リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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ジークアクス超面白い!
ママさんはアバターにしたくなりますね
(‵凸)顔のあいつ超好きです

次回更新はぎりぎりですが5/25(日)となります



ミッション5-8 難敵攻略の作戦を練ろう

 

「くっそー、邪魔ぁっ!」

 

 モニターを睨みながら、ロウジは苛立たしげに叫んだ。

 ビームサーベルで一刀の元でバイオガンプラのコアを切り捨て、蹴り飛ばす。

 もう何機こうやって切り倒したかわからない。

 

「ガデムさん、ハサウェイは!?」

「キャプテンΖは無事じゃが、

 何ごとか呟くばかりで呼びかけに反応が返ってこん……!」

 

 どうしたってんだよ、ハサウェイ!

 ガデムの言葉に、ロウジは操縦桿を握ったまま唇を噛む。

 敵増援をロウジに任せ、ハサウェイがパプアの方へ引き返した。

 敵増援のバイオガンプラを一蹴し、ハサウェイの増援に向かおうとした瞬間だった。

 パプア後方に浮いた巨大な”母艦型”の”木星妖怪”の目玉が不気味に光る。

 そしてウェイブライダーが急停止し、”母艦型の”触手に絡めとられた。

 

「ああもぉ、ハサウェイを助けないといけないのに!」

 

 群がるバイオガンプラが鍵爪をふりかざし、肉片を手裏剣のように飛ばして来る。

 素早い切り返しで距離をとり、回避し、包囲を避けながら突出した機体をレシーバーガンで牽制する。

 キャプテンZをからめとった後の”母艦型”はそのまま動きを止めたが、

 代わりに”母艦型”からわんさかバイオガンプラ達が湧いてきたのだ。

 いくら機動性自慢のルブリス・GKのビットオンフォームでも、パプアを守りきるのが精いっぱい。

 遅れて合流したガードガンプラのディランザ達の強力があってさえ、突出さえできずにいる。

 

「焦らんでいい、ロウジくん。

 時間はこちらの味方じゃ!」

「でも、ガデムさん!」

 

 ガデムの声にも、モニターを見やるロウジは焦りを募らせる。

 ”木星妖怪”にとらわれたキャプテンZが、不気味にうごめく肉塊に取り込まれつつあるのだ。

 完全に呑み込まれた時どうなるか、全く想像がつかない。

 

「ハサウェイが、マリコさんみたいになりでもしたら……!」

 

 あの家の中で感じた焦りと絶望が、ロウジの背筋をひやりと冷たくする。

 その焦りがロウジの視界を狭めていた。

 突如真横から特大のロックオンアラートが響く。

 ガードガンプラだと思っていたディランザ・ソルが、擬態をかなぐり捨てて牙をむいたのだ。

 

「しまった……!」

 

 こんな小細工に!

 とっさの反応で、サーベルを突きこむ。

 だが焦りが手元を狂わせ、コアを捉え損ねる。

 構わず突出してきたバイオガンプラが体当たりし、その牙を突き立てようと大口を開ける。

 

「うぁあっ!?」

 

 やられる! 引くのも防ぐのも間に合わない。足掻くすべてが、一手遅い。

 スローモーションのように見える視界で、絶望がロウジの心を覆いつくす。

 ……その寸前、天から降り注ぐ光がバイオガンプラを消し飛ばした。

 

「ロウジ、よく頑張った……!」

 

 嗚呼、天から剣が舞い降りる。

 頭の中で『Meteor ~ミーティア~』が鳴り響く。

 声すら出せず息を呑み、ロウジは少年のようにただ目を輝かせる。

 見上げる視界に、金色に輝くガンプラが映る。

 これは夢でも幻でもない。

 涙と一緒にこぼれおちそうな戦意を維持し、ロウジは操縦桿を握り直す。

 

「……パパぁっ!」

 

 その名はワンゼロオー、パパが操るサイキョーのガンプラがそこにいた。

 ロウジの叫びと同時、ワンゼロオーから実弾とビームのフルバーストが降り注ぐ。

 不気味なバイオガンプラの下腹部、コアを正確に撃ち抜いた。

 その大半を消し飛ばし、残り半数に痛打を与える。

 動きを止めた残り半数目掛け、操縦桿を押し込む。

 右手のビームブレイドと左腕のサーベルが同時に二機のバイオガンプラのコアをえぐり取る。

 天秤は傾いた。だがまだだ、”母艦型”が残ってる。

 懸命にロウジは叫ぶ。

 

「パパ、ハサウェイが!

