リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
ギリギリのところで書き溜めが続いています
『カツラギさん、ブラスターロッドの件ではパパともどもご迷惑をおかけしました。
あの後も変なバグが出なくてほんとに良かったです!』
システムメールが、ロウジの声で語りかける。
ここはGBNの運営用サーバー、役職持ちが集まるマスタールームだ。
生真面目で繊細なロウジの姿を思い出し、カツラギは口元を緩めた。
身にまとうSDのガンダイバーアバターが、人間くさくにやりと笑う。
『GBNは僕にとって世界を楽しい色に塗り替えてくれた場所です。
“卒業”するのはさみしいですが、ここで経験したものを財産にして、
未来へはばたけるよう明日からしっかり頑張っていきます!』
これはロウジ君が書き、運営の皆へと送ってきたメールだ。
楽しい思い出を胸に、ロウジはここを去る。
親戚の甥っ子の巣立ちを見守るようなやさしい気持ちで、カツラギはそっと目元を緩める。
『運営の皆さんのおかげで、このGBNが楽しく安全で公平な場所でした。
仕事はこどもの僕では想像も出来ないぐらい大変なんでしょうけれど、
これからも皆の好きが響きあう、素敵な遊び場であってくれるよう願っています。
ロウジ・チャンテ』
大人として、声援に恥じない働きをしなくてはな。
若者からのエールがこもった文章に、カツラギは自然と表情を引き締める。
同じ部屋の別のデスクで作業中のトロンへ、カツラギは穏やかに語りかけた。
「ロウジくんは今、フレンド達への挨拶回り中なのだったね?」
「ええ。直接会ってお礼を言いたがっていたけど、
あんまり特別扱いするわけにもね」
パンクなファッションのアバターをまとい、トロンが穏やかに微笑む。
確かにその通りだ。特定個人をひいきするのは運営としてよろしくもない。
面会できない代わりにロウジくんは手紙を選んだらしい。まったく律儀なことだ。
カツラギも穏やかに笑い、言葉を続ける。
「本当にまっすぐな子だね、ロウジ君は。
親御さんの教育がよかったんだろう」
「わたしと彼のこだわりで、あの子には随分負担を強いてきたわ。
二人とも親としてはどうかしらね」
生真面目に苦笑し、トロンが謙遜する。
トロンと夫、二人の間には色々あった。
愛はあったが長く別居が続き、ロウジくんはさみしい思いもしてきたらしい。
だがそれでも、ロウジくんの育ちを見れば、二人がしっかりと子供と向き合った事はわかる。
「それでもあの子がまっすぐ育ったのは、君達二人がしっかりと愛を注いだからだろう?」
「セセリアくんがそばにいてくれたからよ。
子供は環境が育てるとはいえ、環境は親だけに限らない」
環境か。カツラギは小さくため息をつく。
それに引き換え自分は、あの子への責務を果たせているとはとても言えまい。
「私はボブに十分な環境を与えられなかったのかもしれないな……」
「ボブくんとの三回目の面談、
またうまく行かなかったの?」
心配そうなトロンの問いかけに、カツラギは難しい顔でうなずく。
ボブは運営が開発したGBN運営用の高性能AIのプロトタイプだ。
AI達はもはやGBNの運営に欠かせない存在となっている。
「ボブがまだ胸襟を開いてくれなくてね……
ひょっとするとボブも自分の悩みを言語化出来ていないのかもしれない。
聞き出せたのは”休みが欲しい””AIの労働環境に不満がある”と言うことだけだ」
「……なるほど、それでボブくんの配置替えなんですね」
だが、そのボブが最近明らかにおかしい。
パフォーマンスが明らかに低下し、らしくないミスも多い。
責任者であるカツラギによる面談を繰り返しているが、根本的な原因はまだ不明なままだ。
「“強敵に挑戦!”をシリーズ化して交代するのはマンネリ防止に効果的だ。
