リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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いよいよ最終話6話開始です

次回は9/14(日) 19時投稿予定ですが、その辺で書き溜めが尽きそうです
そのあとは二週間に一度になるかもしれませんが気長にお待ちください


第6話:卒業生はガンプラがやめられない
オープニングムービー 若い血潮のリベンジマッチ


 

 ガチバトルはゆうに一ヶ月ぶり。

 腕が鈍ってやしないか心配もしたけれど。

 

「とった!」

 

 確信と共に、ロウジはウェポントリガーを引き絞る。

 正面モニター映し出されたCPU機の背へと、愛機のガンビットライフルがビームを吐き出す。

 ひとまずこれでスコア5!

 にやり笑って周囲へ注意を向けた瞬間、必殺のビームが弾けて霧散した。

 射線に強力なIフィールドバリア持ちの機体が強引に割り込んできたのだ。

 真紅の巨体と誇らしげなネオ・ジオンのマークを認め、ロウジはにやりと笑う。

 

「真紅に塗られたクィン・マンサ……グレミーさんだね!」

「そろそろ肩慣らしは終わったと見て良いな。

 ロウジ・チャンテ!」

 

 ネオ・ジオンの軍服に身を包んだグレミーが高らかに宣言する。

 胸部のメガ粒子砲がまばゆく光り、ロウジは慌てて操縦桿を鋭く切り返す。

 

「うっひゃ!」

 

 拡散放射される凄まじいビーム弾幕をローリングして掻い潜る。

 直撃コースのゴン太ビームには、ガンビットが集まってバリアを形成。

 その隙にロウジは愛機ルブリス・GKを眼下の森林地帯へ飛び込ませ、ガンビットを呼び戻す。

 

「G3ポイントにクィン・マンサ!

 多分プルツーも近くかな」

 

 長く息を吐き出し、ロウジは僚機へ現状を報告する。

 ここはGBNのバトルフィールド、黒海沿岸森林地帯(UC0153)だ。

 大きく息を吸って吐いて、ロウジはコクピットで静かに一人笑う。

 よかった、一ヶ月空けたぐらいでこの世界は何も変わっちゃいない。

 自由で、とても楽しい遊び場だ。

 

「セセリア、行ってくるね」

「こらロウジ、ボクの合流を待つ!」

 

 分散してて索敵してたセセリアからお叱りの言葉が飛んでくる。

 お言葉ごもっとも、でもごめんね。

 今日は久々のライバル相手に2on2のタッグバトル、出し惜しみなんてしてらんない!

 

「待ーたないっ♪」

「あー、もぉ!」

 

 ぺろりと舌を出し、ロウジはイタズラっぽい笑顔で手元のキーボードを叩く。

 ショートカット起動、ルブリス・ビットオンフォーム!

 ガンビット達が愛機に接続され、ルブリス・GKが高機動形態へ切り換わる。

 

「一人で勝てるほど甘い相手じゃないでしょー?」

「でも、合流待ってくれるほど甘い相手?」

 

 予想を肯定するように、甲高いロックオンアラートが耳を打つ。

 突如周囲のレーダーに、無数の光点が出現する。

 遮蔽に隠れた相手を追い立てるための手立てを、クィン・マンサは備えてるのだ。

 

「ほら来た、ファンネル!」

 

 楽しげに笑って声を上げ、ロウジはブーストを全力で押し込む。

 ファンネルが放つ細いビームを、ルブリス・GKがふわりと宙へ舞い上がって避ける。

 小刻みに切り返すジグザグ軌道でファンネルを避け、ルブリス・GKが大空で得意げに宙返り。

 まるでその頭を抑えるように、クィン・マンサ本体のメガ粒子砲が拡散放射される。

 盾? ダメだ、守ったらそのまま押し込まれる!

 覚悟を決めて、前に出る。

 視界の中、ゆっくり見えた。

 確かな狙いを持って置かれたビームの射線の一本一本が。

 時間差で迫りくるビームの弾幕を、自慢の機動力を生かして全部避けていく。

 

「すぐ追いつく!

 時間稼ぎ最優先でね!」

「保ってる間に助けに来てね、守護天使さん!」

 

 ギリギリだ!

