リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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難産でした。
一話分何とか書いたと思ったら16000字もあり、
分割して一話分として掲載することになりました。

次回はなんとか11/23(日)に間に合わせたいと思います。


ミッション6-9 ”伝説”と対峙しよう

 

『「え、ボブさん、“最強グエル”のミッションを運営していたんですか!?」

 

 ロウジはほぼ素の自分のまま、驚きの声をあげる。

 ボブがこんなに話しやすい相手だとは思ってもみなかった。

 ここはオフラインサーバーの仮設マスタールーム。

 椅子状のオブジェクトにセセリアと並んで座り、ロウジはボブと和やかに雑談していた。

 

「ああ、君達デミダイバーズの挑戦も記録にあるね。

 フォース全員で一度、ソロやコンビで三度だったか」

「なるほど“選抜科のグエル”が強いわけだね。

 攻撃パターン流用してるじゃ、ああはいかない」

 

 ボブの言葉に、セセリアが納得顔でうなずく。

 白衣を着て眼鏡をかけ、目元を穏やかに緩めたグエル・ジェターク、それがボブのアバターだった。

 同じ顔立ちなのに、受ける印象は“選抜科のグエル”とはずいぶん違う。

 まるで憑き物が落ちたみたい……って形容するんだっけ。

 身体は大きいけれど威圧感はあまりない、体育会系出身のお医者様と喋ってるみたいな感じだ。

 

「あはは、ロウジってば最後まで悔しがってたものね」

「そう思ってもらえるのは光栄だよ」

 

 セセリアとボブの和やかな会話を聞きながら、ロウジはマスタールーム内部を見回す。

 半円球状の天井部モニターにはわけのわかんない無数の数字や映像が流れてる。

 逆に床部は半透明で、ガンプラ学園や街中が一望できた。

 ボブさんはここで、神様みたいに世界を操ってたのだ。

 とても想像出来ないむつかしいお仕事に違いない。

 

「あれホント歯ごたえある難易度でしたよね。

 最後までクリア出来なくって悔しくって……」

「そう、それだ。俺にはそれが不思議でね。

 君達人間は、課されたミッションを越えずに先へ進むのは普通なのか?」

 

 突然話を振られ、ロウジは目を白黒させる。

 責められた気がして、びくりと身を震わせる。

 けれど違う。ボブの表情は穏やかなままだ。

 ただ真剣にロウジに問うていた。

 

「俺達AIには課されたミッションをこなすことが責務で、それが当然だ。

 人間にとって目の前のミッションを投げ出すのはよくあることなのか?」

「確かにくやしいし、気持ち悪くはありますけれど……」

 

 ロウジは言葉に詰まり、うつむいた。

 真摯な答えで返したいのに、口下手でうまく説明できない。

 

「ほらロウジ、いじわるな数学のテストでさ。

 全5問のうち2問目にめっちゃ難しい問題あったりするじゃん?

 挑むとあーでもないこーでもないって時間切れしちゃうようなヤツ」

「あー……あるよね。僕は割とそこで力尽きちゃう。

 高得点とるためなら、無視してほかからやるのが正解なんだよね。。

 優先順位の問題で……えーと、取捨選択の結果、なんです」

 

 そこにセセリアが助け舟を出してくれた。

 目の前のミッションを全て華麗にこなしせればどんなによかったろう。

 けれどロウジはけっこう不器用で、何よりそれほど時間がなかった。

 

「……少しばかり、傷ついたな。

 俺の渾身のミッションも、迂回して構わない程度のものでしかなかったか」

「ごめんなさい、僕には時間が必要だったんです。

 勉強してガンプラ部のある大学付きの高校にいきたいから。

 そうすれば自分を磨きながら、将来のために悩んだりガンプラバトルがんばってみたり出来るんです」

 

 きゅっと唇を引き結び、ロウジはボブにまっすぐに頭を下げた。

 パパやママ、そしてセセリアと悩んで相談した結果決めたことだ。

 選択に後悔はない。けれどそれが誰かを傷つけたなんて思ってもみなかった。

 

