リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回9/21(日) 19時予定です
書き溜めが危なくなるまでは週一で更新を……できるといいな



ミッション6-1 フレンドさん達へ挨拶回りしよう

 

 地形もろともにぶち壊そうとするかのように、バズーカの弾が連続して飛んでいく。

 がっちりと足裏のローラーで強化コンクリートの路面を噛み締め、ピンクの機体がローラーダッシュでバズーカを避けていく。

 ピンクの機体はロウジの自作ガンプラ、デコトレーナーだ。

 

「そうだね、はじめてあった時のロウジくんの印象は……

 エニルくんの添え物……ただの気弱そうな少年だった」

「ま、そうだよね。

 内気で引っ込み思案、それがロウジだもん」

 

 ロウジのバトルのモニター観戦しながら、クランプは懐かしげに語る。

 横で観戦中のセセリアが、笑いながら同意する。

 ここはGBNのリザルトロビー、対戦を終えたクランプは、セセリアと共にロウジのバトルをモニターで眺めていた。

 

「だがバトルの最後、私にいっぱい食わしたのはロウジくんだ。

 間違いなくあの頃から、腕前に光るものはあった」

「へへ、スマホで見てたよ。

 近距離必殺のヒートロッドに対し、分離したサポートメカでエニルさんが不意打ち。

 行動不能から戻ったロウジ操縦のジェガンがグフをざくっと!」

 

 きやすくため口でしゃべるセセリアに、クランプはモニターを眺めながら鷹揚にうなずく。

 あの時を思えば、ロウジくんはさらにやるようになった。

 バトルフィールドはニューヨークの外周部、ほとんど障害物のない平地だ。

 真正面からのマシンガンとバズーカの弾幕を見事にかいくぐり、遮蔽を生かしてミサイルやビームキャノンで時折牽制も入れる。

 ロウジの本領は恐らく近接戦だ。だが高機動砲撃戦においても、その腕前は実に見事。

 

「今回のお相手の人、あの時のドムの人だよね?」

「その通り、コズンだ。

 ムラはあるが、腕のいいダイバーだよ」

 

 モニターでロウジに対するはクランプの相棒、コズンだ。

 操るのはかわいくピンクに塗られたジオンの誇る重MS……ドム・トローペンだ。

 ローラーダッシュで不規則に移動するデコトレーナーの動く先を狙い、

 ドムが右手のラケーテン・バズと左の90mmマシンガンで的確に射撃を繰り返す。

 今日のコズンはかなり動きが冴えている。だが、ロウジくんの反応がそれを上回る。

 

『それじゃ、当たってはあげられない!』

 

 直撃コースのバズーカ弾頭をヒートアクスで真っ二つに切り裂き、ロウジが叫ぶ。

 間もなく近接戦距離!

 ヒートアクスを両手にデコトレーナーが加速する。

 ドムが左手のマシンガンを投げ捨て、右手のラケーテン・バズをデコトレーナーへと投げつける。

 デコトレーナーがバズーカをヒートアクスで打ち払い、次の瞬間大きく横へ飛び退く。

 その真横をドムの細いヒートソードの突きが虚しく空を切る。

 

「……あれを避けるか!」

「……うわ、あっぶな!?」

 

 バズーカで視界を塞ぎ、すかさず神速の突き。コズンが見せた必殺のコンビネーションだ。

 咄嗟に避けたデコトレーナーは見事だが、強引な横ステップで体勢は崩れている。

 ホバーで大きく踏み込んだドムが、ヒートソードを大上段から振り下ろす。

 ヒートアクスで受けられたとみるや即座に横薙ぎの二連撃。

 デコトレーナーがヒートアクスを振り回してしのぎ、ローラーダッシュで後退する。

 ドムは無理に距離を詰めず、大上段にヒートソードを構えてホバーの巡行で後を追う。

 

「……うっわ、ロウジが白兵距離から逃げた!」

「コズンは元剣道の段位持ちだ」

 

 セセリアの驚きに、クランプは訳知り顔で解説する。

 ドムはクランプ作だが、ドムの白兵モーションパターンはコズン自身で作り込んだ手の凝りようだ。

 クランプ自身とて、コズン相手にヒートロッドなしで白兵戦はけして挑むまい。

 

