リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
11話の最後に悲鳴上げました。
11話の変身シーンにブラスターマリがよぎりました。
それはそうと本作5話も佳境です。
次回は6/29(日)を目指して執筆中です
ぎりぎり間に合う……といいなぁ
水曜日のジークアクス次第では間に合わずに7/6(日)になるかもしれません
まだ怒りに燃える闘志があるなら、
巨大な敵を討てよ、ガンダム。
「モードチェンジ。
ルブリス、ビットオンフォームだ!」
とはいえ、闘志一つでどうにかなるようなサイズ差とも思えない。
声だけは威勢よく、ロウジはルブリスに機動力自慢のモードをとらせた。
シールドやビット攻撃もまず無意味だ、 そもそも距離が遠すぎる。
いくらでかくて外しようがなくとも、ザクZは砲撃の有効射程のはるか外だ。
「さぁて、こっちから行くわよ!
パンチよ、ザクΖ!」
口火を切ったのはマリコの方だった。
巨大なザクΖが、軽い仕草で拳を振りかぶった。
スラスターの噴射光をきらめかせ、無造作に距離を詰めてくる。
悲鳴のようなロックオンアラートがコクピットに響く。
モニターの視界があっという間にコロニー外壁でいっぱいに。
視界の外から、猛烈な質量がルブリス目掛けて降ってくる。
「うぉわぁっ!?」
全身を泡立たせ、ロウジはブーストボタンを全開。
かすっただけで吹き飛びそうな、恐ろしすぎるパンチだ。
なにせ、腕だけで十数kmのリーチだ。
辛うじて、直撃は避けた。びりびりとコクピットが余波で震える。
「いや、こんなもの……
パンチじゃなくプチ・コロニー落としじゃん!」
違う、これ、ただデカいだけじゃない!
プロのガンプラビルダーの完成度ボーナスが存分に発揮されてる。
このデカいのに素早い、間違いなくエセリアさんのガンプラだ。
「キックよ、ザクΖ!」
ほっとしたのもつかの間、容赦なくマリコさんが叫ぶ。
足を振り上げ、ザクZが身体をひねる。
凄まじい回転半径の回し蹴りがルブリスを狙う。
「ひょわっ!?」
視界をあっという間にコロニーの壁面が埋め尽くす。
操縦桿を縦に切り返し、ルブリス・GKが急降下。
反応は最速、それでもぎりぎり回避が間に合わない。
コロニー落としの前に戦闘機で立ち塞がったらこうでもなるのだろうか。
どでかい擦過音と共に衝撃が走り、ルブリス・GKがきりもみ回転で吹き飛ばされる。
「わきゃあああああああ!?」
舌を噛みそうなぐらいにぶん回され、視界と三半規管がぐるぐる回る。
オートジャイロ機能でスラスターが何度か噴射され、機体の高速回転が何とかおさまった。
ダメージアラートが大合唱、四肢が千切れ飛んでないのが不思議なくらいだ。
「え、エレガント……防御、出来た!」
戦闘不能になってないのは、間違いなくエセリアさんの特訓のおかげだ。
回避不能を悟った瞬間、自分から後方に飛んで衝撃を散らした、んだろうか?
とっさすぎて自分でもどうやったか正直わかんない。
「やるわね、ロウジくん。
じゃあ……これでどう?」
ザクZの超巨大モノアイが輝き、恐ろしいエネルギーが膨れ上がる。
次の瞬間、ぶっといビームが薙ぎ払うように空間を切り裂いた。
「ぴぇっ!?」
避けた、悲鳴は情けないがなんとか避けた。
ロウジは息を荒げ、操縦桿を握り直す。
長距離射撃ぐらいは避けてみないと話にならない。
ウェポントリガーを引き絞り、ザクΖへガンビットライフルを撃ち返す。
必殺のビーム兵器がザクΖの巨大な胴体へ突き刺さり、焦げ目を残して弾けて散った。
「……こ、こんなサイズ差、
どーしろっていうのさぁ!?」
「あら、ロウジくん。
もう諦めるの?」
ロウジの泣き言に、マリコさんがにやりと笑う。
これは挑発で、多分マリコさん流のプロレスだ。
ぐっと唇を噛み締め、ロウジは空転する思考で打開策を練る。
「まさか!