「君の選択を否定はしまい。

 人間は俺達AIと違い、リアルワールドを歩く自由と権利をもっている」

「つまり、あなたは人間に嫉妬してこんなことをしたんですか?」

 

 皮肉っぽいトゲトゲした声に、ロウジは慌てて周囲を見回した。

 転送音が響き、二つのアバターがマスタールーム内へ生成される。

 ハサウェイとマリコ。遅れてこの世界へやってきた二人がそろって姿を現す。

 

「ようこそご同輩、そしてハサウェイくん」

「こんにちは、ボブさん。

 お邪魔しています」

「こんにちは、ボブ先生。

 先日はお世話になりました」

 

 穏やかな挨拶を交わし、ハサウェイとマリコがボブと向き直る。

 ロウジはハラハラしながらセセリアの手をきゅっと握りしめる。

 

「そんな理由で、あなたはロウジとセセリアを閉じ込めたって言うんですか……?」

「ハサウェイくん、“そんな理由”じゃないわ。

 心の価値は他人が決めちゃいけない。

 ボブにとっては、“それだけ意味のある理由”だった。そういうことよ」

 

 語気荒く詰め寄るハサウェイを、マリコが優しくたしなめる。

 ボブはどちらの言葉も真正面から受け止め、穏やかな言葉を返す。

 

「そして俺は人間だけではなくあなたにも嫉妬しているよ、ご同輩。

 同じく何ももたずに生まれ落ちたあなたが多くのつながりを得て、自由を得た。

 俺にはどちらもないものだ」

 

 穏やかな笑顔で、なんと悲しいことを言うのだろう。

 マリコさんが悲しげに唇を引き結ぶ。

 ハサウェイも不満そうながら、いったんは言葉の矛を収めた。

 

「ほめられたやり方ではないと認めよう。

 そして認めよう、嫉妬に狂った我が身が矮小であることを」

「……でも、あなたとのバトル、とても楽しかったんです」

 

 ボブの穏やかな笑顔が、あまりに悲しかった。

 いつまでも続きそうなボブの自虐を、ロウジはたまらずさえぎっていた。

 

「あなたの”最強グエル”ミッション、すごく楽しかった。

 この世界だってそう。不安で怖かったけれど、バトルは楽しかった。

 そうだよね、セセリア。悪いことだけじゃなかったよね?」

「……そうだね。

 楽しい時間の延長戦をもらえたこと、そこだけは感謝してる。

 意外と悪くなかったよ、ガンプラ学園」

 

 素直な気持ちでロウジは叫ぶ。

 斜に構えた言い方だけど、セセリアも同調してくれた。

 

「……やり方だけは間違ってたよ。

 でも、ロウジとセセリアが無事だった。

 そこだけは本当に感謝する」

「そうね。本当に幸いだった」

 

 ハサウェイが複雑な表情でボブを見る。

 マリコがハサウェイの肩にそっと手をやり、穏やかに微笑む。

 四人の眼差しを受け止め、ボブが静かにうなずく。

 

「……そうか。

 ”楽しかった”か」

 

 何かをかみしめるように、ボブが呟く。

 穏やかな表情の裏に隠れた悲しみの気配が、少し薄れた気がした。

 

「ロウジくん、礼を言う。

 そしてセセリアくん、マリコくん、ハサウェイくん。

 ……ありがとう。

 この時間は確かに必要なものだった」

 

 椅子上のエフェクトから立ち上がり、ゆっくりとボブが頭を下げる。

 ふわっと心が温かくなった。

 ロウジはほっと安堵の笑顔を浮かべる。

 

「ゲームマスター・ボブとして宣言する。

 ロウジ・チャンテとグエル・ジェタークの”決闘”は執り行う。

 バトルの結果に関わらずロウジ・チャンテの“卒業”を認める。

 無論お仲間も同じだ、このオフラインサーバーは閉鎖し、俺は罪を清算しよう。

 それで構わないな?」

 

 もちろん! と答える前に仲間達に視線で問う。

 大好きなセセリア、やさしいマリコさん、大切なハサウェイ。

 笑顔で、微笑で、苦笑で、三人が背中を押してくれた。

 

「もちろん! バトルは望むところです。

 一回といわず、二回、三回でもいいですけど……」

「当たり前のように続いていく未来ばかりではない。

 キミたちの平和なリアルワールドだって、

 突然奪われ、無くなってしまうものだってあるだろう?」

 

 図々しいおねだりに、さすがのボブも苦笑顔だった。

 ハサウェイがじろっとこっちをにらんでる。

 ごまかすように目線をそらし、ロウジは背筋を伸ばしてボブに宣言する。

 

「ボブさん。あなたに……グエル・ジェタークへ改めて決闘を申し込みます!

