リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
ロウジとセセリアとハサウェイとマリコさんがイチャイチャするだけの回となります。
最終話となる6話の書き溜めは難航していますが、
来週9/7(日)に冒頭部分をを投稿予定です。
”卒業生はガンプラをやめられない”
多分同じぐらい長丁場になりますが、気長にお付き合いください。
ミッション5to6 幕間:わたし達のオフラインミッション
若者達の言葉で、これはオフ会と言うらしい。
「暑いわね……地球の夏ってこんな殺人的なの?」
日差しが照りつけ、踏みしめる地面はプラが溶けてしまいそうなほどに熱い。
全天候管理のコロニーとのあまりの違いに、マリコは思わずぼやいた。
「ちっちゃな頃からずっとそうだよ」
「今年は異常気象だーって、毎年言ってるよね」
マリコのぼやきに、リアルのロウジとハサウェイが仲良く言葉を返す。
ここはリアルワールド、とある関西の住宅地帯だ。
夏が始まった週末の土曜日、学校がお休みの日だ。
ロウジに連れられ、今日のハサウェイとマリコはとあるおうちを訪問しようとしていた。
「はいここ。エレベーターはないから階段ねー」
「……あーダメ、緊張してきた」
上品な顔立ちに似つかわしくない男っぽい口調で、ハサウェイがぼやく。
くすりと笑みを漏らし、マリコは柔らかく言葉を返す。
「大丈夫、わたしもよ」
「もぉ、二人とも。
何も心配しなくっていいってば」
リズミカルに階段を駆け上がり、くるりと振り返ったロウジが子供っぽく頬を膨らませる。
活発な印象と、ひらひらしたガーリーな衣装がどこかミスマッチで、けれどどこか愛らしい。
ハサウェイが無言で苦笑し、首を横に振った。
「初めて会う人なんだから、身構えるのも当然でしょ?」
息が荒げ、肩を小さく上下させながら、ハサウェイがロウジを追って階段をゆっくり上がる。
「そうね、わたしも同意見よ」
ハサウェイの言葉に同意しながら、マリコも覚悟を決めて階段を見やる。
マリコの身体はガンプラサイズ、人間サイズの階段は身長ほどある石壁だ。
一段一段上がってなどいられない。
思い切りよく地面を蹴って階段脇のスロープへ飛び上がり、スロープを駆け上がる。
ハサウェイを追い越しそのまま最上階、三階で待つロウジくんの肩へと飛び移る。
「はぁい、いらっしゃい、マリコさん」
「すっかりそこがマリコさんの定位置だね」
ロウジがにっこり笑顔で頬ずりしてくる。
階段を昇りつめたハサウェイが口元を抑えて上品に微笑む。
マリコは軽い口調で言葉を返す。
「皆といっしょの時に足元はデンジャーだもの。
悪意なくうっかり踏まれちゃうのよ」
「あー……なるほど」
そしてうっかりがそのまま大惨事だ。
ロウジのうっかりでボディにヒビが入り、慌てて修復を頼んだことも一度や二度ではない。
「はい、とうちゃーく!」
「ちょっと待って、身だしなみの確認……」
ハサウェイの制止を振り切り、るんるん気分のロウジが無情にもドア脇のボタンを押す。
室内呼び出し用のチャイムが響く中、ハサウェイがため息ついて手鏡を覗き込む。
「はい、いらっしゃーい」
声変わりしたばかりの低めの良く通る声が響き、リアルのセセリアがドアを開けてくれた。
ここが本日の目的地、セセリアのおうちなのである。
「ほい、お邪魔ー」
まさに勝手知ってる他人の家と言わんばかり、ロウジが無遠慮に部屋へと踏み込む。
もちろんマリコとハサウェイはそう気楽にはいかない。
ロウジからハサウェイの肩へと飛び移り、マリコは改めてセセリアへお辞儀する。
「今日はよろしくね」
「……お邪魔します。上がるよ?」
無遠慮なロウジを目を細めて追いながら、ハサウェイが礼儀正しくお辞儀した。
気持ちはわかる、マリコはこっそりうなずいた。
「ようこそ!