ロウジは負けませんよ、どんな相手でも」
「ハサウェイ!?」
代わりに答えたのは、割り込んできたハサウェイだった。
放たれたザクΖのビームを回避し、ロウジは驚きと喜びの声を上げる。
「あらハサウェイくん。
ロウジの味方するの?」
「そっちだって複数人乗りじゃないですか。
オペレーターの一人くらい卑怯なもんですか!」
上品に口元に手を当て、マリコさんが笑う。
ハサウェイが強気な顔で、堂々と言う。
この通信は……パプアから?
いや、違う。どこから?
迷走する思考を、ハサウェイのサムズアップが止めた。
「ロウジ、オレは勝ったよ。
だから次はキミの番だよな?」
「気楽に言ってくれちゃって、もぉ……」
ハサウェイの激励に、ロウジは朗らかに笑う。
そっか、ハサウェイ、勝ったんだ。
何も根拠はないけど、不思議と力が湧いてきた。
「僕だって、負けてられないね!」
「ふふ、それでこそロウジくんね!」
朗らかに笑い、直後ロウジはぎょっと目を見開いた。
唐突にコクピットが柔らかな光で満たされたのだ。
パパから託された巾着袋が、こうこうと光を放っている。
おっかなびっくり巾着袋の中身を見やり、ロウジは表情を明るくほころばせる。
そうだ、僕には頼れるみんながついている!
「マリコさん。
僕もスペシャルウェポンを使わせてもらいますよ!」
まったくもって、いつもわたしはこうだ。
泣いてわめいて、皆に助けてもらってばかり。
でも、多分それがわたしだ。
ロウジは穏やかに笑い、静かに口元を引き締める。
そして得意げに笑い、ロウジは”スペシャルウェポン”をモニターカメラに高々と差し示した。
パパが持たせてくれたこのおまもり、今使わずしていつ使う。
「パパ謹製の……」
「まさか……それは!?」
ロウジが叫び、マリコがにやりと笑う。
リボンのついた珍妙な形の日用品。
けれどこれが魔法の杖だとロウジは知っている。
「この、ブラスターロッドMK-Ⅱを!」
「“赤い彗星のひと”がくれた2本目の……!」
「そうだ、“魔法のはえ叩き”を握り、叫べロウジ!」
突然、魔法の杖がハサウェイの声で叫んだ。
仕様が違う!? ロウジは狼狽しながらも叫ぶ。
「いくよルブリス!」
あの呪文、忘れたことはない。
勝てない敵に全力でぶつかるために借りた力だ。
もう一度、借りさせてもらいます!
「マジカル・チェンジ!
……ブラスター・フォーム!
Come on! ITINITIGO!」
その瞬間、眼前のモニターにガンプラサイズのブラスターロッドが現れた。
ガンプラサイズのブラスターロッドからあの時と同じ輝きが溢れ出す。
「ロウジ・チャンテは魔法少女である!!」
朗々としたハサウェイのナレーションが響き渡る。
ブラスターロッドからパーツが分離し、ルブリス各部のハードポイントに接続された。
優しい魔法の輝きが、ルブリスを優しく包みこんでゆく。
これ……まさか、ブラスターロッド型のサポートメカ!?
瞬く間にコクピットの表示が複座仕様に変更されていく。サブシートは多分、あっちのサポートメカだ。
ロウジが驚くほんのわずか間で変形は終わっていた。
「ロウジは謎の人物、赤い彗星の人からもらった魔法のはえ叩きの力で……
無敵の少尉 ブラスターロウジとなるのだ!!」
ハサウェイがノリノリで叫び、ロウジは唖然とモニターを凝視する。
なんとそこには、ブラスターロッドと合体したルブリスの新形態の名前が刻まれていた。
それはつまり、この合体が想定通りの運用だったってことで。
「ハサウェイ、知ってた!?」
「オレも今聞いた。
セセリア、やるじゃん!」
確かにすごい。でもセセリアは後でシメる。
ゆっくり息を吸い込み、ロウジはサブモニターを見つめる。
多分サポートメカの外部カメラの映像か、サブモニターにルブリスの姿が映っていた。
まるで天使の羽のように背中からビームの翼が生えている。
頭上には天使の光輪が浮かび、全身を淡い光で包んでいる。
「さぁ、叫べロウジ。
ルブリスの新たな名を!」
ハサウェイのパスに笑顔でうなずき、ロウジは操縦桿を握り直す。
愛機ルブリスがブラスターロッドを握りしめ、華麗にポーズを決める。
「セセリアの作ってくれたルブリス・GKと。
パパから託されたブラスターロッド!
