リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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次回10/5(土)です

サンダーボルト完結お疲れ様でした
あんなヘビーな展開でもさわやかなエンドになりましたね。
カリストが好きです。


ミッション6-3 たとえあの子がいなくたって

 

 平和な世界だからこそ、人は戦いを求める。

 誰も死なない、最上の娯楽として。

 

「来るよ、背後。

 ドローンサーベル!」

 

 マリコの叫びに意識を揺さぶられ、プルツーは愛機のコクピットで目をかっと見開く。

 遅れてロックオンアラートが響くと同時、プルツーは操縦桿をぶん回す。

 意識の死角、背後から敵機の遠隔操作兵装が迫るその瞬間、プルツーの天地が逆転した。

 愛機グラン・マンサが大きく脚を振り回し、AMBAC挙動でドローンサーベルをぎりぎり回避。

 正面モニターに映る敵影目掛け、メガ粒子砲を牽制射。

 白兵武器を構えた真紅の敵機が、メガ粒子の火線の中をするすると後退していく。

 

「ほんっ……とに、しぶとい。

 おのれ”最強グエル”っ!」

 

 敵機ダリルバルデを睨み、プルツーが賞賛混じりに吐き捨てる。

 同時にロックオンアラートが鳴った。

 敵機ダリルバルデが放ったペレット状のビームの乱射だ。

 こんな牽制! プルツーの操縦に、グラン・マンサがスラスターで横スライドする。

 

「焦るな、プルツー。

 ここが正念場だぞ」

「敵耐久およそ残四割!

 ファイトよ、プルツー。

 あと一息!」

 

 複座、背後のサブパイロット席に座るグレミーが即座にプルツーをたしなめる。

 モニターに映るオペレーターのマリコも声援を投げかけてきた。

 二人の声に、プルツーは深呼吸して広く周囲へ注意を向け直す。

 周囲に障害物などなにもない。ここはGBNの宙域バトルフィールドだ。

 プルツーはグレミー、マリコと共に難関ミッション“最強グエル”討伐(宙域)に挑戦中なのだった。

 

『どんな窮地でも……俺は諦めない!』

 

 ダリルバルデから、グエルの定型台詞が響く。

 諦めるも何も、そっちは疲労なんてないだろう!

 プルツーは心で冷めた呟きを吐き捨てる。

 いけない、だいぶ疲れてる。

 小さく首を振り、プルツーは自機と敵機の状況へ意識を向けた。

 

「マリコ、制限時間は?」

「まだ300カウントたっぷり残ってるよ!」

 

 まだそんなにも。時間感覚の狂いにプルツーは慄然とした。

 交戦開始から相当長く戦い、自機と敵機は共にボロボロだ。

 ダリルバルデは左腰のアーマーと右肩アーマーを喪失し、全身そこかしこから火花を飛び散らしている。

 グラン・マンサの武装も通常ファンネル、ダガー・ファンネル共に半分近く喪失し、ハンマーも両肩共に行方不明。

 右肩のバインダーはえぐり取られ、左腕は手首から先を失い、ランスビットを直付けしている。

 Iフィールドジェネレータも破損し、稼働時間にかなり制限がある。

 

「……グレミー。

 次で勝負を賭けるぞ」

「了解だ。ドローンはこちらが出来るだけ抑える!」

 

 自身の疲労と愛機の状況を確認し、プルツーが決然と呟く。

 ここが阻止限界点だ。これ以上長期戦はこちらが不利!

