマ級の砲撃だとて、

 バトルフィールドとして設定されたコロニーは破壊不可オブジェクトじゃ!」

 

 異常事態だった。普段は冷静なガデムの声が裏返る。

 そうだ、確かにここはシミュレータ上のバトルフィールドだ。

 マリコのリアルよりもオブジェクトが特別頑丈なはず。

 

「グラン・ジオング並びに敵艦載機計10、サイド3方面へ、進軍を開始!」

「グレミー君、パプアはサイド3より離脱する!

 あんな砲撃、かすっただけで致命的な損傷を受けかねん」

「グレミー軍、並びにアッガイマフィアは散開!

 各機、サイド3を盾にする形で後退し、敵の出方をうかがえ!」

 

 ガデムとグレミーが次々に指示を飛ばす。

 サイド3を盾にする。シミュレータ上でなければありえない選択肢だ。

 サイド3は全ジオン公国民の故郷であり、心のよりどころだ。

 

「こちらから敵機に手を出すな!

 敵が寄ってくれば、砲撃準備中のフロスト兄弟を発見される恐れがある」

「アウーラに、度高エネルギー反応!」

 

 恐るべき砲撃は一度にとどまらない。

 破壊の光が二度、三度とまたたく。

 その度にマリコは心の中で声にならない悲鳴を上げる。

 

「サイド3、外壁大破!

 応急補修、間に合っていません!」

 

 三度の破壊の光に見舞われたサイド3の外壁は、散々たる有様だった。

 まるで弱い場所を探るかのようにメガ粒子砲が次々に着弾し、そのうち一つは外壁の薄い部分を完全に貫通した。

 サイド3の外壁には大穴をうがたれ、コロニーの気密が失われる。

 モニターの中で、サイド3の木々が、土砂が、建物の残骸が、次々と宙域へ吸い出されていく。

 

「敵軍、サイド3周辺へ到達!」

 

 連合軍のガンプラとパプアは砲撃を避けて後退し、サイド3前面に展開する戦力はない。

 悠然と空白地帯を進軍したファントムとグラン・ジオングが我が物顔でサイド3宙域へ布陣する。

 

「グラン・ジオング、サイド3外壁部より、ムンゾ・コロニーへと侵入!」

「ファントム3、同じく侵入、ファントム6は宙域周辺に展開した模様!」

 

 コロニー内部へカメラを切り替え、マリコは悲鳴を必死に噛み殺す。

 スペースポートの管制塔を踏み潰す勢いでグラン・ジオングが着陸する。

 そして、グラン・ジオングが無造作に両肩のメガ粒子砲とミサイルを発射した。

 火器が着弾した建物が次々と吹き飛び、道路が激しくひび割れていく。

 

「グラン・ジオング、サイド3内部で破壊活動を開始!

 ファントム3、同じく無差別攻撃を開始しました!」

 

 悲鳴のようにマリコは叫ぶ。

 

「……勝利条件ではないサイド3で破壊活動だと?

 敵の意図は判らんが、これは好機だ!

 グラン・ジオングがサイド3内部で暴れているうちだ。

 全軍に通達、アウーラへの攻撃作戦を準備せよ。

 エニル・エル並びにフロスト兄弟の”GM-ARMS”が戦端を開く。

 それを合図で一斉攻撃を開始せよ!」

 

 好機? そう、戦術的には好機なのかしら。

 グレミーが快哉を叫ぶのが、マリコには遠いどこかのようだった。

 

「フロスト兄弟へ通達!

 コード“月はいつもそこにある”」

「フロスト兄弟より返信あり。

 “銃爪はお前が引け”です!」

 

 グレミーとプルスリーの会話がマリコの耳を素通りする。

 モニターを呆然と見つめるマリコの前で、サイド3内部のグラン・ジオングが進撃する。

 エレカを踏み潰し、アームで建造物を薙ぎ払い、住宅地へメガ粒子とミサイルの雨を降らせてゆく。

 誰もサイド3の被害報告など上げない。

 あれは単なるシミュレータ上のオブジェクトが破壊されているだけなのだから。

 

「サイド3周辺のファントム6、パプア方面へ移動を開始!」

「プルツー隊、パプアへ辿り着く前に敵軍を迎撃だ!

