リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
いやーなんだこの文字数
来週7/6(日)に5話ラストミッションを投稿できるかな?
ギリギリなので間に合わない可能性もあります
ジークアクスは毎週本当に楽しかったです
ハッピーエンディング、よし!
全身に力がみなぎる。
マリコの心がふつふつと高揚する。
眼前にはロウジくんのルブリス・BEがブラスターロッドを構えている。
愛機、新1日号のコクピットでブラスターマリはにやりと余裕の笑みを浮かべた。
「さぁ、魔法使いの先輩として……
胸を貸してあげるわ」
サイド3を守る正義の軍人さん、それがブラスターマリだ。
たとえ初めてのミラーマッチでも、負けるものか。
燃える闘志を押し隠し、ブラスターマリは大人びた笑顔で言い放つ。
「……さぁ、来なさいロウジくん。
いいえ、ブラスターロウジ!」
「ならばまずは小手調べ!
僕の呪文、受けてもらいますよ」
ブラスターロッドの力でジオン軍服に着替えたロウジが、強気に叫ぶ。
同時にルブリス・BEがブラスターロッドを掲げ、魔力を集中させていく。
ここはGBNのバトルフィールド、サイド3宙域だ。
眼下には故郷のコロニーが変じたΖザク、周辺に障害物は何もない。
この角度なら流れ弾の心配なし。さぁ来なさい!
「ムービルフィラ!」
「なんだ、飛び道具?」
鋭くロウジが叫び、激しいビームがルブリス・BEの杖から放たれる。
時間差をつけて一発、二発、三発。
ブラスターマリは悠然と魔法の光を新1日号のブラスターロッドで弾き、散らす。
次の瞬間、激しいロックオンアラートがブラスターマリの意識で弾けた。
「狙いは悪くない。
けど……!」
ビームはめくらまし、本命がこの近接!
真下から浮き上がるように迫るルブリス・BEへ、新1日号のブラスターロッドを叩きつける。
「……っ!
反応が速い!」
二本のブラスターロッドが打ち合わされ、魔力がつばぜり合いでスパークする。
読み勝った。ロウジの叫びに、ブラスターマリはにやりと笑みを浮かべた。
下から、横から、叩きつけられるロッドをロッドで受け流す。
最後に大上段から打ち合わせ、互いに弾かれるように距離をとる。
「パワーは……互角!」
「なら後は経験で勝負!」
下がるルブリス・BEへ、新1日号がぬるりと追いすがる。
簡単に距離なんてとらせてあげない!
ブラスターロッドを反射的に構えたルブリス・BEへ、ブラスターロッドをかちあげるように下から叩きつける。
防御が開いた。そこだ!
そのまま肩を入れ、スパイクアーマーでショルダータックル。
浅いが手応えあった! 大きくルブリス・BEが後方へ吹き飛ぶ。
「っぐ……ぅ!
ブラスター・ミラージュ!」
ロウジくんが表情を歪め、白い閃光がモニターを焼く。
一瞬の後、無数のルブリス・BEの姿が万華鏡のように無数に現れる。
一度見た小細工で、時間稼ぎ?
「甘いわよ、ロウジくん」
念を込め、ブラスターロッドをふりかざす。
ブラスターロッドが長く伸び、鞭のようにしなって空を裂く。
絵の具の混じった水をかき混ぜたように、幻のルブリス・BEがあっと言う間にかき消えていく。
手ごたえなし。じゃあ本体は……かなり遠い!
わずかに稼いだ時間で、ルブリス・BEが大きく後方へ下がっていた。
「なら……次は大技です。
いくよハサウェイ!
ブラスター・マジック09起動!」
「ラージャ!」
本当に遠い、通常ならロックオン距離外だ。
けれどロウジくんがただ逃げる訳ない。
確信を肯定するように、ブラスターロウジが勇ましく叫ぶ。
豆粒のように小さなルブリス・BEの頭上で、魔力の嵐が荒れ狂う。
「なら、わたしもこれでお相手するわ!
異界の魔王の理よ、今ここに!」
にやりと笑い、ブラスターマリは大きく息を吸い込む。
次から次へと目まぐるしく状況が変わっていく。
ほんと、楽しませてくれるわね、ロウジくん。
退屈する暇なんてない。
モニターを見つめながら、マリコは口元に静かに笑みを刻んだ。
固唾をのんで観客達が戦場を見つめる中、状況が大きく推移した。
激しい格闘戦で圧され気味だったルブリス・BEが大きく距離をとる。
砲撃戦にも遠いぐらいの距離を挟み、ルブリス・BEと新1日号がエネルギー溜め動作へと移行する。
「戦略兵器の撃ち合いやて!?
