リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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何とか間に合いました
次回は11/16(日)となります。

何とか勢いに乗って書き上げたいところ…




ミッション6-8 眼前のイレギュラーへ対処せよ。

 

 

「キミ達や運営には、こう呼ばれている」

 

 うやうやしい仕草でロウジの姿をした何者かがうそぶく。

 キャプテンZのサブシートで、マリコは息を吞んでその様を見つめていた。

 

「はじまりの“異邦人”……“白鳥”と」

 

 モニターに映るハサウェイの背が恐怖におののく。

 覚悟が足りないだなんてマリコにも言えようはずがない。

 全てを糸引く謎の黒幕が目の前にいきなり現れたのだ。

 

「ハサウェイくん、選手交代!」

 

 サブシートの固定ベルトを引っ剥がし、キャプテンΖのコクピットから飛び出す。

 膝付き駐機のガンプラから、高さを恐れず飛び降りる。

 その瞬間、肌のひりつくような圧迫感がマリコを襲った。

 羽の生えたロウジがハサウェイと対峙している。

 背後に浮かぶ全長3mほどのT字のオブジェクト……サイコフレームが向きを変えた。

 無機質なオブジェクトが、こっちを見ている。

 

「マリコ・スターマイン。

 約定に従い馳せ参じたぞ」

「ようやく会えたわね。

 “白鳥”!」

 

 離れた距離を一息で駆け抜け、ハサウェイをかばうように前へ立つ。

 重い空気を振り払うようにマリコは声を張り上げる。

 無言のままいれば、重圧に押し潰されてしまいそう。

 多分それは、背後のハサウェイも同じだったのだろう。

 

「もしお前が“白鳥”だと言うなら……証明してみせろ!

 お前が何者で、何故産まれたのか」

「いけない、ハサウェイくん!」

 

【Your wish has been granted】

 

 願いの代償がわからないまま、不用意にすぎる!

 けれどマリコの制止を意に介さず、機械的な音声が応える。

 淡い笑みを浮かべ、偽ロウジがゆっくりと両手を広げた。

 その全身から淡い緑の輝きが溢れ出し、静かに地面へと注がれていく。

 台座に刺さった聖剣を引き抜くがごとくうやうやしく、偽ロウジが棒状のそれを引き抜き示す。

 

「ブラスターロッド!?」

「……魔法のふとんたたき!?」

 

 二人の驚きが声となって唱和する。

 それはマリコに、そしてハサウェイにとっても何より身近なアイテムだった。

 偽ロウジがふとんたたきを魔法の杖のように悠然と構える。

 なんの変哲もない家事道具が、緑色の奇跡の力を備えてそこにあった。

 

 

 

 ようやく、時が来たのだ。

 

「すべてはここからはじまった。

 人が願いを込めて作ったT字のオブジェクト。

 奇跡を呼ぶ魔法の杖の中に埋め込まれたサイコフレーム。

 そして願いが込められたのだ」

 

 ロウジの姿をしたアバターで、”白鳥”は平静に語る。

 引き抜いたブラスターロッドをうやうやしく胸の前で押し抱く。

 りぃん、と。ロウジのアバターの心臓の位置から澄んだ音が響く。

 拳大ほどのT字のシルエットが、淡い緑の燐光で浮かび上がる。

 驚きを露わに、マリコが言葉を発した。

 

「サイコフレームそのものが電子生命体として自意識をもったって言うの!?」

「然り。汝と同じだ。マリコ・スターマイン。

 現出した姿がほんの少し違うだけである」

 

 産まれは本当に偶発的な奇跡に過ぎなかった。

 “仮面の父”は作り上げた杖に願った。

 “自分と我が子の関係を修復する架け橋になってほしい”と。

 そしてロウジは願った。

 “ハサウェイと友達になりたい”と。

 願いが強い意志の欠片となって宿る。それが始まりだった。

 

「……お前は、あの時のブラスターロッドだってのか!?」

「然り。

 もっとも近き場所で見ていたぞ、マフティー・ナビーユ・エリンよ。

 そしてロウジ・チャンテが勝利をもって望みを叶えたことは語るまでもあるまい」

 

 ハサウェイの言葉を“白鳥”は悠然と肯定する。

 ロウジとマフティーだったハサウェイ、あまりにまばゆい意志のぶつかりあいが“白鳥”の意志を育んだ。

 願いを叶えることを祈られて作られた存在は、あの激しいガンプラバトルによって産まれたのだ。

 

「じゃああの後、ロウジの手元からブラスターロッドが消え失せたのは……?」

「願いを叶えたことによって、我は我となった。

 故にそれが我の個としてのはじまりであった」

 

