リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
次回6/22(日)を目指したいです
間に合うといいな…
アレだけ啖呵を切ってみたものの。
正面戦闘では結局、完敗だった。
「……慮外者め。どこへ逃げたの!?」
マリコさんそっくりの声で、“木星妖怪”操る偽ブラスターマリが叫んでいる。
1日号には結局、まだろくに有効打が与えられていない。
建物の陰で息を殺しながら、ハサウェイは毒づく。
「別に卑劣漢呼ばわりされても一向にかまわないよ。
今のオレは元マフティーで、今は宇宙海賊だ」
何せ、マフティー・ナビーユ・エリンは希代のテロリストだ。
決意をこめ、ハサウェイはコクピットで一人吐き捨てた。
「正面戦闘で倒せない相手なら、どんな汚い手だって使ってやる……」
ここはGBNのバトルフィールド、サイド3のΖバンチコロニー内部だ。
その市街地の路地裏に機体をねじ込み、ハサウェイは小細工の真っ最中だった。
ワイヤーフックを射出し、物陰へと隠す。
時間はそれほどない。大急ぎで仕掛けを施し、隠蔽も雑だ。
それでもAI操作の敵にはこの類が効果的だと、そう教えてもらった。
「左腕部全損……盾ごとどっかいった。
右脚部消失……もう逃げる余裕なんてない。
頭部半壊……どうせ遠距離射撃なんて当たらないし!」
愛機キャプテンΖは満身創痍だ。
手製の眼帯型狙撃サイトももぎとられ、見た目は傷だらけのΖに逆戻り。
でも、手負いの獣が一番怖いんだ。
AIにそう教えてやる!
「見付けたわよ。連邦のMS!」
叫びと共に、路地裏へ敵ガンプラの旧ザク……1日号が舞い降りる。
モニターに映る1日号に、ほとんど見た目のダメージはない。
握りしめたブラスターロッドの輝きは全開、手足頭部も目立った損壊なし。
「くそっ、早すぎる……!」
「もう逃げられないわよ」
焦り半分、演技半分、ハサウェイは叫ぶ。
まっすぐこちらを睨む1日号に、静かに覚悟を決める。
ゆっくりと、そして滑るように1日号がこちらへの間合いを詰める。
気付けばもう眼前、ブラスターロッドを振り上げる1日号がいた。
「ええい!」
切り返すレバーが泣けるほど重い。
ほんの少し身をかわし、左腕部をブラスターロッドに横から叩きつける。
ほんのわずかにそれたブラスターロッドがガンプラの左側をごっそり持っていく。
だがまだオレは生きてる!
スティックを押し倒し、よろめく機体で体当たり。
同時にサブウェポントリガーでワイヤーフックを遠隔操作。
「死なば……もろとも!」
設置しておいたハイメガランチャーが、こちら目掛けて火を噴く。
キャプテンΖともつれあう1日号の背中に、ハイメガが確かに直撃した。
だがまだだ、まだ終わっちゃいない。
よろめく1日号を睨み、ブーストボタンとサブウェポントリガーを同時押し。
スラスターを全開、機体ごと当たりに行く。
一度見せた動きに、1日号が対応しようとするその瞬間、
ブラスターロッドにえぐりとられた右足の付け根が、ビームの刃の輝きを放った。
「義手と義足は……
海賊のトレードマークっ!」
仕込み武器のビームサーベルが、1日号のコクピットへと突き刺さる。
そこまでが機体の限界だった、ブーストを使い切り、そのまま無様に背中から落っこちる。
完全に死に体、だがもう勝負は決まっていた。
「お前に勝ったぞ、マフティー・ナビーユ・エリン……!」
罠からの隠し武器による奇襲だ。
ダメージのある機体では、AIの反射速度ですら間に合わない。
マフティーが負けたブラスターロッド機にハサウェイは勝ったのだ。
ハサウェイは過去の自分への勝鬨をあげた。
「……そんな、1日号が負けるなんて!」
ぐらり、無言のまま1日号がこちらへと倒れこみ、テクスチャーの欠片となって四散する。
勝者をたたえる敗北台詞を残し、偽ブラスターマリの顔がモニターから消える。
「しかし、これは……」
落ち着き、冷静になったハサウェイは愛機の現状にうめく。
右脚全壊、左半身ほぼ大破、バランサーが大不調。まるで動けない。
操縦桿をガチャつかせ、ブーストボタンを押し込んでも、コロニーの人工重力で離陸すら出来ない。
「ハサウェイ、聞こえる?」
「トロンさん!
