リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
バトルの決着編です。
1/26(日)の投稿が、
恐らく4話エンディングになると思います。
『戦略兵器発射まであと30カウント。
プルツー、準備はいいな?』
味方の通信と同時に後方からロックオンアラート! 考える先にプルツーの身体は反射で動いていた。
後方から愛機キュベレイP2Cへ高性能無人機、ファントムが迫る。
撃ち込まれたビームに対し、プルツーはキュベレイP2Cの手足を振ってAMBAC運動、素早く回避。
そして後ろへステップ、キュベレイP2Cの赤い機影が敵機との距離を詰め、プルツーは叫ぶ。
「穿て、ファンネル!」
愛機の肩口へ後ろ向きに張り付いたファンネルのビームが、真後ろのファントムへ続け様に三つ突き刺さる。
体勢を崩したところに、逆向きに構えたランスで身体ごと体当たり。
ランスに刺さった敵機残骸を盾に、連携してかかるファントムのビームを受け止め、残骸を素早く後ろへ蹴り飛ばす。
肩のファンネルを散らし、後方2機のファントムを牽制。正面モニターを睨んだまま、プルツーは叫ぶ。
「ああ。いつでもいいぞ、グレミー!」
正面モニターいっぱいを埋めるアウーラの巨体を、巨大なビームバリアが覆っている。
その堅固さは折り紙付きだ。何せ、放ったビームが霧散する。
突入しようとしたファンネルが爆散する。投射したシュツルムファウストが爆散する。
恐らくガンプラだろうと同じだ、突入した瞬間、原作のクスィーガンダムの二の舞となるだろう。
「まったく、バケモノめ。
艦全部を覆うバリアに、戦略兵器クラスの主砲だと!?」
本当にこれは宇宙世紀原作の戦艦なのか。プルツーはコクピットで悪態を吐く。
つい先ほど、バリアの奥から撃たれた主砲も凄まじい威力のものだった。
盾持ちのアッガイマフィア数機が身を挺して盾になり、辛うじてこちらの戦略兵器は守られた。
向こうの無人機もかなり数が減った。だが、こちらの戦力もほぼ底だ。
ロックオンアラートがプルツーの意識をコクピットに引き戻す。
2機からの連携攻撃だ。ビームとグレネードの斉射がプルツーへ襲い掛かる。
ビームをステップで避け、グレネードをAMBACで回避する。
その瞬間、グレネードが足先の至近で炸裂した。
「しまっ……!」
回避行動を学習された!
近接信管の弱よろけで体勢を崩したキュベレイP2Cへ、2機のファントムが猛然と襲い掛かる。
放ったファンネルの猛射が1機を足止めする。だがもう1機は止まらない。
必殺の間合いへライフルを構え、敵が飛び込んでくる。
せめて、相打ちを……! 覚悟を決めた次の瞬間、横合いから飛んできた大質量がファントムに直撃した。
「アッガイ流星キィィック!」
「ボスアッガイ!」
ボスアッガイのドロップキックで1機が吹き飛んでいく。
よろけから回復したキュベレイP2Cにより、残る1機はあっという間に沈む。
まったくもって油断だ。背中をボスアッガイに守ってもらい、プルツーは苦笑する。
目の前にそびえるアウーラをにらみ、プルツーは虚空へと呟く。
「約束したんだ、必ず落とす。
だから、頼むぞ。”ピンクの悪魔”」
「なぁに、なんも心配するこたあらへん!
エニル・エル作の複座機に、ロウジくんがメインパイロットや!
鬼に金棒、アムロにガンダムや!」
あまりに気楽に、ボスアッガイが語る。
「あのコンビ、えげつないで。
一度負けたワイが保証する!」
「気楽に言ったものだ!」
勝たねばならないと思い詰めた心が、ふっと軽くなるのをプルツーは感じた。
だが、そうだ。いくら強敵でも、人の心の光が、無人機に負けてなるものか!
通信ウィンドウにグレミーの顔がポップアップし、作戦開始を告げる。
『プルツー、ボスアッガイ。
サテライトランチャーが行くぞ。
バリアに穴が開いたら飛び込め!』
チャンスは最後、ここを逃せば勝利はない。
飛び込んでアウーラを落とす!
