リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回は4/13(日)19時です。
いよいよジークアクス本放送ですね!


※ネタバレ注意
後半のロウジとエセリアの会話パートに置いて、
ジークアクス ビギニングに関するネタバレが少しあります。

緑のおじさん並びに主要人物の設定に関してロウジが軽く触れます。

大きなネタバレにはならないと思いますが、
4/9放映開始のジークアクスを完全にネタバレなしで見たい方はご注意ください。



ミッション5-3 はるかな世界へ想いをはせよう

※ネタバレ注意

後半のロウジとエセリアの会話パートにおいて、

ジークアクス ビギニングに関するネタバレが少しあります。

 

緑のおじさん並びに主要人物の設定に関してロウジが軽く触れます。

 

大きなネタバレにはならないと思いますが、

4/9放映開始のジークアクスを完全にネタバレなしで見たい方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エセリアちゃん大勝利。希望の未来へレディーゴー!

 っつーわけで、以上が今回の報告や、ゲームマスターはん。

 今回の出撃は臨時やからボーナス頼んまっせ」

 

 上司であるゲームマスターへ、エセリアは軽薄な調子で声をかける。

 ここは仮想空間GBN、その運営専用のサーバーだ。

 その中でも最上級のセキュリティを誇る、ゲームマスター専用スペースにエセリアはいた。

 

「うむ、君の本来の任務はマリコくんの保護観察だ。

 多忙な君に来てもらった上、任務外で傭兵のような真似をさせたのだ、インセンティブは用意する」

 

 いやー、ほんまウチとは対照的やわ。

 ガンダイバーのアバターをまとう”ゲームマスター”カツラギが、泰然と真面目にエセリアへ対応する。

 今のエセリアの立場は臨時雇用のサブマスターだ。

 GBN運営のトップ、ゲームマスターを補佐する立場として雇用されている。

 リアルの立場もあり多忙ではあるが、エセリアはカツラギからの特別ミッションを快諾した。

 理由は単純、ミッション内容が実に興味深かったからだ。

 

「ま、今回は確かに臨時の出撃やったけど、完全に依頼外のお仕事とも言えへんしな。

 マリコちゃん以外でも友好的な“異邦人”がおるかもしれん」

 

 エセリアはあくまで軽い態度を崩さない。

 ミッションは【“異邦人”マリコ・スターマイン。宇宙世紀からやってきたと言う人物の保護観察を行う】こと。

 こんなワクワクする話、乗らないなんて手はあらへん。

 真偽は不確かとは言え、宇宙世紀出身の人間と会話出来るなんて貴重すぎるやろ!

 

「今回は残念だったな。接触こそ出来たが、まるで交渉にならなかった」

 

 横にいるのは同僚で、サブマスターとして先輩であるエニルだ。

 これがまたクールな雰囲気漂う、エセリア好みのキレイなおねーさんであるからたまらない。

 

「そやなぁ。まさかガンキラー……SDコミック出身の“異邦人”まで出るとは思わへんかったわ。

 宇宙世紀出身やなく多分プラモシミュレーションのあるパラレル地球出身ちゅーことやろ?」

「恐らくそうだろう。今までの例と違いガンキラーは遠隔操作だ。

 ガンキラーは自爆したが、何度か襲来してくる可能性もある」

 

 バトルとガンプラ作りで負けるつもりはないが、サブマスターとしては先任だ。

 しかも話した限り事務仕事もしっかりこなせるありがたいタイプ、エセリアは喜んでエニルを上に立てるつもりである。

 

「うむ、ガンキラーの今後の対策はまた考えよう。

 お疲れのところ悪いが、このまま打ち合わせに入って構わないだろうか?」

 

 難しい顔のカツラギに、エセリアは内心首を傾げた。

 カツラギは無類のSDガンダム好きで有名だ。

 多少マニアックやが、ガンキラーへもっと食いつくとは思ったんやけどなぁ。

 

「君達の最優先任務、観察保護対象である“異邦人”マリコ・スターマインについてのことだ」

 