 勝負で得られるものは、勝ちと負けって結果だけじゃないと思います。

 けど、勝てなければ意味のない時があるってのもわかってるつもりです」

「俺は当時のGBN運営最新技術の粋を集めて作り上げた最新AIだった。

 バトルの強さ、自分の性能こそが俺の誇りであり、最後のよりどころだ。

 だから勝利はけしてゆずらない」

 

 まっすぐ伸ばした手と手を重ね、ロウジはボブとがっしりと握手する。

 たのしいシンデレラタイムはもうすぐ時間切れ。

 魔法が切れる前に、王子様と最後の思い出を作らなきゃ。

 

「さて、話がまとまったところで……

 わたしから一つ提案があります」

「ふむ、聞こう」

 

 マリコとボブが話し合うのを聞きながら、ロウジは次のバトルへ思いを馳せる。

 もう後は言葉は要らない。

 ガンプラバトルを通して語り合うだけだ。

 

 

 

『頼むぞ、クランプ。最前線の要は貴官だ!』

 

「まったく、大佐はロートルに無理難題を!」

 

 至近距離のペズンドワッジをヒートサーベルで切り捨て、愛機グフカスタムのコクピットでクランプは叫ぶ。

 倒れた敵機の横をすり抜け、コズンのドムトローペンがヒートソードを構えて前に出る。

 ええいコズン、出すぎだ! 相棒のいつもの猛進に苦笑しながらクランプは背後を守りながら周辺警戒。

 次は空中! ドムトローペン目掛けて狙い定める敵機へガトリングシールドを一斉射。

 着弾し、落下する敵機にアッガイマフィアのアッガイ達が群がるのを確認し、クランプは周囲を見回す。

 

「老兵の意地を見せねばならんだろう。

 頼むぞクランプ」

「お前のアバターほど老けた覚えはないのだがな!」

 

 少し遅れて愛機ザクIで追いかけるガデムが、ガデムのからかい混じりの通信を入れてくる。

 確かにこの鉄火場、新兵達にはゆずれまい。

 語調を強めて言い返しながらも、クランプはシールドを構えて敵の散発的な反撃へ冷静に対処する。

 サイド3、Zコロニーの一角。“白鳥”の召喚した謎の敵軍達が布陣する戦場だ。

 かなりの数を撃破したというのに、敵影はまだまだ無数にある。

 

『現状、こちらが推している。

 今のうちに敵軍の分類と再定義を行う。

 敵支援機をリック・ギガン、鉄球をドガッシャと呼称!』

 

「了解です、大佐。

 まったく……あとからあとから!」

 

 総指揮を行うロンメルの指示で、【UNKNOWN】表示の敵機が判別しやすいようリネーム表示されていく。

 対空砲を備えた支援機がリック・ギガン、両手鉄球の近接機体がドガッシャらしい。

 恐らくペズン計画の系列だ。相当なレアモノを量産配備するとは、いったいどこの軍なのだ。

 どこか見覚えこそあるものの、ジオンフリークのクランプですら知らない機体だ。

 

『クランプ、30秒後に射線を開けろ!

 スペースウルフ隊が砲撃支援を行う』

 

「クランプ、了解!

