リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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嘘だと言ってよ、セセリア!

クリスマスにロウジとセセリアがイチャイチャするだけのお話です。
本編とはほぼ関係ないので糖度高めな部分なので、
苦手な方はスルーして貰って大丈夫です。


大変お待たせしました。
第5話「仮面の父はガンプラが離れない」はプロットが終わり、書き溜め中です。

一週間後お休みをいただいた後、
3/16(日)より開始させていただきます。

ご趣味があう方は、どうかよろしくお願いいたします。




~幕間その2~
ミッション4to5 幕間:ポケットの中の痴話喧嘩 


 

 

 

 どうしよう。心臓の鼓動が収まらない。

 まさかリアルではモブなわたしに、こんな漫画みたいな展開があるなんて!

 街路樹の傍に座り込み、ロウジは必死にスマホをいじる。

 着信がつながるやいなや、ロウジは小声で叫んでいた。

 

「マリコさん……どうしよう!」

「ロウジくん!?

 ……突然、いったいどうしちゃったの?」

 

 スマホのアプリを通し、GBN内のマリコの声が聞こえて来る。

 ここはリアル、人が行き交うアーケード街だ。

 時期はクリスマスイブ、楽しげなざわめきがあちらこちらから聞こえてくる。

 マリコの声にじわりと安堵の涙をにじませ、ロウジは喧騒から取り残されたように呟きを漏らす。

 

「セセリアが、いなくなっちゃうかも……」

 

 今日のロウジの隣に、セセリアはいない。

 まるで、世界がひっくり返ってしまったかのようだ。

 アニメ”水星の魔女”でアスティカシア学園が戦火に巻き込まれた時を思い出す。

 校舎が崩れ去り、学生達の命が消え、平和な時間が終わりを告げたような、そんな予感にぞっとしたものだった。

 

「落ち着いて、ロウジくん。

 まずは深呼吸、その後、事情説明。

 焦らなくていいわ、順番に、話してくれる?」

「……はい」

 

 マリコの優しい声を支えに、ロウジは気持ちを必死で落ち着かせる。

 うん、深呼吸。ゆっくり吐いて、ゆっくり吸って。

 そうロウジが自分へ言い聞かせる間にも涙があふれ、床へと零れ落ちていく。

 

「ひん……わたしは今日、一人で……ぐす。

 こっちのガンダムベースにお買い物に来たんです」

 

 涙と鼻で言葉がつっかえつっかえする。

 ロウジはゆっくりと事のあらましを話し始めた。

 

 

 

 時は、少し前にさかのぼる。

 ロウジが初挑戦のレイドバトル、グラン・ジオングとの激戦が終わり、

 今年もあと一週間ほどとなった12月後半、クリスマスイブの日のことだ。

 

「……大丈夫、大丈夫。

 わたしだってもう子供じゃないんだから」

 

 つぶやく自分は、だいぶ不審者かもしれない。

 そう思いながらロウジは、リアルの街並みを歩いていた。

 時刻はお昼過ぎ、学校帰りそのままなのか、制服姿の子達も周囲には多い。

 年が明けたらすぐ、震災30年の式典が行われるんだっけ。

 ここは関西地方の主要都市のひとつ、とある県庁所在地だ。

 駅から15分も歩けば海と港へ辿り着く。

 きっとここだとアッガイやザク・マリナーが有利なフィールドだろう。

 

(いけないいけない。GBN病だ!

 リアルではリアルに気をつけないと、人にぶつかったりしちゃうぞ、わたし)

 

 余計な事ばっかり考える自分を心の中でたしなめ、

 ロウジは人込みの中をうつむき、くぐり抜けていく。

 今日はクリスマスイブ、しかも学校は午前で終わり、今日から冬休み。

 皆、とっても笑顔。そりゃそうだ、学校が終わっておやすみ。

 しかもクリスマス。楽しいが詰まった日々に胸も弾む。

 いつもなら、ロウジだっておおはしゃぎでセセリアを振り回していただろう。

 

(リアルでだって、セセリアにたよりっぱなしじゃいられないもんね。

 こればっかりは、セセリアなしで買わないと)

 

 一人での遠出、すごく久しぶりな気がする。

 一度家に帰り、ロウジは私服に着替えていた。

 いつも遠出する時は、家族かセセリアが一緒にいてくれた。

 でも、今日はみんなが忙しい。

 たまには、一人でだって自分の買い物くらい出来て当然のはずだ。

 