 つまりこれから話す議題は、趣味への興味を一時忘れさせるほどだ。

 エセリアはごくりと唾を飲み込み、そっとアバターに居住まいを正させる。

 

「マリコくんに関して重大な発見があり、その情報を共有したい」

 

 エニルとエセリア二人へ向け、いつもながら生真面目な顔でカツラギが語り掛ける。

 

「エニルくん、エセリアくん。

 まず、君達から見たマリコ・スターマインについての所見を聞かせてもらいたい」

 

 ふむ、なるほど。もちろん感想文くらい書けますけども。

 ここは先輩へ先に言うてもらいましょ。エセリアはちらりとエニルに視線を送る。

 エニルは小さくうなずき、カツラギへと発言を開始した。

 

「まず大前提として、マリコくんは我々と同じ人間なのだと感じました。

 “異邦人”として、文明レベルやそれへ基づく常識に多少の差異こそあれど、

 感情や思考、それに基づく行動はほぼ我々と変わらないものに思えます」

「あー、そやな。確かマリコちゃんサイド3出身やったよな。

 けど、アースノイド蔑視なんかのスペースノイド偏重、

 ニュータイプ論やらザビ家信奉なんかの思想なさそうやもんな。

 宇宙世紀特有のエキセントリックさ、全然あらへんわ」

 

 正直、マリコちゃんなら全然イケる! エセリアは内心で軽口を叩く。

 ハマーン・カーンやニナ・パープルトン、カテジナ・ルース、

 戦争や窮乏の歪みが産んだ女性キャラたちの個性はいかにも強烈すぎる。

 

「きっと、よいご両親にしっかり育てられたのだろうな。

 気遣いは出来るし、異世界で孤独だと言うのに順応も早い。

 民間の輸送会社の人間関係で揉まれた経験かな」

 

 うーん、フリーランスのガンプラビルダーにはそこはわからんわ。

 エニルの言葉にうなずきながら、エセリアは内心だけで肩をすくめる。

 

「あー、マリコちゃん家族仲ええらしいね。

 オトンに勘当されたけど後妻のオカンや妹さんとは今も連絡とってるらしいわ。

 5人姉弟なんやて? 夫婦仲も円満やったんやろなぁ」

「……それだけに、向こうに残されたご家族の悲しみはどれほどのものか」

 

 エニルの短い言葉に、エセリアはぐっと言葉に詰まる。

 逆にこちらで孤独なマリコの悲しみだってどれほどのものか。

 いくら衣食住が保証されようと、心の隙間までは埋められない。

 

「なんとか元の世界へ返してやりたいものだ……」

「ウチもその気持ちは山々やねんけど、

 さすがに別世界への転移は……なぁ」

 

 エニルの言葉に、エセリアは天を仰ぐ。

 実際の宇宙世紀へ転移する。ロマンはあるが、想像もつかない技術だ。

 ガンダム世界で世界転移は、SDガンダムやらごく一部でしかない。

 正直なところ、異世界転移はガンプラビルダーではなくSF作家が担当する分野に思える。

 

「……ありがとう、よくわかった。

 私とて、マリコくんを救いたい気持ちは同じだ」

 

 アバターのガンダイバーに神妙な表情を浮かべ、カツラギが頷く。

 どうやら概ね台詞選びはあっていたようだ。エセリアは内心で胸を撫で下ろす。

 

「それを踏まえた上で、二人にはこの資料を見てほしい。

 恐らくエニルにはすぐに理解できるものだ」

 

 カツラギがモニターを操作し、資料の画像を提示する。

 エセリアは慌てて意識をモニターへ向けた。

 

「今から示す資料に、マリコ・スターマインに関する重大な情報が記載されている。

 さらにこの資料は非常に機密性が高い。他言せぬよう心掛けてほしい」

 

 カツラギの深刻な声音に、エセリアはごくりと生唾を呑み込む。

 荒い画像だった。アナログの資料をスキャンしてデータ化したものだろう。

 

「なんやこら。ずいぶんアナログな資料やん。

 大学ノートと、プリントアウトされたA3サイズの用紙……」

 

 エセリアは資料を眺め、首をひねった。

 様々な数値と文字が丁寧だが癖の強い手書きで記載された何かの用紙だ。

 おそらくは就職活動に使う履歴書、エントリーシートか何かだろう。

 

「これは……キャラクターシート!?