 息を大きく吐き出し、ロウジはファンネルの包囲を把握しようと目を凝らす。

 目視、レーダー反応、包囲が薄いのは前方!

 ビットオンフォームの機動力なら、ファンネルなんて振り切れる。

 対空迎撃のメガ粒子砲の間を縫い、スラスター全開でかっ飛んでいく。

 

「……っ!

 さらに腕を上げたな、ロウジ・チャンテ!」

「そっちこそ!」

 

 まるで追い込み漁の魚になった気分だ。

 当たり前の反応してたら、グレミーの包囲網でもう2回は落ちてた。

 自分の弱気をたしなめるように、ロウジは叫ぶ。

 

「ガンビット。

 ガントレットフォーム!」

 

 ライフルに接続していた2基のガンビットが、右手と左手に小手のように接続される。

 ガンビットはシールドで、ビームガンで、ソードだ。

 バリア持ちに近接格闘戦を挑むためのアレンジモード。

 

「させるかっ!」

 

 グレミーの叫びに遅れ、甲高いロックオンアラートが響く。

 多分近接護衛に残しておいたものなんだろう。

 周辺に配置されていたファンネルから一斉にビームが多角的に放たれる。

 

「全部で6つ!」

 

 ファンネルは怖い武器だ。でも、いつまでも怖がってちゃいられない!

 ルブリス・GKが身を翻してビームを回避し、同時に右手と左手に装着されたガンビットが細いビームを放つ。

 攻撃してきたファンネルへ、細いビームが迫り、1つに着弾する。

 しまった、1つ外した!

 

「……なっ!?」

 

 グレミーの叫びと同時に、クィン・マンサのメガ粒子砲が火を噴いた。

 狙いが甘い、置きに来たね!

 にやりと笑って避け、ファンネルの包囲網へルブリス・GKが勢いよく飛び込む。

 ファンネルのビームより早く、右手と左手のビームがファンネルを貫く。

 今度は命中2つ、ファンネルは残り3つ!

 

「……まぐれじゃないのか!?」

「さんざ練習してきたもんね!」

 

 あ、動揺した。

 ファンネルの回避運動が明らかに単調になる。

 その瞬間を逃すようなロウジではなかった。

 右手と左手のビームで2つ落とし、あと1基。

 時間を稼げとは言われたけれど……

 

「別に落としちゃってもいいんだよね!」

「……っ!」

 

 残るファンネルを無視して、操縦桿を鋭角に切り返す。

 狙うは本体、クィン・マンサ!

 迎撃のビームをかいくぐり、距離を詰める。

 あと一歩!

 次のビームを抜けてビームブレイドを叩き込んでやる。

 

「おバカ、ロウジ!」

 

 飛び込んできたセセリアの言葉に、一気に心が冷える。

 視界が広まり、後退するクィン・マンサの動きが良く見えた。

 動揺……してない。想定通りってこと?

 じゃあこれは……誘い込まれた!?

 まるで視界を塞ぐように、眼前へ最後の1基のファンネルが飛び込んで来る。

 

「邪魔!」

 

 左手のガントレットで切払い、全神経を張り巡らせる。

 前じゃない、下でもない、後ろにもいない!

 

「ロウジ、上っ!」

 

 セセリアの警告と同時、天頂から殺気に満ちたロックオンアラートが鳴り響く。

 脳天目掛けて飛んできた大質量を、小さく飛び退って避ける。

 避けられたのは、たぶん前に見たことあるからだ。

 それは一本の長大なランスだった。

 来た。戦慄に身を震わせ、ロウジは笑顔で叫ぶ。

 

「……来たね、プルツー!」

「攻守交代だよ、ロウジ・チャンテ!」

 

 振り仰ぐ頭上に、あの時みたいに猛烈な速度で降って来る真紅の機影が映る。

 その横っ面をひっ叩くように前方から強烈なロックオンアラート。

 真紅のクィン・マンサが空中へ躍り出、ルブリス・GKを真正面に捉える。

 うっわ、連携攻撃……!

 

「ロウジは上!」

「……任せた!」

 

 ならばこっちも!

