リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回は4/6(日)1900予定です。

新型機って、いいものですね。


ミッション5-2 それぞれが出来る事を探してみよう!

 悩み、落ち込み、心は惑う。

 でもGBNで操縦桿を握れば、いつだって心は天高く羽ばたく。

 ガンプラは自由だ。いつだって胸にあるスローガン。

 セセリアがくれた翼なら、今日はもっと高く飛べるはず。

 

「ようやくのお披露目だ。

 思う存分、暴れちゃうからね!」

 

 本当に、随分待った気がする。

 ガンプラのコクピットで、ロウジはゴキゲンに叫ぶ。

 MS格納コンテナの内部を映し出すモニターの片隅に、外から撮影された真新しい自機が映っている。

 そう、今日のロウジの愛機はデコトレーナーではない。

 

「行くよ、ルブリス・GK(ガーディアンナイト)!」

 

 これが、セセリアが作ってくれたロウジの新しい翼だ。

 ロウジが叫び、MS格納コンテナが左右に開く。

 駐機を解除され、自由になった白いガンプラで、ロウジはふわりと空へ舞い上がる。

 

「ウェポン、アーマー、ブースト、オールグリーン!」

 

 そのフォルムは以前のセセリアの愛機、ルブリス・ジェミニとどこか似ている。

 けど、額にはガンダムらしいブレードアンテナがあり、左腕に携行する大型シールドは独自成型だ。

 ジェミニとは違い、量産試作型ルブリスをベースじゃない。

 プロローグでエリクトとエルノラが搭乗したワンオフタイプのルブリスがベースなのだ。

 

「よし、フライトユニットも問題なし!

 ルブリス・GK、突貫作業の割に、何とか形にはなってるね」

 

 通信ウィンドウで、セセリアがほっとした顔で笑う。

 ルブリス・ジェミニと違い、今のルブリス・GKはあえて単座仕様らしい。

 今日のセセリアの定位置は、ロウジのガンプラハンガーに即席で作ったオペレーター席だった。

 

「ルブリス・GKの基本はフライトユニットでの飛行移動だよ。

 必要に応じてオフにすることで、ジャンプを駆使した三次元機動ももちろん可能だ。

 さぁロウジ、まずは操縦の感覚をつかもっか!」

「オッケー、任せて!」

 

 威勢よくロウジが叫び、ルブリス・GKが器用にアクロバット飛行を決める。

 ここはGBNの乱入不可バトルエリア、決闘エリア:荒野(水星の魔女)だ。

 あの熱いフラッグバトルから一週間後が過ぎた週末の夜。

 ロウジはセセリアと共に、新型機のテストに挑戦させてもらっていた。

 

「ほら、早速来たよ、高レベルCPU機!」

 

 セセリアの叫びと同時にアラート音が響き、モニターに複数の敵影が映る。

 ジェターク社の名機、黒いディランザ・ソルが3機。

 火器を構え、綺麗に隊列を組んでホバー走行で高速移動してくる。

 

「いよーっし、まずは火器のテストだ。

 手持ちのレシーバーガン!」

 

 新しい機体、新しい武装! 大はしゃぎのままロウジは操縦桿を握り締める。

 ロックオンカーソルがあうなりウェポントリガーを引き絞る。

 マシンガンのような速射タイプのビームが発射され、敵機目掛けて勢いよく降り注ぐ。

 狙いは右端のディランザ・ソル。

 ビームが肩口のシールドに着弾し、敵機がノックバックに足を止める。

 

「うん、ストッピングパワーと速射性、良好!」

 

 さっすがセセリア、好みよくわかってるじゃん。

 満面の笑みで、ロウジはセセリアへ笑いかける。

 

「油断しない!

 反撃くるよ」

 

 おおっといけない。ロウジが表情を引き締め、素早く操縦桿を切り返す。

 お返しとばかりに、3機のディランザ・ソルが手持ちの火器で弾幕を張ってきた。

 射撃硬直の解けたルブリス・GKが軽やかに反応し、スムーズな回避行動へ移る。

 

「操縦桿が……軽い!」

 

 なんて追従性の高さ! ルブリス・GKの身軽な動きに、ロウジは歓声をあげる。

 突撃しての近接戦大好きなロウジは、小回りの利く機動性はかなりうれしいポイントだ。

 大はしゃぎするロウジが乗り移ったように、ルブリス・GKがジグザグ軌道で空を舞う。

 

「ぱーふぇくとにイメージ通り!