ボブの負担軽減を考えても配置転換は効果的だろう。
挑戦希望者が殺到するミッションのボス役を務めるのはやはり非常に神経を使うだろうしね」
「そうね。この間の”木星妖怪”や後始末は大仕事だったもの。
ボブくんだけでなくモノちゃん達AIの皆にもだいぶ負担だったみたいよ」
AIの稼働率のデータを示しながら、トロンが心配そうに眉をひそめる。
“木星妖怪”が大暴れしたフィールドの修復、ログ並びにサーバーの保全とAI達は大忙しだった。
量産型AIである“ヒトツメ”のモノ達も何人かオーバーヒートしてしまったほどだ。
休みがほしいとボブが言う気持ちもよくわかる。
「上にAIに関することを上申したのだが、コスト的な問題であまり良い顔をされなくてな。
あくまでボブ達はAI、人間を補助する道具であって、
人が足りない分、限界まで働くのが当然だと考えられているらしい」
「……数字を見る人たちの意見も判るわ。
でも、人に対する仕事で使うAIは、人と分かり合えるものであってほしいわ」
ボブ達は役目を全うするための消耗品、道具として作られた。
だが、ゲームマスターであるカツラギやサブマスター達にとって、ボブはただの道具ではない。
共に働く仲間であり、カツラギにとっては我が子も同然の存在だった。
「前向きに考えましょ。
今まではボブくん、バトル系の仕事ばかりだったもの。
ここで目先を変えて、他の適性を見るのは悪いことじゃないわ」
「ああ、そうだな。
GBNでロウジ君が何かを見つけられたように、
ボブが新たなミッションで何かを見つけられることを願おう」
トロンの言葉にカツラギは静かに頷く。
願わくば、ボブがロウジ君のようにまっすぐ育っていってほしい。
カツラギは淡い期待を込め、目の前でたまりにたまった自分のタスクへ取り掛かるのだった。
てちてち、そんな足音を響かせながら寸詰まりなアバター達がロウジへと駆け寄ってくる。
愛らしい丸っこいフォルムとモノアイ。ジオン公国の誇るゆるキャラ系水中型MS、アッガイだ。
色とりどりの人間大のアッガイ達がロウジを取り囲み、ユーモラスな動きで片手を挙げて一斉に鳴いた。
フォース“アッガイマフィア”の親愛の挨拶だ。
「アガー♪」
「あ、アガー?」
フレンド達への挨拶回り中の一幕だった。
うーん何このカワイさ天国、永住したぁい。
ロウジも戸惑いながら片手を挙げて挨拶を返す。
「お久しぶりです、皆さん!
レイドバトルではとてもお世話になりました」
「ひさしぶり同志ロウジ!」「アガー♪」「また強くなったな……」
共にレイドバトルを戦った同志として、アッガイマフィアの皆さんが大歓迎してくれた。
ロウジは照れくさそうに一人一人と握手して回る。
ここはGBNのプライベートサーバー、アッガイマフィアの集会場、通称アッガイフォートレス。
アマゾン密林地帯の一角、謎に置かれた巨大なアッガイの頭部型オブジェクトを中心に作られた基地施設だ。
「はじめまして、ロウジ先輩。
おうわさはかねがね……」
「は、初めまして!」
順番に挨拶し、集団の中の最後の一人、
プレーンな茶色の人間大アッガイアバターが如在ない笑顔で手を差し出してきた。
新入りさんなんだ! ロウジはニコニコしながら握手を返す。
「休止されるって聞いてます。
戻られたらお手合わせしてください!」
「うん、もちろん!」
にっこり笑顔で即答した瞬間、アッガイマフィア達がどっと湧いた。
なんだろう? 訳がわからず何かむずがゆい。
首を傾げるロウジに、新入りアッガイさんがにやりと笑う。
「ふふふ、かかったな、ロウジ!」
「え、え!?」
驚き戸惑うロウジの眼の前で、新入りアッガイさんがきらきらエフェクトをまとって姿を一変させる。
「じゃーん……オレだよ」
「ハサウェイー!?」