『ボス、頼んだっす!』
『行ってこい、プルツー!』
次々にうるさい激励の声が聞こえてくる。
間もなく戦いは終わる。苦笑いを浮かべ、プルツーは確信した。
「ようやってくれた、皆!
全世界のアッガイファンを代表して礼を言う!」
「ラカン、そっちの殊勲はお前だ。
……行って来る!」
たとえどれだけ高性能だろうと、AIの無人機ごときに負けてはやれん。
これだけたくさんのダイバーがここにいる。
思いの強さで、たとてえアクシズだって押し返してみせる!
「エースってのがどういうものか、見せてやるよ!」
約束を、したのだ。
対艦撃破の教本を見せてやると、ロウジに。
直後、サイド3から飛来したゴン太のビームが、アウーラのビームバリアに直撃する。
破壊の光と守りのバリアが拮抗するさなか、かすかにバリアに穴が開く。
その機を逃さず、プルツーは愛機を決死の思いで飛び込ませる。
バリア内部で無人機が甲板へ上がってくる。
だがその数、けして多くはない。
戦いの幕引きは、間近に迫っていた。
「さぁ、選手交代だ。
今度は僕とエニルさんが相手です。”戦争屋”さん!」
「二人羽織ごときで勝てるほど俺は甘かぁないぞ、”ピンクの小僧”!」
機体が軽い。斬撃が鋭い。操縦桿を握るロウジの心は踊る。
ジェガン・K、なんて機動性だ。さすがエニルさん!
グラン・ジオングが撃ち込むメガ粒子砲を飛び退って回避し、ミサイルをビームダガーで切り払う。
だが、敵もさるもの。機体性能と反応はさすがの一言だ。
お返しに打ち込んだ十字手裏剣があっさり弾かれ、虚空へ飛んで行く。
「ロウジ、ブラスターマリは安全だ。
後ろを気にせず、グラン・ジオングに専念しろ!」
「らじゃーです、エニルさん!」
サイド3の空に悠然と浮かぶグラン・ジオングを見上げ、ロウジは間合いをはかる。
別に空だろうと関係ない! 小さなステップでふわりと機体が空に駆け上がる。
機体にニンジャとしての特殊な補正でもあるのか、異様に機体の挙動が軽い。
ジェガン・Kはコロニーの空を軽やかに駆ける。
だが、その機動性ですら容易には踏み込めない。
じぐざぐにフェイントを混ぜた機動に、グラン・ジオングが正確にビームの迎撃を合わせてくる。
せめてもの意趣返しにと撃ち込んだ十字手裏剣など、余裕をもって回避される。
「ロウジ、牽制を使いすぎるな。
飛び道具の弾数はかなり乏しいぞ」
「了解、もっと間合いを図って飛び込みます!」
サブシートに座るエニルが注意を促す、ロウジは叫び、小さく首をひねる。
おかしい。ロウジは初乗りのジェガン・K機体の操縦にはだいぶ慣れてきた。
だが、敵の迎撃の正確さが異常だ。フェイントは見抜かれ、機先を制するようにビームが飛んでくる。
「……っ!」
「どうしたどうした、ニンジャもどき!
手品は壁の後ろに隠れるだけか?」
エニルの”隔壁返しの術”の後ろに隠れ、ロウジはぞっと背筋を震わせる。
今後もそうだ。飛び込もうとした瞬間、置きビームが飛んできた。
完璧な読みの置きビームだ、精度が異常すぎる!
「ロウジくん、ダメ!
あの男……タウ・リンは思考を読むの!」
「……ぇっ!?」
突如、ブラスターマリからの個人通信が飛び込んできた。
心を読む、エスパー? ロウジは一瞬混乱に足を止める。
「なるほど、そう言う事か!
……開け、”心眼センサー”!」
ロウジの知らない機能と共に、ぶわっとモニターの情報密度が急上昇する。
多分、情報戦用デバイスか何かだろう。
タウ・リンのパーソナルデータらしきものが画面端をつらつらと流れていく。
訳の分からない単語の中で、ほんのすこし理解出来るものがあった。
『Boosted Man A+
Mind reading B』
「そっか、強化人間!