二人とも気楽でいいからねー」
「あんな野放図、マネするの無理よ」
気楽なセセリアに、マリコは笑って応える。
いつも遠慮しいの内気なロウジが、あの無遠慮さだ。
どれほど心の距離が近いのか、はっきりわかる。
「はいこれ、おばさんに」
「別にいいのに」
ロウジから押し付けられた紙袋を、セセリアが申し訳なさそうな笑顔で受け取る。
ロウジが満面の笑顔で、セセリアへ指を2本突きつける。
「ママからのお土産だよ。
だって今日はわたし達二人分だもん」
「じゃあもらっとくかぁ」
セセリアがマリコを見て、ロウジに視線を戻してしょうがないなと笑う。
ああもう、ごちそうさま。ここだけ空気が妙に甘い。
こほんと咳払いして、ハサウェイが割って入った。
「はいこれ、こっちも手土産代わりのお菓子とジュース。
こっちは皆で食べちゃお」
「おっけ、ありがと!
もらうね」
皆しておしゃべりしながら、お部屋へ通される。
リビングルーム兼ダイニングルームだろうか。
テレビモニターが一つと大きめのテーブルと椅子が複数あり、ソファが一つと低めのテーブルが一つ置いてある。
「ふぇぇ、涼しい。生き返るー!」
「コロニーの当たり前は地球の非常識なのね……」
ロウジが勢いよくソファに身を預け、室内の涼しさに歓声を上げる。
空調がきいた室内が実にありがたい。モビルドールのマリコだって例外じゃない。
「そうだ、皆。
最終回はもう見たよね?」
「うん、見た、すっごい良かった!」
ハサウェイの言葉に、ロウジがにっこり笑顔でソファから跳ね起きる。
話題は最近最終回を迎えた機動戦士Gundam GQuuuuuuXについてだ。
「ジークアクス、途中はすごくハラハラしたけど、
最後はどうなってもハッピーエンディング。
すごく良かったね」
「ええ!?
でもいくら心が通じあったってあの離別は悲しくない?
映ったお母さんのシーンとかすごい切なかったし……」
好きなものの話題にはしゃぐファン特有の早口で、ロウジがどっと早口で語る。
「無事に生きててくれる。
そうとわかれば大丈夫よ。
親だっていつかは子離れしないといけないもの」
マリコのしんみりした言葉に、ロウジとハサウェイが顔を見合わせた。
いけない、余計な気を遣わせちゃったかしら。
「はいはい皆、感想会が楽しいのはわかる。
けど、今日の目的忘れちゃいない?」
台所から戻ってきたセセリアが、自然に話題を変えてくれた。
「皆で楽しいガンプラ作り!」
「正解。お昼までに仮組み済ませよう」
トレーに載せていたドリンクを皆に配りながら、セセリアが仕切る。
全員が揃ってうなずき、テーブルの上に作りたいガンプラを載せていく。
「ゲルググ(GQ)のスガイさんじゃない方!」
「ロウジからのクリスマスプレゼント……マジカルセセリア!」
「アッガイマフィアさんに見せたいから……ベアッガイさん!」
「新発売で目があったから……ネオ・ジオンのガルスJ!」
それぞれロウジ、セセリア、ハサウェイ、マリコだ。
皆が笑顔で、誇らしげに提示する。
たちまちキットについての会話がわっと飛び交う。
「わぁベアッガイさん、それもめっちゃレアモノ!」
「マフティーがパーツ集めを妨害しちゃったヤツなんだよね。
これもケジメの一つってことで」
「クリスマスプレゼント、まだ眠らせてたの?」
「課題をこなすのに必死で余裕がなかったんですよ。
愛機欲しいってわがまま言う誰がさんもいるし」
女三人よればかしましい。
わいわい楽しい雑談タイムを、セセリアが手を叩いて制止する。
「よし、じゃあひとまず皆制作開始だ。
焦らず、自分のペースでね」
「よーし、競争だ!」
「もう、言った先から!」
張り切るロウジに笑いながら、マリコは自分の腰くらいの高さのガンプラの箱を開封する。
「リアルでの初ガンプラ作り、いっきまーす!」
開けてランナーごとに並べるのもアバターの時と違って一苦労だ。
何せこれから組むガンプラはマリコのモビルドール並のサイズ。各パーツはマリコの手足と同じくらい大きくなる。
道具だって特注、モビルドール用の専用ニッパーだもの。
「水分補給も忘れず、ただしドリンク飲んだら必ずキャップ閉めること。
マリア、うっかりこぼさないようにね」
「もー、名指しー!?」
リアルネームでセセリアにいじられ、ロウジくんが膨れっ面になる。
まったく仲のおよろしいこと。
ハサウェイと顔を見合わせくすりと笑い、マリコは文字通り全身全霊でガンプラづくりへ専心するのだった。
楽しい時間はあっという間。
ぐーっと空腹を主張した腹の虫に、ロウジはもうお昼だと気付く。
「うーがー!
ちょっと何このパーツの細かさ!
