リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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一度は言ってみたい台詞
リアルで言うと死んじゃいそうで嫌ですが

次回は6/1(日)予定です。
何とか間に合いますように…


ミッション5-9 ここは任せて先に行けって言おう

 

 

 スペースポートのエアロックが炎に包まれ、炸裂音と共に吹き飛ぶ。

 そして、通信回線に不気味な悲鳴が響き渡る。

 

『キシャアアアアア!?』

 

「うわ、擬態してた!?」

 

 モニターでうごめく巨体を睨み、ハサウェイは唖然とウェポントリガーに指をかける。

 だがそれより速く、忍び寄る一筋の影があった。

 斬! そんな文字が見えそうなほど見事に、忍びの太刀が大型の“木星妖怪”を真っ二つに断ち割る。

 

「おのが狩られる側だとまだ気付かぬとは、

 “木星妖怪”驕慢なり……!」

 

 クールに呟きながら、エニルのジェガン・Kがエアロックの残骸を押し開け、コロニー内へ侵入する。

 油断なく周囲を警戒し、合図したエニルに続き、ハサウェイもキャプテンΖをコロニー内へと侵入させる。

 周囲に敵影なし。目視とセンサーで警戒し、ハサウェイもエニルへにやりと笑いかける。

 

「お見事、エニルさん!

 ……さっきのトラップは、いったい?」

「ミノフスキー粒子が空間で一定の濃度に達する瞬間、

 同空間に大量の空気を流す。

 飽和状態におかれた粒子はごく簡単な弾みで連鎖反応を引き起こす……」

 

 クールな声で、エニルが朗々と謎の呪文を詠唱した。

 

「……粉塵爆発である!」

「……漫画でよく見るアレですか?」

 

 いや、理屈は判る。けれど意味がわからない。

 ……ミノフスキー粒子ってそういうものだったっけ?

 

「ハサウェイくん、聞き流していいわ。

 アレは魔法と同じただのスキルよ」

「“影忍”の固有スキル、ミノフスキー・アーツだな」

 

 ハサウェイはトロンの忠告にありがたく従う事とした。

 空襲警報のサイレンが耳障りに響くΖバンチコロニーを、ジェガン・Kが疾駆する。

 その後ろにトロンとヘビメタガンダム達、ペナルティキックオールディーズがオープンカーで追随する。

 ハサウェイはキャプテンΖで空から周辺警戒だ。

 

「敵、第一陣、急速接近!」

「……目視確認、バイオガンプラです!」

 

 エニルの警告にやや遅れ、キャプテンΖのセンサーが敵の接近を捉える。

 

「第一陣、兵隊型18!

 ジオン第6小学校体育館に母艦型1が擬態!」

「サウンドウェーブ発振準備!

『閃光 [Alexandros]』」

 

 おおっと、思ったより数が多いぞ!

 レーダー反応に目を剥くハサウェイを、トロンの勇ましい声が鼓舞する。

 タイトルを聞いた途端、脳内でカボチャとセセリアがいっしょに踊り始める。

 オープンカーのヘビメタガンダム達が一斉に楽器を取り出し、

 スピーカーからとても聞き覚えのある前奏が流れ出す。

 

「不正アクセス者への強制執行開始!

 サウンドウェーブ、行くわよ。

 アタシの歌を聞けーぃ!」

 

 不可視の音の波が、曲と同時に敵第一陣へと叩きつけられた。

 その正体は、運営権限による不正アクセス者への排除コマンドだ。

 

『キシャアアアアア!?』

 

 直撃を受けた兵隊型のバイオガンプラの大半が溶け消え、母艦型が擬態を解いて苦悶に悶える。

 

「バイオガンプラ残り6!