 コズン、ガデム、こちらにあわせろ!」

 

 モニターにカウントが点滅する。

 カウントゼロに合わせ、つばぜり合いするドガッシャを蹴り飛ばして距離を取る。

 コズンとガデムのバズーカの斉射が敵の足を止めるのにあわせ、グフカスタムも射撃で牽制する。

 激しいアラートが上方から鳴り響く。

 まずは曲射軌道で、ミサイルの波状攻撃が頭上から敵陣目掛けて降って来る。

 激しい爆発へ追い打ちするように、角度をつけたメガランチャーによるビームの砲撃が敵陣を切り裂く。

 直撃したもの、てんでばらばらに回避するもの。圧倒的な火力にあおられ、敵軍の連携が乱れる。

 すかさずブーストを長押し、ガトリングシールドを斉射しながらグフカスタムが突撃する。

 孤立した敵機を弾幕が足止めし、ドム・トローペンが袈裟懸けにヒートソードを一閃する。

 

「……クランプ、ヤバいぞ。

 このガンプラ編成……木星ジオンじゃ!」

「木星ジオン!?

 火星のオールズモビルでもないのか……?」

 

 ガデムが聞き覚えのない単語を叫ぶ。

 どこか不吉な予感がクランプの心に忍び寄る。

 だが今はそれどころではない。連携を取り戻しつつある敵軍が、グフカスタムへ殺到する。

 ドガッシャのハンマーを回避したところへペズンドワッジのバズーカが追撃してくる。

 盾を構えながら、右手首の35mmガトリングでバズーカを迎撃する。

 ええい、さすがにこの突出は無謀か?

 

「クランプ先輩、こちらの前衛が前をこじ開けます!」

「ラカンか。頼む!」

 

 後輩からの頼もしい言葉に、クランプはレーダーへ意識を向ける。

 無数の光点が後方から迫り、愛機を超えて敵陣へ殺到する。

 頭上、上方モニターに飛んでいくファンネルの群れが映った。

 束ねたファンネルビームが敵陣を切り裂き、アクティブカノンの砲撃が敵ガンプラを吹き飛ばす。

 量産型キュベレイの砲撃支援だ。孤立したガンプラをアッガイたちが射撃でハチの巣にしている。

 

「敵中心部を射程圏内に捉えた!

 60秒後に曲射砲撃並びにミサイルがいくぞ。

 炸裂と同時に前衛はクレーターへ飛び込め!」

「ラージャ!

 コズン、ガデム、並びに前衛各機へ。

 砲撃着弾後にマブを組んで遊撃開始。

 敵指揮官機、”白鳥”のデコトレーナーを打ち取るぞ!」

 

 ロンメルの指揮にあわせ、クランプはサーベルを振りかざし前線の指揮を鼓舞する。

 戦局は優勢だ、だが、敵指揮官機を倒さない限りいずれは攻勢の限界が来る。

 長時間の戦闘はダイバーの集中力を奪っていく。クランプだって若いころのようなタフさはない。

 きっかり三十秒後、後衛から実弾砲の曲射砲撃が頭上からクレーターへ降り注ぎ、続いてミサイルの雨が落下する。

 まばらな迎撃をかいくぐり、爆発音とともに土砂が舞い散り、もうもうと土煙が吹き上がる。

 

「前線総員、抜剣突撃!」

 

 コズンのドムトローペンと肩を並べるように、クランプは土煙の中へと真っ先に飛び込む。

 よろめきながら出てきたドガッシャが、ドム・トローペンのタックルからの斬撃で胴薙ぎにされる。

 サーベルを構えたペズンドワッジにつばぜり合いを挑み、強引に押し込む。

 横合いからドム・トローペンのヒートソードが振るわれ、ペズンドワッジが頭から真っ二つに断ち割られる。

 そのままの勢いでコズンのドム・トローペンがホバーを吹かして猛進する。

 まもなくクレーター中心だ。ピンクの機影はどこだ?

 

「コズン、出すぎだ、速度を落とせ!」

 

 ほんのわずか、油断があったのだろう。

 ロックオンアラートが響いた時にはもう遅かった。

 煙を引き裂き、巨大な何かが動いた。

 気づいたときには、ドム・トローペンの姿が消え失せていた。

 土煙の中から、圧倒的な何かが姿を現す。

 

「こちらクランプ!

 クレーター内部に未確認の超巨大機を目視!」

 

 なんだ、あの拳は?

 なんなのだ、アレは!?