「あれ? ひょっとして……」

 

 思わず呟きを漏らし、ロウジは足を止めた。

 たった今、そのセセリアを見かけたのだ。

 リアルのセセリアは、同年代の中でも背が高い。

 アーケード街の人ごみの中でも、ひときわ目を引く。

 

 やったね、ぐーぜん。駆け寄って、声をかけて飛びついちゃえ。

 偶然の出会いに、ロウジの胸が弾む。

 だが、うきうきしながら駆けだそうとした足がぴたりと止まる。

 セセリアに、連れがいたのだ。

 セセリアが女の子と一緒に、歩いている。

 かわいい女の子を連れて、真剣な顔で歩いている。

 

「……ぇ?」

 

 かすれた声が唇から漏れる。

 セセリアの横に並んで歩くのは、ロウジが知らない女の子だった。

 

「ねぇ……嘘だよね?」

 

 セセリアとその子が、真剣な顔して店先の商品を見つめ、言葉を投げ合っている。

 装いもきっちり、おしとやかなお嬢さん風にまとめてる。

 物腰もすごく丁寧で、笑い方もどこかお上品だ。

 凄く、セセリアが好きっぽい、お姉さんな人じゃん。

 

「わたしみたいなチンチクリンなんかより……

 ずっと、お似合いだね」

 

 心を突き上げる黒い何かが、思わず口を突いて出る。

 震える体を抱きしめ、ロウジは観葉植物の影にへたりこんだ。

 以上が、ロウジの遭遇した一大事件の顛末であった。

 

 

 

「どうしよう、マリコさん。

 わたし、セセリアに見放されちゃったのかな……」

 

 マリコさんに一部始終を語り終え、ロウジの頬をまた涙が伝う。

 大好きな君が、傍にいない。

 それだけで、どうしようもなく胸が苦しい。

 

「まず、ロウジくんの勘違いだったりはしない?

 お姉さんや妹さんだったり、親戚の方とか」

「ううん、それはないよ、絶対」

 

 冷静なマリコさんの声に、ロウジはきっぱりと首を横に振る。

 

「セセリアに姉妹はいないし、従兄弟も男の子だけだもん」

 

 小さなころからセセリアの事は良く知ってる。

 おうちにも何度もお邪魔させてもらって、お母さんとも顔なじみだ。

 

「ごめん、ロウジくん。

 基礎的な事を確認させて。

 ……あなたとセセリアちゃんのリアル、どういうご関係?」

 

 そうだ、まずそこからだ!

 マリコさんの声は、困惑しきっていた。

 ロウジは自分の間抜けさに、思わず口元を抑え、天を仰いだ。

 

「小さいころからの幼馴染で、ガンダム好き仲間。

 今は、カレシでカノジョ。

 ……少なくとも、わたしはそうだと、思ってました」

 

 でも、セセリアにとってはそうじゃなかったってことかな。

 じくじくと、心の中に暗い泥がたまっていくようだ。

 

「うん、OK、理解したわ。

 大好きなセセリアちゃんが浮気した。

 そう思ってロウジくんはショックを受けているのね?」

「……はぃ」

 

 マリコさんが冷静に事実確認をしてくれた。

 たったそれだけなのに、ずきりと心のどこかが痛む。

 これは重傷だ、もう助からない。

 どこか他人事のようにロウジは皮肉っぽく心で呟く。

 

「OK! ならまずはセセリアちゃんを呼び出して、

 個室で落ち着いて事情を聞きましょう?

 感情的になっちゃダメ、売り言葉に買い言葉でとんでもない事言っちゃうわ」

 

 ロウジの勘違いかもしれない。

 マリコの言葉に、気持ちの表面が落ち着いていく。

 心はまだじくじくと痛むけれど、何とか動くことはできるだろう。

 

「事情を理解した冷静になれる第三者も同席するといいわね。

 ……GBNでわたしが同席して、一緒にお話し聞きましょ?」

「……ぅん、ありがと、マリコさん」

 

 マリコさんにお礼を言い、鼻を噛んで涙を拭いてロウジは立ち上がる。

 たぶん今、すっごい顔だ。どうせ元からみられる顔なんてしてないけどさ。

 そうだ、あんなかわいいお嬢さん、きっと何か上品なご趣味をもってらっしゃるだろう。

 GBNでなら勝てる。

 GBNでのセセリアの隣には、僕こそがふさわしい。

 やけっぱちになって、そんな事を思う。

 

「今日はもう帰って、ゆっくり休んだら?