僕の心を読んで……!」
「ご名答、こんな素人の小僧に軍事機密が公開済みとは、
ジオンの未来はずいぶん明るいらしいな!」
タウ・リンの嘲笑と共にミサイルが飛んでくる。
回避……いや、ダメだ、ビームを置かれる! ビームダガーで切り払い、小さく後ろへ飛び退る。
「ニュータイプが、ましてや強化人間が万能なものか!」
『ロウジ、操縦権をこちらへ!』
「ら、らじゃー!」
エニルの声と同時に、エニルのメッセが画面に点灯する。
急ぎ操縦のメインサブを即時交代、システムが切り替わるとほぼ同時、ロックオンアラートが鳴り響く。
グラン・ジオングからもっかいミサイル!
切り払ってそのまま前へ飛び込む…
反射でロウジはダイバーギアの操縦桿を動かし、もちろんジェガン・Kは動かない。
むしろエニルの操作で大きくジェガン・Kが飛び退き、ビームがその横を抜けていく。
飛び込んでいたら直撃してた! 敵の読心能力を確信し、ロウジはぞっと背筋を震わせる。
「ちっ、小細工を!」
「ロウジ、こちらの動きと敵の反応、よく見ておけ!」
幾度かの攻撃をエニルは余裕をもって回避してみせる。
敵の攻撃精度が明らかに低下していた。
ロウジの心に集中していたら、他人は読めないか、読めても精度は低下するんだ!
エニルさんが放った手裏剣グレネードを、グラン・ジオングが大きく動いて回避する。
「ロウジくん。ロウジくん、聞こえる?」
「……!
下がっててください、ブラスターマリ。
あとは僕達に任せて!」
突然、マリコ……いや、ブラスターマリに声をかけられ、ロウジは慌てて叫んだ。
今の1日号はグラン・ジオングのアンチ・ファンネル・システムによって大幅に弱体化している。
下手に飛び込めば一撃で落とされかねない。
「ロウジくん、聞いて。
敵機は多分、マリコと同郷よ。
だから本当は、わたしがあの機体を止めなきゃならなかったの!」
ブラスターマリの必死の言葉がずしりとロウジの心を揺さぶる。
敵もサイド3出身? それともまさか、敵も“異邦人”?
その言葉の意味ははっきりとはわからないけれど、
その言葉にこもる必死の気持ちはわかる気がした。
「……わかりました、ブラスターマリ。
必ず、僕達がグラン・ジオングを止めます!
僕は、マリコさんの魔法使いですから!」
「ありがとう、お願いね」
ブラスターマリが、マリコさんそっくりの仕草で淡く微笑む。
グラン・ジオングは、僕達が止めるんだ。
だって、マリコさんがそう願ってくれている。
「ロウジ、敵の能力の底は見えたな?
反射速度勝負ならばロウジは負けん」
「はい、任せてください」
そして、エニルさんが信じてくれている。
「思い出すな、ロウジのデビュー戦。
近接戦の覇者、グフ相手にロウジの操縦で勝利したな」
「……懐かしい。
あの時以来ですね、エニルさんとの複座!」
グラン・ジオングのミサイルとメガ粒子砲の射撃を回避しながら、エニルが懐かしげに語る。
『ロウジ、もう一度操縦権を返すぞ。
無理にでも虚を突いて一撃撃ち込む流れを作る。
倒せれば良い、無理ならなんとしてでも敵に組み付け!』
そして同時に、メッセージでエニルさんが指示をくれる。
多分事前に打ち込んでおいたのだろう。
『その後の流れは、”初めてのバトルの逆”だ!』
多分読心能力対策なのだろう、他人には判らない説明に、ロウジは笑顔で頷いて見せる。
ジェガン・Cでグフカスタムに勝った時、あの時の奇策の逆をやるてことですね!
モニター端に示された画像に、ロウジは秘かに目を輝かせる。
僕が壊したアレ、もう一つ予備があったんだ。
「僕だって、半年前のままじゃない!
見せてやりましょう、僕らのコンビネーションを」
ロウジは高らかに宣言する。
負けられない。信じてくれているのはエニルさんとマリコさんだけじゃない。
プルツーが信じ、託してくれた。
グレミー軍、アッガイマフィア、フロスト兄弟も、ガデムさん。
皆が僕らの勝利を信じてくれている。
『You have control
高らかに叫べ、ロウジ!』
「いえす、あいはぶこんとろーる!」
メインパイロットは自分だと、ロウジは高らかに叫ぶ。
負けないぞ、グラン・ジオング。
僕達が歩いてきた半年間、その全ての成果を受けてみろ!