ジークアクスのガンプラ全部こうなの?」
多分、聞こえてないよね? 照れ隠しみたいにロウジは大声で叫ぶ。
目の前のゲルググはようやく上半身と右足が完成したところだった。
「うわホントだ、何この細かいパーツ分割。両足だけでほぼ半分くらいの工程あるじゃん」
「すごいでしょ。
色塗りなしでこの細かな色分け。
でも各パーツが精度がっちり噛み合うのすごい感度する」
ガンプラ早組み対決の優勝ハサウェイが、余裕の表情でロウジの手元を覗き込む。
集中力は品切れだ。マリコさんの方はどんなもんかな。
作りかけのランナーと完成したパーツを箱にいったん押し込み、ロウジは目線を隣へ向ける。
「よし、シール貼り完璧!」
「あはは、手が小さいところは利点だね!」
難敵モノアイシールを狙ったところへぴったり貼り付け、マリコが得意げに胸を張る。
隣でセセリアが甲斐甲斐しくマリコのサポートしてる。
結局自分のキット開封すらしていない。
なんだかちょっともやつくんですけど。
「ほら、妬かないの」
「アイツ誰にでも優しいもんね……」
マリコさんは初心者で、しかもドールボディでの初ガンプラ制作だ。
そりゃサポートは大事だ。わかるのはわかるんですけど。
もやつく気持ちに区切りをつけるように、玄関チャイムが鳴った。
「マリア、多分オフクロだ。
玄関頼むー」
「あ、はいはーい」
セセリアの軽い頼みに腰軽く立ち上がり、ロウジは玄関まで小走りする。
念のためにと覗き込んだドアスコープには、見覚えある年上の女性が立っていた。
良く日に焼けた、すごく背の高い女性だ。
リアルのセセリアとどこかよく似た雰囲気の女性が、たくさんエコバッグを下げている。
わぁアレは大変!
ロウジは慌ててチェーンを外して鍵を開け、女性を中へ迎え入れる。
「お邪魔してます、おばさん!」
満面の笑顔でぺこりとお辞儀し、ロウジは女性の下げたエコバッグを受け取ろうと両手を差し出す。
女性も素直に荷物を差し出し、代わりにとばかりに空いた大きな手でロウジの頭をわしゃわしゃと無遠慮に撫で回す。
「ありがと、マリアちゃん。
ごめんね、お客さんにこんな」
「いーんですよ、そんな他人行儀なこと!」
良く日に焼けた顔で謝る女性へ、ロウジはにかっと笑顔で返す。
ガサツに距離が近い大人は苦手なロウジだけど、この人は別。
だってこの人はセセリアのお母さん。
小さい頃からいっぱい世話を焼いてもらった、もう一人のママみたいな人だもの。
「おじさんは今日いないんですか?」
「そうなの、うちの子と進路でケンカしちゃって。
ここんとこずっと昼間いないわ」
え、意外。優しく許してくれそうなおじさんなのに。
心の中で呟きながら、ロウジは荷物を抱えて台所へ向かう。
もらったエコバッグ、ひんやりすごく冷たい。これはすぐ冷蔵庫に入れなくっちゃ。
「あやー……ちょっと責任感じちゃいます」
「いいのよ、どうせうちのは単純だから。
マリアちゃんと顔合わせたらすぐに機嫌治るでしょ」
おばさんと会話しながら、てきぱきと中身を収納していく。
指示も貰わなくて大丈夫、おばさんの収納の癖はほとんど全てわかってるもん。
これアイスクリームだ! じゃあ冷凍庫へ。
あと牛乳とビール、新しいヤツを奥に入れて古いのを手前に。
「ありがとマリアちゃん!
それじゃ、うちの子にホットプレート出させてきて!」
「はーい!」
渡されたお茶のペットボトルを抱えて、リビングへ向かう。
マリコさんのプラモづくりを腕組みして見守るセセリアの肩をぽんぽん叩き、ペットボトルをテーブルに置く。
「みんなー、そろそろお昼ごはんだよ!
セセリア、いったんガンプラ作業は中断ね。
いつものアレおねがい」
「いっけね、もうそんな時間か!」
慌てて立ち上がるセセリアの代わりにマリコさんの隣席に座り、作りかけのガンプラの片づけを手伝う。
「夢中になってると、時間の経つのはあっと言う間ね……」
「ごめんねマリコさん。
わたしもうお腹ぺっこぺこなんだ」
申し訳なさそうに両手を合わせて拝み、ロウジはマリコへごめんねを示す。
残念ながらモビルドールボディにご飯を栄養に変える機能はまだないそうだ。
「いいのよ。
いっしょに食卓を囲むのは、食べる事だけが目的だけじゃないもの」
「いいこと言う!