「なるほどなっとく。

 重MSであんな剣劇出来るんだ……!?」

「エニル女史だってコズン相手には絡め手を使ったからな。

 白兵戦で受けきったロウジくんの反射速度は実に素晴らしい」

 

 語り合う二人の前で、次の白兵戦が始まった。

 間合いを図り、デコトレーナーがヒートアクスを振り回す。

 重さを生かした連撃を、ドムがヒートソードで受け止め、最後の一撃を受け流す。

 体勢を崩れたところに反撃、ヒートソードの浅い一撃がデコトレーナーの肩アーマーを浅く切り飛ばす。

 

「長物の重さを苦にしてない!?」

「業物のヒートソードに、コズンの腕前だ。

 重い武器はそれだけに隙が多くなる」

 

 カウンターを受けたロウジが、ローラーダッシュで大きく下がる。

 ドムが動き出そうとした瞬間、デコトレーナーがヒートアクスを遠い間合いで構え、

 大きく振りかぶり、そしてヒートアクスをドムめがけて投げつけられる。

 不意打ち気味に投げつけられた大質量も、ドムが涼しい顔でヒートソードで弾いてみせる。

 その瞬間、ローラーダッシュの音を響かせ、デコトレーナーが低い姿勢でドムへと突っ込んだ。

 

「とった!」

 

 セセリアが思わず叫ぶ、会心のタイミングだ。

 だがその直後、ドムの胸部がまばゆく光る。

 

『ぐ、ぅ!?』

 

 ドムの胸部の固定武装、拡散ビーム砲だ。

 間近で直撃を受けたデコトレーナーが低い姿勢でよろめく。

 よろめいたところへ、構え直したヒートソードが横薙ぎに振るわれる。

 すんでのところでローラーダッシュが間に合った。

 後退したデコトレーナーの被害は、肩部ビームキャノンの先端と右手首から先だった。

 結構な痛手だが、決定的なダメージではない。

 

「何あれ、ドムの胴のアレってクソザコビーム兵器じゃなかったの!?」

 

 距離をとったデコトレーナーがビームキャノンとミサイルをパージし、左手にビームサーベルを構える。

 ドムの隠し武器をしのいだか、さすがだなロウジくん。

 あれで倒しきれなかったのはコズンとしても誤算だったろう。

 デコトレーナーの反応に舌を巻きながら、クランプはセセリアの疑問へ答える。

 

「しっかり作り込むと、特殊兵装として設定が可能となるタイプの武装だ。

 光学センサーにダメージを与え、敵ガンプラのモニターにダメージを与える」

「……うわずっる! 両手でソード構えながらのそれはなかなかに厄介じゃん」

 

 両手で正眼にヒートソードを構え、拡散ビームを向けたままドムが滑るようにデコトレーナーへ迫る。

 火器を失ったデコトレーナーが左手のビームサーベルで果敢に切りかかる。

 ローラーダッシュの音が聞こえない。

 逆袈裟、横薙ぎ、小さなステップと共に繰り出された浅い二連撃をヒートソードが弾く。

 はじかれても今度はデコトレーナーの体勢が崩れない。

 カウンターのヒートソードをデコトレーナーのサーベルが受け止め、後ろへ大きく飛びのく。

 

「ロウジが移動をローラーダッシュからスラスター駆動に切り替えた!

 一撃の重さより連撃を生かすつもりだね」

「コズンの構えにはむしろ有効だ。重い一撃は受け流され、カウンターが来る」

 

 攻め手を変えての激しい撃ち合いが5回ほど続いただろうか。

 ドムがホバーで下がり、ホバーで踏み込み、デコトレーナーは小さなステップでそれを迎撃する。

 速さは互角。どちらも防御を打ち破れず、装甲への浅い傷だけが増えていく。

 

「互角だ!」

「だが、コズンには胸部の拡散ビームがある!」

 

 ドムのヒートソードの一撃を受けきり、デコトレーナーがサーベルを下から振り上げる。

 まさにその時、完璧なタイミングだった。

 ドムの胸部拡散ビームが輝き、デコトレーナーのモニターを焼く。

 振り上げられたサーベルを、ドムが悠然とスウェイして避ける。

 横の動きそのままにヒートソードが横薙ぎに振るわれる。

 

