リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
次回は12/14(日)
ロウジの中二ソウル溢れるオリガンプラのセンスが大爆発しています
「こちらトロン、“巨神”の戦闘不能を確認。
次のミッションへ移行します」
頭部を失い、全長100mを超える“巨神”の巨体は静かに動きを止めた。
歓声溢れるバトルフィールドで、トロンは外部待機の運営システムオペレーターへ通達を行う。
『こちらシステムオペレーター、イレギュラーミッションの被撃墜アカウントの追跡、全て完了。
不審な行方不明なし、通常バトルミッションと同等の処理が行われた模様』
どうやら異世界転移や意識不明者などのイレギュラーは出なかったらしい。
当然の処理が確実に行われた事を確認し、トロンは安堵に吐息を漏らす。
この戦いは誰かが危険にさらされることがない、楽しいだけのガンプラバトルでなくてはならない。
次にすべきことを考え、トロンは意識を思考に振り向ける。
「待て、トロン。何かがおかしい。
システムがバトル終了を宣告していない!」
「……っ!」
“仮面の父”の声に、トロンは目を見開いた。
確かにまだバトル終了の宣告がない。リザルト計算待ちでもない。
今回の勝敗が決する条件は単純、両軍の全滅のみとなっている。
だが、敵対勢力は今まさに倒したはず。“巨神”は動かず、他ガンプラもいない。
「トロン、あそこだ!
心眼センサーで見ろ!」
エニルが叫び、モニターで中空がマーキングされた。
ジェガン・Kの心眼センサーを通した映像にモニターが切り替わる。
そこには錆のような黒ずみに蝕まれ、なおも蠢動する人間大のサイコフレームのオブジェクトがあった。
「“白鳥”生きていたのね……」
「トロン、被疑者の確保を。
これ以上の戦闘は無用だ」
戸惑いと安堵の混じる息を吐き出し、トロンは呟く。
心眼センサーを通して見えた“白鳥”は力をほぼ使い果たし、息も絶え絶えな様子だった。
”仮面の父”の判断にトロンはうなずく。生存者は保護すべきであり、被疑者は確保せねばならない。
“仮面の父”操るワンゼロオーが瀕死の”白鳥”へ近づき、両の掌で人間大のサイコフレームを保持する。
「“白鳥”、ご同行願います。
ガンプラバトルは終わりです。
事態の全容把握のため、貴官には聞きたいことがたくさんあります」
【Not yet…】
だが、“白鳥”はなおも抗うことをやめなかった。
【まだ】と告げると同時、サイコフレームの身体から絞り出すように緑の光が漏れ始める。
ワンゼロオーの手を緑の光が弾き、“白鳥”の身体が“巨神”の頭上へ移動する。
あまりにその姿は悲痛に見えた。
「やめなさい、“白鳥”!
あなたにそんな力、残っていないでしょう……」
「よせ、“白鳥”!
決着はついたはずだ……!」
だが必死の制止も、“白鳥”には届かない。
命ではなく矜持だけを賭けるガンプラバトルでは、けしてあってはならない覚悟だ。
溢れる光に呼応するように、頭部のない“巨神”が動いた。
頭部が盛り上がるように再生し始め、ゆっくりと腕が上がっていく。
「トロン、サブマスター権限による拘束は出来ないのか!?」
「今試しているけど……!」
通信がざわつき、陣形を崩していたダイバー達が布陣を開始する。
動揺の声がいくつも通信へ飛び込んでくる。
「なんやなんや、まだ終わってへんのかい!」
「トロン女史!
先制攻撃をすべきではないのか」
「トロン、グレミーくんに賛成だ!」
「待って! 呼びかけを続けます!
