リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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10/26(日)に次を投下します。

うっかりスタークジェガンのガンプラ入手したり、
新作ゲームがいっぱい出たり、野球のポストシーズン見たりと多忙のため、
次終わったら1週お休みいただく可能性が高いです。


ミッション6ー6 シークレットミッションに挑戦しよう!

 

 どうひいき目に見たって、バトルは僕らのボロ負け濃厚だった。

 

「セセリアのウソつき。

 なーんもわかんなかったじゃん!」

 

 とびっきり大音量のダメージアラートと同時に、正面モニターがブラックアウトする。

 グエルの挑戦を受けた次の日、大観衆の中でガンプラバトルが行われた。

 その結果は完膚なきまでの敗北だった。

 厳然たる事実を受け入れ、ロウジは愛機のコクピットで天を仰ぐ。

 

『ルブリス・GK、頭部喪失!

 勝者、グエル・ジェターク!』

 

 アリヤの宣告にロウジは大きく息を吐き出し、コクピット右脇に設置されたプラスチックカバーを拳で叩き割る。

 右手を突っ込み非常開放レバーを全身で引き抜き、正面ハッチを開放する。

 歪んだハッチが落着し、青い空と広いフィールドが目に映る。

 

「ロウジ、ケガはない!?」

「あっはは、無傷だよ。

 ……ごめん」

 

 バリアーエフェクトに守られた観客席からセセリアが飛び出し、悲痛な声をあげた。

 頭部を保護するヘッドギアに仕込まれたインカムを通じて、二人のやりとりが成立する。

 まだ豆粒ぐらいにしか見えないセセリアへ、ロウジはのんびりと手を振ってみせた。

 

「やっぱり僕の課題、メンタルだね」

「……頭の中グチャグチャだったのに、

 よくあそこまでやれたと思うよ」

 

 一方的だったバトルの展開を振り返り、ロウジは反省する。

 正直、実力の半分も出せなかったような気がする。

 わけもわからず敵意を向けられ、思考がモヤモヤぐるぐるしていた。

 一夜明けた今も正直心がグチャグチャなままグエルの苛烈な攻めはとてもしのぎきれるものじゃなかった。

 

「……むしろ、問題はボクのガンプラの力不足だよ。

 プレーンな素体のままじゃやっぱり上には届かない」

「う”っ……」

 

 インカム越しに聞こえたセセリアの冷静な言葉に、ロウジはうつむく。

 セセリアのルブリス・GKはロウジが望むままに動いてくれる。

 でも確かに、何かが足りない。たとえメンタルが万全だってグエルには届かなかったろう。

 

「敗因が二つ。相手が格上、そりゃまぁ負けるよね……」

「想像以上にこっぴどいやられっぷりだったけどね、はは」

 

 落ち込むロウジを慰めるように、セセリアが笑いを含んだ声でさっぱりと言い切る。

 愛機ルブリス・GKは散々な有様だった。

 両腕を肩から切断され、両膝も破壊されている。

 全身の装甲もそこかしこが衝撃で歪み、胴体には深い傷が縦に三筋もある。

 最後まで頭部狙いがなかったの、ひょっとしてわざと?

 

「……悔しいけど、完敗だ」

 

 どこかすっきりした気持ちで、ロウジは勝者の方へ目を向ける。

 グエルの愛機、真紅のダリルバルデは対照的に無傷だった。

 観客達へと悠然と武器を構え、大歓声に応えていた。

 時間をかけ、セセリアが機体の残骸の足元にたどり着く。

 大破した愛機のまだ熱を持った装甲上を伝い、ロウジはなんとかセセリアの元へたどり着く。

 よろけたロウジを抱きとめ、セセリアが優しく背中を叩いてくれた。

 小さな声でロウジは呟く。

 

「ね、セセリア。

 僕達はグエルに何かしたのかな?」

「わかんない。わかるまでは気にしなくていいよ」

 

 そうもいかないよ。優しいセセリアの声に、ロウジは苦笑する。

 ロウジ達はグエルに敵視されている。

 それだけは戦いの中ではっきりとわかった。

 実力差を見せつけるように武装を、腕を壊し、最後に頭部を破壊するグエルの戦いぶり。

 何よりも言葉や眼差しの端々から敵意がにじみ出る。

 こんなに敵視された相手とのバトルは、グラン・ジオングのタウ・リン相手の時以来だ。

 

「見事な戦いぶりだったな、ロウジ・チャンテ」

 

 ええ、何それイヤミ?