 コズンのドム・トローペンをさらっていったのは、超巨大な拳だった。

 ガトリングで弾幕を張りながら、クランプは悲鳴のように叫ぶ。

 メインカメラに映るのは、愛機の3倍近い大きさの馬鹿げた巨体だった。

 しかもそれは直立すらしていない。上半身を起こした腰から上の高さだけでクレーターからすでに頭が出るほどだ。

 

「ガデム、見えるか?

 アレはなんなのだ!」

 

 ガトリング砲身が焼け付くほど斉射してみても、一向に巨体は小揺るぎもしない。

 掴まれたコズンのドムトローペンが、まるで子供のおままごとの人形だ。

 オレンジに近い赤のカラー、連邦系に多いかくかくした手足とバイザー状のメインカメラが見えた。

 直立すればゆうにサイコガンダム2台分を超える恐るべき全長だ。

 いくら連邦だってあんな馬鹿げた代物を運用しているはずがない。

 

「間違いない!

 木星に潜むジオン残党が見つけ出してしまった謎の機体。

 それはかつて別の銀河を滅ぼした伝説の“巨神”だったのじゃ!」

「そうか、木星ジオン……

 ”逆襲のギガンティス”か!」

 

 古い漫画で、名前だけは聞いたことがあった。

 叫びで動揺を押し殺し、クランプはブーストボタンを全力で押し込む。

 たとえどんな相手だろうと、戦場で相対すれば同じ!

 グフカスタムがスラスターをふかし、宙へと舞い上がる。

 

「コズンを……離せ!」

 

 跳躍の勢いそのまま、巨大な拳へヒートサーベルの刃を叩きつける。

 刃が深々と指へ食い込むが、両断とはいかず、刃を抜くことも出来ない。

 いかん、敵の装甲が厚すぎる!

 ロックオンアラートに、反射的にスラスターを全力でふかす。

 さっきまでいたところを、巨大な平手が虫をつぶすように薙ぎ払っていく。

 

「ならば、もう一度……!」

 

 その瞬間、“巨神”の拳が緑の光を放った。

 まるで時を逆回転させたかのように傷が修復され、ヒートサーベルがはじき出される。

 

「バカな、傷が再生した!?」

 

 驚愕がクランプの反射を鈍らせた。

 次の瞬間、巨大な平手がもう一度グフカスタム目掛けて振り下ろされた。

 辛うじて左腕と盾を差し込むのだけが間に合う。

 まるで羽虫のように下へ吹き飛ばされ、激しい衝撃が走る。

 

「……不覚!」

 

 モニターでもうもうと巻き上がる土煙をにらみ、クランプは己のうかつさに歯噛みする。

 ダメージアラートが激しく鳴り響く。ぎしぎしと、機体の動きがきしんでいる。

 左腕がガトリングシールドごともぎ取られた。右腕もまったく反応しない。

 ズタボロの愛機をコロニーの大地からはい出された瞬間、土煙が晴れる。

 視界がクリアになったモニターで、握りしめたドムトローペンの頭部へ”巨神”がもう一方の手を添える。

 

「コズン!!!」

 

 無情にも、”巨神”の巨大な手がまるで雑巾でも絞るようにひねられた。

 耳障りな破砕音が響き、ドムトローペンの機体があっけなくねじ切れ大破する。

 怒りと無力感が吹き上がる。無謀な突貫をかけようとした瞬間、通信が響いた。

 

『総員、30秒後に前方へ火力投射!

 ターゲットは“巨神”!』

『クランプさん、聞こえますか!

 ガデムさんに続いて、可能なら退避を!』

 

「クランプ、こっちじゃ!

 ワシについてこい!」

「……了解、後退する!」

 

 そうだ、武器なし、両腕なしで突貫して何が出来ようものか。

 冷静さを取り戻し、クランプはよろめく機体でガデムに追随する。

 敵軍の動きが明らかにおかしい。下がるクランプ達への追撃がほぼない。

 リックギガンへガデムがバズーカをお見舞いし、後方への道が空く。

 

「”巨神”め。やってくれる!」

 

 “巨神”目掛けて砲撃を開始する味方を眺め、苦い声でクランプは自身の敗北をかみしめる。

 コズンの撃墜は戦死を意味しない。喪失の悲しみや怒りはない。

 だが、眼前で相棒をやられた不甲斐なさが消えるわけではなかった。

 まだ手はある。この借りはこの場で返す。

 唇を血が出るほどかみしめ、クランプは用意できる手札を確認した。

 

 

 

「メガランチャー並びにミサイル多数、巨神へ着弾!