「いえす、あいはぶこんとろーる!」
「まったく、小賢しいぞ、”覗き見ヤロウ”!」
敵の小僧が、高らかに叫ぶ。
今の言葉は本当か? 一瞬裏を疑い、タウ・リンは苛立たしげに吐き捨てた。
操縦技術はともかく、”覗き見ヤロウ”の性格のいやらしさを痛感する。
得た情報の全ての裏を疑わねばならない、なんと面倒なことか。
敵はどうやら複座機体の強みを存分にこちらへ押し付ける構えらしい。
「さぁ、タウ・リン。
どちらの操縦か判るかな?」
「だます気ならもう少し工夫しろ!」
エニルのわざとらしい言葉をタウ・リンは一蹴した。
鋭い動きで宙を蹴り、ジェガン・Kが空中のグラン・ジオング目掛けて迫る。
まっすぐの突撃に、肩のメガ粒子砲で迎撃をはかる。
ジェガン・Kが鋭く横に飛び退き、即座に再突進。
速い! 敵の狙いは残る右肩アーム狙いか。
横薙ぎビームダガーの一閃を構えたサーベルで受け止め、弾き返す。
敵機は見事なバランスで飛び退り、素早く距離を取る。
先ほど一時的に見せた動きも熟練の余裕はあった。
だが今の敵機は、反射速度のキレと思い切りの良さが格段に良い。
間違いない。ピンクの小僧の仕込みだ!
「速度勝負でノーマルがブーステッドに勝てるかよ!」
自分を鼓舞するごとく、タウ・リンは強気に言い捨てる。
小僧め、かなり速い。タウ・リンはロウジの操縦を侮っていない。
強化はあくまで元の身体能力がベースとなる。
いかに鍛えた歴戦の戦争屋であろうと、加齢で反射はおとろえる。
恐らく、反射速度は自分とほぼ互角。
少し前まで戦いを優位に進められたのも、読心能力あってこそだ。
「忍法、“火遁の術”!」
突如、壊れかけのコロニーの対空砲がこちらを向いた。
有線ミサイルの群れが打ち上がる。
タウ・リンの読心の範囲外だった。
つまりロウジの選択ではなく、エニルの小細工だ。
「ちっ!
“覗き見ヤロウ”め、いい趣味だ!」
咄嗟にこちらもミサイルをばらまき、グラン・ジオングに回避を取らせる。
同時に、激しいロックオンアラートがコクピットを突き抜ける。
「小僧ぉ!」
(隙あり! まっすぐぶち抜いてコクピットへ逆袈裟!)
ロウジの心の声にジェガン・Kの素直な突進を予想し、タウ・リンはクローアームとサーベルで迎え撃つ構えをとる。
その刹那、ジェガン・Kが斜め前方へ飛んだ。
突進の軌道が大きく変わり、タウ・リンの読みを外す。
「ちィっ!」
狙いは、折れた左クローアーム側か!
荒々しい操縦でグラン・ジオングの体勢を立て直し、飛び込んできたジェガン・Kを迎え撃つ。
ビームダガーの縦斬りをサーベルで受け、続け様の横薙ぎをスカートアーマーで防ぐ。
追撃の構えのジェガン・Kを、右肩クローのメガ粒子砲で追い払う。
「一撃、当てましたよ”戦争屋”さん!」
「心底小賢しいな、お前達は!」
コイツら、手強い! 内心の称賛と真逆の言葉をタウ・リンは吐き捨てる。
こちらの読心の逆を突かれた。ジェガン・Kの急な方向転換は恐らく“覗き見ヤロウ”の小細工だ。
ことこうなれば、読心能力は逆に迷いを生み出すだけとなる。
複座機体の利点を生かし、こちらの読心能力の利点を潰して来た。実に厄介なコンビだ。
「反射勝負がしたいなら、つきあってやろう。
いつまでその精度が保てるだろうな!」
こうなれば、タウ・リンも読みを捨てるだけだ。
あとは純粋に感覚に任せた反射神経の勝負となる。
先ほどからアウーラ側からも通信の沈黙が続いているが、タウ・リンは雑念を切り捨てた。
根競べといこう。複座だろうと集中力まで合算できはするまい!