 頼れるセセリアへにんまり笑い、ロウジはまっすぐ降ってくる真紅の流星へ意識を集中する。

 横合いから放たれたメガ粒子砲の猛火を意に介さず、上へブーストボタン全押し。

 直撃コースのビームを、セセリアが飛ばしたガンビット達のシールドが弾いて散らす。

 モニターに両手でビームの刃を構えた真紅のキュベレイが大写し。

 交錯は一瞬だった。

 右手、左手、鋭い攻撃を差し合い、位置が逆転する。

 

「……プルツー、つよい!」

 

 眼下のキュベレイを見下ろし、ロウジは大きく息を吐き出す。

 同時にダメージアラート。かすめた一撃が右太ももはえぐっていった。

 ほぼ同時、眼下のキュベレイのバインダーが一文字の傷から煙を吹いて脱落する。

 相打ち、両者共に軽傷。

 

「……見事!」

 

 モニター越しにプルツーの笑い声が聞こえる。

 プルツーが楽しげに言葉を叩きつけてくる。

 

「貴様の新型だったな。ルブリス・GK(ガーディアンナイト)!」

「そうだよ、デコトレーナーとは完成度がダンチ!

 だってこれは、セセリアが作ってくれたものだから」

 

 前にプルツーとまみえた時は、自作の拙いデコトレーナーだった。

 ちらりと横合いに目をやれば、飛び込んできたセセリアの機体がクィン・マンサとドッグファイト中だ。

 任せるよ、セセリア。

 溢れる愛しさをたっぷり乗せて心で呟き、ロウジは眼下のキュベレイへ向き直る。

 

「そっちこそ、新型じゃん!

 新しいヤツもかっこいいよ、プルツー!」

 

 特徴ある鋭角のフォルムとバインダーではっきりキュベレイだと判る。

 でも、頭部に兜、両肩にすっごいとげとげしたスパイクアーマーが増設されている。

 美しさとゴツさを両立させたその姿は、明らかに前のプルツーのキュベレイとは大きく違う。

 ロウジの言葉に、プルツーがまるで悪役令嬢みたいな笑いと共に宣言した。

 

「そう、これこそが貴様に勝つために用意したアタシの新型……!」

 

 キュベレイが優雅な動きで、腰から長めの得物を抜き放つ。

 ビームサーベル? いや違う、ムチ?

 しなるビームが左肩のスパイクアーマーに伸び、接続される。

 いやアレ、スパイクアーマーじゃない!?

 ふわりと浮かび上がったどでかい鉄球を、左マニピュレーターが受け止め、宙へ放り投げる。

 右手を一振り。鉄球がゆっくりと加速度を付けて振り回され始める。

 ハイパーハンマー!? 質量兵器装備って事?!

 

「キュベレイ・G((グラディエーター)だ!」

「グラディエーター……ローマのコロッセオで戦う剣闘士だったよね。

 増加装甲に追加スラスター、そしてIフィールド対策の質量兵器。

 グラン・ジオングにだってパワー負けしないような機体だね!」

 

 バトル中だってのを忘れたみたいに、目をキラキラさせてロウジは長台詞を垂れ流す。

 あのガンプラに、どれだけの時間と手間がかかったことだろう。

 プルツーがどれだけの愛を込めて組み上げたのだろう。

 

「超かっこいいよ。

 キュベレイ・G(グラディエーター)!」

 

 しかもそれが、自分と戦うために用意された新型だなんて。

 操縦桿を握る両手から頭の先まで、全身を喜びが駆け巡る。

 

「……交わすのは、言葉じゃなくていいだろう!」

 

 ちょっと頬を染めて、プルツーが乱暴に言い捨てる。

 おっと、そうだね。じっくり見せてもらうのは後でいい。

 にやつく頬を引き締め、ロウジは操縦桿を握り直す。

 

「そうだね。

 交わすのはビームと実弾で十分」

「勝敗はガンプラの性能のみで決まらず」

 

 唐突にプルツーが投げかけた言葉に、にやりと笑ってロウジは返す。

 

「ダイバーの技のみで決まらず」

 

 プルツー、水星の魔女も履修してくれてるんだ。意外に思いながら、意識がゆっくり研ぎ澄まされていく。

 

「「ただ、結果のみが真実!!」」

 

