リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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いよいよ5話開始です!

ついに大物達が物語をちらっと登場します。
楽しいと同時に、持ち上げがひどくて気恥ずかしくもあります。

次回は3/23(日)19時予定です。
これだけむやみに持ち上げさせたのだから、
毎週何とか投稿して行けるよう頑張ります




第5話:仮面の父はガンプラが離せない
オープニングムービー:トップ・オブ・ガンプラバトル


 

 挑むは、はるかな高み。

 そこは自分が多くのものを切り捨ててなお届かぬ場所。

 それでもなお挑むと決めた。

 今日の自分は、挑戦者なのだ。

 モニターに映し出された敵影を見据え、“赤い彗星のひと”は心を奮い立たせるように呟く。

 

「索敵して早々に大物に出会うか。

 私は……運がいい!」

 

 なんと美しく恐ろしい相手だろう。

 愛機のコクピットモニターへ映る真紅のガンプラを睨み、“赤い彗星のひと”は感嘆する。

 ここはGBN内のバトルフィールド、グリプス2周辺宙域(0087)だ。

 仮面をつけたシャアそっくりのアバターの身体が、武者震いで小刻みに揺れる。

 

「シャギア、オルバ。

 私が仕掛ける。邪魔ものが入らぬよう頼む」

「了解、リーダー。

 行列整理は任せなよ」

「始まったらすぐ、物見遊山希望者が殺到するだろう。

 せいぜい5分が限度だ、手早くすることだ」

 

 手短に僚機へ周辺警戒と乱入者の迎撃を頼み、”赤い彗星の人”は今一度標的と定めたガンプラを見据える。

 激しいビームと実弾が飛び交う戦場を、その機体はまるで無人の野をゆくかのようだ。

 攻撃をかわし、返す刀で撃墜する。進む先に道が開き、進んだ跡に残るのは残骸のみ。

 赤い機体の残像だけを残し、悠然と標的がフィールドを闊歩する。

 相手にとって不足なし! 恐るべき敵機へ、“赤い彗星のひと”は通信で挑戦状を叩きつけた。

 

「三代目メイジン・カワグチ!

 貴公の時間をいただく!」

 

 愛機のスラスターを全開、遮蔽の影から飛び出し赤い敵機目掛けて突進する。

 ウェポントリガーを引き絞り、愛機の火器を続け様に猛射。

 同時に左手でキーボードをリズミカルに叩き、使用する武装を次々変更していく。

 ビームライフル、ビームキャノン、胸部メガ粒子砲、愛機の火器が敵機へ高密度の弾幕を放つ。

 だがまるで弾幕の隙間がどこにあるか知っているように、敵機は悠然とその攻撃の合間を抜けてきた。

 こちらの機動の先に置くように、反撃のビームが容赦なく飛んでくる。

 操縦桿をガチャつかせ、大きくAMBAC運動、致命的な反撃を辛うじてかわす。

 

「これが、ガンダム・アメイジング・シュバルゼッテか……!」

 

 モニターの敵機は、水星の魔女に出てくるジェターク社製ガンダムをベースに改造された機体だった。

 全身に真紅の塗装を丁寧にほどこされただけに見えるが、恐らく各部を細かく改造している。

 ざっと見だけでも姿勢制御のアポジモーターの増設、手首を保護するガントレットが追加されている。

 おそらく肩部と腕部に内蔵火器も仕込まれている。

 それでいて、機体全体のバランスが崩れたように見えない。 誰が見てもわかる恐るべき完成度だ。

 いったいどれほどの作り込みボーナスが機体性能を押し上げているか、考えるのも恐ろしい。

 

「濃密で不規則な弾幕、

 これぞベテランの味と言った猛攻だ。

 だが、この序盤で当たってやる訳にはいかない!」

「こちらとて、お情けの戦果が欲しいわけではない!」

 

 “赤い彗星のひと”は吠え、火器のコンビネーションと同時に愛機を突進させた。

 システム警告を無視し、迎撃のビームを装甲で強引に突破する。

 突き付けたライフルの銃口を避けようとする敵のどてっ腹目掛け、

 愛機の機体を捻り、鋭いキックを叩きこむ。

 衝撃音と共にモニターが揺れる。だが、手ごたえはあまりに軽い。

 

『おおーっと、鋭いキックが一閃!

 三代目メイジン、このバトル初めての被弾か!

 アメイジング・シュバルゼッテが大きく吹き飛ぶ!?

 ……いや違う、メイジンさすがの早業!