 残りは全部有人機ね、直接排除お願い」

「了ぉ、解っ!」

 

 アップテンポなBGMが響く中、“木星妖怪”達の動きも明らかに鈍い。

 トロンの言葉に息を吸い込み、ハサウェイは母艦型の巨体に狙いを定める。

 

「落ちろ、バケモノぉ!」

 

 ハイメガランチャーのビームが直撃し、胴体の半ばを消し飛ばす。

 その抉れた傷口の下部、不気味にうごめく肉塊が見える。

 コアを仕損じた! 叫ぼうと息を吸い込んだ刹那、コアに飛来した何かが突き刺さる。

 手裏剣だ。コアへの直撃に、母艦型が断末魔の悲鳴と共に崩れ落ちる。

 

『ギジャアアアア!』

 

「……エニルさん、感謝を!」

「残りの兵隊型をやるぞ、ハサウェイ。

 派手にやって敵の目を引きつける!」

 

 そうだ、こちらの役目は陽動だ。

 ハサウェイはうなずき、グレネードを敵めがけて射出する。

 ロウジと“仮面の父”を、“丘の上の一軒家”へ無傷で送り届けるんだ!

 

「テメェらの相手は……

 オレで十分だっ!」

 

 ハサウェイは叫び、ハイメガに増設したヘビーマシンガンをばらまき、敵の動きを抑えにかかる。

 再生も阻害されているのか、ヘビーマシンガンの弾着で敵の動きが鈍った。

 そして地上を走る影がかすかに視界の隅を走ると同時、バイオガンプラの陣形が端から切り崩されていく。

 ジェガン・Kだ。まさに疾風のように敵陣へ飛び込み、ビームカタナでコアを切り飛ばす。

 その背後から踊りかかるバイオガンプラへ狙いを定め、グレネードを叩き込む。

 よろめいたところに、ジェガン・Kが神速の踏み込み。

 近い間合いから切り上げられたビームカタナがコアごとバイオガンプラを真っ二つに断ち割る。

 あっという間に数は半分。残りが壊滅するのはもう間もなくだった。

 

「ナイスフォロー、ハサウェイ」

「エニルさんこそ、お見事です」

 

 即席コンビネーションにしてはうまくやれた。

 エニルの賞賛に、ハサウェイはにこりと笑ってサムズアップする。

 

「ちょっとハサウェイ、僕らの獲物残ってないじゃん!」

 

 ちょっといい気になったとこへ、笑いを含んだロウジのブーイングが横入りする。

 スペースポート付近に僚機反応が2機、ルブリス・GKとワンゼロオーだ。

 

「キミの道はオレやエニルさんが開く。

 悪いけど、今だけお姫様やっててよ」

「その通りだ、ロウジ。

 我々がこちらのジョーカーだ。

 今は”丘の上の一軒家”へ辿り着くことだけを考えなさい」

 

 まったくもう。かわいく拗ねるんじゃない。

 頬を膨らますロウジを、ハサウェイは”仮面の父”と二人がかりでなだめる。

 

「はぁーい……」

「敵の増援が接近中よ、気を付けて!」

 

 トロンの警告で、ぴりりと空気が引き締まる。

 守備隊基地から、3機のザクが迎撃に上がってくるのが目に入る。

 次から次へと、やっぱり敵の巣だな!

 

「いくら数だけ集めたって……!」

 

 キャプテンΖにハイメガランチャーを構えさせ、ハサウェイは牽制のヘビーマシンガンをばらまく。

 だがまっすぐ突っ込んできたザクが弾幕に飛び込み、次々に着弾、2機が火を噴き、墜落していく。

 

「……え、ウソだろ?」

「よっわ!?」

 

 弱すぎる。手癖で放った牽制のグレネードが敵コクピットに着弾、最後の1機が戦闘不能になる。

 バイオガンプラですらない。まるで初心者用ステージの雑魚敵だ。

 遅れて守備隊基地の格納庫入り口に、影が一つ動く。

 上がってくる前に、落とす!

 何の気なしにハイメガを構え、ロックオンと同時にウェポントリガーに力を込める。

 

「ハサウェイくん、ダメよ!」

 

 ターゲットサイトで捉えた詳細な敵影に、ぞっと背筋へ悪寒が走る。

 トロンの叫びと本能の警告はわずかに遅く、トリガーが引き絞られた。

 ハイメガが放たれると同時、ハサウェイは操縦桿を素早く切り返す。

 敵機へ正確に着弾したメガ粒子の帯が、身を翻したキャプテンΖめがけて弾き返される。

 辛うじてかざした左のシールドに、強烈なハイメガが着弾する。

 ビームコーティングの上からビリビリと重い衝撃が伝わる。

 

「うわ待って、ハサウェイ、アレ……!」

「エニルさん、トロンさん、まさかアレは……!?」

 

