リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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第四話、これにて完結です。

エンディングも大ボリューム。
多いと思った方は何回かに分けて読んでください。

ここまで読んでくださった皆様、今回もありがとうございました!

2/2(日)にガンプラ紹介とあとがきを投稿し、
しばらくお休みをいただく予定です。



ミッション4-14 楽しい祭りの後始末をしよう。

「いぇぇぇぇい、大しょーり!」

「アッガイマフィア、全員しゅーごー!

 大勝利の立役者、ロウジくんを皆で胴上げや!」

 

 戸惑うロウジにカラフルなアッガイ達が集まり、いっせいに胴上げの構えをとる。

 マリコは一人、少し離れた場所でそれを見守っていた。

 ここはミッション終了後のリザルトロビー。

 睡魔とリアル事情に負けなかったレイドバトル参加者、その数約30人。

 

「胴上げ!?

 え、いや、それはちょっとわきゃあ!」

「わっしょい」「わっしょい!」

 

 敵も味方もなく集まり、乱入者相手のバトルへの勝利、その喜びを分かち合う。

 この楽しい遊びの場をレイドバトル参加者から奪わずに済んで、本当に良かった。

 ロビーで弾ける歓喜の渦を肌で感じ、マリコは静かに笑う。

 

「いよっし、次はプルツーくんやな!」

「いやだよ恥ずかしい。

 ……ナイスファイト」

 

 笑顔のボスアッガイを一刀両断し、照れ臭そうに小さくハイタッチの構えをとる。

 陣営に別れてぶつかりあったわだかまりなど、もうありはしない。

 笑顔と笑顔でこつんと掌とマニピュレーターをぶつけあい、プルツーはグレミーの元へ走る。

 

「プルツー、ご苦労!

 君のお陰で大佐相手にも何とか申し開きがきく……」

「ねぎらいは後だ、グレミー!

 貴様のクィンマンサ、私に預けてみる気はないか?」

 

 どこを見ても、笑顔があふれている。

 全力を出し切り、皆で勝利を勝ち取った。

 遊びに全力を尽くしたレイドバトル参加者のダイバー達は、本当に楽しげだ。

 この笑顔を、無粋な”異邦人”の乱入が、一度は奪い去るところだったのだ。

 マリコは物陰で一人、静かに決意を込めて頷く。

 

「お疲れ様、プルスリーくん。

 ナイスオペレーションじゃった」

「お疲れ様でした、ガデム艦長。

 ご一緒出来て楽しかったです」

 

 パプアのブリッジでマリコは不思議な光と、ジオン公用語のメッセージを見た。

 まるでマリコの呟きに呼応するように現れた”その望み、かなえよう”と応えた誰かが確かに存在する。

 もう一人の”異邦人”達を呼んだのは、自分かもしれない。マリコはそう疑っている。

 

「おぅーい、ガデム。

 もう一人の殊勲者はどうしたんや?

「マリコくんか?

 こちらには戻ってきておらんが……」

 

 だから、これ以上先延ばしにするわけにはいかない。

 自分の名前が場で出たのを合図にするかのように、マリコはリザルトロビーを退室した。

 参加者達の喧騒が聞こえなくなり、ログインロビーの喧騒が聞こえ始める。

 今のマリコの手に、魔法のふとんたたきはもうない。

 ザクⅠはガデムにきちんと返却し、今はただ一人のマリコ・ストレンジャーだ。

 

「リザルトロビーを出ました。

 落ち合う場所はどこにしますか?

 ……了解、ありがとうございます」

 

 サイド6の宇宙港のようなこの広い空間も、すっかり見慣れたものだ。

 視界の端に矢印マークが映り、人気のない路地へとマリコを誘導する。

 戦い直後、マリコ個人宛にメッセージが飛んできた。

 マリコの個人通信相手は、そのメッセージの送り主だ。

 誘導に従い、表通りを外れて細い路地を歩き、目的のポイントへ到達する。

 周囲には店舗の裏側が並び、ベンチが一つ置かれているだけの狭い路地だ。

 汚物や生活ゴミで汚れていないのは、やはりシミュレーター上の場所だからなのかもしれない。

 体感時間5分もかからず、狭い路地に人影が三つ現れた。

 そのどれもアッガイマフィアと同じく、等身大のMSの姿だ。

 一つはどこか威厳を感じるたたずまいのSDガンダイバー。

 二つは恐らく護衛なのだろう。”御用”と書かれたちょうちんをもった時代劇風のSDガンプラ、自衛丸だ。

 

「はじめまして、マリコ・スターマインさん。

 呼び出しにお答えくださり、ありがとうございます。

 このガンプラバトル・ネクサスオンラインの責任者の一人、私がゲームマスターです」

 

 ガンダイバーのSDアバター……カツラギが、マリコへと穏やかに語り掛けた。

 白と黒時調のSDアバター、自衛丸の二人は無言のまま後ろに控えている。

 マリコは相手を刺激しないよう、自主的にゆっくりと両手をあげ、のんびりと言葉を返す。

 

「あなたが、ええと……いわゆる”運営”さん?