 ハサウェイが取り込まれて……!」

「大丈夫だ、ロウジ。

 ……すぐ終わる」

 

 ”仮面の父”の言葉を肯定するように、天頂よりもう一筋の閃光が降り注ぐ。

 高らかな叫びと共に、まばゆい光が”木星妖怪”を切り裂いた。

 

「南無 観世音菩薩

 怨 敵 退 散!」

「……エニルさんっ!」

 

 ジェガン・Kだ。頼もしい援軍に、ロウジは歓声をあげる。

 ”Jの影忍”がまばゆく輝くビームカタナで木星妖怪の身体を真っ二つに切り裂いたのだ。

 肉に埋もれかけていたキャプテンZの身体が”母艦型”の肉塊から引きはがされ、救出される。

 

「今だ、トロン!」

「さぁ、ライブの始まりだ。

 ペナルティーキックオールディーズ組曲!

 カバーで悪いけど、聞いて貰うよ!」

「えええ、トロンさん!?」

 

 宇宙空間にエレキギターとキーボードにドラム、鋭いシャウトが響き渡る。

 まさかの援軍に、ロウジは慌てて周囲を見回す。

 パプアの直上に人影が複数。ヘビメタガンダム達バンドメンバー、そしてボーカルのトロンだ。

 ペナルティキックオールディーズの演奏とトロンの歌声に、”木星妖怪”が苦悶の叫びをあげている。

 

「ロウジ、ハサウェイくんは二人に任せろ。

 雑魚をせん滅させる。いけるな?」

「はい、パパ!」

 

 助けが来たんだ、サイキョー無敵の援軍が!

 勇気の炎が心にともる。操縦桿を握り、ロウジは叫ぶ。

 後は一方的な展開だった。

 雑魚がせん滅され、ハサウェイは救出、”母艦型”は撃沈する。

 ロウジが操縦桿から手を離すまで、一曲終わるまでの時間もかからなかったのだった。

 

 

 

 

「つまり、用意していたNPCアバターを無断使用されたと見ていいな?」

「……うん、間違いないわ。

 ロウジやマリコさんが遭遇したのはNPCとして準備していたアバター……

 ブラスターマリ原作、スターマイン一家よ」

 

 天気晴朗なれども波高し。水面下の事態は複雑怪奇だ。

 小さく震えるロウジの手を握りしめながら、“仮面の父”はまなじりを決する。

 トロンもまた同様に表情は厳しい。

 ここは補給艦パプアのブリッジだ。メンバー勢揃いでの情報交換フェイズとなっている。

 

「よりによって今回の“異邦人”が“木星妖怪”とはな……」

「……危険すぎる相手じゃの。

 ある意味では“木星巨神”すら上回るぞ」

 

 エニルとガデムがうめく。この場のもう一人、ハサウェイはまだ意識を取り戻していない。

 サブシートのリクライニングを倒し、ブランケットをかけられ寝かされたままだ。

 

「“木星妖怪”って、そもそもなんなの?」

「詳細は不明だ。それゆえ妖怪と名付けられたようだ。

 ……エニル、解説を」

 

 唇を尖らせたロウジに優しく頷き、“仮面の父”はもっとも詳しいエニルへ話題を振る。

 

「“木星妖怪”とはサイバーコミックス“Gの影忍”に出てきた謎の地球外生命体だ。

 高い再生力、擬態能力があり、敵に幻覚を見せる強力な催眠能力をもつ」

 

 地球外生命体であり、その目的は人外の何かだったようだ。

 敵の目的は不明のまま影忍に打倒されたと“仮面の父”は記憶している。

 

「精神攻撃は厄介じゃの……」

「さすがにダイバーの精神への直接攻撃なんか想定もしていないわ。

 強引にシャットダウンをかける事は出来るけど、その場合どんな影響が出るか」

 

 フルダイブ型オンラインゲームゆえ、ダイバーとガンプラは様々な攻撃にさらされる。

 だが、ニュータイプやサイキッカー、エンジェルハイロゥなどによる精神攻撃への対策は未実装だ。

 