 外部マイクを通し、グエルが言葉を投げかけてきた。

 ダリルバルデがゆっくり歩み寄り、コクピットハッチを開く。

 顔を覗かせたグエルを、ロウジは笑顔で称える。

 

「グエルさんこそ、すばらしい腕前でした。

 完敗です!」

 

 当然だと言うように笑顔で返し、グエルがうなずく。

 今は対戦中ほどの敵意をグエルから感じない。

 安心するロウジに、グエルが言葉を投げ下ろしてくる。

 

「どうだ、ロウジ・チャンテ。

 選抜科へ転科しないか?」

「……ほぇぇ!?」

 

 すっごい間抜けな反応をしてしまった。

 いったいこの人、僕に何を望んでるんだろう?

 おどおどキョロキョロ、ロウジの視線はセセリアへ向く。

 セセリアがロウジへうなずき、アリヤと無線で確認を始めてくれた。

 なら、細かいことは任せよう。

 

「貴様の腕前は選抜科でこそ輝く。

 どうだ、選抜科で仲間達と競いあわんか?」

「えっと……セセリアもいっしょです?」

 

 堂々と言葉を投げ下ろすグエルに、ロウジはおずおずと問い返す。

 逆光で表情の見えないグエルが、牙を剥くように笑う。

 

「腰巾着が必要か?」

「……あー、そゆこと言います?」

 

 グエルの言葉に敵意がにじむ。

 ぞっと背筋を震わせながら、ロウジは唇をかんで背筋を伸ばす。

 この人、多分まだ“ロウジ・チャンテを見定めて”いるんだ。

 

「ガンプラバトル実行委員は続けていいのかな」

「ダメだよロウジ、委員は一般科オンリーだって」

 

 ロウジの呟きに、セセリアが補足してくれた。

 それでロウジの心は決まった。

 

「あいにくのお誘いですが、お断りします」

「ほぉ……何故だ?」

 

 怒気をにじませ、グエルが問い返す。

 断るときはきっぱりと丁寧に。

 ロウジは胸を張り、グエルに言葉を返す。

 

「あなたが示した道に、セセリアがいないらしいそうじゃないですか」

 

 僕の夢の先には、必ず隣にセセリアがいる。

 確かにセセリアと離れて勉学に専念するって決めた。

 でもそれは、胸を張ってセセリアといっしょに歩くため必要だと思ったからだ。

 

「あとは、アリヤに委員会活動へ誘ってもらって嬉しかったし……」

 

 後ろのセセリアの存在を感じながら、ロウジは言葉を続ける。

 何よりここは、こんな“危険”な“敵地”かもしれない場所だ。

 こんなわけわかんない場所でセセリアと離れて単独行動とかありえない!

 心の中できっぱり言い切り、ロウジは静かにグエルを見返す。

 

「何より、グエルさん。

 あなたとは味方より敵としてバトる方がきっと楽しいです!」

 

 口に出した理由はどれも紛れのない本音だ。

 グエルの強さは、本当に圧倒的だった。

 それこそ何度も挑んでは跳ね返された“最強グエル”と同じぐらいか、それ以上。

 認め、憧れるにふさわしい強さ、カッコよさだ。

 

「一般科のまま、何度だって挑戦させてもらいます。

 グエルさんや他の皆さん達とのガンプラバトル!」

「ランキング下位の挑戦を上位は受けねばならない。

 確か、そうだったよね?」

 

 グエルを見あげながらロウジが言葉の挑戦状を叩きつけ、セセリアが言葉を添える。

 逆光で表情の見えないグエルが、ぴくりと身を震わせた。

 震えが大きくなり、同時に口から何か声が漏れ始める。

 

「くくく、くはは……あーっはっはっは!