 グレミーも応え、素早くキーボードを叩き始める。

 だが、戦端を開いたのは敵の方だった。

 

「敵ガンプラに高粒子反応!」

「来るぞプルツー、動画で見た発狂モードだ!」

 

 マリコの警告に続き、ダリルバルデが全身から真紅のプラフスキー粒子を炎のように揺らめかせる。

 まずい! プルツーは息を吸い込み、操縦桿を強く握りしめる。

 モニターに残像を焼き付かせ、ダリルバルデが翔ぶ。

 

「Iフィールドバリアー、展開っ!」

 

 速い! グレミーの叫びと初撃激はほぼ同時だった。

 ダリルバルデがビームジャベリンを両手で構え、猛然と真正面から攻めかかってくる。

 ビームジャベリンが大上段から。

 続いてジャベリンを分離させ、ビームアンカーとビームクナイで二刀流の連撃。

 止まったところにビームバルカンの追撃、トドメとばかりにビームジャベリンの鋭い突きが来る。

 真正面からなのに反撃の間もない。

 ビームバルカンがIフィールドに着弾し、つばぜり合いエフェクトと共にグラン・マンサの巨体が大きく弾かれる。

 

「……なんとぉっ!」

 

 プルツーは叫び、荒い呼吸を繰り返す。

 しのいだ、なんとかしのぎきった。

 それでもダリルバルデの猛攻は終わらない。

 

「粒子放出、なおも継続!」

 

 祈るようなポーズでマリコが叫ぶ。

 やるしかない。プルツーは覚悟も新たに汗にべたつく操縦桿を握りしめる。

 粒子の炎をまとい、ダリルバルデが猛然と突進する。

 

『俺はまだ……スレッタ・マーキュリーに進めていない!』

 

「来るぞ!」

「グレミー、あわせろ!」

 

 吠えるグエルに、グレミーが叫び、プルツーは答える。

 振り下ろされたビームジャベリンを右のハイパービームサーベルが受ける。

 同時にグラン・マンサが左腕に接続したランスビットを反撃に突き込む。

 だが、同時にロックオンアラートが響く。

 真下から飛び込んできたドローンサーベルがランスをかちあげる。

 完璧なカウンターだった、左肘が斬り飛ばされ、ランスが宙を舞う。

 下がろうとするグラン・マンサの巨体をビームバルカンが痛打する。

 Iフィールドバリアーが揺れ、回避軌道が鈍る。

 小兵に見えるダリルバルデが、二倍近い巨体のグラン・マンサへ猛然と挑みかかる。

 分離した武器による二刀流をグラン・マンサがサーベルで受けた。ビームクナイの払いを受けきれず、胸部が浅く抉られる。

 

「次!」

「応!」

 

 ドローンサーベルを、グレミー操るダガーファンネルが抑えにかかる。

 ドローン同士のつばぜり合いの眼下、ビームバルカンで牽制しながらダリルバルデが半身に構えを取る。

 来る、さっき見たビームジャベリンの突き!

 見守るマリコの呟きに応えるように、グラン・マンサがカウンターのために構えた。

 ダリルバルデが猛然と動き出す。その刹那、鋭い光がグラン・マンサを襲った。

 プルツーですら反応出来ない速度でダメージアラートが悲鳴のようにがなる。

 

「ビームクナイ投擲!?」

 

 ビームジャベリンの突きではなく、右と左の二連撃!

 ビームアンカーの短いリーチを補うように、ダリルバルデが全身の炎をまとってグラン・マンサへ突進する。

 回避、いや防御! それでも間に合わない。

 バイタルパートをかばった右半身がビームアンカーで大きく抉られる。

 

「……チェックメイト!」

 

 マリコが叫び、グラン・マンサの巨体が揺らぐ。

 だが、致命的な隙をさらしたのはダリルバルデの方だった。

 ビームアンカー突撃が命中したその瞬間、グラン・マンサの失われた右半身の影からランスビットが飛び出す。

 そしてダリルバルデの胸部へと深々と突き刺さったのだ。

 炎を吐血するように口から噴き出し、ダリルバルデが衝撃に身をよじる。

 

「プルツー!」

「応!」

 

 グラン・マンサが前へ跳んだ。

 巨体の全推力を乗せての突進を、右足の一点に集中する。

 特撮のヒーローが見せるような、流星のごときキックが敵機胸部に刺さったランスへ突き刺さる。

 装甲の悲鳴とダメージアラートが大きく響く。

 推力と全質量を乗せた捨て身の一撃だ。

 衝突の勢いにグラン・マンサの右足の膝までが粉砕される。

 だが引き換えに、ダリルバルデの胸部のランスが致命的な深さにまでえぐりこまれる。

 

『お前達の、勝ちだ……!』

 

 苦しそうに、だがどこか誇らしげにグエルが呟く。

 そしてダリルバルデが全身からプラフスキー粒子を噴き出し、爆散した。

 勝ったのか? 本当にこれで終わり……?