そか、ブラスターロッドの全出力を砲撃に転用するんやな……!」
「さぁ、極大魔法……大技が来ますよ」
どよめくエセリアに、“仮面の父”はしたり顔で解説する。
マイケルが無表情でうなずき、戦場を見つめた。
「恐怖と絶望を味わってみよ。
我は深淵と共にあり、汝は絶望の淵にあり。
我は霊霧を統べる者、汝は虚空へ果てるべし……」
「黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの。
時の流れに埋れし、偉大な汝の名において……
我ここに、闇に誓わん!」
「げぇっ、ごっつぅ太古の呪文!?」
ロウジとブラスターマリの呪文詠唱に、エセリアが狼狽の悲鳴を漏らす。
おののいた理由は収束するエネルギー量か、元ネタの古さにか。
通信ウィンドウにエニルの顔が浮かび、クールな声で解説する。
「両者、白兵戦では埒が明かないとみてとり、
戦略兵器級の大魔法への撃ち合いに移行したか」
「ブラスターロッドのエネルギー容量、確かに膨大やからな……」
「……あの長々とした前口上はいったい?」
かすかに首を傾げるマイケルに、“仮面の父”がさらに補足を入れる。
「大技のエネルギーをチャージするのには膨大な時間がかかります。
その間に両者が呪文を詠唱しているのです」
「……ふむ、どのような意味が?」
マイケルが首をひねる間にも、両者の詠唱は続く。
どちらもプラフスキー粒子の大エネルギーを放出する戦略兵器だ。
それに演出を乗せ、必殺の一撃に昇華させている。
おそらく、両者の思い入れある他作品の大魔法なのだろう。
「天光満つる処に我は在り、
黄泉の門開く処に汝在り
出でよ、神の雷!」
「我等が前に立ち塞がりし すべての愚かなるものに
我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを!」
高まる詠唱をバックに、“仮面の父”はきっぱりと言い切る。
「その方がカッコいいから。
それが理由です」
「ダイバーのテンション上昇、めっちゃ大事やねん」
自分の好きを掲げる、それに勝る理由などあるものか。
エセリアが補足し、エニルも無言でうなずく。
「……なるほど?
見て理解するといたしましょう」
マイケルが無表情に、大魔力が荒れ狂う戦場へ目を向ける。
そう。それでいい。
戦うダイバー達がぶつけあう思いの丈は、実際見なければわからないものだ。
「天使の司る断罪の雷。
いきますよ、極大雷魔法!」
「あなたが竜より強いどうか。
確かめてあげるわ、ロウジくん!」
ロウジとブラスターマリ、二人の魔法使いが楽しげに笑い合う。
通信越しにロウジとマリコの二つの眼差しが交差する。
ルブリス・BEのツインアイと新1日号のモノアイがにらみ合う。
動いたのは同時、両者が決然と呪文の詠唱を結ぶ。
「“天雷”!」
「“ドラゴンバスター”!」
渦巻く魔力が、魔法使いの呪に乗せ、まっすぐに解き放たれる。
純白の雷光と漆黒の魔力が宇宙空間で炸裂し、ぶつかりあう。
「ぐ、ぅ……!」
「こ、のぉ……!」
ロウジとブラスターマリの苦悶の悲鳴が響く。
激しい一撃のぶつかり合いの反動が、重さとなって操縦桿にのしかかる。
掲げたブラスターロッドから放たれた大魔法はちょうど2機の中間点でせめぎあう。
「ブラスターロッドの出力は互角か……!」
「ほな、含有魔力の差はどないや……?」
エニルが呟き、エセリアが目を輝かせる。
サポートメカとして“仮面の父”が作ったブラスターロッド、そしてマリコが手にするブラスターロッド。
二つの原理が異なる魔法の杖が、込められた魔法の力を全力で吐き出しあう。
星を丸ごと消し飛ばせそうな恐ろしい魔力がぶつかりあい、空間で荒れ狂う。
ダイバー達が見守る中、無限とも思える、一分ほどの時間が経過した。
激しいハレーションを起こし、魔力の奔流が消え去る。
”仮面の父”は、思わずモニター越しに身を乗り出した。
「……勝ったのはどっちや!?」
「……両機ともに健在だ!」
遠く離れた2機のガンプラは、どちらも敗者ではない。
だがけして無傷とは言い難い状況だった。
ルブリス・BEの全身がパーメットスコアの色に弱弱しく明滅する。
新一日号が前進から火花をちらし、ちぎれた動力パイプから白い蒸気を吐き出す。
恐らく、ほぼすべての魔力を吐き出しきっている。
だがそれでも、二人の魔法使いの闘志は失われていなかった。
「……ブラスターマリ!」
「ブラスターロウジっ!」
ルブリスのツインアイが輝き、新一日号のモノアイが不気味に光る。
魔法の光をウィングとバーニアにかすかにまとい、示し合わせたように両者が距離を詰める。
「含有魔力を吐き出し、後は……」
「意地のぶつかりあいや!」
エニルが呟き、エセリアが叫ぶ。
魔法の光だけは弱弱しく、けれど闘志の炎激しく。
両機が握りしめた二振りのブラスターロッドが再び、鈍い魔法の光をスパークさせてぶつかりあう。
「……マリコ、負けるな!」
マイケルが声を張り上げ、驚いたように自分自身の掌を見つめていた。
マイケルへにやりと笑いかけ、”仮面の父”も控えめにエールを送る。
「ロウジ、勝て!」
勝敗にさしたる意味はない。
戦うことだけが目的なのだから。
それでも誇りをかけ、二人はバトルフィールドでぶつかりあう。
観客達に見守られながらのロウジとマリコ、二人だけのエキシビジョンマッチだ。
最終局面は、もう間もなくだった。
大魔法の代償はあまりに大きかった。
機体がきしみをあげている。けどまだ負けたわけじゃない!