 こんな時だってのに、ロウジがちょっと楽しげに声を上げる。

 ぎりりと奥歯を噛み締め、ハサウェイは叫ぶ。

 間違いない。あの輝くロッドを見間違える訳がない。

 ビームの余波でかすかに焼けたモニターに、雄々しく立つガンプラが映っていた。

 

『人々が営み暮らす人工の大地。

 私達のスペースコロニーへ空襲をかけるとは。

 あなたの心に正義の文字はないの?』

 

 緑のマッシブなジオン公国らしいパイプつきのフォルム。

 ザクの名を持つ機体が、輝くロッドを手に可憐にポーズを取る。

 ハサウェイのうめきを、エニルとトロンが肯定した。

 

「……ああ、間違いない!」

「マリコさんのバトルデータをコピーしたボスガンプラよ!」

 

『この……ブラスターマリと1日号が相手よ!』

 

 エニルとトロンの言葉にかぶせるように、マリコさんそっくりの音声が叫ぶ。

 

「アレ、ブラスターロッドだ!」

 

 ブラスターロッド! ロウジ相手の苦い敗北の記憶が心の隙間から這い出す。

 ならばこいつに、距離をとっての銃撃戦はまったくの無意味!

 

「こいつは……マリコさんじゃない、そういうことですね、トロンさん!」

 

 単射したマシンガンがかざしたロッドに防がれ、斜めに跳弾する。

 やはり実弾も通じない!

 スラスターを切って落下軌道に入りながらハサウェイは素早くウェポンチェンジ。

 ハイメガをしまい、左手のビームサーベルを抜き打ちざまに斬り付ける。

 鍔迫り合いエフェクトが激しくスパーク、強烈なノックバックに押され、後方へ飛び退る。

 

「ハサウェイ、僕も……!」

「エニルさん、ロウジを頼みます!」

 

 ロウジの言葉を遮るように叫び、ハサウェイはブーストボタンを前へと押し込む。

 キャプテンZが白兵距離へと飛び込み、1日号へ左手のビームサーベルを真っ向から切り下す。

 振り回されたブラスターロッドと撃ち合い、またもつばぜり合いエフェクトが発生する。

 

『……やるわね、でもっ!』

 

 弾かれ、キャプテンZは大きく後方に飛び退る……そのはずだった。

 ふわりと重力を感じさせない動きで、1日号が開いた間合いに飛び込んで来る。

 辛うじてサーベルを敵と自分の間に差し込むのが限界だった。

 強烈なブラスターロッドの振り下ろしに、キャプテンZが激しく吹き飛ぶ。

 衝突警報! 全力でふかしたスラスターが、コロニーの大地への激突をギリギリで防ぐ。

 

「ハサウェイっ!?」

 

 ロウジの悲鳴を打ち消すように、ハサウェイはブーストボタンを思い切り押し込む。

 悠然と宙に浮かぶ1日号を相手に、キャプテンZが果敢にサーベルで討ちかかる。

 いくらパワーが強くたって!

 

「ハサウェイ君、やるんだな!?」

「ブラスターロッド相手は、オレだけです!

 だから、こいつはオレが……!」

 

 エニルの問いに、ハサウェイは歯を食いしばり、叫ぶ。

 あの苦い敗北は、思い出したくなどない。

 それでもあの経験は糧で、力だ。こいつは他の誰にも任せられない!

 

「行くんだ、ロウジ!

 ……マリコさんを頼んだよ!」

「……わかった。

 ハサウェイ、負けないで!」

 

 泣きそうなロウジに、ハサウェイはにやりと強気に笑う。

 あの時のロウジの方が、もっと遥かに強かったさ。

 いくらマリコさんが本家本元だろうと、こいつはただのコピーだ。

 

「コピーデータのニセモノなんかに……

 負ける訳に、いくかぁっ!」

 

 猛然と振り上げられたブラスターロッドをバックステップ回避。

 続け様の振り下ろしを左へステップ回避、サーベルを突き返す。

 1日号がふわりと後ろに下がり、攻撃を避ける。

 

「全機、離脱成功。

 ハサウェイ君、後は任せたわ!」

 

 トロンの声に、ハサウェイは無言でうなずき浅く息を吸い込む。

 ロウジ達は迂回に成功したようだ。

 