 そうか、導く手など不要だということか!」

 

 哄笑って言われるヤツだ。

 レベル不足で挑んできた愚かな勇者に大魔王が叩きつけるような笑い声!

 グエルが大きく身をよじり、そしてダリルバルデのコクピットから飛び降りる。

 

「はっははは!

 認めよう、ロウジ・チャンテ。

 そして、セセリア・ドート。

 確かに貴様は“特別”だ」

 

 グエルがゆっくり歩み寄り、ロウジへと手を差し出す。

 ぞっとロウジは無言でその手を見つめる。

 言葉と仕草だけなら和解でめでたしめでたしルートにしか見えない。

 けれど、グエルの笑顔と瞳が雄弁に語っていた。

 

「自由だな、本当に貴様は。

 “特別”に“私”をこの上なく苛立たたせる」

 

 お前が疎ましくてたまらない、と。

 その内心を表したように、グエルがロウジの耳元で呪うようにささやく。

 前に出ようとするセセリアを制し、ロウジは前に歩み出る。

 この敵意をセセリアに全て背負わせるわけにはいかない。

 

「お前を屈服させれば、この気持ちは昇華されるのか?

 教えろ、ロウジ・チャンテ」

「僕はバトル以外にあなたと交わせる言葉を知りません。

 だから、勝った後に考えます」

 

 しっかりと手を握り返し、呪いのようなグエルの言葉にロウジはまっすぐに言い返す。

 フラッシュの音と光が遠くで瞬いた。

 勝者と敗者の握手のシーン、多分校内新聞か何かに使うんだろう。

 

「何度だって跳ねのけてくれる。

 かかってくるがいい、ロウジ・チャンテ!」

 

 大上段から言い捨て、グエルが手を離す。

 握りしめられた掌がじんじんと痛い。

 セセリアが労わるようにそっと掌を重ねてくれた。

 アリヤを掌に乗せたまま、黄色く塗られたデミトレーナーが近づいてくるのが遠目に見える。

 

「ロウジ……やるんだね?」

 

 セセリアの問に、ロウジは力強くうなずく。

 セセリアは……腰巾着なんかじゃない。

 ふつふつと湧き上がる気持ちのまま、ロウジは呟く。

 

「……負けるもんか、ゼッタイ」

 

 悠然と歩み去るグエルの背中を眺め、ロウジは決然と呟く。

 ずっとそばで支えてくれた、誰より大切なキミなんだ。

 たとえ大魔王にだって、キミを否定なんかさせてやるもんか。

 

 

 

 

 おごってもらったお昼ご飯、とても美味しかった。

 だから自分はまだ大丈夫、まだ冷静なはず。

 ダイバーギアをかぶり直し、ハサウェイはそう自分に言い聞かせる。

 

「こちらハサウェイ、夕食休憩を終了。

 ミッションへ復帰します」

 

 デリバリーしてもらった夕食のお弁当、とても味気なかった。

 誰かと囲むと、あんなに味が違って感じるのか。

 ロウジ、セセリア。必ずまたいっしょにご飯食べよう。

 

「おかえり、ハサウェイくん。

 こちらマリコ、同じく復帰します」

 

 ハサウェイのアバターがロビーに生成される。

 すぐさまマリコさんから通信が飛んできた。

 遅れてマリコのアバターが近くのゲートに現れ、駆けよってくる。

 

「大丈夫、ハサウェイくん?

 もう少し休んでてもいいのよ」

「マリコさんこそ、休んでます?」

 

 遅めのお昼をおごられ、家へ送ってもらい、おやつの時間のころにログインした。

 その後夕食の時間まで、ハサウェイはぶっ通しでGBNの中を捜索していた。

 きっとマリコの言葉も善意からだ。けれどハサウェイは硬い表情で首を横に振る。

 

「母が出張でいない今のうちなんです。

 普段なら、ロウジのためだってこんなに時間は使えない」

「気持ちはわかるわ。けれど……」

 

 だが、それだけ時間を割いても成果は全くあがっていない。

 そもそもが雲をつかむような話なのだ。焦る気持ちばかりが募っていくばかりだ。

 マリコの台詞を聞き流し、システムウィンドウを開いて行く先を選ぶ。

 