そしてハサウェイの友情……
その全てがここに新たな天使を顕現させた!」
モニターの向こうのマリコさんを見据え、ロウジは名乗りを続ける。
託されたものは、あまりに多い。
ブラスターロッドをザクΖへ突きつけ、ロウジは叫ぶ。
「これなるは愛と友情の天使。
その名はルブリス・BE(ブラスターエンジェル)!」
なんのてらいもなく、ロウジは宣言する。
どれほど手間暇かけてこの機体が作られただろう。
そこに愛なくば、使える手間と時間じゃないはずだ。
「ルブリス・BE(ブラスターエンジェル)?
たいそうな名前ね!」
おそれ、おののきながらもマリコが新型機をたたえる声が響き渡った。
ルブリス・GKが掲げたブラスターロッドから激しい力の波動が溢れ出していた。
バックパックのガンビット接続部から放たれた光の翼がまばゆい光を放つ。
戦場の外から眺めるワンゼロオーのコクピットですら、そうはっきりと判る。
合体機構に問題なし。”仮面の父”は自作の成果に秘かに拳を握りしめた。
「ほぉ……ロウジくんの隠し玉ですか」
「はい。あの子ですらこの瞬間まで知りませんでした。
今回のために用意しておいた、正真正銘の切り札です」
肩に乗る”木星妖怪”……マイケルに、”仮面の父”は冷静に解説する。
サイコフレームの奇跡と偶然が生み出した前回のブラスターロッドとはまた違う。
弟子であるセセリアの作ったルブリス・GKと合体前提で設計したサポートメカだ。
その肝は各部に接続されたアーマーと、ビームウィングパーツ。
いわば師弟合作、愛娘のための愛の結晶だ。
「それがこけおどしじゃないか、試してあげるわ!」
「……さぁ、見せてみろ、ロウジ」
マリコの叫びに、”仮面の父”は呟き、マイケルへと注視を促す。
ザクZの頭部が光る。コロニー一基分のエネルギーがモノアイに集まっているのだ。
そして、高出力のビームが薙ぎ払うようにモノアイから放たれた。
ロウジ操るルブリス・BEへとビームが迫り、そして弾け飛んだ。
「えっ!?」「うっそだろ!?」
「さすがね、ロウジくん」
「ブラスターロッドにビームなんて通用しません!」
バンとダイの驚きに、マリコが冷静に笑う。
ルブリスが高々と掲げたブラスターロッドが、こうこうと光を放っていた。
超強力なIフィールド・バリアーだ。
「ならば物理で勝負よ。
パンチよ、ザクZ!」
ザクZの巨大な拳が、小さなルブリス・BE目掛けて降り降ろされる。
だが、ルブリス・BEの動きは俊敏だ。
背中のビームウィングがはばたき、拳をいなす。
その動きはひらりひらりとまるで蝶のようだ。
「一度見た攻撃なんて!」
「ザクZ、ワンツー!」
勝ち誇るロウジに、マリコが動じず追撃を命じる。
そのままジャブの一撃、そして大ぶりのフックで仕留めにかかる。
だが、ルブリス・BEはさらに上手だった。
牽制のジャブを余裕をもって避け、大ぶりのフックを寸前で身をかわす。
さらにはフックの回避にあわせて巨腕をブラスターロッドで一叩きしてみせたのだ。
「機動性はさっきより上がってるんです。
通じませんよ、そんなのじゃ!」
「じゃあ、当たるまで繰り返す!
