リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
次回は5/18(日)です
今回も好き放題書いています
サイバーコミックスネタが通じる人ってどのくらいいるんでしょうね?
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか。
まさしく事態は風雲急を告げるっちゅーとこやな」
18mサイズのマジカルセセリアのコクピットで、エセリアは強気に笑みを浮かべた。
モニターいっぱいに目的地のコロニーが広がる。
スペースポートへ狙いを定め、スラスターのマニュアル操作で着地する。
「こちらエセリア。
スペースポートへ接続、ただいまより中へ侵入するで」
『……エセリア、気……付けて。
コロニー内……音声、映像が……拾え……』
トロンからの通信が音割れしながらコクピットで響く。
なんやこら。確かにこら特級の緊急事態やわ。
眉根を寄せてうなずき、エセリアはあえて不敵に笑みを浮かべた。
「あいあい・まむ。
吉報まっといてや!」
エアロック内に侵入し、宙域側の扉が閉じる。
後は空気が充填され、中への扉が開くのを待つだけ。
そんな瞬間だった。
「あいや、曲者!」
気取った口調で叫び、愛機で振り返りざまにサーベルを抜刀、一閃。
獲った! 確信と共に浮かべたエセリアの笑みが瞬時に凍った。
宙域側の扉の裏側に張り付いていた敵影がモニターへ映る。
その瞬間、エセリアはあらん限りの火器でコロニー側の扉を撃ち抜いた。
「クセモノすぎるわぁ!?」
スラスターを前方へ全力噴射、コロニー側の扉の残骸をぶち抜き背面から飛び込んでいく。
間一髪、愛機マジカルセセリアがいた空間を敵から伸びた触手が根こそぎ薙ぎ払う。
そう、不気味にぬめる肉の触手だ。テンタクラーロッドですらない。
コロニー内部に鳴り響く耳障りなサイレンの中、エセリアは叫ぶ。
「世界観どないなっとんねん!」
歴戦のガンプラビルダー、渾身のツッコミだった。
モニターに映る敵は、エアロックの扉いっぱいに張り付いた肉の塊だった。
不気味に蠢く肉の身体の中央に人間のような目が一つ。
そして肉の身体の外周部には、不気味に伸縮みする肉の腕。
……そう、触手としか言えない何かが無数に生えていた。
それはまさしくモンスター、魑魅魍魎としか呼べないシロモノだった。
「まさかELSの変種ちゃうやろなぁ!?」
凄まじい情報量が、一瞬でエセリアの頭脳を駆けめぐる。
もし機動戦士ガンダム00の恐るべき地球外生命体やったら、危険すぎる!
推論を一瞬で組み立て、エセリアは躊躇なくウェポントリガーを引き絞る。
背負ったミサイルと手持ちのガトリング、バズーカを全力で叩きこむ。
コロニー内へ飛び込んできた魑魅魍魎の肉の身体が爆発で爆ぜる。
「実弾が効いとる。……なら、普通のELSとはちゃうな!」
だが、質量が違いすぎる! 再生力が高いのか、防御力が高いのか。
最初のビームサーベルの一撃も、肉を裂いてはいたが、致命打には程遠い。
なら、手持ちの最大火力で一気に焼き切る!
「マジカルセセリア・エアリアルモード!」
無数に伸びた肉の触手をマジカルセセリアが軽い機動でかいくぐり、
手にしたバズーカを弾倉ごと投げつけ、ガトリングの猛射で誘爆させる。
魑魅魍魎が爆発へひるむ隙に、エセリアはキーボードへコマンドを打ち込んだ。
実弾兵器中心の武装が、ガンビットとライフルの後期型エアリアルの武装へ切り替わる。
爆炎の中から、肉の塊が形を変えながら飛び出してくる。
「ガンプラを舐めすぎやぞ、バケモノちゃん」
巨大な目玉へ狙い定め、ウェポントリガーを引き絞る。
こんな巨体、狙撃モードを使うまでもない。
放たれたビームが魑魅魍魎の目玉へ突き刺さり、ごん太のビームが肉の身体を焼き尽くす。
操縦桿にぐっと力を込めて握り直し、そのままビームを横に薙ぎ払う。
戦略兵器級のビームが魑魅魍魎の身体を余すところなく焼き尽くす。
「……対象、反応ロスト。
肉片からの再生は……せぇへん事を祈るわ」
手ごたえはあった。とは言え、油断は禁物。
目視だけでなく各種センサーを頼りに、エセリアは敵の戦闘不能を確認する。