さっすが、おねーちゃん」
さぁこれ終わったら、セセリアのお母さんへ自慢の友達とマリコさんの紹介だ。
ガンプラサイズの最愛の姉へ白い歯を見せて笑い、ロウジは台所へ取って返すのだった。
ああ、緊張する。
ハサウェイは行儀の良い姿勢でよそゆきの笑顔を浮かべる。
「おばさん、改めて紹介するね。
GBNを通じて知り合ったわたしのお友達!」
ロウジのお母さんより先にセセリアのお母さんに紹介されるとは思ってもみなかった。
ロウジのお母さん、土日もお忙しい仕事らしいし仕方ないけどさ。
「初めまして、おかあさん。
ゲームではハサウェイって名乗っています。
リアルの名前は……」
リアルのセセリアを性別ひっくり返したみたいな雰囲気の人だとハサウェイは思う。
さっぱりとした気楽さを感じる。
「うちのなんかと仲良くしてくれてありがとね!」
「息子さんにはとてもお世話になってます。
リアルでも。ゲーム内ならもっと」
自分のお子さんにその言い方はどうなのさ。
ちょっとムッとした。思わず語気を強めてハサウェイは言い返す。
少しきょとんとしたセセリアのお母さんが、セセリアへ視線を見せてからふわっと笑う。
「ごめんごめん!
……ほんとによくしてくれて、ありがとなぁ」
とっても嬉しそうな笑顔に、ハサウェイはほっと胸を撫で下ろす。
多分この人、言い方に遠慮がなさすぎるだけだ。
「すごく上品なお嬢さんなん、びっくりだわ。
うちの子に口説かれたりせんかった?」
「やめろよ、オフクロ……」
ほらセセリアがだいぶ嫌そうな顔してる。
「ほら、ゲーム内では男の子使ってるから」
「なるほど、デレっと鼻の下伸ばしてないわけだ」
「マリアもさぁ!」
セセリアが盛大にすねる。
ハサウェイはセセリアのお母さんと顔を見合わせ、口に手を当てて上品に笑う。
「だってさ、ひどいんだよコイツ。
わたしをGBNに誘っておいて、うっかり宿題のやり忘れ!
それがおばさんに見つかって大目玉で、GBNを案内出来ないんだもん」
「マリアちゃん、そのくらいで。
あんまり友達の前で失敗ばらさないであげて?」
うん、初耳だ。もっとすね始めたセセリアを見ながら、お母さんがロウジを制してくれた。
よかった。このお母さんのこと、ちゃんと好きになれそう。
「ほら、マリア。
セセリアのかわいい失敗談は後でいいからさ。
今から大事なメインゲストの紹介でしょ」
笑いながらリアルネームでロウジを促す。
テーブルの上、ナプキンの上に立っていたマリコさんが軽く飛び上がる。
ゆく先は慌ててロウジが差した開いた両掌の上だ。
ガンプラサイズもあいまって、まるでファンタジーの妖精さんだ。
「わっ……とと。
この人がマリコさん。
新しくうちの家に来た、おねーちゃんです」
満面の笑顔でロウジが告げる。
その笑顔をバックに、マリコさんが優雅な動きで一礼してみせた。
「初めまして。
わたしはゲーム内で生まれた電子生命体のELダイバー。
”スペースコロニー、サイド3生まれ”のマリコです。
よろしくお願いします」
「まぁ!
ほんとに……お人形サイズなんね!」
セセリアのお母さんが抑えきれない好奇心に目を輝かせる。
「はい、このボディはガンプラとほぼ同サイズです。
25年くらい生きてるんですけど、ちっとも背が伸びなくって」
「うちの子の身長、分けてあげたいわぁ」
にこにこ笑顔で大人二人が言葉を交わす。
多分、事前にセセリアから聞いていたんだろう。
完全に初見だったらこんな反応じゃすむまい。
「うちの子とマリアちゃんをよろしゅうね、マリコさん」
「はい、こちらこそ。
こちらの世界は不慣れなのでご迷惑をおかけします」
マリコの掌とセセリアのお母さんの人差し指か触れ合い、友好の握手が締結される。
ハサウェイも他人事ながら、ほっと一安心だ。
オレのママならきっとこうスムーズにはいかないだろう。
「よーっし準備完了!