 その後、アウーラをおびやかす動きで敵の目を引きつけろ!」

 

『プルツー、了解。

 相変わらずクローン使いが荒いな、貴様は!』

 

 プルスリーとグレミー、プルツーの会話がマリコの耳を呆然と抜けていく。

 サイド3が、ムンゾコロニーが燃えている。

 お父さんに連れられ巡った役所が、弟達と見て回った商店街が、悪鬼のもたらす破壊に蹂躙されていく。

 公園が、港が、コロニーの川が……マリコの思い出が、瓦礫の山の映像へ塗りつぶされていく。

 

「グラン・ジオングなおもムンゾ市街を行軍!

 間もなく官邸が射程内です」

「好都合だ!

 ジェガン・Kの出撃まではあとどのくらいかかる?」

「エニル・エルより返信!

 無手なら60、万全なら300カウントとのこと!」

 

 マリコの報告にグレミーが無慈悲に返答する。

 悪気一つない言葉がマリコの胸を突き刺す。

 そうだ、彼らの故郷はここではないのだ。

 そして、わたしの故郷もここではない。

 

「プルスリーさん、ここ、お願いしますね」

「マリコさん?」

 

 オペレーター席を閉じ、マリコは立ち上がる。

 忙しく指示を出すガデムへ向かい、短く声を張る。

 

「ガデム艦長、ザクをお借りします」

「……どうした、マリコくん?」

 

 床を蹴り、ブリッジ入口へ身体を流す。

 ドアの開く圧縮空気の音を感じながらマリコはグレミーへ敬礼した。

 

「グレミー司令。

 マリコ、サイド3コロニー市街防衛に出撃します!」

「待ってください、マリコ女史、どうされたのです!?」

 

 それでも、守れるのは……わたしだけなのだ。

 戸惑うブリッジの面々と山積みのタスクを置き去りに、マリコはブリッジから退出した。

 

 

 

 狭くるしいパプアの通路を、無重力慣れした動きでマリコは移動する。

 ノーマルスーツのメットをかぶり、バイザーを降ろし、エアの残量をチェック。

 

『マリコ女史、理由を願います。

 単機出撃してもまるで無意味です!』

 

 メットの耳元でグレミーの通信が響く。

 マリコは背を伸ばし、可能な限り丁重に返答した。

 

「第一の理由は、私憤です。グレミー司令」

『私憤……!?』

 

 マリコはゆっくりと自分の中で言葉を並べ立てていく。

 同じ“異邦人”を止めたいなんて、そんな殊勝な気持ちであるものか。

 私憤。そう、この心に煮えたぎる身勝手な怒りだ。

 ここはシミュレータの中の偽りの世界だ。

 マリコのリアルではない。

 

「第二の理由は敵への欺瞞工作の必要性を感じたからです。

 グラン・ジオングは無人のサイド3を破壊しています。

 防衛の機体すら出てこない不自然なフィールドを。

 敵が違和感に気付き、コロニーを捨て置けば、作戦は破綻します。

 だからわたしがヤツの遊び相手になります」

 

 ここには知人どころか、血の通った人々はいない。

 今眼前で破壊されているのは人々の営みではない。ただのシミュレータ上のオブジェクトに過ぎない。

 合理的に考えれば、怒る理由などないはすだ。

 

『プルツー隊、ファントム6と交戦開始!』

『待て、マリコくん。

 陽動に動かせる余剰戦力はない。

 ロウジくん達の出撃まで単機でグラン・ジオングとやりあうことになるぞ!』

 

 プルスリーさん、仕事を任せてごめんなさい。

 ガデムの指摘は正しい、対艦と艦載機掃除に一機でも戦力は必要だ。

 そして、グレミーの判断は間違っていない。

 今、アッガイマフィアとグレミー軍はアウーラ撃破のために全力を尽くしている。

 ロウジはグラン・ジオング撃破のために準備を進めている。

 それが、彼らの戦いだ。

 

「全て、承知の上です。

 ただの時間稼ぎですから!」

 

 相手はロウジを一蹴した機体だ。

 たとえガデムさんのザクがどれほど強くとも、マリコの勝てる道理がない。

 わたしは負ける。

 ひょっとしたら、ここで死ぬ。

 けれど時間さえ稼げば、後はロウジくんが何とかしてくれる。

 

「……お父さん、ママ。

 愚かな娘をお許しください」

 

 それでも、マリコは許せなかった。

 思い出に残る世界が壊されていくのが。

 壊れていく世界を歯噛みしながら見守るだけなど。

 

 廊下を通過し、格納庫へマリコは到達する。

 あった、ガデムさんのザク!