 ……有効射、認められません!」

「敵軍掃討中に“巨神”の注意を引ければいい!

 スペースウルフ隊には牽制射撃をつづけさせろ!」

 

 通信飛び交うホバートラックの中で、トロンは無言で戦況を見つめ続ける。

 着弾の爆煙の中、オレンジ色の巨体が悠然と身じろぎする。

 突如出現した“巨神”は、あまりに規格外なボスユニットだった。

 

「ガデム機、クランプ機、前線より撤収完了!

 ガデム機はそのまま戦闘続行するようです!」

「こちらクランプ、ガンプラ損傷大!

 戦闘続行不可能のため撤収させていただきます」

「すまんな、よくやってくれた!」

 

 突如出現した“巨神”と交戦し、コズン機戦闘不能、クランプ機中破。

 戦力にして2機分を失う、ベテラン二人は手痛い損失だ。

 だが規格外の戦力からの想定外の奇襲と思えば、まだ軽い方だろう。

 

「こちらロンメル!

 “巨神”以外の敵軍はどうか?」

「敵軍、ほぼ壊滅!

 残存戦力の掃討中です」

「こちらガザの嵐隊!

 “巨神”へガザ・ストーム・フォーメーションをかけます!」

 

 幸いなことに、“巨神”以外の敵機の増援はどうやら打ち止めらしい。

 どの機体も明らかに動きも鈍く、各地でほぼ掃討されつつある。

 おそらく“白鳥”が“巨神”へかかりきりになっているのだろう。

 後退した地上部隊と入れ替わりに、可変機のガザDが飛行形態で“巨神”へと接近する。

 

「“巨神”、動きます!

 腕部表面にミサイルランチャーの展開を確認!」

「……こちらガザの嵐隊!

 フォーメーション失敗、煙幕散布の距離まで寄れません!

 距離を置いて牽制を行います!」

「スペースウルフ隊、“巨神”へ牽制射撃!

 ガザの嵐隊を支援しろ!

 その間に全機、全力射撃準備だ。

 60秒後に“巨神”へ全火力を投射する!」

 

 接近したガザD目掛け、巨神が内蔵するミサイルによる迎撃を開始した。

 数十発の誘導ミサイルが放たれ、ガザDは接近を諦め、チャフを撒いて回避行動へと移る。

 その隙間を縫うようにドーベンウルフ三機がメガランチャーの射撃を開始。

 その一発が腕部から発射寸前のミサイルへと着弾、誘爆する。

 激しい爆発に左腕外側が深々とえぐれ、まるで血のように緑の光が溢れ出す。

 通信で歓声が上がり、それがすぐさま困惑と悲鳴へと変わる。

 緑の光に包まれた左腕部の傷が、キレイさっぱり消え失せたのだ。

 

「なんと無法な!

 ガデムくん、“巨神”には再生能力があるのか!?」

「う、ううむ……

 いかな銀河を滅ぼすために再臨した”木星巨神”といえど、そんな機能はなかったはずですが!」

 

 ガデムの記憶はおそらく正しい。トロンは映像を注視する。

 確かに“巨神”は全身をサイコフレームと同等の材質で構成される超巨大機体だ。

 だが原作でデビルガンダムのような再生能力はなかったはず。

 

「各隊、射撃姿勢へ移行。

 一斉射撃まで後カウント30!」

「サイコフレームによる奇跡の行使だとでも言うのか!?」

「ダメージがキレイさっぱり消滅してる……

 これ、運営権限によるリペア機能の即時行使よ!」

 

 コマ送りのように映像を再生し、トロンは確信した。

 純粋な“巨神”の機体能力ではあるまい。

 おそらくは“白鳥”の力によってゲームマスター権限を模倣しているのだ。

 

「と言うことは消耗なしに無制限の再生はできないわ。

 “白鳥”はおそらくかなり無茶をしている……」

「ならば波状攻撃を繰り返せば突破できるのだな!」

 