 勝利の実感がまるで湧かない。

 システムメッセージが響くまで、プルツーは硬い表情で操縦桿を握りしめ続けた。

 

 

 

 嗚呼、ロウジくんがいなくなっても、GBNは回っていくんだね。

 

『Battle ended WINNER!……“GM-ARMS”!』

 

「ぃよっし!」

「……勝った、な!」

 

 システム音声が勝利を告げ、二つの声が喜びを爆発させる。

 眼前のモニターでプルツーが笑顔で拳を突き上げ、グレミーが満足気に大きく息を吐き出す。

 普段クールを装う二人の様子がなんとも微笑ましい。

 マリコは緊張にこわばりきったアバターの身体を、オペレーター席の椅子へ深々と預けた。

 

「ふふ。これならエニルさんにもいい報告が出来そうね」

 

 マイクつきヘッドセットを外しながら、マリコは満足気に呟く。

 モニターや音響設備を切り、照明を落とし、部屋を出る。

 ここはGBN内部にある“GM-ARMS”のフォースネストだ。

 オペレータールームからメインルームへと移動し、マリコは戦士二人の帰還を待つ。

 やがて転送音が響き、部屋の片隅へアバターが二つ、ゆっくりと生成されていく。

 晴れ晴れとした顔で帰還したプルツーとグレミーへ、マリコは穏やかに声を投げかける。

 

「お疲れ、二人とも。

 新生“GM-ARMS”白星発進ね」

「マリコ、ありがと!」

「ナイスオペレーティング!」

 

 軽い仕草で一人ずつハイタッチし、マリコは新たな仲間達と喜びを分かち合う。

 あの激しいバトルが、マリコがフォースを移籍し初挑戦したミッションだった。

 日時はロウジの引退と挨拶回りと同じ日。

 ロウジが夕方にログアウトした後の夜、一般的な夕食を終え、日付が変わるまでの時間帯だ。

 

「私、まだまだ二人の速度についていけないわ。

 でもプルツーとグレミーはさすがね。

 私のサポートなんてほとんど無しで“最強グエル”撃破しちゃうんだもの」

「いえ、機体の相性勝ちのようなものです」

 

 マリコも達成感を胸に、軽く苦笑を浮かべる。

 対するグレミーが爽やかな笑顔で謙遜してみせた。

 プルツーとグレミーの戦い方はロウジ達とはまた癖が違う。

 だが実際、プルツーとグレミー二人のコンビネーションは大したものだ。

 オペレーターのマリコが二人と万全の連携をとれないままでも、

 ロウジ達が未クリアの難関ミッションを軽々とクリアしてみせた。

 

「もちろん勝利は喜ばしいが……」

 

 プルツーが突然、渋面になった。

 手元のツールでバトルログを呼び出し、プルツーが背後のモニターに映像ログを再生する。

 

「今日の最強グエル、動きに精彩を欠いていやしなかったか?」

「ふむ。私は特に感じなかったがね」

 

 グレミーが映像を精査し、難しい顔で首を横に振る。

 激しいバトルの映像を見返し、マリコも首を傾げた。

 

「例えばここ。

 牽制のつもりの中途半端な突きに、カウンターが来なかった。

 前なら絶対ランスビットはここでなくなってたよ」

「んん……わたしも二人ほど目が肥えてないから」

「思った以上にIフィールドバリアーが効果的で、

 グエル側も攻めあぐねていたとかではないか?」

 

 いや、そんな感覚わかんないよ。

 まったくわからないマリコと難しい顔のグレミーの二人がかりで否定され、プルツーが小さくため息をつく。

 