「ねぇ、マ……トロンさん、ハサウェイは大丈夫なんですか?」

「サウンドウェーブと心眼センサーによる覚醒処置は間に合ったわ。

 現に“母艦型”へトドメを刺したのはキャプテンΖのハイメガよ」

 

 愛娘と妻の会話を聞きながら、“仮面の父”は難しい顔で黙り込む。

 ハサウェイが覚醒し、だが再び意識を失った。

 素人判断だが、精神の防衛反応なのかもしれない。

 どちらにせよ、よほど恐ろしいものを見たに違いない。

 

「ハサウェイくん、いったい君は何を見たのだ……」

「ママの顔をしたバケモノが、とても優しく声をかけてくれましたよ」

 

 “仮面の父”の呟きに、皮肉っぽい声音が応える。

 サブシートに寝かしたハサウェイが、シニカルな笑みを浮かべて上体を起こしていた。

 

 

 

 寝覚めの気分は、最悪だった。

 

「ハサウェイくん、いったい君は何を見たのだ……」

 

 憂いを含んだシャア・アズナブルの声がハサウェイの意識が揺さぶった。

 

「ママの顔をしたバケモノが、とても優しく声をかけてくれましたよ」

 

 ゆっくり目を開けながら、皮肉をたっぷりまぶしてハサウェイは呟く。

 狭くて古いブリッジが視界に飛び込む。ガデムさんのパプアだ。

 どうやら自分は無事にGBN内で夢から覚め、ここに寝かされていたらしい。

 

「……ハサウェイ、大丈夫!?」

「大丈夫、ちょっと最悪な気分なだけさ」

 

 ロウジが涙を浮かべて駆け寄り、抱きついてくる。

 よし。自分の名前も、前後関係も把握出来てる。オレは大丈夫。

 ロウジの背中を手で優しく叩き、ハサウェイはかすかに笑みを浮かべる。

 

「ハサウェイくん、無理しなくて大丈夫。

 辛いなら休んでていいのよ」

「トロン、そうもいかん」

 

 トロンが優しく声をかけてくれる。“赤い彗星のひと”……いや、ロウジのパパだったよね。

 ロウジのパパ……“仮面の父”が、気遣いを声に乗せながら、静かに首を横に振る。

 向こうにはエニルとガデムもいる。

 良かった。増援が来てくれたんだ。

 頼れる大人の姿に安堵が忍び寄り、どっと身体が疲れを意識する。

 

「ちょっと、パパ!?

 ハサウェイは気絶してたんだよ……?」

「“木星妖怪”の精神攻撃の正体を暴かなければ、

 ここにいる全員が、ハサウェイくんのようになる危険があるのだ」

「……大丈夫、ロウジ。

 これは絶対に必要な事なんだ」

 

 抗議の声を上げるロウジを押しとどめ、抱き着いたままのロウジを引きはがす。

 ロウジの手をそっと握ったまま、ハサウェイはシートの端から足をおろし、大人達へ向き直る。

 

「ハサウェイくん、すまない。

 ゆっくりでいい、何を見たのか話してほしい」

「ええ、ぜひ聞いてください。

 あのバケモノどもの手練手管を……」

 

 背筋を伸ばし、ハサウェイは“仮面の父”に返答する。

 精神を直接攻撃されては、この頼れる大人達ですらどうなることか。

 ダイバーは特殊な訓練を受けた軍人や忍びなんかじゃなく、ニュータイプでもないんだから。

 

「オレが見せられたのは、とても幸せな夢でした。

 細かい軋轢が積み重なり、オレは反抗期を迎えてぎくしゃくしていました。

 夢の中のママが、とても素直に過ちを認めて頭を下げてくれたんです……」

 

 シニカルな笑みを貼り付け、ハサウェイは夢の内容を語っていった。

 まず結論から始め、必要な情報を小出しにしていく。

 学校で先生や同級生への説明する時と同じだ。

 

「“木星妖怪”は、敵に幸せな夢を見せて来るということなのか……」

「はい。夢の中のママは優しかったです。

 リアルとそっくりの顔と声で、言葉だけが正反対」

「なんてことを……」

 

 夢の内容を聞き終え、“仮面の父”が瞑目した。

 横でロウジが小刻みに手を震わせ、絶句している。

 パパさんもきっとロウジと同じ、優しく他人を気遣える人なのだろう。

 “仮面の父”が死線を向けた先で、痛ましそうにエニルが頷く。

 