マイケル、ロージィ、“白鳥”の精神へ接続を!」
ここで止めなければ。
このままでは“白鳥”は自分の全てを投げ捨てるまで止まらない。
必死にトロンは呼びかけを続ける。
だが“木星妖怪”の力は拒絶され、“白鳥”はなおも力を振り絞る。
“巨神”が光に包まれ、ゆっくりと再生していく。
泥沼の2回戦が否応なしに始まろうとする。
その、瞬間だった。
『マイクテスト、マイクテスト。
本日は晴天なり、オーストラリアはきっと雪景色だね』
『ちょっとセセリア、もう放送始まってる!』
あまりにのんきな声がバトルフィールドに響き渡る。
ガンプラ達が動きを止める。光が消え、“巨神”の手が止まる。
場に満ちていた殺気じみた喧騒が霧散し、しんと沈黙が辺りを包む。
『はろはろー、セセリアでっす。
聞こえてる、Zコロニーの人ら?』
『フレンドの皆さん、運営の皆さん、聞こえますか?
ロウジです。僕達は今、オフラインサーバーで元気にしています!』
その沈黙を破り、セセリアとロウジの元気な声が響く。
嗚呼。この声を再び聞ける日をどれほど待っただろう。
トロンの目の端に涙が浮かぶ。
「パパ、聞こえてる?
夢や幻なんかじゃないわよね……」
「……ああ、聞こえているとも。
まったく、あの子達は……!」
『マリコよ。多分ガンプラバトル中に割り込んじゃってごめんなさい。
今、わたし達はボブさんのサブマスター専用チャットチャンネルを使って呼びかけてます』
『ハサウェイです。無茶してごめんなさい、大佐、皆さん。
でも、おかげでオレ達デミダイバーズは四人揃って、ここにいます。
ロウジの放送、聞いてください。
そして、伝えてもらえますか?』
殺気立つバトルとは正反対な、のんびりとした日常そのものの声。
誰もがバトルはもう終わりなのだと確信出来た。
その後もオフラインサーバーからの放送はしばらく続き、やがて終わる。
そして同時に、システムメッセージが堅苦しく告げる。
『Battle ended WINNER!……』
”巨神”が淡い緑の光を放ちながら、形を失い解け消えていく。
おやすみなさい、伝説の”巨神”よ。
この世界は少なくともまだ、滅ぼさねばならぬ場所ではないはずだ。
滅びの魔神として呼び出された悲しい存在へ、トロンは静かに祈りをささげるのだった。
ずっと意識にモヤがかかったかのようだった。
奇跡を願うごとに自分がなくなっていく。
ここは“白鳥”を形作るプログラムの奥底、精神世界だった。
【まだ……だ……】
薄れゆく意識の中、“白鳥”は何度も繰り返す。
戦わなければ、時間を稼がなければ。
何のために?
それが盟友の願いだから。
”巨神”の凶暴な力包まれながら、”白鳥”は今しも消滅する寸前だった。
『パパ、ママ、運営さん。そしてフレンドの皆。
心配かけてごめん! でも大丈夫、僕達もうすぐ帰ります!』
強い意志を秘めた心が、にぎやかに喋っているのが聞こえる。
このやかましい声すら、どこか遠くから聞こえるようだ。
自ら作り出した“巨神”の存在が、“白鳥”にはあまりに強大に過ぎた。
力を振るい、ねじ伏せ、再生する。
そのくり返しが“白鳥”をすり減らしていった。
『まもなくこのチャットチャンネルを使って、ガンプラバトルの実況が始まるよ!
あと何分後だっけ、ボブさん?』
『こちらの時間では約1時間、現実時間において約10分後だ』
ボブ……おお、盟友よ。
もはや自己すら曖昧な中、懐かしい声に“白鳥”の自己がわずかに覚醒する。
『運営並びに関係者諸兄、そして盟友たる“白鳥”へと報告する。
次に行うロウジとグエルによるガンプラバトルを最後に、
オフラインサーバーの封鎖は解除する。
私の役目はそこで終わるだろう』
淡々とした声で、ボブは語る。
盟友よ、我は役目を果たせたか?
もはや“白鳥”はその問いを声にすることも出来ない。
『心配かけてごめんなさい。僕達は元気です。
もうほんのちょっとだけ、僕とボブさんに時間をください!』
『実況はアリヤ、ハサウェイとマリコさんのダブル解説でお送りするよ!