「まぁいい、勝ちは勝ちだ。

 この調子で、ロウジを悔しがらせる成果を積み上げていくぞ!」

「ええ、楽しんでいきましょう」

 

 首を小さく振って気持ちを切り替え、プルツーがニヤリ笑って勝ち誇る。

 マリコも穏やかに笑い、答える。

 率直な性格がとても愛らしい。ロウジとは違う魅力がある。

 

「その通り、いつまでも拗ねてはいられまい」

「拗ねてなんかない!」

 

 グレミーのからかい交じりの言葉に、プルツーが叫ぶ。

 マリコは口元を抑え、ころころと上品に笑ってみせた。

 

「マリコこそ、お別れはすませたのか?」

「ふふ。わたしはリアルでロウジくんの"おねえさん“だもの。

 ちっともお別れなんかじゃないから」

 

 プルツーが唇を尖らせ指摘する。

 マリコは笑って陽気にウィンクして見せた。

 

「……なるほど、そうだったな」

「そうね、それでもGBNでの別れはさみしいわ。

 けれど、きっと新しい出会いだってあるでしょう?

 まずはあなた達二人ね。一緒に遊べてうれしいわ」

 

 これから先しばらく、GBNにロウジはいないのだ。

 小さな違和感にも、きっといずれは慣れていく。

 かすかなもの寂しさを振り切るようにマリコは笑う。

 

「こちらこそ、改めてよろしく頼む、マリコ女史」

「よし、マリコ。

 まだいけるか?」

 

 グレミーとプルツーが顔を見合わせ、それぞれの笑顔を浮かべる。

 二人に歓迎されながら、マリコは笑みを強気なものへ変える。

 

「ええ、もちろん。

 次は何をして遊ぶの?」

 

 ロウジくん、わたしはもう大丈夫だから。

 大きく広がる見知らぬ世界を、新たな仲間と共に進むのだ。

 ロウジへ静かに呼びかけ、マリコは未来へと想いを馳せるのだった。

 

 

 

 アバターが生成され、室内の様子がダイバーギアに映し出される。

 

「ボブくんの反応速度、15%ほどの遅れがあるわね。

 優勢時は問題なくとも、劣勢時の咄嗟の二択が反応出来ず、

 不利を挽回出来ずにそのまま押し込まれてるわ」

「あぁ、うん。最近ちょいおかしいな。

 メンタル不調時のファイターの典型的な症状やん。

 明らかに何かメンタル面に問題出てるでアレ」

 

 視覚より先に聴覚情報が飛び込んできた。

 入室した瞬間、議論の声が”仮面の父”の耳かに入る。

 心配そうに言葉を交わしているのは、サブマスターのトロンとエセリアだ。

 

「思えばボブのヤツ、対“木星妖怪”の時からなんかおかしかったで。

 機械に精神攻撃はフツー効かんやろ。

 それが、迂闊なウチみたいに囚われてとったんやで?」

「そうだな。カツラギがボブの配置換えをしたのは慧眼だったかもしれん」

 

 どうやら話題はグエル・ジェタークのアバターを持つサブマスター、AIのリーダーを務めるボブのことらしい。

 エセリアの言葉に、同じくサブマスターのエニルが珍しい憂慮の表情を浮かべて頷く。

 ここはGBN、運営専用サーバーの会議スペースだ。

 “仮面の父”は運営側ではないが、臨時でオブザーバーとして権限を付与され入室している。

 

「ボブがボスを務めとった“最強グエル”の討伐ミッション、

 駆け込みで結構クリア者が増えとったみたいやもんな」

「ボブが今回の件で動けないのは正直痛手だが、

 その分は我々でカバーしよう。いつも助けてもらっている側だからな」

「そうね。ボブが復調したらまた色々助けてもらいましょ」

 

 三人のボブへの扱いは、まるで人間だ。

 ふっと、思わず口から笑みが漏れてしまっていた。

 議論していた三人が顔を上げ、こちらを向く。

 “仮面の父”は自分が使用する“赤い彗星のひと”のアバターに、まず小さく頭を下げさせた。

 