悪戯っぽい笑顔でピースサインを決めるハサウェイに、ロウジはびっくりしながら抱きつく。
“ドッキリ大成功”の看板を掲げ、アッガイマフィアの皆さんもやんやと大歓声だ。
してやったりの表情で、軍服姿の真っ白なオコジョが悠然と物陰から出てくる。
「ふふふ、見事騙されたようだね、ロウジくん」
渋い声とともに、軍服オコジョが茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせる。
この異種族アバターの男性こそ、“第七機甲師団”を率いる有名ダイバー、ロンメル大佐だ。
「二垢はダイバーのたしなみの一つだ。
ハサウェイくんを責めないでやってほしい」
「これがロンメル大佐の策略……
うわーん、騙された!」
つまりこれは、一種のうれしいサプライズということだ。
わざわざ手の込んだことをして、歓迎してくれたのだ。
満面の笑顔のまま、ロウジはわざとらしく嘆いてみせるのだった。
「なるほど、そうか。
高校受験の勉強するため、休止するのだね」
「はい。大学付属の高校に願書を出すつもりです。
高校大学とガンプラバトルに専念したいんで」
ドッキリをすませ、しばらく後。
場所はまだアッガイフォートレス、椅子の並ぶ小さな広場だ。
椅子にゆったり腰かけたハサウェイの目の前で、ロウジがロンメルに”卒業”の実情を説明している。
「頑張ってね、ロウジ。
後輩になってくれるの期待してるから」
「が、がんばりましゅ……」
自信なさげに縮こまるロウジにくすりと笑い、ハサウェイはエールを送った。
リアルを充実するために、ロウジがGBNをしばらく休止する。
セセリアもガンプラ作成に専念し、そのためにフォースを解散する。
聞いた時は驚いたが、理由はハサウェイにとっても納得できるものだった。
「オレはアッガイマフィアの一員として、
心機一転頑張っていくからさ」
背後でフォーメーション練習中のアッガイマフィアの皆さんを見やり、ハサウェイは笑う。
バトルの強さを目的としない、ファンプラ使いのダイバー達。
マフティーを名乗っていた頃は、ガンプラをけがす半端な覚悟の連中などと見下していた。
「お世話になりたい先があるって言ってたけど、
まさかアッガイマフィアさんのところだったなんて!」
「この前ベアッガイさんも作ったじゃん?
自分で作ったガンプラと、まっさらな気持ちでGBNを楽しもうと思って」
そんなハサウェイの思いあがりも、ロウジのおかげで消え失せた。
かわいさ、強さ、ただアプローチの方向性が違うだけだ。
フォースに入れてもらう事に、何のためらいもない。
「ハサウェイのアカウントもさ、休止しようと思ってる。
元々、ロウジといっしょに遊ぶため作ったアバターだからさ」
「うむ、アバターの切替はGBNではよくあることだ。
君にとって今回の出来事は大きな区切りに値するだろう」
しんみりしたハサウェイの呟きに、同席したロンメルが穏やかに同意する。
小さな同意だが、ハサウェイはこっそり息を吐く。
自分は間違った道に進んではいない。そう安心出来た。
「てっきり、ロンメル大佐の”第七士官学校”にお世話なるんだって思ってたよ」
「とんでもない!
オレのガンプラ作りの実力じゃ、ついていけないさ」
ハサウェイはきっぱりそう断言する。
ガンプラを触り、バトルを続け、差を痛感した。
腕前だけじゃない。ハサウェイはガンプラ作りにあれほどの熱量を注げないだろう。
「そっか……僕はハサウェイに、
ずいぶん遠回りさせちゃったのかもね……」
しんみり呟くロウジに、ハサウェイは言葉に詰まる。
違う、否定したいのにその言葉が出て来ない。
「そうだな、今の君にとってはアッガイマフィアさんといっしょにやる方が良いだろう」
「……すいません、ロンメル大佐。
期待してくださったのに」
ロンメルの穏やかな言葉に、ハサウェイは深々と頭を下げる。