 はるかに遠い両親へ謝罪を呟き、マリコは床を蹴る。

 

「マリコさん、出るんですか!?」

 

 ダークブルーのジェガンが、コクピットハッチ開きっぱなしで固定されていた。

 ダークブルーのジェガンから半身を乗り出し、小柄なロウジがマリコを見つめる。

 ザクの胸元に取り付き、コード入力、ハッチを開放。

 

「ええ、ホワイトカラーもたまには運動しないとね!

 ちょっと腕試しにグラン・ジオングと遊んでくるわ。

 300カウント、時間たっぷり粘ってみるから」

 

 なんてことないような軽い調子で、マリコはロウジへ笑う。

 これはタイムカードのごまかし、いつも通りのサービス残業みたいなものだ。

 覚悟の重さなんて、他人に抱えさせちゃいけない。

 

「だから、後は任せたよ。

 わたしの……魔法使いさん」

 

 ロウジへにっこり笑いかけ、マリコはザクのコクピットに身体を滑り込ませる。

 リニアシートですらない、旧式の初期型のコクピットだ。

 懐かしい。記憶にあるあちらの世界とまったく同じ計器配置だ。

 機器を起動、かかりの悪い熱核ジェネレーターの唸りと共に、正面モニターにモノアイ越しの景色が映る。

 同時にレーダーと通信画面が起動、ウィンドウにガデムの顔が映る。

 

「ガデム艦長、すいません。

 この子をお借りします」

 

 どう諭されそうと、止まるつもりはない。

 今から挑むのはただの私闘、これがわたしの戦いだ。

 わたしだけの戦いだ!

 

『のぉ、マリコくん。もう止めんよ。

 じゃが、一つ聞かせてくれるか?』

 

 システムオールグリーン、武装は……

 ガデムの呼びかけに、マリコはふと手を止める。

 叱責するでなく、面映ゆい顔でガデムが問うてきた。

 

『スターマイン大尉は息災かね?

 ご再婚されたと伺ったのだが』

「お父さんをご存知なんですか!?」

 

 ぎょっとした表情で、マリコは問い返す。

 

『うむ……ひょっとしたら士官学校でお父上とは同期だったこともあったかもしれん』

 

 ガデムが穏やかに笑い、とぼける。

 

『座席後ろのライフジャケット下にボックスがある。

 そこを開けたまえ』

 

 一刻が惜しい。だがガデムの言葉に逆らい難いものを感じ、マリコは大きな非常用ボックスを開ける。

 マリコは大きく目を見開き、息を呑む。

 まるでパンドラの箱みたいに、そこにはまさしく“希望”が入っていた。

 

「艦長、これは……!?」

「さあ、行きたまえ“少尉”!

 きみが願うがままに!」

 

 多分、ガデムさんは“わたし”を知っている。

 マリコは微笑み、静かに”希望“を握りしめる。

 行く手を覆う暗雲が、吹き散らされていくのを感じる。

 何故これがここにあるのか、理由はどうでもいい。

 

『マリコくん。

 全てが片付いたら、のんびり話でもしようか』

「ありがとうございます、艦長。

 ……行ってきます!」

 

 必要なのは何故と問うことではない。

 この“希望”で、わたしが何を出来るかだ!

 握りしめた“希望”から、淡い光があふれ出す。

 とっくの昔に失ったはずの、力と勇気が湧いてくる。

 “希望”を握りしめ、マリコは高らかに叫ぶ。

 

「お願い……魔法のふとんたたき!」

 

【Your wish will be granted.】

 

 淡く白い温かな光が、またたく……

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・コロニーは破壊不可オブジェクト

 

 原作ガンダムではコロニーは壊れやすく、火器の使用に制限を受ける描写がある。

 だが、ゲームであるGBNは火器の使用制限をすると遊び方が狭まってしまう。

 そのためバトルエリアとして設定されるコロニーはシステムによる保護で耐久力が非常に高くなっており、通常火器では壊れない。

 アトミックバズーカ、サテライトキャノン、月光蝶のような戦略兵器と呼ばれる超火力兵器では破壊されるが、一定時間で修復されるようなっている。

 アウーラのビーム兵器でコロニー外壁を貫通したのは、アウーラの砲撃に対しシステム保護が働かなかったと推測される。

 なお、コロニー落としに使用されるコロニーは破壊可能オブジェクトとなっており、普通の火器でもダメージが通る。

 年末年始のコロニー迎撃イベントは毎年高評だが、ガンダムXバージョンの時はさすがのダイバーにも悲鳴が上がったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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