「トロンさん。頼みました!」

 

 ブラスターロッドを構えて間合いを図る1日号を睨み、ハサウェイは操縦桿を握り直す。

 戦闘の結果は力学だ、気合や気負いで結果は動かない。

 ただ強い方が勝つ。そうわかってはいる。

 

「さぁ後は……

 こいつにオレが勝つだけだな!」

 

 それでもハサウェイは白い歯を見せ、強気に笑う。

 あの時のロウジへ負けたのは、自分の方が弱かったからだ。

 それでも悔しさは消えない。

 再戦をずっと夢見て来た。

 

「初めてお前に感謝するよ……”木星妖怪”」

 

 あの時愚かなマフティーだった自分と、対峙させてくれたのだから。

 あの日の自分を越えてやる。ハサウェイは決意高らかに1日号を睨み据えるのだった。

 

 

 

「パパ、見えたよ!」

「“丘の上の一軒家”目視」

 

 まずは、入口まで辿り着いた。

 ロウジの声に“仮面の父”は静かにうなずく。

 コクピットの正面モニターに、二階建ての住宅が映っている。

 “木星妖怪”の巣であり、マリコが囚われた場所だ。

 

「……変だよ、パパ。

 キャプテンΖの乱入でぶっ壊された跡がどこにもない」

「オブジェクトなら自動修復されるぞ。

 だが……そういう問題でもなさそうだ」

 

 油断なく周辺を警戒し、“仮面の父”は呟く。

 敵影はなく、辺りは空襲警報のサイレンすら聞こえない静けさだ。

 だがその一軒家からは何か禍々しい気配を感じる。

 

「エニル!

 心眼センサーの映像を回してくれ」

「少し待て。

 ……お前にはどう見える?」

 

 “心眼センサー開眼”、その文字と同時に見える世界が置き換わる。

 少し離れて隠密するエニルのジェガン・Kが映像を共有したのだ。

 何の変哲もないはずの一軒家の姿がぼやける。

 残っているのは玄関と扉とその壁だけ。

 後はただひたすら、白と虹色とピンクの入り混じった不可思議な空間が広がっているだけ。

 

「まるで……ダンジョンの入口だな」

「それもラスト間近の厄介なヤツね。ロンダルキアとか」

「……同感だ。

 “木星妖怪”が手ぐすね引いて待っているぞ。

 あの扉を開けたものは、恐らく幸せな夢に飲み込まれる」

 

 トロンがおどけた様子で呟き、エニルが厳しい表情で告げる。

 あの扉はいわば、精神世界への入口といったところか。

 ゆっくり深く呼吸を繰り返し、静かに“仮面の父”はアバターの転送を選択する。

 転送先は愛機の足元だ。軽い音と共に視界が移り変わり、アバターの足がコロニーの大地を踏みしめる。

 目の前には、ダンジョンの入口である扉がある。

 振り返れば、膝付き駐機姿勢のワンゼロオーが見える。

 

「よし、予定通り私が先に中へ入る。

 ロウジは5分後に中へ入ってくれ」

「はい、パパ!」

 

 愛娘の元気な返事に頷き、“仮面の父”は身を潜めるトロンへ言葉を投げかける。

 

「トロン、ロウジの監督と万一のフォローは頼む」

「了解、任せて。

 安心していってらっしゃい」

 

 気丈に胸を張り、ふわりとトロンが微笑む。

 不安はあるだろう、けれど今更言ってもロウジを怯えさせるだけだ。

 トロンはいつも、自分を笑顔で見送ってくれた。

 

「……ロウジ」

「なぁに、パパ?」

 

 愛娘へ言葉を投げかけながら、“仮面の父”はアバターのアイテムを変更する。

 “赤い彗星のひと”のアバターが仮面を外し、目元だけを隠すミラーシェードを装着する。

 このミラーシェードはかつて師と仰いだ二代目メイジンがつけていたもの。

 お守りだ、自分の弱い心を鎧で覆うための。

 

「メイジンを目指すためにお前と妻を切り捨てる……

 私はあの時、選択を間違えたのだろう」

「……っ」

 