 文章添削必要ならわたしが見てあげるし」

「ぅぅん。ここまで来たんだから、目的の買い物します。

 予約してたセセリアへのプレゼント、受け取らなきゃ……」

 

 優しいマリコさんの言葉に意地を張り、ロウジは首を横に振った。

 感染症で高熱が出た時みたいに、心と身体が重く感じる。

 

「気を付けてね。

 無理な横断とか、絶対しちゃダメよ!」

 

 何度も気遣うマリコさんにお礼を言い、ロウジは通信を切る。

 もう一度深呼吸し、しっかりと足に力を入れて歩き始める。

 アーケードから脇に入り、エスカレーターで2階へ。

 渡り廊下を渡った先、2階のフロア全体にガンダムベースが入っている。

 いつもは地元で買うから、来ない店だ。

 セセリアにばれないよう、あえてちょっと遠いところを選んだつもりだった。

 まさかそのお店でまで、セセリアと出会うなんて思ってもいなかった。

 

 セセリアとあの子が、二人行儀よくガンダムベースのレジ前の行列に並んでいる。

 何か商品を手に、仲良さそうにおしゃべりして。

 いやだ、やめてよ。

 呆然と見守るロウジの目の前で、二人はレジで買い物を終えた。

 

「さんきゅー、助かったよ!」

「こちらこそ。

 ニッパーなんてうちにはなかったからさ。

 初心者向けのオススメ、ありがとね」

 

 そっか、あなたもガンプラを始めるんだ?

 頭をぶん殴られたみたいに世界が揺れる。

 セセリアの隣、いつも心が暖かった。

 ふらつくロウジを優しく手を引いて。

 とちるロウジの横で穏やかに笑ってくれて。

 

「じゃ、これニッパー代。

 おつりはとっといて」

「いいさ、おごらせてよ。

 これはつきあってくれたお礼」

 

 セセリアがあの子に笑いかける。

 やめてよ、そんな顔見たくない。

 君が、好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。

 やめてよ。セセリアをわたしからとらないで。

 

「……やめてよ!」

 

 我ながらひっどい声。

 ごめん、マリコさん。助言も何もかも吹っ飛んじゃった。

 セセリアとあの子が並んで歩くその前に、ロウジはゆらりと幽鬼のように立ち塞がる。

 

「……まりあ?」

「浮気者ぉ……」

 

 セセリアの呟きに嗚咽混じりの罵倒を返し、あの子の前にロウジは立ち塞がる。

 驚き慌てる顔もとってもきれいで、お上品だね。

 リアルではモブなわたしに勝てるところなんて、きっとどこにない。

 それでも。

 ロウジは全身全霊で声を張り上げた。

 

「わたしから……とらないで!」

 

 ゼッタイ、わたさない。

 セセリアの左腕にぎゅっと抱きつき、涙にかすむ視界であの子を見上げる。

 名前も知らない泥棒猫が、口元に手を当て、困ったように眉根を寄せている。

 

「ごめん、あのさ……!」

「きみには聞いてない!」

 

 弁解するセセリアをばっさり切り捨てる。

 ゼッタイ、離すもんか。

 独占欲を炎と燃やし、泥棒猫なあの子をきっと睨む。

 

「なんとか、言って!」

「……ごめんなさい!」

 

 悲鳴みたいなロウジの叫びに、真正面からの謝罪が返ってきた。

 呆気にとられ、ロウジはべそつく瞳で見返す。

 知らないあの子が、ゆっくり丁寧な仕草で深々と頭を下げている。

 謝ったって、許さない。けど、どういうこと?

 戸惑いが、一気にロウジの心を冷ましていく。

 

「サプライズは失敗。

 全部ぶちまけるよ、セセリア?」

「……うん、しゃーなし!」

 

 怒りにぼやけた心と視界が、少しずつクリアーになっていく。

 頭を下げたまま、ちゃきちゃきした言葉で知らないあの子がセセリアへ呼びかけた。

 セセリアがあちゃーって仕草で天を仰ぎ、即答する。

 え、今、セセリアの事、セセリアって言った?