「……うん、まぁ、ごめんやでトロンちゃん」
ビームの余波で割と悲惨に破壊されたコロニーのスペースポートを眺め、エセリアは苦笑する。
このやかましいサイレンからして、コロニー内の非常事態は確実だ。
バケモノや迎撃の機体が来るより前に、事態を収拾せんとあかん。
コロニーの人工重力に捕まらぬよう、マジカルセセリアはスラスターを慎重に噴かす。
目指すは最重要地点、マリコ・スターマインの生家である丘の上の一軒家だ。
ロックオン可能距離に入ると同時、モニターでセンサーカメラを最大望遠。
ごく普通の二階建てマイホームの姿がモニターに映し出される。
「うっお……」
その映像に、エセリアはくぐもったうめき声をあげた。
マイホームの居間側にガンプラが衝突したような激しい破壊跡があった……からではない。
キャプテンZが破壊した居間側のガラス戸側の外壁が不気味にうぞうぞ蠢いていたからだ。
先ほど見た魑魅魍魎が家の外壁に張り付いている。
「……あれは、アカンやろ!?」
悲鳴のような叫びをあげ、エセリアは狙撃モードで愛機を固定する。
施設の重要度を考えると、魑魅魍魎の巣であってもおかしくない。
ロウジとハサウェイの機影がない以上、あそこにいるのはバケモノだけのはずだ。
「家ごと根こそぎ焼き払ったる、バケモノめ!」
機体エネルギーをライフルへ全集中、マイホームの中央にロックオン。
ウェポントリガーに指をかけたその瞬間、マイホームの魑魅魍魎が動いた。
巨大な目が、エセリアを睨む。
虹色に輝く光が、モニターを焼いた。
エセリアの視界と思考を光が埋め尽くしていく。
「なんやねん今の光……っ?
頭ん中ザルで総ざらいしてったような乱暴な!」
物理的な衝撃を受けたように、コクピットが、世界が揺れる。
だいじょぶかウチ、口から血吐いてないやろな?
ぐらぐらする頭を必死に背中のシートに押し付け、エセリアは荒い呼吸を繰り返す。
「邪眼かい、メデューサじゃあるまいし!?」
まるで睨まれて石化する伝承の化け物だ。猛烈な吐き気は錯覚なのかどうか。
頭を縦割りされて脳みそを吸い出されたかのような激しい虚脱感がある。
それでも心臓の鼓動だけが激しく鳴り響く。
ヤバい、こんなん次喰らったら死ぬやろ!
「こ、んの……!」
身体を痙攣させながら、エセリアは指先だけでそっとライフルのトリガーを引き絞る。
フルパワーのガンビットライフルの光が、マイホームと肉塊へと伸びていく。
その瞬間、マイホームを呑み込むように虹色の輝きが立ち上る。
「なんや!? サイコ・フィールド……?
その輝きは世界全てを呑み込むように広がっていく。
マズい! 反射的に切り返した操縦桿もブーストボタンも反応しない。
まばゆい輝きの中にマジカルセセリアが呑み込まれ、エセリアの意識はブラックアウトした。
息を止めて狭い水路を抜けるような不快で息苦しい感覚。
新鮮な空気が欲しい。だが口を開ければ確実な死がやってくる。
無限にも思えるような時間の後、エセリアの意識はようやくトンネルを抜けた。
「……ぶはっ!」
荒々しく呼吸を繰り返し、エセリアはゆっくりと思考を巡らす。
自分は確か、GBNでコロニー内戦闘をしていたはすだ。
ターゲットが虹色の光を発し、エセリアは愛機ごとそれに呑み込まれた。
今立つこの場所は愛機の中ではない。
いったいここはどこやねん。辺りを見回し、エセリアは思わず目を見開いた。
「コロニー外壁を走る、リニアレールの改札口……?」
エセリアの目の前をプラズマがぶち抜いていく。
どこかのコロニーの改札口だ。何度も動画で見たことがある。
もしもあの改札の前で立ち止まらず歩いていれば……
いったい自分はこれからどうなると言うのだ?
どすんと背中に鈍い衝撃が走り、エセリアはよろめく。
「ちょっとエセリア!
急に立ち止まらないでよ……」
尻もちついた姿勢で、幼馴染のロウジがぼやく。
いや待ちぃ、幼馴染のロウジってなんや。
ロウジへ手を差し伸べ、助け起こしてやりながらエセリアは自身の思考にツッコむ。
しゃべりが原作のロウジとなんかちゃうな。あのロウジくんか?
「なぁ、ロウジ。
今って何年や?」
「……え?