アラートが飛び交うコクピットで、ブラスターマリは声を張り上げる。
-
「機体のバリアを最小限、ロッドの保護だけでいいわ。
残留魔力は全部推進力よ!」
さぁ後は、殴り合いよ!
操縦桿を握りしめ、ブラスターマリは強気に笑う。
強烈なロックオンアラートが響く。
ルブリス・BEが猛烈に突進し、ブラスターロッドを真正面から叩きつけてくる。
「でやぁぁぁぁぁ!」
「甘い!」
受け止め、受け流し、崩したところに返しの一撃を入れる。
しかしそれもロウジが反射速度で上回る。
鈍い音を立てて再びロッドのつばぜり合いが発生する。
「やるっ!」
弾かれ、もう一撃と思った瞬間、視界の外から衝撃が走る。
くるりと身を翻したルブリス・BEの後ろ回し蹴りだった。
新1日号のマニピュレーターから魔法のしゃもじ……ブラスターロッドMKーⅢが弾かれ、飛ぶ。
まずい! 思った瞬間ブラスターマリの身体が反応した。
「しかしっ!」
ブーストとウェポントリガーを同時押し。
残身をルブリス・BEがとるより早く、新1日号のショルダータックル!
左肩から機体の全質量をルブリス・BEの腕に叩きつける。
ルブリス・BEのマニピュレーターが強打され、魔法のはえ叩き……ブラスターロッドMK-Ⅱが大きく弾かれる。
これで何とか、条件はまだ五分!
「しまったぁ!」
「……油断禁物よ、ロウジくん!」
荒い息でブラスターマリはにやりと強気に笑う。
弾かれ飛んで行った魔法のはえたたきが、こちらの魔法のしゃもじとぶつかる。
ばちりと桃色のスパークが走り、まるで結界のような魔力が放射された。
淡い魔力の光に包まれ、二本のブラスターロッドが戦場から隔離される。
「ようし、いい子ねMK-Ⅲ。
そのまま先輩を抑えてなさい!」
「ブラスターロッドが、なくったってぇ!」
ロウジが叫び、ルブリス・BEが突っこんでくる。
お返しとばかりに、肩からの鋭いタックルだ。ガードした両腕越しにびりびりと衝撃が伝わる。
そのままルブリス・BEが身を翻し、両腕を振り回して殴りかかってくる。
受け止め、弾いて、こっちは両腕を握りしめ、ハンマーのように振り回す。
胴体に当たる寸前、ルブリスの腕が間に割り込む。
手ごたえは軽い、ロウジくん、自分で飛んで衝撃を殺したわね!
「……反射神経勝負は分が悪いかぁ」
ふぅっと浅く息を吐き出す。
気付けば操縦かんを握る手元の袖口がジオン軍服のものではなくなっていた。
通信ウィンドウのロウジ君も軍服ではなくなっている。
ブラスターロッドが弾かれてエネルギー供給が滞り、変身姿が維持できなくなっているのだ。
「見た目の変身もそのまま解除。
あとはもう全部吐き出すだけね……!」
ただのマリコとして操縦桿を握り、ブーストボタンをぐっと押し込む。
ロッドが残る魔力で補助してくれているのか、不思議と機体は思うままにまだ動く。
吹き飛んだルブリス・BEを追いかけて新1日号が肩からタックル。
そのまま当たるを幸い、無茶苦茶に腕を振り回す。
殴り、防がれ、カウンターパンチを受けて今度は新1日号が後ろに飛んで衝撃を殺す。
「マリコさん、おとなげない……!」
ロウジのぼやきが聞こえた次の瞬間、コクピットに再び大きな衝撃が走る。
曲芸のようにくるりと縦回転したルブリス・BEがカカトを上から叩きつけてきたのだ。
なぁんて足癖の悪い!