「決まった!」

 

 クランプの口から確信がこぼれる。

 デコトレーナーが胴を横薙ぎにされて真っ二つになる。そのはずだった。

 だがその瞬間、デコトレーナーが地を蹴った。完璧にタイミングを合わせてのスラスター全力噴射。

 頭を軸に空中で前転、カウンターのかかと落としがドムの肩アーマーを痛打する。

 

「何ぃ!?」

「……うっそ、神!?」

 

 回避と攻撃が全く同じ一動作、完璧なカウンターだった。

 大きくよろめくドム目掛け、獣のようにデコトレーナーが攻めかかる。

 サーベルを捨てた左手でドムの右手を抑え込み、手首を失った右腕を頭部へ叩きつける。

 デコトレーナーの右ガントレットが鈍い音を立ててドムの頭部へ突き刺さり、モノアイを叩き割る。

 デコトレーナーとドムがもつれあって倒れ、そのままデコトレーナーが馬乗りになる。

 喉笛に食らいついた獣のように、デコトレーナーが猛然と右腕を叩きつけ続ける。

 ああ、そうだった。エニルとの直接対決でも、ロウジくんは見事な格闘をしていたな……

 

『Battle ended WINNER!……ロウジ・チャンテ!』

 

 激烈な殴り合いの結末を、システム音声が冷静に告げた。

 完全にへしゃげた右腕を掲げ、デコトレーナーが静かに勝鬨を上げる。

 ドムの方はもっとひどい。頭部とコクピットが完全につぶれ、凄惨な有様だ。

 

「コズンさん、ロウジを甘く見たね。

 初見殺し、二度目は通じないよ」

「あの瞬間、有視界に切り替えて白兵戦へ移行したのか……」

 

 キミも驚いてやいなかったか? ドヤ顔のセセリアに肩をすくめ、クランプはロウジをほめたたえる。

 拡散ビームに何故耐えたのか、その理由はデコトレーナーの開いたコクピットハッチだった。

 喰らったその瞬間、モニターではなくアバターによる直接目視でタイミングを計ったのだ。

 完璧な回避と見事なカウンターだった。

 その思い切りと反射神経はまさに狂的としか言いようがない。

 

「どう、クランプさん?

 今のロウジの印象は」

「見事だ、ますますファンになったよ。

 きっとコズンも同じ気持ちだろう」

 

 胸を張るセセリアに、クランプは満足げな笑みで応えた。

 アバターの両手でロウジとコズンへ向け、惜しみない称賛の拍手を送る。

 まったく、こんな形で勝ち逃げされてはたまらない!

 

「卒業前の最後のバトル、

 こんなすばらしいものを見せてもらえるとはね」

「ま、ボクはボロ負けだったけどさ」

 

 謙遜してみせるセセリアに、クランプは笑って肩をすくめる。

 ロウジとセセリアがGBNを”卒業”する。そう聞いたのはバトル前だった。

 ”卒業”という言葉選び通り、その選択はけしてネガティブな意味ではない。

 

「だが、次のバトルではどうなるか判るまい」

「ボクはバトル方面の修業はしませんよ」

 

 ロウジ達が選んだのは新たな何かを手にし、大きく羽ばたくためのものだ。

 未来のロウジとセセリアはどうなっているかと、クランプは勝手に大きな期待をしてしまいそうになる。

 

「次に作るガンプラ、期待しているよ。セセリアくん。

 全てが終わったら、ロウジくんと一緒にまたこのGBNへ遊びに来てくれ」

 

 がっちりと手を握り合い、クランプはセセリアと約束を交わす。

 セセリアが笑って肩をすくめ、軽い口調で言葉を返す。

 

「そんな大仰に言わなくても大丈夫。

 どーせ色々終わったらロウジが飛んでくるって」

「そうだな、元気な顔を見せてくれればそれでいいさ」

 

 クランプは小さく首を振り、つとめて軽い口調で言い直す。

 

「セセリア、なんか勝っちゃったよ!」

「ロウジ、ナイスファイト!