宇宙世紀0087だよ。
どうせ会えやしないよ、有名人になんてさ」
その時、エセリアにプラズマ走る。
改札の向こう、たむろする黒服が数人。
あまりに見覚えのある構図、見覚えのあるキャラ達だ。
そのうち一人の呟きが、はっきり聞こえた。
「エセリア・ドート?
女かと思ったのに……なんだ、ネカマか」
あざ笑うように呟く男の名はティターンズのジェリド・メサ。
なるほど……わからへんけど、なんかわかったで!
深々とため息つきながら、エセリアは床を蹴って突進する。
驚くほど身体が軽い。ジェリドの顔に拳を叩き込みながら、エセリアは叫ぶ。
「男が女のアバター使うて、何が悪いねん!」
あっという間に他のティターンズ士官に取り押さえられ、拘束される。
さて、これで新型機強奪ルートが開ける訳やけど。
どうせ出会うなら最新作……ジークアクスの方が良かったわ。
床へ乱暴に頭を押し付けられたまま、エセリアはこれから起こるイベントの流れを思い出していた。
危ないところだった。
“それ”は静かに安堵した。
危うく巣を根こそぎ焼き尽くされるところだったが、ひとまず脅威は退けたと思っていいだろう。
“それ”は大きな目と肉の身体をもつ魑魅魍魎、その意志であった。
ここはあの世界ではない。
いくつも生まれては消えを繰り返してきた“それ”にとって、世界の把握は容易なことだった。
また、作られたのか、それとも呼び寄せられたのか。
誰の何の意図かを推し量ってもせんないことだ。
まずはいつも通り……観察せねばならない。
“それ”はコロニー中に散った仲間達へと招集のために指示をくだす。
激しい敵意を見せた敵機……マジカルセセリアの機体は中空で漂ったままだ。
肉の身体を伸ばし、引き寄せ、何かを破壊せぬようそっとコロニーの大地へ着地させる。
その後は肉の身体で触手を伸ばし、しっかりそのまま固定する。
念のためにと、コクピットの中へと侵食し、生命体の様子を確認する。
マジカルセセリアの中で、シートに身体を持たせかけたまま、エセリアが虚空を見つめていた。
苦しげな表情が一転、にやりと笑みを浮かべエセリアが叫ぶ。
『一方的に殴られる、痛さと怖さを教えてやろうか!』
どうやら、術はうまく効いたようだ。
エセリアの様子を確認し、“それ”は己の権能の効果を満足げに頷く。
今このエセリアと言う名の生命体は、“それ”が読み取った情報を元に幸せな夢の中にいる。
エセリアからよみとった記憶と願望を元に、望ましい記憶を作り出しているのだ。
ききめに個人差はあるが、今回は成功したようだ。
どうやらこのエセリアと言う個体は強い敵意と力をもつようだ。
このまま夢を見せ続け、無力化を続けねばならない。
反対側のスペースポートから侵入してきたボブと呼ばれる個体へも同様の対処を継続する。
模倣と演算を得手とする“それ”にとっては造作もない。
「今日の空襲、長いね……」
「よりによって機体が修理中で非番を狙うとは……
おのれ、連邦め」
“それ”が守る巣の中で、マリコと父マイケルが言葉を交わす。
マリコ・スターマイン、この個体はひときわまばゆい意志の輝きだった。
“それ”はマリコをこの世界における特異なもの、もしくは同輩と認め、観察を続けることにした。
幸せな夢の先にこの個体がどんな答えを導きだすのか、それを知るために。
舌打ちが止まらない。
苛立たしい、腹が立つ。
オレらはパニックホラーを味わいに来たわけじゃない。
ふりかかる理不尽に、ハサウェイは怒りを抑えきれずにいた。
「ロウジくん、レーダーに反応じゃ!
3時の方向から敵部隊が接近中」
「もう、次から次へと……
ゾンビ退治しに来たわけじゃないのに!」
パプアに陣取るガデムの警告に、ロウジが悲鳴を上げた。
ハサウェイは愛機のカメラをそちらへ向け、短く叱咤した。
GBNのバトルフィールドは、混沌のるつぼにあった。
謎の通信障害はチャットサーバーのエラーらしく、今も外との交信は出来ない状況だ。
今出来るのは、パプアを介した近距離味方同士の会話のみ。
「ロウジ、愚痴らない。
パプアを守れるのはオレらだけなんだ」
「わ、わかってるよ」
ロウジは弱気だ。だが、無理もない。
ハサウェイですらとても冷静とは程遠い状況だ。
様子のおかしいマリコを置き去りに、ロウジと二人撤収した後のことだ。
空襲警報が鳴り響く中、ルブリス・GKにロウジを押し込み、ガンプラ2機でスペースポートへ逃げ込む。
そしてそこでロウジとハサウェイは、胴体に巨大な目玉を備えた不気味な肉塊を見たのだ。
「“異星人(エイリアン)”?