「おとなげないと言われましてもね……!」
強烈な一撃を辛うじて両腕クロスでガードし、足を掴んでそのまま肉弾距離に持ち込む。
逃すものか! マニピュレーターでがっしりと足を固め、関節技へ移行する。
「姿だけは大人で生まれ落ちたばかり、
それって本当に大人って言えるの?」
「……っ、それは!」
何気ないマリコの返しに、ロウジが悲鳴を漏らす。
ルブリスが出力任せで強引に関節技を外し、狼狽したように距離をとった。
「マリコさん、知っていたんですね……?」
「なぜか、聞こえて来たのよ。
ロウジくんのパパと”おとうさん”が話しているのが」
ロウジの悲鳴のような問いに、マリコは静かに頷き、穏やかに応えた。
とっくにもう既に知っている。
自分がELダイバーとして生み出されたばかりの存在であること。
記憶はただのデータであり、帰る世界も、待っている家族もいないこと。
「“木星妖怪”達は、一にして全なのよ。
端末が理解したものは全ての個体に同時に伝わるんだって」
何故か理解した知識を、マリコは口に出してロウジへ説明する。
“ご同輩”として中にいるマリコも、あの瞬間だけは”木星妖怪”の端末と同じ扱いだったのだろう。
同時に、納得がいった。なぜ自分の記憶がひどくまだらなものだったのか。
印象的な出来事の周りだけが詳細に作られ、それ以外は空白として設定されていたからだったのだ。
「マリコさん、ごめんなさい。
僕、マリコさんの境遇を知らず、
元の世界へ帰ろうだなんて、無責任にマリコさんを励ました……!」
ロウジが悲しげに表情を歪め、声を張り上げる。
いけない。ロウジくんに言葉で八つ当たりをしたかった訳じゃない。
あなたが悲しむ必要はない。わたしは悲しんでなどいないのだから。
決意と共にマリコは静かに深く息を吸い込んだ。
「……わたしはあの時、確かにあなたに救われたわ!」
たとえあれが無邪気な、気休めの言葉だとしても!
操縦桿を力強く握りしめ、マリコは全身全霊で叫ぶ。
「嘘じゃない。今、証明してあげる!
だから受け止めてみなさい、ロウジ・チャンテ!」
全質量を叩きつけるように、真正面から思い切りショルダータックル。
がっしりとガードを固め、両腕で受け止めたルブリスが大きく後ろへ吹き飛ぶ。
「荒唐無稽なわたしの話を、あの時あなたが信じてくれたから……!」
過去が偽りでも、故郷が存在しなくとも関係ない。
あの時、ロウジくんがわたしを信じてくれたから。
わたしはサイド3生まれの”異邦人”、マリコ・スターマインになった。
「けど、本当のマリコさんは!」
「今でも、わたしは……!」
首を振るロウジを黙らせるつもりで、ブーストボタンを思い切り押し込む。
吹き飛ぶルブリスを追いかけ、そのままパンチ、パンチのコンビネーション。
ガードを吹き飛ばすように大ぶりのアッパー、胸部に拳が突き刺さり、ルブリスが大きく吹き飛ぶ。
「サイド3生まれのサイド3育ち。
”異邦人”のマリコ・スターマインよ!」
たとえ真実がどうだろうとしても、もう揺らがない。
ロウジくんが信じてくれたマリコこそ、わたしが信じるわたしだ。
たとえ作られたデータだとしても、記憶の中にわたしの家族はいた。
そして今、わたしはここにいる。歩いていける。
歩いていった先にわたしの足跡は刻まれていく。
「それが、ロールプレイってものなんでしょう。ロウジくん!」
サイド3へ連れていってくれたとき、あなたは魔法使いのふりをしてくれたじゃない。
冗談めかしてウィンクし、マリコはロウジへ微笑みかける。
ロウジが浅く息を吸い込み、ふわりと笑ってくれた。
「……そう、ですね。
無粋でした、ごめんなさい!」
ルブリス・BEが拳を構え、再びファイティングポーズをとる。
確かに今、思いは伝わった。
マリコは笑い、ロウジへ問いかける。
「わたしの魔法使いさん。
わたしはだぁれ?」
満面に笑顔を浮かべ、ロウジが応える。
「異世界からの来訪者。
サイド3育ちのサイド6大学出身、
立派に社会人を務め上げた……
わたしのおねえちゃん、です!」
「よろしい、花マル!