『ご名答だ、ダイバー諸君。

 やはり尖兵ごときでは役者不足のようだ』

 

 味方陣営の通信に割り込むように、ロウジの声が響き渡る。

 いや、ロウジではない。その声を模した”白鳥”だ。

 そしてその瞬間、“巨神”を含めた全てのガンプラの動きが止まった。

 ただ一機、神々しい緑の光に包まれ舞い降りるデコトレーナーを除いて。

 

「こちらラカン、機体が反応しません!」

「こちらアッガイマフィア、同じく!」

「動ける機体はいるか!?」

「まさか……ムービーシーンを展開してるの!?」

 

 混乱の声が通信に溢れる中、モニターにデコトレーナーの姿が映し出される。

 機体が動かず、会話だけは出来る。

 これはミッション中に流すムービーシーンと同じだ。

 ”巨神”の前方、巨体の胸の高さでデコトレーナーが浮かぶ。

 その姿はまるで主の声を伝える天使であるかのようだ。

 

『銀河を滅ぼす魔神こそ、諸君らの相手にはふさわしかろう』

 

「こんな危険なものを呼び起こして、あなたはGBNを滅ぼすつもり!?

 “巨神”を止めなさい、“白鳥”!

 交渉のテーブルにならいくらでもついてあげるわ」

 

 傲然と見下ろすような“白鳥”の言葉に、トロンは語調を荒げて食ってかかる。

 デコトレーナーのバイザー状のカメラアイがこちらを向く。

 

『何も滅ぼすつもりなどない。

 ただ、ガンプラバトルがこの世界の流儀だろう?』

 

「バトルに持ち出すには、危険すぎるオモチャだってのよ……!」

 

 はるか遠方のホバートラックを視線で捉え、変わらぬ語調で“白鳥”が言葉を続ける。

 “巨神”への認識が違いすぎる!

 トロンは唇を噛みしめた。

 

『我が権能では”巨神”の力、完全に再現出来てはいまい。

 だがそれでも全力で相対するに値する強敵のはずだ。

 存分にガンプラバトルを楽しんでいただきたい』

 

 ガンプラバトルを楽しめと来たものだ。

 やはり“白鳥”は“巨神”をただ猛パワーを振るうだけの危険な機体としか認識していない。

 ならば確かに、原作のような無法で無軌道な危険さはないのかもしれない。

 

「それがあなたの望みだっていうの?」

 

『そうだ。サイコフレームは万能の願望機と願われた。

 ゆえに我は神のごときものであれと願われた、ただのできそこないの道具である』

 

 あまりにも淡々と“白鳥”は言葉を紡ぐ。

 ああ、きっと彼とはわかりあえない。トロンは悲しみと共に確信する。

 道具であると自称するそのメンタリティは人とはかけ離れているのだろう。

 

『ゆえに、できそこないなりに演じるのだ。

 神ならずとも、諸君らの遊び相手ぐらいは務まろう?』

 

 道具であれと願う相手ならば、上手に使ってやることこそが最大の敬意なのだろうか。

 同情めいた思いを押し殺し、トロンは通信で呟く。

 

「ムービーシーン終了までカウント30です、大佐」

「……了解、トロン女史!

 各機、ムービーシーン終了と同時に火力投射!

 “巨神”へ全火力を叩き込め!」

 

 “白鳥”の言葉選びの真意は理解出来ないままだ。

 ただ、ここで対峙するならばやることは変わらない。

 敵として扱い、撃破する。それだけだ。

 

『だが常に我がもたらしたのは紛い物の奇跡にすぎない。

 真に奇跡を呼び込むのは諸君らの強き意志だった』

 

 デコトレーナーが発する緑の光が強まり、デコトレーナーの人型がぐずりと泥のように形を失う。

 その中から現れたのは、ガンプラのコクピットサイズの巨大なT字のオブジェクト……サイコフレームだった。

 緑に輝くサイコフレームが、”巨神”の頭部へと吸い込まれていく。

 そして周辺に散らばる敵機から何か淡い光が立ち上り、“巨神”の全身へ吸い込まれていく。

 どこかおぞましく、だがどこか神々しい光景だった。

 ”巨神”のバイザー型のカメラアイに、意志の光のような輝きが宿る。

 

『見せてくれ、此度も。

 その美しい意志の輝きを』

 

 モニター中央に巨大な丸いゲージが浮かび、そこに複数のラインが走る。

 その恐るべき意味をトロンは知っていた。

 “白鳥”が展開したムービーシーン終了のカウントダウンがゼロを告げる。

 緑の光をまとい、恐るべき力の波動をまとって”巨神”が咆哮する。

 

「いけない、ゲージが灯った!