 すっごいじゃん!」

 

 コクピットハッチから笑顔のロウジが顔を覗かせ、手を振っていた。

 セセリアが満面の笑顔でロウジへと手を振り返す。

 その様子を眺め、クランプは自分を戒めるように呟いた。

 

「まったく。子供に勝手に背負わせるものではないぞ、クランプ」

 

 大人は子供に勝手に夢を託す。

 自分が行けなかった場所へと飛んで行ってほしいと。

 だが、その期待が子供達の重荷になってはならない。

 

「コズンさん、めちゃめちゃ強かった、けど……!」

「見事に喉笛にかぶりついたね。

 さっすがわんこロウジ!」

 

 子供達のやり取りに口元を緩め、クランプは通信ウィンドウを呼び出す。

 こちらも相棒の見事な戦いぶりをいたわってやらねば。

 卒業する子供達と違い、我々には明日も日常がやってくるのだから。

 

「コズン、惜しかったな」

 

 案の定、通信ウィンドウのコズンは仏頂面だ。

 この調子では、自分もしばらく”卒業”するといいかねない。

 無言を貫くコズンを前に、クランプは穏やかな口調でねぎらいの言葉をかけ続けたのだった。

 

 

 

「コズンに近接白兵戦を挑んだ、だと……!?」

「正直、クランプさんの前座だって舐めてました」

 

 舌をぺろっと出してロウジが言う。

 ロウジの額を指でぴんと弾き、エニルは呆れ顔で呟く。

 

「……他の人がいる時に言うなよ?」

「はい、ごめんなさい!」

 

 悪気がないのは判るが、あまりに感想が正直すぎる。

 ”卒業”を決めたロウジは、何か肩の荷を下ろしたようにエニルには見えた。

 

「コズンの守りを崩すなら、射撃か絡め手を使うべきだ」

「……ほんとヒートソードの構えがガッチガチの鉄壁でした」

 

 ここはエニルの所属する“GM-ARMS”のフォースネストの一室だ。

 ガンプラ製作用のデスクとチェアの並ぶ作業スペースた。

 チェアを二つ向かい合わせ、エニルはロウジと言葉を交わしていた。

 

「白兵のみの手札で、いったいどうやって崩した?」

「一発勝負の曲芸じみたカウンターです。

 二度と出来る気しませんけど」

 

 本当に、驚きの成長ぶりだよ。

 ふにゃっと力の抜けた顔のロウジに、エニルは静かに目を細める。

 初めて会った時のロウジは、人見知りの初心者だった。

 この一年と半年、様々な出会いと体験がロウジを磨きあげたのだ。

 

「後で映像を見せてもらおう、楽しみだな」

「ええ!? ハードルあげすぎないでくださいよー」

 

 甘えた声でぼやくロウジの頭を、エニルは掌で優しく叩く。

 その成長ぶりと足跡が、まるで我が子のように愛おしい。

 他愛もないおしゃべりを約15分、エニルは本題へと移った。

 

「それで、マリコのことだったな?」

「はい。僕とセセリアは卒業。

 ハサウェイもそれに伴って脱退。

 デミダイバーズは解散します」

 

 生真面目に膝をあわせ、ロウジがエニルへまっすぐ頭を下げる。

 話題は、この子達の未来についてだ。

 

「マリコさんのこと、よろしくお願いいたします。

 今日ももう少ししたらこっち来るはずですので」

「わかった、GBN内のマリコについては、

 予定通り、我々“GM-ARMS”が引き受けさせてもらう」

 

 ロウジが、そしてセセリアもこのGBNからいなくなる。

 ELダイバーであるマリコの生活は今後もGBNと切り離す事が出来ない。

 

「ちゃんと事前相談出来てえらいぞ」

「えへへ。実はママに言われただけです」

 

 事前にエニルはトロンとロウジから相談を受けていた。

 受け入れ先とするなら、少しでも面識ある方が良いはずだ。

 エニルは熟慮の末、自分のフォースをマリコの受け入れ先として提案したのだ。

 

「良かった。これで安心して”卒業”出来ます」

「ちゃんと”卒業”するんだぞ。

 ”引退”するって言った次の日に顔を出すダイバー、何人も見てきたからな」

 

 明るく笑うロウジに、エニルは笑って釘を刺す。

 今と違ってもっとオンラインゲームに熱狂的だったころの話だ。

 ”引退”するといった人間に”また明日な”と返すのが定型だった事もある。

 