心配な人はお時間ある時なら聞いてって!』
さわがしい声が、まるで子守唄のようだった。
もう時間稼ぎは必要あるまい。
穏やかな気持ちで“白鳥”は、“巨神”の再生を止めた。
すべきことは終わった。
不要になった道具の末路は廃棄と決まっている。
「“白鳥”……“白鳥”!
目を覚ましなさい!
あなたにはまだ、役目と……責任が残っているでしょう!」
だが、鋭い声が“白鳥”の意識を激しく揺さぶる。
孤独な精神世界に、人影が一つ浮かんでいた。
「運営代表……サブマスターのトロンです。
今、わたしは“木星妖怪”の力を借りてあなたに呼びかけています」
道具としての役目?
道具としての責任?
まだあるというのか、残っているというのか?
消え散りそうな意識をかき集め、”白鳥”は自己の再構成を試みる。
【聞こう、運営の代弁者よ。
望みを言え……】
『Battle ended WINNER!……』
静かに流れるシステムメッセージをよそに、”白鳥”はトロンへ向き直った。
戦いは終わり、対話の時間がはじまる。
”白鳥”は自らの精神世界で、その後も細く長い対話を静かに繰り返した。
『……ディランザ・G頭部大破!
勝者、外部生……ハサウェイ・ノア!』
『いやぁ、見ごたえのあるエキシビションマッチだった!
実力伯仲の攻防、これを前座扱いするのは申し訳ないな』
夢のようなこの時間も、もうすぐ終わる。
アリヤの実況を聞きながら、セセリアはそっと感慨にふける。
先の見えない恐怖におびえた日々も、今はもう懐かしい。
体感時間にして約2週間、だいぶ贅沢な異世界体験だった気がする。
「いやー……しかしホント色々あったよね。
学園生活、ちょっと名残惜しくない?」
「こら、もう終わったふうな口をきかない!」
セセリアの軽口を、コクピットから顔をのぞかせたロウジが厳しい口調でたしなめる。
ここはオフラインサーバーの仮想世界、ガンプラ学園のガンプラ格納庫だ。
設置された小型モニターから、アリヤの解説が流れてくる。
『ガンプラの片目をえぐられながらのカウンター!
ハサウェイ選手の闘志が決め手となりましたね。
どうでしたか、解説のマリコさん』
『キャプテンΖの手首に仕込んだ内蔵型サーベルが良かったわね。
絵本の海賊みたいな義手、格好良かったわ』
ホントは共有スペースのはずの場所を、気付けばずっとルブリスで占有しっぱなし。
こんなのオフラインサーバーの主人公じゃないと許されない暴挙だ。
いろんな意味で自分達が特別扱いされてたことを実感する。
「みっともないバトルして、
ボブさんに居残り授業!とか言われたらどーすんのさ!」
「大丈夫、今のキミとボクならね。
まったく、やる気満々じゃん」
ロウジだって言ってたじゃん。楽しかったって。
キャンキャン吠えるロウジに、セセリアは苦笑いしながら肩をすくめる。
うん、目が泳いでない。やる気が空回りしてるわけじゃない。
ロウジを観察し、セセリアはほっと一安心。
たぶん、ロウジのメンタルは万全だ。
「あったり前じゃん。せっかく挑めるリベンジマッチだよ
セセリアこそ、出し惜しみはないよね?」
「もちろん完璧な仕上がりさ。
リアルじゃ多分こんな出来はまだちょっとムリかもね」
改良した新型のルブリスを見上げ、セセリアは強気に笑ってみせる。
この世界はやっぱりリアルと違う仮想世界だ。
どんなガンプラのパーツも手配可能、3Dプリンターだって自由自在。
塗装だって完璧に仕上がるし、組み合わせたパーツが相性悪くて動作不良!だなんてこともない。
「リアルでも必ずつくりあげてみせるから、
待っててね、ロウジ」
「むしろ、受験勉強で僕が待たせちゃう側じゃない!?」
出来上がったのはロウジの要望と自分の理想をふんだんに詰め込んだサイキョー機体だ。
出し惜しみなんかない。詰め込み過ぎが怖いくらいだ。
『はい、こちらガンプラバトル実行委員!