 この巨大なシミュレーターを作り、運営するおえらい神様」

 

 確かロウジくんは、偉い人の事を”運営さん”って呼んでいたわよね。

 マリコにとっては、どちらも知識にない存在だ。

 念のために、自分と相手の認識に齟齬がないか、確認をとる。

 

「おおむねあっています。

 もっとも、この世界をデザインしたのは私ではありません。

 この世界を運営管理し、楽しい遊び場として保つのが私の役目です」

 

 なるほど。たぶん、雇われ社長さんみたいなものなのだろう。

 マリコは納得顔で頷き、拘束される直前の捕虜のように両手を上げたまま挨拶を行う。

 

「はじめまして、ゲームマスターさん。

 わたしはマリコ・スターマイン。

 この世界にとっての“異邦人”です」

 

 バトルが終わった直後、メッセージによる接触があった。

 それはそうだろう。シミュレーターへの突然の乱入、管理者が気付かないわけがない。

 そして、”魔法のふとんたたき”なんていう理外の力、目をつけられても当然だ。

 

「……”異邦人”だと、自覚されてらっしゃるのですね?」

「はい。ここはわたしのリアルではありません。

 地球と宇宙の対立もなく、戦争の惨禍と残党によるテロもない、とても平和な世界」

 

 この世界の責任者と接触し、全てを打ち明ける。

 これはずっと、マリコが先延ばしにしていた選択だ。

 何せ、この世界にとって、わたしは異物だ。

 情報をしぼりとられた上で存在を抹消されるかもしれない。そんな疑いを捨てきれずにいた。

 

「わたしは、あなた方の愛するこの世界と、

 ダイバーの皆さんを害する気持ちはありません。

 どうか、わたしの話を聞いてください」

 

 けれど今、マリコはタウ・リンの末路を見たのだ。

 差し伸べた手を拒み、どこかへと消え去ってしまった”異邦人”の男の姿を。

 だからもう、先伸ばしは出来ない。

 

「わたしは”異邦人”です。

 けれどもし叶うなら、わたしはあなた方のフレンドでありたいと願っています」

 

 仮にもし、自分が情報を搾り取られ、実験動物のように扱われたとしても。

 わたしが託した情報によって、ほかの“異邦人”達が救われるかもしれない。

 懸命な願いを託し、マリコは胸を張って告げたのだった。

 

 

 

 そして、数日が経過した。

 戦って勝ちました、めでたしめでたし。

 それですませていいのは物語の主役周りだけであり、

 むしろ事後処理の壮絶さと言うのはそこから始まる。

 責任ある大人達は事態を収拾するため奔走した。師走に相応しく奔走した。

 そのお陰で、当事者たるダイバー達のほとんどは、多少の違和感程度で誤魔化されたのである。

 だが、一部の関係者にとっては驚天動地の日々だった。たとえば……

 

 

 

「マリコ・スターマイン。

 入らせて貰って構わないか?」

 

 扉をノックし、エニルは静かに返事を待った。

 ここはGBN内の運営用のサーバー、そのパーソナルスペース。

 近代的なオフィスのように作られた場所の、もっとも奥まった一室だ。

 たっぷり一分ほどが経過し、まったく反応がない。

 就寝中か? まさか脱走と言う事はあるまいが。

 入室サインはある。壁のコンソールを操作し、エニルは部屋の中の画像と音声を呼び出す。

 

『ごめんよ、まだ僕には帰れる所があるんだ。

 こんな嬉しいことはない。

 わかってくれるよね?

 ララァにはいつでも会いに行けるから……』

 

 室内に設置された大モニターに”機動戦士ガンダム”最終版の映像が映し出されている。

 映像と音声に食い入るように見入るマリコの姿を認め、エニルは無言でうなずいた。

 映像が終わり、エンドロールが流れ出す。エニルはじっと部屋の外で待っていた。

 マリコがソファから立ち上がるのを確認し、エニルは再度部屋の扉をノックする。

 今度は待つ事なく部屋へ招き入れられた。

 

「いらっしゃい、エニル・エルさん。

 今日はもちろん、運営の方として?」

「ああ。その通りだ。

 臨時雇いの軽いバイトぐらいのつもりだったのだが、

 この前の偶発的な遭遇戦以来、がっつりと仕事を貰ってしまっていてね」

 

 エニルは応接セットの椅子に腰かけ、マリコと向かい合う。

 中はかなりしっかりしたホテルの高級ルームのような部屋だ。

 

「せっかくのロウジくんとの楽しいバトルなのに、残念でしたね」

「なぁに、前半は一ダイバーとして楽しませて貰ったさ。

 後半だって、バトルの難易度は一切補正を駆けていない。

 サブマスター権限ではボス補正が使えないのだ。

 勝利したのは皆の奮戦あってこそだよ」

 

 マリコのねぎらいの言葉に、エニルは和やかに言葉を返す。

 ここ数日、エニルはマリコ付きの世話役としてすっかり顔見知りとなっていた。

 あくまで有事のみの非正規雇用のサブマスターのはずが、ずいぶんな仕事量だ。

 とは言え、グラン・ジオングを通報し、マリコの報告を上げた責任がある以上、当然と言える。

 

「ロウジからのメッセージだ。

 それと、ボスアッガイ、ガデム、グレミー、プルツー、プルスリーからもメッセージを預かっている」

「わぁ。ありがとうございます。

 ロウジくんってば、ほんと筆まめね」

 

 あの後、またもガデム作成のブラスターロッドが現物とGBN上から消失した。

 半年前のロウジのブラスターロッドと同様の事態だ。

 マリコの表向きは”バグの調査が長引いており、身動きが取れない”となっている。

 

「マリコ・スターマイン。

 こんな狭苦しいところに押し込めたまま、随分お待たせしてすまない」

「いえいえ、お構いなく。

 とらわれの身とは思えないぐらい、たっぷりお休みさせてもらってるわ。

 社会人になってから、お正月でもこんなにゆっくりした事はないわ」

 

 エニルの謝罪の言葉に、如才ない笑顔でマリコが応える。

 ”異邦人”と言っても、我々と何も変わらないな。

 言葉を交わすたび、エニルは痛感していた。

 しいて言うならファッションセンスがやや奇抜だが、

 フィクションのキャラアバターのGBNのダイバー達に混じれば、それほど突飛とも思えない。

 

「保護した”異邦人”について、ようやく上の方の会議が始まったよ。

 まったく、人が睡眠時間を削って報告を上げたと言うのに……」

「企業人と言えど、休日は休みましょ?