「”卒業”というより”休止”というべきだったんじゃないか?」

「えへへ。だって”卒業”の方が格好いいじゃないですか」

 

 まったく。その言葉選びのせいでプルツーと大喧嘩しかけたろう。

 

「ちゃんとダイバーギア封印してリアルに専念します。

 オルバさんとシャギアさんにも挨拶したかったけど……」

「すまんな、やはり二人も多忙なんだ。

 ロウジの気持ちはきちんと伝えておくよ」

 

 ロウジから短い手紙のようなメッセージを託され、オルバとシャギア、二人へと転送しておく。

 

「エニルさんも、本当にいろいろお世話になりました」

「礼を言うのはこちらの方だ。

 キミ達と遊ぶのは本当に楽しかった」

 

 しっかりとこちらに向き直り、ロウジが頭を下げてくる。

 エニルはクールな表情で穏やかに言葉を返した。

 ロウジと会う前の自分なら、マリコを引き受けるなんて考えもしなかったろう。

 思い出と共に惰性でGBNを続け、いつの間にかログインしなくなっていたに違いない。

 

「僕はエニルさんに色々世話を焼いてもらっただけですよ」

「それが楽しかったからな。

 そしてキミもマリコくんの世話を焼いてくれたんだろう?」

 

 けれどロウジと出会い、エニルの情熱にもう一度火が付いた。

 そしてガラガラだったフォースネストにも、気付けば少しずつ活気が戻って来た。

 フォースネストへのログインメッセージを確認し、エニルはにやりと口元を緩める。

 

「ちょうどいい。

 ロウジ、改めて紹介しておこう」

「ほぇ?」

 

 不思議そうなロウジの背後で、メンバーのアバターが生成されていく。

 

「我が“GM-ARMS”の期待の新鋭、グレミー・トトくんだ」

「えぇっ!?

 第七士官学校のグレミーさん?」

 

 びっくり眼でロウジが立ち上がる。

 フォースネストへ現れたのはロウジの知人、グレミーだった。

 

「さっきぶりだな、ロウジくん。

 今日づけで元“第七士官学校”となった。

 我々三期生も進路相談の時期でね。

 ロンメル大佐に願い立ち、前倒しで卒業させていただいたのだ」

 

 まだネオ・ジオンの軍服姿のグレミーが、流れるように説明を引き継いでくれた。

 

「え、じゃあプルツーも?」

「無論だ。むしろプルツーが希望したまである」

 

 ロウジの言葉にはエニルが応えた。

 こちらを見やるグレミーにウィンクし、悪戯っぽく口元を緩める。

 

「プルツーはアタシの娘なんだ」

「えぇー!?」

 

 びっくり仰天するロウジに、エニルは満足げに笑う。

 

「一緒のフォースで遊ばなかったんですか?」

「プルツーがGBNを始めたのは数年前だ。

 当時のアタシよりも信頼できるロンメル大佐のところを紹介した。

 その方が良いだろうと思ってね」

 

 まだエニルがロウジと出会い、GBNへの熱意を取り戻す前のことだ。

 だが今は違う。いっしょに遊ばせろとせがむ愛娘を拒む理由は今のエニルにはない。

 

「エニルさんがロウジくんばかりかまうから、

 プルツーが妬いてしかたなかったんですよ」

「その件については返す言葉もない。

 グレミーくんには世話をかけたな」

 

 言葉でちくりと刺しながら、グレミーが苦笑する。

 諸手を挙げて降参の構えで、エニルも苦笑で返す。

 他人の子供ばかりかわいがっていては、愛娘も拗ねるというものだ。

 

「じゃ、じゃあ、グレミーさんも、

 プルツーやエニルさんと“リアルでなかよし”なの?」

 

 好奇心に瞳をきらめかせ、ロウジが身を乗り出す。

 ロウジの勢いに圧され、グレミーが後ずさる。

 エニルは立てた指を唇に当て、悪戯っぽく笑う。

 

「浅からぬつきあい、とだけ言っておこう」

「プルツーとは同じガンプラショップの常連なんです。

 ……まぁ、手のかかる妹みたいなもんですよ」

 

 困ったように笑うグレミーを、エニルは心の中でそっと拝んだ。

 我が娘は本当にキミへ世話になりっぱなしだな。

 