それでは間もなく、本日のメインイベントの開始となります。観覧席の確保はお早めに!
なんと今回は特別に、サブマスターチャンネルでGBNへも録画で同時中継するぞ!』
『実況はアリヤちゃん、解説はわたしマリコにくわえ、
ハサウェイくんも合流予定よ』
にぎやかな解説と共に、格納庫の扉に出撃要請の赤ランプが灯る。
コクピットハッチから顔を出したまま、ロウジが心配そうに表情を曇らせる。
「ね、パパとママ、見てくれるかな?
放送、聞こえてるといいんだけど」
「リアルタイムではムリかもね。
でもマリコさんいわく、クランプのおっちゃん達やアッガイマフィアの皆さんといたらしいし。
伝言でボクらの無事だけは伝わると思うよ」
ロウジの不安を解きほぐすように、セセリアはにっこり笑いかける。
ボブに外への連絡を頼んだのはマリコのアイデアだ。
ロウジ達の無事がわかれば、色々解決することもあるはず。
連絡なしでお泊りした時、めちゃめちゃ叱られた覚えがある。
「……そうだね。そうだといいな。
よし、きっちり勝って、後でパパママにみっちり叱られよう!」
不安げな表情を消し、ロウジが真剣な顔で意気込む。
ロウジの頭がコクピットハッチから頭を引っ込むのを確認し、セセリアは外部から指差し確認を行う。
武装よし、装甲装着もれなし、外装よし!
セセリアは新型ルブリスの背面へ駆け寄り、バックパックから下がる巻き上げ式昇降装置のワイヤーへ手をつかむ。
「巻き上げよし、サブコクピットハッチ開放!
セセリア、乗り込んで!」
「オッケー、お邪魔しますよ……っと!」
ワイヤーが巻き上げられ、新型ルブリスのバックパックの高さまでセセリアの身体が持ち上がる。
背面側のハッチから転がり込めば、そこは新型ルブリスと合体したサポートメカのコクピットだ。
ベルトで身体を固定、システムを立ち上げ、手早くパラメータをチェック。
『挑戦者を迎え撃つのはもちろんこの人!
選抜科操縦班のホルダー、学内バトルランキングのトップ!
ダリルバルデと……“最強グエル”!』
今回のバトルはロウジの希望が認められ、変則の2on1マッチだった。
セセリアも複座として同乗し、バトルに参戦する。
ただし扱いは居場所が外から中に変わっただけでオペレーター、武装の使用や機体操作には一切関わらない。
でもこれはセセリアものぞむところだ。
最後のバトル、ロウジといっしょに戦いたいじゃない。
『“最強”へと満を持して挑むのは、おなじみとなったこの人!
彗星のように現れ、学内ランキングを瞬く間に食い荒らした“特別なあの子!”
学内ランキング2位……新型ルブリスと“自由人”ロウジ・チャンテ!』
「“自由人”だって。
かっこいーじゃん、ロウジ」
「それより前説!
僕ってばハゲタカとかハイエナか何か!?」
観戦者向けのアリヤの言葉選びに、ロウジがみごとなふくれっ面になる。
不機嫌なロウジの様子に、セセリアは内心こっそり笑いをかみ殺す。
「僕さ、これでも結構不自由なんだよ?