 知らないあの子の呼びかけに、ロウジはぽかんと間抜けに大口を上げる。

 

「……ごめん、まりあ。

 俺が悪かった。

 話、聞いてくんない?」

 

 真剣な顔で、セセリアが”わたし”へ呼びかける。

 

「……重ねてごめん。

 ロウジ……だよね?」

 

 ゆっくりと上体を起こし、知らないあの子がロウジへと呼びかける。

 ねぇ、泥棒猫さん。あなた、ひょっとして。

 心の中で、驚きと予感がゆっくりと頭をもたげていく。

 

「泣かせたのはほんと悪い。

 けど、浮気とかそんなんじゃないから……」

 

 セセリアが差し出してくれたハンカチを奪い取り、涙を乱暴にふき取る。

 独占欲で抱き着いたセセリアの腕を離し、ロウジは知らないはずのあの子へ歩み寄る。

 

「もう一度、ごめん。

 キミを傷つけたかったわけじゃないんだ。

 ”オレ”は、そしてもちろんセセリアも」

 

 聞き覚えのない声と、知らないあの子の姿が、はっきりと心の中で像を描き出す。

 申し訳なさそうにたたずむその顔を見上げ、ロウジはかすれる声で問いかけた。

 

「……ハサウェイ?」

「リアルでは、はじめまして。

 リーダー」

 

 上品な笑顔で、ハサウェイが照れ臭そうに微笑む。

 驚きと喜びが、鬱屈した心を洗い流していく。

 わたし。多分、やらかしちゃったよね?

 ぽかんと口を開けたまま、ゆっくり視線が右往左往。

 周りから突き刺さる、好奇の視線。

 我に返り、気付いてしまった。

 うわぁん、めっちゃ目立ってるぅ!

 羞恥が猛烈な勢いで襲ってくる。

 ロウジはぼふんと音を立てる勢いで頬を赤らめたのだった。

 

 

 

「はい、これ……プレゼント」

「……クリスマスプレゼントじゃなく?」

 

 いろんなものを観念した顔のセセリアへ、ロウジは不思議そうに問い返した。

 丁寧に包装された品を受け取り、ロウジはそっと膝の上へ乗せた。

 あの後改めて三人で受け取ったロウジからのクリスマスプレゼントはもう渡し済みだ。

 既に袋ごとセセリアの足元に置かれている。

 

「そっちはもう、おうちに預けてる。

 明日の朝をお楽しみに。

 で、これはさ、来年1月のロウジ1周年記念」

「リアルのキミとロウジ、両方に似合う贈り物がしたい。

 そのためにガンダムのわかるリアル女の子に相談、

 そういう理由でオレに白羽の矢が立ったのさ」

 

 セセリアの言葉に、ハサウェイがさっぱりした口調で捕捉する。

 約三十分後、繁華街入口にあるカラオケへ場所を移し、

 フォース“デミダイバーズ”の突発オフ会が開催されていた。

 

「ずるいセセリア!

 ハサウェイのリアル、いつから知ってたの?」

「ほんの、つい最近!

 ほら、来年にガンダム新作公開されるじゃん?

 近場で放映される映画館の話になってさ」

 

 横に座るセセリアの膝を平手で引っぱたき、ロウジがかわいらしく抗議を表明する。

 二人のやりとりを、向かいに一人座るハサウェイはにこにこと見守っていた。

 

「で、ロウジ1周年の時にプレゼントとわたしの対面、

 ダブルでサプライズするつもりだったってわけ」

「……まぁ、色々、わやなってもーたけど」

「……うん、たいへん良く理解いたしました」

 

 うん、やらかしたねこれは。思わず頬も赤らむ。

 説明をじっくり聞いた結果、ロウジは神妙な態度で二人に向き直った。

 

「……サプライズ、大騒ぎで台無し、ごめんなさい」

「こちらこそ、誤解させるようなやり方、ごめんね」

「そりゃビビるよ、マジしゃーなし」

 

 あらためて“デミダイバーズ”三人、揃って頭を下げあう。

 

『うん、誤解が解けたようで何より!』

 

 四人目の同席者、マリコが明るくまとめてくれた。

 もちろんリアルにいるわけではない。

 ロウジのスマホから音声だけでの参加だ。

 

「マリコさんもほんとにご迷惑をおかけしました」

 

『どんまい!