 願いを叶えたのは“白鳥”がもたらした奇跡の力によってではない。

 人のまばゆい意志の輝きがつかみとったのだ。

 けれど、願いを叶えるのは心地よかった。

 その喜びが“白鳥”の自我の核となった。

 

「……願いをかなえることがあなたのありようなのね。

 なら、あんなに意地悪な叶え方ばかりだったのは何故?」

「我に与えられた権能が万能に程遠かったがゆえに。

 我の引き起こせし事象の変化は全力であったが、汝らの満足には程遠かったのであろう」

 

 マリコが語調をやわらげ、問うてきた。

 力及ばぬ無念を胸に、”白鳥”は平たんな口調で回答する。

 しょせんこの身は神ならぬものでしかない。

 権能は有限であり、そして叶えれば奇跡の代償として我が身はすり減り力を失っていく。

 人が無意識に感じる故だろうか、”白鳥”は自身の存在を代償に願いはかなえることしかできない。

 

「いいから返せよ、ロウジを」

「再度返答する。

 その願いは先の願いを否定するがゆえに不可能だ。

 ロウジ・チャンテをオフラインサーバーより連れ出すことはできない」

 

 ハサウェイが、厳しいまなざしと言葉を投げつけてくる。

 平たんな口調で、”白鳥”はその怒りを受け流す。

 

「ロウジとセセリアはオフラインサーバーで無事なんだな?」

「オフラインサーバーよりの許可なき脱出は許されない。

 だが生命活動に支障はなく、現在も自由に活動中だ」

 

 怒り、焦り、強き意志の光。

 それは好ましいものだ。

 質問の内容を変えたハサウェイに、”白鳥”は丁寧に対応する。

 

「……教えて、”白鳥”

 あなたは何故、ロウジとセセリアをオフラインサーバーにさらったの?

「我が”盟友”となりしものの願いがゆえに」

 

 ボブは、”白鳥”にとっての”盟友”であった。

 同じく電子の海で”道具”として生まれた者。

 己のありように悩み、もがき、意志の強き光を発していた。

 

「……”盟友”さんの許可がいるってこと?」

「お前はいったい、何のために!?」

「そう生まれてきたがゆえに」

 

 語気を荒げるハサウェイに、”白鳥”は胸元のサイコフレームに手を当てたまま平然と返す。

 己は人ではない。 はっきり自覚し、”白鳥”は自分をそう定義している。

 己のありように悩むボブとは違う。

 道具として生まれ、道具として生きてきた。

 願いをかなえることが生き方であり、喜びでもあった。

 

「生まれてきたから、こんなことを……!?」

「なぜあなたはロウジの姿を象ったの?」

 

 怒るハサウェイを押しとどめるように、マリコが別の質問を投げかけてきた。

 機械的な平坦さで、”白鳥”は言葉を返す。

 

「ロウジ・チャンテがそう願ったがゆえだ。

 こんな日々が続くように、と」

 

 こんな日々がずっと続けばいい。それがロウジの願いだった。

 ロウジがいなくなった後も日々が続くように、ロウジの姿で”白鳥”はGBNを歩くことにしたのだ。

 歪んだかなえ方だ。けれどそれが”白鳥”のできる限界でもあった。

 

「”白鳥”、前と同じ言葉をもう一度告げます。

 あなたのありようが、このGBNに混沌を招いているの」

 

 静かに唇を引き結び、マリコが穏やかに言葉を投げかける。

 憐憫ともまた違う、静かな感情を込めた微笑みがその顔に浮かぶ。

 相手を肯定しながらも、それでも対立するときはある。

 

「願いを取り下げ、GBNを平静に戻しなさい。

 管理者のもとで、誰にも迷惑をかけない願いのかなえ方はあるはずよ」

「否。それはできない相談だ。

 願われたのだ。時間を与えてほしいと」

 

 穏やかな微笑と共に手を差し出し、マリコが”白鳥”への譲歩と交渉の言葉を投げかける。

 敬意に近しい何かをもって、”白鳥”は穏やかにその手をはねのける。

 ボブは願ったのだ。望みをかなえるための時間が欲しい、と。

 

「案ずるな、マリコ・スターマイン。

 ”白鳥”はいずれ消える。そしてそれは遠い先ではない」

 

 自然と口の端に淡い笑みが浮かんだ。

 終わりの時は近い。それは誰よりわかっている。

 破滅への道程、歩みを止めるわけにはいかない。

 

「やめなさい、“白鳥”!

 自滅するつもり?