マリア、お皿どけて」
「待ってました!」
「じゃ、お昼にしましょうか。
お客さんの二人は座ってて!」
セセリアがおっきな機械を奥から持ってきた。
入れ替わりにセセリアのお母さんとロウジが台所へ向かう。
テーブルの上に設置し、てきぱきと準備を進めていく。
大きな黒い鉄板に、ゴルフボール大の丸いものが入る半球状のへこみがいっぱいある。
これは……アレだ。ハサウェイにはぴんと来た。
「……これ、何かしら?」
「わぁ、たこ焼き器じゃん♪」
宇宙世紀生まれのマリコさんはそりゃわかんないだろう。
関西人のソウルフード、みんな大好きタコ焼きだ。
セセリアが丁寧に油を塗って、鉄板を熱し始める。
「さ、タコ焼きパーティだ!
焼くのはセセリアに任せちゃっていいからね」
「まったくロウジはさぁ。
けっこうこれ大変なんだよ?」
ロウジが大きなボウルに入ったタコ焼きの元を持ってくる。
ソース、青のり、マヨネーズ、紅ショウガ、タコ焼きの中身。
あと、タッパーに入ったにんじん、キャベツ、きゅうり。
つんとする香りはお酢かな、お手製のピクルスだろう。
「マリアちゃん、これ取りにきてー!」
「はぁい!」
どんっと大皿に、三角に切られたサンドイッチがたくさん載っている。
ハムにきゅうり、たまごサラダ、ツナマヨネーズ、チーズとハムかな。
白い歯を見せて、得意げにロウジが笑う。
「これはわたしがお手伝いしたんだよ!」
「へぇ……やるじゃん」
「あら偉い」
ハサウェイとマリコ、二人がかりでほめられ、ロウジが照れ臭そうにはにかむ。
その横でセセリアがもくもくと準備を進めていく。
「いよっし、それじゃタコ焼きパーティスタート!」
威勢よく叫び、セセリアがついにタコ焼きの元を鉄板へ投入開始する。
じゅうっといい音が響き、すてきな香りが部屋中に漂い始める。
屋台のおじさん並の手際で、セセリアがリズミカルにタコ焼きを焼き始める。
「この列はタコね。
残りの列はとりあえずエビ、カマボコ、チーズでおねがい!」
「こらマリア、ゲストの二人置いてリクエストしなぁい!」
かわいくねだるロウジをいなし、セセリアが真剣な顔でタコ焼きを焼き続ける。
「すごいものね」
「うん、これはなかなかだ」
マリコさんがにこにこでセセリアの手際を見守ってる。
ハサウェイも邪魔しないよう、興味深げにセセリアの手元を見ていた。
「おっけー、第一陣できあがり!
マリア、ソース任せた」
「はーい!」
お皿に乗せられたまん丸のタコ焼きに、ロウジがソースと青のりで味付けしていく。
「こっちがタコで、エビ、チーズ、カマボコね。
マヨネーズはセルフでどうぞ。
ささ、召し上がれ!」
「……じゃ、うん。
いただきます」
にっこにこでロウジがタコ焼きのお皿を差し出してくる。
絶対これアツアツだ。口の中を火傷しないよう慎重におひとついただく。
じゅわっと口の中に熱とこってりした味わいが一気に広がる。
「すごい。お店そのままだ!」
「へっへー、すごいっしょ!」
自分のことよりも得意げに胸を張り、ロウジが遠慮なくタコ焼きを食べ始める。
マヨネーズを味変に使いながら、ハサウェイもちょっとずついただく。
「ちょっとマリア、ゲストよりたくさん食べてる!」
「だって、久しぶりだもん」
アツアツのタコ焼きを口いっぱいに頬張り、ロウジが幸せそうに笑う。
まったくこの二人は本当に仲良しだ。
「そっちもどうぞ。
はい、あーん」
「ちょっとマリア、作業のジャマぁ!」
タコ焼き焼いてるセセリアへ、ロウジがようじに刺したタコ焼きを差し出す。
にべもなく断られ、ロウジがガキっぽくふくれっ面になる。
「はい、あーん!」
「ちょっとマリアほんとに手元が狂う……一つだけだぞ?
あっつ!