「原作でも“影忍”が死んだ恋人の幻を見せられた。

 “木星妖怪”の持っている能力で間違いあるまい」

「ハサウェイくん、お手柄だ。

 幻にとらわれず、よく戻って来てくれた……」

 

 頼れる大人の賞賛に、ハサウェイは厳しい顔で首を横に振る。

 自力で耐えた、目覚めたとはとても思えない。

 

「紙一重のところで、現実に引き戻してもらえただけです。

 トロンさんの歌が聞こえて、エニルさんの心眼センサーがまぶたをこじ開けてくれた……」

 

 手が小刻みに震える。あれはあまりに甘美な夢だった。

 あんなの、誰だってすがりつく。

 あんなの、誰だって騙される。

 

「声も姿も本物そっくり、違和感は喋る内容だけ。

 近しい人が甘い言葉を投げてくるんです。

 多分、マリコさんも同じことをされたんでしょう」

 

 言葉だけは静かに、ハサウェイは瞳を“木星妖怪”への激しい怒りに燃えす。

 仲たがいこそしたが大切なママの姿で、ニセモノが甘い言葉をささやく。

 自分の大切な想いを踏みにじられた。それが何よりも腹立たしい。

 

「心の奥底へしまった大切な宝石箱に無造作に手を突っ込んで、

 思い出の宝石をイミテーションにすりかえようとしてくるような真似です。

 オレは絶対に“木星妖怪”を許さない」

 

 “木星妖怪”にも何か理由があるかもしれない。

 だがそれでも、選んだ手段は到底許せない。

 

「ロウジ、そして皆さん。

 どうか力を貸してください……!」

「もちろんだよ、ハサウェイ!」

「無論だ。ハサウェイくん、本当にありがとう。

 よくぞ辛い話をしっかりと話してくれた……」

 

 ロウジが、そして“仮面の父”が口々に同意してくれる。

 吐き出した息と共に疲れが一気に押し寄せて来る。

 ハサウェイはロウジの手をそっと握り返し、倒したサブシートに身体をもう一度横たえた。

 

 

 

「貴重な情報ありがとう、ハサウェイ君。

 さて、じゃあ改めて状況を整理しましょう」

 

 ハサウェイに改めて頭を下げ、トロンは場を仕切った。

 パプアのブリッジモニターに運営権限でのマップ情報を開示する。

 ダイバーIDから発信される位置情報を頼りに、マップに乗せていく。

 

「マリコさんは今も“丘の上の一軒家”にいる。

 先行して出撃したエセリアとボブは……コロニー内部にいるのね」

「どちらもガンプラは健在、じゃがレーダー反応に全く動きがない。

 おそらく、ハサウェイくん同様、幸せな夢に囚われている可能性が高いの」

 

 トロンの言葉に、ガデムが状況を捕捉してくれる。

 無理もない。いくら腕利きのガンプラビルダーでも、精神攻撃は想定の範囲外だ。

 

「今回の“異邦人”は“Gの影忍”に登場した“木星妖怪”の一群ね。

 おそらくZバンチコロニーは“木星妖怪”の巣となっている。

 そしてマリコさんが囚われた“丘の上の一軒家”がその中心よ」

「中にいるのはマイケル・スターマインを家長とするスターマイン一家だ。

 マイケルの妻でマリコのママ、メアリ。弟のバン、ダイ。

 未確認だが妹のゼネ、ガイナもいる可能性がある」

 

 キャプテンΖの捉えたレーダー反応がモニターに表示される。

 トロンの台詞に続き、原作にもっとも詳しいエニルが解説を引き継いだ。

 

「そうだ、マリコさんが僕より小さな子供の姿になっていたんです!

 まるで魔法でも解けたみたいに!