 攻撃に合わせて後ろへ飛び退り、衝撃を殺していた!」

 

 不意打ち気味の格闘にすら反応するか!

 真紅のシュバルゼッテはこちらの蹴りを両手武器の峰で受け止めてさえいた。

 響いた実況の声を聴きながら、”赤い彗星のひと”は舌を巻く。

 

「……見事!

 貴殿は片手間でさばける相手ではないとお見受けする。

 謹んで、アメイジングシュバルゼッテのお披露目に選ばせていただく!」

 

 三代目メイジンの高らかな叫びと共に、真紅のシュバルゼッテが大きく見得を切った。

 来る。メイジンの攻めだ……!

 ぞくりと”赤い彗星のひと”の全身を悪寒が駆け抜ける。

 

『おおーっと、三代目メイジンが愛機の剣を抜く!』

 

 真紅のシュバルゼッテが両手で保持する巨大な剣状ガンビットプラットフォーム、ガーディアンを正眼に構える。

 ギミックが展開し、真紅のガンプラが全身にまるで燃え上がるようにスラスターの噴射光をまとう。

 その姿はまるで、かつて魑魅魍魎蠢くガンプラ塾で”真紅の彗星”と呼ばれたユウキ・タツヤを思い出させた。

 

「勝負だ”赤い彗星のひと”

 その仮面の下の正体、この手で感じさせてもらおう!」

 

 心底から楽しげに、三代目メイジンが叫ぶ。

 観客を楽しませ、自らもバトルを楽しむ、それこそが三代目メイジンの掲げる理想。

 ここから見せるのは今のガンプラ界を双肩に背負った若く才木溢れる男が見せる本気の一端だ。

 

『メイジンの今度のお相手はバトル経歴まっさら、正体不明の仮面のダイバー!

フォース”GM-ARMS”所属、ダイバーネーム”赤い彗星のひと”……』

 

「観客ウケするほどの秘密など持ってはいない!」

 

 煽るメイジンと実況を相手に、”赤い彗星のひと”は叫ぶ。

 対してこちらはプロである事だけが自慢の、くたびれ切ったガンプラビルダーだ。

 暖かな家庭、理解者たる妻、全てを捨ててなお目指す高みへ届かず足踏みするような。

 しょせんは当て馬だ、勝利など微塵も期待はされまい。

 

「燃え上がれ、ガンプラ!」

 

『出た、三代目メイジンの決め台詞ーっ!』

 

 まるでモニターの中で真紅の爆発が起きたかのようだった。

 牽制のビームと並走するように真紅のシュバルゼッテが迫る。

 フェイントを一回、こちらの視界と意識の外から巨大な白兵武器が振るわれる。

 

「……三代目ぇ!

 観客が楽しむ前に終わるところだ!」

「貴殿がそれで終わるような薄っぺらな相手か!」

 

 辛うじて避けたのは、積み上げてきた経験のお陰だった。

 サーベルのつばぜり合いエフェクトが火花を散らし、牽制のビームがぶつかり合う。

 圧倒的なコンビネーションで攻め込む三代目メイジンの前に、こちらは防戦一方だ。

 あまりに苛烈な攻めだ。

 勝てる訳がない。”赤い彗星のひと”自身ですらそう思うほどの。

 

(勝つよ!

 だってパパのガンプラは、世界でいっちばんサイキョーでかっこいいガンプラだもの!)

 

 この場と世界でたった一人、勝利を信じる声がある。

 明鏡止水の境地などではない。

 それでも確かに一滴、心へ染み入る何かが見えた気がした。

 

「そのワザマエ、確かに覚えがある!

 さぞ名のあるビルダーとお見受けした!」

「私の正体など、どうでも良かろう!」

 

 真紅のシュバルゼッテの猛攻に、強引に増加装甲を潰す勢いで前に出る。

 ライフルが切り飛ばされた瞬間、肩口から強引に機体をぶつける。

 ゼロ距離で放たれた胸部メガ粒子砲の光が愛機と敵機の間で炸裂する。

 

「ここにいるのはたった一人の、父であるだけの男だ!」

 

 サーベルを引き抜き、ガーディアンへ叩きつける。

 勝機などあるものか。それでも挑む、遥かな高みに。

 たった一人、信じてくれる声のため。

 その背に信頼と憧れと乗せるたった一人の眼差しのために。

 

 

 

『おおーっと、攻める攻める!

 ”赤い彗星のひと”が三代目メイジン・カワグチを攻める!