ちょ、これあっつ!!」
圧を強めたロウジに口の中にタコ焼きを押し込まれ、セセリアが悲鳴を上げる。
けらけら笑うロウジだが、セセリアが食べ終わったら冷たいジュースを差し出してあげた。
目の前で推し二人が戯れる。なんて尊い姿だろう。
ハサウェイは静かに目を細め、呟く。
「……うーん、ごちそうさま」
「二人とも子供なんだから、ほんとに」
おかしそうに笑うマリコと視線を見交わし、ハサウェイも口元を緩める。
高度にいちゃつくロウジとセセリアのなかよし模様をサカナに、タコ焼きをいただく。
たのしいタコ焼きパーティ、もちろんこれは大成功だ。
お皿を直し、ごみを片付け、テーブルは奇麗に。
タコ焼き器はセセリアが手入れしてしまい直し中だ。
指さし確認、よし。後片付け完了。
ロウジは満足げにうなずき、家主へ報告をあげる。
「おばさーん。
洗い物終わったよ!」
家主であるセセリアのお母さんは、難しい顔で仕事の資料をみながら、缶ビール片手にサンドイッチぱくついていた。
セセリアのお母さんが資料から顔を上げ、にっこり笑顔でサムズアップする。
「ありがとね、マリアちゃん。
ごほうびのアイス、皆の分もとってきな」
「わーい、ありがとおばさん!」
慣れたやり取りで、冷凍庫からアイスを引っ張り出す。
セセリアは後でいいか。とりあえずハサウェイの分だね。
「あと、帰りにおみやげもって帰ってくれる?
マリアちゃんのパパとママの仲直り記念」
「パパもママも元々仲良しだってば。
でもおばさんありがと、大好き!」
セセリア一家とロウジ一家はもはや家族ぐるみの付き合いである。
パパママ別居中は何かと気を遣ってもらい、ママの留守中にロウジが世話を焼いてもらったことも一度や二度ではない。
セセリアのお母さんに軽くハグして、ロウジはダイニングへ向かう。
「ハサウェイお疲れ。
アイスもらってきたよー」
テーブルにはもう一度マリコさんの作り賭けのガンプラが並べられ、ハサウェイが横で見守っていた。
ハサウェイの分のアイスを渡し、ロウジも自分のアイスをいただきます。
「ごめんね、手伝いもしないで」
「いーのいーの。
わたしがおばさんの点数稼ぎしてるだけだよぉ」
申し訳なさそうなハサウェイに、ロウジは笑顔で手を振る。
ハサウェイは多分楽しんでくれてる。
ではもう一方のゲスト、マリコさんは大丈夫だろうか。
全長20cmのドールボディが、説明書を凝視しながらニッパーを全身で構えている。
邪魔しないよう作業がひと段落した瞬間を狙い、ロウジは声をかけた。
「ごめんねマリコさん、わたし達だけで盛り上がっちゃって」
ロウジの言葉にマリコさんがガンプラから顔を上げ、不思議そうに首をかしげる。
マリコさんを幸せな夢から救い出して、ずっと心に引っかかっていたことだ。
「わたしってばいつもそう。
大声で自分のしたいことを叫んで、
周りの人に言うことを聞いてもらってばかり」
やさしい人に囲まれて、やさしい人にゆずってもらって。
自分が自分であるために、たくさん周りに無理を強いちゃいないか。
時々、みんなに愛想を尽かされないか不安になる。
「違うわ、ロウジくん。
あなたはあの時も今日も、手を差し伸べてくれただけ。
その手をとったのは、わたし自身の意志よ」
にっこりとモビルドールフェイスに笑顔を刻み、マリコさんがてらいもなく言う。
マリコさんが軽い挙動でロウジの肩へ飛び乗り、プラの柔らかく暖かな手がロウジの頬へ触れた。
「ロウジくんにとっては何の変哲もない日常かもしれないけれど、
このたわいないやりとりこそが、わたしが一番欲しかったことよ」
声と笑顔に、まったく嘘は感じなかった。
何それ、言葉の意味はよくわかんないけど、マリコさんめっちゃ大人!
心の端に潜んだ不安の氷が、ゆっくり溶けだしていくのを感じる。
「わたしも、”木星妖怪”の人達も、あの時新たな未来をもらったの。
閉じた世界ではなく、広いこの世界で生きていくための自由をね。
少しずつ、教えて言ってちょうだい。あなた達のあたりまえを、ね」
「よくわかんないけど、なんかわかった!」
ほっとした心そのままに、満面の笑顔でお礼を言う。
マリコさんが優しい笑顔で返し、ガンプラの乗ったテーブルへと飛び移る。
「マリコさんもタコ焼き、いずれは食べられるようになる?」
「ふふふ、わたしはデータとして取得させてもらったから。
GBNで情報として取得し、いただくの」
ううん、わたしのおねーちゃんってばとってもハイテク。
マリコさんは本来情報生命体だから、味の情報とかを情報を取得する事で満足感を得るらしい。
『エセリアの、ガンプラ道場!』
つけっぱなしのモニターから、GBN運営さんの公式チャンネルが始まった。
セセリアのアイスを手元に置きながら、ロウジは自分のアイスへかじりつく。
「始まった!