「あなたを倒すまで、駆け抜けてみせます!」
「テメェらごときに倒されるほど、耄碌しちゃいないぜ」
敵は機動性のために装甲を捨てたピーキーな作り、一撃が致命的な傷になる。
こちらは堅牢な作りが自慢の大型機だ。一撃喰らった程度で落ちはしない。
どれほど小細工を弄しようと、分厚い装甲のこちら側が圧倒的に有利!
「そうだな。こちらの戦術、操縦の腕、貴様に遠く及ぶまい。
機体性能もそちらが上だ。だがな、タウ・リン。
貴様を殺したのはZプルトニウスの複座操縦だったはずだな?」
コイツ、あの時の月軌道上にいた生き残りか?
淡々としたエニルの言葉が、タウ・リンの心をざらりと撫でる。
敗北の忌まわしい記憶は、歴戦の傭兵にとっても未だ癒えぬ傷だ。
「ミネバ・ラオ・ザビに代わって貴様を止めてやる。
タウ・リン、恐るべきテロリストよ!」
「偵察兵風情がザビ家の嫡出子の名代を気取るとは、
どこの陣営だろうとおごりが過ぎんか」
怒りを呑み込み、タウ・リンは傲然と笑ってみせる。
「けなげな事だ。
俺の心を揺さぶって、それでも勝利を掴みたいか」
エネルギー、ミサイル残弾十分。
アンチ・ファンネル・システム稼働はまだ1200カウント可能だ。
失ったのは左クローアームのみ。サーベルはまだある。関節強度問題なし。
グラン・ジオングは未だ鉄壁だ。満足げにタウ・リンは笑う。
いくら小細工を積み重ねても、タウ・リンの有利は揺るがない。
「どんなに望み焦がれても、圧倒的な力の前にねじふせられる。
その苦しさを思い知って散るがいい!」
謀り、虚を突き、軽業めいた操縦を繰り返してみるがいい。
その全てを正面から受け止め、粉砕してやろう!
タウ・リンは哄笑と共にミサイルをコロニーの大地に立つジェガン・Kへと撃ち放つ。
「勝負です、グラン・ジオング!」
ロウジが叫び、ジェガン・Kが動く。
ミサイルを横っ飛びでかわして脚部による疾走を開始した。
いつものようにグラン・ジオング目掛けて最短距離で空を駆けるのではなく、コロニーの大地を駆ける。
まるで、コロニーの空を舞うグラン・ジオングの足元に潜り込むかのように。
「死角から攻撃したいってのか!?」
グラン・ジオングの機体の角度を変え、タウ・リンは叫び、メガ粒子砲をジェガン・Kへ撃ち込む。
あっさりと牽制の射撃は避けられるが、わずかな姿勢の変更でジェガン・Kはモニターの真正面に移動した。
大回りの移動で背後や足元に回り込むなど、どだい無理な相談だ。
間違いない、何かを狙っている。
続け様に左右のミサイルで牽制しながらも、タウ・リンは敵の出方を慎重に警戒する。
空にいれば隔壁返しのギミックは直接届かない。あるなら火砲による飛び道具くらいか。
ミサイルをジェガン・Kが飛び退って避け、ビームダガーで切り裂き、またもコロニーの大地を疾駆する。
そして、コロニーの大地が裏返り、隔壁が跳ね上がる、その上に乗せたジェガン・Kごと。
「……んなっ!?」
コロニーの大地を走る二次元の移動から、突如三次元機動に敵の動きが切り替わる。
いかな強化された反射神経でも、予想を外れた動きに、思考速度が追い付かない。
おそらくそれは敵機も同じだ、隔壁に跳ね上げられ、ジェガン・Kが不自然な格好でコロニーの空へと吹き飛ばされる。
位置は、グラン・ジオングの直上!