 第七回迎春フラッグバトル、開幕から波乱の展開!』

 

 激しいどよめきと歓声が巻き起こる中、トロンの実況が響き渡る。

 1月の頭、今日は正月休みが明けてまたすぐの三連休だった。

 祈るように膝の上で両掌を組み合わせ、ロウジは眼前のモニターへ映し出されたバトルにただ見入っていた。

 赤と金色のガンプラが、輪郭すらぼやけるほどの速度で激しいバトルを繰り広げる。

 

『メイジンのシュバルゼッテの攻撃を装甲でしのぎ、

 ”赤い彗星のひと”が前のめりに攻める攻める!

 誰がこの展開を予想したでしょうか!』

 

 トロンの実況に、周囲のざわめきがうねりのように巻き上がる。

 ロウジが座る場所はGBNのバトルコロシアム、その観客席だ。

 座席はゆうに数万あるのに、そのほとんどが埋まっている。

 目的は今開催されている200対200の超大規模フラッグバトルを観戦するため。

 アバターのダイバー達が集まり、モニターへ映し出されるバトルに見入っている。

 

『ガンダム・アメイジング・シュバルゼッテは西軍フラッグ機!

 そしてもちろん三代目メイジンは総大将!

 これはまさかの番狂わせがあるのか……!?」

 

 煽る実況を聞きながら、ロウジの心の一部が冷静に呟く。

 メイジンは強い。番狂わせなどそう起るものじゃない。

 勝利は絶対条件、それがメイジンだ。

 それでも、まさか。

 モニターに映るバトルは、まさかが心をよぎるぐらい、熱い気迫に満ちていた。

 

「ねぇ、このバトルすごくない!?

 わたし、目で追うのがやっとなんだけど」

「そりゃそうですよ!

 この方こそトップオブガンプラ。

 全ガンプラビルダーの頂点にしてガンプラバトルの頂点の一角。

 三代目メイジン・カワグチです!」

 

 隣に座るマリコへ、ロウジは熱い語りをぶちまけた。

 アメイジング・ガンダム・シュバルゼッテ、なんてすごいガンプラだろう!

 ぱっと見るだけでその恐るべき作り込みと性能が肌で感じとれる。

 たとえぽんと手渡されても、ロウジにはとても使いこなせまい。

 これが最強のビルダーが、自分のバトルのために作った最強のガンプラだ。

 

「じゃあ、そのトップオブガンプラ……

 メイジンと互角にやってる相手さん、かなりすごいんじゃ!?」

「はい、パパはすごいです!

 ストイックで、ものすごく努力を重ねて、

 プロのビルダーとして、どれだけのガンプラを作り続けて来たか……」

 

 吐く言葉が空々しい。ロウジは唇を噛みしめる。

 パパが積み重ねた努力をロウジは知っている。

 だがそれでもなお届かないものがあることも知っている。

 重ねた努力が実を結ばず、苦しむパパもたくさん見た。

 

「パパさん、大金星あげちゃうんじゃ!?」

 

 マリコの明るい言葉に、ロウジは無言のまま表情を曇らせる。

 互角じゃない。パパと違い、メイジンにはどこか余裕がある。

 メイジンだって、努力はしてない訳がない。

 バトルを楽しむメイジンの仮面の下で、きっと同じように足掻いているはずだ。

 

「あそこは、楽しいだけじゃけして届かない場所……」

 

 きっと誰もがメイジンの勝利を疑わない。

 同じだけの努力があるなら、いったい何が勝利の天秤を傾けるのだろう。

 才能? 若さ? 皆の期待? 時の運?

 勝負とはなんて残酷なものなんだろう。

 それでも今、わたしだけは願わないといけない。

 祈るようにあわせた掌へ、ロウジは力と思いを込める。

 この場でたった一人でもいい。ロウジは懸命に声を張り上げる。

 

「……がんばって、パパ!」

 

 祈りは無力、されど無意味ではないはずだ。

 ロウジは固唾を飲んで、最高峰のガンプラバトルの行く末に見入るのだった。

 

 

 

「このガンダム・アメイジング・シュバルゼッテと互角にやりあう。

 貴殿のガンプラ、実に素晴らしい!」

 

 高らかに賞賛を投げかけるメイジンに対し、“赤い彗星のひと”は荒い呼吸を繰り返す。

 息一つ切らさぬまま、よくもぬけぬけと!