 誰にも邪魔されず、ただ自由に。

 決闘、ライバル同士のガンプラバトルが幕を開けた。

 

 

 

 激しい交錯が二度、三度。

 ぶつかるたびに火花が飛び散り、ダメージアラートが叫ぶ。

 激しいバトルは、体感時間あっという間だ。

 

「甘いよ、プルツー!」

 

 ルブリス・GKのビームの刃が、殺到するファンネルをまとめて切り払う。

 なんて動きだ。恐るべき反射速度に、プルツーはコクピットで目を見開く。

 

「……こぉの、バケモノ!」

 

 戦慄と賞賛を込め、プルツーは苦々しく吐き捨てる。

 短い交戦でも、恐るべき力量は身に占めてはっきりわかった。

 必殺のタイミングで繰り出した一撃を、ロウジにいなされたのはこれで何度目だろう。

 2つのハンマーは手を離れてむなしく大地に突き刺さり、最後のファンネルは先ほど切り払いされたばかりだ。

 キュベレイ・Gの両肩のバインダーは切り刻まれ、頭部の兜もえぐり取られている。

 もちろん、ルブリス・GKだって無傷ではない。盾と左の肘から先は失われている。

 増加装甲は吹き飛び、通常装甲にも細かい着弾跡は残っている。

 

「それさ、ほんとに褒めてるんだよね!?」

「そうだよ、さすがは我らのライバル!」

 

 ロウジの悲鳴に、苦笑しながらプルツーは返す。

 覚醒済みアムロとやりあうジオン兵なら、こんな絶望的な気分にでもなろうものか。

 攻撃はぬるりと避けられ、致命の一撃が反撃で差し込まれる。

 一見すれば戦いは互角、けれどこのままではきっと押し込まれる。

 

「……グレミー!」

 

 やるしかない。

 プルツーは息を吸い込み、グレミーへ呼びかけた。

 向こうはロウジの僚機と激しい撃ち合いをしている。

 損傷はあるが、装甲が堅牢だけあって、比較的機体は無事だ。

 

「……やるのか?

 対人をぶっつけ本番で!」

「シミュレーションはしてきたろう。

 やるさ、勝つために!」

 

 プルツーはコクピット内の保護カバーを拳で叩き割り、緊急ボタンを押し込む。

 同時に、グレミーのクィン・マンサが真っ黒な煙を周囲に噴き出した。

 劇中でガザの嵐隊が使った煙幕だ。

 

「……うわっ!?」

「あるの、隠し玉……!」

 

 セセリアとロウジの叫びが響く中、プルツーは大急ぎで特殊コマンドを撃ち込む。

 武装全パージ、装甲廃棄、ランスビットを再利用!

 視界がぼやけ、アバターがキュベレイ・Gのコクピットから消える。

 浮遊感と共に、アバターが再構成される。出てきたのは少し広いコクピット。

 

「ユー・ハブ・コントロール!」

 

 息が聞こえそうなほど間近で、グレミーの叫びが響く。

 ここはクィン・マンサのコクピットだ。

 距離が近い。劇中再現なのか。

 複座設定だってのに、なんて狭さだ!

 

「イエス・アイ・ハブ・コントロール!」

 

 手元に現れた操縦桿を握りしめ、ずしりと重い機体反応に手ごたえを感じる。

 飛んできたランスビットが、クィン・マンサの左手へ収まる。

 向こうで乗り手のいなくなったキュベレイが高度を下げて着地するのが見えた。

 

「……ファンネル制御はこちらがやる」

「ああ。機体制御に専念させてもらう」

 

 短い言葉と共に、プルツーはゆっくりと操縦桿を動かす。

 二人乗りとなった真紅のクィン・マンサ、その巨体が大きく見得を切る。

 

「待たせたな、ロウジ・チャンテ。

 第二ラウンドといこう!」

「……クィン・マンサを複座として再設計したの!?」

 

 ロウジの驚きの言葉が、耳に心地よい。

 グレミーにどれほどわがままを言ったか、覚えていない。

 無様に負けたと嘆くグレミーの背中を蹴飛ばし、自分用にと随分無茶も言った。

 その甲斐はあった。 グレミーの機体は最高だ。

 この火力、装甲、機動性。例えバケモノ相手だろうと、まるで負ける気がしない。

 