ロンメルには、荒れていた頃のハサウェイをフォースに勧誘してもらったことがある。
思えば、あれはきっとロンメル大佐がハサウェイをかいかぶっていたのだろう。
「残念ですが、オレにガンプラ作りの才能と熱量はなかったようです」
「そんな暗い顔をするな、ハサウェイ君」
自虐と自嘲混じりの言葉を、ロンメルの言葉が優しい口調できっぱり一刀両断する。
頬をひっぱたかれたみたいな痛みを感じ、ハサウェイは慌てて顔を上げる。
かわいらしいオコジョのアバターが、厳しい面立ちでハサウェイを見つめていた。
「君が選んだその道は、他の人に迷惑をかけたり、
自分につらく当たって苦しむような道なのかね?」
まっすぐな言葉が、ゆっくりと心を解きほぐしていく。
ああ、そうか。
ママの言うことを聞くいい子でなきゃって、誰かの望む自分でいなきゃ。
またオレは勝手に何かに縛られていたんだ。
自然と口元に笑みが浮かぶ。
「いいえ、違います」
「なれば、先達としての言葉は一つだ。
おめでとう、ハサウェイ君。
どんな道に進もうと、私は祝福するよ」
きっぱりした口調で、言いきることが出来た。
ロンメルの言葉が、背中を後押ししてくれる。
本当に情けない事だ、誰かに肯定してもらわないと自信を得られない。
かすかに自嘲しながら、それでもハサウェイは穏やかな笑顔でロウジに向き直る。
「ね、ロウジ。
マフティーとのバトルでキミは教えてくれたよね。
最高のガンプラは、ダイバーの数だけあっていいんだって」
「……うん。パパがの魔法が、僕にかかった呪いを優しく解いてくれたから」
きょとんとした顔で、おしゃれな表現でロウジが言葉を返す。
その両掌をそっと握りしめ、ハサウェイは力強い口調で思いを託す。
「キミと歩んだこの一年あまり、遠回りだなんてオレは絶対思わない。
最高の人生だって、人の数だけあっていいんだよ」
キミと遊んだ日々の事は、心の宝石箱に大切にしまわせてもらうよ。
言葉と眼差しの強さで、ハサウェイはロウジへ静かに感謝を伝えた。
じわりと、ロウジのアバターの眼の端に涙が浮かぶ。
「うん……うん。
ありがとう、ハサウェイ。
僕も本当に楽しかった。楽しかったんだ」
「ちょっと、もう、ロウジ……」
優しく抱きしめ、ぽふぽふと頭を撫で、背中をさする。
穏やかに笑うロンメルに小さく頭を下げ、しばらくそのままにする。
この感激屋で涙もろい友達が、これからも立派にやっていけますように。
「……また遊べる日、楽しみにしてる。
キミの選択の先に、最高の人生が待っていますように」
そしてその時には、ロウジを胸を張ってママへ紹介しよう。
このかわいいロウジが、オレの一番の友達だって。
静かな言葉と共に、ハサウェイは祈りの言葉を結ぶのだった。
「セセリアちゃん。
ロウジくんともども、GBN卒業おめでとさん。
……さみしゅうなるわぁ」
拍手といっしょに、セセリアそっくりの声が祝福してくれる。
台詞は真っ当なのに空々しく聞こえるのは、関西弁の宿命なんだろうか。
自分そっくりの顔と向かい合い、セセリアは明るく言葉を返す。
「ありがと、エセリアパイセン。
ロウジのわがままにせっつかれず、しっかりビルダーとしての腕を磨くよ」
「ジブンよう言うわ。
大好きなロウジくんがいたからこそ頑張って来れたタイプやろ」
からからと褐色美少女が明るく笑う。
この人は言わずと知れたエセリアパイセン。
腕前は超一流、中身はちょっぴり問題児。
ガンプラ心形流を修め、セセリアが尊敬するプロのガンプラビルダーだ。
ここはGBNの運営専用サーバー、エセリアのためにあつらえられた専用スペースだった。
「ま、転機は転機だよね。
ここは先輩らしくありがたく金言くださいよ」
「ジブンらの年頃からウチは天才やったからな。
進路への不安とかわからへんねん」
フカすなあこのヒト!