エセリアさんの冠番組だ」
「わずか3か月で運営放送に自分のチャンネル持たせてもらえるなんて、
エセリアちゃんってすごいガンプラビルダーさんなのね」
ロウジはソファから身を乗り出す。
そのお膝の上で、マリコが感心したように呟く。
ロウジも同感だ。エセリアさん、すごいスピード出世。
「実力は疑う余地ないよね」
「態度で侮られちゃうんだ。
ま、自業自得だと思うけど」
ひとまずお手並み拝見」
セセリアとハサウェイは冷ややかだ。
実力を疑ってるわけじゃあないけどね。
そこはふざけてる時のセセリアとおんなじだよね。
『ほーい、G-tubeをご覧の皆様、こんちは。
皆のアイドル、エセリアちゃんやでー』
OPが終わり、チャンネル冒頭のトークが始まった。
セセリアそっくりのアバターが、愛想笑いを振りまく。
『“ヨゴレアイドルの間違いだ”ろ?
“某国制のパチモンアバター”やて?
毎度毎度そのツッコミ飽きへんなキミら!』
「敵を作る物言いだよね、エセリアさん」
多分コメントを拾ってるんだと思う。
ロウジはけらけらと笑いつつ、ちょっと心配そうにつぶやく。
『そんなキミらに朗報や。
ラフレシアしかいない花園とか言われるウチのチャンネル、
花を添えるために新しい助手が採用されたで!』
「カワイイ女の子増えるだって。
良かったね」
「ちょっとマリア。
今日はいつもより当たりきつくない?」
セセリアへ目をやり、ロウジはにやっと笑う。
だってキミはきれーなおねーさんとかわいい女の子に目がないじゃん。
『グリーンノア育ちのかわいい女の子、
ロージィ・ユイリィちゃんや!』
思わずロウジは画面を二度見した。
褐色肌のエセリアの横に、ぼさぼさ髪の小柄な人物が並ぶ。
『どうも、ロージィ・ユイリィです』
きっちり頭を下げ、礼儀正しい挨拶が響く。
脳みそを情報が滑り落ちていく。
エセリアの横に、ロウジそっくりのかわいらしい女の子のアバターがたたずむ。
「ぷーっ!?
けほ、げほ、けほ!」
「ちょっと、マリア!?」
脳みそが情報を解読した瞬間、リアルでロウジは思いっきりせき込んだ。
大慌てでセセリアが背中をさすってくれた。
いや待って、なにこれ待って。
『はじめまして、チャンネルの向こうの皆さん。
エセリアの幼馴染としてのご縁で当チャンネルに採用されました』
『エゥーゴのミニスカ制服、よー似合ぉとるやろ』
ハサウェイが口元に上品に手を当て、唖然と画面を見つめている。
マリコも同様に目を見開き、やり取りを聞いていた。
ロージィと名乗ったアバターの子、丈が短いスカートのエゥーゴ軍服に身を包んでる。
まるでロウジがかわいらしく女装した姿なのだ。
『この番組を一緒に盛り立てさせていただきますので、
よろしくお願いします』
『よろしゅうな!』
「え、ちょっと待って。
ロウジがあの番組出演したの?」
「してないしてない!
したら大騒ぎでおしゃべりしてるよ!」
セセリアの問いを、ロウジは慌てて全否定する。
疑うのはわかる。あまりにもそっくりなんだもの。
「と言うか、ロウジにスカートはかせたりしないよ!?」
「待ってロウジくん。あの子ひょっとして……」
マリコさんが真剣な声をあげた。
すわ大事件!? ロウジは慌ててマリコさんを見る。
けどマリコさんの表情の方は、驚きとか呆れとかそんな感じ半々だった。
「うん、やっぱりそうよ。
あの子、ロージィちゃん。
“木星妖怪”の端末よ……」
「……ほぇ?」
もくせいよーかいのたんまつ。
木星妖怪の端末、マリコさんのパパママの親戚ってこと?!
マリコさんを見る、マリコさんがうなずく。
唖然としたセセリア、ハサウェイ、顔を見合わせ、驚きの声が唱和する。
「「「えええええええ!?」」」
『そいじゃロージィ、さくさく進めてくで。
新メンバーにウチのかわいい幼馴染をくわえたところで、
はりきって新作ガンプラ紹介や!』
『はい、エセリア。
さて、色んな新発売ガンプラのプレイバリューを紹介してきた当チャンネル。
本日選ばれたキットは……じゃん、こちらです!」
もちろんチャンネルはおうちの大騒ぎを意に介することなく進行してく。
ロウジそっくりの顔と声でしゃべられるの、すっごいむずがゆい!