 機体の反応、サイッコーだよ、セセリア!」

 

 ビームを牽制にばらまき、フライトモードをカット。

 ルブリス・GKが飛行移動から自由落下へ移る。

 狙いはそのまま、最初に一撃入れたディランザ・ソル!

 迎撃に打ち上げるビームを掻い潜り、白兵距離へ飛び込む。

 ライフルを構えた敵機の腕を蹴りつけ、体勢を崩したところへレシーバーガンを突きつける。

 ビームの猛射が頭部へ突き刺さり、爆発。

 重装甲だってものともしない威力!

 ディランザ・ソルが仰向けに倒れ、動かなくなる。

 

「まず、一ぉつ!」

 

 上機嫌のロウジをどやしつけるように、アラートが鳴る。

 真後ろに残る2機のディランザ・ソルが展開し、連携しての射撃体勢をとっている。

 

「……ロウジ、ガンビットだ!」

「ガンビット、防御!」

 

 セセリアの警告とほぼ同時、ロウジが鋭く叫ぶ。

 真後ろのディランザ・ソルからビームが斉射され、ルブリス・GKへと双方向から迫る。

 被弾すればただでは済まないはずの強力なビームが、被弾の直前、霧散する。

 宙に浮かぶガンビット……バリアを張り、ビームを弾くビットステイヴの仕業だ。

 

「ビットステイヴ、想定通り。ナイスだよロウジ!」

「ひゃあ、すっごい!

 まるで主人公機の装備じゃん」

 

 にやりと笑い、ロウジは素早く操縦桿を切り返す。

 ルブリス・GKがクイックターン、猛然と真後ろのディランザ・ソル目掛け突進する。

 

「ガンビット、そのまま防御!」

 

 防御を命じられた7基のビットステイヴが迎撃のビームライフルを悠然と受け止める。

 真正面から最短距離でルブリス・GKはディランザ・ソルの至近距離へ潜り込む。

 

「……二ぁつ!」

 

 肩からの体当たりでシールドを弾き、左手で抜き放ったサーベルを敵機へ突きこむ。

 ロウジお得意のコンビネーションで、ディランザ・ソルのコクピットを貫く。

 

「いくら高難度CPUだって、この前の無人機と比べたら……!」

「ったりまえじゃん。

 ロウジなら出来て当然でしょ」

 

 完全に敵機を見下ろしてロウジは叫ぶ。

 通信ウィンドウのセセリアが笑って肯定してくれた。

 

「ロウジ、余裕みたいだし、

 ビットステイヴの他の機能もテストよろしく」

「おっけーセセリア。

 ルブリス、ビットオンフォーム!」

 

 ビットステイヴがルブリス・GKの背面へ素早く集い、ハードポイントへ装着されていく。

 大型の手持ち盾、空中の防御用ビット、装着して高機動ブースター。

 水星の魔女で主役機エアリアルが見せた、変幻自在の機能がビットステイヴの強みだ。

 機構は複雑で、どっちかと言えばロウジの苦手分野だけど、

 事前にパターンを登録しておいてなら、ロウジだって使い分けるぐらいならきっと大丈夫。

 

「そしてぇ……ガンビットライフル!」

 

 ルブリスが保持するレシーバーガンへ残る2基のビットステイヴが装着され、大型ライフルへ変形する。

 

「これで……トドメ!」

 

 ホバー移動で距離を詰めるディランザ・ソルに対し、ロウジは余裕を持ってブーストを押し込む。

 背面のガンビットスラスターが有機的に動き、ルブリス・GKをふわりと飛び退らせる。

 うーん、まるで牛若丸。なんて軽やかな動き!

 正確な狙いで撃ち込まれる敵機のビームを、スラスターの軽い噴射でひょいひょいと軽やかに避けていく。

 

「すごいよ……セセリア。

 エニルさんのガンプラにだって負けてない!」

 

 満面の笑みのまま、ロウジが勢いよく操縦桿を押し込む。

 頭上を飛び越えるような勢いで、ルブリス・GKが空からディランザ・ソルへの間合いを詰める。

 迎撃のビームへ華麗にAMBAC機動、身をひねって避ける。

 そのまま落下軌道、敵機を飛び越え、真後ろへと落ちてゆく。

 

「……はい、ズドン!」

 

 会心の一発! ビームの奔流がディランザ・ソルを呑み込み、吹き飛ばす。

 頭から下に落下する軌道で敵機の頭上を軽やかに飛び越え、

 そのまま背後からガンビットライフルを撃ち込んだのだ。

 くるりと身体をひねって猫みたいに着地、ルブリス・GKが残身をとる。

 

「ルブリス・GK、すっごい。

 さっすがセセリアのガンプラ!」

 

 モニター越しのセセリアへカメラ目線でにんまり、とびっきりの笑顔でVサイン。

 ここまでは百点満点!