 あれがマリコさんの本来の姿なんですか?」

「恐らくはブラスターマリ原作のマリコの姿だろう。

 確か当時、小学5年生だったはず……」

 

 ロウジが裏返った声で叫び、エニルが難しい顔で答える。

 その間にトロンはELバースセンターでの検査結果を目を通す。

 マリコのアバターデータは一つだけ、子供の姿など登録されていない。

 

「いいえ、マリコさんの年齢は25歳。

 ロウジのよく知る大人の姿こそが本当のアバターよ。

 子供の姿は、おそらく悪い魔法で姿を変えられてしまったようなものね」

 

 ロウジにとってわかりやすい言葉で説明しながら、トロンは内心の動揺を隠しきれずにいた。

 強制的に他者のアバターを変更するなど、簡単な行為ではない。

 

「NPCとして登場予定だった10歳のマリコ・スターマインのアバターは製作していた。

 恐らくはその姿の情報に置き換えられているのだと思うけれど……」

「“木星妖怪”が見せた幸せな夢にマリコの精神が引きずられ、

 家族の姿に相応しい自分であるように己を変更してしまっている、という事か……?」

 

 情報生命体として生成されるELダイバーのアバターは、自意識と密接に結びついている。

 普通のダイバーですら、アバターを変えれば口調や振る舞いも変化する。

 ELダイバーがアバターを変更されれば、いったいどれほど内面に影響が出ることか。

 はたして無事に元の姿に戻れるか、トロンは危惧を胸の内でそっと噛みしめる。

 

「あのおうちにいた家族が、マリコさんの本物のご家族って可能性はないの?」

 

 ロウジの言葉に、トロンはゆっくりと首を横に振る。

 残念だが、そんな優しい奇跡のはずはない。

 

「そうだとすれば、25歳のマリコさんと同じ時間軸の人たちがやってくるはずよ。

 弟のバンくんダイくん、成人しているようにはとても見えなかったでしょう?」

「……そう、だよね」

 

 ロウジががっくりと肩を落とす。

 優しいこの子は、まだそんな可能性で迷ってしまうのか。

 

「ロウジ、ハサウェイくん、ガデムさん。よく聞いて。

 マリコさんは、恐らく並行世界の宇宙世紀からやってきている訳ではないわ」

「……は、ぇ?」

「待て、トロン。その情報は……」

 

 ロウジがまん丸に目を見開く。

 とがめるエニルを掌で制し、トロンは言葉を続ける。

 

「ことこの状況に至っては、隠し事をしている場合じゃないわ。

 ここでならともかく、バトルフィールドで知って迷えば、もっと危険な事になる」

 

 カツラギに山のような報告書と謝罪が恐らく必要だろう。

 だが、既に状況は相当ひっ迫している。

 

「待って、ママ。

 だってマリコさんは、自分は宇宙世紀から来たって……」

「マリコさん当人も、そう思い込んでいるだけよ。

 ”宇宙世紀生まれ”と言う設定でGBNで生み出された変種のELダイバー。

 それがマリコさん、そして”異邦人”の本当の姿よ」

 

 トロンではなくママと呼んでくる。ロウジの動揺が心に痛い。

 本当に宇宙世紀が世界として存在しており、マリコが来訪者である可能性も完全にゼロではない。

 だがトロンはあえて、きっぱりと言い切った。

 

「……うそ。

 じゃあ、マリコさんが会いたがっていた家族なんて存在しなくって。

 マリコさんの帰りを待ってくれている家族なんて、存在しない、ってこと?」

「……ええ。

 おそらくそうよ」

 

 震えるロウジに、声だけは優しくトロンはうなずいた。

 ハサウェイが大きく目を見開いている。

 ガデムがショックを受けた表情で、それでも納得顔でうなずいている。

 

「そんな……」

「状況は理解してもらえたかしら。

 その上で、我々運営はマリコさんの救出作戦を決行します」

 

 どれほど現実が過酷だろうと、マリコを偽りの夢に囚われたままにはしておけない。

 畳みかけるように、トロンはロウジへ告げた。

 だがそこに“仮面の父”が待ったをかける。

 

「ストップだ、トロン。

 15分、休憩を入れよう」

 

 ぱんぱんと音高く拍手し、議論の場を冷やす。

 そのまま優しい声音で、“仮面の父”がロウジへと語り掛ける。

 

「ロウジやハサウェイくん、ガデムさんはAFKしても構わない。

 飲み物で一息入れて、頭と心を休めてきなさい。

 その間に襲撃があれば、残った私とエニルで対処する」

「……そうね、その通りだわ。

 休憩します!」

 

 我ながら、焦りで視野が狭くなっていたようだ。

 ロウジをしっかり納得させなければ、またあの子は部屋の外へ飛び出してしまうだろう。

 “仮面の父”へ軽く頭を下げ、トロンは議論の中断を宣言したのだった。

 

 

 

 今度こそ、間違える訳にはいかない。

 ロウジへ目をやり、“仮面の父”は内心で強く決意する。

 

「それでは、再開します」

 

 20分後、やや遅刻したロウジで全員が揃い、トロンが声高に宣言する。

 大人たちの手元には、休憩中に詰めておいた作戦草案がある。

 

「まず、ロウジ。聞きたいことはあるか?