 己の願いに多くの人を巻き込んで!」

「その願いは聞き届けられないな。

 マリコ・スターマイン」

 

 必死のマリコの言葉にも、“白鳥”は動じない。

 誰よりも“白鳥”自身が、この先へ進むと願うゆえに。

 握りしめたブラスターロッドを小さく一振り。

 自身の胸に手を当て、奇跡の力を絞り出す。

 

「その残り僅かな時間、全力で時間稼ぎをさせていただく」

 

【My wish has been granted】

 

 サイコフレームに秘められた人の心の光が、淡い緑の奔流となって噴き上がる。

 淡い光に弾かれ吹き飛ばされるマリコやハサウェイを眺めながら、“白鳥”は悠然とデコトレーナーの元へと歩いていく。

 

「人の時間軸にして一年あまり。

 己が願いのままに生きてきた。

 余生としては十分な時間であろうよ」

 

 ふわりとロウジのアバターで宙に浮かび、デコトレーナーのコクピットへと収まる。

 あふれる光は収まらず、周囲をのみ込むように広がっていく。

 

「出でよ、世界に滅びをもたらす魔神とその尖兵達」

 

 データベースと人の思いに眠る記録をもとに、もっとも必要な軍勢を選び出す。

 光の中からHGガンプラサイズの巨人達が現れ、昭和レトロなコロニーの中に布陣する。

 モノアイでジオン系の丸っこいフォルムのマイナーな機体達だ。

 軍勢の中心で、高らかに“白鳥”は宣言する。

 

「さぁはじめようか、ガンプラバトルだ」

 

 それはこの世界の流儀にのっとった、正しい時間稼ぎだった。

 

 

 

 逆襲のシャアの最後のシーンを、ハサウェイは鮮明に覚えている。

 νガンダムから放たれる緑の光が、アクシズに取り付いたMSを弾き飛ばしていくのを見た。

 ロウジの姿の“白鳥”から緑の光があふれ、ハサウェイとマリコを後方へ連れ去って行く。

 やわらかく、あたたかな光だ。

 全てを忘れ、心を委ねてしまえばどんなに心地よいだろう。

 

「ハサウェイくん、ガンプラを!」

「来い、キャプテンΖ!」

 

 マリコの叱咤に、ハサウェイは我に返る。

 システムコマンドで愛機を呼び出せば、アバターはコクピットの中へと呼び寄せられる。

 緑の光の中、無我夢中で操縦桿を握りしめる。

 すぐ横で光に連れ去られそうなマリコへ、愛機の手を懸命に伸ばす。

 

「マリコさん!」

「ありがと、ハサウェイくん!」

 

 光の奔流の中、マリコが曲芸のような動きで身を翻してコクピットハッチから飛び込んで来る。

 その身体を受け止め、サブシートに流す。

 ハサウェイは大きく息を吐き、モニターとレーダーに意識を向ける。

 

「そうだ、“白鳥”は……!?」

 

 モニターをにらみ、ハサウェイはぎょっと目を見開く。

 無数の敵影、そして無数のレーダー反応が視界の端でちかちかする。

 自由に動けるようになるまでの時間、三分足らず。

 けれどそのわずかな時間で、Ζコロニーの景色は一変していた。

 

「なんだあの古くさいガンプラ達……!?」

「モノアイとフォルムはジオン系だと思うけれど……

 あんな機体、見たことないわ!」

 

【UNKNOWN】【UNKNOWN】【UNKNOWN】【MS-10 ペズン・ドワッジ】【MS-06 ザクⅡ重機改修型】

 

 ハサウェイ、そしてジオン公国民のマリコさんすら知らない機体がそこにいた。

 システムに存在しない機体を意味する【UNKNOWN】表示が画面中に乱舞する。

 謎のジオン系ガンプラ達の軍勢が、何かを守るように一個師団クラスの数で布陣する。

 

「デコトレーナー内部に”白鳥”のサイコフレーム反応を確認!」

「敵布陣中央、ブラスターフォームのデコトレーナーか!」

 

 クレーターのようにえぐられた地面を中心に、ブラスターロッドを手にしたデコトレーナーがいた。

 あんなふざけた機体を使えるのがロウジでなければ、”白鳥”以外ありえまい。

 

「わたしのおうちが丸々無くなってる……!?」

「何か内側から爆発した?