ママがしんどそうだったらお手伝いして、パパの戦績気にして。
友達が不機嫌だったら心配して、クラスで浮かないように日々気をもんで……」
「知ってるよ、ロウジは鈍感そうで気にしぃで、
他人の気持ちに寄り添える優しい子だもんね」
外から見たロウジが傍若無人なキャラに見えるのも、別に間違っていやしない。
ただ、出力の仕方が色々へたっぴなだけだ。
ふてくされたロウジに、セセリアは優しく笑いかける。
「僕が好き放題にふるまえるのは、
セセリアがそうさせてくれてるからだよね」
「そうした時のキミの無敵っぷりは何度も見せてもらったからね」
優しい顔で感謝を告げるロウジに、セセリアは甘い声で囁き返す。
思えば、ボクらは明日へはばたくための準備に忙しすぎたかもしれない。
こんな大事なことを、確かめあっていなかった。
「ボクがそばにいれば、キミはとんでもなく高い空へ羽ばたいてくれる。
大好きだよ。そんなロウジを眺めるの、とっても楽しい」
「セセリアのおバカ!
……こんな時に言う時じゃないでしょ!」
真正面からの誉め言葉が直撃し、ロウジが真っ赤になってうつむく。
大好きでアイラブユーだって伝えはしたけれど、
キミを”特別”なヒーローなんだってもっと伝えなきゃいけなかったんだ。
「よっし、最終調整!
……隠し機能起動時の機体色のパターン、白と黒、どっちが好み?」
「断然、闇っぽい黒!
パパのワンゼロオーみたいじゃん」
オッケー了解、ボタン一つで機体色が指定通りに変更完了する。
リアルだと組む前に相談必須、こんな気軽な塗り替えとかできっこない。
塗り残しなし。全身図よし。3D映像と格納庫内カメラで指差し確認、最終チェック。
気合を入れてコンソールを操作するセセリアへ、ロウジの声がいたずらっぽくささやく。
「あ、でもねセセリア。
わたしがあなたの隣でなりたいのは、
純白のウェディングドレスのお嫁さんだよ」
一撃必殺、クロスカウンター。
セセリアの頬と思考が真っ赤に染まる。
見返せば、言ったロウジだって真っ赤になって黙り込む。
キミこそ、今言うことじゃなくない!?
『こちらガンプラバトル実行委員です。
闘技者は機体を所定のサークルまで移動させてください』
気まずく黙り込む二人を救ったのは、事務的なアナウンスだった。
格納庫の扉に緑ランプが点灯し、自動的に開いていく。
作り物の太陽の光が差し込み、バトルフィールドへと誘う。
二人そろって照れ臭そうに眼をそらし、深呼吸して言葉を投げかけあう。
「……よし、行くよ、ロウジ。
皆にキミのカッコいいとこ見せに!」
「……うん。行こう、セセリア。
サイコーにカッコいい君のガンプラを見せに」
相手のかわいいとこを知るのは、自分だけでいい。
白い歯見せて笑いあい、ロウジとセセリアは戦士の顔になる。
「ジェネレーター、パーメットリンク良好、
給弾確認、各サーベルの励起確認。
マル秘システムもいけるよ」
「ブースト、アーマー、ウェポン、オールグリーン。
さぁ行くよ、新型ルブリス!」
二人で語る未来の夢はいつも胸焼けしそうなくらい甘い。
でも夢を両手で掻き抱いていなければ、すぐに消えてなくなってしまう。
勝つんだ、二人で。
甘い未来をこの手に留め置くために。
セセリアの作ったガンプラで、ロウジがバトルフィールドへ歩み出していった。
『レギュレーション受諾、オールウェポンフリー。
両者協議により、挑戦者側がオペレーター同乗の変則1on2マッチ。
勝敗レギュレーション、GBNに準拠し、頭部の大破ではなくガンプラの戦闘不能と操縦者の気絶によって決する。
両機、サークルが指定する開始位置へ!』
無言のまま新しい愛機を開始位置へ進ませ、ロウジはモニターに映る光景を静かに眺める。
オフラインサーバーでのでのガンプラバトルは飽きるぐらい繰り返した。
特に意識しなくたって、どこへ機体をもっていき、何をすればいいかは身体が覚えている。
「解説席、マリコさんとハサウェイだね」
「実況はアリヤだね。実行委員会のみんなもいる」
バリアフィールドに包まれた実況開設席へガンプラの手を振り、開始位置のサークルにガンプラで移動する。
うん、大丈夫。ちゃんと視界は広い。
地形に異変なし、トラップやギミック増加多分なし。
注意も散漫な訳じゃない。
色ボケも終わりだ、頬の赤みも残ってない。
『ガンプラの移動並びに戦闘準備を確認!