それとも“侵略者(インベーダー)”?
ほんっとに、なんなのさ、あいつら……!」
二人して盛大に悲鳴を上げ、あらん限りの火器を叩き付けて遁走した。
突然床に穴が開いてコロニーから放り出され、ハサウェイとロウジは這々の体でパプアと合流したものだ。
「ガデムさん言ってたでしょ。
ヤツらは謎のモノノケ、“木星妖怪”だって」
「妖怪退治はガンプラの仕事じゃなくない!?」
ロウジの嘆きを聞き流し、ハサウェイは冷静を装う。
敵は、正体不明の魑魅魍魎、“木星妖怪”らしい。
ガンダムの文脈じゃないって、ハサウェイもホントはわめき散らしたい。
「こちらハサウェイ。
敵影を目視、数は3!」
「こちらガデム、レーダー反応同じく3じゃ。
敵影に大型は?」
モニターを睨み、ハサウェイは声を張り上げる。
ロウジのメンタルはボロボロだ。守りたい人を置き去りで逃げ、魑魅魍魎に脅かされた。
だから今はオレが頑張るしかないじゃんか。
「敵影に大型なし、3機ともガンプラサイズ。
多分全部、“兵隊”です。
迎撃に向かいます。
行くよ、ロウジ!」
「ら、らじゃ!」
「ハサウェイくん、ロウジくん、
大型漂流物には注意じゃぞ。
擬態して奇襲してくるかもしれん」
ブーストボタンを押し込み、ハサウェイはキャプテンΖを迎撃に先行させる。
レーダーで後方に僚機が6機、追随してくれるのが映る。
ロウジのルブリスと、運営CPUが操るガードガンプラ、黒いディランザ・ソルだ。
距離が近づくにつれ、モニターに映る敵影の輪郭がはっきりしてくる。
敵は3機、ディランザ・ソル、キャプテンZ、ルブリス・GKだ。
「人真似のバケモノめ……!」
まるで鏡写しのようにそっくりな敵影を睨み、ハサウェイは吐き捨てる。
相対距離があっと言う間に詰まり、ハサウェイはスラスターを逆噴射。
接敵寸前でハイメガを構え、周囲を目視で確認する。
漂流物なし、敵戦力は3のままだ。
「ロウジ、いつものようにやるよ!」
まず僚機のディランザ・ソル達が動く。
ガードガンプラ達が一斉に散開し、見事な連携で敵機へとライフルを撃ち込む。
敵機がその瞬間、ドロりと外装を不気味に変異させた。
これが“木星妖怪”達の戦闘態勢、通称”バイオガンプラ”なのだ。
悪鬼のように不気味な姿に変異し、バイオガンプラ達がディランザ・ソルへ襲いかかる。
だが数の差は歴然、包囲陣形からディランザ・ソルがライフルを一斉に撃ち込む。
“木星妖怪”達はあっと言う間に全滅する……わけではなかった。
『キシャアアアア!』
致命的に損壊したはずのバイオガンプラが不気味に吠える。
頭部を失ったバイオΖが両手を鉤爪状に伸ばし、僚機のディランザ・ソルへと飛びかかった。
ガンプラへの擬態をかなぐり捨て、バイオΖがまるで獣のように暴れ回る。
「オレのキャプテンZの姿で……」
ハサウェイはバイオZを睨みつけ、サブウェポントリガーを大きく押し込む。
モニター中央のロックオンサイトが拡大、敵機の姿が大写しとなる。
「よくもやってくれたな、バケモノ!」
叫びと共にウェポントリガーを引き絞る。
狙撃モードから放たれたフルチャージのハイメガランチャーが、バイオΖを呑み込み吹き飛ばす。
まず一つ。ハサウェイは息を吐き出し、周囲を見回す。
「わきゃあああ!?」
ロウジの甲高い悲鳴が響き渡る。
ビームブレイドで袈裟懸けに両断されたバイオルブリスが、即座に戦闘機動を続行したのだ。
ハンバーガーのパティのように上下に別れ、バイオルブリスがルブリス・GKへ襲い掛かる。
「あれでもやっぱり死なないのか!」
舌打ちしながら、ハサウェイはグレネードでバイオルブリスの上半身へ狙いを定める。
その向こうでは胸部と右足を吹き飛ばされたバイオディランザが、
損傷に構わずディランザ・ソル目掛けて襲い掛かるのが見える。
「ロウジは下半身!」
「り、了解!」
グレネードとレシーバーガンの射撃がバイオルブリスの上下をそれぞれ吹き飛ばす。
だがその残骸が損傷部位を肉の触手で触手を覆い、素早く傷口を塞ぐ。
「うわぁんキモい!