「そう言う、ことか!」
タウ・リンの叫びはわずかに遅かった。グラン・ジオングがさらに遅れて構える。
ジェガン・Kの四肢が鋭くAMBAC運動を刻む。
ぐいと天地逆に姿勢を立て直し、スラスターで宙を蹴る。
頭上の死角側からビームダガーが一閃、構えたサーベルを避けて装甲を浅く裂く。
背後! そのままジェガン・Kがグラン・ジオングの裏を取る。巨体の旋回も間に合わない。
ビームダガーの刺突がグラン・ジオングの胸部コクピットへ迫る。
「うおォっ!」
サーベルを構えた右腕が真っ二つに裂かれる。胴体をビームの刃がえぐる。
だが、間に合った! グラン・ジオングの右クローアームがジェガン・Kのビームダガーをマニピュレーターごとえぐり取る。
離脱など許さない。左アームの残骸と左マニピュレーターを伸ばし、ジェガン・Kの身体をがっしり捕まえる。
「掴まえたぞ、小僧!」
タウ・リンは吼えた。
もう逃がさん、このままクローでコクピットを粉砕してくれる。
「それはこちらの方だ、タウ・リン!」
だが、叫びに応えたのはロウジではなく、エニル・エルの方だった。
ぞっと敗北の記憶が再び頭をもたげる。複座操縦による生身のコクピット狙いか!?
迷いが、判断の致命的な判断の遅れを生んだ。グラン・ジオングの機体が激しいアラートを叫ぶ。
敵機ジェネレーター出力、オーバーロード。タウ・リンが意図に気付いた時にはもう遅い。
「ちイっ、自爆するつもりか!」
「忍法、“微塵がくれの術”!」
激しい爆発の閃光と爆音がタウ・リンの五感を焼け焦がした。
耐G仕様のリニアシートが前後左右に激しくシェイクされる。
モニターのほとんどがブラックアウトし、サブモニターを真っ赤な色のダメージ報告が埋め尽くす。
激しい揺れで、グラン・ジオングの巨体がコロニーの大地に落下したことへ気付く。
胸部装甲大破、頭部メインカメラ破損、AFS大破、右腕部マニピュレーター喪失、etc.
がなり立てるようなシステムアラートを聞きながら、呪詛のようにタウ・リンは吼えた。
「あ、の、女ァ!」
自爆による相打ち狙いだとぉ!?
オートバランサーは生きていた。操縦桿を握り直し、タウ・リンはグラン・ジオングを直立させる。
ジェガン・Kは目の前から消失し、グラン・ジオングはまだ動く。
だが、これが勝利だなどと言えるものか。
以前の敗北では逆だった。自爆を見せ賭けに、コクピットを拳銃で狙い打たれた。
忌まわしい敗北の記憶が、またもタウ・リンの足を絡め取ったのだ。
直後、激しい衝撃がコロニーを揺るがし、グラン・ジオングを揺さぶった。
『Mothership sunk, captain lost』
(次こそ、きちんと地獄で落ち合おうぜ)
アウーラが落ちただと!? 機体からの報告と、戦友からの呟きが光り、消えていった。
タウ・リンは時を忘れ、ほんのわずか戦友に瞑目した。
間違いない。どうやったかは判らんが、何者かがアウーラを落としたのだ。
まったく、大したものだ。あの鉄壁の防御を誇る巨大艦を落とすなどと。
「機体から降りて投降しなさい、タウ・リン」
涼やかな声の降伏勧告に、タウ・リンは伏せた目を大きく見開いた。
サブカメラを回し、ゆっくり機体ごとタウ・リンは声の方へと向き直る。
淡く輝く巨大なふとんたたきを構え、1日号がグラン・ジオングを見据えている。
アンチ・ファンネル・システム大破、再起動不可。
システムメッセージが冷酷にそう告げる。
「そうか、貴様を殺し損ねていたのだったな……」
通信越しにわざとらしく舌打ちしながら、タウ・リンは笑う。
そうか、俺の死神は貴様だったか……魔法使い。
大気を震わす激しい爆発の直後、魔法のふとんたたきが息を吹き返した。
今しかない。勇んで物陰から飛び出し、ブラスターマリは思わず息を呑んだ。
ジェガン・Kの機体は影も形もない。
コロニーの大地に、まるで地獄の亡者のような姿のグラン・ジオングがあった。
「……っ!」
ブラスターマリはひきつったような悲鳴を辛うじて飲み込んだ。
恐らく至近距離で爆発の直撃を受けたのだ。
グラン・ジオングは爆発していないのが奇跡のような状態だ。
胸部中心に正面装甲は大破し、頭部はメインカメラが半ばえぐり取られ、激しく変形している。
左右ミサイルランチャーはなく、右腕部は喪失し、左肩部のクローアームは根元から折れていた。
ずたぼろの全身のそこかしこから、煙か蒸気を断続的に噴き出している。
『Destroy enemy Mothership』
1日号のコンソールにメッセージが流れ、激しい衝撃がコロニーを揺るがした。
通信回線が歓声で埋まる。敵母艦を撃破し、コロニー外の戦闘に決着がついたのだ。
グラン・ジオングがまるで祈るように動きを止める。
今しかない。ブラスターマリは反射的に降伏を勧告していた。
「投降なさい、タウ・リン。
戦争屋なら彼我の戦力差は理解出来るでしょう!」
返事がないとみて、二度目の降伏勧告をブラスターマリは行う。
同じ“異邦人”として来訪した男を助けたい。
これが本当に最後のチャンスなのだ。
「なるほど、万全で互角だった。
今の俺では貴様に勝てん、そうおっしゃる訳だな?」
音割れした声で、タウ・リンが通信に応えた。
パイロットスーツ姿のタウ・リンは余裕たっぷりのキザな態度を崩さない。
半ば壊れた頭部にモノアイを輝かせるグラン・ジオングの方は、まるで幽鬼のようだ。
「勝ったところでどうするって言うの?