 きっとこのルブリス・GKならν-ジオンガンダムにだってもっといい勝負出来たはず!

 

「さすがは、初運用でそこまで動けるキミの方さ。

 でもロウジ、ここからが難関だよ。

 強敵相手の反応チェック、よろしく!」

 

 うん、そうだね。格下相手のバトルと、格上相手じゃ全然違う。

 セセリアの言葉にやや遅れ、マップ奥にレーダー反応が出現する。

 

『KP001、グエル・ジェターク、ダリルバルデ、出る!』

 

「いよーっし、この勢いで“最強グエル”に挑戦だ!」

 

 “最強グエル”……以前“デミダイバーズ”のトリオで挑んだ時はボロ負けだった。

 強敵を相手に、ランラン調子でロウジは意気込む。

 

「ふふ、新型機ってごほうび、大正解じゃん。

 突貫作業で仕上げた甲斐があったね」

「へっへー、ゴキゲンさ。

 ありがとね、セセリア!」

 

 鼻息荒いロウジをたしなめるように、セセリアが笑う。

 

「泣きながら電話かけてくるもんだから、心配したんだぞ?」

「……先日は、ご心配おかけいたしました」

 

 先日のフラッグバトルの直後、マリコさんとのやり取りの直後だ。

 悲しみを抱えきれず、ロウジはたまらずセセリアに電話をかけた。

 色んな人に抱えたものをぶちまけ、相談を持ち掛けた。

 今日のセセリアからの“ごほうび”のおかげもあって、精神状態はだいぶ落ち着いたと思う。

 

「さ、ファイトだよ、ロウジ。

 ボクらの真価が試されるのはこの先だ!」

「任せて、セセリア。

 このルブリス・GKなら、ソロ撃破だって!」

 

 セセリアの激励を受け、ロウジは気合を入れ直す。

 コンディションは不十分。でもこのままの勢いで、どかーんと大金星いけるかも!

 だがやはり、快進撃はここまでだったのである。

 

 

 

 ま、世の中そんなに甘くないよね。

 手元のモニターでリプレイ映像を眺め、セセリアは嘆息する。

 ロウジが機体には不慣れ、突貫で仕上げたガンプラの調整は不十分。

 そんな状態で挑んだ最強グエルは散々な結果だったのである。

 

「ガンビット、防御ぉ!」

 

 健気にバリアを張るビットステイヴの防御を、ダリルバルデのドローン操作のアームが吹き飛ばす。

 すかさず突進したダリルバルデが、ビームジャベリンをまっすぐに突きこむ。

 ビームの刃をコクピットに突き立てられ、ルブリス・GKが完全に動きを止める。

 完璧な連携、ほれぼれするフィニッシュムーブだ。

 

『ガンダムなんて……もう乗るな』

 

 AIグエルによる特殊台詞を聞きながら、セセリアは視線をモニターから外す。

 時は先ほどのバトル終了後、ここはロウジのガンプラハンガーだ。

 ロウジと言えば、先ほど大破状態で戻ってきたルブリス・GKのコクピットにこもったままだ。

 さてさて、お姫様の様子はどんなものだろう。

 

「うわぁん、ボロ負けぇ!」

 

 ルブリス・GKのコクピットから顔をひょっこり覗かせ、ロウジが嘆いた。

 あ、なるほど。そっちの方のテンションね。

 笑いながらセセリアはロウジへ労いの声をかける。

 

「うん……まぁ、なるべくしてなったって感じだね」

「うにゅー、それでも、もうちょっとやりようあったと思う」

 

 とぼとぼした足取りでロウジがキャットウォークへ渡ってくる。

 ロウジを抱き留め、セセリアは背中をぽんぽんと叩いてやる。

 

「それじゃ、次に生かすための反省会だ。手早くやるよ」

「ううう、前半はいい感じだったのにー」

 