 休日返上で動くほど、大事ではないでしょ」

 

 異世界からの来訪者の保護、天地がひっくり返るほどの大問題だが?

 のんきに笑うマリコに、エニルは心の中で苦笑を浮かべる。

 

「今後の具体的な処遇もそこで正式決定する。

 軟禁生活の終わり、そう待たせず済むはずだ」

「……そう。いよいよね。

 死刑かしら、それとも人体実験?」

 

 笑顔のままマリコに爆弾を投げつけられ、エニルは今度こそはっきりと苦笑を浮かべてみせた。

 

「不安に思うのも無理はないが……

 運営にとって、まず第一に君は貴重な情報源だ。

 第二に、異世界からの来訪者と言う貴重な実例だ。

 そんな非合理的な扱いはされないはずだが」

「良かった。この世界でも南極条約はまだ生きていたのね」

 

 のほほんとマリコに言われ、エニルは小さく肩をすくめた。

 捕虜の虐待など、アナザーガンダムでもやらない蛮行だ。

 GBNの運営はサンダーボルトのアナハイムエレクトロニクスではない。

 

「さて、本題に入ろう。

 君の証言を基にしたシステムログの調査結果が出た。

 先んじて報告させてもらう」

 

 エニルの言葉に、マリコが表情をきりりと真面目なものに変える。

 マリコへ報告する許可も、もちろん上層部から既に貰っている。

 

「結論を言おう。

 グラン・ジオング出現直前のパプアのブリッジで起きた異変だが、

 不審な音声並びにメッセージは、いっさいログに確認出来なかったそうだ」

「うそ!

 わたし、声を確かに聞きました。

 そしてモニターにメッセージが出たんです。

 ”Your wish will be granted.”って!」

 

 マリコが机をひっくり返さんばかりで抗議する。

 エニルはクールな仕草で両手を広げ、落ち着けとジェスチャーした。

 

「まぁ、待ってくれ。同時に運営は同時期にブリッジにいたガデム大尉への聞き取りを行った。

 ガデム大尉は謎の音声をかすかに聞いたと言っている。 

 そしてモニターの”その望み、聞き届けよう”と言う”英語”のメッセージを目撃している」

 

 ほっとした顔で、マリコが振り上げたこぶしをおろした。

 音声データもログも残らないなど、ありえないと言い切りたいところだ。

 だが、実際に二人の証言がある以上、それを嘘だと言い切るには、この事件、あまりに不思議な事が多すぎる。

 

「……つまり?」

「確かに、物的証拠は残っていない。

 だが、”異邦人”の出現には謎の第三者の介入があると我々は考えている。

 アナタは重要参考人ではあるが、不幸にして巻き込まれた第三者の可能性が高い。

 ”監督者を付けての保護観察処分”あたりの妥当な結論がくだされるだろう」

 

 願いを聞き届けようだなんて、まるで神か悪魔か、何かの”願望器”だ。

 聖杯か、魔法のランプか、星の入った七つの玉か。

 木星から来た伝説の巨人でないように、エニルは切に願う。

 

「執行猶予つきの保釈処分ってとこね?」

「……ガデムの作ったブラスターロッド消失のように、

 GBNのオブジェクトやバトルエリア、サーバーが消失したら大惨事なんだ。

 完全な野放しはあり得ない。判ってくれ、マリコ・スターマイン」

 

 意地悪な物言いのマリコに、エニルはわざとらしく肩をすくめてみせる。

 以前の事件でロウジは無罪放免と相成ったが、マリコはさすがにそうはいかない。

 何せ、”異邦人”としての存在自体がイレギュラーの塊なのだ。

 

「そうね。ブラスターマリに会えたら言っておくわ」

「よろしく頼む。

 我々としても今後、”魔法の少尉”殿へ頼らずにすむよう努めよう」

 

 一番大事な用件は済んだ。あとは細々した調査報告や情報交換、雑談を30分ほど。

 アラームが鳴ったのにうながされ、エニルは椅子から立ち上がる。

 

「さて、マリコさん。

 娯楽に関するリクエストなどがあれば伝えておくが」

「わたしのリアル以外にも、こんなにも異世界があるなんてね……」

 

 動画チャンネルのガンダム作品リストを呼び出し、マリコは感慨深げに呟く。

 改めて、エニルはマリコが”異邦人”なのだと強く意識した。

 エニルにとってのフィクションが、マリコにとってはノンフィクションなのだ。

 

「リクエストはないけど、オススメを教えてくれない?