 

「この丁寧な塗り、フルスクラッチされた増加装甲、

 バランスの良い火器配置、バトルのため丹念に作り込まれたことが判る!」

 

 まったく、何が互角なものか。

 てらいのない賞賛も、”赤い彗星のひと”の言葉には響かない。

 これは相手に花を持たせるメイジン流のパフォーマンスだ。

 

「フルアーマー100式改をベースにオーヴェロンの要素をミックスしていると見た!」

「正解だ、三代目メイジン・カワグチ」

 

 ほぼ無傷の真紅のシュバルゼッテをモニターで眺めながら、愛機のパラメータを素早くチェック。

 Z時代のMSV、フルアーマー100式改をベースにした愛機は既にボロボロだった。

 出撃時は流麗なフォルムの美しい金色の装甲が自慢の機体だが、

 メイジンの的確な牽制攻撃によって装甲はところどころ黒ずみ、いたましい。

 各部のフルアーマーパーツに至っては無事な部位はなく、火器は軒並み大破している。

 

「装甲を生かした激しい攻めも実に見事!」

「それ以外、貴公に食らいつく手がないだけだ」

 

 まったく恐るべきは三代目メイジン・カワグチだ。

 “赤い彗星のひと”はかすかに目を細め、息を吐き出す。

 短い交戦でとことん思い知らされた。この男はやはり、今もはるか高みにいる。

 

「実に楽しいひとときだったよ、“赤い彗星のひと”

 だが、これはフラッグバトル。

 貴殿だけ相手にしている訳にはいかない」

「つれないことを言ってくれるな、三代目メイジン。

 貴公はけして届かぬはるかな高み。

 このめぐりあいはまさしく千載一遇!」

 

 メイジンにとっては1000分の1、数多あるバトルの一つに過ぎまい。

 だが、自分にとってはこれは願ってもない機会なのだ。

 

「たとえ届かぬ高みだろうと挑み続ける。

 ガンプラを作り続ける。

 それこそが、ガンプラビルダー!」

 

 鋭く言い放ち、”全身のフルアーマーをパージ。

 ”赤い彗星のひと”はコクピット内の保護カバーを叩き割り、ボタンを強く押し込む。

 はるかな高み、そのきざはしへ手を伸ばすのだ。

 

 ここで使わずして、何が切り札か!

 高みへ挑む。己の背を見せる、またとない機会!

 

 ”赤い彗星のひと”は喉も裂けんばかりに声を張り上げる。

 

「来ぉい、ダァァクウェイブ!」

「そのエフェクト……闇の皇帝ジークジオンだと!?」

 

 漆黒の不気味なエフェクトをまとい、サポートメカが馳せ参じる。

 駆けつけたサポートメカが分割され、変形し、アーマーパーツとして愛機に装着されていく。

 

「見るがいい、我が闇!

 そしておののけ、この機体の真の姿!」

「それが貴殿の切り札か!

 研ぎ澄まされたその牙、

 はたしてメイジンの牙城へ届き得るものか。

 刮目させていただく!」

 

 まるで少年のように溌溂と、メイジンが声を張り上げた。

 エンタメ重視のメイジンが、あえて攻めずに静観の構えをとる。

 けしてメイジンの油断ではない。

 相手の全力を引き出し、その上で叩き潰す。

 メイジンがショービジネスとしてのガンプラバトルのプロ中のプロである所以だ。

 

「これなるは諦観の盾!

 我が身にまとうは虚飾の鎧!

 手にせしは傲慢の剣!」

「オリジナル……闇の三種の神器!?

 リアルとSDを融合させようと言うのか!」

 

 100式ベースの金色の装甲が、闇に呑まれたように漆黒に塗り替わる。

 そこにファンタジックな鎧と巨大な盾、不気味な実体剣が装備されていく。

 エネルギーゲインが増幅され、パラメータが大きく跳ね上がる。

 

『ああっと、ここに来てメイジン周辺で大きな動き!

 メイジンと好勝負を繰り広げた“赤い彗星のひと”

 その機体がサポートメカと合体し、姿を大きく変える!』

 

【the-10O】

 

 モニターにメッセージのカットイン演出が閃く。

 待っていてくれたメイジンと観客へ向け、“赤い彗星のひと”は愛機をサンライズパースで大きく見得を切らせる。

 

「我こそは“暗愚王”

 ……その名はワン・ゼロ・オー!

 

 声も限りに“赤い彗星のひと”は虚勢を張る。

 己が非才たる諦観、己が増長せし虚飾、己が勝者たると確信せし傲慢。

 

「あまりにまばゆき光よ。

 我が闇の真髄、とくと味わえ!」

 

 心に荒れ狂う暗い思いを全てかき集め、圧倒的な光に挑む。

 ただそこに、メイジンへの憎悪だけはない。

 

「強壮なる闇よ!