満点回答あげちゃうわ」
そう、あなたもわたしをおねえちゃんって呼んでくれるのね。
満足げにマリコが笑う中、モニターのルブリス・BEが拳を固めた。
来る! 覚悟を決めてガードを固める。
だが、ロウジの反射速度はそれを上回った。
真正面からの突撃、そして左右のパンチからコンビネーション、膝蹴りが新1日号の下腹部へ深々と突き刺さる。
受け身も間に合わず、激しい衝撃がコクピットを揺らす。
「ごめんね、ロウジくん!
それこそおとなげなかったわ。
あなたの前でぐらい大人でいなきゃあね!」
後方へ吹き飛んだ機体が、ザクΖの巨大な肩へと叩きつけられる。
激しいダメージアラートの嵐の中で、マリコは強気に笑った。
「マリコさんは立派に大人してくれてましたよ!」
「たとえば、何?」
ロウジが笑顔で叫ぶ。
ボロボロの天使が拳を固め、飛んでくる。
ボロボロの愛機に鞭打ち、迎え撃つ。
ルブリス・BEの蹴りと新1日号の肘打ちがほぼ同時に炸裂する。
「お世話したお礼に、社章をくれました!」
「それって本当に大人かしら!」
もう互いに限界だ。
蹴りをガードした腕があらぬ方に曲がり、肘打ちを打ち込まれたルブリスの膝関節が陥没する。
「クリスマスに泣きわめく僕に、
通信越しでそっと寄り添ってくれました!」
「泣く子をあやすのはおねえちゃんの仕事だものね!」
次で最後だ、げんこつ固めてストレートを決めてやる!
ロウジとマリコが歯を食いしばり、モニター越しに睨みあう。
新1日号が拳を固めて思いきり腰を捻る。
ルブリス・BEがマニピュレーターを貫手に固め、正眼に構える。
「……いくらおとなげないって言われたって!」
「勝敗に歳の差なんて、関係ありませんよね!」
汗はだらだら、髪の毛ばさばさ。
どっちも取り繕う余裕なんてない。
歯をむき出して笑いあい、マリコはきゅっと唇を引き結ぶ。
これで全部終わったっていい。ありったけ……!
決意と覚悟でマリコは操縦桿を握り直す。
「お覚悟!」
「勝負!」
叫びは同時、突進も同時、拳と貫手が交錯する。
激しい衝撃がコクピットを揺らし、モニターがブラックアウトする。
マリコは荒い息を吐き出し、天を仰いだ。
レッドアラートが乱舞する中、静かにシステムメッセージが告げる。
『Battle ended WINNER!……』
終わった。
後悔など何もない。
確かな満足と共にマリコは静かに目を閉じる。
「……ナイスファイト、わたし」
そしてこれは始まりだ。
浅く長く息を吸って吐いて、コクピットシートへ背を預ける。
今からまた、歩いていくのだ。
この世界で、共に。
健闘を称える拍手が、静かにバトルフィールドに響き渡る。
拍手の主は、ワンゼロオーの肩部に腰かけたマイケルだった。
「素晴らしい。実に素晴らしい」
マイケルの呟きに、辺りの空気がすっと冷え込む。
まるで人の心をわからぬ妖怪変化が、人の健闘を上辺だけでたたえたかのようだ。
「確かにあれは兵器などではない。
あのバトルはロウジくんとマリコにとって、まぎれもないコミュニケーションなのでしょう」
「そうですね。
互いに全てを出し尽くした素晴らしいバトルでした」
冷静な顔で解説しながら、“仮面の父”は静かに警戒度を引き上げた。
この“異邦人”が敵に回せば恐ろしい存在なのは、ここにいる誰もが判っている。
「“ご同輩”にはもう我々は必要ありますまい。
マリコはどうやら答えを出したようだ。
あなた方の中に交じり、生きていくことを……」
あくまで言葉は穏やかに、マイケルは語る。
浮かべている表情はかすかで、真意を読み取るのが難しい。
ふわりとマイケルの体がワンゼロオーの肩から浮遊し、コクピットの前へと移動する。
「では次は、我々の番です。
“赤い彗星のひと”よ。一つ依頼があります」
「ふむ、なんでしょう?」
返答の声がかすれていなかったのを褒めたいところだ。
自分の返答如何で、異種間宇宙戦争の再開だ。
厄介なクライアント相手の時のように、じっとり汗をにじませながら対応にあたる。
『トロン、傍受を』
“仮面の父”は無言でメッセージを送信し、トロンへの緊急通報回線を開く。
トロンへのログの即時送信並びに会話のリアルタイム共有が開始される。
『慎重に対応なさい』
無論言われるまでもない。“仮面の父”は笑顔を浮かべ、マイケルに向き直る。
会話内容はエニルとエセリアへも共有された。
ベテランらしく、二人が音もなく即応体制へ移るのがわかる。
「一つ、お相手いただけますか?