 ではアレは、セッションに使われたシナリオノートか」

「……そうだ、エニル。私や彼がこれに参加している。

 これはトロンがゲームマスターを務めたセッションの資料だ」

 

 大学ノートの表紙には同じ筆跡でタイトルが書かれている。

 “UC0093 逆襲のシャア アナザー”と、エセリアにはそう読めた。

 

「かなり古いシステム、そしてサプリのバージョンから見て、10年以上前のモノのようだな。

 ……これはカツラギ作のキャラクターシートだな。

 これは私抜きで遊んだ時のモノと言うことか?」

「ああ、確か君がトロン達とガンプラ性の違いで喧嘩別れしていた時の話だな」

「……はい! すんまへんお二方。

 専門用語だらけでさっぱりわからんのやけど!」

 

 訳知り顔で会話を進める二人に、エセリアは挙手して説明を求める。

 

「これは10年以上前、私が友人達と共にTRPGでキャンペーンを遊んだ時の資料なのだ」

「て、TRPG?」

 

 説明するハナからわからん用語を増やすのはやめてんか!

 カツラギの台詞に眉を潜め、エニルへすがるように目を向ける。

 

「テーブルトークロールプレイングゲーム。

 ドラクエなどのコンピュータRPGのご先祖様で、ボードゲームなどの複数人で遊ぶアナログゲームだ」

「プレイヤー達が自分の分身であるキャラクターを作り、

 ゲームマスターの出すモンスターなどの障害をクリアし、物語を完成させるゲームだな。

 このキャラクターシートはプレイヤーが自分の分身を作るためのものだ」

 

 ホンマや、このシート、ヘビメタガンダムとか書いてある。

 二人がかりの説明で、ようやくエセリアも理解が追い付いてきた。

 

「んん……プレイヤーがアバターやガンプラ、障害がミッションやボスガンプラ。

 GBNをローカルでアナログでやる感じかいな?」

「さすがエセリアくん、理解が早い。

 そうだな、オンラインゲームにおいて、

 ゲームマスターと言う役職はおそらくTRPGから来ている」

 

 カツラギが昔友達とどんな風に遊んでいたかは理解出来た。

 だがしかし、それがどう重大な問題なのかがわからない。

 

「……それで、そのTRPGがどう問題なんですのん?」

「そこで、このキャラクターシートを見てほしい」

 

 カツラギが画像を切り替え、一枚のキャラクターシートを出す。

 癖の強い文字で描かれた多数のデータと、ピンク髪の大人っぽいおねーさんが微笑んでいた。

 

「……これは!?」

「……は?」

 

 エニルとエセリアが揃って絶句する。

 あまりに、その女性には見覚えがありすぎた。

 【マリコ・スターマイン 27歳 女】

 【搭乗機体 1日号】

 書き込まれた文字を読み上げる度、心拍数のあがるのがわかる。

 

「これは、私の友人が作ったプレイヤーキャラクター、

 逆シャア時代に登場したマリコ・スターマインのキャラクターシートだ。

 家族構成、来歴その他設定が事細かに書かれている。

 ”異邦人”マリコくんと聞き取りした情報を照らし合わせたところ、類似性が多く見られた」

 

 カツラギの言葉に、空転していた思考がようやく働き始める。

 つまり、マリコちゃんにはモデルとなる資料があったと言うことで。

 

「ええと、つまりカツラギはん。

 マリコちゃんは実は“異邦人”なんて大ウソ。

 肝いりでデザインした特殊なAIキャラって事なん?