こいつらまさか、デビルガンダムの眷属なの!?」
ロウジの嘆きに、ハサウェイは再度舌打ちする。
バイオガンプラに攻撃は通じる、だが戦闘不能になってくれないのだ。
効いているのかさっぱりわからず、傷ついたところが再生していく。
「普通のガンプラと比べ
しぶとさがダンチじゃん!」
「ロウジ、攻撃は効いてるよ。
いくら再生しようと、効いてるなら絶対に倒せる!」
現に大火力なら再生させずに倒しきれるのだ。
この不死身だって、どこかに手品のタネがあるはずだ。
バイオガンプラの突進に銃撃をあわせながら、ハサウェイはモニターで敵機を観察する。
奥ではディランザ・ソルがバイオディランザから手痛い損傷を受けながらも、
数の有利を生かして容赦なく攻撃を加え続けている。
頭部が吹き飛び、肩口から切り裂かれ、上半身下半身が真っ二つでもバイオガンプラは動く。
ハサウェイのように大火力で吹き飛ばすか、細切れになるまで切り刻むほかない。
「大火力なら倒せるけど、
全部の敵にそうする訳にはいかない……」
辛うじて舌打ちを踏みとどまり、ハサウェイは呟く。
今のような防衛戦ならそれでもいい。
だが、マリコさん救出にコロニー内へ侵入するならそうはいかない。
なにせあそこはたぶん“木星妖怪”の巣、敵戦力がわんさか出てくるだろう。
「こんなの、巫女さんとか神官さんとか、
退魔職の人の仕事じゃん!?」
バイオルブリスの上半身を切り飛ばしながら、ロウジが嘆く。
いくら再生しようと、バイオガンプラごときロウジの敵じゃない。
切り飛ばされた上半身をハサウェイがグレネードで吹き飛ばし、残る下半身へロウジが切りかかる。
バイオガンプラが大きく飛び退り、ロウジの斬撃を避ける。
「ああもぉ……ナマイキ!」
避けた? 今まで攻撃を食らうがままだったのに?
上半身と下半身の合体を防ごうと、ハサウェイはチャージ半ばのハイメガのビームを置く。
敵の回避機動を読んで放たれたビームに上半身が飛び込み、下半身をビームの軸線から押し出した。
かちりと、頭の中でパズルのピースがはまる。
間違いない、手品のタネはあそこだ!
「ロウジ、その下半身を逃さない!」
「ら、らじゃ!」
戸惑いながはもロウジが、ルブリス・GKでバイオルブリスの下半身へ白兵を仕掛ける。
下半身が飛び退いた瞬間、ハサウェイはキャプテンΖを突進させた。
至近距離、右腕のワイヤーフックが撃ち出され、バイオルブリスの下半身を絡め取る。
「ロウジ、再生中の上半身をあしらってて!」
「らじゃ!
……ハサウェイ、何かわかったの?」
さぁ、実験だ。ロウジの問いに、ハサウェイはにやりと笑う。
ハイメガの直撃から再生しつつある上半身はロウジに任せた。
カエルの解剖でもするつもりでハサウェイは左手のサーベルを引き抜き、構える。
捕まえたバイオルブリスの下半分はコクピットから下、Vガンダムならボトムパーツに当たるところだ。
必ずここに、何かある。
不死身を成り立たせる方程式を紐解くための解法が。
「やれるな、ハサウェイ?
お勉強ならお受験でさんざんやって来ただろう!」
自分に言い聞かせるように呟き、ハサウェイは敵下半身をサーベルで刻んでいく。
左と右の足を切り飛ばす。再生が始まる。違う、どっちでもない。
じゃあやっぱりここか!
下腹部、∀ガンダムならコクピットの辺りへサーベルで切り込む。確かな手応えがあった。
ガンプラ比でピンポン玉サイズ、何かお札の貼られた謎の肉塊が見える。
「見えた、不死身のタネ……!」
こいつは不死身のバケモノなんかじゃない。
スクリーンショットを撮影、動画記録と同時にサーベルを力を込めて押し込む。
『キシャアアアアアア!?』
不気味な悲鳴と共にバイオルブリスの下半身が身体をよじり、どろりと泥水のようになって溶ける。
切り離した両足も、上半身も同じだ。
「ひゃあああ、何あれ、
ハサウェイなんの魔法使ったの!?」
「ガデムさん、下腹部、腰のところです!