 若いときはなんでも経験よ。

 それじゃ、あとは若い子同士でのんびり楽しんじゃって!』

 

 お見合いの時みたいな台詞を残し、マリコが退席する。

 タイミングよく、店員さんが頼んだお菓子や料理を運んできてくれる。

 店員が退出したタイミングで、ロウジはリーダーっぽく場を仕切る。

 

「じゃあ、えっと。

 改めて、親睦を深めましょう。ってことで。

 ダイバーネームはロウジ……です。

 リアルネームは……」

 

 三人それぞれ、簡潔に自己紹介をしあった。

 

「弟が生まれたら、クロノって名付けられる予定だったんだってさ」

「なるほどVガンダム。

 すっごくかわいらしくて似合ってるよ」

 

 ハサウェイに褒められ、ロウジは顔を赤らめる。

 それはそれとして、ロウジ一家のトリビアをしれっとばらすセセリアは後でシメる!

 

「オフ会なんで、呼び方はダイバーネームで統一でいいよね?」

「おっけーハサウェイ、そゆことで」

「んじゃ、カラオケは交代で。

 最初は早いもの勝ちね。

 ボクいっちばーん!」

 

 セセリアがマイクを握って叫ぶ。

 ほんっと、抜け目がない!

 自己紹介しながら、しれっと選曲を決めていたらしい。

 

「ほんとにぃ?

 ちゃんとハサウェイに回すんだよ」

「うわぁん、ロウジがボクを信じてくれない!」

 

 わざとらしい大声でセセリアがおどける。

 ロウジは笑い、ハサウェイも口元を緩める。

 そして曲のイントロが流れ始める。

 

「アニメじゃない!

 アニメじゃない!

 ほんとのこっとさ〜」

「あんな痴話喧嘩、

 アニメでしか見たことなかったね」

「ハサウェイ、ひっどぉい!」

 

 ZZの主題歌”アニメじゃない”をセセリアが熱唱する。

 ハサウェイがシニカルに呟き、ロウジは思い切り噴き出す。

 知らん顔してオーバーアクションで歌うセセリアに笑いが加速する。

 ロウジは手を叩きながら、涙が出るほど笑い転げるのだった。

 

 

 

「いやー、笑いに笑った。

 カボチャ頭許すまじ。

 “閃光”はオレの番のはずだったのに!」

「セセリアの反省ダンス、

 カラオケの十八番なんだよねー」

 

 上品に笑うハサウェイの横で、ロウジはあっけらかんとわらう。

 ここはカラオケの個室から出たロビー、ドリンクバーコーナーだ。

 楽しい時間に頬を紅潮させ、ドリンクバーのボタンを押す。

 

「すごいねセセリア。

 まさか踊りを完コピしてるとか」

「運動神経バツグンだもん。

 ……ナイショだけど、歌はちょっとオンチだね」

 

 ハサウェイとロウジ、顔を見合わせてくすりと笑う。

 セセリアを個室に残し、女子二人連れ立ってクールダウンタイムだ。

 

「でも、銀色Horizonのデュエット、ノリノリだったじゃない」

「……いいじゃん。

 ハサウェイにセセリアとられてもやもやだったんだもん」

 

 嫉妬心丸出しのロウジの台詞に、ハサウェイがすんごい優しい顔で微笑む。

 しかしほんと今日は、びっくりの連続だ。

 ハサウェイとリアル並んでおしゃべりとか、思ってもみなかった。

 

「びっくりといえば……

 ハサウェイがこんな、お嬢様だなんてすっごい意外」

 

 炭酸飲料で喉をうるおしながら、ロウジは素直な呟きをもらす。

 なんとハサウェイ、中高一貫で大学も付属の超お嬢様校に通ってたそうだ。

 

「ははーん、さてはロウジ。

 もっとツンツンしたパンクでワルを予想してたね?」

「……えへ」

 

 意地悪い笑顔のハサウェイに、かわいく笑ってごまかす。

 シーマ様やキャラ・スーンとまではいかなくても、

 ノレアみたいなツンツンタイプだと思ってましたとも。

 

「うちや学校ではきちんと猫かぶってますのよ?」

「大丈夫?