両者、向顔!』
ロックオン可能距離の外で開始サークルにたたずむダリルバルデの姿がサブモニターに映っている。
モニター越しに対戦相手と向かい合い、ロウジは戸惑った。
アバターが、何度も対戦してきた高圧的な”最強グエル”じゃない。
研究者のように白衣を着こみ、眼鏡をかけた穏やかな表情のボブだったのだ。
「……え、えっと、ボブさん?」
「今日は役作りしないんだ、グエルパイセン?」
「ああ、今日ばかりは役作りはなしだ。
”選抜科のグエル”でも”最強グエル”でもない。
君と、そして盟友が作ってくれた最後の機会だ。
ただのボブとして、俺の全てを使って対戦させてもらう」
穏やかな瞳の奥に静かで熱い炎をみなぎらせ、ボブが告げる。
手も足も出なかったアレよりさらに上の難易度があるの!?
ぞくりとロウジの背を戦慄と高揚が駆け抜ける。
「アリヤ。対戦者の変更を頼む。
グエル・ジェタークではなく、多角的情報収集人工知能、ボブだ。
ロウジくん、セセリアくん。かまわないな?」
『……ということらしい。
いかがかな、ご両名』
「ま、変則マッチ受け入れてもらったことでもありますし……
いいよね、ロウジ?」
「……もっちろん!」
武者震いとともに大きく深呼吸、ロウジは静かにうなずきを返す。
きっと、とんでもない強敵だ。
それでも勝つのは僕達だ。
「勝負です、ボブさん。
この世界でめざめて、はじめは何がなんだかわかりませんでした。
けれど、セセリアといっしょに日々を過ごせて、あなたと何度も戦えた。
感謝しています。
だからこそ、勝ちます。勝って証明してみせます!」
「ガンプラバトルは自分が一番秀でた分野だ。
だから、負けられない。負けるつもりはない。
ガンプラバトルの強さこそが、俺の存在意義なのだから」
ロウジの力強い宣言に、ボブが穏やかな口調で返す。
静かな言葉で、まるでびりびりと空気が震えるようだ。
このバトルに込めたボブの気持ちの強さがよくわかる。
『では、対戦者の変更を行います。
解説は後程……!』
セセリアと視線を合わせ、うなずきあう。
セセリアがにっこりオッケーサインと共に、きゅっと真剣な顔でモニターに向き直った。
大きく息を吸って、ロウジは操縦桿を握りなおす。
『両者へ宣誓書配布。
黙読を……』
「大丈夫です」
「ならば、省略で」
ごめんね、アリヤ。
戸惑うアリヤにロウジは心の中で小さく頭を下げる。
例外まみれの決闘、振り回してばっかりでごめん。
『両者、宣誓!』
宣誓書ももう読まずにそらで言える。
それはボブさんだってもちろん同じ。
グエルとロウジの宣誓がバトルフィールドへと響き渡る。
「主張は常に公正のもとに」
「騒乱は常に法のもとに!」
宣誓と共に、静かにロウジの心に思いが溢れ出す。
ガンプラバトルの強さこそが価値、ボブはそう言った。
自分だって同じだ。ロウジは心の中で静かに呟く。
セセリアやハサウェイ、マリコさん、パパやママに許され、甘えさせてもらって生きてきた。
「「汝の意志を調停にかけよ!」」
でもGBNも、そしてこの世界だって、ただバトルが強いだけで認めてもらえた。
口下手なロウジには、ガンプラバトルでなら雄弁に語りあうことが出来る。
『フィックス・リリース!』
バトルで勝って負けて、その繰り返しでたくさんの人達とつながってきた。
僕はこの世界が大好きだ。
ロウジは静かに拳を握る。
今から証明してみせる、このガンプラバトルで。
「フィックス・リリース!」
決闘の開始をアリヤが高らかに宣言する。
一瞬たりとも見逃せない。ハサウェイは食い入るようにバリアフィールドの向こうの光景を見つめる。
ロウジの新型ルブリスがふわりと宙へ舞い上がり、ダリルバルデが遮蔽物の多い初期位置で悠然と腕組みする。
さっき初の決闘に挑んでみた感じ、初動は大体おなじだ。
初期位置は通常、ロックオン可能な距離じゃない。
「さぁ、土壇場の決闘者の変更などゴタついたけど、
いよいよ”決闘”が始まるよ!