あなた方の流儀、ガンプラバトルです」
「なるほど、何を賭けてバトルされるのです?」
そら来た!
穏やかな笑顔の裏に緊張をにじませ、“仮面の父”はマイケルへ対する。
返答次第によっては、即座に開戦だ。
「おのれの存在意義を賭けて。
“誇り”とでも言い換えましょうか」
あくまで穏やかに、マイケルが語る。
何も賭けないという事か?
“仮面の父”は意図を測り兼ね、笑顔のまま黙り込む。
「気取った言い方だと判りにくいですね。
ただ、やってみたくなったのです、ガンプラバトルを」
男もすなる日記といふものを、してみむとてするなり。
なぜか土佐日記の一説が脳裏へ浮かぶ。
唇を緩ませ、”仮面の父”は喉の奥で声を殺して肩を小さく揺らした。
「ロウジくんとマリコのバトルを見ているうち、
いてもたってもいられなくなったのです。
我々にも何故だかはわかりませんが……」
「……なるほど。大変良く判りました」
どうやら何も心配する事などなかったようだ。
笑みをこらえ、“仮面の父”は穏やかに返答する。
固唾をのんで見守っているだろうトロンへ、そっとメッセージをつづる。
『ガンプラバトルを受領する。
構わないな、トロン?』
『ダメです。何考えてるんですか?』
ぴしゃりとすげなく断られ、“仮面の父”はミラーシェードの奥で目を見開いた。
エセリアが呆気にとられ、エニルが無言で腕を組む。
『今を何時だと思ってるんですか。
未成年連れでのミッションなんですよ!』
すいませんママ、あまりにあなたはごもっとも。
慌てて確認した時刻は間もなくシンデレラタイムが終わるところ。
この後バトルは確実に日付をまたぐ、未成年がいていい時間ではない。
「あー……マイケルさん。
バトルは日を改めてにさせていただきたい。
ヤンチャな愛娘も寝る時間です」
「なるほど。至極当然な提案です。
うちの娘みたいな不良になってもらっては困りますな。
さてはご細君にしぼられましたか?」
誠心誠意、申し訳ないと気持ちを込めて“仮面の父”は頭を下げる。
人間そっくりそのままな笑顔で、マイケルは幸い快諾してくれた。
「では、ロウジくんとマリコのバトルも終了したことですし、
本日はいったんお開きですね」
「はい。
ガンプラバトルは後日、必ず」
静止されれば止まり、提案は検討する。
きちんと心を制御出来る大人となんら変わらない。
“木星妖怪”は人を人とも思わぬ謎の存在などではないのだ。
“仮面の父”は改めて確信し、安堵の息を吐き出す。
「我々“木星妖怪”が持ちうる最強の手駒をご用意しておきましょう」
かすかに胸を張り、マイケルがうやうやしく宣言する。
あれだけの熱に充てられ、バトルをしたいと願う。
ガンプラとガンプラバトルを愛するなら自然なことだ。
どうやら彼らは、立派にこちら側らしい。
「“木星妖怪”の皆様。
改めて一人のダイバーとして、皆様の来訪を歓迎いたします」
日を改める謝罪と歓迎の意を込め、“仮面の父”は握手を求める。
「我ら“木星妖怪”一同、
良き隣人たるよう務めましょう」
静かに頷き、“木星妖怪”のマイケルが手を握りあった。
「それで、先に細々とした手続きについてご説明したいのですが…」
「なるほど、現状不法入国者である我々を迎えるためには色々と必要でしょう」
ただガンプラで楽しく遊ぶ。
そう願うなら、歳や性別、生まれや育ち、そして種族すらも関係あるものか。
我らはニュータイプではない、けれどわかりあうことはできるのだ。
ミラーシェードの下で、“仮面の父”は親愛の笑みを浮かべる。
「ようこそ、ガンプラをこよなく愛する者達の場……
我らがGBNへ!」
ここが全ての来訪者のお目にかなうなどとは驕るまい。
趣味嗜好は多様で、価値観は人の数だけあるのだから。
けれどもし他者の好きを尊重しあえるのなら。
我らはあなたをいつでも歓迎いたします。
「システム、アバターへアクセス。
ノーマルスーツへ変更」
音声でシステムに指示し、ロウジはアバターの姿を切り替える。
機器が全部ブラックアウトしたガンプラコクピットは真っ暗だ。
唯一光る非常用イジェクトレバーを起こし、思いきり引っ張る。
ポンって軽い炸薬音と共に正面のコクピットハッチが吹き飛ぶ。
ここは無重力、そしてお外は真空の宙域バトルフィールドだ。
シートを蹴ってハッチ脇を掴み、外へわたわたと這い出す。
「わ!」
機能停止したマリコさんの新1日号が思ったより近くにいた。
無重力の宇宙空間に飛び出した身体が機体のザクの曲面装甲にぶつかり跳ね返る。
そのままロウジの身体が”飛び出していけ、宇宙の彼方”してしまう。
「ちょ、待っ……!」
その先には何もない虚空が広がっている。
ノーマルスーツにスラスターなんてない!