 新しいモノに触れるのって、えいって勢いが要るのよ」

 

 知らないシリーズに手を出すのは、本当にきっかけがいるのだ。

 エニルにもとても判る感覚だった。顎に手を当て、真剣に考える。

 

「……あくまで個人の感覚ですが、ロウジとアタシのオススメがこちらです。

 機動新世紀ガンダムX。かなり古い作品ですが。

 荒れた世界で懸命に生きる少年少女と、それを見守る大人達の姿が描かれています。

 数話見てみて、肌にあいそうなら是非継続してご視聴を」

「ありがとう、エニルさん。試しに見てみるわね。

 一番はじめのガンダムは視点がパラレルでとっても面白かったわ」

 

 好みは人それぞれだ。けれど、娯楽を楽しむ気持ちは、”異邦人”も変わらない。

 型式的な挨拶を行い、部屋を辞去しようと歩き出す。

 

「そうだ、もう一つ。

 運営さん、タウ・リンの行方、ご存じない?」

 

 背後から投げかけられた言葉に、エニルは背筋がひやりとする思いだった。

 ゆっくりとクールな顔で振り返り、ニュートラルな感情と言葉を出力する。

 

「ブラスターマリに撃破された後の痕跡は、運営もトレースできていない。

 データの欠片となってどこかに身を潜めている可能性もあるが、

 前例から考え、恐らくは消滅したのだろうと上層部は推測しているそうだ」

「そっか。やっぱり、そうなんだ。

 普通のダイバーと違って、”異邦人”は”撃墜されたら死ぬ”のね」

 

 淡い笑みを浮かべるマリコに、エニルは言葉を詰まらせる。

 運営の有識者曰く、”異邦人”は電子生命体であるELダイバーと近似しているとのことだ。

 

「アナタやブラスターマリ、ましてや一般のダイバーが責任を感じる事ではない。

 タウ・リンの撃破を煽ったのは運営側だ。アナタ方は代行したに過ぎない」

 

 撃墜されてもアバターが再生成される通常のダイバーと違い、

 ログアウト先がない状態でデータが破壊されれば、そのまま消滅してしまうらしい。

 

「ワンチャン、元の世界に帰れたんじゃないかて期待したけど……まぁ、そうよね。

 わたしも、撃墜されたらアウトだったってことかしら」

 

 対策はあるらしいとの事だが、調査や下準備に少しばかり時間がかかるらしい。

 物憂げに目を伏せるマリコに、エニルは慎重に言葉を投げかけた。

 

「……恐らくは、そうだろうと推測される。

 くれぐれも無茶は控えてほしい」

「貴重なサンプルが無くなるものね」

 

 エニルの言葉に、マリコがフランクに肩をすくめ、かすかに棘のある口調で言い放つ。

 

「ロウジがきっと、悲しむ」

 

 淡々とした口調で、エニルはさらりと言い放つ。

 感情豊かなロウジのことだ、きっと盛大に悲しむだろう。

 マリコが驚いたように目を見開き、口元に手を当て穏やかに笑う。

 その様子を眺め、エニルは静かに懇願した。

 

「……別れがいずれ来るとしても、

 あの子にはきちんと挨拶してやってほしい」

「そうね、気を付けます。

 ロウジくんに泣かれたくはないもの」

 

 きっとロウジは泣きもする。マリコにもどうやら確信があるようだった。

 たとえ別世界で産まれ育ったとしても、”異邦人”も自分達とさして変わらない。

 話すたびにエニルは、そう確信を深めていくのだった。

 

 

 

「見えた、コンスコンのチベ!」

 

 確かな手応えと共に、ロウジは叫んだ。

 ここはGBNのバトルフィールド、サイド6宙域(0079)だ。

 挑むは“コンスコン強襲”……GBNで、一番有名な対艦撃破ミッションだ。

 

「いっけえ、ロウジ。

 そのまま対空砲火をかいくぐれ!」

「直衛のリックドムと」

「両舷のムサイは我々に任せろ!」

 

 モニターで、直下の艦隊から濃密な対空砲火が打ち上がる。

 オペレーターと僚機の頼もしい言葉に背中を押され、ロウジは操縦桿のブーストボタンをぐいと押し込む。

 愛機、デコトレーナー・フルドレスのスラスター全開、対空砲火の中をロウジはぐんと前へ出る。

 

「アムロさんの……せめて、真似事くらい!」

 

 メガ粒子砲の閃光をローリングして回避、敵艦のミサイルをミサイルで迎撃。

 そのままデコトレーナーは高機動を生かして対空機銃の弾幕を振り切る。

 

「ブリッジ、あそこ!

 やっちゃえロウジ!」

 

 オペレーターのセセリアが、モニターに映るチベの映像に色付けしてくれる。

 武装を選択、デコトレーナーが長大なヒートアックスを両手で構える。

 

『12機いたリック・ドムが全滅だと!?

 ものの3分も経たずに?

 ……バ、バケモノか!』

 

 メガ粒子砲、一発、二発、三発。

 それはもう見た。連射直後は冷却のため間が空く。

 最後は力押し! ロウジはスラスターを全開、対空機銃の迎撃を強引に突っ切る。

 

「いっけええええええ!」

 

 長くて重いヒートアックスを、敵艦のブリッジ目掛けて突進の勢いそのまま叩きつける。

 手応え、十分! 深々と突き刺さったヒートアックスを両手で引き抜き、スラスターを逆噴射。

 ジオンの誇る重巡洋艦チベがブリッジを真っ二つに裂かれ、弾薬庫から火を噴く。

 

『Battle ended...』

 

 お手本がよければ、こんなもんだ。

 システムメッセージの祝福を聞きながら、ロウジは笑顔で拳を突き上げるだった。

 

 

 

「いぇーい! 艦船、初撃墜!」

「うぇーい!」

 

 満面の笑顔で、ロウジはセセリアとハイタッチを決めた。

 くるりと振り返り、ハサウェイとも笑顔でハイタッチ。

 そしてそのままの流れで、もう一人の僚機へもハイタッチ。

 

「プルツー、フォローありがとう!