「……とりあえず、アプローチを変えます。

 ロウジの知人達への聞き込みするつもりです」

「そうね。広いサーバーを充てもなく探すのはさすがに無理よ……」

 

 夕食の弁当を待ちながら、フレンド経由で連絡は取っておいた。

 視界が暗転し、ハサウェイの目にすぐに別の景色が映り始める。

 まるで小奇麗な私立高校のピカピカの教室だ。

 

「ようこそ、ハサウェイくん。そしてマリコ女史。

 第七士官学校所属、ラカン・ダカランだ」

「すいません、急に押しかけさせていただいて」

「おひさしぶり、ラカンさん」

 

 ネオ・ジオン所属の浅黒い肌の士官、ラカンのアバターがきっちりとした敬礼を示す。

 ハサウェイは向こうの流儀にそって背筋を伸ばして敬礼を送る。

 正直、直接の面識はない相手だ。

 知人の知人といううっすらしたつながりでしかない。

 直接面識あるマリコさんがいてくれたのは幸いだろう。

 

「クランプ先輩経由で訪問は聞いたからね。

 それに、こちらとしても君たちに聞きたいことがあってな」

「聞きたいこと……ですか?」

 

 おうむ返ししながら、ハサウェイは首をかしげる。

 やはり疲労があるのか、用件が全く思い浮かばない。

 

「まずこの映像を見てほしい。

 ガンプラのテストバトルをしていたメンバーが撮影したものだ」

 

 応接スペースに案内され、ラカンが壁のモニターを操作する。

 ソファに腰かけ、壁のモニターをハサウェイは目を向ける。

 望遠の荒い映像が映し出された瞬間、ハサウェイは思わずソファから立ち上がっていた。

 

「……デコトレーナー!?」

「そうだ。登録データと機種ナンバーも間違いなくロウジくんの愛機だ。

 ソロプレイモードのアイコンがついており、ダイバーへの交信は拒否されてしまった」

 

 装甲を全身ピンクに塗られ、ビームガンと盾を構えたデミトレーナーの改修機だった。

 しかも盾にはセセリアの画像がプリントされている。

 マフティーとして対戦した時にいやというほど見た初期型のデコトレーナーに違いない。

 

【ハサウェイくん、ソロプレイモードって何?】

【GBN内で検索と通信を拒否して一人で遊ぶためのログインモードなんです。

 一匹狼の人や、どうしても一人で集中したい時に使われます。

 でも……運営さんの検索から隠匿されるわけはないはず……】

 

 戸惑うハサウェイに、マリコから個別通信が飛んで来た。

 確かにソロプレイモードなら通常の検索では引っかからない。

 

【トロンに一方入れておくわね】

【お願いします。明らかに変です、これ】

 

 けれど、トロンがGBN内の調査を行っていないなんてことがあり得ないはずだ。

 このロウジが本物だろうとニセモノだろうと、これはきっと大きな手掛かりだ。

 ハサウェイの中で疑念が革新に変わっていく。

 

「次の映像だ。この一例だけなら良かったんだが、

 アッガイマフィアの方でも目撃例があったそうでな」

「これは……ロウジ!?」

 

 先ほどとは明らかに別のエリア、静かな湖畔地帯の映像だった。

 湖畔にたたずむデコトレーナーの足元で、ぼさぼさ頭の小柄な少年が望遠で撮影されていた。

 モニターに映るぼやけたスクリーンショットと手元のフレンドリストを確認する。

 アバターとダイバーID、確かにハサウェイの良く知るロウジのものだった。

 

「アバターだけならば偶然の一致だが、ダイバーIDまで一致している。

 先日”卒業”したロウジくんで相違ないだろう。

 ……その反応を見る限り、キミ達も聞いていなかったんだな?」

「ええ、ありがとうございます。

 まさか、こんなことって……」

 

 ラカンの問いに、ハサウェイは慎重に言葉を返す。

 本当に貴重な情報だ。だが、ラカン達へ全ての事情を話す権限はハサウェイにはない。

 