 ロウジは嘆くが、セセリアにとってはある意味予想通りの展開だった。

 機体に不慣れなロウジが、テストのつもりで初手に悪手を打ってしまったのだ。

 突貫作業のガンプラゆえに手札不足で、傾いた勝敗の天秤を戻すことが出来ない。

 敗北は、当然の帰結だった。

 

「やっぱ、ファンネル機体は苦手だね、ロウジ。

 ビットステイヴ操作で連携攻撃仕掛けようとしたとき、

 ビット側に集中しすぎて本体が棒立ちだったよ」

 

 ロウジをゆっくり椅子に腰かけさせてやりながら、セセリアは映像を呼び出し、解説する。

 何かに集中すると、他がおろそかになる。

 マルチタスクが苦手なロウジの明確な弱点だった。

 

「せ、成長した僕ならいけるはず!

 ……って思ったんだもん」

 

 しょんぼりモードでロウジが力なく言い訳する。

 ロウジ自身も明確にミスとわかっている。

 だから焦るし、テンションも落ちる。

 

「テンション落ちた時、そのままガタッと行っちゃったね。

 いつもならもっとしぶとく粘れるけど、機体に不慣れだもんね。

 ルブリス・GKの動きを身体で覚えれば、そこは対処出来ると思う」

 

 ロウジは気持ちのノリが明確に強さへ直結するタイプだ。

 ミスして調子を崩し、そのまま持ち直せずに押し切られてしまった。

 

「短所を克服するのも大事だけど、しばらくはお預けだね。

 ビットステイヴによる射撃はオートによる牽制のみに限定で」

「はーい」

 

 一応、ファンネル系武装はオートでの攻撃もしてくれる。

 ただ、これがオートだとほんとに適当な射撃ばっかりなのだ。

 本体の方でうまく連携をとるか、ファンネルも同時操作を行うかしかない。

 同じエースタイプのプルツーなんかは、ファンネルとの連携が抜群にうまい。

 セセリアも割と得意な方だが、ロウジは正直、そこがてんでダメだ。

 

「ビットオンフォームの機動力に振り回されてる感じもなかったし。

 ビットステイヴに防御を任せた近接ごり押しは良かったね。

 当面はこっちを生かす形でいこう。

 ビットステイブの防御限界を把握して、必要に応じてシールドと使い分けて」

「……うん、わかった。

 次はきっとうまくやってみせるから」

 

 ロウジが素直にうなずき、唇を尖らせる。

 そのぼさぼさ頭をわしゃわしゃ撫で、セセリアは優しい声で言う。

 

「今日はテスト、問題点の洗い出しが目的だよ。

 ロウジはいっぱい転ばなきゃ覚えないタイプだからね。

 がんば! 次のロウジはきっとうまくやるさ」

「うん。がんばる……」

 

 寝言のように繰り返し、ロウジのアバターがハロへ姿を変える。

 AFKマークが点灯、離席モードだ。多分顔を洗って飲み物でも取りに行ったのだろう。

 

「お疲れ、セセリアちゃん。

 新機体、コンテストのガンプラの発展形ちゃうんやな」

 

 拍手の声に、セセリアは慌てて背後へ振り返る。

 続いて笑いを含んだ労いの声が響く。

 秘書姿のセセリアのアバターが、へらへら笑いながらこちらへと手を振っていた。

 

「エセリアパイセン!

 ……じゃなかった、エセリア先生」

 

 セセリアはオペレーター席から立ち上がり、直立不動の姿勢を取る。

 ガンプラ心形流を修めるプロのガンプラビルダー、エセリアである。

 いつ会っても、鏡を見てるみたいにそっくりだ。

 

「今回はごソクローいただきカタジケありません」

「なんかエラいバグったみたいな敬語なっとるで。

 ええよええよ、気楽にいこや」

 

 寛大なお言葉だが、セセリアとしてはなかなか気楽にとはいかない。

 エセリアは、セセリアがガンプラの腕前で師匠と並んで尊敬するビルダーなのだ。

 ああ良かった。このタイミングなら多分バトルは見られてないぞ。

 

「そいで、なんや。

 二人して、マリコちゃんについて相談があるんやって?」

「はい。ロウジってば

 マリコさんにめちゃめちゃ入れ込んでるんですよ」

 

 ギャン泣きしながら電話してきたロウジの事を思い出し、セセリアは肩をすくめる。

 マリコさんが可哀想だ、ご家族が可哀想だ。なんとか再会させてあげたい。

 ぐずつきながらロウジは長々とそう語ったものだ。

 