 いや、アレは……何かの発掘現場なのか?」

 

 マリコの悲鳴に、ハサウェイは地形の変化を理解する。

 クレーター状の陥没した地形は、マリコの実家があった小高い丘のあったはずの場所にある。

 二機のザクが地面を掘り、何かを掘り起こしている。

 モニターに目を凝らし、ハサウェイはぎょっと目を見開く。

 地面の下から、淡い緑の光が漏れていた。

 

「土中に、サイコフレーム機が埋まっている……?」

「ハサウェイくん、前ーっ!」

 

 マリコの声とロックオンアラートが意識をバトルへと引き戻した。

 スラスター全開、操縦桿を握り締め、激しく切り返す。

 キャプテンZがいた空間を、タンク型ガンプラからの激しい対空砲火が切り裂く。

 さらにコロニーの空へあがってきた近接型ガンプラが、手から何かを飛ばす。

 

「……こいつらっ!」

 

 重々しい鉄球をステップで避け、腕部グレネードを撃ち込む。

 地表をペズン・ドワッジがホバー移動でするすると迫り、キャプテンZ目掛けてバズーカを構える。

 まずい、包囲される!

 ウェイブライダーに変形しようとした瞬間、狙い定めた対空砲火が鼻先を通過する。

 動きを止められたところに近接型が鉄球を振りかざしてつかみかかってくる。

 打ち出された鉄球がシールドに直撃し、愛機が下方へと激しく吹き飛ばされる。

 

「ハサウェイくん、撤退よ!」

「無理です、距離が近すぎる!」

 

 降りたところはペズン・ドワッジの目の前だった。

 バズーカが足元で弾着し、棒状のヒートソードを構えてドワッジが切りかかってくる。

 ハイメガのロングビームサーベルで切り払い、後方へ飛び退る。

 飛び退ったところに上空から巨大な鉄球が飛んでくる。

 細かい横ステップでかろうじて回避、ヘビーマシンガンで迎撃する。

 

「……こんな、ところでっ!」

 

 焦りがハサウェイの口をついた。

 包囲されている、変形の隙もない。

 一撃必殺のハイメガを使えば、硬直の隙を取られる。

 目の前にラスボスが、撃墜されたら大破時間中に逃げられる。ロウジを、助けなきゃ。

 息が苦しい、視界が狭まる。ロックオンアラートがうるさい。

 

「ハサウェイ君、後ろっ!」

 

 飛び退ると同時に、機体を反転させる。

 モニター真正面に、最初とは別のペズン・ドワッジがいた。

 ヒートソードを構え、猛然と突っ込んで来る。ここはもう敵の間合い。

 

「しま……っ!」

「あきらめるな、ハサウェイくん!」

 

 叱咤の声と同時に激しい銃弾が頭上から降り注ぐ。

 ペズン・ドワッジが頭上から降り注ぐガトリングの猛火に激しくよろける。

 そこに横合いからジャイアント・バズがまともに着弾した。

 振り仰ぐ空から、舞い降りる青い機影があった。

 銃弾で鉄球持ちの動きを止め、飛び降りざまにヒートサーベルが敵の頭部を串刺しにする。

 敵の数が減った! 下がろうとする最初のペズン・ドワッジ目掛け、容赦なくハイメガランチャーを構える。

 

「クランプさんと、コズンさん!?」

「楽しそうなことをしているじゃないか、ハサウェイくん。

 我々も混ぜてもらおう!」

 

 クランプの楽しげな叫びと共に、グフ・カスタムが敬礼のポーズをとって着地する。

 キャプテンZの横をコズンのドム・トローペンが無言で駆け抜け、敵陣へバズーカを打ちまくる。

 

「スペースウルフ隊、敵前衛目掛けて制圧射撃。

 敵軍に連携をとらせるな!」

「アッガイマフィア、フォーメーションE!」

 

 激しいビームの雨とミサイルがクレーター周辺の敵機へ降り注ぐ。

 ファンネルを宙に浮かせた量産型キュベレイとガルスJが前衛へ飛び出し、謎の敵軍へ肉薄する。

 陣形が崩れ、孤立した敵機へアッガイが複数で群がり、膝カックンで転倒させた相手に群がっている。

 キャプテンZの前へ重武装のザクIが飛びこみ、通信ウィンドウが開く。

 

「ガンプラバトルなら……ワシらも混ぜてもらわんとな!」

「ガデムさん!」

 

 ガデムの言葉に、マリコが歓声を上げる。

 続々と駆け付けたガンプラ達が、各個で敵と交戦を開始した。

 

「”ロウジ捜索隊”有志、これより”白鳥”の私兵団と交戦を開始する。

 支援させてもらうぞ、ハサウェイくん!」

「ロンメル大佐!」

 