「我々はロウジくんのご家庭の事情にまで首を突っ込みたいわけではない。

 センシティブな事情を抱えた人間なんていくらでもいる。

 だが、アッガイマフィアや我々第七機甲師団の一部でこの件が噂になっているのだ。

 そっとしておくべきか気にかけるべきか、意見が別れているのだ……」

 

 奥歯に物が挟まったようなラカンの態度に、ハサウェイは驚き、そして納得した。

 そうだ、この人達だってロウジを心配する権利はあるはずだ。

 

「ありがとう、ラカンさん。

 ロウジくんを気遣ってくれてるのね」

「ロウジくんが繊細なのは我々だって知っているからね」

 

 ハサウェイと交代するようにマリコが歩み出て、ラカンへ対応する。

 ありがたくマリコさんに対応を任せることとする。

 ハサウェイだって結構人見知りで、何より腹芸がすごい得意とは言いにくい。

 

「ええ、ただ……ロウジを責めないでやってほしいんです。

 本当に色々あってのことですから……」

「なるほど、ご家族の方には心当たりがあるのだな」

 

 ううん、マリコさんってば演技派。

 神妙な表情でマリコがラカンへ訴えかけた。

 ラカンがにやりと笑い、きっぱりと言い切る。

 

「はい。今後、ロウジくんを見つけたらわたしやハサウェイに報告してもらえます?

 お姉さん役として、きっちり叱ってあげないと」

「わかった。親の目を盗んでのログインだろうと、アカウントのっとりなどの事態だろうと、

 放置しておいていいことではないからね」

「よろしくお願いします、ラカンさん」

 

 穏やかに言い切るラカンに深々と頭を下げ、ハサウェイは静かに息を吐いた。

 吐息といっしょに肩の力が抜けていった。

 ごめんなさい、フレンドの人達、そしてありがとう。

 皆さんの力を貸してもらいます。

 

「了解した。共通チャットチャンネル”ロウジ捜索隊”を立ち上げよう。

 ロンメル大佐やクランプ先輩、エニル女史やプルツーへも情報は共有しておく。

 マリコ女史とハサウェイくんはログイン時はチャットに常駐しておいてほしい。

 不在時は端末に連絡がいくよう設定しておく」

 

 手早くラカンがGBN内のチャットチャンネルを立ち上げ、招待コマンドを送って来る。

 チャンネルの参加者欄には、ずらりとロウジの知人たちの名前が並んでいた。

 

「ところで君達が訪問した用件は……」

「すいません、ラカンさん。

 オレ達の用件、この件とニアミスしてるんです」

 

 言葉を濁しながら、ハサウェイはラカンへ素直に頭を下げる。

 ここでロウジに関する聞き込みする必要はもうない。

 もっと能動的でありがたい協力を今まさに取り付けてもらったところだ。

 

「助かったわ、ラカンさん。

 ロウジを探すの、雲をつかむような話だったから」

「捜索までは我々も協力させてもらうよ。

 その後のことは健闘を祈る、ハサウェイくん、マリコ女史」

 

 何もわからないまま、全てをわかったようにラカンが敬礼する。

 穏やかな瞳に見送られ、ハサウェイはマリコと共にロビーへと戻った。

 狭い路地裏のベンチに腰かけ、チャットチャンネルのログを流し見していく。

 挨拶チャットにまぎれ、多くのダイバー達からエリア捜索の報告が出ている。

 ふふ、まるでロウジがランダムポップのレアエネミー扱いだ。

 

「ハサウェイくん、次はどうするの?」

「次は……ちょっと、休憩します」

 

 気負いが消えた表情でマリコさんへ向き直り、ハサウェイはシステムのログアウトコマンドを指し示す。

 自分一人でできることなんて、たかが知れている。

 だからダイバーはフォースを組む、フレンドを増やす。

 今の最善は、いざという時に備えて元気を温存しておくことだ。

 そう思った次の瞬間、路地の空から小柄な人影がひらりと身軽な動きで飛び降りてきた。

 ネオ・ジオンのぴっちりしたパイロットスーツが、まるでニンジャみたいだ。

 

「そうだな、ハサウェイ・ノア。

 いったん選手交代といこう!」

「プルツー……さん!?」

 

 かっこよくポーズを決めて挑発的に言い放つプルツーに、ハサウェイは驚きに目を見開く。

 少し遅れて、路地の出口に転送音が響く。

 士官服姿の金髪の青年のアバターがゆっくりと姿を形作る。

 

「水臭いぞ、マリコ女史。

 我々にも真っ先に声をかけてほしかったな」

「グレミーくん!