 どんな些細な事でも構わない」

 

 トロンに代わり“仮面の父”はロウジへ優しく問いかける。

 たっぷり十秒以上迷ってから、おずおずとロウジが言葉を発した。

 

「……ねぇ、パパ。

 マリコさんは、幸せな夢の中にいた方が幸せなんじゃ?」

 

 不安げに瞳を揺らがせ、ロウジが言う。

 この子は本当に優しい。仮面の下で目を細め、“仮面の父”はロウジと向き合う。

 

「たとえニセモノの家族だって、夢の中にいる方が幸せなんじゃ……?」

「……ふむ。

 実際にあの家で家族といるマリコさんを目撃したのはロウジとハサウェイくんだ。

 その上で、ロウジがそう思ったのかな?」

 

 ロウジが子犬のように首を振り、ハサウェイを見やる。

 ハサウェイがうなずき、厳しい顔つきで発言する。

 

「オレは絶対にそうは思わない。

 どれだけ甘く優しくても、あれはニセモノだ」

 

 ハサウェイくんは、自分と他人に厳しい子だ。

 静かに頷き、“仮面の父”はロウジへ問いかける。

 

「……なるほど。

 ハサウェイくんはそう思うのだね。

 だが、ロウジ。

 他人を参考にするのはいいが、引きずられてはいけない。

 お前自身は、どう思ったのだ?」

 

 ロウジが腕を組み、唇をひん曲げ、うなる。

 “仮面の父”は無言のまま、悩むロウジが言葉を発するのを辛抱強く待った。

 

「……マリコさん、涙を流して喜んでました。

 あの姿になってからも、とても家族の皆さんと仲良しそうで……」

 

 順序だてた説明こそ苦手だが、ロウジは人一倍他人に共感できる子だ。

 その直感は信じていいはずだ。

 “仮面の父”は静かに頷き、ロウジが思いを吐き出すよう促す。

 

「でも、アレは……何か違う。

 僕が幸せになって欲しかったのは、僕の知ってるマリコさんだ。

 あのマリコさん、僕達と過ごした記憶も少しずつ改変されて。

 あのマリコさん……やっぱり、不自然だよ!」

 

 きっぱりと言い切り、ロウジは自分でも驚いたように口元に手を当てる。

 ロウジの眼から、迷いは消えていた。

 静かにうなずき、“仮面の父”は問いかける。

 

「……ロウジは、どうしたい?」

「僕は、元のマリコさんに戻ってほしい。

 お別れは覚悟したけど、あんなお別れはヤだ……!」

 

 必死に訴えるロウジに、心は決まった。

 優しく頷き、“仮面の父”はロウジと目線の高さをあわせる。

 

「……わかった。

 ゆこう、ロウジ。

 お前の声をマリコさんへ届けに」

 

 ぱあっとロウジの表情が明るく輝く。

 ようやく自分は間違えずに済んだらしい。

 

「トロン、作戦は決まった。

 ロウジを軸に奪還作戦を立てる」

「待て、危険すぎる!

 あの家の中は“木星妖怪”の巣窟だぞ。

 ロウジが幸せな夢の中に踏み込み、呑み込まれることになる」

 

 厳しい口調でエニルが抗弁する。

 

「……成算はあって?」

「無論だ。

 ロウジの言葉が、マリコくんの心へもっとも響く」

 

 トロンが厳しい顔で問いかける。

 子供を危険に巻き込む訳にはいかないと考える二人の指摘は、大人として正しい。

 

「私がロウジとマヴを組み、先行する。

 ロウジの身の安全と全ての責任を背負おう」

「……えっ!?」

 

 ロウジが驚きの叫びをあげる。

 エニルとトロンが唇を引き結び、そっくりの仕草でうなる。

 まったく、保護者つきとは我ながら過保護なことだ。

 

「どうしたロウジ、私がマヴでは不安か?」

「……ううん、パパの横なら世界一安全だよ!」

 

