リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
最後のドートレスが、メインシートで見守るエニルの前で爆散した。
「……やった!勝ちましたよエニルさん」
エニル自慢のガンプラを操るサブシートのロウジが、目を輝かせて得意げに言った。
「キミ、ニュータイプかな?」
「褒めすぎですよ、いやだなぁ!」
エニルは驚きも露わに、ロウジの健闘を讃えた。
直撃弾なし、ダメージはサブマシンガンがかすった数発と、格闘戦での関節ダメージのみ。
ロウジ操るエニル作のガンプラは、ほぼ無傷のままNPC戦を潜り抜けた。
「相打ち上等の強気のガン攻めスタイル、
ロビーでおどおどしていた坊やとは、まるで別人じゃないか」
「あ、あはは。銃のFPSやる時とか、いつもあんな感じで……」
責めたつもりもないのに、ロウジが語尾を弱め、うつむく。
「エニルさんのガンプラなのに、強引すぎましたね……ごめんなさい」
うつむくロウジの両頬をそっと掌で支え、エニルは優しく浮かべた。
「いいさ。キミが楽しそうで何より」
会ったばかりの他人の心に、そんなに寄り添わなくてもいいんだ、ロウジ。
優しい笑顔と共に、エニルは心の中でもそう呟いた。
たぶん、内気なこの性格の方がロウジの素なのだろう。
「けど、ホントにガンプラバトル初めてのニュービーかい?」
「げ、ゲームのCPU敵の動きなんてどれも似たり寄ったりじゃないですか」
掌が触れた頬を赤らめ、ロウジが照れ隠しのように言い捨てる。
その通りではある。パターンにはめ、反撃を誘って隙に攻撃をねじ込む。
けれど初めてのゲーム、他人のガンプラでそれが自分に果たして出来るか?
少なくとも自分にはもう無理だ。エニルは冷静にそう思う。
「じゃあ、次はもう対人しかないな」
「た、対人戦、ですか……?」
ロウジの顔をあげさせ、エニルは次の事を考える。
「さすがに、今度はガンプラ壊しちゃいますよ……」
嫌だ、とも、勝てません、とも言わないんだな。
強気がにじみ出たようなロウジの発言に、エニルはくすりと笑みを浮かべた。
「大丈夫。たとえ撃墜判定だって、しばらく搭乗不可になるだけだよ」
「え、そうだったんですか!?」
実際のところ、狙って初心者狩りをするような根性なしダイバー相手なら、
きっとロウジと自分のガンプラなら勝てるだろうと今のエニルは確信がある。
「とはいえ、乱入もなさそうだ……」
「ええ!? 乱入とか普通にあるんですか!?」
「言っただろ。PVPフリーのサーバーだって」
ガンプラ操縦をロウジに任せ、エニルは対戦募集やイベントリストに目を通す。
妙に募集が少ない。実況動画のリストに目を通し、その理由に納得する。
「けれどこれは……たぶん、乱入はなさそうだね」
【AVALON VS ビルドダイバーズ】
「なんでです?」
「有名フォース同士がフラッグ戦をやってるようだ。
まったく、すごい観覧数だ、GBNの全ダイバーが見てるんじゃないか?」
「そ、そんな凄いイベントが……!」
「動画のリンク送っとく。興味があったら録画を見なさい」
むしろミッションクリアしたら、一緒に見に行ってやってもいいかもしれない。
物おじしないロウジなら、上の実力を見る事はきっとプラスになるだろう。
「こんな中、乱入するようなヤツがいるとすれば……」
エニルの台詞が、途中で断ち切られる。
ガンプラもモニターに映るように、大きく閃光弾が打ちあがっていた。
「バルチャーサイン!?」
「『獲物を見つけた、仕留めるぞ』か。
……つまり、いたようだ、物好きが」
『敵機が接近中です。気を付けてください!』
驚き慌てるロウジの声を聴きながら、エニルは不敵に笑みを浮かべる。
お気に入りのAIオペレーターも、乱入者ありと警告を発する。
「あの。エニルさん。乱入するとすれば……なんなんです?」
「よほどの物好きか、よほどの腕自慢か……その両方か」
立てた指を自分の唇に当て、エニルは楽しげにロウジへ告げる。
きっとこの対戦も、ロウジにとってプラスになるはずだ。
「きっと凄腕のエースさ。楽しみだ」
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・バルチャーサイン
機動新世紀ガンダムXに出てきたバルチャー同士が使う、特殊な様式の信号弾。
バルチャーは大戦中の軍事施設跡を巡り、兵器の残骸や電子部品を漁っては人々に売りさばく荒くれMS乗りの総称である。
「当方に戦闘の意志なし、降伏する」「救援請う」などのメッセージが込められている。
CPU戦の合図に使用される他、ダイバーがPVPの申し込みに合わせて使用するアイテムとしてGBNで存在する。
ダイバーが30文字以内のメッセージを込めて使用すると、自動で色を選んで打ちあがってくれる。
他のダイバーにもシステムメッセージで表示して理解してもらえるので、それっぽい雰囲気作りに最適だ。
つまり使用者は、これをノリノリ用意してるような趣味の人間だと言う照明である。