 個別通信で、“仮面の父”は静かに愛娘へ懺悔する。

 ロウジが悲痛にうめき、表情を歪める。

 愚かなことだ。他の全てを切り捨てなければ、高みへ至れぬと信じて。

 その結果高みにすら届かず、いたずらに愛娘を傷つけた。

 

「何度も間違え、お前を傷つけた。

 我ながら虫のいい話だ……けれど」

 

 ガンプラ越しに愛娘を見上げ、“仮面の父”は静かに言葉を紡ぐ。

 己の弱さを認め、先に進むのだ。

 

「今度こそ、お前を守る。

 マリコくんも助け出す。

 信じてくれるか?」

 

 舞台で主役だったことなどない。

 この身はずっとメイジンに蹴散らされる端役だ。

 けれど今度こそ、全てを拾い上げてみせる。

 愛する娘と愛する妻、大切な家族達を。

 

「信じるよ……ううん。

 ずっと、信じてるよ!」

 

 愛娘のまっすぐな言葉が、すっと胸に沁み入る。

 

「パパはなんにも間違えてなんかない。

 ガンプラに、メイジンに、全力で挑んだだけだもん」

 

 あれほど間違えてもなお、愛娘は自分を肯定してくれる。

 確かな事実が“仮面の父”の心に火を灯す。

 

「パパは誰よりカッコよくて、

 パパのガンプラはサイキョーで!

 だから……大丈夫、信じてる!」

 

 誰より無邪気で重い信頼の言葉が、まるで聖火のようにロウジから託される。

 両手で抱えるようにして、“仮面の父”はそっと思いを掻き抱いた。

 どんな闇だろうと、この思いが光へ導いてくれる。

 “仮面の父”はゆっくりと足を踏み出し、玄関の扉に手をかける。

 

「……ありがとう。

 行ってくる、ロウジ」

 

 負けられない。負けるものか。

 娘に恥じない自分であらねばならない。

 ミラーシェードの下で決意を瞳にみなぎらせ、“仮面の父”は扉へ引き開けた。

 

 

 2機のガンプラが交錯する。

 互いに手にした剣が頭部とコクピットに突き刺さる。

 決着を察し、どっと歓声が沸き上がる。

 

『Battle ended WINNER! ……』

 

 我ながらなんとあさましい夢だ。

 システムが自分の名を称えるのを、“仮面の父”は他人事のように聞いていた。

 勝者としてスタジオに通され、セットの真ん中へ座らされる。

 インタビューマイクが渡され、満面の笑顔でトロンが言う。

 

「……おめでとうございます!

 ついに直接対決で三代目メイジンを破られましたね。

 今のお気持ちはどうですか?」

「今はただ、自分を支えてくれたスタッフ……そして家族への感謝でいっぱいです。

 ……まるで勝利の実感がわかないと言うのが正直なところですね」

 

 よそゆきの笑顔を取り繕い、“仮面の父”は素直に告げる。

 実感も何も、違和感だらけだ。

 三代目メイジン・カワグチがあれほど弱いわけがない。

 

「四代目メイジン・カワグチ襲名も確実となりました。

 ガンプラビルダーのトップに立つ意気込みをお聞かせください!」

「三代目より年上の人間が継ぐようでは、次代への継承が絶えてしまう。

 私はそう懸念しています。

 もう一度よく話し合いたいところですね」

 

 口から飛び出したのは、思ったより強烈な拒絶だった。

 改めて“仮面の父”は思い知る。

 自分にとってあの挑戦の日々は、実らずともかけがえのないものだったのだと。

 

「インタビュアーさん。

 私とメイジンの戦績をご存知ですか?」

 

 浅く息を吐き出し、“仮面の父”はトロンへ問いかける。

 こんな浅ましい夢を見せているのは弱さか?

 それとも親切な“木星妖怪”の勇み足か?