勝ちましたよ……!」
その時響いたトロンの声は救いの天使のようだった。
そうだ、勝ちに浸っている暇はない。
ハサウェイはトロンに慌てて要請する。
「キャプテンΖがほぼ大破、動けません。
誰か救援の余裕ありませんか!?」
「わたしがそっちに向かうわ。
急いでスペースポートの外へ。
ロウジとマリコさんのガンプラバトルに巻き込まれるわ!」
え? そう思った瞬間、頭上に影が通り過ぎていった。
背後にワンゼロオーを引き連れたルブリス・GKがコロニーの空をフライパスしていく。
「なんだ、ロウジ。
まだそんなちんたらやってるんだ?」
良かった、ロウジは無事なんだね。
ほっと一息つきながら、ハサウェイは皮肉っぽく吐き捨てる。
少し遅れてトロン達、ペナルティキックオールスターズの面々が空から舞い降りて来る。
複数のSDガンダム達が一斉にキャプテンZを手で持ち上げる。
その瞬間、透明な何かがキャプテンZを抱えあげた。
「このままスペースポートへ向かうわ。
……勝ったのね、ハサウェイくん」
「あ、はい。
勝ちました」
トロンの賞賛に、ハサウェイは気が抜けた声で返す。
よく見れば、トロンもSDガンダム達も何かに抱えられたようにコロニーの空にいた。
なんだこれ、ステルスしたメカがいるのか?
「ハサウェイくん、ハードなバトルが終わったばかりで悪いんだけど……」
「まだマリコさんの救出は終わっていないんですね?」
入って来たスペースポートを目指し、ハサウェイとトロンはコロニーの空をゆく。
トロンの控えめな問いに、ハサウェイは質問をかぶせる。
「たぶん次で総仕上げよ。
ロウジのガンプラバトル、手伝ってもらえる?」
「もちろんです。話を聞かせてください!」
三人で訪れた”丘の上の一軒家”から色々始まったのだ。
自分は友達のために、最後まで手を貸す義務がある。
ハサウェイはトロンの問いに生真面目にうなずくのだった。
ハサウェイの勝利とコロニー脱出より、ほんの少し時間はさかのぼる。
「なるほど、どうやら今回の接触は……
誤解から始まったようなのですね」
冷静沈着な面持ちで、マイケル……いや、“木星妖怪”がうなずく。
これほどまでに対話可能な相手だとは思ってもみなかった。
“仮面の父”は驚きを呑み込み、冷静に言葉を続けた。
「では、あなた方の同化や浸食は”攻撃”ではないと?」
「アレは、我々にとって理解するための手段に過ぎません。
我々、”木星妖怪”は観察者であり、審判者です。
そう定められております」
人外の存在らしく、淡々とマイケルが語る。
「引き金を引いたのは、どうやらハサウェイくんのようです。
ですが、あの状況のハサウェイくんを私は責められません」
「正体不明の相手への対処を武力に頼る。
乱暴ですが当然の対応ではあります」
この接触は、非常に有意義な情報交換となった。
ELダイバーとして現れた“木星妖怪”には人への害意はないのだと言う。
人を同化吸収する能力もなく、そのつもりはないのだとマイケルは語った。
「お言葉ですがGBNはガンプラでバトルする、それが主目的の一つである場です。
攻撃の命中が殺害を意味しないGBNにおいて、トリガーが軽くなるのも当然かと」
「なるほど、確かに全ミッションの80%が敵対勢力の全滅やフラッグ機の撃破のようです。
攻撃による殺害が発生しないともなれば、むしろハサウェイくんはよく我慢した方か」
”木星妖怪”と”仮面の父”、互いにガンプラを降りての会談はあまりに平和的に進んでいた。
互いに情報を提供しあい、双方の目的を理解しあう。
要するに、この”木星妖怪”も原作そのままではない、いわばELダイバーと言う二次創作物なのだ。
人の意志を介して出力された故に、”人”らしい人間味が付与されているのかもしれない。
”仮面の父”はそう分析した。
「その後、戦闘を激化させた引き金がエセリアくんの発砲によるもののようですが、
あちらも妥当な判断だと、私も支持します。
大変申し訳ないが、あなた達の戦闘体はあまりにモンスターすぎるのです」
「我々の擬態前の姿は、おそらくそう意図してデザインされております故……