「もっと詳しい話は当事者がいないと。

 聞きたければプルツーから聞いてください」

「じゃあ、所属を移るのもプルツーに引っ張られて?」

 

 ご想像にお任せするとグレミーが言葉を濁す。

 ならばと、ロウジが切り込む先を変えて来た。

 

「今回はそれだけじゃありません」

「グレミーくんは進路に悩んでいたのだそうだ。

 プロのガンプラビルダーをこのまま目指していいものかどうか」

 

 贔屓目に見れば、グレミーには才能がある。

 だがそれでもプロとしてやっていけるかどうかには疑問符がつく。

 裾野は広がったが、それ故に上を目指すのは狭き門となる。

 

「ええ。プロになれなかった時の人生を考えて、

 ずっと二の足を踏んでいたんです。

 そんな時、前のレイドバトルでエニルさん達を紹介してもらって」

「珍しくプルツーはいい仕事をしたな」

 

 ゲーム内でグレミーと顔をあわせたのはあの時が初めてだった。

 冗談めかした呟きに、グレミーがふわりと微笑んでみせる。

 

「プルツーには結構わたしも救われてますよ?

 ……それはともかく。

 エニルさんに教えてもらったんです。

 もしプロになれなくても、色んな関わり方があるんだって」

「“ガンプラ商人”など、ドロップアウト先の一例に過ぎん。

 プロになれるならばそれが一番良いさ」

 

 熱弁するグレミーに、面はゆい気持ちでエニルは唇を引き結ぶ。

 ガンプラのプロを目指したい。だがなれなかったらどうしよう……

 親にも教師へも相談し辛かったグレミーのそんな悩みに、エニルの立場は一つの答えを導いてくれたらしい。

 

「まずは“ガンプラ商人”として一人前を目指してみますよ」

「グレミーさんなら、きっとエニルさんみたいになれますよ!」

 

 若者二人のきらきらした瞳が、尊敬を込めてこちらを見てくる。

 過大評価にしか思えず、なんとも居心地が悪い。

 咳払いし、エニルは強引に話題を戻す。

 

「アタシの話はもういい。

 ともあれ、こうして我々のフォースも無事増員したわけだ。

 安心してもらえたか?」

「私やプルツーもマリコ女史に目を配ろう。

 君自身の未来のため、しっかりな」

 

 グレミーの言葉が頼もしい。

 ロウジと目線をあわせ、エニルは微笑む。

 家族経営の小規模フォースだが、それだけにきちんと目が届く。

 

「はい、受験勉強がんばります!」

「そうだ、GBNは逃げない。

 思い描く理想の未来のためにがんばりなさい」

 

 ロウジの力強い言葉を、エニルは笑顔で祝福する。

 大学附属の高校へ編入するため受験勉強、それがロウジの卒業の理由だった。

 

「あの、グレミーさん。

 プルツーはまだ向こうですか?

 もう一回お話したかったんですけど……」

「プルツーはずっとバトル三昧のようだ。

 元グレミー軍の後輩やラカン達と全員戦う勢いだな。

 夕食時間くらいまでは第七士官学校のままだろう」

 

 やれやれ、いかにもプルツーらしい。

 グレミーの言葉にエニルは口元に淡く笑みを刻む。

 あの子なりに仲間との別れを惜しんでいるのだろう。

 

「大丈夫、前のバトルが最高の対話だったよ。

 気にせず他へ行ってくるといい」

「挨拶はここが最後ではないのだろう?」

「……はい!

 エニルさん、グレミーさん。

 二年後、楽しみにしていますね!」

 

 元気な声を残し、ロウジは賑やかに去って行った。

 初めて出会った時のロウジを重ね、エニルは微笑む。

 隣に支える誰かがいなくとも、おどおどした姿はそこにない。

 もう大丈夫だ、この子は一人前のダイバーとしてここを卒業する。

 

「二年後、どんな未来絵図を思い描けます?」

「ふふ……期待が重いな、グレミー?」

 

 困ったようなグレミーの問いかけに、エニルは胸を張る。

 

「アタシの目指すものは決まっている。

 二年後もロウジが楽しめるGBNであるよう守ることだ」

「現状維持で良いってのはずるいですよ!」

 