「……気持ちはわかりますけど、

 ボクじゃちょっとどうにも出来ないっぽくて」

 

 セセリアも今では、マリコの事情は知っている。

 去年のクリスマスの後、ロウジが大人達やマリコに頼みこんだらしい。

 今ではセセリアとハサウェイも、マリコが”異邦人”だと知っている。

 

「なんやセセリアちゃん、美人のおねーさん相手に随分厳しいな」

「ボクは一応、ロウジファーストなんで。

 ……っていうか師匠のガンプラ修行で、割とキャパオーバーなんですよ!」

 

 からかうようなエセリアの言葉に、セセリアは軽く抗議する。

 しょせん自分はロウジの幼馴染なだけの一学生、身の程は知っているつもりだ。

 もちろんセセリアだってマリコの境遇に同情するし、共感もする。

 でも、ロウジがマリコさんに特大の共感を示すからと言って、セセリアが引きずられる訳にはいかない。

 

「それでウチに白羽の矢を立てた、と。

 しかしセセリアちゃん、よーウチがマリコちゃん付きになったって知っとったな?」

「エニルさんに推薦してもらったんです。

 エセリアパイセンも事情を知ってるって」

 

 まず頼れる大人として、セセリアはロウジと共にエニルに相談した。

 エニルも頭を抱え、もしかしたらと名前を出したのがエセリアだった。

 

「ほう、エニルはんがウチを?」

「豊富な知識と柔軟な発想をもっている。

 エセリアパイセンなら……って言ってました!」

 

 まだハロでAFKモードのロウジへ、セセリアは優しい眼差しを向ける。

 ロウジの悩みを、自分が解決したい気持ちだってないわけじゃない。

 去年のクリスマスまで、ずっともやついていた事もある。

 けれど自分が手の届かないことなら、誰かに頼るべきだ。

 抱えていたわだかまりがクリスマスに解消した今なら、素直にセセリアはそう思えた。

 

「だから……エセリアパイセン。

 ロウジをよろしくお願いします」

「他ならぬセセリアちゃんの頼みや、ウチに任しとき!

 エニルはん推薦やったら気合入れんとな」

 

 上機嫌に、エセリアがにやける。

 まったくもー、美人さんに褒められるとすぐ調子乗るんだから。

 そっくりのアバターが自分そっくりの反応をする。セセリアはこっそり苦笑した。

 

「ただいま、セセリア!

 ……って、あれ、エセリアさんもう来てる!?」

 

 柔らかな音が響き、ロウジが人型アバターを取り戻した。

 戻るなり大声を張り上げ、ロウジが視線を巡らせエセリアに気づく。

 ワタワタしながら勢いよくお辞儀するロウジを、セセリアは笑いながら見守る。

 

「いよう、ロウジくん。

 せっかくやしバトル、見させてもろとったんや」

「ぴゃー!? ボロ負けバトルは見ないでください!」

 

 ロウジが情けない悲鳴をあげる横で、セセリアも笑いを引っ込め、背筋を伸ばす。

 けして手を抜いたガンプラのつもりはない。

 だが、ルブリス・GKは、突貫で使えるようにした機体、まだこれからのガンプラなのだ。

 

「ガンプラ心形流師範の目から見て、どーです?

 セセリアの作ったルブリス・GK(ガーディアンナイト)!」

 

 そんな気も知らず、ロウジが無邪気にエセリアへ問う。

 エセリアが厳しい眼差しでこちらを見やり、ふっと苦笑する。

 

「……まぁ、悪くはないんちゃうか」

 

 うっわぁめちゃくちゃオブラートに包んだ評価!

 

「ま、ロウジくんの腕前の進化も、

 セセリアちゃんの新作ガンプラの出来栄えも、

 今日のところの評価は保留やな」

「え!? どーゆーことなんですか?」

 

 エセリアがにやりと笑い、見透かすような視線をセセリアへ向ける。

 

「だってアレ、未完成やろ?