バイオガンプラにはコアがある!」
叫ぶロウジへにやりと笑い、ハサウェイはガデムに映像と動画を送信する。
こいつは不可解なんかじゃない。きちんと解法のある方程式だ!
「コアを狙えば、再生されずにトドメをさせる!」
「お手柄じゃ、ハサウェイくん!」
これなら教えられる、ただしい解法を!
「それなら……!」
ガードガンプラ達より先に、ロウジが飛び出した。
ブーストを一閃、再生しながら暴れ続けるバイオディランザへ突進。
ルブリス・GKが鋭くビームサーベルで突きかかる。
敵が振り回す肉のムチをビームの刃で跳ね上げ、肩口からタックルを敵下腹部へ叩き込む。
吹き飛ぶバイオディランザへさらに追撃、ビームの刃が正確に敵下腹部を抉り取る。
かすかな閃光が走り、バイオディランザが苦悶の悲鳴をあげる。
バラバラにされたバイオガンプラが動きを止め、そのパーツの全てが肉を失う。
バイオガンプラ、戦闘不能。後はデータの海に還るだけだ。
「……それなら、倒せる。
そうだよね、ハサウェイ」
「そう、キミになら。
そして、誰にでも対処できる!」
こいつらはもう、不死身のモンスターじゃない。
難問を解いた満足感に、ハサウェイは静かに拳を握りしめる。
バイオガンプラの戦闘不能を確認し、ハサウェイは大きく息を吸い込んだ。
「反撃だよ、ロウジ。
ここからは、パニックホラーじゃない。
ヒロイックなモンスターハントだ!」
「任せて! 僕、そっちも大得意」
見えてきた反攻のきざしに、ロウジの顔にもようやく笑みが戻る。
ハサウェイもいっとき怒りを忘れ、ほっと笑みを浮かべた。
「ロウジくん、ハサウェイくん、9時方向に敵反応じゃ!」
だがそれもつかの間、ガデムの叫びがハサウェイの意識を戦場に引き戻す。
「いよっし、さっそくハントだ!」
張り切り飛び出すロウジに遅れ、ハサウェイはカメラをそちらへ向ける。
光点が3つ。戦力を逐次投入、お粗末な戦術だ。
このままなら楽に終わる。ロウジだけでも十分だ。
一度こちらはパプアへ補給に戻るか?
のんびりとパプアへ視線を向け、ハサウェイは思わず目を疑った。
「ロウジ、そっちお願い!」
叫ぶと同時に操縦桿を切り返し、愛機をウェイブライダーに変形させる。
ウェイブライダーの凄まじい加速が強烈なGとなってハサウェイの身体を襲う。
モニターに映るパプアがぐんぐん大きくなっていく中、ハサウェイは声を張り上げた。
「ガデムさん、パプア後方に大型漂流物!」
「なんじゃと!?」
老練なガデムが動揺の叫びをあげる。
そう、レーダーには何も映っていないのだ。
だが目視ではパプア後方に、モビルアーマーサイズの漂流物が見て取れる。
巨大漂流物をターゲットインサイト、ハサウェイは迷わずウェポントリガーを引き絞る。
ステルス加工された隕石なんて、あるわけない!
「落ちろ、バケモノ!」
ハイメガランチャーのぶっといメガ粒子砲が隕石へ突き刺さる。
はたしてそいつは大きく身体を揺らがせ、叫んだ。
『ギィシャアアアア!』
隕石が巨大な肉塊へと姿を変える。その中央には巨大な目玉があった。
外周に無数の触手を生やし、ビームの直撃に激しく身をくねらせる。
「こいつも、”木星妖怪”!?」
「いかん、”斥候型”か”母艦型”じゃ……!」
母艦型!? 無数の格納された兵隊を想像し、ハサウェイはぞっと身を震わせる。
その前に……落とす、ぶつけてでも!
操縦桿を握りしめ、敵の巨大な目玉を睨み据える。
ハサウェイが必殺のウェイブライダー突撃の覚悟を決めた瞬間、目玉が不気味な光を放った。
「いかぁん! ハサウェイくん、目を……」
ガデムの叫びがどこか遠くで聞こえる。
不気味な光に飲み込まれるように、ハサウェイの意識がホワイトアウトしていった。
「ふふっ。どう?