 この三代目メイジン・カワグチ、

 全身全霊をもってお相手しよう!」

 

 ただ楽しげに、メイジンと真紅のシュバルゼッテが構える。

 

「紅蓮をまとえ、シュバルゼッテ!

 パーメットスコア……アメイジング!」

 

 圧倒的な赤い輝きが、シュバルゼッテより放たれる。

 高みに君臨し続けた男が背負う、圧倒的な期待と自信!

 まるでプラズマにぶち抜かれたようなプレッシャーだ。

 

「行列整理も限界だよ、兄さん、リーダー。

 外はメイジン目当てのファンでいっぱいだ!」

「オルバ、シャギア、あと3分、いや1分でいい、私に時間をくれ!」

「仕方あるまい、本物に劣るフェイク仲間のご要望だ!

 二線級の意地を見せつけたまえ、友よ!」

 

 自分は、仲間にも恵まれた。

 感謝を心に秘め、”赤い彗星のひと”は操縦桿のブーストボタンを押し込む。

 ワンゼロオーが弾けるように真紅のシュバルゼッテ目掛けて突進する。

 構えた剣と剣がぶつかりあい、光と闇のエフェクトがスパークした。

 

「見えるぞ、私にも敵が見える!」

 

 己を鼓舞するように叫び、“赤い彗星のひと”は苛烈に攻めを続ける。

 

「実に傲慢だな、”赤い彗星のひと”!

 これほどの力、これほどの想いを”闇”などと称するか!」

「誰よりも傲慢でいなければならぬメイジンがよくも言う!」

 

 バトルで必死に喰らい付きながら、主人公気取りで舌戦も続ける。

 激突のたびに装甲が千切れ飛び、武装がもがれ、四肢すら潰されていく。

 

「勇敢なる挑戦者に、心よりの敬意を!」

「勝者であり続ける男に、心よりの敬意を!」

 

 叫びと共に2機のガンプラが激突し、光と闇のスパークが視界を埋め尽くす。

 これは、はるかな高みへの何十回目の挑戦だった。

 幾度ぶつかり、砕け散ってきただろう。

 

「……残念だが、ここまでのようだ、

 偉大なる三代目メイジン・カワグチ」

 

 そして今日も、その手が栄光を掴み取ることはなかった。

 愛機は左肩から先と両ひざから先を喪失し、断面からは火花が飛び散っている。

 武装は手にした剣一本、爆発四散していないのが不思議な有様だった。

 

「……そのようだ。

 しびれを切らしての乱入、無粋とは言うまい」

 

 真紅のシュバルゼッテが、名残惜しそうに天頂方面ヘアイカメラを向ける。

 対してメイジンの機体は肩と腰のアーマー、右足首の先と武装を失っただけ。

 ガンダム・アメイジング・シュバルゼッテはまだまだ継戦能力を有している。

 

「メイジンを独り占めして赦されるほど、私は大物ではないからな」

 

 無念と悔恨を押し隠し、”赤い彗星のひと”は冗談めかして肩をすくめた。

 天頂方面で赤く巨大物体が赤く輝き、両翼方面には無数のスラスター光がまたたいている。

 時間切れだ。シャギアとオルバが突破され、参加者たちが戦場へと殺到してきていた。

 

「三代目メイジン、そして無名の凄腕ダイバー!

 素晴らしい戦いだった。

 だが、これは200対200のフラッグバトル。

 二人きりのバトルはいささか……マナー違反!

 ゆえに、受けるがいい。マナー違反に、”アクシズ落とし”!」

 

 濃ゆい顔のダイバー、キャプテン・ジオンの雄姿がカットインし、高らかな叫びが響き渡る。

 天頂から戦場目掛け、赤熱するアクシズがシュバルゼッテとワンゼロオー目掛けて降って来る。

 これがトップランカーの輝き、必殺技。

 何とも、派手なことだ。

 

「さらばだ、メイジン。

 必ず、次のメイジン杯にて」

「さらばだ、”赤い彗星のひと”

 熱いガンプラバトルだった!」

 

 アクシズの軌道から素早く離脱するシュバルゼッテを見送り、”赤い彗星のひと”は静かに息を吐き出す。

 最後まで堂々と、敗者らしく。

 こちらは、どうやら潮時のようだ。

 機体は限界、体力も集中力も限界をとうに超えている。

 押し寄せる巨大質量にガンプラが吹き飛び、モニターがブラックアウトする。

 敗者の矜持と言う虚飾で、”赤い彗星のひと”は最後の瞬間まで堂々と散ったのだった。

 

 

 

『参戦者の皆様、素晴らしいバトルをありがとうございました!