色々とお話し出来て良かった。誤解を正す機会をこうして与えられたのですから。
では、後は我々がご同輩と直接お話しし……失礼」
会話を続ける”木星妖怪”が、再び人間らしい表情を浮かべ直した。
マイケルが浮かべた変化に、”仮面の父”が周囲を警戒した瞬間だった。
「ごめん、お父さん!」
”丘の上の一軒家”の2階の雨戸が引き開けられ、マリコの声が夜空を切り裂いた。
窓から顔を覗かせたマリコが、元気よく宣言する。
「ちょっとロウジくんと遊びに行ってくるね!」
「待ちなさいマリコ。
こんな時間にか!?」
昭和の頑固おやじの顔で、マイケルがマリコを叱る。
”仮面の父”は思わずコンソールで時刻を確認する。
リアル時間も夜だが、ゲーム内の時間は午前3時、見事な夜遊びだ。
なるほど、これは父なら叱らずにはいられない。
「ごめん、パパ。
マリコさんとガンプラバトルしてきます!」
マリコの横から顔を覗かせ、ロウジが叫ぶ。
そうか、ロウジ。それがお前の見つけた答えなのだね。
「……仕方あるまい。
うちの庭でかね?」
「ううん。ここの外。GBNのバトルフィールド!
戦場は思いっきり広く、Zコロニーの外ね。
ロウジくんのために、わたしが知る一番強い機体達を使うの」
渋面のマイケルに、きらきらと輝く瞳でマリコが告げる。
その姿はブラスターマリ原作通りの小学生だ。
だが何故か、今のマリコと“仮面の父”が知る“マリコ君”の姿が重なってみえる。
「……それが、お前の望みなのだね、マリコ?」
窓から顔を覗かせたマリコをまっすぐ見上げ、マイケルが問いかける。
マリコが表情をかすかに歪め、それでもきっぱりと言う。
「……はい。
親不孝な娘でごめんなさい、お父さん」
ああ、マリコくんも気づいてしまったのか。
ここが幸せな夢の中に過ぎないのだと。
”仮面の父”は無言でかすかに唇を嚙みしめる。
マイケルが、同様に唇を噛みしめた。
驚くほど人間くさい仕草で、労わるようにマリコを見上げる。
そしてマイケルが静かに、マリコへ厳しい言葉を投げかける。
「勘当だ、マリコ。
お前はもう、二度と”ここ”には戻って来てはならない」
「……はい。わかりました」
深々と頭を下げたマリコの前、窓の外の中空に両開きの扉が現れる。
扉は音もなく開き、真っ白な輝きを発し始める。
何故か、確信できた、あの先はこの外へ繋がっている。
「ありがとう、お父さん。
行ってきます!」
驚き顔のロウジの手を掴み、マリコが扉へと身を躍らせた。
マリコとロウジ、二人の姿が光に包まれ、ゆっくりと消えていく。
全てを見届け、”仮面の父”は安堵に息を吐き出した。
「ところで、”赤い彗星のひと”よ」
不意打ちだった。
ぐるりと身体ごと振り返り、マイケルがにこやかに問うてくる。
「”GBNはガンプラでバトルするのが主目的の一つ”でしたか?」
「ええ。健全な使い方だと思いますよ」
マイケルが”仮面の父”の言葉を引用してきた。
なるほど、確かにあなた方は”観察者”で”審判者”たらんとするようだ。
”仮面の父”は笑って同意し、うなずく。
「ならば我々も、見せていただくと致しましょう。
あなた方がこの世界で作り上げた、ガンプラバトルというエンターテイメントを」
「良いですね。
ならば共に、保護者参観と行きますか」
“仮面の父”が笑うのと同時に、キュベレイ・BPがファンネルロッドを一振りした。
“仮面の父”の眼前へ魔方陣が展開し、大きな両開きの扉が出現する。
ありがとう、プリンセス。お前は立派に役目を果たしてくれた。
感謝と共に深々と一礼し、“仮面の父”は扉へ手をかける。
「スターマイン大尉、あなたは?」
「我々は多少後片付けをしていきます。
お先にどうぞ」
閉ざされた世界が端からゆっくりと崩壊していくのが遠目に見える。
幸せな夢はこれで、役目を終えたのだろう。
“仮面の父”はマイケルや家族、そしてこの世界へ万感の思いを込めて敬礼した。
「きっと満足ゆくバトルになるはずです。
是非とも御照覧ください。”異邦人”よ」
マリコくんはきっと、巣立ちを終えたのだ。
心の呟きと共に扉を引き開け、白い輝きに身を委ねる。