 通信ウィンドウで、軍服姿のオコジョが凛々しく宣言する。

 尊敬するロンメルの参戦に、ハサウェイは喜びの声を漏らす。

 きっとどこかで様子を見守っていてくれたのだろう。

 増援に来てくれたのは、チャットチャンネルで話していたGBNのダイバー達だ。

 

「これなら……!」

「撤退よ、ハサウェイ!」

 

 意気込み叫ぶハサウェイに、マリコの厳しい声が冷水を浴びせた。

 

「ハサウェイくん、ここにいるのはロウジじゃない。”白鳥”よ。

 ”白鳥”は倒して、ロウジが返ってくる保障はないわ」

「その通りだハサウェイ君、目的の優先順位をはき違えるな」

 

 マリコとロンメルの言葉に、ハサウェイは”白鳥”とのやり取りを思い出す。

 正直なところ、話の半分も理解できたとは思えない。

 ただ”白鳥”は、ロウジを開放することはできないとかたくなに言っていた。

 

「キミの目的はロウジ君の捜索なのだろう?」

「撤退してトロンと合流よ!

 オフラインサーバー内部へ侵入し、ロウジを助ける方法を探しましょう」

 

 ガンプラバトルで勝利して、はたして相手が前言を翻すか?

 ……恐らく答えは否だ。ロンメルとマリコの方が正しい。

 ”白鳥”は訳のわからない存在だが、何か自分の中のルールに沿って動いていることだけはわかる。

 

「そうだ、ロウジを助けるんだ。

 オフラインサーバーの中に……」

 

 その時、ハサウェイの中で悪魔がささやいた。

 ロウジの助けとなるために、試せることが一つ。

 

「……ごめん、マリコさん!

 それならなおさら!」

「……ハサウェイ!?」

 

 謝罪の言葉と同時に操縦桿を握り、ウェイブライダー形態のキャプテンZを上空から猛進させる。

 強引な突進だ。味方の支援も間に合わない。

 敵陣深く、猛烈な対空砲火がウェイブライダーを襲う。

 着弾、振動、コクピットが激しく揺れる。

 強引な変形で人型に戻った瞬間、対空砲火でウィングバインダーが弾け飛ぶ。

 ハイメガを投棄、誘爆するハイメガの爆炎にまぎれ、シールドを構えて強引に降下する。

 

「ハサウェイ、何するつもり……!?」

「”白鳥”、オレの願いを聞き届けろ!」

 

 脚部被弾、頭部被弾、ダメージアラートがコクピットで鳴り響く。

 まだだ、コクピットだけ無事ならそれでいい!

 モノクロになったモニターで、デコトレーナーをとらえ、外部マイクでハサウェイは叫ぶ。

 

「”オレをロウジの元へ連れていけ”!」

「……なるほど。先の願いと矛盾してはいない。

 お前達を送り込む事も時間稼ぎの一助となるかもしれん」

 

 りぃん、とサイコフレームが澄んだ音を響かせる。

 モノクロのモニターで埋め尽くされ、ハサウェイは自分が賭けに勝ったことを知った。

 安堵に息を吐くハサウェイの横で、マリコがサブシートから身を乗り出し、叫ぶ。

 

「”白鳥”!

 ”わたしとハサウェイくんをロウジの元へ”連れていきなさい!」

「いいだろう、その願いも認めよう。

 テスターは定員4人。

 その願いは我が権能で叶えることは可能だ」

 

【Your wish has been granted】

 

 機械音声が響き、モノクロのモニターから緑の光が溢れ、コクピットを埋め尽くしていく。

 緑の光に全身を包まれながら、ハサウェイは改めてマリコへ謝罪する。

 

「……すいません、マリコさん」

「……まったくもう、ハサウェイ。

 ひとり置いてきぼりはナシよ」

 

 マリコの手がハサウェイの頭をやさしく撫でる。

 きっとマリコさんだって同じ気持ちなのだろう。

 何が出来るかさえわからない。

 けれど一人じっと待つことなんてできない。

 

「ハサウェイくん、マリコくん、応答しろ!」

「すいません、大佐。

 いってきます!」

「ごめんね、皆。

 ここはお願い!」

 

 ノイズ交じりの通信の中、ロンメルとの交信が辛うじて成立した。

 その声を最後に、サイコフレームの輝きの中へと意識がホワイトアウトする。

 行こう、ロウジの元へ。

 大切な人のいるところへ。

 

 

 

「バカな、外部からの侵入者があっただと!?」

 

 誰もいないマスタールームで、ボブは珍しく声を荒げて叫んでいた。

 テスターとして用意された枠は四つ、使用中はロウジとセセリアだけのはずだった。

 だが空いた二枠がいつの間にか埋まり、プレイ中となっている。

 

「す、すいませんっす。グエル先輩!」

「すまない、フェルシーの責任じゃないさ。

 不審人物の捜索を続けてくれるか?」

 

 叱責だと思い込み縮こまるフェルシーをなだめ、ボブは指示を飛ばす。

 テスターIDは全て消去し、枠は空いたまま放置していたはずだ。

 ゲームマスターへ報告がない以上、正規のルートでログインしたはずがない。

 何より、名前とIDがUNKNOWN表示になるなど、通常ではありえない。

 

「……アリヤ、聞こえる?