 いったい誰から話を聞いたの?」

 

 グレミーがマリコとハサウェイ目掛け、穏やかに笑いかける。

 笑顔のまま慎重にマリコが問いかける。

 その瞬間、背後から声が降ってきた。

 

「無論、関係者からさ。ハサウェイくん」

「エニルさん!」

 

 路地裏の壁に張り付くように、露出度の高い派手な格好の女性アバターがそこにいた。

 ニンジャのような動きで華麗に着地し、エニルがにやりと笑いかけてくる。

 

「トロンの旦那から【詳しい事情】と協力要請を受け、事情を二人に共有した。

 “GM-ARMS”一同、”デミダイバーズ”へ協力させてもらう。

 スケジュールを調整し、交代で対応しよう」

「……心強いです!」

 

 エニルの宣言に、ハサウェイはふっと力の抜けた笑みを浮かべた。

 ロウジの紡いだ縁が、こんなにも人々をつなげてくれている。

 ハサウェイは静かに拳を握り締め、どこにいるかもわからぬ友へと呼びかける。

 待っていて、ロウジ、セセリア。

 たとえどこにいようたって、必ず迎えに行くから。

 

 

 

『なんとかご家族は落ち着いてくれたよ。

 支援を続けながら早急な決着を目指そう』

 

 リアルワールドからのカツラギの連絡に、トロンは小さく安堵の吐息を漏らした。

 ここはGBNの運営専用サーバー、マスタールームだ。

 サブマスター用の複数置かれているが、今の室内にはまだトロンだけだ。

 

「……うん、お疲れ様、本当にありがとう。

 彼女には後でわたしからも連絡するね」

 

 カツラギがあってきたのは、セセリアのご両親だ。

 原因不明の昏睡状態について詳しく説明し、原因解明中だと誠意をもった対応をしてくれたのだろう。

 家族ぐるみで付き合いのあるご両親がトロンのもとへ連絡した時、それはもう取り乱していたものだ。

 どれほど困難なミッションだったか、想像するにあまりある。

 

『それで、偽装ミッションへのダイバー達の反応はどうだ?』

 

 つい先ほど発動した【臨時ミッション:家出息子を捜索せよ】についてのことだ。

 カツラギの言葉に、トロンは手元の操作で情報を呼び出す。

 

「ポイントの大盤振る舞いと、イベントが少ない凪ぎの時期なのがラッキーだったわね。

 好調な滑り出しを見せ、カミーユやカトルは既に複数の発見報告が出てるわ。

 ログを見る限り、一番好ポイントのターゲット……ロウジの捜索も盛んみたい。

 このままロウジが未発見なら、偽装アバターを潜ませて見つけてもらいましょう」

 

『判断は任せる。ダイバーの皆が飽きないように取り計らってくれ』

 

 情報を伏せたまま、”ポイントで釣ってロウジの目撃情報を得よう”というのが目的だ。

 対応するために人員やAIを動員した。あとは結果につながるといいのだが。

 情報をまとめてカツラギ宛に転送し、トロンはリアルワールドへ問いかける。

 

「了解。エニルがハサウェイくんたちと合流しました。

 GBN内部で情報が得られ次第、エニル指揮の元、ハサウェイくん達とプルツーさん達に動いてもらいます」

 

『よろしく頼む。私はこの後、上への報告だ……

 あとは、エルドラ事変の当事者達に連絡をしている。

 もし連絡があれば、最優先で情報収集と協力要請をしてくれ」

 

 声だけでカツラギの渋面がわかる。

 役員会だけでなく、場合によってはスポンサーへの説明もあるのかもしれない。

 本当に頭が下がる。通話を切るカツラギに、トロンは笑顔で言葉を投げかける。

 