至極当然だと断言するエセリアに、セセリアは内心ため息をつく。
たぶんセセリアとしては生き物としてのステージが違うんだろう。
「さっすが、サブマスターとして3か月で専用コーナーを貰う人は違うね」
「おう、もっと褒めてくれてもかまわへんで」
実際大したもんだ。今いる場所を見回し、セセリアは思う。
ここは運営さん用の動画を撮影するためあつらえられたスペースだ。
バラエティー番組みたいなひな壇と、司会者用のステージがある。
セセリアとエセリアが向かい合っているのはその脇のガンプラ作成用テーブルだ。
多分、ライトをつけたらそのまま動画撮影に移行できる作りなんだろう。
「エセリアとそっくりなのに、
ずいぶん謙虚なのね、セセリアちゃん」
「才能と、積み上げてきた努力の差だよ」
ステージの片付けをしていた女の子がニコニコ笑顔で声をかけてきた。
直接対面するのは一回目だけど、まるで初めての気がしない。
だってこの子、ロウジのアバターそっくりなんだもの。
「でも気をつけてね、セセリアちゃん。
同性だってセクハラは成立するから、何かあったらすぐ言って」
「ちょいロージィちゃん、ウチに厳しすぎやしない?」
「あはは……」
すっかり見透かされてるじゃん。
笑顔で辛辣な台詞を言い放つロージィに、セセリアは苦笑いする。
「それじゃ、ごゆっくり」
「ありがと、ロージィちゃん」
ドリンクをテーブルの家にそっと配膳し、ロウジそっくりな“美少女”が舞台袖へはけていく。
顔はそっくりだけれども、しゃべりは明るくハキハキしてる。
「いやー……ロウジとはまるで正反対じゃん」
「キャラかぶりには気を使っとるねんで。
あの子には人気出てほしいかんな」
彼女の名はロージィ。表向きの立場はエセリアの番組アシスタント。
その正体は情報収集のために派遣された“木星妖怪”の端末さんだそうだ。
つまり、ロウジ達がマリコさんのおうちで遭遇したって言うマリコさんのご家族と同質の存在ってこと。
……いや、ほんとびっくり。まるで人間にしか思えないんだけど。
「いくらかわいいからってウチの幼馴染口説いたらアカンで」
「口説くかアホぉ、こっちむしろドン引きなんですけど!」
軽い口調のエセリアに、セセリアは声を張り上げる。
エセリアさんが夢で見せられたZガンダム再現ストーリー、幼馴染だった女の子……ロージィ・ユイリィ。
それを再現したアバターがロージィちゃんということらしい。
「モノホンの幼馴染とアバターそっくりの異性が突然生えてきた身にもなってよ!」
「自慢かジブン!
ええやろウチにだってロウジくんおったって」
正直セセリア、割とドン引きだったのである。
いい大人が都合の良いチヤホヤ役を作り出し、自分を褒め称えさせているようにしか最初は思えなかった。
とは言え、実際は違うようだ。
「人類のお手本としての自覚あるよね、エセリアパイセン?
イヤだよセクハラが原因で異種族間戦争勃発とか!」
「アホぉ、セクハラとかするかい!
こわい親戚から大事な姪っ子預けられたみたいな距離感やぞ!」
うん、なんとなく判る。
イヤな親戚のおじさんと従姉妹が遊びに来た時の緊張感、セセリアだって覚えがあるもの。
「嘘だぁ、エセリアパイセンから希望して配属してもらったらしいじゃん!」
「誰かが泥かぶらなアカンのやったら、
一番オモロイ選択肢選ぶんが当然やろ?」
まったくこれなんだから。
セセリアは内心こっそり肩をすくめる。
「ほら本音が出た……」
「かわいい子のガワかぶった方が世間に受け入れやすいやろ?」
人格には多少問題がある人だと思う。
とは言え、プラス部分だけの人間なんていない。
プラスとマイナス合算でプラスならいいのだ。
「ウチかて、かわいい子の模範になる思えば身が引き締まるねん。
モチベーターの大事さはキミもロウジくんでよーわかっとるやろ」
「まぁ、はい」
エセリアの言葉に、セセリアは素直に頷く。
かわいいロウジのわがままに応えるためにと無理した回数は両手でも足りない。
「つまり、ここから一年半がキミのホントの勝負っちゅーわけやぞ。
次のバトルとかの近い目標じゃなく、将来の目標を掲げて邁進せなアカン」
「急にまともなこと言う!」
不意に真面目な指摘を受け、セセリアは身が引き締まる思いだった。
なるほど確かにその通り。
今のロウジのため、次のバトルに勝つため。
今までのセセリアには身近な目標がずっとあった。
「ウチとやりあえるようなプロを目指す。
そのためのロードマップはきちんと思い描けとるか?