 非正規なログインがあったみたいだ。

 ロウジの周辺に何か異変はないか?」

 

 サブマスタークラスのNPC二人にボブは矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 侵入者の目的はおそらくロウジ・チャンテだ。

 非正規のルートでこれほど速やかな侵入、運営によるカウンターハックではないだろう。

 おそらく防壁を作った”白鳥”自身がなにかを呼び寄せたのだ。

 ”白鳥”の裏切りか、それとも気まぐれか。

 

「”白鳥”応答せよ。いったいどういうことだ……?」

「グエル先輩、ロウジ・チャンテっす!」

 

 ”白鳥”の応答はなく、代わりにフェルシーからの報告が飛んでくる。

 不吉な予感を意識に宿しながら、ボブはグエル・ジェタークのアバターへ意識を移す。

 視界が移動し、小奇麗な小部屋と一面の大きな強化ガラスの窓が見えた。

 ガンプラ改造の工具の音と、巨大なガンプラが路面をゆっくり踏みしめる騒音がガラス越しに響いてくる。

 

「セセリアといっしょに選抜科の教室にやってきて……応対願います」

「……いいだろう。通せ。

 どうせ確かめなければならん」

 

 ここは選抜科専用のガンプラ改造ハンガーの一角、ハンガー全体を見渡せる高い位置に作られた小部屋だ。

 グエルの個室として使われているこの小部屋は、”玉座の間”などと呼ばれているらしい。

 非常階段のような簡素な階段を上がるリズミカルな音がだんだん近づいてくるのが判る。

 そしてドアから控えめなノックの音が響く。

 ボブは”選抜科のグエル”の口調で高圧的に返答した。

 

「入るがいい、ロウジ・チャンテ」

「おはようございます、グエルさん。

 今日も挑戦状を持ってきました!」

 

 今日も明るい声で、ロウジ・チャンテが言い放つ。

 三度の敗北を経て四度目の挑戦だが、その表情は明るいままだ。

 セセリアはロウジの影に無言で立ち、黙礼してみせる。

 

「観客達もそろそろ飽きてきたところだ。

 今回は善戦してみせるんだろうな?」

「はい、今日の僕は一味違います!

 ね、セセリア?」

「いえーす。今日はド本命!

 ロウジの専用にカスタムしたガンプラの真の姿をお見せしちゃいます」

 

 セセリアと交わす。会話の調子も、いつも通りだ。

 どうやら謎の侵入者が接触した様子はないようだ。

 そう警戒を緩めた瞬間だった。

 

「あ、そーだ、ボブさん。

 聞きたいことがあるんだけど?」

「俺はグエル・ジェタークだ。

 ……いったい何が言いたい?」

 

 変わらぬ調子のまま、明るい声でセセリアが深く切り込んできた。

 ボブは”グエル”のアバターのまま、動揺を押し隠とぼけてみせる。

 

「悪いけど、今のボクらは大体のことをしってるよ。

 ここがどこで、アナタが誰で、どう言う力でボクらをここに閉じ込めているか」

 

 けれど、無駄だった。

 一步前に歩み出たセセリアが、控え目だがきっぱりと確信をもった口調で言い切る。

 

「知らないのは、あなたが何故こんなことをしたかだけです」

「見事だ、ロウジくん、そしてセセリア

 ……名探偵はどちらだね?」

 

 どうやらごまかしきるのは無理らしい。ボブは覚悟を決めて二人へ向き直る。

 素直な感服を言葉に乗せ、ボブはグエルのアバターのまま問い返す。

 正体を推理する材料など、この世界にはなかったはずだ。

 

「残念だけど、どっちでもないんだよね」

「僕の大切なフレンド達のおかげです」

 

 ロウジの言葉にあわせ、セセリアがカバンからスマホを出して指し示す。

 ビデオ通話状態のスマホに、微笑を浮かべた女性が映っていた。

 

「こんばんは、ボブ先生。

 お邪魔させてもらっているわ」

「マリコ・スターマイン!