 大事なところで舌打ちしたりしない?」

 

 ロウジの軽口に、ハサウェイが笑いながら頭をげんこつでぐりぐりしてくる。

 いたいいたい、ごめんなさい!

 謝ってなんとか事なきを得たあと、ロウジはそのまま部屋には戻らず、

 廊下でハサウェイとドリンク片手に立ち話を決め込んだ。

 

「じゃ、ハサウェイから見た、リアルのわたしは?」

「ロウジはさ、初対面の時はエネルギッシュな小型犬をイメージしてたんだ」

 

 ……はい、わんこみたいだってよく言われます。

 ロウジは恥ずかしそうにうつむく。

 

「でも、フォース入ってから見えた、内向きで繊細な顔からすると、

 大体イメージ通りの子だったかな」

 

 ウーロン茶片手に、ハサウェイが言う。

 うーん、やっぱりハサウェイ、偏差値高そう。

 セセリアといっしょにいたくて選んだから、ロウジが通うのはごく普通の公立校。

 やっぱり周りの環境で色々変わるものなのかもしれない。

 

「むしろ、すごくふんわりしたガーリーな雰囲気に驚いちゃったね。

 アムロ曰く『すごい……セセリアが熱中するわけだ!』ってヤツだ!」

 

 イヤミなく真正面から褒められ、ロウジは無言でうつむく。

 赤らむ頬を誤魔化すように炭酸飲料をストローですする。

 

「セセリアは身長以外、イメージそのまんまだったね。

 リアルでは一人称”俺”なんだ、ってぐらい」

「背ぇ高いよね。

 黙ってれば男前だと思う」

 

 視線を泳がせ、ロウジは小声でのろけてみせた。

 

「でも、しゃべってるセセリアの方が楽しいね。

 無神経そうにみえて、色々と細やかに気を使ってくれる」

 

 ……うん、そこが好きなの。

 ロウジは心で呟く。きっと今、顔真っ赤な気がする。

 セセリアをほめたたえるハサウェイを上目遣いに見上げ、ロウジはぼそりと呟く。

 

「……ハサウェイ。

 セセリアはあげないかんね」

 

 ハサウェイが目をまん丸に見開き、口元に手を当てた。

 すっごい優しい顔で微笑み、かがんで目線を合わせて来る。

 

「結婚式には呼んでよね」

「早すぎぃ!?」

 

 赤い彗星よりずっと早い!!!

 大慌てのロウジをみやり、ハサウェイがけらけらと明るく笑う。

 

「どっちかというとオレ、ロウジの方が欲しいかなー」

「ロウジはあげませーん」

「ひょわ!?」

 

 ハサウェイの言葉に、セセリアがいきなり割り込んできた。

 ロウジは慌てて声の方を見やる。

 ちょっと、どこから聞いてらっしゃいましたか?!

 

「もー。ボクひとりぼっちなんだもん。

 二人でいちゃいちゃ、やめてほしいな?」

「セセリアはロウジ独占禁止法違反です」

「セセリアのさびしんぼー」

 

 すねた顔のセセリアに、ハサウェイと顔を見合わせ、明るく笑う。

 カラオケ個室へのんびり戻りながら、ふと思った疑問を聞いてみる。

 

「そうだ、セセリア。

 ロウジ生誕一周年プレゼントさ。

 割とクリスマス直後だよね。

 嬉しいけど、きつくない?」

「ん-、まあ、きつくないとは言わないけどさ」

 

 セセリアがぷいとそっぽを向く。

 ハサウェイがすんっとそらっとぼけた顔で視線を逸らす。

 あ、これ、何かあるな。

 しかもハサウェイだけ理由知ってるやつ!