そちらの母艦は落ち、帰る場所もないでしょう!」
「それでもまだ、俺とグラン・ジオングはここにいるだろうがよ」
孤独に世界に放り出された自分が言うには、あまりに皮肉な台詞だ。
そして、死兵と化した男には、生きるための当然の道理も通じない。
「降伏してどうなる?
アクシズ落としを止めようとした正規軍と違い、こちとらただのテロリストだ。
銃殺か、絞首台に上がる以外の道などねぇだろうよ」
「ここはあなたの知る宇宙世紀じゃない!
向こうの世界の罪であなたを裁けなんかしないわ」
ここは我々のリアルじゃない。
それを理解すれば、この男は止まってくれるかもしれない。
一縷の望みにかけ、ブラスターマリは必死に言葉を重ねる。
「法が許す許さないの問題じゃあないさ」
タウ・リンが笑う。 言葉がタウ・リンの心で上滑りするのが判る。
「止まって、タウ・リン!
貴方を……殺したくはない!」
タウ・リンの笑みが深くなる。
届く訳がない。これは単なるわたしのわがままだ。
怒りで私闘を始めたように、哀れみで手を汚すのを厭う。
やはり自分はもう、出来損ないでロートルな元”魔法使い”に過ぎないのだ。
「お生憎様だ、”魔法使い”」
まるで憐れむように、タウ・リンが小さく息を吐き出す。
「宇宙世紀のテロリストってのはな、
最期はコクピットだって相場が決まってんだよ!」
決裂は当然だった。グラン・ジオングが身震いし、ゆらりと動く。
右肩に残るクローアームがメガ粒子砲を撃ち込んでくる。
「この、わからずや!」
思いを限りに叫んでみても、身体は冷静に最適に動く。
かざしたふとんたたきで、1日号がメガ粒子砲を容易く打ち払う。
前へと動いたのは同時だった。グラン・ジオングと1日号の距離があっという間に詰まる。
ぼろぼろの正面装甲目掛けてふとんたたきを一閃する。
その腕を跳ね上げるように、右肩クローアームが低い位置から跳ね上げられる。
ふとんたたきの軌道に巻き込まれるようにクローアームがへし折れ、だが攻撃の軌道がわずかにずれる。
魔法のふとんたたきがグラン・ジオングの頭部を吹き飛ばす。
だが致命ではない。
「殺したくないなら、殺されるしかねぇぞ!」
タウ・リンが叫び、グラン・ジオングの左腕が突きこまれる。
その手にはビームの刃の輝きがあった。
決死の一撃だった。戦争屋が見せた意地のカウンター攻撃だ。
だが、そのビームの刃は届かず、甲高い音を立ててグラン・ジオングの左腕が断ち割られる。
「見たか秘剣”霞の小太刀”!」
「……プチ・モビだとぉ!?」
天から音もなく降ってきたSDサイズの慈影丸が、ロウジの声で高らかに叫ぶ。
よろよろとたたずを踏んで、グラン・ジオングのタウ・リンが驚愕の叫びをあげる。
宇宙世紀の人間には、SDガンプラなど、デコレーションされたプチ・モビルスーツにしか見えない。
「“ピンクの小僧”ぉォっ!」
華麗に残身を決め、飛びのく慈影丸目掛け、グラン・ジオングの巨体が肩から突進した。
30m級の全質量をまともに受け、衝撃音と共に慈影丸の頭部がへしゃげ、コロニーの大地に叩きつけられる。
全ての武装を失い、だがグラン・ジオングはなおも動く。
吹き飛ぶロウジへトドメを刺そうと、グラン・ジオングが宙へ飛びあがる。
「うわぁぁぁ!」
この男は、止まらない。止めるしかない!