 

「戦績13勝12敗、互角の勝負でしたね!」

「……なるほど、実にそれらしい」

 

 “仮面の父”は苦笑を浮かべる。

 遠慮がちな成績がなんとも自分らしい。

 

「0勝25敗、これが私の対メイジンでの公式戦績です」

 

 きっぱりと言い捨て、“仮面の父”はインタビュー席を立つ。

 やはりこれは、甘く都合の良い夢に過ぎないと実感する。

 それでも事前に知らなければ、弱い自分は夢に溺れていただろうが。

 

「……25敗。その全ての敗北は悔しくみじめではあった。

 それでもなお、私はこの敗北を誇りに思う」

 

 毎年2回、時に3回。公的機会の全てで挑戦し続けて来た。

 メイジンにさえ届かず負けたことさえ一度や二度ではない。

 だが、挑戦して敗北したことが今の自分を形作っている。

 

「常に三代目メイジンは常に勝者であり、

 私はずっと挑戦者として全力で挑み続けて来た」

 

 顔を覆うミラーシェードに触れ、“仮面の父”は静かに呟く。

 途方もない努力の先にしか、望む結果はない。

 そう教えてくれたのはあなたでしたね、二代目メイジン・カワグチ。

 向いている先こそ違えど、三代目メイジンはずっと努力を重ねています。

 

「メイジンへ挑戦し続けたからこそ、今の私がある。

 血を吐く努力のさらに上にメイジンがいたからこそ、私はまだ上を目指すことが出来る」

 

 一人ただ研鑽することのなんと虚しいことか。

 目指す頂があるからこそ積み上げられるのだ。

 そして頂に立つものとて、挑む者達なくて果たしてどれほど強くあれようか。

 

「あの敗北なくして、今の私はない。

 そして今の私ごときに負けるメイジンへの勝利など……無価値だよ」

 

 インタビュアーのトロン……擬態した“木星妖怪”に“仮面の父”はきっぱりと断ずる。

 常に挑み続け、なお頂に届かぬ絶望的な非才の身なれど。

 それでも自分が積み上げてきたものぐらい誇って良いはずだ。

 

「感謝する。よくも私に苦く甘い夢を見せてくれた。

 ここはやはり、私の望む終着点ではないのだ」

 

 戸惑ったように首をふり、トロンの顔の“木星妖怪”が笑う。

 

「……では、“挑戦者”よ。

 絶望的な戦いに挑み続ける意気込みをお聞かせください」

「離れてもなお自分を思ってくれていた家族と愛娘のために。

 挑む自分の背中を見せ続けたいと思います。

 愛娘が……そして子供達が、望む夢へ臆せず挑み続けられるように」

 

 差し出されたマイクに、精一杯気取って“仮面の父”が告げる。

 空間がひび割れ、甘い夢が崩壊していく。

 先に見えるの暗くひたすらに長い道だ。

 

「誰も殺さず奪われない戦いに挑むあなたの

 健闘を祈ります、“挑戦者”よ」

 

 “木星妖怪”に背を見送られ、“仮面の父”は道を歩き出す。

 さぁ行こう。愛娘がきっと待ちくたびれている。

 

 

 

 初めてカスタムしたガンプラを、大好きなパパにただ褒めて欲しかっただけだった。

 

「パパ、見て見て!」

 

 作りたてのガンプラを後ろ手に隠し、ロウジは満面の笑顔で書斎の扉を叩く。

 おうちの2階、日当たりのいい部屋がパパの書斎だった。

 ノックにずいぶん遅れ、扉が開く。

 

「どうしたんだい?」

「ほら、これ!

 リアルタイプガンプラ、改造してみたの」

 

 顔を覗かせたパパが、優しい笑みをロウジへ向けてくれた。

 小さな手を前へ突き出し、ロウジは握りしめたガンプラを得意げに示す。

 もしもパパの顔が疲れ切っていることに気付いていれば、ああはならなかったのに。

 

「1/144HGに、SDガンダムのパーツを組み合わせたの。

 名付けて、キュベレイ・ブリザードプリンセス!」

 

 すっごく頑張ったんだよって、ロウジは胸を張ってまくしたてる。

 塗りも加工もへったくそ、オリ設定まみれの未熟なガンプラだ。

 でも当時のロウジには、間違いなく最高のガンプラだったのだ。

 

「ほぉ……やるじゃないか。

 初めてにしてはよく頑張ったぞ」

 

 どこか上の空で、それでもパパが笑顔で褒めてくれる。

 これはロウジにとってけして忘れられない悲しい思い出の日だった。

 10年も前の事だ。まだこの時はパパもおうちで一緒に暮らしてた。

 何度この夢を見てはうなされ、飛び起きただろう。

 だが今日は、いつもの夢とは違った。

 