 僕の動き、どうだった?」

 

 苦笑いするプルツーにも物おじせず、ロウジは満面の笑顔で問いかける。

 

「及第点と言ったところだな」

 

 辛口な批評に、ロウジはがくりと大げさに落ち込んで見せた。

 

「動きは問題ない。アレぐらいはやって貰っては困る。

 だが、事前準備に対しては少々お粗末だぞ。

 戦艦は高耐久だ。やみくもに火力を叩きこんでもほぼ意味はない。

 撃破する鍵はブリッジ、弾薬庫など急所への強烈な一撃、つまりクリティカルだ」

 

 ううん、プルツーってば理論派だ。

 感覚派のロウジとはそこが決定的に違う。

 確かな知識量と反復練習が、プルツーをエースたらしめているのだろう。

 

「つまり、対艦で重要なのは操縦技術より、

 敵艦への詳細な理解だ。そこがまだ甘い」

「ふぁい、がんばりまぁす」

 

 ロウジはへにゃりとさらに肩を落とす。

 確かにバトルの腕はともかく、ロウジのガンダム知識はだいぶ偏っている。

 昔の映像作品の履修はほとんどなく、大体が両親の所持したガンダムのゲームによる知識だけだ。

 

「足りないときは誰かがロウジをフォローするよ。

 たとえばこのボク、セセリアちゃんとか!」

 

 ぐいとロウジの肩を抱き寄せ、セセリアが胸を張る。

 うわセセリア、めっちゃ笑顔。ロウジもつられてくすりと笑みを浮かべる

 

「あまり甘やかすな、セセリア。

 フォローとはつまり、他者に負担を肩代わりしてもらうことだ。

 ロウジはもっと高みを目指すべき存在だ」

「つい最近フレンドなったばかりのよそさまが偉そうにぃ。

 ロウジの育成ゲーム歴はボクのがずっと長いんですぅ。

 ロウジはワガママで甘えんぼうの天使なの!」

 

 この人たち、何言ってるの? ロウジは困惑顔でハサウェイに助けを求める。

 ハサウェイに沈痛な面持ちで首を横に振られ、ロウジはがくりと肩を落とした。

 

「いよ〜し、それじゃプルツー。

 どっちが正しいか、ガンプラバトル!」

「ふん、構わんぞ。

 あの時と同じだと侮る相手など一蹴してくれる!」 

「すとーっぷ!

 ちょっと待ってよ二人とも!」

 

 ロウジの育成方針を賭けたガンプラバトル開催寸前、なんとか全身で割り込み、静止する。

 

「セセリア、この後予定あるって僕言ったよね!?」

 

 不満げなセセリアの耳を掴み、ぐいぐいと引っ張る。

 

「プルツー、セセリアの自慢話は聞き流していいから!」

 

 不満げなプルツーに片手でごめんねって小さく頭を下げる。

 背後と正面両方から同時に不満げな鼻息が聞こえた。

 それでも何とか矛は納めてくれたらしい。やだこの二人、逆方向で仲良しじゃん。

 まだ挑発しそうなセセリアの気配を悟り、ロウジはセセリアの足を踏んづけて強引に黙らせる。

 つま先を押さえてうずくまるセセリアに手を貸し、ハサウェイが苦笑しながら声をかけてきた。

 

「ロウジ、そろそろ移動しよう」

「ごめんねプルツー、忙しいのに時間割いてくれてありがとう!」

 

 ロウジは改めてプルツーに頭を下げた。

 プルツーは約束通り、みごとなアウーラ撃沈の映像ログを提示してくれた。

 そのまま実演だ、とわざわざ対艦戦術をロウジに指導までしてくれたのだ。

 

「礼などいい。

 次は、バトルしよう、最後まで」

 

 不遜とも言える態度で、プルツーは高慢に笑ってみせた。

 共に競い合うライバルに向け、ロウジも満面の笑みで応える。

 

「こちらこそお願いするよ。

 次の僕だって、今日よりずっと強くなってるから!」

 

 プルツーと別れ、ロウジは三人揃ってロビーへ退出、すかさず次の場所への移動を開始した。

 

『非戦闘エリア サイド3(UC0079)』

 

 サイド3の首都、ズムシティの見えるバンチコロニーだ。

 ロウジがグラン・ジオングと激戦を繰り広げた地形でもある。

 もちろん観光用に生成されたこのエリアへ、破壊の爪痕は刻まれていない。

 すごく目立つ邪悪の居城こと首相官邸側でログインし、ロウジを先頭にのんびりした歩調で歩いていく。

 

「んもう、何様!

 あのツンツンファンガールめ。

 自分こそロウジの理解者だって顔しちゃって」

「プルツーは。僕のライバルだよ」

 

 跳ねるような足取りでロウジの横に並びながら、セセリアが拗ねた顔でぼやいた。

 ロウジは頬をかき、照れくさそうに宣言する。

 

「すごく距離近いじゃないか。

 レイドバトル、楽しかったのかい?」

「うん、めっちゃめちゃ楽しかった!」

 

 後ろから柔らかい声をハサウェイが投げて来た。

 ロウジは満面の笑顔で即座に断言する。

 

「ロウジすごい。仲良しさんたくさん増えたんだ。

 人見知りレベル99なのにがんばった!