意識がホワイトアウトし、覚醒していく。
いつかは甘えんぼうのロウジを、こうしてきちんと送り出してやらねばならない。
だかそれは、まだ今ではない。
そして、時はハサウェイの勝利後の時間軸に移る。
白い光の中で、意識が覚醒に向かうのをマリコは感じていた。
手をつないでいたロウジが手を振り、白い光の中へ先に消えていく。
「ねーちゃん、こっちこっち!」
「準備は出来てるぜ!」
目覚めつつあるマリコを引き留める声があった。
手の中に、固い梯子の感覚が戻って来る。
気付けばマリコは、狭い縦長の昇降梯子の途中にいた。
「ここは……そう。
あなた達が呼んでくれたのね、バン、ダイ」
スターマイン家の地下には、秘密の空間があった。
愛しい弟達の名を呼びながら、マリコは縦に長いはしごを素早く二段飛ばしで下りていく。
最後の数段を飛び降り、勢いよく着地。
「遅いぞ、ねーちゃん」
「こいつの準備出来てるよ!」
二つの声が元気よくマリコに呼びかける。
巨大なモニターと多数の機器が並ぶ。そこはとても広いコクピットだった。
「ここで起動させれば、向こうでもこいつが目覚めるよ」
「いやー苦労した、みんなの力を結集してようやくだったよ…」
そっくりの顔で駆け寄ってくる双子の弟達を、マリコは無言のまま両手で抱きしめる。
ありがとう、わたしの大切な弟達。
……そして、顔も知らない親切な誰か達よ。
頬を自然と涙が伝う。
「ごめんね、バン、ダイ。
わたしは、あなた達にたくさんのものをもらったのに……
何も返さず薄情にも外へ出ていく」
この世界は、この弟達は、マリコが望んだからそう作られた。
あまりに幸せなこの夢を、マリコはそう理解している。
お父さんは、あまりにお父さんらしい言葉でわたしを送り出してくれた。
この子達も生意気な弟達らしく、マリコを送ろうとしてくれる。
そうしてくれるとマリコが信じているから。
「大丈夫だよ、ねーちゃん
……じゃ、ダメか。ええと」
弟達が困ったような顔で笑い、首を横に振る。
静かで無機質な顔になり、弟達が“木星妖怪”として言葉を発した。
「気にするな、ご同輩。
誰かを真似る、誰かに夢を見せる。
これは我々に課せられたただの習性であり、
我々が無数にくり返す一つの試行に過ぎない」
“木星妖怪”と言う呼び方をマリコは知らない。
だが、彼らが同じ“異邦人”だったことは理解した。
「我々は数えきれない試行をくり返す。
正しい先へとたどりつくために。
だが、正解が何かなどわからない。
本当に正解など用意されているのかどうか。
それでもなお我々は試行を続ける」
人とは異質な何かが、人とは違う理屈で慰めの言葉をかけている。
不思議と、心が休まるのを感じる。
人とは違うけれど、そこに確かに通う心があった。
「ご同輩、君は先へゆきたまえ。
この試行がどう終わるのか、楽しみにしている」
「一日家族ごっこ、けっこう楽しかったぜ。
またな、ねーちゃん!」
涙を拭いて、マリコは笑う。
確かにわたしは、この世界に救われた。
「じゃあ、改めてお願い。
わたしと同じ、見知らぬ“異邦人”さん。
最後に力を貸して。
ロウジくんとガンプラバトルをするそのためだけに!」
「「了解!」」
弟達がにやりと笑い、操縦席にそれぞれ座る。
お礼になるかなんてわからない。
出来るのは、胸をはって歩いていくことだけだ。
「バン・スターマインが命ず! 起動せよ!」
「ダイ・スターマインが命ず! 変形せよ!」
今はこの夢の残滓を噛み締めていよう。
マリコは静かに弟達の声に唱和する。
「マリコ・スターマインが命ず! 勝利せよ!」
三つの声が響き渡り、モニターに光が灯る。
『認証完了。
Ζを起動します』
静かで確実な揺れが響き、やがて部屋全体が大きく揺れ動く。
恐るべき力が、今目覚めようとしていた。
さぁご同輩、最前列で見せてあげるわ。
この世界で友達とわたしがどう“遊ぶ”のか。
ゆらゆらと身体が揺れている。
懐かしい後ろ頭がぼんやり浮かぶ。
そうだ、遊び疲れたわたしを背負ってくれたっけ。
いつも気難しい背中が、とっても大きく思えた。
「パパ……?」
「ロウジ……!