 

「な、ん、で?」

 

 個室に戻り、ハサウェイが向かい、セセリアが隣、また席へ戻る。

 他人の目がタイミングを見計らい、ロウジはにっこり笑ってセセリアの腕にしがみつく。

 秘技、話すまで離さないの構えだ。

 セセリアが小さく息を吐き、観念したように頬に手を当てる。

 

「……ほとんど、俺のわがままみたいなもんさ」

「アムロいわく『エゴだよ、それは』だったね」

 

 ハサウェイの茶化しに、ロウジが思わず噴き出す。

 セセリアも噴き出すのをこらえ、すっごい苦笑いになってる。

 

「ちょっとハサウェイ。

 アムロエミュやめよう?」

「ハサウェイはシャアの理想とアムロの情熱を受け継いだゆえに。

 ……アレ、逆だっけ?」

 

 話題をそらそうと必死なセセリアの腕をもう一度ぎゅっとし、じっと見上げる。

 セセリアはもう一度ため息を吐き、ようやく話しだしてくれた。

 

「ロウジがGBN始めて、すごくうれしかったんだ。

 それは本当、嘘じゃない」

 

 いつものおちゃらけとは別人みたいな真顔で、セセリアが語る。

 

「ロウジがガンプラ作りを再開して、うれしかった。

 ……それも、嘘じゃない。けどさ」

 

 初日、一緒に遊べなかったよね。

 茶化そうとして、ロウジは慌てて思いとどまる。

 

「師匠に……ロウジのお父さんにさ、

 作ったガンプラを否定されたこと、ずっとトラウマなってたよな。

 俺は知ってて、触れようとせず、ずっとそれをほっといたんだ」

 

 小さいころのトラウマの事を、セセリアに少しだけ話した事はあった。

 セセリアが、すっごい顔して何も言わなかったことだけを覚えてる。

 

「優しいエニルさんにロウジが救われて、ほんとに良かったよ。

 けどさ、俺は嫌だったんだ、ロウジの苦しみを俺が救えなかったことが。

 ロウジが苦しんでるなら、俺は救おうとするべきだったのに!」

「……君は、ずっとわたしをずっと救ってくれてたよ?」

 

 うん。セセリアが求めてる言葉は、そうじゃないよね。

 わかっていても、ロウジは言わざるを得なかった。

 ロウジの言葉にセセリアはゆっくりと横に首を振る。

 

「母さんにも”子供っぽいわがまま”って言われたよ。

 ハサウェイには、”独占欲みたいなもの”って言われた。

 俺もちょっとそうは思う」

 

 顔をくしゃくしゃにして、セセリアは語る。

 子供っぽいとセセリアが自虐する。

 けれどその顔は、いつもより遥かに大人っぽいとロウジは思った。

 

「……ロウジが救われて、良かったと思ってる。

 お父さんと仲直りできて、もっと良かった。

 けど、ロウジの苦しみに手を貸せなかったわだかまり、ずっと残ってた。

 だから、ロウジを祝って、すっきりしたかったんだよ。

 このプレゼントは、俺のなっさけないわがままさ」

 

 足元に置いたプレゼントの包みが、ずっしり存在感を増した気がする。

 たっぷりと込められた思いが、まるで目に見えるようになったみたい。

 

「……ね、開けていい?」

 

 静かにうなずくセセリアを見やり、無言で包みを開けていく。

 たぶんカップル用のペア、シルバーのブレスレットが1つずつ入っていた。

 あと、GBN用の課金チケットとアイテムコードだ。

 使った事はなかったけど、リアルのアイテムをアバターにも装着するようのものだろう。

 

「わぁ……!」

 

 たっぷりと注がれた想いが、ロウジの口から感動となって溢れる。

 頬が熱い。顔がにやつく。

 ぜったい今、わたし、すっごい顔!

 

「ちょっと早いけど、一周年おめでとう、ロウジ」

「いっしょに遊んでくれてありがと!」

 

 セセリアとハサウェイが、短い祝いの言葉を投げてくれる。

 わたしは、愛されていたんだ。

 ここにあることを、GBNにいることを。

 

「ありがとう、セセリア。

 ……ありがとう、ハサウェイ。

 サプライズ、ドジっちゃったけど、これからもよろしく!」

 

 胸からこぼれそうな感謝と愛そのままに、満面の笑顔でお礼の言葉を返す。

 頬が熱い、顔がにやけて止まらない。

 こんな素敵な祝福をもらえるだなんて、わたしはなんて幸福なんだろう。

 

「……はい、これ!