 えらいえらい」

「せいぜいレベル38くらいだよぉ」

 

 ほっと安心した顔で頭をわしわし撫でてくるセセリアから恥ずかしそうにそっぽを向く。

 そして、ロウジはほんの少し、表情を曇らせた。

 三人の歩く道筋は公園を抜け、路地裏へと入る。

 本当にこっちかとハサウェイが首を傾げた。

 ロウジはナビゲートの矢印を確認し、自信を持って歩き出す。

 

「でも、さ。

 仲良くなれなかった人もいたよ」

「ほうほう」

 

 あの人は、すごく強かった。

 グラン・ジオングを駆る男の顔を思い浮かべ、ロウジは呟く。

 

「いったいどんな人?」

「シークレットミッションのボスを務めた人でね。

 タウ・リンって言う凄腕のダイバーさんだった。

 戦術も容赦なく、声も顔も怖かった」

 

 殺気さえ感じるような、ぞっとする凄みのある相手だった。

 四本の腕を巧みに操り、白兵戦はロウジより上手だったろう。

 

「ものすごくタフな感じの人だったよ。

 こう、ガチ! って感じの凄みのある人でね。

 ほら、レナート兄弟みたいな感じだった」

「あー! 第7回世界大会のアルゼンチン代表の。

 ジムの改造機で三代目メイジン・カワグチと激戦を繰り広げた人ね」

「ガンプラバトルは遊びじゃない!系って感じなんだ?」

 

 ロウジの拙い言葉では表現しきれず、有名人に例えるしかなかった。

 ハサウェイの言葉に、ロウジは微妙な顔で肯定とも否定ともつかない感じで言葉を紡ぐ。

 

「すごく、真剣な人だったなって思う。

 その強さは、ホンモノだったと思う」

「その人のこと、尊敬したんだ?」

 

 セセリアの言葉に、ロウジは神妙な顔で頷く。

 

「ラッキーとミラクルでギリギリの勝利だったもん。

 次があるなら、また戦いたいくらい」

 

 幸運と魔法という奇跡、エニルさんの奇策でもぎとった勝利だった。

 タウ・リンの強さは本当に凄いものだったと思う。

 

「でも、あの人と僕は……うん、仲良くなれなかったんだ。

 プルツーや、ハサウェイみたいに」

「まー、そりゃそーだ。

 全世界の人と仲良くなれるとか、それこそミラクルだよ」

 

 セセリアに明るく笑い飛ばされ、ロウジはうつむいていた顔をあげた。

 ハサウェイがすました顔で諭してくる。

 

「何ができなかったではなく、何ができたかを考えるべきだ。

 君はよくやった。暗い顔でうつむくことはない」

「そうそう。ロウジってば、贅沢さん!

 今回ダメなら、次バトった時に目指せばいーじゃん」

 

 まったくもって正論だ。うつむいてふさぎこんでも何も変わらない。

 

「仮に次もダメでも気にしなくていい、相性の悪い人間もいるさ。

 それに、好きな相手だって許せないところはあるだろう?」

「そうそう。ボクはロウジだーいすきだけど、ちょっとヤなとこはあるもん。

 ロウジだってそうっしょ?」

 

 うん、そうだね。

 例えばセセリアのデリカシーのないとことか、キレーなおねーさんに目移りするとことか。

 ハサウェイとセセリアの言葉を噛みしめ、ロウジは笑って小さくうなずいた。

 

「ほら、リーダー。

 オレ達に新しい仲間を紹介してくれるんだよな?」

「そうそう。ロウジが保護したニュービーさん!」

 

 気付けば、路地の終わりが見えていた。

 ロウジは二人を置いて一気に駆け出し、路地から飛び出る。

 一気に視界が開ける。

 ここはマリコさんのお気に入りの場所。ほんとに展望台みたいな、長めのいい場所だ。

 丸いコロニーの壁面と、そこにたくさん作られた様々な建物、そして大型のスペースポートが一望出来る。

 展望のいい手すりすぐそば、たたずむ背中へロウジは声を張り上げた。

 

「マぁリコさーん!」

 

 人と人とは簡単にわかりあえない。

 だからこそ縁を大切に、結んだ絆を愛おしく思うのだ。

 

 

 

「マぁリコさぁーん!」

 

 背後でとっても元気の良い声が響いた。

 マリコは笑みを噛み殺し、のんびりと振り返る。

 路地の出口でぶんぶんと大きく手を振り、ロウジがアピールしていた。

 

「お久しぶりです、お元気そうで良かったです!」

「久しぶり、ロウジくん。

 あなたこそ相変わらずねぇ」

 

 まるで人懐こい大型犬だ。

 満面の笑顔のまま小走りで駆け寄ってくるロウジに、マリコも笑顔で応える。

 この無垢な笑顔、本当に安心する。

 軟禁でかすかに積もっていた何かが、瞬く間に抜けていくようだ。

 

「変な薬とか検査とかあったらチクってくださいね!」

「大丈夫よ、心配しないの」

 

 顔を覗き込むようにして小声でささやくロウジに、マリコは笑いながら諭す。

 洗脳でもされていないかとロウジに余計な心配でもさせてしまったらしい。

 

「こらロウジ、わんこみたいに駆け出さないの!」

 