キックよ、ザクZ!」
ザクZが回し蹴りの姿勢をとった。ルブリス・BEが素早く回避の構えをとる。
全長50㎞の巨体が、全長20m弱の機体を追い回す。
無傷で避け続けているように見えるが、避ける側も必死だ。
「……凄いものですな。あの切り札。
先ほどまでと動きがあまりに違います」
マイケルの言葉に、“仮面の父”は軽く笑って手元のデータを呼び出す。
「サポートメカとの合体ですからね。
GBNでは機体の能力はガンプラの完成度に伴うリソースを攻撃、機動性、耐久などに振り分けます。
合体する事でリソースは2倍、機体の能力も単純計算で2倍です」
「……なるほど。
我々も母艦型など多くのタイプを操るには多くのリソースをつぎ込みます。
あのザクZなど、我々“木星妖怪”のほぼ全ての力が注ぎ込まれています」
示したガンプラパラメータに、マイケルが納得顔でうなずく。
もちろん実際は単純に2倍になる訳ではない。
機体性能が急に上がり、振り回される事もある。
ぶっつけ本番で機体を操るロウジの腕前は褒めてやりたいところだ。
「ああああああ、何やってんねんマリコちゃん!?
ザクZは小型機を追い回す風には出来てへんねん!」
やかましい声と共に、機影がワンゼロオーの傍へ寄ってくる。
巨大な美少女ガンプラ、マジカルセセリアだ。
戦場ではザクZが両手足を振り回し、ルブリス・BEを追い回している。
なるほど、このザクZを作り主だったな。
ファイターの戦いぶりへの不満はわかる。エセリアの台詞に”仮面の父”が頷く。
「たくさん搭載してる艦載機、ザクビットで対応せな……」
「無茶を言うな、操るのはマリコくんだぞ?
艦載機操作の名手、カルロス・カイザーとは違うんだ」
エセリアの嘆きを、クールな声が諭す。
そして突如、ワンゼロオーの背後に機体反応が出現する。
見ずともわかる。隠密行動の得意な機体、エニルのジェガン・Kだ。
「エニル、トロン達は?」
「ボブくん達と一緒にパプアだ。
状況を整理して報告して貰っている」
では、残り全員がここに集まっているという事だな。
エニルの台詞に頷き、“仮面の父”はワンゼロオーの肩口に手伸ばした。
「さて諸君、楽しいバトルの最中だが聞いてくれ。
今回のゲスト、”木星妖怪”のマイケル氏だ。
戦意はないようなので、攻撃は控えてほしい」
「マイケルです。
バトルを観戦させていただいております。
モニターにマイケルを映し、エニルとエセリアにマイケルを紹介する。
優雅に一礼するマイケルに、ぴりっと緊張した空気が走る。
「……概要は聞いている。
少なくとも、貴様が洗脳されている訳ではなさそうだな……」
「よろしゅうに。
……あのツラで話通じる”異邦人”やったっちゅーことかいな」
まるで中立地帯で敵軍同士が出会った時のような緊張感だ。
とは言え、警戒するのは正しい。そうして貰わなければ困る。
「ザクZの性能、たっぷり見せてもらいました!
……次はこちらの番です、マリコさん」
「来なさい、ロウジくん!
ザクZの耐久性、見せてあげるわ」
そこに、ロウジの勇ましい宣言が走った。
強気にマリコがその言葉を受け止める。
”仮面の父”はにやりと笑い、観戦者達へ促す。
「……さて、戦況が動きますよ、皆さん」
「お手並み拝見させていただきましょう」
マイケルが無表情にうなずき、戦場へじっと目を向ける。
この呉越同舟、はたしていつまで続くのか。
この”異邦人”が新人として明日もGBNに来てくれるかなど判らない。
けれど、新人には優しく。それが先達の務めであるがゆえに。
”仮面の父”も戦況のかすかな変化を見逃すまいと、戦場を注視するのだった。
「ハサウェイ、ほんとのほんとなんだよね!?」
格好良くタンカを切ったロウジが、みっともなく悲鳴を上げている。
恐るべきサイズ差に振り回され、攻撃は蚊が刺した程度。
焦るのも無理はない。だが、光明はある。
「ロウジ、オレを信じて!」
サポートメカ、ブラスターロッドのコクピットでハサウェイは力強く断言した。