 そして観戦者の皆様、たくさんの声援ありがとうございます!

 新年早々、これほどのバトルに会えるとは実況冥利につきるというものです。

 それでは、また次回のイベントでお会いしましょう。

 See you soon!!』

 

 まるで夢のような時間だった。

 フラッグバトルが終わり、実況のトロンが中継の終了を告げる。

 まだ夢の中にいるように、足元がふわふわ落ち着かない。

 ロウジはバトルスタジアムの座席に腰かけ、エンディングが流れるモニターをぼうっと眺めていた。

 

「……アクシズすら武器として使うものなんだね、強いダイバーさん」

 

 マリコの呟きに、ロウジはようやく我に返る。

 周囲の観客席はもう人影はまばら、ほとんどが退出してしまっている。

 

「……でも、惜しかったね、ロウジくんのお父さん」

「……惜しくなんか、ないです」

 

 膝の上で拳を握りしめ、ロウジは噛みしめるように呟く。

 三代目メイジン・カワグチ。まさに圧倒的な強さだった。

 あれこそはガンプラバトルの頂点の一角なのだ。

 自分があそこに辿り着くには、いったいどれくらいかかるだろう。

 ふわふわとした思いが、熱となって心に伝わっていくのが判る。

 強く、なりたい。

 あんな風に、ガンプラバトルがしたい。

 早々にコロシアムから退出したダイバー達も、きっと同じ気持ちだったろう。

 

「マリコさん。

 付き添い、ありがとうございました」

「No problem

 とっても実りある時間だったわ」

 

 マリコさんに頭を下げ、時間を確認する。

 だいぶ待たせてしまった。そろそろ退出しないとシャットダウンされちゃう。

 

「ちょっとだけ、寄りたいところがあるんです。

 いいですか?」

 

 ロウジは申し訳なさそうに、マリコへと問いかける。

 熱い戦いを見せた闘士へ、言わなければならない事がある。

 

 

 

「やはりそうでしたか、先輩。

 道理で昔を思い出すバトルだったわけです」

「先輩はよしてくれ。

 今の事を思えば、かえって恐縮だ」

 

 通信越しに響く三代目メイジンの言葉に、”仮面の父”は苦笑をにじませた。

 同時に仮面の父がまとう仮初の姿、”赤い彗星のひと”のアバターが肩をすくめてみせる。

 ここはGBN、”GM-ARMS”のフォースネストに設置されたプレイルームだ。

 フラッグバトル終了後、三代目メイジンから個人宛の秘匿通信の希望があった。

 

「青春の日々はいつになっても、輝かしいものです。

 違いますか?」

「……そうだな。否定はすまい。

 挫折と敗北に満ちたあの日々すらも懐かしく思える時はある」

 

 三代目メイジンがまだユウキ・タツヤという少年だったころ、

 ”仮面の父”は二代目メイジンのガンプラ塾で同門だったことがある。

 とは言えおそらく、リアルで顔をあわせても、相手は名前を思い出せまい。

 三代目メイジンとして才能をまばゆく輝かせた男と比べれば、自分は路傍の石に過ぎない。

 

「それでは、お聞かせ願いたい。

 一体なぜ、あなたのような古強者が再びここに舞い戻られたのです?」

 

 知人や寮母どのの近況を尋ねあう世間話を五分ほど繰り返しただろうか。

 突如、三代目が真剣な声で切り込んできた。

 サングラスの下の眼差しは鋭く、こちらの反応を探っている。

 

「何か大きな動きでもありましたか?

 たとえば、四代目メイジン候補が決まった……」

 

 あまりの話題の大きさに、”仮面の父”は無言のまま指で眉間をもみほぐした。

 なるほど、急な通信だと思えばそう言う事か。

 どうやら自分は三代目によほど買いかぶられていたらしい。

 

「三代目メイジン。心配は杞憂だよ。

 私はシャア総帥ほど急ぎすぎもしなければ、

 GBNに絶望などしちゃいない」

 

 ”仮面の父”は口元を緩め、逆シャアのアムロの物まねをしてみせた。

 確かに昔は、二代目の信奉者が三代目メイジンのありように否定的だった。

 だが三代目メイジンを頂点としてもう10年が経つ。

 メイジンとしてのありように尊敬こそあれ、憎悪など抱けようはずもない。

 

「本当にただ、個人的な事情でここにいるだけだ。

 そう……娘がガンプラバトルを始めたんだ」

「それは……おめでとうございます!」

 

 後輩らしい態度で、メイジンが素直な祝福を述べる。

 

「是非、お手合わせいただきたい!」

「このガンプラバカめ!