いつもと違う物理法則に、頭が大パニック。
どんくさくもがいたって、ガンプラみたいに華麗なAMBAC旋回なんてしてくれない。
「はいもう、暴れないの」
たしなめるような優しい声が、ロウジの心をそっと包み込んでくれた。
ふわりとした動きで飛んできた人影が、相対速度をあわせてロウジへ静かに接触する。
無骨な民生用宇宙服の腕が、ロウジの首根っこをしっかり掴まえてくれた。
「ほんと、バトルの時とは別人ね、ロウジくん」
ノーマルスーツ越しに伝わる笑い声が耳を心地よくくすぐる。
助け主がそのままロウジを後ろから抱きかかえ、圧縮空気の音を断続的に響かせる。
小刻みに減速していくごとに、ロウジの心音も併せて静まっていく。
恐怖で狭まってた視界がゆっくり広がっていく。
心臓の鼓動を感じながら、宇宙空間を味わう。
「人間は地に足つけて生まれてきたんですー」
「そう?
じゃあ、スペースノイドは人じゃないのかしら」
ロウジを抱きしめる民生宇宙服の腕に、社章と同じ見覚えのあるロゴが刻まれていた。
そのロゴが涙でぼやける。
抱きしめる腕にぎゅっとしがみつき、ロウジは振り返る。
「マリコさん」
「なぁに、ロウジくん?」
そこには優しい声でマリコが微笑んでくれている。
小学生ではなく大人の、ロウジのよく知るマリコさんが。
涙をこらえたくしゃくしゃの顔で、ロウジは笑みを浮かべた。
「里帰りは、もういいんですか?」
「ええ、もういいわ。
だってわたしは勘当された身だもの」
よかった、戻ってきてくれたんだ。
さっぱりしたマリコさんの言葉に、ようやく実感が湧いてきた。
「久しぶりにあえて嬉しかったわ。
とても懐かしかった」
「僕もマリコさんのご家族にご挨拶出来てよかったです」
【Have your wishes been granted?】
突如、虚空から無機質で無感情な声が聞こえた。
ロウジはぎょっと目を見開き、慌てて周囲を見回す。
誰もいない、けれど確かに誰かがこちらを見ているのを感じる。
「ま、マリコさん。
今、何か聞こえませんでした?」
「“あなたの望みは聞き届けられましたか?”ですって。
……ロウジくん、この声に聞き覚えある?」
マリコの冷静な言葉に、ロウジは必死に記憶を辿る。
そうだ、幻かと思ったけど、確かに聞いた。
あの時はそうだ、【Your wish has been granted】って。
「そうだ、聞きました。たぶんΖバンチコロニーに入った直後です。
ガンプラを降りて散策する前の雑談の最中です!
僕もマリコさんのパパさん達ご家族に挨拶したかったな、って……」
マリコさんが難しい顔でうなずき、首を横に振る。
「……ありがとう、よくわかったわ。
またあなたね、親切な名無しの権兵衛さん」
その瞬間、辺りの風景がネジ曲がった。
ピンクや黄色、色とりどりのキラキラした空間。
足元にずっと見えていたザクΖの巨体が消えていた。
そして頭の奥で甲高いラーって音が響く。
僕これ知ってる。
ニュータイプの感応する時のヤツじゃん!?
「なぁにこれぇ!?」
「ロウジくん、お願い。
私にしゃべらせて」
マリコさんにたしなめられ、慌てて口元に手を当てる。
無数に見たこともないガンプラや見たこともないキャラが浮かんでは消えていく。
見覚えのあるものがほんの少し……マリコさん、グランジオング、そして、マリコさんの家族達。
映像に目もくれず、マリコさんが静かに言葉を投げかける。
「そう、わたし達を呼んだのはあなたね。
あなたは……誰なの?」
ふわりと、はばたく白鳥の姿とTの字のオブジェクトが見えた。
そしてまた無機質な声が静かに響く。
【What is your wish?】
「わたしの願いを伝えます。
わたし達の前に姿を現し、対話なさい」
そっか、この誰かは“異邦人”事件の黒幕なんだ!