起きられるか、ロウジ?」
優しい声と共に身体を揺さぶられ、ロウジは目を開ける。
そこはパパの膝の上だった。周りは見覚えあるガンプラのコクピット。
たぶんここはGBNのバトルフィールド、そして愛機ルブリス・GKのコクピットだ。
「ロウジ、状況はわかるか?
動けそうなら操縦を変わってくれ」
「うわわ、ごめんパパ。
重かったでしょ。腰痛めてない?」
小さなころとは違ってアバターもリアルの身体もずっしり重い。
ちょっと前にパパへだっこをせがみ、痛恨のぎっくり腰をさせた事もあったっけ。
「大丈夫だ、心配するな。
それよりも状況は判るか?」
“仮面の父”が笑いながら身体をひねり、器用にパイロットシートを開けてくれた。
「マリコさんとガンプラバトルを約束して、
いっしょにお外へ出て……ヤッバい、寝坊!?」
ロウジは慌ててシートにドスンと身体を預け、操縦桿を握りしめる。
周囲は真っ暗な宇宙、前方にはサイド3、Ζコロニーが遠景で大きく見えた。
「遅刻だぁ!
マリコさんはもう来てる?」
「大丈夫、マリコくんは今来るところだ」
パパといっしょにマリコさんの幸せな夢に入り、大冒険した。
いっしょに外へ出たはずだがロウジの目覚めが遅れてしまったらしい。
“仮面の父”がルブリス・GKを操り、コロニーの外まで連れて来たのだろう。
小さく頭を下げ、ロウジはシート後ろの“仮面の父”へ問う。
「パパがこのままオペレーターやってくれる?」
「悪いが、そうはいかん。
お守りこそ渡したが、子供の喧嘩に親が出るものじゃない。
何より、ゲストにバトルの解説を約束した」
甘えた台詞に、笑いを含んだ声で“仮面の父”が答える。
あ、そう言えばおまもり貰ったままじゃん。
ちらりと足元に目をやれば、夢の世界で預かった謎の袋がまだ手元にある。
ロウジはぼんやりしながら問いかける。
「え、ゲストって……誰?」
「マリコくんのお父さんだ。
……“木星妖怪”に、と言うべきか」
“仮面の父”が指さすその先にワンゼロオーの機体が静止していた。
パパの愛機のその肩の上に、ノーマルスーツ姿のマイケルさんが腰を下ろしている。
なにそれ急展開、いつの間にそんな仲良くなったの?
「初心者にはやさしく、だ。
そうだろう?」
「そうだよね、さすがパパ!」
父娘そっくりの表情で、顔を見合わせて笑う。
そんな中、通信で声が響いた。
「さぁロウジくん、デートしましょ。
待った?」
「ううん、今来たとこ!」
マリコさんが小学生らしからぬ大人っぽい笑顔でウィンクする。
思わずドキっとしながら、ロウジは笑顔で指を立てる。
「さ、お邪魔虫は失礼しよう。
さぁロウジ、我が家の家訓だ。
やるからには……勝つんだぞ」
「うん、めいっぱい楽しむね!」
笑みを含んだ声で激励し、”仮面の父”のアバターが転送エフェクト共に消える。
たぶん行く先はパパの愛機ワンゼロオーの中だろう。
パパが見てる、マリコさんとのガンプラバトル。
ぺろりと舌で唇を湿し、ロウジは操縦桿を握り直す。
さぁ、かっこ悪いとこは見せらんないぞ。
ホンコンシティの街並みで、漆黒のガンプラ……いや、MSが暴れ回る。
全身のメガ粒子砲が輝くたびにビルが吹き飛び、破壊が撒き散らされていく。
これがガンダム、悪魔の力よとでも言うかのように。
「フォウーっ!」
「ダメ、セセリア。
こんなビームの嵐の中飛び込んだら!」
だがあの中には、フォウがいる。
愛機のコクピットで悲痛な叫びをあげ、エセリアは操縦桿を前へと倒す。
”幼馴染のロウジ”の静止を振り切るように、愛機が黒い巨体へと果敢にとびかかる。
「君は戦っちゃいけない、フォウ、君は!」
「目覚めなさい、エセリア!」
あの名シーンの再現、その直前だった。
ホンコンシティの空にトロンの顔が大写し。
目覚まし時計のベルのようにイカれたハードロックが響き渡る。
鉄パイプでぶん殴られた窓ガラスみたいにモニターがひび割れ、
上半身を覗かせたトロンが、エゥーゴ制服を着たエセリアの襟首をがっしり掴む。
「誰やん!?