「エセリアパイセン、この前の木星妖怪バトルで、
Zガンダムのストーリーを追体験したって言ってた!」
「じゃ、じゃあ、あのロージィちゃんはそのストーリーに出て来た幼馴染さん?」
「ファ・ユィリィのポジションで出てきた捏造キャラってこと?」
木星妖怪さんのくりだした”精神攻撃”の一種だ。
現実の体験じゃなく、アニメの物語を追体験する幸せな夢もあったらしい。
ロウジも話を聞いて、ちょっとうらやましいと思ったものだ。
「……うん。木星妖怪さん達は言ってたそうよ。
世界を学習するために、どこか信頼できる先へ端末を派遣したいって」
「……間違いないじゃん」
『先日発売されたばかり、1/144 HGGQ軽キャノン!
赤と白のコントラストが量産機らしからぬ精悍さのキットです』
『ジークアクス世界線で劣勢に陥った連邦軍を支えた名量産機やね。
作中ではゲルググ(GQ)との比較でさんざこき下ろされたけど、
GBNにおいては堅牢な装甲とバランスの良い能力で汎用性が高い良キットやで!』
モニターの解説が響く中、リビングルームはしんと静まり返ってしまった。
驚きと言うか、困惑と言うか。
「えっと……もう、大丈夫なんだよね?」
「師匠やエニルさんは大丈夫だって言ってたな」
「……エセリアさん、一応運営側の大人でしょ?
頼れる大人が言うんだ、大丈夫なんじゃない」
戸惑いの言葉も三者三様だ。
たぶん、この前バトルで大暴れした人達が身近にいる事への違和感があったんだと思う。
「知る、学ぶ。それはわかりあうための手段よ。
”木星妖怪”の皆も、GBNの仲間として生きていくことを選んだんだと思う」
ロウジ達の様子を静かに見守り、マリコさんが静かな声で語り出す。
「そっか、皆、新しい世界を生きようとしてるんだね……」
ロウジはしみじみと呟いた。
新しい日常の中で生きていこうとしているのはマリコさんだけじゃない。
エセリアさんだって“木星妖怪”の“人達”だってそうなんだ。
「だから、“木星妖怪”の皆と今度出会った時には……
ようこそGBNへ、って言ってあげてほしい」
「もちろん大歓迎だよ。
ね、マリア?」
「うん、そうだね。
……みんな、そうなんだ」
わたし達だってそうだ。
朝起きて、学校に行って、変わらないいつもの日々が続く。
けれど、時間は流れ、毎日は少しずつ先に進んでいく。
「あのね、皆。
聞いてほしい。
大事なお話があるんだ」
だから、わたしも先に進まなきゃならない。
膝を詰め、静かな表情でロウジは仲間達へと向き直る。
「お、何々、愛の告白?」
「今の訳ないだろ、おバカ」
「チャンネル一度消すわね」
大好きな幼馴染、セセリア、
大切な友達、ハサウェイ、
わたしのおねえちゃん、マリコさん。
GBNで関係を育んだ、ロウジのとても大切な仲間達。
ずっと仲良く遊んでいたい。それだけで幸せだ、そうも思う。
「デミダイバーズ、解散しようと思ってる」
三者三様の驚きの眼差しを向けてくる。
けれど、黙ったまま皆が先を促してくる。
眼差しに力をもらい、ロウジはたどたどしく説明を続ける。
「わたしの……僕の勝手な事情です、ごめんなさい。
けど、ずっとあの幸せな夢の世界に関わり続けるため、必要なことなんだ」
進むために、いつもの日常の色をがらりと塗り替える。
ロウジは静かに、仲間達へと大きな決断の理由を語り続ける。
この日、デミダイバーズの解散が決まったのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・モビルドール用ニッパー
身体がHGガンプラ、20cmサイズのモビルドールが使うために小型化されたガンプラ作成用ニッパー。
大体人間用の半分ほどの大きさで、 腰の辺りにアタッチメントを作成して使用する。
これはモビルドール製作者であるエセリア作ではなく、公式から販売されているものだ。
人間サイズの部屋や通路で生活するためのサポート道具は他にも多岐に渡る。
現実世界にモビルドールボディで進出したELダイバーたちの意見を取り入れ、開発されている。
登攀用ワイヤーフック、存在アピール用フラッグなどの変わり種もあるようだ。