 めっちゃ公私混同ですやん!」

 

 軽い口調でエセリアはわざとらしくおどけた。

 GBNを運用するために開発された運営デザインのAIは既に実用化されている。

 たとえば難関ミッション”最強グエル”のボスを務めるのもそのAIだ。

 

「わざわざ呼びつけてまで暴露する秘密がそうなら、

 カツラギは随分とお茶目な人間だと言うことになるな」

 

 エニルが苦笑しながらエセリアの言葉を否定する。

 

「……むしろそれならどれほど良かったか。

 マリコくんはそう言うキャラだと自分で理解しており、

 創られた存在だろうと、職務を全うする事に迷いはなかっただろう。

 そして我々がマリコくんを異世界へ帰らせようと気に病むこともなくなる」

 

 そう、公私混同の告白のために、わざわざ自分達二人を呼び出す必要がない。

 エニルとカツラギが二人して深刻に呟くのを眺め、エセリアは思考を必死に回転させる。

 

「……ほな、他のご友人方のどなたかやないんですか?

 この…ええと、”キャラクターシート”の持ち主の方とか」

「彼女はつい最近……半年ほど前に亡くなったんだ。

 交通事故に遭い……私も葬儀に参列したよ」

 

 エセリアは再び絶句した。

 お悔やみを述べる心の余裕もない。

 

「もちろん、マリコくんを作った本人以外の友人全員にも全て確認済だ。

 友人がアバターを作り違法アクセスしているという線もまずない」

「TRPGとは公開されないローカルな二次創作だ。

 他者がこの設定を読みとる可能性は限りなく薄い」

 

 カツラギもさぞ驚いたことだろう。

 誰も知らない身内だけで書いた同人誌のキャラが、いきなり実体化したようなものだ。

 呆然としながら、エセリアは問いかける。

 

「……なら、マリコちゃんはいったい何者なんですのん?」

 

 ”異邦人”マリコは当時の関係者が密かに作り上げたAIではなく、

 もちろん現実の誰かが操るアバターでもない。

 ましてやこのハイテク時代、幽霊が操るゴーストダイバーと言う訳でもあるまい。

 ガンダイバーのアバターへ憂慮を浮かべ、カツラギがエセリアの問いへの答えを告げた。

 

「マリコくん、そして”異邦人”の正体は恐らく……

 この世界で産まれた、変種のELダイバーである可能性が高い」

「ああ、そーゆーこと……」

 

 エセリアは苦虫をかみつぶしたような顔で納得する。

 ELダイバー、それはGBNのバグから生まれた電子生命体だ。

 GBNが軌道に乗り始めた数年前の事件に観測され、運営に保護されたという記録がある。

 現在では人権を認められ、人々の親愛なる隣人としてGBNとリアルでの生活を営んでいるそうだ。

 

「つまりマリコくんは、カツラギを友人達の記憶や思い入れを元に、

 ”作り上げられてしまった”ELダイバーと言うことか……」

 

 エニルの言葉を聞きながら、エセリアは小さく息を吐き出す。

 GBNで産まれた情報生命体、ELダイバー。確かにロマンある存在ではある。

 だが、“異邦人”という言葉に感じたロマンには及ばない。

 

「マリコちゃんは宇宙世紀からの来訪者ちゃうってカツラギはんは言うんやな……」

 

 自分の声に失望がにじむのを、意外な気持ちでエセリアは聞いていた。

 “異邦人”、異なる世界、そして憧れの宇宙世紀からの来訪者。

 エセリアはそう信じ、随分と大きな期待を託していたらしい。

 

「とすれば、マリコくんには帰るべき世界なんて存在しない。

 故郷と家族を愛し、アイデンティティとするマリコくんは、まるで道化だ!

 人一人に背負わせるにはいくらなんでも過酷すぎやしないか!?」

 

 隣のソファに腰かけたエニルが、拳を握りしめて熱弁する。

 その気持ちもまたわかる。

 マリコは”異世界からの来訪者である”と信じ込んでいる。

 だが、マリコが愛しく語る家族、思い出、その全てが想像上の産物でしかないというのだ。

 

「……それで、この情報はマリコくんと共有するのか?」

 

 暗い顔のエニルが、地獄のような確認をとった。

 どんな顔して告げればいいのか、想像もつかない。

 