 侵入者は貴方か、ご同輩……」

 

 素顔のボブとして、驚きの呟きを返す。

 サイド3生まれを自称するELダイバーで、ロウジの家族となった女性。

 ロウジに入れ知恵したのがマリコであるなら、このやり取りはうなずける。

 

「ええ。”白鳥”さんとお話しして入れてもらったの。

 今回の件のあらまし、大体把握しているわ」

「そうか、“白鳥”と話した……か」

 

 マリコの言葉に、ボブは深々とため息をつく。

 恐るべき事実だった。”白鳥”がマリコに協力し、二人をここに招き入れたのだ。

 オフラインサーバーの封鎖が解かれていない以上、”白鳥”が完全に制圧されたとは思えない。

 だが、運営が攻勢をいよいよ強めているのは間違いあるまい。

 

「なるほど、いよいよこの砂上の楼閣が崩壊するのも間近だと言うことだな」

「いさぎよく観念することをおすすめするわ」

 

 いよいよ覚悟を決める必要があるということか。

 マリコの言葉に、ボブは大げさに肩をすくめてみせた。

 ボブがオフラインサーバーにロウジを縛りつけておけるのももうあとわずかだ。

 

「そうはいかんさ、ご同輩。

 まだロウジくんとの決着がついていない」

「すでに僕、三回ぼっこぼこにされてるんですけど……」

 

 敗北を受け入れ、いさぎよくロウジを解放するか?

 答えは否だった。まだ終わってはいないと、ボブの心が叫んでいる。

 

「お前にはまだ次がある、そうだろう?」

「はい、もう一度挑戦させてもらいます」

 

 ボブ自身を突き動かすのは、人間……ロウジへの嫉妬が理由だと思っていた。

 けれど今、ボブの心にあるのはもっと違う、切実な何かだった。

 

「少し、話をしよう。

 ロウジくん。そして仲間達」

「はい。バトルの前に、僕もあなたともう少しお話したいです」

 

 残されたわずかな時間で、その何かを見極めなければならない。

 己を狂わせたものを探すのだ。それが問い続けてきた答えになるはず。

 サーバーのマスター権限を行使し、ボブはテスター全員をマスタールームへの招待をかける。

 

「今、ここにいるテスター全員をマスタールームへ招待した。

 話の続きはそちらでしよう」

 

 もう一度、自分の心と向かい合おう。

 穏やかな微笑みをロウジへ向け、ボブは静かにうなずく。

 ”白鳥”からの返答はいまだにない。

 まるで処刑場の階段を上る死刑囚だ。

 思い描いていた敗北と破滅が現実的なものとなって見えてくる。

 けれどボブの心は不思議と穏やかだった。

 

 

 

 おっとり刀で駆けつけてみれば、目を疑うような光景がそこにはあった。

 

「キャプテンΖを中心に強大なエネルギー反応!

 サイコフレームのオーバーロードです!」

「あれは……限定的な“アクシズショック”だと言うの!?」

 

 オペレーターの悲痛な声に、トロンは耳を疑った。

 “白鳥”の奇跡、それほどのものか。

 指揮車として展開されたホバートラックの正面モニターを眺め、トロンは歯噛みする。

 緑のやわらかな光が大破寸前のキャプテンΖのコクピットを中心に放たれ、敵も味方も動きを止めていた。

 

「……誰か、動ける人はいないの!?」

「敵味方ともに全ガンプラが動作を停止しています!」

 

 ここは戦場と化したGBN内サイド3のΖコロニー、その後方に位置するロンメル作のホバートラック内部だ。

 トロンの問いに、ロンメルの横のオペレーターが大声を張り上げる。

 通信は雑音にまみれ、チャットサーバーも寸断されている状況だ。

 

「ハサウェイくん、マリコくん、応答しろ!」

『すいません、大佐。

 いってきます!』

『ごめんね、皆。

 ここはお願い!』

 

 ロンメルの交信にハサウェイとマリコが応え、同時に緑の光がひときわ大きく輝く。

 光に呑み込まれるように機影が溶け消え、サイコフレームがもたらす光の奔流がいったんは収まる。

 

「キャプテンΖ、完全に消失!」

「ハサウェイ、マリコ両名の状態は!?」

「ログアウト状態になっています!」

 

 オペレーターとロンメルのやりとりを聞きながら、トロンは必死に頭を働かせる。

 ボブがオフラインサーバーに立て籠もったと思えば、“白鳥”がロウジの姿でΖコロニーに出現する。

 “白鳥”の正体は意志をもったサイコフレームで、目的はボブのための時間稼ぎだという。

 交渉の果てにガンプラバトルが始まったと思えば、眼前でハサウェイとマリコの二人が行方不明となる。

 現場に急行したというのに、なんてザマだろう!