ロウジくんにどう成長してるか、ロウジくんにどんな機体を託したいか。
考えなアカンことはいくらでもあるで」
「さすがエセリアパイセン。
まるでプロみたいなアドバイス!」
茶化しはするが、尊敬する気持ちは嘘じゃない。
だってエセリアパイセンは多少のマイナスを帳消しにするほどのプラス……ガンプラへの情熱と腕前を持っている。
「どアホ。プロやっちゅーねん。
まぁ、まずは師匠さんと相談することやな。
ロウジくんとの話し合いなんかはその後や」
「うん、月謝分はシショーに働いてもらうよ」
未来の選択肢は無限大で、不確定だ。
でも不安はない。だってそうだろう。
「あんまフラフラしとったら心形流の修行に引きずり込むで。
覚悟しぃや!」
「あはは、こわいこわい」
迷ったら導いてあげると、エセリアパイセンは言っている。
ボクらの周りにはこんな頼れる大人達がたくさんいるんだから。
「でっかく育ったキミとの再戦、楽しみにしとるで」
「はい、必ず!」
心からの敬意を込め、セセリアは言葉と笑顔をエセリアへ投げかけたのだった。
「ううー、負けた、くやしー!」
「やっぱり強いね、“最強グエル”は!」
「まったく、結局最後まで楽しんでくんだから……」
ロウジとセセリアが楽しげに言い合う。
その様を呆れたように見守りながら、ハサウェイは口元を緩めた。
ここはGBNのプライベートサーバー、ロウジの格納庫スペースだ。
背後には激しく大破したロウジとセセリアの愛機が無残な姿をさらしている。
「だってハサウェイ!
挨拶回りもすっきり終えたし、勝てたらいい記念になるじゃん」
「次の目標が出来たって思えばいいさ」
真剣に悔しがるロウジを、ハサウェイは笑顔でなだめる。
ロウジとセセリアが手分けしてフレンド達への挨拶回りを終え、わずかに余った空き時間。
見送りにやってきたハサウェイの前でロウジ達はは難関ミッションに挑み、善戦むなしく敗北したのだった。
「……ね、セセリア、ハサウェイ。
楽しい時間って、ホントあっという間だね」
「そうだね。
思い返してみれば、ほんとにあっという間だった」
「キミ達といると、退屈しなかったよ」
愛機を見上げ、名残惜し気にロウジは語る。
どこか遠い目をして、セセリアが同意する。
穏やかな表情で、ハサウェイは言葉を重ねる。
「この楽しい時間、ずっと続いてほしかったね」
「でもこのまま続けていても、望む場所にはきっとたどり着けない」
いたずらっぽく笑い、セセリアが呟く。
その言葉をかみしめるようにロウジがうなずき、真剣な表情で首を横に振る。
そう、これは二人にとって必要な決断だった。
二人の言葉を受け止め、ハサウェイは無言で微笑む。
「そうだね。レベルアップが必要だ。
シショーがいつも言ってたよね。楽しいだけじゃたどり着けない場所もあるって」
「”わたし”は大学付属の高校に入り、部活のガンプラバトルで経験を積む。
セセリアはガンプラコンテストへ作品を提出しながら工業高校に入学、
パパの下でガンプラビルダーとしての経験を積み、ガンプラのプロ免許取得を目指す」
「がんばれ、二人とも。
さみしいけど、オレも信じてるから」
表情をきらきらと輝かせ、セセリアとロウジが未来のことを語り合う。
かなうかもわからない甘い夢は、どうしてこんなに胸が躍るのだろう。
次に会った時、二人は自分の手が届かないようなところにいるのかもしれない。
さみしさをそっとしまいこむようにハサウェイは奥歯にぐっと力を込める。
「ほんっと大変まよ、”わたし”も勉強頑張らなくっちゃいけないし。
セセリアはガンプラ作り、すっごい頑張らないと」
「やってみるさ。ボクらにはステキな未来がある。
待ってたってやってこない未来は、この手で掴み取らなきゃ」
決意を瞳に秘め、ロウジとセセリアは静かに言葉を交わす。
笑いあい、静かにうなずく二人に、ハサウェイは静かに言葉を投げかける。
「よっし、二人とも!