「すまない、遅くなった。

 一応時間には間に合ったようだが」

「ちょい、パイセン。

 遅刻寸前で何笑ってるんすか」

「随分と良い身分だな、“赤い彗星のひと”」

 

 場では最年少、エセリアが冗談めかした笑顔で茶化してくる。

 続いてエニルが鼻白んだ様子で“仮面の父”を詰めてくる。

 同門で学んだ身ではあるが、エニルとは関係がこじれたままだ。

 決定的な断絶はないが、顔をあわせるたびにこんなやりとりを繰り返している。

 

「いや、すまない。

 ボブくんが仲間扱いされている様子が微笑ましくてな」

 

 ボブのことを機械風情だなど差別するつもりはないが、やはり自分は古い人間なのだろう。

 AIがきちんと仲間扱いされる。これも時代の流れに違いない。

 

「当たり前だ。ボブのサブマスター歴はだいぶ先輩だぞ。

 きちんと挨拶周りしたロウジくんと比べ、貴様は随分礼儀がなっていないようだな」

「ごめんねエニル、急に予定を入れさせたのはこちらだから……」

 

 トロンが割って入り、エニルはしぶしぶといったていで矛を収めてくれた。

 トロンへアバターで小さく頭を下げ、“仮面の父”は空いた椅子へと腰を下ろす。

 まったく、こちらでも力関係は変わらないな。

 ”仮面の父の”リアルの身体に、思わず苦笑が浮かぶ。

 

「お疲れ様、急に来てくれてありがとう。

 ロウジとセセリアくんはログアウトしたみたいよ」

 

 トロンが二人のログアウトするシステムログを示してくれた。

 そうか、あの子たちはきちんとこの世界へお別れを告げられたのだな。

 ほっとした表情を浮かべ、”仮面の父”はうなずく。

 

「たぶん渡したお金で、今ごろはファミレスでご飯中かしら。

 明日にはダイバーギアを預かって封印しましょ」

「そうだな。受験終わるまでは預かっておこう」

 

 明日はきちんとロウジの様子をうかがい、時間をとろう。

 家庭内の事情に“仮面の父”は想いを馳せる。

 

「みんな、ごめんなさい。

 カツラギはようやく、前の会議が終わったところみたい」

「会議が多いのはどこも同じだな……」

 

 今室内にいるメンバーは“仮面の父”を含め、四人。

 この前の“木星妖怪”事件に対処したサブマスター級のメンバーばかりだ。

 転送音が室内に鳴り響き、人影が三つ増える。

 

「マリコです。当事者として参加させていただきます」

「マリコちゃん、お疲れ様」

 

 マリコにトロンがにこやかに声をかける。

 “仮面の父”もマリコへ軽く手を挙げ、無言で口元を緩めた。

 マリコはそのままトロンの横に行儀よく座る。

 

「ロージィ、です。“木星妖怪”代表として参加です」

「ロージィちゃんカレオツー。

 時間外労働ごめんな」

 

 ロージィの挨拶にエセリアが応え、にこやかに手を振る。

 ロージィがすました顔でエセリアの横に座り、皆へもう一度頭を下げる。

 顔見知りのロージィへ”仮面の父”も会釈を返す。

 事件が終わった後も、”木星妖怪”との付き合いは続いている。

 交代で行う現代社会やガンプラ作りの講義で、ロージィは最も熱心な個体の一人だ。

 

「さて、お集まりのお歴々。

 カツラギだ、今回はこれでメンバー全員となる」

 

 がんダイバーのアバターが穏やかに声をかける。

 三つの人影の最後の一人が一番の重鎮だ。

 対面側の議長席へとGBN最高責任者のゲームマスター、カツラギが座る。

 

「この一年足らずに頻発した謎の不正アクセス者、一連の“異邦人”事件に我々は常に後手に回ってきた」

 