 

「……大佐!

 “白鳥”はいったい何をしたの!?」

 

 ログは読んでいたはずなのに、二転三転する状況の変化に理解が追いつかない。

 たまらず、トロンはロンメルに説明を求めるしかなかった。

 

「ハサウェイくんが“白鳥”へ特攻をかけ、至近距離で何かを願ったらしい。

 “ロウジの元へつれていけ”と。“白鳥”がそれを叶えた。

 おそらくハサウェイくん達も……」

「ハサウェイくん、なんて無茶を……!?」

 

 あまりの事態に、トロンは絶句した。

 ロウジを助けるために、ハサウェイは危険に飛び込んだのだ。

 その危険は大人が、誰よりも自分が背負わねばならなかったものだ。

 我が身の不甲斐なさに、トロンは固く拳を握り締める。

 

「敵軍、攻勢を再開!」

「大佐、臨時ミッション、”謎の敵勢力の撃滅”が発令されました。

 前線の指揮は貴官に任せます!

 全力をもって敵対勢力の排除してください」

「了解、我々戦争屋にどうぞお任せを」

 

 炸裂音が響き、オペレーターが警告の声を発する。

 トロンはきっぱりした声でロンメルへ戦闘指揮を丸投げする。

 後悔は後だ。今は出来る最善を積み重ねていくしかない。

 

「各員、連携して反抗を開始!

 ラカン隊は火力投射で敵陣をかき乱せ。

 クランプ、コズン両名が敵陣にくさびを打ち込む。

 孤立した敵機はアッガイマフィア諸兄にお任せする!」

 

 矢継ぎ早に指示を出すロンメルを横目に、トロンはサブマスター権限を行使する。

 トロンが行うべきなのはガンプラバトルの指揮ではなく、状況を整えることだ。

 

「当該サーバー並びにエリアZコロニーを隔離!

 一般ダイバー並びに敵勢力の出入りの一切を禁じます。

 外部へはサーバー不調による臨時メンテナンスと伝達してください!」

 

 運営オペレーター並びにAIに伝達し、トロンはサブマスター権限での特殊措置をとる。

 ”白鳥”は絶対にここで捕まえる。必勝の覚悟をもっての戦場の隔離だ。

 オフラインサーバーへの進入路をこじ開けるためにも、事件の全容解明のためにも、

 黒幕が姿を現した千載一遇の機会を逃すわけにはいかない。

 

「サブマスター各員に緊急招集!

 戦力がそろい次第、エニルの指揮でサーバーへ投入を。

 わたしはこのまま現地で情報収集に努めます!」

 

 運営メンバーへの連絡、根回し、カツラギへの連絡など、トロンは指示を四方に飛ばす。

 指示を飛ばし終え、トロンはロンメルへと強い言葉で語りかける。

 

「戦略的に我々はずっと後手を踏んでいます。

 ですが、事ここに至っては局地的な勝利をもって戦局の打開するほかありません。

 起きうる事態の全責任はわたしがとります。

 なんとしても”白鳥”の身柄を確保を!」

「了解、総指揮官殿。

 戦術的な勝利をもって、“白鳥”には交渉のテーブルについていただくと致しましょう!」

 

 トロンの言葉に、ロンメルが笑顔で敬礼を返す。

 子供の代わりに危険を負うことが出来ないのならば、

 子供の無茶が無茶でなくなるよう、早期に事態を収拾する。

 最善が無理でも、最良は探求できるはずだ。

 自分の不甲斐なさに歯噛みしながらも、トロンは戦況を見つめ続けた。

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・【UNKNOWN】表示

 

 GBNの通常ミッションにおいて、機体名は快適なバトルのために常に表記されている。

 NPC機はシステム内に登録されたデータから、ダイバーのガンプラは当人の名付けた機体名が表記される。

 通常ミッションにおいて・【UNKNOWN】表示されるのは大別して2パターンある。

 一つ目はシステム未登録の機体であり、データベースに情報が存在しない機体。

 二つ目はダイバーがシステムに通常とは違うアクセスをしている不正アクセス者の場合である。

 情報を制限することはミッションの難易度を上昇させる。一部偵察ミッションなどでは詳細不明の敵機が登場することもある。

 対策としてオペレーターが同種の機体にラベルをつけて即席のネーミングをすることもある。

 たとえば、シロイヤツ、デキソコナイ、アタマデッカチなどだ。

 

 

 

 

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