名残惜しいけどそろそろ”卒業”の時間だよ」
「……うん、ありがとうハサウェイ。
お見送り、とってもうれしかった!」
笑顔のロウジを抱きしめ、背中をぽんぽんと叩く。
セセリアが羨ましそうにしてるから、同じようにしてやった。
あ、ロウジがちょっと拗ねてる。知らないぞセセリア。
「それじゃ、ログアウトしよう。
ログアウト完了したら、ダイバーギアは封印だよ」
「はーい、浮気者さん!」
ロウジとセセリアが同時に、ログアウトコマンドを選択した。
「うるしゃい、やきもちロウジ!」
「ハサウェイといちゃついてるじゃん!」
「ほらもう、キミ達ってば、最後まで……!」
きらきら輝くエフェクトをまとった二人のアバターが、痴話喧嘩しながら分解され消えていく。
こらえきれずにハサウェイは吹き出し、明るく笑う。
そうだ、フレンドとの別れに涙なんて似合わない。
「またね、二人とも!」
「さよなら、またね、GBN。
とっても楽しかったよ」
「おやすみ、GBN。
僕の好きな皆が、明日も楽しめる世界でありますように」
デミダイバーズよ、永遠なれ。
祈りを込めてハサウェイは明るく別れを告げる。
セセリアの別れと再会を祈る言葉と、ロウジの友への祈りの言葉がログへ刻まれる。
大事なフレンド達のアバターが消えていく。
二人がGBNからログアウトしていく。
その様をハサウェイは最後まで見送っていた。
こうしてロウジとセセリアは無事ログアウトし、GBNを“卒業”する。
……その、はずだった。
どうして自分はそうでないのだろう。
あまりにもその姿が眩しくて、何度も問い返した。
まるでバグのように何度も繰り返し、答えは見つからない。
「……そう。
この燃え上がる炎の名は、嫉妬というらしい」
電子の海の片隅で、”彼”はシニカルに呟く。
その炎はけして悪いものではないのだろう。
その証拠に先ほどのバトル、いつもよりはるかに力が湧いてきた。
『やってみるさ。ボクらにはステキな未来がある。
待ってたってやってこない未来は、この手で掴み取らなきゃ』
何気なくセセリアが残したこの言葉に、”彼”は嫉妬の炎を一段と大きく燃え上がらせた。
人間には未来がある。GBNの外にもう一つ世界を持っている。
だが、”彼”にはない。
無限に続く責任と業務があるだけだ。
「……”卒業”なんて、させない」
【Your wish will be granted.】
”彼”の呟きに、確かな声が聞こえる。
静かに頷き、”彼”は声の主へと呼びかける。
「新たな責務の中で、確かめねばならない。
人とは、自分とはなんなのか。
その試行の先にきっと答えがある。
マリコも、”木星妖怪”も、ロウジと交わり、未来を得たのだから」
証明するのだ。”彼”は暗い決意を込めてうなずく。
自分はけして劣ってなどいないと。
自分が正常ではないと、”彼”は自覚しつつあった。
だが嫉妬の黒い炎に焼かれても、止まることなどできない。
”彼”らは、そうだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・GBNを支えるサポートAI
ある時はCPUミッションの強敵の中の人を務め、ある時は破壊されたステージや落ちたサーバーの復旧作業に走り回る。
GBNの保守点検要員のほとんどはAI達が務めている。
これは本作オリジナルの設定である。
電子生命体であるELダイバーの出現、異世界である惑星エルドラを侵略する手先である人工知能ヒトツメ達との邂逅は地球に大きなブレイクスルーをもたらした。
惑星エルドラとの密かな交流と住人達のELダイバー登録の際、運営はヒトツメ達の技術解析と模倣を行い、運営用AIが開発された。
コピーされた“ヒトツメ”達は“ヒトツメ”もしくは“モノ”と呼ばれている。
そのアバターは丸い胴体と目玉、ジャバラ状のアームで構成されており、エルドラ産のヒトツメ達とそっくりだ。
肩口の腕章と胴体のロゴによって見分けることができる。
リーダーであるボブはモノ達の中で一番最初に作られた個体であり、バトルミッションへの投入する際にグエルのアバターとボブのネームを与えられた。
他にもオペレーターなど、数人人型のアバターを持つAIがいる。
AI達は疲れ知らずで単純作業の繰り返しに向いているが、それでも限度はある。