「何も驚くことはない、劇中だって二人乗りだったろう!」

「破損した機体をネオ・ジオンが改修して二人乗りとして再調整した。

 これがプルツーの新たなる玉座、重火力MS、グラン・マンサだ!」

 

 偉大で強大を意味するグランという単語、けして過信とは思うまい。

 静かに口元に自信の笑みを浮かべ、プルツーはグラン・マンサのモニターを睨む。

 ロウジのルブリス・GKとセセリアのガンプラが並んでこちらへ武器を向けている。

 

「ゆくぞ、ロウジ!」

「お相手しよう、セセリア・ドート!」

 

 プルツーの気勢に、グレミーが言葉をかぶせる。

 猛然と吐き出したメガ粒子砲の弾幕に、2機の敵機が慌てて散開する。

 反撃のビームを軽く受け止め、二手に別れたロウジとセセリアを悠然と見定める。

 

「プルツー、先に倒すべきはわかるな?」

「応とも!」

 

 高火力のメガ粒子砲を広く垂れ流し、セセリア機の足を止め、ロウジ機へ火力を集中する。

 ルブリス・GKの足元に配置されたファンネルが猛烈な勢いで弾幕を撃ち込む。

 あわせて、右腕とバインダーのメガ粒子砲で偏差射撃を行う。

 必殺のはずの連携、だがセセリア機から飛来したガンビットが火線を遮る。

 同時に猛烈なガンビットの反撃が下方のファンネルへと突き刺さる。

 

「ちっ!」

 

 射撃でファンネルを先に減らすと来たか!

 背面のセセリア機へ背面のメガ粒子砲で牽制し、正面のロウジ機へ射撃で攻めかかる。

 

「プルツー!」

「応!」

 

 グレミーの叫びに、プルツーはブーストボタンを押し込む。

 グラン・マンサの巨体が猛然と突進する。

 狙うべき相手に背中を向けたまま、背面の“セセリア機の方”へと。

 

「こっち!?」

 

 セセリアの動揺が漏れる中、背面のメガ粒子砲が火を噴く。

 その一撃を避けたセセリア機の背面目掛け、巨大な鉄球が真下から突き刺さる。

 大きく吹き飛ぶセセリア機のコクピットへ、後ろ手に構えたランスが正確に突き刺さる。

 

「投棄されていたハンマーが……動いた!?」

「ハンマービットだ。単なるサイコミュ誘導の質量兵器だよ」

 

 得意げなグレミーの声を聞きながら、プルツーは正面モニターを睨む。

 背後で爆発音が響く。セセリア機が戦闘不能となったのだ。

 倒すなら、弱い方から。後はロウジ機、ルブリス・GKのみ。

 趨勢は大きくこちらに傾いた。

 だが、勝利が目前などと驕れる状況ではない。

 

「セセリアを、やったね?」

「来るぞ、グレミー!」

 

 放つプレッシャーで、ルブリス・GKが大きく見える。

 うつむいたロウジの表情は見えない。

 まるで幽鬼のように不気味な声が聞こえた。

 

「パーメットスコア……解放!」

 

 真紅の光が、モニターで輝く。

 次の瞬間、ルブリス・GKが視界から消え、ロックオンアラートが鳴り響く。

 

「足元!」

「ちぃっ!」

 

 咄嗟に引き抜いたハイパービームサーベルが振り上げられたビームブレイドと噛み合う。

 今日イチ速い!?

 真紅の輝きに包まれたルブリス・GKが、猛然とラッシュを繰り出す。

 かと思えば、頭上と足元から狙いを定めたハンマービットの一撃をすいと避けてみせる。

 

「時間制限のあるハイパーモード機構だ!」

「やってくれるな、ロウジ・チャンテ!」

 

 お前はいったい、どこまで見せてくれるつもりなのだ!