モンスターハントだって、ちょっとしたもんでしょ」
「おみそれしました」
得意げに笑うロウジに、ハサウェイは気取った言い回しで返す。
満足げにうなずき、ロウジが玄関口で靴をはく。
ここはリアル、ハサウェイのマイホーム。
うちの玄関に、ママと自分以外の靴があるなんていつぶりだろう。
駅近で治安もしっかり、ママが頑張って買ったちょっといいマンションだ。
「ジークアクスの量産機、早く販売されないかな。
作ってみたいんだよね。ピンクのクラバ仕様ザク」
「ふふ。キミって本当、ピンク好きだよね。
塗りは無理だけど、01ガンダム出たらオレもちょっと興味あるな」
スリッパをつっかけ、廊下を歩いてエレベーターに乗って。
たわいもないおしゃべりをしながら、名残を惜しむようにロウジを玄関まで送っていく。
友達と遊ぶ楽しい時間は、いつもあっという間に過ぎてしまう。
「お邪魔しました!
また、遊ぼうね」
「うん、また遊びに来なよ。
今度はあいつも一緒にさ」
小さく手を振るロウジに、ハサウェイも手を挙げて応える。
ロウジってば、リアルでのおどおど、まだ治らないんだ。
……あれ? ふと違和感が頭をもたげる。
ロウジを呼んで、マルチプレイのゲームで一緒に遊んで。
何かが変だ、ついさっきまでと記憶が地続きじゃないような……
「……あら。
その子、お友達?」
「……ママ!?」
よそ行きの高い声が飛び込んできて、ハサウェイはぎょっと身を縮めた。
きっちり仕事着のスーツを着込んだ、ハサウェイによく似た女性が微笑んでいる。
「早かったんだね」
「相手様のご予定、ドタキャンされちゃってね」
ハサウェイの、ママだ。
愛想笑いを浮かべながら、まるで品定めするようにロウジを見ている。
縮こまるな、オレ。懸命に胸を張り、ロウジの横へ歩み寄る。
「紹介するよ、ママ。
わたしの、お友達」
「は、はじめまして!
マリアです。
む、娘さんには、よくしてもらっています!」
決意を込めてハサウェイはロウジをママに紹介した。
人見知りおどおどモードのロウジが、リアルネームを名乗って行儀よくお辞儀する。
なんて言われたって、今度ばかりは絶対にゆずらない。
「あらあら……!
あなたがお友達をうちに連れて来るなんて、何年ぶりかしらね」
よそゆきの顔で、ママが上品に笑ってみせる。
アンタが露骨に不機嫌になるから、友達を家に呼べなかったんじゃないか。
「また遊びにいらっしゃい。
今度は私がいる時に」
木星帰りのニュータイプもかくやと言う圧を乗せ、ママがよそ行きの笑顔で言う。
びくりと、ロウジがあからさまに縮こまるのが判る。
ぜっったいママ、職場でビビられてる。
実の娘のオレですらこうなんだから、他人だともっとこわいだろ。
「ひ、ひゃい。
ありがとうございます!」
「またね、マリア」
怯えるロウジの手をぎゅっと握り、駅の方へそっと背を押す。
ぺこぺこと何度も頭を下げて歩いていくロウジを、ハサウェイはずっと見送っていた。
ロウジがいなくなり、重苦しい空気だけが残る。
ママと一緒にロビーを抜け、エレベーターに乗り、廊下を歩く。ずっと無言だった。
「素朴で、良さそうな子ね。
あなた、前よりずっと見る目がついてきたじゃない」
玄関に入るなり、ママが上から目線でそう言ってきた。
聞こえるように大きく舌打ちし、ハサウェイはママを睨む。
「やめてよね、上から目線」
「ママはあなたの事を思ってやっているのよ」
ママは本当に、いつもそうだ。
ずっと努力して上り詰めてきたから、外れ値をびっくりするぐらい嫌う。
何の気なしに連れて来た友達に、裏でオレとつきあわないよう言い含めてたって聞いてドン引きした。
”あの子はあなたにふさわしくない”って言われて、何度嫌な思いをしたか。
「でも、そうね。
あなたももう、大人なんだものね」
リビングに入るなり、ママが豹変した。
まるでエニルさんみたいな優しい声に、ハサウェイは信じられないものを見る目になる。
「ママもそろそろ、あなたへの過干渉はやめるわ。
だって、あなたの人生なんだもの。あなたが決めないと」
見た事もないやさしく微笑を浮かべるママがいた。
ずっと言って欲しかった言葉が、ママの口から次々に飛び出してくる。
「また、マリアちゃんも連れて来てちょうだい。
悪いと思ってるわ。ママのせいでずっと窮屈な思いをさせちゃって」
ハサウェイの心のどこかが、激しく警鐘を鳴らしている。
おかしい、どこかが何かおかしい。
「ママ……」
それでも心の奥底からわき出す歓喜が、違和感を吹き飛ばしてしまいそうになる。
視界がぐらつく。まるで世界が揺れているみたいだ。
戸惑いながらもが一歩を踏み出し、ハサウェイがママへと手を伸ばした瞬間だった。
突如、ベランダのガラスが轟音と共にはじけ飛んだ。
ワイヤーのついたフックが飛び込んでくると同時、まるで騒音のようなエレキギターが響き渡る。
「ペナルティーキックオールディーズ……参上っ!」
マイクを手にしたパンクファッションのトロンが、割れた窓から飛び込んでくる。
マンションの窓の外に、ギターにキーボードを構えた知らないSDガンダム達が浮かんでいる。
なんだこれ。いったいほんとにこれは何!?