 “巨神”が覚醒する……!」

「総員、射撃用意!

 初手はビーム兵装、同時に曲射軌道でミサイルを発射。

 続いて実体弾兵装を叩き込む、出し惜しみはなしだ」

 

 ムービーシーン終了直後、全機が一斉に動き出す。

 

「目標、“巨神”!

 てぇーっ!!!」

 

 ロンメルが凛々しい声で宣言し、一斉に激しい砲撃が始まる。

 爆音と閃光に、ホバートラックのモニターがホワイトアウトした。

 光量補正されたモニターで、”巨神”の100m声の巨体目掛け、光の帯と実体弾兵装が飛んでいく。

 メガ粒子砲とミサイル、バズーカ、キャノン、グレネード、味方陣営のガンプラが持ちうる限りの火力だ。

 “巨神”の身体が緑の光に包まれ、バリアフィールドを形成する。

 そのバリアごと打ち据えるように砲撃が次々に着弾する。

 爆発の轟音が鼓膜を痛めつけ、着弾の衝撃で大気が激しく鳴動する。

 全弾命中したはずだ。外すような距離ではない。

 これで終わっていてくれれば……

 トロンの祈りを否定するように、爆風を緑の光が押しのける。

 

「”巨神”健在!

 装甲への損傷を再生を行なっている模様!」

「見たか、ロゴ・ダウの巨神め!」

 

 十数機のガンプラの一斉砲撃は“巨神”へ有効打となっていた。

 装甲を抉られた”巨神”が、全身から激しく緑の光を噴き出す。

 

「効いているぞ!

 三十秒後に再攻撃!」

 

 ロンメルが叫び、再攻撃に備えて通信が乱れ飛ぶ。

 巨体が震え、痛みをこらえるように”巨神”が身じろぎする。

 直立した姿勢からやや前屈みになり、曲げた両腕で頭部と胸部を覆っていく。

 あのポーズは!

 トロンの背筋を不吉な予感が突き抜ける。

 

「ダメです大佐!

 反撃が来ます!」

「いかぁん、アレは!」

 

 トロンが叫び、ガデムの悲鳴が響く。

 確かに”巨神”の姿勢は、殴打された人間が身を守るためのポーズに見える。

 だが原作を知るトロンの目は正しく事態を理解していた。

 ”巨神”の全身の装甲が展開する。

 そこに映っていたのは、四肢のいたるところに内蔵された無数のミサイルランチャーだった。

 

「……全機、防御陣形っ!」

 

 悲鳴と叫びが通信欄を埋め尽くす。

 味方機の全てがおのおの遮蔽物の影へ飛び込み、盾を構える。

 そしてホバートラックをかばうように、空から機影が一つ舞い降りる。

 

【みんな……しんじゃえ】

 

 モニターに謎の文言が流れ、次の瞬間だった。

 “巨神”の巨体から空、周囲、地面、全方位へと無数のミサイルが高速で射出される。

 それはまさに銀河を滅ぼす”巨神”の目覚めの咆哮だった。

 

 

 

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・逆襲のギガンティス

 

 木星に現れた謎の伝説巨神イデオン!

 恐るべきイデの力を振るう魔神に、アムロとジュドーとシャアのトリオが対峙する。

 その結末やいかに!

 恐るべきことにこれは同人誌ではない。

 正史扱いでこそないもののれっきとした公式の漫画なのである。

 長谷川先生の筆が乗って実に面白いのだが、

 内容が内容だけにGBNで機体が実装されることはなかった。

 機動戦士Vガンダム プロジェクト・エクソダスに再録されているので興味のある方はぜひ。

 

 

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