「こちらは任せて。

 みんなで協力してせいいっぱいやるわ」

 

 通話が切れるのを確認し、トロンは椅子にアバターの身体を預け、深々と息を吐きだした。

 ずっと身体と心のどこかに疲労が形となって詰まっているような気がする。

 現実的な対策はうち、必死に捜索は続けている。

 だが、”白鳥”も”ロウジの行方の捜索”も、具体的な成果はまだあがっていない。

 

「……ダメね。

 余計なことばかり考えちゃって」

 

 呟きと同時に部屋へのログイン反応があった。

 口元を抑え、表情を平静に整えるトロンの前で一人分のアバターが生成される。

 褐色肌の勝ち気なギャル風秘書のアバター、サブマスターのエセリアだ。

 

「トロンちゃん、遅れてごめんなぁ。

 いやーまいったまいった!」

「お疲れ様、ずいぶん大変な野暮用だったみたいね?」

 

 へらっと軽薄な笑顔でぼやくエセリアをトロンは穏やかに労う。

 エセリアもすぐに表情を切り替え、事務的に報告を開始する。

 

「サブマスター・トロン並びにゲームマスターカツラギへの報告があります」

「お待ちください……共有オーケーです、どうぞ」

 

 トロンの役目はサブマスターのとりまとめとゲームマスターの補佐だ。

 カツラギへの共有転送を行い、エセリアの話を聞いていく。

 

「……っつーのが業務引き継ぎの際の反応ですねん。

 ボブのヤツ、正直かなり心配やで」

「“自分はAIか人かどちらですか?”

 これをボブが……?」

 

 聴き終えた瞬間、心がどんより曇るのがわかる。

 メンタルヘルスの案件はいつも慎重な対応が必要だ。

 カツラギと専門家同伴での聞き取りをすることになるだろう。

 

「ありがとうエセリアさん。

 “白鳥”事変の目処がつき次第、喫緊の課題として対応するわ」

 

 貴重な情報提供に感謝しながらも、トロンはいったん棚上げを決め込む。

 ボブ当人が面談を希望したわけではない以上、未成年の一般ダイバーが二人昏睡した事例を優先しなければならない。

 

「うーい、ほなウチもロウジくんの捜索に……

 あ、いや。ちょいもう一件!」

 

 歩き出しかけたエセリアが慌てた様子で振り返り、何気ない風に聞いてくる。

 

「GBNのオフラインミッション、ベータテスト始まったやん?

 ウチの門下生がそのテスター内定がしてたのに、つい先日ドタキャンされたらしいねん。

 何か理由聞いてへんやろか?」

「……どういうこと?」

 

 まさしく寝耳に水だった。

 トロンは戸惑いながら手元の機器でデータを探る。

 ベータテストのテストプレイヤーの応募と選考、書類をみた覚えがある。

 現役のGBNのダイバーから三人、GBN未経験が一人、厳正な選考で四人のテスターが選ばれたはずだ。

 テスターのデータを呼び出し、トロンは絶句した。

 

「……ちょっと待って、何これ!

 メールが運営から送られ、テスターIDが四人ともキャンセルされてる」

「え、今ベータテスト真っ最中なんやろ?」

 

 戸惑うトロンの声に、エセリアが首を傾げる。

 オフライン用に割り当てられたGBNのサーバーマシンの一つは稼働中だ。

 ボブが主導するベータテストは実行中とのことだ。

 

「代替テスターの選考記録もない。

 ボブは今これ何をしてるの?」

「……ボブに通信入れるわ!」

 

 データを探るうち、トロンは非常識さにめまいがした。

 突然のテスター変更、しかも当人へ詳細な理由の説明なし。

 ブランドに傷が入るわよこれ!

 企業として不誠実な対応すぎる。

 

「……アカン、トロンちゃん。

 ボブが通信出ぇへん」

 

 通信音が響き、エセリアの端末がボブへと呼びかけを行った。

 だが、何度コールしても反応がない。

 まったくもう、この忙しい時に!