 機体はほとんどワンオフタイプのルブリス、素のまんまやん」

「え、そうなのセセリア!?」

 

 驚いた顔でロウジが見てくる。

 そう、運動性や機動性重視で各種パラメータを調整しただけで、武装はほぼそのまま。

 ロウジの機体慣熟訓練用とごほうびに、突貫で仕上げた状態なのである。

 

「外見上の差異はマニピュレーター保護用のガントレットに、各部に増設されたハードポイントぐらいやろか。

 明らかにこの先があるっちゅー作りやで」

「うーんさすが、おみそれいたしました!」

 

 おどけた仕草で両手をあげ、セセリアは心からの敬意と共に笑みを浮かべる。

 さすがガンプラ心形流、見る目は確かだ。

 

「コンテストに出したルブリス、荒削りやけど悪くない出来やった。

 でもそこで同じ量産試作型ルブリスじゃなくあえてワンオフのルブリスを選んだ。

 キミも何か思うところあるんやろ?」

 

 エセリアとロウジ、二対の瞳がセセリアを見つめる。

 小さく息を吸って吐いて、セセリアはまっすぐな決意を口にする。

 

「だって今から作るこの機体は、

 どこにでもいる量産型な誰かじゃない。

 世界でたった一人、大切なヒトに送るガンプラですから!」

 

 すっと背筋を伸ばし、セセリアは言う。

 うーん、頬が熱い。顔真っ赤じゃんこれ!

 

「はっは、言うなぁ!

 そりゃこの機体へかかりきりになるわけや」

「だから、ロウジ。

 エセリアパイセンへの相談はキミに任せる。

 出来るよね?」

 

 エセリアが笑いながらバシバシ背中を叩いてくる。

 いたい! 苦笑いしながらロウジに向き直り、真面目に告げる。

 

「ちゃんと予習したからだいじょーぶ!

 セセリアこそ、僕がいないからって寂しがらないでよ?」

「あー、言ったなこいつぅ!」

 

 ナマイキロウジの頬を指でぷにぷにつっつき、セセリアは笑う。

 

「……それじゃ、エセリア先生。

 ナマイキざかりのロウジですが、よろしくお願いします」

「完成したら教えてな。

 趣味機体でよければガチのテストバトルしたるさかい」

 

 願ってもない申し出だ。

 繰り返し頭を下げ、セセリアはGBNを退出した。

 

 ギアバイザーを外し、ダイバーギアにセットされたルブリス・GKの実機を作業机に移動させる。

 作業机には、色塗り前のアーマーパーツがばらばらのまま放置されていた。

 ノートに書いた完成図ラフと、ツールでブラッシュアップした完成予想図を睨み、試算する。

 

「……完成図は見えてる。

 後は色塗りと作業と、完成後の調整だけ。

 間に合わせるんだ、明日のイベントまでに!」

 

 セセリアは一人静かに、力強く宣言する。

 世界でたった一人、大切な人のため。

 ロウジが思うままはばたくための翼を、自分が完成させるのだ。

 

 

 

 物覚えのいい素直な後輩ほど、教えていて楽しい相手はない。

 利点が先輩風を吹かせるだけであっても、構ってやりたくなるものだ。

 

「よしよし、いい感じやで、ロウジくん。

 弾速の遅いミサイルや実弾兵器ならそのテクニック、実用できそうやな」

「は、はい、どんと来いです!」

 

 何もない宇宙空間で、ロウジのルブリス・GKが大型シールドを構える。

 本題前の雑談シーンで話が膨らみ、話題が盛大に横道にそれた。

 エセリアは一つ、ロウジへ言語化して伝えてやりたいバトルのテクニックに気付いたのだ。

 愛機のコクピットでにやりと笑い、エセリアは操縦桿を握りしめる。

 

「ほな仕上げや、一番ごっついやついくで?」

 

 実際、大したものや。エセリアは内心で賞賛する。

 普通ならとっくに爆散するぐらい攻撃を撃ち込んでも、ルブリス・GKは五体満足でいた。

 手元のキーボードを叩き、エセリアは愛機の武装を素早く切り替える。

 

「ガンビットライフル、砲撃モードや!」

 

 ここはGBNのバトルフィールド、宇宙(トレーニングモード)だ。

 エセリアの叫びと共に、展開していた11基のビットステイヴが手元のライフルへと合体していく。

 水星の魔女2期目でガンダムエアリアルが見せた超火力の砲撃形態だ。

 エセリアは愛機に砲撃姿勢をとらせ、ルブリス・GKへと照準を合わせる。

 

「ひぃぃぃ、すっごいエネルギー反応!」

「避けたらアカンで!