 これまでにない冴えを見せるロウジを前に、プルツーは楽しげに笑う。

 感覚が研ぎ澄まされていく、無限に自分が強くなっていく。

 どこまでも高みへと登っていけるような、そんな錯覚を覚える。

 

「……もらうよ、プルツー!」

「やってみせろ、ロウジ・チャンテ!」

 

 この後のバトル、今までで一番楽しいバトルだった。

 こんな時間がずっと続くのだと、漠然と思っていた。

 競い合うライバルがいて、頼れる相棒がいて。

 

『Battle ended WINNER!……』

 

 楽しい時間もいずれは終わる。

 プルツーはそれを、思い知ることとなった。

 

 

 

 一年とだいたい半年、随分長くここにいた。

 振り返れば、ボク達の軌跡、ほんとにあっという間だったよね。

 

「うわぁぁぁん、負けた、くやしー!」

「えらいえらい。

 ロウジはとってもよくがんばったよ」

 

 地団駄踏んで悔しがるロウジを、セセリアは優しい笑顔でなだめにかかる。

 対人戦には勝ちと負けの結果がある。

 ざっくり5割の確率で負けた時、どう受け止めるか。

 それが一番大事だと最近思うのだ。

 

「ふふん、貴様が最後に足を引っ張ったな。

 セセリア・ドート」

 

 そんなのわかってますよーだ。

 すっごいドヤ顔のプルツーに、セセリアは心の中で肩をすくめる。

 いつも当たり強いよねキミ、ボクのこと好きなツンデレさん?

 

「ちょっとプルツー、初見殺しで勝っただけじゃん!」

「そうだぞプルツー、今回の勝利は薄氷の上のものでしかない」

 

 無言のセセリアの代わりに、ロウジが猛然と食ってかかった。

 その後グレミーが続き、プルツーがむっつりと黙り込む。

 セセリアは静かな驚きを呑み込み、ロウジへふわりと笑いかけた。

 

「……強くなったね、ロウジ」

 

 昔のキミは内気で引っ込み思案、他人へ言い返すなんてとても出来なかった。

 GBNがロウジへ与えてくれたものへ、セセリアはしみじみ想いを馳せる。

 はじめは、ボクの誘いからだったっけ。

 うっかりボクが保護者トラップを踏んだせいで、キミが一人取り残されちゃって。

 

「んもぉ、気休め?」

「とんでもない!

 キミはほんとに立派で素敵になったよ」

 

 初めてロウジがGBNに足を踏み入れた日のことは、今でも時々愚痴られる。

 どれだけ心細かったか、どれだけ帰りたかったかって。

 でも今は違う、ロウジの周りには色んな人達がいる。

 ボクがいない場所で知り合った人達だって。

 

「ちゃんと友達できたじゃん。

 ボクの知らないところでね」

 

 プルツーとグレミーさんにちらりと目を向け、ロウジの頭をぽふぽふはたく。

 子犬のようにロウジが笑い、胸を張った。

 

「ふふん、ちょっと違うよ、セセリア。

 僕とプルツーはただの友達じゃない」

「そう、アタシとロウジは……ライバルだ!」

 

 にんまり笑ってロウジとプルツーが肩を組み合う。

 あーもー、そっくりの顔で笑っちゃって。

 

「ね、プルツー、キュベレイ・グラディエーター見せて!

 武器も今回のアレで全部じゃないんでしょ?」

「ルブリス・GKのヒミツと交換だ。

 どうせセセリアのことだ、こざかしいギミック満載なのだろう?」

 

 あーもー、またイチャイチャし始めた。

 気持ちは苦笑い半分、安堵半分だ。

 グレミーさんも似たような感じなんだろうか。

 

「……いつもロウジがご迷惑おかけしています」

「とんでもない。

 こちらこそプルツーがいつも申し訳ない。

 我々両名はロウジさんには刺激を受けてばかりです」

 

 猫かぶりモードのハサウェイ並に礼儀正しくグレミーさんが返事してくれた。

 バトル中の高圧的なキャラロールとはまるで違う柔らかい物腰だ。

 

「すいません、グレミーさん。

 複座での役割分担について相談があるんですが……」

「どうぞ。

 ふむ、となると今日使用されたあなたのガンプラ……」

 

 生意気そうなグレミーのアバターが、いたずらっぽく笑う。

 この人いくつなんだろ、だいぶ年上かもしれない。

 

「戦況に応じて使い分けられそうな多数の武装に、ガンビットも多数。

 複座として運用する前提なのですね?」

「どきっ!」

 

 うーん大正解。この人もかなり腕のいいガンプラビルダーなんだろう。

 今日使用したガンプラはルブリス・ガーディアンエンジェル。

 ロウジ用に設計し、コンテストへ出品した機体そのままだ。

 

「……多分アレもロウジさん用ですよね?