「今、マリコくんをELダイバーと類似した存在として保護するための準備を進めている。

 準備が整い次第、私からマリコくんへこの仮説を話す。

 また、あくまでこれは可能性の高い仮説であり、結論を先走るのは良くない。

 君達二人はあくまで今まで通り、マリコ君はパラレル宇宙世紀からの来訪者として応対してくれ」

「……了解した」

「……この衝撃の情報を抱えた上で、

 平然とマリコちゃんと応対しろ言うんでっか?」

 

 うん、地獄か? エセリアは絶句した。

 沈痛な表情ながら平然と応対したエニルが信じがたい。

 

「……エニル先輩。正直ウチはボロ出さへん自信がないわ。

 遠隔監視のシフト大目にするんで、マリコちゃんの直接対応任せてええかな?」

「……無理もないさ。

 正直な申告ありがとう」

 

 気遣うエニルに、エセリアは申し訳なさそうに頭を下げる。

 マリコちゃんは何も悪ぅないのに、ウチが勝手に失望感にじませてバレるかもしれへん。

 

「カツラギはん」

「どうしたね、エセリアくん」

 

 沈痛な表情のカツラギへ、エセリアはがっくり肩を落として向き直る。

 宇宙世紀からやってきた謎の美人おねーさんの正体は、実はこちら生まれの電子情報生命体でした。

 なんてつまらんオチになってしもうたんや!

 

「……ウチは、『その仮説が大外れだぜ、ワッハッハ!』

 で済むよう祈っときますわぁ」

「そうだな、私もそう願う」

 

 けして、責任者であるゲームマスター、カツラギが悪い訳ではない。

 だが、急降下してしまったモチベーションを思うと、愚痴るくらいは許してほしい。

 その後も深刻な会議はしばらく続いた。

 だが正直なところ、セセリアは内容をまるで覚えていなかった。

 

 

 

「ほいじゃ、ロウジくん。

 候補となりそうな機体、いくつかあげてくで!」

 

 口調ばかりは威勢よく、エセリアが宣言する。

 時系列はフラッグバトルの一週間後に戻る。

 先ほどのロウジとエセリアの会話の、ほんの少し後のこと。

 

「まずは本家本元!

 アクシズ・ショックを引き起こしたご神体。

 “伊達じゃない”νガンダムやな」

「はい、元祖にしてサイキョーの一角、

 アムロさんの最終機体ですね!」

 

 エセリアが手元のコンソールを操作し、データを呼び出す。

 ロウジのガンプラハンガーの空きスペースへ、白く凛々しいνガンダムの姿が映し出される。

 エセリアの解説に、ロウジが無邪気にコメントする。

 

「次にその派生機体、全身サイコフレーム。

 コロニーレーザーだって怖くない。

 “可能性の神獣”覚醒ユニコーン!」

「ユニコーン!って呼んだら来る機体ですね」

 

 続いてその横、サイコフレームを輝かせるユニコーンガンダムが並ぶ。

 この2機はどちらもガンプラではなかった。

 手元のモビルスーツ資料を投影しているだけ、実体はない。

 

「どちらもサイコフレームを使用して奇跡を起こす機体や。

 恐らくサイコフレームはマリコちゃんの転移にも関わってると思うんやけど、こいつらはアカン」

 

 ブブー! ブザー音が響き、2機のガンダムにバッテンマークがつく。

 続くエセリアの操作で立体映像が分解され、ハンガーから消失する。

 

「ええー、なんでです?

 どちらも神秘的なパワーの機体じゃないですかぁ」

「ニュータイプ並みの素質あるダイバーがいる上、

 異能をテンション任せでまったく制御出来へんからや。

 転移する際にもっと別の何かに変異してしまうかもしれへん。

 マリコちゃんを“安全に家族の元へ送る”には向かん」

 

 不思議そうなロウジへ向け、エセリアは丁寧に解説する。

 最新作のアレとかアレも同様だ。

 放映中の機体は原理も目的も不明で、

 解明できてない以上、安全な運用には全くの不向きだ。

 

「では、つーぎーにー。

 方向性を変えて超凶悪なパワーを持つ機体を2種!

 まずは超弩級の特級呪物。

 “木星に眠る”匿名希望のギガンティス!」

「あ、かわいい。

 強化型のジム3ですか?」

 

 ジムタイプの頭部をもつ巨大な赤い機体がハンガーへと映し出される。

 何も知らないロウジが、無邪気なコメントをつける。

 

「そして同じく超パワーのご神体!