もちろんこの機体に乗るのは初めて、複座のサブシートに座るのも初めてだ。
けれど、迷いはない。相手がマリコさんだろうと、自分の役目はロウジを導くことだ。
「あんなデカいの、まともにやったら何発叩いても無理だ。
けど、アレはイベントバトル用に運営さんが作った機体。
攻撃の通じる弱点が必ず用意してある!」
ザクZの質量を考えれば、普通はジオンのジャブロー攻略ぐらい絶望的だ。
けれど運営さんが開催するイベントバトルなら、必ず勝ち筋が用意される。
「判った。
信じるよ、ハサウェイ!」
「いってきな、ロウジ!」
ふわりとモニターの景色が揺れ、ぐっとハサウェイの身体に激しいGがかかる。
ルブリス・BEがビームウィングの推進力でザクZへととびかかったのだ。
ザクZの巨体がモニターで大きくなり、ドーム状の頭部がモニターのほとんどを埋め尽くす。
「ザクZ、迎撃!」
「そんなもの!」
ザクZのモノアイが光り、対空迎撃のビームが無数に吹き上がる。
ルブリス・BEがふわりとした機動でビームを避け、かすめるビームはブラスターロッドで弾いてみせる。
視界がビームで光った次の瞬間、ぬっと巨大な腕がモニターを埋め尽くす。
「ザクZ、なぎはらえ!」
巨大なザクZの腕部が、大きく振るわれる。
コンビネーション攻撃か! だがハサウェイは、にやりと笑う。
それくらい想定内! ロウジがにやり笑い、叫ぶ。
「いっくぞ、ブラスター・マジック!」
「ラージャ!」
ハサウェイは力いっぱいサブウェポントリガーを同時押し。
虚空に浮いて出て来たボタンの保護カバーを拳で叩き割る。
なぎ払うザク・Zの掌を回避するルブリス・BEの機体が突如淡く輝いた。
「ブラスター・マジック01起動!」
「いっくぞー!
ブラスター・ミラージュ!」
かっ、と白い閃光が戦場を走った。
その閃光が消えた瞬間、無数のルブリス・BEの姿が戦場に乱舞した。
マリコさんからはまるで万華鏡のように見えている事だろう。
「……なっ!
めくらまし?」
まさしくその通り、レーダーと視覚をごまかすただのギミックだ。
今だ、ロウジ! 叫ぶ必要もなく、ロウジはチャンスを逃さない。
ぐん、と視界が急降下し、コロニー外壁がモニターを流れていく。
同時に、多数のルブリスが激しい機動で飛び始めた。
「全部やっちゃえ、ザクZ!」
ザクZのビームが放たれ、薙ぎ払う手が次々にルブリス・BEの影が消えていく。
稼げたのはほんのわずかな時間、だがロウジにはそれで十分だ。
ザクZの巨体を背面から急降下、30km近くを駆け抜け、目的地に到達する。
「そこだ、ロウジ!
ザクZの表面にエネルギーバイパスが浮き出た急所!」
「おっけぇい!」
ザクZの背面の腰から下の下半身、そこはザクZにとっての急所だった。
原作だってそうだ、ブラスターマリはここをひっぱたいていた。
ロウジが叫び、ルブリス・BEがブラスターロッドを振りかぶる。
「しまった、そこは!?」
マリコさんが叫ぶ。けれどここは巨体の死角!
ガンプラサイズのはえたたきが、スナップをきかせて振り切られた。
クリティカル! 鋭い音が戦場に響き渡った。
「必殺!
ブラスター・ぎっくり腰!」
「技名ぃっ!?」
思わずハサウェイがツッコミを入れるが、効果は絶大だった。
魔力のこもったブラスターロッドの一撃が、ザクZのバイタルパートを深々とえぐる。
エネルギーバイパスが火花を散らし、50km級の巨体が激しく明滅する。
「効果は絶大、さっすがハサウェイ!」
「いや、オレもここまで効果的だとは……」
にっこり笑顔のロウジに、ハサウェイも戸惑ったように呟く。
魔女の一撃と言われるぎっくり腰、なったことない人は幸運である。
腰を痛めた重病人のように、ザクZが痙攣し、動きを止めた。
「……これで、勝った、かな?」
「や、たぶんまだだよ、ハサウェイ」
大きく息を吐いたハサウェイを、ロウジが柔らかくたしなめる。
そうだ。流れで手伝ったけど、レギュレーション聞いてない!