 よくもまぁそれで単座戦闘こなしましたね」

「はっはっは、単に自分でバトルする用のガンプラ用意出来てないだけっす」

 

 正直なところ、性能の三割も引き出せたかどうか。

 急なバトルとなり、使用可能なガンプラの中でそれでも一番マシなカードなんだけど。

 

「自分でバトるならもうちょい単純でカタい機体にします、マジで」

「わかります」

 

 その後しばらく、ガンプラ談義に花を咲かせた。

 やっぱグレミーはだいぶ年上だった。

 多分、大学生だ、もうすぐ就活入るっぽい。

 

「ありがとうございました。

 機体制御の役割分担、次の参考にします!」

「完成形、楽しみにしてます。

 ぜひバトルさせてください」

 

 穏やかな笑顔で言葉を交わす。

 まるでセセリア自身も少し大人になった気がする。

 

「少し時間いただきますけど、必ず完成させます」

 

 アバター同士でがっちりと握手。

 ついでにフレンドも申請、いやぁ有意義な時間だった。

 

「随分と珍しいとりあわせだな、二人とも」

「あ、エニルさーん!」

「どうも、エニルさん」

 

 横からかかったクールな声に、セセリアはにっこり笑顔で手を振る。

 我らがセクシーレディ、エニルさんの登場だ。

 横でグレミーも丁寧な仕草で頭を下げている。

 

「だってロウジ達が向こうでイチャイチャしてるんだもの」

「ビルダーとして情報交換をさせていただきました」

「なるほど、切磋琢磨するのは良いことだ」

 

 ううん台詞の温度差!

 グレミーの言葉選びの丁寧さに、セセリアはこっそり顔を赤らめる。

 

「エニルさんこそ、どうしたんです?」

「プルツーに少し用があってな。

 キミ達に会えたのはうれしい誤算だよ。

 後でバトルのログも見せてもらおう」

 

 エニルさんがクールな笑顔で説明してくれる。

 はーなるほど、”ガンプラ商人”さんは多忙なんだ。

 セセリアは感心顔で頷き、ロウジ達の方へと歩み寄るエニルの背を見送る。

 

「二人とも、バトルお疲れ様」

「あっ、エニルさん!」

 

 エニルの声にロウジがぱっと笑顔になる。

 相変わらずの懐きっぷりだよね、ロウジ。

 でもそりゃそうだ、GBNに来たばかりのロウジに最初に手を差し伸べてくれたのがエニルさんだったよね。

 それからも何かと気にかけてくれて世話を焼いてくれたもんな。

 優しくてキレーなおねーさんとか、嫌う方がむつかしい。

 

「バトルの結果は……聞くまでもなさそうだな」

 

 ロウジの横ではにかみながらVサインしてるプルツーを見て、エニルが笑う。

 プルツーが得意満面に胸を張る。

 ロウジが大げさに肩を落とし、ぼやく。

 

「ふふ、もちろん勝ったとも!」

「負けたよぁ!

 ううん、“最後に”勝ちたかった!」

 

 何気ないロウジの台詞に、場が凍った。

 プルツーが今日イチびっくりした顔で聞き返す。

 

「待て、ロウジ、今なんと言った?」

「うん。僕とセセリア、GBNを”卒業”するんだ。

 今日はお世話になった人達への最後の挨拶周り」

 

 ロウジの言葉に、プルツーの表情が一変した。

 グレミーだってだいぶ驚いた顔をしてる。

 

「ロウジ、どういうことだ!?」

「え、いや、言葉通りなんだけど……」

 

 ヒートアップするプルツーにくってかかられ、ロウジが青ざめる。

 うん、バトンタッチだ。セセリアは二人の間に割って入る。

 

「はーいプルツー、ストップ。

 もっと詳しく説明するから待って!」

「お前には聞いてない!」

 

 だがプルツーの剣幕は想定以上だった。

 ロウジにつかみかかりそうな勢いで、セセリアともみ合う。

 