 後世でホワイトドールとしてまつられた文明の破壊者!

 “黒歴史の立会人”∀ガンダム(黒歴史)!」

「ガンダムにおひげはありますか?」

 

 立派なおひげのガンダムが、巨神の横で虹色の蝶の羽を展開する。

 

「前者は、別世界で産まれた意思を持った巨神や。

 パワーはあるかもしれんが、強すぎる自我があるため言う事をきかん。

 後者もロランくんの操るホワイトドールとは違い、全盛期の破壊者モードや。

 恐るべき力で文明をナノマシン分解し、埋葬する恐るべき存在や。

 ……どちらも、パワーはあるが、破壊とやり直しをつかさどる。

 生きたマリコちゃんを送り届けるとは、方向性が違う」

 

 同じく、どちらもバッテン。映像を抹消する。

 そもそも完全再現しようとしたらどっちも色んな意味で危険すぎるわい。

 

「さて、他にも候補はある訳やけど、

 ロウジくん、先に聞かせてもらえるかいな?」

 

 機器を操れる手を止め、エセリアはロウジに向き直る。

 いつものへらへら笑いを消し、きりりと真面目な顔を作る。

 

「リアル系なガンダムっちゅー作品を嗜んでるんや、

 キミやて想像つくやろ、時空を超えるのは途方もないことやって」

 

 無論、マリコが変種のELダイバーであることをロウジに告げるつもりはない。

 だが、エセリアはプロのガンプラビルダーだ。

 金でなくとも構わない。与える知識への対価は何かいただきたいものだ。

 

「責めるわけやあらへん。ただ教えてほしいねん。

 いったいキミは、なんでそんなむつかしいことに首を突っ込もうとするん?」

 

 どん底に落ち込んだエセリアのモチベーションを回復させるだけの熱を、ロウジに示してほしい。

 ロウジも何かを察したのか、無邪気な笑顔が鳴りを潜める。

 

「……一週間前、僕はマリコさんが泣いているのを見ました」

 

 全身から絞り出すように、ロウジが声を発する。

 

「原因は僕です。

 家族と遠く引き離されたマリコさん相手に、

 無神経にパパ自慢なんかしちゃったからです」

 

 罪の告白を前に、エセリアは無言のままうなずき、続きを促す。

 

「そしてつい昨日、僕、映画のジークアクス、ビギニングを見ました。

 ……あっ! エセリアさんも、もう見てます!?」

 

 ネタバレを気にしたのか、慌てた様子でロウジが口を押える。

 エセリアは厳しい表情を作ったまま、大丈夫だと仕草で示す。

 神妙な表情で頷き、ロウジが続ける。

 

「”向こう側”ってなんなのかがわからないけれど、

 目の前で奇跡を残して消えてしまった人、残された人たちを見ました。

 そして残された側に刻まれた爪痕を想い。心がすごく痛かったです。

 マリコさんのご家族が、いなくなったマリコさんを思って、一体どれだけ悲しいかって!」

 

 マリコ・スターマインに帰るところなど恐らくない。

 送り返すべき世界もなく、待ってくれている家族もいない。

 だが、エセリアはロウジの言葉に素知らぬ顔で頷いてみせる。

 

「なるほどなるほど、同情したっちゅう訳やな?」

「……いけませんか!?」

 

 憤慨したようにロウジが声を張り上げる。

 エセリアは表情を崩さず、淡々と言葉を重ねる。

 

「たとえ時空を飛び越えるガンプラがあったって、

 GBNでそれを再現するのはまず無理や、理由はわかる?」

「はい。セセリアに指摘されました。

 ガンプラの完成度の問題ですよね?」

 

 よろしい。優秀な生徒に対するように、エセリアはゆっくり頷いて見せた。

 