 3年……いや、5年待ちなさい」

 

 むしろ、礼を言うのはこちらの方だ。

 ”楽しいガンプラバトル”を守り続けていたからこそ、子供達が手を伸ばしてくれる。

 

「見せてやりたくなったのだよ。

 三代目メイジン・カワグチと言う男を。

 そして、高みに挑む無謀な男の背中を」

「……なるほど、よくわかりました」

 

 訳知り顔でメイジンが深々とうなずく。

 

「二代目の教えの延長線上として作り上げたガンプラに、

 強いもう一つの想いを重ねたもの……それがあの機体なのですね!」

 

 顔を上げた時、そこにはメイジンではなく一人のガンプラバカがいた。

 この顔だ。昔からずっと変わらない。

 

「ワンゼロオーは私の経験に、娘の発想を乗せたものだ」

 

 ”仮面の父”は知らず目を細め、今ではメイジンと呼ばれる男と向き合う。

 ガンプラを愛し、ガンプラを愛するもの達を尊重し、全身全霊でぶつかり合うのだ、この男は。

 

「スペリオルドラゴンの力によってクワトロ・バジーナに転生した男が、

 グリプス戦役を生き抜くために作り上げた機体だ」

 

 てらいもなく、”仮面の父”はそう述べる。

 まったく、昔の自分ではとても考えられないような今風の設定だ。

 

「実に……アメイジング!

 昔のあなたとは全く違う方向性を、地道に積み上げた経験が裏打ちする。

 積載過多なまでに圧倒的な情報量を、完成したガンプラの完成度でぶん殴る。

 まさしく貴方だけのガンプラです」

 

 それでもきみには届かなかった。

 あまりにまっすぐな賛辞に、そんな自虐はあっという間に薄れていく。

 少年のように照れ笑いを浮かべ、“仮面の父”はメイジンへ問いかける。

 

「以前までの私には、けして作れなかっただろう。

 生まれ変わった私とワン・ゼロ・オーはどうだった?」

「二代目メイジン直系たるあなたとあなたのガンプラを評するに、

 この言葉は侮辱かもしれませんが……」

 

 サングラスの下で目を伏せ、三代目メイジン・カワグチが慎重に言葉を選ぶ。

 

「強さに関しては甲乙つけがたい。

 ですが、今日のあなたと戦うのは……とても楽しいものでした」

「最高の誉め言葉をありがとう、三代目」

 

 “赤い彗星のひと”のアバターが破顔し、”仮面の父”は大口を開けて笑う。

 “競技者と観客に楽しいガンプラバトルを”

 それが三代目の掲げるお題目だ。

 三代目からの”楽しい”という賞賛を貰えた。

 どうやら私は、少しはマシな背中をあの子に見せられたらしい。

 ひとしきり笑い終え、メッセージの着信に気付く。

 

「すまないメイジン、積もる話はここまでだ。

 どうやら愛娘が到着したらしい」

「おお、それは失敬!

 それでは部外者はお預けをくらいましょう。

 ……5年先を、楽しみにしています!」

 

 何年トップに居座るつもりだ、この男は。

 がんばれよ、メイジン。

 無言で笑みを浮かべ、“仮面の父”はエールを送る。

 

「パパ!」

 

 感傷に浸る間もなく、ドアの開閉音と共に元気な声が耳に飛び込んでくる。

 少年のアバターをまとった愛しい娘が、満面の笑顔で入り口へ立っていた。

 ロウジが大型犬のようにこちらへ駆け寄り、タックルするような勢いでとびついて来る。

 

「……こら。

 GBN内でパパはよしなさいと言ったろう」

「ごめんなさい!」

 

 ずしんとアバター越しに全身へ衝撃が走る。

 ロウジの小柄なアバターを軽く抱き寄せ、“仮面の父”は困ったような笑顔でたしなめる。

 とは言え、こちらにも負い目がある。

 自分は愛娘から、リアルでパパと甘える環境を奪ったのだから。

 

「200対200のフラッグバトル、楽しめたかな?」

 

 気持ちを切り替え、優しい声で問いかける。

 ロウジがGBNを始めて、そろそろ一年らしい。

 まだまだひよっこのロウジにとって、今回のフラッグバトルは未知の世界だったはずだ。

 強者はメイジンだけに留まらない。

 参加者は現在のガンプラバトルでトップ層を争うダイバー達ぞろいだ。

 

「すっごく、すごかった!