 ロウジの後ろから飛んできた声に、ロウジがはっきり頬を膨らました。

 見れば、路地から出たところに小柄な少女と少年が二人、並んでこちらを見ている。

 ぷんすかと音がしそうなふくれっ面で背後へ振り返り、ロウジが二人を右手で差し示す。

 

「フォース“デミダイバーズ”所属、僕の仲間達。

 いじわるなセセリアと、頼れるハサウェイです!」

「ちょっとロウジ!」

「よろしくお願いします、マリコさん」

 

 小柄なセセリアが抗議の声を上げ、ハサウェイが生真面目な表情でお辞儀した。

 遠慮のない態度に、普段のロウジとセセリア、距離の近さがよくわかる。

 マリコは笑みをこらえ、如才なく二人に挨拶した。

 

「”ニュービー”のマリコです。

 よろしくお願いしますね、先輩方」

 

 当面のうちは、マリコはあくまで“ちょっと変わったニュービーさん”のまま、GBNへ戻る事を許された。

 事情を知るのはロウジと運営だけ。

 ロウジとかなり近しいセセリアとハサウェイでさえも例外ではない。

 それでも恐らく、運営の”えらい人たち”はかなりマリコに気を遣ってくれたのだろう。

 方針が完全に固まるまでマリコを軟禁し続けた方がよっぽど楽なはずだ。

 

「先輩と言っても、ロウジぐらいのGBN歴ですが……

 手本になれるよう頑張りますね」

 

 うーん、弟たちに見習ってほしい。

 きりっと生真面目に言うハサウェイに、マリコは好感を抱いた。

 

「よろしく、マリコさん。

 うわぁすっごいキレーで大人なおねーさんじゃん!

 ロウジ、やっるぅ!」

 

 対して、セセリアはたいへんヤンチャなキャラのようだ。

 遠慮なくロウジの背中を叩き、頬に指を突き付けてからかう。

 実にほほえましい。そう思っていた途端、ロウジが思い切りセセリアの足を踏んづけた。

 

「あのね、セセリア!

 そーゆーとこだよ、君!」

 

 真っ赤な顔で感情を爆発させたロウジに、マリコは目を見開いた。

 

「わかってるって。

 キレーなおねーさんじゃなくてもロウジは助けただろうけどさー」

「そっちじゃなくって!」

 

 そのままマリコそっちのけで、ぎゃいぎゃいと言い合いが始まる。

 ねぇ、どうすればいい? マリコは困った顔でハサウェイを見やる。

 ハサウェイは無言で苦笑いし、そっとマリコに耳打ちしてきた。

 

「ほっときましょう。こじれたら後でどうにかします」

 

 あまりに慣れた対応に、マリコはふとぴんと来た。

 

「二人とも、ひょっとしてとっても仲良し?」

「はい。リアルでも、とってもなかよしです」

 

 なるほどなるほど、実にほほえましい。

 ハサウェイの重々しい言葉に、マリコはふんわりと微笑んだ。

 

「ハサウェイくん。

 この後どうするつもりだったと思う?」

「マリコさん歓迎のためにミッションだったと思います。

 セセリアがオペレーターで、残り三人、トリオのフォースバトルかな」

「なるほど、でもわたし、バトルは素人同然だよ?」

「ロウジとオレでキャリーします。

 それぐらいはやってみせますよ」

 

 犬も食わない言い合いを繰り広げるロウジとセセリアを放置し、マリコはハサウェイと親睦を深める。

 セセリアとハサウェイは、マリコの”異邦人”としての素性を知らないままだ。

 けれどこうして言葉を交わすことには意味がある、マリコにはそう思える。

 さようなら、タウ・リン。

 このサイド3のバトルフィールドで散った”異邦人”へ、マリコは心の中で別れを告げた。

 機体同士で殺しあう男が選べなかった道へ、自分は行くのだ。

 寄る辺のない異邦の地で、言葉で縁を結んで、歩いていく。

 

「ごめんなさい、ボクが無神経でした」

「……よろしい!」

 

 どうやら、二人の仲直りもすんだようだ。

 ほら、と言わんばかりにハサウェイが片目をつぶってみせる。

 くすりと笑い、マリコは二人に歩み寄り、ロウジとセセリアの肩を両側から抱き寄せた。

 

「さ、ロウジくん、セセリアちゃん。

 ケンカした分、この後はきちんとなかよしなとこを見せなさいね!」

「……ぜ、善処します」

「ぅ、ぅぇーぃ。よろしくでっす」

 

 はにかむロウジとセセリアに、マリコは笑みを大きくする。

 たとえ異なる世界が違っても、自分はこの子達の隣人であれるはずだ。

 

「さ、リーダー。ばしっと決めよう!