「僕が不器用にガンダム・エアリアルを作ったとします。

 でも、作品内で使用したパーメットスコアレベル4を使用できない」

「そう。設定上どれほど高性能だろうと、ガンプラの作りが甘ければその性能は発揮出来ない。

 そしてたと時空を超えるような機体があったとして、

 たとえメイジンクラスのビルダーが作ったって、GBNでそんなものを再現できるかどうかは疑問や。

 極論、バトルに関係あらへんもんな?」

 

 わざとらしく肩をすくめ、エセリアはロウジを見やる。

 視線があった瞬間、エセリアはぞくりと身を震わせた。

 

「そうですね。難しいのは判ります。

 でも……だからって、難しいことが、挑戦しない理由にはなりません!」

 

 ロウジの瞳に、エセリアは確かに炎を見た。

 これこそが若さだ。その熱が静かにエセリアの心へ染み入るのが判る。

 エセリアにだって、自分こそが次代のメイジンだと迷いなく信じていた時もあった。

 どれほど苦しかろうと、どれほど難しい道でも、成功を信じ、挑戦する熱があった。

 

「……今の僕にできる事なんて、マリコさんに優しくすることぐらいです。

 それが悔しくって、僕は今、日記をつけ始めました、毎日。

 マリコさんと一緒に過ごした日々の事を」

 

 熱に浮かされたように、たどたどしい言葉でロウジは語る。

 

「いつも三日坊主だった僕が、今一週間続いてます。

 並行して、マリコさんと出会った日の事も少しずつ書き溜めています」

「……なるほど、記録を。

 キミはそれをどうするつもりなん?」

 

 まったくもって無駄かもしれない行為を、毎日続ける、その衝動、実に素晴らしい。

 ロウジが心へ秘めた炎に薪をくべるつもりで、エセリアは問いかける。

 

「人を別世界に飛ばす事が出来なくても、

 データなら、お手紙なら別世界へ安全に飛ばせるかもしれない。

 帰還できるかとか変異しないかとか、そんな事も気にしなくていい。

 マリコさんのご家族に届けば、少しでも心安らぐかもしれないじゃないですか!」

 

 大げさに両手でジェスチャーしながら、ロウジが熱弁を振るう。

 知らず浮かびそうになる笑みを強引に押さえつけ、エセリアはさらに尋ねる。

 

「ロウジくん、それじゃ最後の質問や。

 キミのその試みがまったくの無駄に終わったらどうするん?」

「泣いてふてくされて寝ます!

 セセリアに慰めてもらって、エニルさんや他の人に愚痴聞いてもらって。

 泣き止んだらそれから次どうするか考えますよ」

 

 間髪入れずに言葉を返され、エセリアは大口を開けて全身を震わせた。

 

「同情で毎日他人のために時間使って、

 それで失敗したらとか考えもせえへんの?」

「自分がしたいと思ってやった事です。

 何かおかしい事がありますか?」

 

 少し怒ったように口を尖らせ、心底不思議そうにロウジが言う。

 

「……よろしい、ロウジくん。及第点や。

 試すような真似してすまんかったな」

 

 満点や。エセリアはにやりと悪い笑顔を浮かべる。

 不審そうにこちらに見やるロウジを黙らせるように、手元の危機を操作する。

 

「たとえば天下統一編に出てきた乗り物型サポートメカ、

 武者璽威武装(むしゃじーあーまー)なんてものもある。

 他にもSD世界を守護する善神、スペリオルドラゴン様もいらっしゃる。

 うまく行けば、宇宙世紀へウチらのお手紙を送る方法ぐらいあるかもしれん」

 

 ワルい笑顔で、エセリアはロウジをそそのかす。

 

「ウチの趣味の範疇として、ガンプラ試作始めたるわ。

 たとえ完成したところで、実現する保障なんてないけどな?」

「……ありがとうございます!!