生真面目な顔で、ハサウェイは聞く。
「このバトルの決着はどこ?
キミの勝利条件はどうなってるの」
「マリコさんに、思い知ってもらうんだ」
ふんわりした笑顔でロウジが断言した。
字面が悪党みたいだよ、ロウジ。
意味がわからず、ハサウェイはぽかんと口を開ける。
「楽しいガンプラバトルで思い出してもらうんだ。
このGBNが、とっても楽しい場所だってことを!」
ロウジは確信してる。多分マリコさんとも通じあってる。
なら、いいさ。やることは決まってる。
「……わかった、満足するまでやろう。
頼むよ、リーダー」
「おっけい、それじゃ第二ラウンドだ!」
キミは好きなように遊べばいい。
その笑顔に惹かれ、オレ達は集まったんだから。
「ザクΖ!
ザクΖ!
大丈夫、姿勢は変えられる?」
『ムリデス、オネエサン……』
マリコの問いかけに、ザクΖの人工知能が泣き言を呟く。
コクピットにはイエローアラートとバツマークが乱舞する。
やられた。マリコはいっそ爽やかな気持ちで笑った。
「ザクΖの弱点を知ってるだなんて……
やるわね、ロウジくん」
「ダメだ、ねーちゃん。
完全に腰をいわしてる!」
「まるでパパがギックリ腰した時みたい……」
バンの報告に、マリコは納得顔でうなずく。
腰は仕方ない。あらゆる二足歩行形態の急所だ。
自動迎撃を司るザクΖの人工知能には脆弱性がある。
マリコだってそこを突いて勝利を掴んだのだ。
「ありがとう、ザクΖ。
あなたはもういいわ、お疲れ様」
「ねーちゃん!
直上に連邦のMS!」
マリコが優しくザクΖを労った瞬間だった。
対空警戒のダイが警告の声を上げる。
見上げる視界に、ビームの翼で舞い降りる天使の姿が一つ。
ロウジくんの、ルブリス・BE(ブラスターエンジェル)だ。
「違うわ、ダイ。
アレはMSじゃなく、ガンプラよ」
マリコは静かに訂正する。
だってロウジくん達の誇りに関わる問題だもの。
破壊のためじゃなく、愛を語り合うためのもの。そう教えてもらった。
「どう違うってのさ!」
「兵器じゃなくホビー。
プラモデル、わたしにだって作れるのよ。
バンとダイもきっと気に入ると思うわ」
アレは国土サイド3を焼き払う悪の侵略者なんかじゃない。
ロウジくん達が作り上げた自慢のホビー、ガンプラだ。
「さぁ、マリコさん。
次はどうします?」
「どうするの、ねーちゃん?」
そう、だからわたしは諦めたっていい。
負けて故郷が燃えるわけでなし。
二つの問いに、じっとマリコは自分へ問いかける。
「……どうしようか?」
負けて当然。だってロウジくん、強いもの。
みんなに愛され、いっぱいガンプラバトルしてきて。
ニセモノの記憶しかない”からっぽなわたし”など、どう逆立ちしたって勝てる訳がない。
でも。
じゃあ。
わたしはなんでこんなに悔しいんだろう?
「ね、マリコさん。
初めて乗ったガンプラは、僕の作ったデコヴォルヴァでしたよね」
「ええ、そうね。
素人のわたしでも操縦できる、素晴らしい操作性のMSだって感激したわね」
突然の呼びかけに、マリコは口元を緩めて答えた。
「その後、マリコさんにガンプラ作ってもらいましたよね。
初めてなのに丁寧な組み立てで、感激しました」
「初めて作ったザクで、アーティ・ジブラルタル観光に行ったわね。
なのに敵襲にあって、動きが硬くて機体が重くって難儀したわ」
思い出が、次から次へと口からこぼれ出て来る。
見知らぬ世界で一人、不安だったはずの日々だ。
「その後、僕と二人、いっしょにレイドバトルへ参加して」
「そうそう、驚きの乱入者があって」
「最後に、マリコさんが驚きの正体を見せてくれて!」
「ふふ。ロウジくん、大活躍だったじゃない」
そうだ、あの日々はそれでも本当に楽しかった。
とどまることなく言葉が溢れ出てくる。
なにが、”からっぽなわたし”だ。
確かに記憶を植え付けられて産まれてきたばかりの命だとしても。
GBNで過ごした日々は、嘘偽りなんかじゃないはずだ。
「はい、ねーちゃん。
これ!」
「ねーちゃん、まだまだ遊びたいって顔してる!」
唇を噛み締めたマリコに、バンとダイが無邪気に笑い、何かを手渡してくる。
マリコは大きく目を見開き、それを受け取った。
それは……ピンクのリボンが巻かれた、大きめのしゃもじだった。
「ぼくらには何かわかんないけど、
ねーちゃんにはそれが必要なんでしょ?」
「まだ“軍人さん”は、負けてないよ!」
魔法の杖、ブラスターロッドMK-Ⅲだ。
これは、わたしがアクシズを押し返す時の相棒!