 あまりにも無邪気に、ロウジが笑う。

 伸ばした手でそっと頭を撫でてやりながら、“仮面の父”は言葉を続ける。

 

「家の中には私が先行して突入する。

 ロウジは少し遅れて入るように。

 エニル、トロン、二人は外に待機だ。

 万一の時はハサウェイ君のように覚醒を呼びかけてくれ」

「……いいだろう。貴様を信じよう」

 

 エニルが頷き、こちらに歩み寄る。

 握り拳をこちらの腹に当て、エニルが低い声で“仮面の父”を睨む。

 

「ロウジを頼んだぞ」

 

 エニルの握り拳を掌で包み返し、無言でうなずく。

 子供達を安全に送り返す。それが大人の最低限すべきことだ。

 

「ハサウェイくん、君はどうする?」

「戦います。何か協力させてください!」

 

 ハサウェイがきっぱり言い切る。

 “仮面の父”は静かにうなずき、トロンとエニルへ向き直る。

 エニルが肩をすくめ、トロンがうなずいた。

 

「エニル、あなたは私と組んでコロニー内に突入。

 ロウジ君達を“丘の上の一軒家”内へ送り届けた後、

 囚われたエセリアとボブを確認し、解放します」

「心得た」

 

 トロンの指示に、エニルがクールに頷く。

 

「ハサウェイくん、あなたはエニルとトロンの護衛よ。

 コロニー内の敵への露払いを願います」

「了解!」

 

 ハサウェイがはっきりと良く通る声で宣言する。

 

「ガデムさん、ガードガンプラでパプアを守り、

 前線の私と連携して通信の構築を。

 我々が反応途絶し、全滅の恐れがある場合は……

 カツラギの判断を仰ぎ、あらゆる戦力を投入してください」

「……了解じゃ!」

 

 厳しい顔でガデムが声を張る。

 トロンがこちらへ視線を向ける。

 “仮面の父”は頷き、ロウジの肩を叩いた。

 

「ロウジ、私達が必ずマリコくんの元へ連れてゆく。

 お前の想いを、マリコくんへぶつけて来なさい」

「らじゃー!」

 

 満面の笑顔で、ロウジが宣言する。

 その笑顔こそ、自分が今度こそ間違えなかった証だ。

 

「各員はガンプラに搭乗、各種チェック終了後に出撃します!」

「了解、総指揮官殿。

 作戦名は?」

 

 声を張り上げるトロンに、“仮面の父”はかすかに笑って問いかける。

 虚を突かれたトロンが、まん丸に目を見開く。

 こんな時の仕草は、愛娘とそっくりだ。

 

「作戦名は……“愛・覚えていますか”で!」

「……名案だ」

「カッコいい!」

 

 何も知らないロウジが目を輝かせる。

 文句あるかと睨むトロンに、“仮面の父”は笑ってうなずく。

 スポンサーに怒られるぞ?

 そんなツッコミは、そっと心の中だけでしまいこむ。

 

「今あなたの声が聞こえる。

 ここへおいでと……か」

 

 うろ覚えの歌詞を呟き、“仮面の父”はうなずく。

 そうだな、悪くない作戦名だ。

 これから我々は恐るべきバケモノどもに愛で立ち向かうのだ。

 必ず、ロウジを無事に連れ帰る。

 マリコくんも必ず連れ帰る。

 この判断を、間違いだったことにしないために。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ペナルティキックオールディーズ&特殊なバトルスタイルについて

 

 基本的にダイバーはガンプラに搭乗してバトルを行うが、例外も存在する。

 例えば今回のトロンは生身アバターでバトルフィールドに登場している。

 トロンの使用ガンプラはヘビメタガンダムが登録されており、

 ペナルティキックオールディーズのバンドメンバーはサポートメカとなっている。

 バトルする際もガンプラへ搭乗するのではなく、

 人間サイズのバンドメンバー達と共にライブステージを展開する形をとる。

 トロンが受ける攻撃ダメージは全てヘビメタガンダムに適応され、

 ヘビメタガンダム並びにバンドメンバーが大破した時点で退場となる。

 モビルドール仕様のサーペント、AI仕様のゼファーなどの特殊な機体はコクピット視点でなく、

 後方第三者視点でガンプラを操縦し、バトルさせることも可能となっている。

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