って、トロンちゃん……」
「シチュエーションに浸ってる場合じゃありません!」
抗弁も虚しく、トロンの頭突きが炸裂した。
音を立てて世界が崩壊していく。
ぐらりとエセリアの意識がブラックアウトする。
「ああもぉ、トロンちゃんのいけず……
グリプス編、ほんまにいいとこやったのに」
寝言をほざきながら、ゆっくりと意識が覚醒する。
その途端、頬をぱしりとスナップを利かせた平手ではたかれた。
「夢の中でシンデレラフォウしてるんじゃありません、エセリア」
「……ひどいわトロンちゃん。
王子様はお姫様のキスで起こすもんやで」
エセリアのねぼけた台詞に、トロンがもう一発ひっぱたいてきた。
アバター越しで伝わる衝撃と痛みに、エセリアの意識がようやく覚醒する。
目の前に仁王立ちするトロンちゃん、開きっぱなしのコクピットハッチ。
周囲には泥のように溶け崩れていくバケモノの姿。
ここはGBNのバトルフィールド……状況を理解し、エセリアはぞっと身を震わせる。
「トロンちゃん、ありがとさん。
……一生もんの不覚とるとこやったんやな」
「アレは“木星妖怪”の精神攻撃よ。
初見殺しで引っかかるのは恥じゃないわ。
たとえ天才だろうとも、健全な精神を備えていた証拠でしょ」
にっこり笑うトロンを前に、エセリアは素直に頭を下げる。
周囲をみやり、エセリアは背筋を焦りでちりちりさせた。
まだやかましいサイレンは鳴りっぱなしで、不気味な振動がコロニーを震わせている。
明らかにエマージェンシー、容易ならざる事態の気配がある。
「……さ、ボブも救出したし、離脱よ!」
「ちょい待ちトロンちゃん、マリコちゃんは!?」
トロンの示した指の先、小高い”丘の上の一軒家”がモニターで拡大される。
まるで早回しで地盤沈下したみたいに、二階建て一軒家が丘の中に沈んでいく。
なんやアレ。おかしいやろ?
思わずぽかんと口を開け、その時エセリアに電流走る。
「……ちょ、待ちぃ!
あの建物のあの挙動……トロンちゃん、アレ実装したんか!?」
驚愕の面持ちでエセリアは声を上げた。
納品したガンプラの参考資料として履修した原作で、あの場面見たことがある。
「あなたの納品した1/100000ガンプラを取り込み、再現しているわ。
……この挙動、やっぱり、アレよね?」
トロンが真顔でうなずき、小首を傾げて問いかけてくる。
エセリアは無言でトロンの身体を脇に寄せ、愛機の操縦桿を握り直す。
これ、コロニー内いたらアカンヤツぅ!
「こちらトロン!
全機体へコロニー外への退避を勧告します!
戦闘は放棄して即座に外へ離脱を!」
「トロンちゃん、サブシートへ!
こっちもこのままコロニー外へ離脱するで……!」
トロンが後ろで身体を固定するのを確認し、エセリアもブーストボタンを全開で押し込む。
ふわりと愛機がコロニーの空へ舞い上がり、スペースポート目掛けて飛行する。
背面モニターに、スペースポートを目指す多数のスラスターの噴射光が映る。」
押さない駆けない喋らない。
避難は焦らず騒がず、着実に。
幸いここは現実じゃないから、死にゃせんからな!