ガンプラバトル実行委員のアリヤだ。
おなじみの皆さん、そして初めての皆さん、楽しんでいこう!」
「実況はガンプラバトル実行委員会のアリヤちゃん。
解説はわたし、ジオン公国産まれ、ELダイバーのマリコと。
そしてロウジくんの親友、ハサウェイくんでお送りします」
ここはオフラインサーバー、謎の仮想世界”ガンプラ学園”のバトルフィールドに設営された安全地帯の観客席だ。
ハサウェイ達がいるのは一段高い位置にある実況解説席だ。
目視でもバトルを確認できるだけでなく、大型の投影型モニターが両機の状況を克明に映し出してくれる。
「では、はじめての方向けに、決闘の参加者についてざっくり解説しよう。
マリコさん! ロウジとセセリアについて……」
「はい。それじゃまずはロウジくんについてね……」
二人を解説するマリコの長台詞を聞き流し、ハサウェイはバトルフィールドのガンプラへと注目する。
ダリルバルデは”最強グエル”でいやというほど強さを味わった相手だ。
扱うボブの実力は未知数だが、ぱっと見の外見はほぼ変わらない。
注目は、ロウジの操る正式名称不明……”新型ルブリス”の方だった。
「アレがロウジの新型ルブリスか。
見た感じ、ルブリス・GK(ガーディアンナイト)の発展型みたいだけど……」
白とピンクを基調のワンオフタイプのルブリスを基にハードポイントを増設したものがルブリス・GKだ。
今回の新型ルブリスは各所に金色のアーマーパーツ、背面に大きなウィングユニットが増設されている。
特に目を引くのは、胸部にある白と黒の勾玉を2つ組み合わせたような謎のエンブレムだ。
「アレは陰陽の太極図を模したものみたいね。
白が陽、黒が陰を意味するらしいわ。
どういう意図化はちょっとわからないけれど……」
「ストップ、マリコさん!
ロウジが何か仕掛けるみたいだ」
のんびりしたマリコの解説を、慌ててハサウェイはさえぎった。
悠然とたたずむダリルバルデを向こうに、空中から新型ルブリスがライフルを構え、狙撃姿勢をとる。
『ウィングからの粒子吸入カット!
ヘイロー顕現!
ライフルモード、”神罰”!』
セセリアの叫びと共に、新型ルブリスの頭上に天使の輪のような光輪が輝く。
ガンプラの全身が淡く白い光に包まれ、光がライフルへと集まっていく。
『”神の怒り”を受けてみろっ!