 攻撃を受け止め、逸らす事を意識するんや」

 

 万全の姿勢で待ち構えるルブリス・GKをターゲットサイトの中央で確認し、

 エセリアは砲撃姿勢のまま、ゆっくりとカウントを始める。

 

「3.2.1……ファイア!」

 

 引き絞ったトリガーに、猛烈な振動とノックバックが襲い掛かる。

 ガンビットライフルから放たれた閃光が光度を落としたモニターを真っ白に埋め尽くす。

 光の奔流がまっすぐに伸び、ルブリス・GKが構えた大型シールドへと着弾する。

 ほんの一瞬、盾と破壊の閃光が拮抗し、弾ける。

 光の奔流がルブリス・GKを呑み込んだ。

 

「戦略兵器をまともに受けた。

 さぁ、どないや?」

 

 愛機にガンビットライフルを構えさせ、エセリアは油断なく前方を睨む。

 閃光が消えたモニターには、機影が一つ。

 左腕を喪失し、全身をビームで焦げ付かせた無惨な姿ながら、

 右腕と武装を保持したままのルブリス・GKの姿がそこにあった。

 

「耐えた……耐えましたよ、エセリアさん。

 すごいよセセリア……」

「ひゅー、ロウジくん。

 及第点や、ご立派!

 ほな、実技はこのぐらいにしとこか」

 

 へったくそな口笛を吹きながら、エセリアはトレーニングモードを終了した。

 実技が終われば、次は座学。

 リアル休憩を挟み、エセリアはロウジとガンプラハンガーで向かい合った。

 

「てな訳で、実際にテクニックを体験して貰った訳やけど。

 実技の体験で何か疑問点なんかあるかいな?

「はい、エセリアさん!」

 

 ロウジが勢いよく挙手し、ガンプラハンガーの一角を指さした。

 

「エセリアさんの機体について詳しく教えてください!」

「そっちかい!」

 

 反射的にツッコミを入れながらも、エセリアは笑ってモニターに映像資料を出す。

 たっぷりと資料はある。何せ今回の機体の原型は、エセリア自身が開発、販売に関わったものだ。

 

「フィギュアライズスタンダードシリーズ、絶賛発売中、”マジカルセセリア”ちゃん。

 それを改造した機体……マジカルセセリア・健全モードや!」

 

 それは、とてもガンプラとは思えないような機体だった。

 まるで水星の魔女のセセリアをそのままHGのガンプラサイズに巨人化させたかのようだ。

 そのセセリアが、ガンプラの装甲や武装を鎧のようにまとっている。

 いわゆる美少女プラモと呼ばれる特殊なプラモであり、

 なんとこのシリーズ、ガンプラとしてGBNでも使用可能なのである。

 

「あ、マジカルセセリア、クリスマスにお迎えしましたよ。

 セセリアからも好評です!」

「ロウジくんてば、ええこやな……」

 

 まいどあり。エセリアは両手でロウジを拝む姿勢をとる。

 この原型機、マジカルセセリアちゃんはエセリアが直接デザインした機体なのだ。

 売れるたびにロイヤリティとしていくばくかの額が懐に入ってくるのである。

 

「マジカルセセリア、戦闘を第一としていないファンプラですよね?

 その素体を改造し、ウルトラデストロイ並の火力を持たせる。

 ガンプラ心形流、恐るべし……!」

「ま、ゆーても耐久性他で色々無茶してるけどな。

 体験してもろた通り、火力に関しては折り紙付きや」

 

 尊敬の眼差しが気持ちええわ。

 いかんいかん、際限なく調子に乗ってしまいそうなるな。

 お調子者の自分を戒めながら、エセリアはきりりと真面目な顔でロウジに向き直った。

 

「よし、実技の振り返りに話戻そか。

 その自慢の火力をロウジくんはひたすらに受けてもらった訳やけど、

 同じ攻撃でも、被弾の仕方によってガンプラのダメージはまるで違うねん」

 

 秘書モードに着替え、映像資料を示しながらエセリアは解説する。

 ロウジのデコトレーナーとνージオンガンダムの戦闘映像をコマ送りで表示する。

 今回の起点は、νージオンガンダムが鉄壁過ぎたというロウジの嘆きから始まった。

 

「な、見てみ。不動のように見えて、νージオンガンダムが細かく動いてるやろ?