 エセリアさんなら、きっとすごいのが出来ますよ!」

 

 まったく、現金やな。ロウジが満面の笑顔で気休めを言ってくれる。

 運営側は言った、異世界として宇宙世紀なんてまず存在しないと。

 でも、あるって信じた方が絶対オモロいやん。

 

「条件が一つ。毎日とは言わん。

 週一でもええから、日揮はずっと書き続けるんや。

 そしたら、いつかウチのガンプラがそれを送ったる!」

 

 神様もあの世も、きっと存在なんてしないだろう。

 けれど確かに多くの人々の心にあり、小さなよりどころとなっている。

 なら、宇宙世紀が同じようにあると信じて、何がおかしいものか。

 

「はい、わかりました。

 証拠に毎週1回、送りますね!」

「ウチも運営側に報告するわ。

 宇宙世紀へお手紙送るガンプラ作成してみる、ってな」

 

 カツラギは無駄な事はやめろと止めるだろう。

 支援は得られまい、だが趣味で作る事までは止めはするまい。

 

「ありがとうございます、エセリアさん!

 相談して本当に良かったです」

「ギャラは出世払いで頼むで」

 

 満面の笑顔のロウジに、エセリアはワルい顔でにやりと笑う。

 本当なら、無駄な事はよせとロウジを止めてやるのが良い大人なのかもしれない。

 だが生憎、エセリアは悪い大人を自負している。

 

「将来のロウジくんなら、チャンピオンやメイジンクラスのファイターなってるやろ?」

「へへ。エセリアさんと素顔で対戦する日、楽しみにしてますね」

 

 甘い夢を語り、ロウジと顔を見合わせてエセリアは笑う。

 何せこちとら、夢みせてナンボのガンプラビルダーや。

 

「ウチもな、ガンプラは、皆を笑顔にするものであってほしいねん。

 顧客も、運営も、もちろんロウジくんもマリコちゃんもな」

「はい。すばらしいお考えだと思います!」

 

 リアルがしんどいなんて、よーわかっとる。

 フィクションでぐらい、ハッピーエンドを目指したい。

 

「がんばりや、ロウジくん。

 失敗したらウチも一緒にふて寝してやるさかい」

「立ち直る方の相談でよろしくお願いしますね、センセイ」

 

 くすりと笑い、拳と拳でこつんとグータッチ。

 辛い現実にくじけたらどうするかなんて、くじけてから考えてもいいだろう。

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・TRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)

 

 ルールブックを購入し、複数人で行うアナログゲーム。

 誰でもアニメのような体験が出来るが、趣味の合う複数人を長い時間拘束する点が敷居が高い。

 どんな遊びかを知りたい人はリプレイを買ったり動画を見たりしよう。

 本作内ではガンダムを題材としたシステムもリアルと同じく3種類ほど発売されている。

 作中のパラレル逆シャアに使用されたものはメタリックギガンティスと呼ばれる架空のシステムである。

 ガンダム系各種以外にも各種ロボアニメを再現したクラスがあり、オリジナルメカの再現が出来る。

 戦闘でも加護と呼ばれるブレイクスルーによる派手な演出が人気である。

 

・余談:各キャラのTRPG経験と傾向

 ロウジ 経験はあるがプレイに誘う勇気がない。NPCに感情移入して説得しようとしがち

 セセリア プレイ経験はないが、えっちなおねーさんキャラしか作らない

 ハサウェイ プレイ経験はない、飛べる異種族ラブ

 エニル マンチ同士の軍拡に疲れ果ててロマン組に走る。娘のダイス運が羨ましい。

 クランプ コンベンション開催経験もある猛者だがTCGに場所を奪われて引退

 “仮面の父” ガチガチのデータマンチだがここぞと言う時にファンブルする

 トロン ダイス運でゴリ押しする脳筋プレイヤーにして、シナリオブレイカー

 カツラギ ファンタジー系のランダムエンカウントでドラゴンに蹂躙されたトラウマがある。

      多忙で積みシステムばかりが増えていく……

 プルツー 現代異能系 ロイスをタイタスにする瞬間が一番好き

 グレミー ホラー系システムが好き、GMもやるが想定が甘くてプルツーにシナリオブレイクされて血反吐はきがち

 エセリア 同級生の付き合いでプレイし、色仕掛けで対人ごり押しして嫌がられた

 ガデム 赤箱やトロールの頃からの猛者だが最近のシステムは苦手。ハイパーバーサークこそ至高 

 コズン マーシャルアーツで実演しようとしてクランプに叱られたことがある

 

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