 カツラギの言葉に、“仮面の父”は難しい顔で頷く。

 けして運営の怠慢とは言うまい。

 意図の読めない相手に完璧な警護体制を作るにはこのGBNは広すぎる。

 

「だが、マリコくんの情報提供により、ようやくその首謀者に我々は近づく事が出来た」

 

 部屋の照明が落とされ、モニターにデータと文字が浮かぶ。

 安心で安全なGBNであるために、外部からの干渉者は必ず排除せねばならない。

 “仮面の父”は無言のまま、決意をこめてうなずいた。

 全てのガンプラを愛する人々のために、ロウジが帰ってきた時のため、“仮面の父”は微力ながら力を貸すことを決めた。

 

「それではこれより、“白鳥”対策会議を始める」

 

 カツラギの宣言と同時に、GBNの平和を守るための大人達の会議が始まる。

 たとえロウジがもういない遊び場であっても、大人として果たすべき責任はあるのだ。

 

 

 

「さて、ではまずこちらの映像をご覧ください」

 

 カツラギの指示にあわせ、トロンは映像をモニターへ流す。

 陶器を指で弾いた時のような澄んだ音と共に、会議場のモニターで白鳥が飛ぶ。

 サイコフレームの淡い輝きにアムロとシャアが包まれ、その間をさまよう一人の少女の姿が映し出される。

 これはGBN内の映像ログではない。ガンダム作品の原作映像をつなぎ合わせたものだ。

 映像が終わると同時に、カツラギがマリコへ声をかける。

 

「マリコくん、キミが“木星妖怪”事件の終わり、ロウジくんと共に首謀者の接触を受けた。

 その時見たイメージと言うのはこの白鳥のことかね?」

「……細部までは自信がありませんが、おおよそあっています。

 このT字のオブジェクトがいっしょに見えたからまず間違いありません」

 

 マリコの答えに、空気がざわめいた。

 

「今をときめくララァちゃんですね」

「もっとも恐るべきニュータイプの力を持つなら、容易でない相手だぞ」

「それこそ最悪イデオナイト……“木星巨神”さえ想定せんとアカンで」

 

 ロージィが呟き、“仮面の父”とエセリアが厳しい表情でうめく。

 

「いや、影忍の方のララァかもしれんぞ」

 

 サイバーコミックスに詳しいエニルが首を横に振り、クールな表情で呟いた。

 

「正体は推測するしかできないな。

 ともあれ、今後首謀者は“白鳥”と呼称するものとする!

 ……さて、会議を進めよう」

 

 カツラギが手を挙げて場を制し、ロージィに向き直る。

 

「ロージィ君、諸君ら“木星妖怪”も接触を受けたと思うが、どうだろうか?」

「我々の全体へアクセスします。お待ちください」

 

 ロージィの顔が無表情になり、視線が虚空を向く。

 高次の何かにアクセスしているかのようにロージィの身体が明滅し、抑揚のない声で喋り出す。

 それは”木星妖怪”の全体としての意識によるものだった。

 

「我々がこちらへ産まれた時、接触があった。

 “あなたの望みは?”と尋ねられ、我らは応えた。

 “我らは見極めねばならない”と。

 その後、我らの記憶は始まっている。

 残念ながら相手のイメージは把握出来ていない」

 

 相変わらず、理外のバケモノと対面しているような薄ら寒さだ。

 トロンはぶるりと身を震わせ、気を引き締める。

 我々は今もきっと見定められている。

 

「その後、我らは聞いた。

 この文言だけははっきり覚えている」

 

【Your wish has been granted】

 

「マリコくんも同じ言葉を聞いたのだな?」

「ええ、ジオン公用語……こちらで言う英語の言葉を聞きました」

 

 マリコの言葉にあわせ、カツラギがトロンを見た。

 ”あなたの望みは聞き届けられた”

 その無機質な音声の英語のフレーズを聞いたダイバーは何人もいる。

 トロンはカツラギに頷き返し、次のスライドをモニターに投影する。

 