迷いを振り切るように、無我夢中でブラスターマリは叫ぶ。
ガラ空きになった敵の背面掛け、魔法のふとんたたきが叩きつけられた。
背中側からくの字にへし折れ、グラン・ジオングの巨体がコロニーの大地へ沈む。
悪鬼はついに魔法の力(物理)によって退治されたのだ。
(次こそは、行きつく先は地獄であってくれ……)
身体から、魂か何かが流れ出していくような感覚。
タウ・リンは自身二度目の死を味わっていた。
かすむ視界に、慈影丸のシルエットが映る。
操縦者は間違いない、あの“ピンクの小僧”だ。
(まったく、大したヤツだよ。お前達は……)
弱ったこちらにトドメを刺すため、自爆後に動ける予備機を用意してたってのか。
念入り具合は“覗き見ヤロウ”の仕込みに違いない。
タウ・リンは姿を見せないエニルへ向け、力なく称賛の笑みを浮かべた。
「どうしてよ……?」
通信越しに聞こえた嗚咽混じりの問いかけは、ブラスターマリのものだった。
近くに1日号らしいシルエットが見える。
まったく、分別のつかないガキみたいに泣くな“魔法使い”
タウ・リンは苦笑いを浮かべ、言葉を漏らす。
「許す事なんて、出来ねぇからよ……」
戦いをやめられない理由は、許せなかっただけだ。
運命か何か、そしてクソッタレな世界。
この世界へ産み落とした父を母。
そして誰よりも、自分を。
許さない事でここまで生きてきたのだ。
「地獄行きの座席は先着順だ。
悪いがテメェらの席はない」
つまるところ、ただの意地だ。
後悔などない。
先に逝った戦友の顔を思い浮かべ、タウ・リンは笑う。
「あなたは、どうしてそう……!」
「地獄であったら、続きしましょう!」
あまりに楽しげに言葉を投げかけられ、タウ・リンは言葉に詰まった。
このヤロウ、いったいどんな顔で言いやがる。
ロウジが浮かべた笑顔を見るだけの力は、タウ・リンにはもうなかった。
「はっ……」
テメェらとやるのは、二度とごめんだ。
漏らした呼気はまるで笑ったかのようだった。
女に哀れまれ、小僧に尊敬の眼差しを向けられる。
そんな戦争……あってたまるかよ。
その言葉を最後に、タウ・リンの意識は掻き消えた。
『Unknown MS Lost』
表示されたシステムメッセージを確認し、エニルは安堵に息を吐き出した。
「何とか、日付けが変わる前に決着したな……」
『Battle ended WInner Your Divers!』
即席で作っておいた勝利メッセージが、続け様に表示される。
ダイバー達の雄たけびと歓声がバトルフィールドに響き渡る。
大多数の歓喜に隠れ、マリコが流した涙を知るものはいない。
シークレットミッションは終結した。
そして、運営にとって大事な後始末が、これからが始まる。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・読心能力
ニュータイプや強化人間などの戦闘における先読みの鋭さ、殺気の感知などを示したもの。
GBNにおいて、NT能力などは、主にファンネル系武装の動きの良さに限定されており、
読心能力や殺気感知は、バランス調整の難しさから、GBNのダイバーには実装されていない。
タウ・リンは”異邦人”としての特異性から未実装スキルを所持しているようだ。
どのような原理かは不明だが、タウ・リンの場合は対象が行動に移る際の心の声を読み取る能力を持っていたようだ。
一人にフォーカスする必要があるため、対多数では役に立たず、本文のように欺かれる事もある。
ニュータイプも強化人間も万能ではないし、分かり合えない事もある。
誰よりもタウ・リン自身が、単なる戦闘能力向上のためにしか使っていなかったためであろう。
ジークアクス見ました
いやあ劇物すぎる
超面白かったです!
ネタバレ喰らう前に是非みてほしい
※今回の展開にジークアクス視聴は影響しておりません