 わたし、今日つけて帰るから、君もつけて!」

 

 ブレスレットの一つを握りしめ、セセリアに押し付ける。

 あふれすぎた幸福感が、いたずらにロウジの背を押した。

 ロウジの機嫌が治り、明らかにセセリア、ほっとした顔だ。

 油断した様子でブレスレットを受け取るセセリアの腕をぐいと掴み、すっと腰を浮かして首を伸ばす。

 セセリアの頬目掛け、唇をそっと触れさせる。

 自然と目を閉じていた。わかったのは、唇に伝わるやわらかい感触だけ。

 

「……だいすきだよ」

 

 ぽかんと間抜けに大口開けたセセリアへ、そう呟くのが限界だった。

 顔と全身が真っ赤にヒートエンド!するのがわかる。

 セセリアがどんな顔してるのかも、もうわかったもんじゃない。

 

「はーい、お二人さん?」

 

 拍手と共に、ハサウェイがにこにこしながら声をかけてくる。

 からかうように笑みを浮かべながらも、時計をさしてハサウェイが言う。

 

「そろそろお時間ですよー。

 二人でシンデレラ・フォウしてないで、

 最後に一曲、皆でいこ!

 ロウジとセセリアはマイクいっしょね」

 

 水星の魔女の主題歌”祝福”が流れ始める。

 セセリアと二人顔を見合わせ、赤い顔しながらマイクをそっと握った。

 

「はるか遠くに、浮かぶ星を、

 想い眠りにつく君の」

「えらぶ未来が、望む道が」

「「どこへ続いていても

  ともに生きるから」」

 

 ノリノリで歌い出すハサウェイに続き、セセリアと二人、おそるおそる歌い始める。

 間奏に入り、セセリアを眺める。

 顔、真っ赤じゃん。吐く息までめっちゃ熱いかも!

 

「いちゃつかないの」

 

 からかうハサウェイの顔がとってもやさしい。

 ありがとう、ハサウェイ。

 この歌、とっても好きなんだ。

 不器用で未熟な誰かと、見守るやさしい誰かの歌。

 主人公のスレッタの行く末を心配しながらも、

 歌にセセリアと自分を重ね、感情移入をしたものだ。

 

「……ねぇ、セセリア、ハサウェイ。

 僕さ、二人に隠してることあるんだ」

「……うん、そうかなーとは思ってたよ」

 

 一番が終わり、間奏に入る。

 二番が始まるまでの間に、静かに二人に告白する。

 

「理由があって口止めされてるんでしょ?

 オレはともかく、セセリアに話さないなんて、

 だいじな理由があるに決まってるじゃん」

 

 やさしいハサウェイの言葉に、小さくうなずく。

 二番が始まり、歌が流れ出す。

 

「でも、やっぱり僕は二人にも共有したい。

 話していいか、相談してみるよ。

 だって、同じ“デミダイバーズ”で、たくさんいっしょに遊ぶ仲間だもん」

 

 えらい大人達がたくさん考えた判断だ。

 すごくだいじな理由があるのだろう。

 それでも、この想いだってけして小さなものじゃない。

 

「うん、待ってる」

「ダメでも怒らないからさ。

 ガウマンいわく、“やってみせなよ、ロウジ”!」

 

 セセリアが簡潔に言い放つ。

 ハサウェイが気取って声真似する。

 だいすき、二人とも。

 もう後は言葉はいらない。サビに入る歌を気持ちを込めて歌い上げる。

 

「「「めいっぱいの ああ 祝福をきみに」」」

 

 わたしが、きみが、あなたが。

 ここにあること、ここにいてくれること。

 今日の偶然に全ての感謝を込めて。

 ロウジは、そっと両の手を伸ばし、二人の掌を握り締めた。

 みんなに、平和と幸せがありますように。

 嗚呼、めいっぱいの祝福を、きみに。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・本作におけるガンダムベースとガンプラ事情

 

 リアルでは残念ながら関西地方にガンダムベースはない。

 実際に本作のガンダムベースの場所にあるのは某ホビーショップや本屋などである。

 だが、ガンプラとガンダム、そしてGBNが大規模な市民権を得ている本作において、

 ガンプラ販売ならびにガンプラ選手権、そしてGBN運営の拠点となるガンダムベースは各都道府県に存在しており、

 各拠点に腕自慢のガンプラビルダーやファイター達常連が存在している。

 ガンプラ事情もはるかに優遇されており、量産機は棚にあふれ、

 売り切れが心配されるのは人気の機体やマイナー機くらいである。

 最悪の場合、データからの3Dプリンター使用と言う手もある。

 ジェガンや新作量産機を気軽に買える世界になってほしいものである。

 

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