 マリコさんの歓迎ミッション、スタートだ!」

「いよっし、デミダイバーズ!」

「「「ごー・ふぁいっ!」」」

 

 マリコのお気に入りの場所に、さわやかな風が吹き抜けていく。

 ここはGBN、戦争などない、平和なシミュレーター上の世界だ。

 ”異邦人”マリコは今日もここで一歩を歩いてゆく。

 

 

 

「”異邦人”マリコ・スターマインの本日の活動についてだ。

 ロウジ・チャンテ並びにフォース”デミダイバーズ”のメンバーと合流、

 セセリア並びにハサウェイと合流し、歓迎ミッションに自作ザクⅡで参加。

 戦闘行為へは消極的だったものの、はっきりとした情報漏洩並びに破壊工作は確認できず。

 提出したログの精査を求む」

「ありがとう、エニル。

 嫌な役目をさせてすまないね」

 

 エニルからの報告を受け、ゲームマスターカツラギは労いの言葉を投げかけた。

 マリコの軟禁状態は解かれ、GBNのダイバーとしての活動は始まった。

 だが無論、手放しで無罪放免とはいかないのが現状だ。

 

「仕事だ、構わん。

 だが、交代人員を早急に余裕をもって確保してほしい。

 アタシだってたまには気楽にロウジと遊びたい」

「判っている。なるべく急ぐ。

 一両日中には交代要員を最低一人用意しよう」

 

 切実なエニルの訴えに、カツラギはアバターのガンダイバーに真剣な表情を浮かべさせる。

 GM権限を使用して、遠距離からマリコの行動に対するリアルタイム監視し、

 行動ログを別人員が確認するよう運営側は決定した。

 ごくわずかにスパイや破壊工作の可能性はある。

 別の”異邦人”事件が連鎖的に発生する可能性もある。

 また、不慮の事故でマリコが”死亡”するようなことがあれば大きな損失になるからだ。

 

「まったくもって、我々はガロードではなくジャミルだな」

「あんな大人であり続ける自信はないな。

 お疲れ様、また何かあれば報告を頼む」

 

 ぼやくエニルを再度労い、カツラギは通信を切った。

 多忙を極める責任者は、今日はリアルで大事な約束がある。

 見れば、来客は既に到着済みとメッセージが光っている。

 手短にサブマスターへと業務引継ぎを行いGBNからログアウト。

 カツラギはダイバーギアを外し、生身で席を立った。

 部屋を出た廊下を歩き、徒歩1分、すぐ傍の応接スペースで来客と顔を合わせる。

 

「休暇明けに呼び出してすまない、”トロンちゃん”」

「我々の仲だ、遠慮するな。カツラギ」

 

 相手は運営側アバター、トロンちゃんを務める同僚の女性だった。

 この年になると、休暇すぐは身体が重い。

 気遣うカツラギに、トロンは昔馴染み特有の気さくさで笑ってみせる。

 

「リアルの方で、進展はどうだったのか?」

「コンテストの結果次第だと濁されたよ。

 知ったことか。娘のためにも押し通るさ」

 

 まずは短く世間話、カツラギは小さく安堵の笑みを浮かべる。

 トロンの言葉の端々にエネルギーの発露を感じる。リアルはどうやら、まんざらでもないようだ。

 

「出立前に話していた例の”異邦人”事件についてだが、

 この数日間、大きな進展があった」

「ほぉ、それは興味深い。

 謎のマイナーキャラ&メカ愛好者の種明かしはどうなった?」

 

 そして素早く切り替え、カツラギは仕事の話に移る。

 まさに今回の“異邦人”騒動は大事件だった。

 艦隊規模の出現と戦闘と大規模なものであったが、

 結果として友好的な“異邦人”と接触し、情報を得る事が出来た。

 

「君には大変申し訳ない話だが……

 単刀直入に言おう」

 

 カツラギは重々しい表情で、膝の上で手を組みなおした。

 気配を察したか、トロンも笑顔を消し、居住まいを正す。

 

「友好的な”異邦人”と接触した。

 彼女の名はマリコ・スターマイン」

「ブラスターマリ!?」

 

 予想外だったのだろう。常に冷静なトロンが大きく表情を崩す。

 カツラギは間を置き、言葉を続ける。

 

「彼女は実際の宇宙世紀からやってきたと主張している。

 彼女の言を信じるなら、転移の原因はアクシズ落としによるサイコフレームの共振。

 つまり”アクシズ・ショック”に居合わせた20代半ばのマリコ・スターマインだ」

「……馬鹿な!?

 そんなバカげたことがあるものか!」

 

 トロンが狼狽した声を上げる。

 気持ちはとてもよく判る。カツラギだって聞いた時は同じ反応をした。

 共にテーブルを囲んでいた他のプレイヤー達だってまったく同じ反応をするだろう。

 

「君には覚えがあるだろう、トロン」

「……黒歴史の降臨だと?」

 

 気持ちはとてもよく判る。だが、自分にも立場がある。

 うめくようなトロンに、カツラギは沈痛な面持ちで言葉を重ねた。

 ”異邦人”の正体を知る手がかりは、あまりに身近なところにあったのだ。

 

「マリコ・スターマインの言と当時の資料を突き合わせ、確証を得たい。

 君がゲームマスターを務めた時の資料は、どこにある?」

 

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・機体へのボス補正など、サブマスター権限について

 

 ゲームマスターなどの運営はイベントミッションを盛り上げるため、

 GBNのシステムに介入し、使用するガンプラの性能を強化する事が出来る。

 CPUの強化、火力や装甲、耐久性の向上など、事細かに設定も可能だ。

 エニルは一ダイバーとして参加している関係上、悪用されることを恐れてボス補正権限は与えられていなかった。

 サブマスターとして渡された権限は主として三つ。

 ”運営への優先通報回線”

 ”敵機体やダイバー情報などのシステムへのアクセス権限”

 ”偽装用ミッションの発令”

 ロウジ達が討伐失敗した場合、広範囲に臨時ミッションを発令し、

 ガチバトルダイバー達によるグラン・ジオングの鎮圧に移行する予定だった。

 

 

 

 

 

 

 

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