 大人は秩序を維持し、堅守するのだ。

 変化と進化の役目は若者にこそふさわしい。

 グレミーの肩を気安く叩き、エニルは笑う。

 

「ここを望む姿へ変えて行きたまえ、グレミー。

 プルツーとキミが思うままに」

 

 未来に思いを馳せれば、自然と心が躍る。

 グレミーとプルツー、二人は我々にどんな未来を見せてくれるだろう。

 

「まずは……GM系列……連邦系のガンプラを作るところから始めます」

「そうだな、幅を広げるのは良いことだ」

 

 たっぷり一分近く考えこんだ末、グレミーが生真面目に呟く。

 まったく、生真面目が過ぎる。

 セセリアと半分で割ればちょうどよいくらいなのだがな。

 内心肩をすくめながら、エニルは穏やかに笑い、フォースのメンバーリストを更新するのだった。

 

 

 

 システムウィンドウに、メッセージの着信音が響く。

 差出人と件名に目をやり、トロンはふっと口元を緩めた。

 

「まったく、筆まめなことね」

 

 差出人は愛娘、ロウジから運営の皆さんへのお礼メッセージだった。

 ここは運営用サーバー、サブマスター達が集まるマスタールームだ。

 本当はあいさつ回りに来たいとさえ言っていたが、一般ダイバーとサブマスターの過度の接触はよくない。

 

「これぐらいはいいでしょう」

 

 各メンバーごとへ分割し、サブマスター達へ転送をしておく。

 仕事に見返りは求めていなくとも、感謝の言葉はやはりうれしいものだ。

 転送音が響き、ルーム内へアバターが生成される。

 

「お疲れです。オフラインサーバー起動テストの報告書です」

「お疲れ、ボブ。

 どう、予定通りこのまま実行できそう?」

 

 渡された報告書形式のデータをトロンは受け取り、カツラギに転送する。

 入室したのは家出中のグエル・ジェタークのアバターを持つ高性能AIサブマスター、ボブだ。

 

「問題ありません。

 何としても成功させます、それが責務ですから」

「無理はしなくていいからね」

 

 意気込むボブに、トロンは優しく声をかける。

 やる気があるのはいいことだが、どこか意欲が空回りしている感がある。

 

「いえ、無理などしていません」

「わかったわ。

 そうだ、”木星妖怪”事件でごいっしょしたロウジくんから感謝のお便りよ。

 ボックスに入れておくわね」

 

 笑顔を張り付け、ボブがかたくなに言う。

 うん、わたしじゃ信頼が足りないか。

 心の中だけでため息をつき、トロンは話題を切り替えた。

 

「判りました。後で読んでおきます。

 それでは最後の”最強グエル”ミッション、行って参ります」

「いってらっしゃい、ボブ」

 

 あくまでも言葉は穏やかに答え、ボブが運営ルームを退出する。

 行く先は高性能AIとしてCPUミッションのボスを務める”最強グエル”討伐ミッションだ。

 だが、それも今日で最後、明日からはミッションが閉鎖され、ボブも新たな役割を与えられたのだ。

 

「ボブも今日で”卒業”なのよね……

 新しい役割、心機一転頑張れるといいけれど」

 

 誰もいない運営ルームで一人呟き、トロンは自分が山積みにしたタスクへ意識を切り替える。

 いくらAIに多くの仕事を手伝ってもらってはいても、運営のサブマスターは多忙なのだ。

 その多忙さが、トロンの何かを鈍らせていたのだろう。

 今日この日のことを、トロンは後に悔やむ事となったのである。

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・カウンター攻撃

 

 どんなガンプラでも攻撃の瞬間には隙が出来る。

 華麗な回避とカウンターは上級者相手では必須の技能となるが、残念ながらオートマ操作のカウンターはほぼ存在しない。

 一度見せた技は対策されるのがガンプラバトルの常であり、鉄壁の定石は存在しないのである。

 各ダイバーごとにガンプラのモーションを作り込み、マニュアル操作で打ち込むしかない。

 高難度バトルのボスを務めるAI達は無数のカウンターを準備し、挑戦者を待ち受けるようだ。

 上級者同士のバトルともなれば、カウンターの差し合いと機体の耐久力勝負が見られる。

 

 

 

 

 

 

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