誰も知らない物語だけれど、確かにわたしの中にある。
気が付けば、いつのまにかマリコは背がぐんと伸びていた。
同じ高さだった小学生の弟達の頭が、胸元ぐらいまでしかない。
「いってらっしゃい、ぼくらの知らないねーちゃん」
「見せてもらうよ、ねーちゃんだけの物語」
バンとダイをもう一度抱きしめ、マリコは決然とモニターを見つめる。
わたしはマリコ、26歳。サイド3生まれの社会人、今はしがない運送業者だ。
ロンド・ベルにとらわれ、アクシズ落としを目撃し、奇跡でこの世界へ辿り着いた!
甘い夢は終わり、マリコ・スターマインはもう一度GBNで目覚めた。
「さぁ、マリコさん。
僕達のガンプラバトル、まだまだこれからですよ!」
「そうね、ロウジくん。
わたし達のガンプラバトル、まだ終わってなんかいないわ」
ロウジの声に、マリコは大人な笑顔で応える。
わたしの中で叫んでる。まだ、終わりじゃないって。
心赴くままに手を伸ばす。
その先にある何かを掴みとるために。
「マジカルチェンジ!
……ブラスターフォーム!」
手にしたしゃもじ……魔法の杖をかざし、心のままにマリコは叫んだ。
「マジカルチェンジ!
……ブラスターフォーム!」
マリコさんの叫びと共に、プラフスキー粒子の淡い輝きが辺りを満たす。
来る、マリコさんの本気だ!
愛機ルブリス・BEのコクピットで、ロウジは表情を引き締める。
「ザクΖ頭部に高密度粒子反応!」
「マリコ・スターマインは魔法少女である!!」
ハサウェイの警告と同時に、ノリノリのナレーションが響き渡る。
腕組みポーズのガンプラが、淡い光に包まれ地下から迫り出してくる。
「あのガンプラは……!?」
「マリコは謎の人物、赤い彗星のひとからもらった魔法のしゃもじの力で……
無敵の少尉 ブラスターマリとなるのだ!!」
ナレーションよりも大きく、ロウジは驚き叫ぶ。
ザクΖの頭部に現れたガンプラが、右手の魔法の杖を掲げてポーズをとる。
「マリコさんが作った……ザクII!」
見覚えある機影に、ロウジが叫ぶ。
ジオン系らしいマッシブなフォルム、グリーンの装甲と動力パイプ。
そして両肩に肩付けのシールドとスパイクアーマー。
まぎれもなくアレはジオンの誇り、MS-06ザクIIだ。
手にした魔法の杖だけが、異彩を放つ。
「わたしはサイド3を守る、正義の軍人さん。
その名も魔法の少尉……ブラスターマリ!」
マリコ、いやブラスターマリが高らかに叫ぶ。
「行くわよ、新1日号!」
ブラスターマリ、再びここにあり。
右手に魔法のしゃもじを握りしめ、新1日号が勇ましくポーズを決めた。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・大型機対小型機
大型機は耐久と装甲、火力は圧倒的である。
ただし機動力が相対的に劣り、小回りが利かない分小型機を追い回すには向かない。
大型機が能力を十全に発揮するのは同クラスの大型機への対処なのである。
大型機が小型機へ対処するための方法は主に二つ。
対空火器を増設する、小型艦載機で対処する。
どちらもザクΖには備わっていたが、マリコには扱いきれなかった。