遅れて理解し、ロウジはぶるりと背筋を震わせる。
【Your wish has been granted】
またあのセリフだ。
承諾を示すように、空間が柔らかに明滅する。
「あなたがいなければ、わたしは生まれなかったかもしれない。
けれどあなたが呼び寄せたわたし達“異邦人”は、このGBNに混乱をもたらしている。
けっしてそれを忘れないで」
穏やかな言葉だが、マリコさんの語調は厳しかった。
ロウジはぎゅっと口をすぼめ、様子を見守る。
【See you soon】
無機質な音と共に、謎のキラキラ空間は突如終わった。
静寂の宇宙空間と足元のザクΖの巨体、機能停止したルブリス達の遠景が戻ってくる。
誰かの視線はもう感じない。
解放の安堵にぶるりと身を震わせ、ロウジはマリコの腕にしがみつく。
「“いずれ、近いうちに”ね……?」
マリコがまるでハサウェイみたいなシニカルな笑みで首を振る。
「……マリコさん、あの!」
「……どうしたの?」
首をひねり、その笑みを真正面から見つめ、ロウジは勢いごんで声を張る。
「僕子供だから“異邦人”事件の影響とかわかんないですけど!」
マリコさん、お願い。そんな顔しないで。
「あの謎の誰かさんのおかげでマリコさんと出会えたなら……
僕は、お礼を言いたいぐらいです!」
大人の人達は色々大変だったかもしれない。
けれどマリコさんが来てくれた日々はとても楽しかったから。
「マリコさんは……“異邦人”だって迷惑だけじゃないです。
だから、もう……どこにもいかないで」
切なる願いが言葉になってこぼれる。
好きな人がすっと消えてしまうなんて寂しすぎるから。
「……そうね。その願いは見知らぬ誰かに叶えてもらうわけにはいかないわね」
子供をあやすようにロウジの背中を軽く叩きながら、マリコが微笑む。
「わたし達が歩み寄り、叶えてあげないと。
わたしはロウジくんのおねえちゃんだもんね?」
「……うん、そうだね。おねえちゃん!」
自分でも手を伸ばし、マリコさんを抱きしめ返す。
結んで、繋いで、絆を練り上げていくんだ。
ゲームでも、リアルでも一歩ずつ。
「ロウジ!
マリコさーん!」
遠くで投光器の光が見えた。
通信でハサウェイの呼びかけが大きく響く。
ハサウェイの操るサポートメカが、迎えに来てくれたのだ。
「ごめんね、まだわたしには帰れる所があるんだ……
こんな嬉しいことはない」
突然、マリコさんがアムロめいた独白を漏らす。
脳裏でビギニングが勝手にBGMとして流れ出した。
「そうですよ。きっとわかってくれます。
ご家族にはいつでも会いに……は、難しいかもですけど!」
マリコさん、初代視聴したんだ。
驚き呆れながら口元を緩め、二人顔を見合わせ、笑う。
笑い、身体を揺すり、無重力の空間でゆっくりとぐるぐる視界が回る。
「ロウジ、無事?
それと……マリコさん。
……おかえりなさい!
で、いいんだよね?」
蚊帳の外に置かれたハサウェイが、ちょっと拗ねたように声をかけてくる。
そうだ、これは言っておかないとダメだ。
「……おかえりなさい、マリコさん!」
だって僕達は、マリコさんの帰れる所になるんだから。
「ただいま!
迎えに来てくれてありがとうね。
ロウジくん、ハサウェイくん」
マリコが花咲くような笑顔でお礼を言ってくれる。
決意を込め、ロウジは満面の笑みで応える。
こうして、僕達の長い一夜はようやく終わりを告げた。
また、明日から変わらぬ一日が待っている。
それが今は何よりも、嬉しかった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・極大魔法
ブラスターロッドを外付けジェネレーターとして位置付け、蓄えたプラフスキー粒子を破壊力として放出する戦略兵器。
エネルギーチャージによる大きなタメが発生するが、直撃すればコロニー外壁を吹き飛ばし、戦艦やサイコガンダムクラスの大型ガンプラを一撃で沈める威力がある。
粒子を大量に使用するため、使用後には機体能力が大きく低下する。
破壊力の発生方法は各ガンプラごとに非常に個性が出るが、威力は使用するプラフスキー粒子量に比例する。
ルブリス・BEは巨大な雷撃で、新1日号は血のように赤黒い閃光だった。
呪文詠唱は厳密には不必要だが、呪文詠唱によるダイバー達のテンション上昇が威力に乗るため、
呪文詠唱を省略すると打ち合いに負けてしまう。
ロウジの元ネタはママのコレクションしていたRPGシリーズを代表する雷撃呪文で、
マリコの元ネタはライトノベル黎明期に一時代を築いたドラまた魔術師の代名詞である。
多くの魔法使いタイプのガンプラの必殺技だが、呪文詠唱とロールプレイが苦手なダイバーには使いこなせない。