 能動的に防御行動を取り、被弾のダメージを減らす。

 これが上位ランカー達が得意とするテクニック、“エレガント防御”やねん」

「え、エレガント???」

 

 いやまったく、キャプテン・ジオンも顔濃いだけあって、さすがの一言やで。

 射撃の着弾時に装甲角度を斜めにして受け流す、武器受けを行う。

 つばぜり合いの時にヒットするタイミングをずらして衝撃を吸収する。

 細かい着実なバトルテクニックの行使に、エセリアは感心した。

 

「新機動戦士ガンダムWで、ヒイロの乗ったリーオーが露骨に硬いやろ?

 あの主人公補正みたいな硬さを得られることから名付けられたテクニックや」

「なるほど、トレーズ閣下の口癖ですか……」

 

 もちろん、全ての攻撃に完璧に出来る訳ではないし、全てをノーダメージに出来る訳ではない。

 デコトレーナーの攻撃が通用しなかったのは、ガンプラの完成度の差が大きい。

 

「そうやな、格上が格下相手で魅せプレイする時に必須となるテクニックやな。

 三代目メイジンなんかは、これを神業のように使いこなす。

 つまり、上を目指すなら必須のテクニックって事やな」

「なるほど……!」

 

 感激の眼差しで、ロウジが何度もうなずく。

 知らなかったのも無理はない。そう簡単なテクニックではないのだ。

 エセリアだって万全の状態で静止状態で成功率7割だ。

 回避や移動しながらでは2-3割程度、疲労すればさらに成功率は落ちていく。

 

「ロウジくん、新機体に慣れるので大変や思うけど、

 上を目指すならこのテクニックは必須や。

 しっかり予習復習、身体に叩きこむようにな」

「大変だなんて言ってられませんよ。

 セセリアは僕に最高の機体を用意してくれました!

 次は、僕が頑張る番じゃないですか」

 

 きらきら瞳を輝かせ、ロウジが拳を握りしめる。

 

「これが、若さか……」

 

 まぶしい。まっすぐな熱意があまりに眩しい。

 エセリアは目を細め、大げさな仕草で思わず天を仰いだ。

 セセリアとロウジ、二人の関係性が実に妬ける。

 だが、内を向いてばかりはいられない。

 若者へ、頼れる大人ぶってやるのだ。

 気合を入れ、エセリアは猫なで声でロウジへ問いかけた。

 

「それで、ロウジくん。

 天才エセリア先生に、なんや相談があるんやって?」

「……あ、はい!」

 

 ロウジがこちらへ向き直り、言葉を選ぶようにもじもじする。

 たっぷり数十秒かけて、ロウジが勢いよく言葉をぶつけてきた。

 

「時空を越えて異世界へいけるガンプラ、

 ご存じありませんか?」

 

 そら来た。予想通りの言葉に、エセリアは内心で頭を抱えた。

 かわいらしい後輩の助けになってやりたいのは山々だなのだが、

 よしわかったと気安く言えない理由がある。

 

「それはつまり、マリコちゃんを元の世界に送ってやりたいっちゅーことやんな?」

「はい! もちろん難しいことだってのはわかります。

 運営の皆さん、大人の人達がきっと見えないところで頑張ってるはずとも思います」

 

 真剣なロウジの声に、エセリアは真剣に思考をめぐらせる。

 まったく、エニルはんも無茶ぶりしてくれるで。

 天を仰ぐような気持ちで、エセリアは先日の打ち合わせを思い出すのだった。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ファンネルなどの遠隔操作武器の操作

 

 ファンネル、ガンビット、サポートメカなどは基本的にCPUによるオートマ操作で行われる。

 ニュータイプなど対応したスキルを所持することで、その精度は上昇していく。

 精度を上げた連携攻撃を行うにはマニュアル操作が有効となるが、

 本体であるガンプラを操縦しながら同時に武装の遠隔操作を行うのはとても難しい。

 そのため、攻撃パターンやフォーメーションを事前設定し、使い分けるなどの工夫が必要となる。

 とっさの判断力や空間把握能力が必要となるため、通常とは違った素質が必要となるのだ。

 世界選手権に出場するようなガンプラビルダーはアドリブでの複数同時操作すら使いこなす。

 第8回ガンプラバトル選手権世界大会での行われた三代目メイジン・カワグチとのバトルで、

 カルロス・カイザーはカイラスギリー並びに艦載機を操り、その複数同時操作をやってのけた。

 そのバトルはまさにガンプラバトルの最高峰の一つであり、今も語り草の一つである。

 素人は絶対に真似しようとしないでください。ロウジみたいなことになるよ!

 

 

 

 

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