「あの時のお前は、立派なガンプラビルダーだったよ」

 

 遠くからもう一つパパの声が響き、夢のおうちの壁がひび割れ、弾け飛んだ。

 ピュアホワイトに塗られたガンプラの腕が突きこまれ、夢の中のパパを視界からかき消す。

 姿を現したのは、夢の中のロウジが握りしめたガンプラだった。

 肩の大きなウィングバインダーの上に、人影が一つ腰かけている。

 

「……マリア。何度だって言おう。

 このキュベレイ・BP(ブリザードプリンセス)は、

 世界でたった一つしかない、マリアの最高のガンプラだね」

 

 キュベレイ・BPの肩に腰かけた“仮面の父”が、優しくロウジへ言葉を投げおろす。

 ミラーシェードの下で、口元にとても優しい笑顔が浮かんでいる。

 崩壊していく夢のおうちの中、キュベレイ・BPがロウジへマニピュレーターを差し出す。

 マニピュレーターに抱き着き、ロウジは満面の笑顔で叫ぶ。

 

「ありがとうパパ!」

「……待たせた。

 さぁ、行くぞ」

 

 おっきな乱入者に破壊され、悲しい夢が消え去っていく。

 夢の呪縛が解けたのか、幼かったロウジの姿が14歳のアバターへ戻った。

 肩まで持ち上げられたマニピュレーターを伝い、おっかなびっくりウィングバインダーへ渡る。

 パパの隣に腰を下ろし、ロウジは静かに呟く。

 

「……パパ。

 この時は、忙しい時なのにほんとごめんね。

 色々大変だった時なのに、パパはこの時わざわざ相手をしてくれたんだよね?」

 

 10年たった今ならわかる。多分この時、パパに余裕がまったくなかった。

 第7回ガンプラバトル世界大会、鳴り物入りで三代目メイジン・カワグチが就任した後だ。

 パパがガンプラバトルでメイジンと直接対決の機会をもち……結果は完敗だった。

 少なくともパパはそう思ってる。

 パパがガンプラの全ての能力を引き出し、さらにメイジンがそれを上回ってみせた。

 ガンプラビルダーとしての自分に迷い不安を覚えていたのかもしれない。

 

「家族として、パパとして当然のことだ」

「でもわたしは、それに一方的に甘えてた。

 パパが疲れてるのに気づかず、一方的にしゃべって。

 だから、パパが怒ったのも当然だったと思う」

 

 パパがしんどい事に気付かず、一方的に喋り続け、ロウジはパパの地雷を踏んだのだと思う。

 

「マリア、お前が気に病む必要はない。

 それは私があの時お前を深く傷つけた言い訳にはならない。

 私はお前からガンプラに触れる機会を十年も奪ってしまった。

 ……本当にすまなかった」

 

 思い出せば、ロウジは今でも身がすくむ。

 “お前のこれは、ガンプラではない”

 怒るパパがかけた呪いをパパ自身が解いてくれたのは、本当につい最近のことだ。

 

「どれだけ謝っても、私の罪は消えない。

 消してはいけないんだ。

 あの時の後悔したからこそ、私達はあの時ブラスターロッドを作った。

 今からでもお前達と同居し、お前といっしょにいる時間を作りたいと思った。

 お前が救いたいと願うマリコさんへ、いっしょに救いたいと思ったのだから」

 

 とても優しい声で、パパがロウジへ言う。

 そっか……パパは思ってたよりずっと、わたしに寄り添ってくれてたんだ。

 会議室では呑み込めなかった言葉が、すとんと心にまっすぐ落ちて来る。

 

「ありがとう、パパ。

 パパはわたしにずっと優しかったけれど、

 さらに寄り添おうとしてくれて!」

「ありがとう、マリア。

 お前が人の心へ寄り添える子に育ってくれて、私は嬉しい」

 

 思い出のガンプラに腰かけ、父娘でやさしい言葉を投げあう。

 “ごめん”じゃなくて“ありがとう”を。

 これからもいっしょに歩いていくなら、その方がずっとふさわしいはずだ。

 

「さぁ、“ロウジ”

 気を引き締めなさい。

 ここは敵地の真っただ中だぞ」

「あ、はい。パパ!」

 