「アタシの歌を聞けぇーい!」
トロンの鋭いシャウトで歌が始まる。
アップテンポのリズムが、心と意識のもやを冷水シャワーみたいに洗い流していく。
あまりの状況のおかしさに、血の気が一気に引いていく。
「ちょっと、何よこれ!?」
「そうだ、オレ……GBNを遊んでて!」
ソファのママが悲鳴を上げる。ごく自然な反応だ。
けどママに構っている余裕はない。GBNにママがいるはずがない。
マイクを握りしめたトロンが、何かを訴え駆けるようにこちらを見ている。
じゃあ一体ここは何? いつのまにオレは家に戻ってるんだ?
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
鋭い叫びがハサウェイの耳朶を撃つ。
今度はエニルさん!?
天井裏から、ニンジャのような装いのジェガンタイプがにゅっと頭部を覗かせる。
「開け、心眼センサー!
ハサウェイ、心の眼で世界を見よ!」
「そんな訓練、してませんよ!?」
ハサウェイの叫びに応えるようにジェガン・Kのバイザーアイが輝き、部屋中を照らし出す。
おうちの床が、壁が、どろどろの液体と肉となって腐り落ちていく。
『キィヤァァァァァ!?』
身の毛もよだつような悲鳴を上げ、ママが身をよじる。
顔が解け落ちていき、大きな目玉が一つあるだけの、のっぺらぼうな顔が残る。
そうだ、”木星妖怪”だ。オレは、あいつの眼が光って……
「お前、貴様、ヤロウ!
やりやがったな天魔外道!」
吹き上がる怒りが、罵倒となって吹き上がる。
幸せな夢を見せてくれようとでもしたのか?
そのために、このバケモノどもは……
ママを、騙ったのか!?
「ママはさ、シングルマザーでずっとやってきたんだぞ。
オレに使った塾代、私立の女子高の入学費、安くなんかないんだぞ」
両手に、握りしめた操縦桿の感覚が戻って来る。
がっちりと操縦桿を握り直し、ターゲットインサイト。
夢の中のハサウェイが、いつのまにかハイメガを腰だめに構え、ママだったものへ突きつける。
「大嫌いだけど、感謝してるし尊敬もしてる。
いつかは許して貰いたかったし、謝っても欲しかったさ」
このバケモノども、絶対に許さない。
人の心の一番弱いところに手を突っ込んで!
人の大切な思い出に泥水をぶっかけて!
「仲直りしたかったのは……リアルのママだ!
お前らじゃないんだよぉっ!」
ママモドキの腹にハイメガの銃口をぶちこみ、ゼロ距離でトリガーを引き絞る。
メガ粒子の閃光がバケモノを呑み込み、光が全てを呑み込んでいった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・ステルスとレーダー反応 追記
GBNにおいてゲーム性を維持するため、ミノフスキー粒子の散布は基本、行われない。
レーダーは基本的に正常に作動しており、常にマップや地形のデータはオープンに示されている。
だが、地形は常に表示されているが、機体は遠距離では表示され続ける訳ではない。
「スラスターを使う」「エネルギー兵器を使う」など行うとレーダーに映り、しばらくすると消える。
宇宙ではスペースデブリなどの漂流物は全て表示されており、衝突寸前する前に警告が出る。
また、基本的にガンプラはデブリで破損はしないようオート回避する。
パプアの背後に忍び寄っていた大型の”母艦型”木星妖怪は、
大破した艦船の残骸という大型漂流物に擬態し、スラスターを使わない管制移動を行う。
さらに休眠状態で熱反応を抑えたステルス状態によってガデムの監視を潜り抜けた。
”漂流物は必ずレーダーに映る”という経験からの思い込みがガデムを油断させたのである。
余談だがベアッガイさんは非常に隠密能力が高く、なんだクマかで見逃されやすい。