 まったく見たことない新作ガンプラ、どこかで見たこある有名ガンプラ!

 みんなすっごい作り込みで、すっごい腕前で!」

 

 あふれだす思いを、つたない言葉でロウジが表現する。

 仮面の父は愛娘の言葉に、笑顔で頷いて見せる。

 目を輝かせたロウジの満面の笑顔が、何よりも雄弁に物語っている。

 

「でも、パパのバトルが……一番、すごかった!」

 

 ロウジの端的な言葉が、心の一番深いところへゆっくり沈んでいく。

 

「めっちゃめちゃ強くて完成度の高いメイジンのガンプラ、

 格上相手になりふり構わず勝機をもぎとろうとする泥臭さ!

 いつかきっと“わたし”も今日のパパみたいなバトルをしてみせるから!」

 

 全てをかけて挑んでもなお、自分は頂きには届かなかった男だ。

 それなのに、愛娘は自分と同じようになりたいと言うのだ。

 そっと膝を曲げ、愛しい娘と目線の高さをあわせる。

 

「あそこは、ただ楽しいだけでは、けしてたどり着けない場所だ。

 それはわかるな?」

 

 ロウジの瞳を見つめ、“仮面の父”は真摯に語りかける。

 

「うん、知ってる……つもり。

 パパがものすごい頑張って、もがいて、苦しんでるのも。

 わからないけど、知ってはいるよ、わたし」

「……そうか。

 ならば、目指してみるといい。

 具体的な進路の人生設計は、母さんといっしょにな」

 

 かすかに口元を緩め、“仮面の父”は曲げていた膝を伸ばす。

 娘に自分のようになるななど言うつもりはない。

 他人の歩く道が自分そっくりになるなど、思い上がりもいいところだ。

 

「……うん!

 やれるところまで、やってみる」

 

 はにかむロウジを見やり、”仮面の父”はかすかにうなずく。

 自分と娘は別人だし、何よりとりまく環境が違う。

 自分には妻はいたが、セセリアはいない。

 どう歩こうと、娘は自分自身の道を進むことになる。

 

「苦しむこと、挫折すること、何かを成し遂げられないことも。

 全力で挑んだ結果であれば、けして恥ずかしいことではない。

 お前は望むまま、ただ飛んでみればいい」

 

 もちろん、成功者たりえる事がもっとも喜ばしい。

 ”仮面の父”は、請われれば愛娘へ助言くらいはしてやるつもりだ。

 

「うん、ありがとう、パパ!

 やってみるよ、二人で。

 わたし一人じゃ出来ない事だって、ロウジには……セセリアがいるもの」

 

 弾ける笑顔で断言され、”仮面の父”は少しばかり気難しい顔でうなった。

 私よりも彼相手の方がいい顔で笑うのだな、娘よ。

 

「……判った。師匠としてより一層厳しく指導をしよう」

 

 むろん、セセリアの事を”仮面の父”も昔からよく知っている。

 愛娘のそばにずっといてくれたことを、心から感謝したいとも思う。

 

「お、おてやわらかに。

 パパ、今でもすっごい厳しいでしょ?」

 

 だが、かわいい娘をやるには……まだ早い。

 

「愛娘を託す機体を作らせるのだ。

 指導の手を抜けるものか」

 

 親バカな嫉妬心を燃やし、仮面の父はにやりと宣言したのだった。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

 

・新春フラッグバトル

 

 200vs200で行われる、GBN最大規模のレイドバトルの一つ。

 派手なバトルが見られるとあって、バトルコロシアムの観戦席は毎年高倍率の抽選となる。

 今回、ロウジとマリコは関係者用招待席を特別に譲ってもらった。

 年に数回行われるうち、新春フラッグバトルは新年の旧成人の日に行われる。

 その日にちゆえ、リアル都合での辞退者がもっとも多く、参加難易度がもっとも低い。

 招待枠の上位陣と、一定ランク以上で応募出来る抽選枠があり、

 残念ながらロウジと“デミダイバーズ”は参加要件を満たしていない。

 “赤い彗星のひと”はほぼ新規アカウントのためランク外だが、エニルと交代でリザーバーとして参加した。

 フラッグ機が落とされたら敗北となるルールのレイドバトルだが、

 基本的にフラッグ機はガンプラバトル殿堂入りクラスのメイジン、チャンピオン、伝説のベテランクラスが務める。

 フラッグ機の無双ぶりもフラッグバトルの見どころの一つとなっている。

 

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