エセリアは丁寧なマニュアル操縦でコロニーの外を目指すのだった。
浅い呼吸を繰り返し、ロウジはゆっくりと操縦桿を握り直す。
背面側のモニターで、ゆるやかにスラスターを噴射し、離れていくワンゼロオーが映る。
正面遠く、遠景で見えるZコロニーから飛び出してくるスラスターの光がいくつも見えた。
「……さて、それじゃそろそろ行くわ。
ロウジくん」
「いつでもどうぞ、マリコさん」
通信ウィンドウのマリコさんが、小学生アバターに妖艶な笑顔で微笑む。
戦場はサイド3宙域。周囲とレーダーに敵影なし。
ロウジは油断なく周囲へ警戒網を張り巡らせる。
「わたしが知る最強の機体でお相手させてもらうわ!」
さぁ、どこから来る。
ごくりと生唾を飲み干し、ロウジはモニターを見つめる。
次の瞬間、レーダーが異常な音を立ててホワイトアウトした。
「え、なに?」
警戒しながらも、ロウジは呆然と言葉をこぼす。
敵がどこにいるのか、理解するのにたっぷり数十秒ほどかかった。
それはあまりにも巨大で、ただの背景だとしか思えなかったのだ。
遠目で見て、ようやくその意味がわかった。
さっきまでいたサイド3……Zバンチコロニーが、轟音と共にゆっくり着実に姿を変えていく。
「なぁにコレぇ!?」
情けない悲鳴をあげるのは今日何度目だろう。
まさにそれは驚天動地の変形だった。
コロニーの先端が2つに割れ、巨大な肩アーマーになる。
そしてコロニーから巨大な手が、巨大な足が生え、そのシルエットがいびつな人型へと変わっていく。
「コロニーを守る。
その答えが、力が、ここにある……!」
胸を張り、朗々とマリコさんが決め台詞を叫ぶ。
レーダーの異常反応の意味が、ロウジにもようやく判った。
あまりに敵映が巨大すぎ、敵を示す光点反応がレーダー領域を埋め尽くしてしまったのだ。
「敵の攻撃に自ら反撃する究極の防衛システム!」
バンとダイ、双子の弟達がピースサインしながら言葉を続ける。
コロニーの頭部に当たる部位、そこに巨大なモノアイが点灯する。
あまりにふざけた発想に、ロウジは絶句した。
「これぞ、世界最大最強の超兵器!」
全高50km、コロニーそのものを転用した、超弩級サイズの人型兵器がそこにいた。
絶句するロウジへウィンクし、マリコが決め台詞を結ぶ。
「これが……究極のMS!
ザクΖ(ゼット)よ!」
確かにそれは、最大最強で凶悪な兵器だったろう。
いびつなだが、とてつもなくデカいザクのシルエットがモニターに映る。
ありえなすぎる。思わずロウジは叫んでいた。
「それ、もはやガンプラじゃなくない!?」
なんと全高にして50km、つまり50000mだ。
通常のHGガンプラが20m級、サイコガンダムで40m、デストロイガンダムですら60m弱だ。
規格外のサイズを誇るパトゥーリアですら617mだ。
逆シャアのアクシズですら30000mと言えばその巨大さが判るだろう。
「甘いわね、ロウジくん。
これはれっきとしたガンプラよ」
「いったい誰が……エセリアさああああああん!?」
ロウジは爆笑しながら叫ぶしかなかった。
燦然とデータに踊る、製作者:エセリア・ドートの文字。
なんと1/100000サイズ、フルスクラッチらしい。
いったいどんなサイズ感なのさ!?
「さぁ、勝負よ。
ロウジくん!」
「わかりました。
……やってやりますよ!」
余裕たっぷりのマリコに、ロウジはヤケクソで叫ぶ。
両者の合意宣言と共に、システム音声が開戦を告げる。
サイズ差ゆうに2500倍、前代未聞のガンプラバトルの火ぶたが切って落とされた。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・ガンプラの種類によるGBNによるサイズ差について
販売されるガンプラのHGは1/144、MGは1/100が基本となっており、
リアルでは結構なサイズ差があるのは皆さんご存じのことだろう。
GBN内でもやはり同じく、MGが多少大きい機体として再現され、
出力と耐久に優れ、機動性にやや劣る大型機体としてデータで運用される。
同じ1/144のHGでもサイコガンダムやデストロイガンダムなどの大型機体は、
そのまま原作のサイズ差通りの大型機体として再現される。
ではそれ以外のサイズ差違いのキットは、と言うと……
基本的には原作通りのサイズ感になるように再現される。
今回の1/100000ザクZのフルスクラッチガンプラについては、
イベント機体として特例データで再現されているために、
馬鹿げたサイズ差の超巨大ガンプラとして再現されている。