「痛、ちょっプルツー痛いってガチ!」

「……まあ待てプルツー。

 友達の言うことはちゃんと聞きなさい」

 

 もみあいがヒートアップする寸前、エニルが助け舟を出してくれた。

 プルツーはしぶしぶと言った様子で、いったん矛をおさめる。

 

「よし、説明しろ、ロウジ」

 

 まったくもう。ロウジが怖がるじゃんか。

 おびえるロウジをかばったまま、セセリアは優しい声で諭す。

 

「ほら、ロウジ。

 友達とケンカ別れは嫌でしょ?」

「うん、ごめん。ありがとセセリア」

 

 セセリアの手を握ったまま、震える体でロウジが顔を上げる。

 がんばれロウジ。静かに微笑み、その背中をぽんと押してやる。

 

「……ごめんね、プルツー。僕の言葉選びが間違ってた。

 僕だって、ほんとはずっとこんな楽しい時間が続いてほしいよ」

 

 セセリアだってよくわかる。ガンプラ好きな人たちと遊ぶと、無限に時間が溶けていく。

 次はどんなガンプラを作ろうか。明日はどうガンプラを改造しようか。

 ずっとこの楽しい世界に浸っていたいとささやく声に負けそうにもなる。

 

「リアルでモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。

 けど……ダメなんだ」

 

 マリコさんに語った言葉を、ロウジがもう一度繰り返す。

 そう、でも。ボクらはずっとこのままじゃいられない。

 震えるロウジの手のひらを、セセリアは優しくそっと握り返す。

 

「どうしてさ?」

「うん、実はね……」

 

 静かなプルツーの問いに、まっすぐな瞳でロウジが理由をゆっくりと語り出す。

 そう、ボクとロウジはGBNを卒業することを決めた。

 でも、永遠の離別なんかじゃない。

 このGBNって世界はまだまだ続く。

 ボク達の卒業も、よくあることの一つに過ぎない。

 だからまさか二人して、あんなことに巻き込まれるだなんて、この時のボクらは思ってもいなかった。

 

 

 

 “それ”は静かに“彼女”達を見つめ続けていた。

 約束の日は近い。理想の実現までもう一押し。

 このGBNと言う広い世界で一際眩しく輝く意志を。

 

『僕だって、ほんとはずっとこんな楽しい時間が続いてほしいよ』

 

 ”それ”は静かに一人の個体の足跡を追い続けていた。

 その個体の名前は、ロウジ・チャンテ。

 電子の海の中、ひときわまばゆく輝く意志の光を持っている。

 

『リアルでモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい」

 

 静かに述べた言葉が、指向性をもって”それ”へと突き刺さる。

 強くまばゆい輝きに、”それ”はどこか満足げにつぶやく。

 

【Your wish will be granted.】

 

 きっと今度こそ、願いは完全にかなう。

 

「さて、どうするんだい?」

 

 協力者が”それ”に問いかけてくる。

 ”それ”はその答えを静かに協力者へと示した。

 協力者が得られた新たな権能を増幅すれば、それは可能だろう。

 

「なるほど、わかったよ」

 

 協力者に肯定の意を飛ばし、”それ”は静かに緑の光を瞬かせる。

 生まれてからずっと、”それ”は不完全だった。

 不完全なまま力をふるい続け、既に”それ”はすりきれる寸前だった。

 いよいよだ。いよいよ願いが叶う。

 

【See you soon.】

 

 ”それ”の呟きを聞くものはまだ、誰もいなかった。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ファンネルへの攻撃、撃墜

 

 ファンネルやガンビットなどの自立稼働型攻撃ユニットは、攻撃の選択肢を増やす有効な武装だ。

 だがけして無敵で欠陥のない武装ではない。

 システムでのロックオン対象とならないが、”広範囲攻撃に巻き込む””マニュアル操作で狙う”事で攻撃対象に出来る。

 そしていざ狙われた場合、耐久力、機動力は通常ガンプラより劣ってしまう。

 そのため、上位陣の戦いではファンネル対策やファンネル潰しは基本テクニックとなっている。

 マニュアル操作によるファンネル迎撃は高難度であり、上位を狙うための登竜門の一つと言えるだろう。

 

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