「現在推測出来る“白鳥”の特徴は下記の通りだ」

 

 カツラギがモニターを指し示す。

 そこにはこう書かれていた。

 

 ・ELダイバーを誕生させることができる。

 ・その存在はログに残らず、直接接触しか出来ない。

 ・何者かの望みを叶えようとし、不可思議な現象を呼び起こす。

 

「まず一つ目。これは状況証拠からまず間違いない。

 “白鳥”自体もELダイバーである可能性さえある」

 

 マリコや、グラン・ジオングとタウ・リン……一連の“異邦人”達。

 ELダイバーが異常な速度で誕生し、GBNの片隅に小さな嵐を引き起こし続けた。

 マリコや”木星妖怪”への接触事例からも、”白鳥”がその背後で糸を引いていたのは明らかだ。

 

「次に二つ目、白鳥の映像は映像ログになく、呼びかけの声はメッセージログに残らなかった。

 だが、マリコくんへの呼びかけを同席していたロウジくんやガデムくんが聞いている。

 その場にいれば傍受することは可能なようだ」

 

 原理は不明だが、非常に厄介な特性だ。

 ログによる洗い出しは出来ず、パトロールと通報で対処するほかない。

 

「最後に三つ目、レアな機体の登場、グラン・ジオングの登場、マリコくんのご家族の作成……

 何者かの願いを叶えようとしている形跡が伺える」

「まるで聖杯や七つの竜の玉みたいやね」

「……神様気取り、いけすかんな」

 

 エセリアが茶化し、エニルが辛辣に呟く。

 トロンも苦笑し、小さく頷く。

 神様がどんなものかは知らないが、創作の神は悪者にされがちだ。

 

「だが、“白鳥”はどの望みもひどくねじ曲げられた形で叶っている。

 マリコくんの家族は本物ではなかったし、

 レア機体の愛好者達もこんな形で登場してほしくはなかったろう」

「そうね。全能の神様なんかではないのでしょう。

 もしくはとんでもなく底意地が悪いか」

 

 家族に会いたいというマリコの望みに応えて現れたのは、姿だけ似せた“木星妖怪”だった。

 願いを曲解する悪魔のような所業だ。

 

「さて、以上を踏まえたうえで、

 “白鳥”へ具体的な対処方針だが……」

「見敵必殺!

 ぶちのめして叩き出せばええんやろ?」

 

 威勢よくエセリアが宣言する。

 トロンはにっこり笑い、その答えを肯定する。

 

「もちろん選択肢の一つね。

 ただ、“白鳥”が発生の元凶ではなく、一連の異変の結果として“白鳥”が現れただけの場合、

 倒しても状況は好転しない可能性もある……

 より重要なのは、撃退より情報収集ね」

「最優先は、GBNへの“白鳥”の干渉を排除し、

 ダイバー達へ安心安全なGBNをし続けることだ」

 

 トロンの言葉をカツラギが補足する。

 もちろん不正アクセス者には断固たる対応は必要だ。

 ただ、今回は通常の不正アクセス者相手とは事情が異なる。

 比較的若いエセリアが難しい顔で呟いた。

 

「……ご意見ごもっとも。

 ちゅーても情報収集に交渉と説得とか、ウチはあんまし自信ないで。

 そもそも“白鳥”さん、コミュニケーションとれる相手なん?」

「そこで、“我々“の出番ですよ、エセリア」

 

 エセリアの呟きに、ロージィが自信ありげに宣言する。

 

「我々“木星妖怪”が“白鳥”と遭遇次第、精神分析と精神世界の構築を行い、精神世界への侵入を行います。

 情報収集の手がかりとしては十分かと」

「なるほど、アレかいな。えげつな……

 いや、味方なら頼もしいな」

 

 その力の被験者となったことのあるエセリアが、表情をくしゃっと緩める。

 自分の心を強制的に暴かれた実体験があるだけに、その威力が誰よりもわかるのだろう。

 

「今回の対“白鳥”においては無制限に使用を許可する。

 パトロール中は各サブマスターへ“木星妖怪”の端末を配置し、協調してほしい」

「はい。任せてください!」

「わたしも同様に協力します。

 精神分析なんかは出来ないけど、“木星妖怪”の皆へ呼びかけることくらいは出来るから」

 

 カツラギの言葉にロージィが頷き、マリコが笑顔でうなずいた。

 トロンは笑顔のマリコへ優しく呼びかけた。

 

「マリコちゃんの前へは直接出現する可能性も高いわ。

 くれぐれも単独で無茶せず、皆と連携してね」

「もちろん!