 

「直接行きましょう。

 エセリア、ついてきて」

 

 明らかに何かがおかしい。

 何かはわからないけどとてもおかしい!

 エセリアがうなずくのを確認し、トロンはアバターの手先を輝かせる。

 その手先がシステムの深部へと潜り込み、深く強い力を呼び出す。

 

『サブマスター・トロンによってゲームマスター権限を代行!

 オフライン・サーバー“ガンプラ学園”へ転送を実行。

 “トロンちゃん”並びに“エセリア・ドート”両名』

 

 呪文の詠唱と同時に、仮想キーボードを指先で叩く。

 背後にヘビメタガンダム達が呼び出され、ペナルティキックオールディーズ達が楽器を構える。

 流れ出すBGMの前奏にあわせて足でリズムを取り、トロンは高らかに曲名を叫ぶ。

 

『実行、“ユーガットテレポーテーション!”』

 

 瞬間、世界が白く明滅した。

 このGBNで誰より強いゲームマスター権限による強制執行。

 ボブの権限に横入りし、二人はオフラインサーバーの内部へ転送される。

 ……その、はずだった。

 

『ゲームマスター権限の介入、拒否されました。

 転送を終了します』

 

 無慈悲なシステム宣告と共に、アバターと意識の転送が止まる。

 目の前に視覚化された黒く強力なファイアウォールが見えていた。

 馬鹿な、ありえない。

 ファイアウォールへ光る手を伸ばし、トロンはオフラインサーバーへ再度のアクセスを試みる。

 黒い電撃のような何かが走り、トロンの手が拒絶される。

 

「……はぁ!?

 ウッソやろ、ゲームマスター権限が弾かれた?」

「……ええ、ありえないわ。

 けどこの事例、わたし達はよく知ってる」

 

 エセリアが狼狽の叫びをあげる。

 同じように狼狽しながらトロンはほんの少しだけ冷静だった。

 “木星妖怪”のコロニーで同じような事例を見た。

 この世界でもっとも強い権限を弾けるのは、この世界に属さぬ部外者だけ!

 

「ゲームマスター並びにサブマスターに非常事態宣言を共有!

 オフラインサーバーに“異邦人”の関与の危険性大!」

 

 “白鳥”の仕業だ。トロンは確信する。

 その核心を事実に変えるように、黒いファイアウォールから染み出すように複数の機影が現れる。

 ザクスピード、アモン・ドッグ、ガンプラどころかGBNですら実装されていないような機体ばかりだ。

 

「……答えあわせとは殊勝なことだ」

「っちぃ、トロンちゃん。

 ウチの後ろへ!」

 

 エセリアの叫びと同時に、エセリアが呼び出した巨大な機影が敵機からの激しい射撃を受け止める。

 

「撤退します!」

「了解、こらアカンわ!」

 

 演出省略、運営権限による転送を実行。

 撤退するための転送が正常に作動する。

 黒いファイアウォールを見つめ、エセリアが戸惑ったように呟いた。

 

「ボブ……お前、どないしたっちゅーねん……」

 

 わたし達はきっと、何かを間違えた。

 困惑しながらも、トロンは意気軒高だった。

 きっとロウジもこの中にとらわれている!

 雲をつかむような思いの中で、ようやくしっぽをつかんだのだ。

 もう逃さない。どんな手を使ってもこの壁をこじ開け、捕まえる。

 目の前に行って、直接その答えを聞かせてもらうのだ。

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ソロプレイモード

 

 フレンドと遊ばず、一人でミッションに専念したいときに使われるGBNのモード。

 ドラクエ10などでも同様の機能が実装されている。

 フレンド検索にも引っかからず、ログイン状態などもフレンドやフォース仲間達にも隠される。

 近距離の通信や会話などは疎外されないため、声をかけられてしまうことはある。

 目視での確認が疎外されたりはしないので、今回のように発見されることはあるようだ。

 ガンプラのテストプレイや、一人でミッション攻略に専念したい時に使用される。

 ストーカー対策に使用されることもあれば、学校のテスト期間中のこっそりログインなどにも悪用されたりするようだ。

 

 

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