 リアルネームじゃなくてダイバーネームで、パパが穏やかに呼びかけて来る。

 そうだ。ロウジとして、マリコさんを助けるんだ。

 気持ちを切り替え、周囲を見回す。

 夢の中のおうちが完全に崩れ去り、辺りにあるのはだだっぴろい乳白色の空間だ。

 まだここは“丘の上の一軒家”の中、“木星妖怪”が作り出した謎の場所なんだろう。

 

「ねぇ、パパ。

 今更だけどこのキュベレイって……?」

 

 ロウジの問いに、キュベレイのモノアイがロウジの方を向く。

 ……え? あれ、ガンプラなのに意識あるの。

 

「正真正銘、お前が作ったあのキュベレイ・BPだよ。

 ママがこっそりブラッシュアップした痕跡もちゃんとある。

 お前があの時の夢に囚われているのが遠目に見え、割って入ろうと焦ったんだ。

 そうしたら、こいつが出て来て……力を貸してくれた。

 おそらく普通のGBNとは少しルールが違うんだろう」

「……そっか、ありがと。

 僕とパパのキュベレイ・ブリザードプリンセス!」

 

 キュベレイのモノアイがウィンクするように明滅する。

 そっか、たぶんここは夢の中の延長線上にあるんだ。

 わからないなりに、ロウジはふわっと不思議を受け入れる。

 

「ねぇ、プリンセス。

 マリコさんがどこにいるか知らない?」

 

 キュベレイ・BPがゆっくり横に首を振り、代わりにマニピュレーターでロウジを指さす。

 その瞬間、ロウジの胸元で何か強い力が膨れ上がった。

 

「わきゃあ!?」

「……ロウジ!?

 それはどうしたんだ?」

 

 強い漆黒の光としか言えないものが、ロウジの胸元から一方向に伸びていく。

 漆黒の光の出どころは、首からかけたままのサタンガンダムのメダルだった。

 

「あ、これ、エセリアさんが作ってくれたお守りだよ。

 そうだ、対になるナイトガンダムメダルをマリコさんに渡してるって!」

「サタンガンダムとナイトガンダムは、導かれてスペリオルドラゴンへと戻る。

 ならばこれは、メダルが引き合っているという事か……?」

 

 エセリアさん、お手柄じゃん!

 ロウジははっと目を見開き、パパと顔を見合わせる。

 じゃあ、この漆黒の光が導く先にマリコさんが居るってことだ!

 

「ロウジ、ゆこう!」

「プリンセス。

 この漆黒の光の先へ僕らを連れてって!」

 

 キュベレイ・BPがうなずき、吹雪をまといながらふわりと浮き上がる。

 マジカルなスラスターの噴射音共に、視界がすーっと後ろへ流れていく。

 キュベレイ・BPの肩の上で、ロウジは静かに拳を握りしめる。

 マリコさんに、正しく思いを伝えるんだ。

 

「……コミュニケーション。

 僕が一番苦手なことじゃん」

 

 学校でどれだけヤな思いをしてきたたろう。

 セセリアとだって、ハサウェイだって、パパやママにだって。

 いっぱいぶつかり、呆れられ、しかられてもきた。

 “仮面の父”が、そっと手の甲におっきな掌を重ねて優しく言ってくれた。

 

「……すまんな。

 不器用なところまで似てしまって」

「ううん。パパに似たんならありがとうだよ!」

 

 重ね合わせた掌がとっても温かい。

 一歩ずつ、少しずつでも歩いていくんだ。

 間違ってたら叱ってくれる人達がいるんだもの。

 さぁ、マリコさんの元へ!

 ロウジは先を示す漆黒の光を、静かにみつめ続けるのだった。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・運営権限強制執行&サウンドウェーブ

 

 トロンが本文中で行った特殊行動について。

 マ●ロス? いいえSDガンダムです。

 歌に乗せて強制執行プログラムを叩きつける事で、

 非有人タイプの兵隊型を排除し、有人タイプの兵隊型、母艦型の操縦を妨害していた。

 他にもバトルフィールドの修復、チャットサーバー再構築、危険なバグの削除など、

 今回のトロンは上位サブマスター権限によるサポートに専念している。

 歌属性は異星人に効果絶大なのだ。

 ヤックデカルチャー

 

 

 

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