 バトル展開では正直足手まといでしょうしね」

 

 親目線のコメントに、マリコがあっけらかんと言い放つ。

 返事だけはいいんだから。トロンは苦笑する。

 まったく、まるでロウジみたい。

 

「さて、長時間会議ですまない。

 我々はようやく解決を足がかりを手に入れた。

 全てのダイバーに平和なGBNを残すため、諸君らの力を貸してほしい」

 

 会議の締めくくりに、カツラギが仰々しく宣言する。

 GBNはしょせん娯楽、ただの遊び場だ。

 けれどその遊びに心を救われる者がいる事をトロンは知っている。

 

「ロウジ達のいない間がチャンスだ。

 この機会に膿を出し切ろう」

「子供達を安心して託せる遊び場であってほしい。

 親としては当然そう思うものだ」

 

 “仮面の父”とエニルが親目線のコメントを呟く。

 

「ウチだって弟子達にいいところ見せたいもんな」

「いい映像とれたらチャンネル宣伝に使用を上申しましょう!」

 

 比較的若いエセリアとロージィが明るい顔で呟く。

 

「ええ、今度こそおねーちゃんらしい働きしなきゃね」

「宇宙世紀産まれの奮戦、期待してるわね」

 

 笑顔のマリコを、トロンは笑って設定に沿った言葉で激励する。

 場にいる誰もが、真剣な表情でカツラギを見ていた。

 

「ありがとう、諸君。

 力を合わせ、この困難を必ず乗り越えよう!

 

 カツラギの言葉に、トロンは表情を引き締める。

 各人へデータを発信し、具体的な手はずの確認へ移る。

 

「今後、皆さんには配布したスケジュール通りのパトロールと即応態勢をとっていただきます。

 保守点検要員との連携を密にとり、些細な異変も逃さず拾い上げてください」

「”白鳥”の出現と同時に、手先となるELダイバーが現れるはずだ。

 チーター通報回線に対応したオペレーターの報告があれば確認を頼む」

 

 グラン・ジオング、そして”木星妖怪”、どちらも強力で危険なELダイバーだった。

 遭遇事例を確認し、トロンは厳しい表情を作る。

 ”白鳥”の声を聴き、手先となる相手はおそるべき力をもって立ちふさがってくることだろう。

 

「勝負はこの一ヶ月!

 GBNの異変を解決するための正念場だ。

 常にデバイスを側に置き、即応体制をとってほしい」

 

 警戒と捜索、おそらくかなりの長丁場になる。

 トロンの姿で運営入りしてから数年だけれど、きっとこの“白鳥”事変、一番デカい山になる……

 カツラギの言葉に、トロンは決意を込めて静かにうなずく。

 

 運営とトロンは十分な警戒し、備えていた。

 だがその足元で静かに異変はもう始まっていたのだ。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・発狂モード

 

 主にCPUの高難度ミッションで見られるボスエネミーの強化形態の総称である。

 一定以上のダメージを与えた後などに使用されることが多い。

 目的はダメージの蓄積によってガンプラが損傷し、バトル後半が単調になるのを防ぐことが目的だ。

 CPUの反応速度が上昇し、ガンプラもトランザムやEXAM発動などで見た目が強化される。 

 ボスエネミーの最後のあがきともいえるが、行動パターンの変化による難易度上昇効果は大きい。

 特に高難度ミッションにおいてはまさに最後の障壁となることが多い。

 

 

 

 

 

 

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