いっくぞー、”神罰レーザー”!』
ロウジの叫びとともに、ライフルの先からビームの奔流がほとばしる。
高出力、高火力のビームがまっすぐダリルバルデへ伸びていく。
だが、ダリルバルデは初期位置で仁王立ちしたまま回避行動をとる様子もない。
そしてボブが高らかに叫び、ビームジャベリンを一閃する。
『いくら強力な砲撃だろうと!』
『にょわ!?』
『マージー!?』
「うっそだろ!?」
ロウジとセセリア、ハサウェイの叫びが唱和した。
おそらくハイメガランチャー並みの高火力のビーム砲撃を、ボブのダリルバルデが正確に切り払ってみせたのだ。
真っ二つに切り裂かれたビームの余波を肩口のドローンシールドが受け止め、ダリルバルデは無傷。
「……アリヤさん、今のは!?」
「アレはグエルが稀に見せる技ね。
ビーム兵器同士の干渉を利用した砲撃とサーベルの鍔迫り合いみたいなものよ。
ボブはつまりグエルに勝るとも劣らぬ凄腕ってことよ」
『花火としては悪くないが、
決め手にできるほどではない。
連射も出来ないようではな』
ビームジャベリンを背中にマウントし、ダリルバルデが悠然と両腕を組み直す。
距離はダリルバルデが得意な中、近接の間合いですらない。
だが威風堂々たる振る舞いはまさしく王者のようだった。
『ダメじゃん、セセリア』
『規格外すぎ!
やっぱ出し惜しみ厳禁だよ、ロウジ』
遠距離で新型ルブリスを空中に留め、ロウジとセセリアが言葉を交わし合う。
だが、次に動いたのはダリルバルデの方だった。
ルブリスのコクピットで響いたロックオンアラートが観客席で反響する。
遠距離の中空にとどまる新型ルブリス目掛け迫る攻撃の軌跡が四つ。
「グスサー・イーシュヴァラだ!」
後期型ダリルバルデが背面に装備する腕部と内蔵ビームダガーで構成される自律型のドローン兵装だ。
ビームガンとしてビームを射出も出来るが、今回は全てダガーモード。
一撃くられば装甲が割れる!
ハサウェイの悲鳴と連動するように新型ルブリスが身をよじり、左腕にサーベルを引き抜く。
ドローンの軌跡と新型ルブリスの回避行動が交錯し、鍔迫り合いの光が二筋走る。
サーベルで一つ、足に装着したガンビットサーベルで一つ、一つは寸前で身をそらす。
だが、一つは避けきれずに新型ルブリスが構えたライフルの銃身に深々と突き刺さる。
『……レシーバーガン、やられた!
ドローンだけでこの連携!?』
『ボブさん、今までこんな手の内まで隠していたの!?』
『これは挨拶替わりだ。
俺の全てをかけると言ったろう?
そちらも出し惜しみはしないでほしいものだな!』
舌戦を繰り広げながらもロウジの手は止まらない。
逃げ去るドローン目掛け、新型ルブリスが手の甲に装備したガンビットで対空迎撃のビームを放つ。
角度の違う二つの砲火は共に回避され、流れ弾がバリアフィールドへと突き刺さって弾ける
ドローンがビームを回避した!? ハサウェイは目をむく。
まさかダリルバルデ本体と並行してあっちもマニュアル操作してるの?
「けれどロウジも被弾1でしのいだ。
さすがは普通科操縦班の星!
ガンプラの性能と腕前、やはり素晴らしいものがあります」
「むしろロウジのメンタル面がすごいよ。
セセリアといっしょなせいか、いつになく安定してる」
アリヤの言葉に、ハサウェイは真剣な顔でうなずく。
上から下まで死ぬほどメンタル面にブレがあるロウジだが、今日の調子は最高潮。
ロウジがジャイアントキリングをやらかすのは、いつもあんな調子の時だ。
「けれどそのロウジくんがこの苦戦、
ボブ先生の強さは半端ないってことね……」
「たった今、選抜科の”特攻隊長”フェルシーから情報が入った。
ボブは運営AIの総まとめを行う多機能高性能AIであり、
GBNの難関ミッション”最強グエル”を運営していた。
”選抜科のグエル”の操作もボブが直に行っていたらしい。
つまり我々が知るグエルをさらに超える腕前と言うことだな……!」
なるほど、道理で強いわけだ。ハサウェイは表情を引き締める。
ドローンの複数操作の正確性、たぶんAIならではの高度な並列処理のなせる業に違いない。
デミダイバーズはセセリア以外まるでムリな、特殊な才能だ。
『王子様からダンスのお誘いだ!
ガラスの靴があるうちに一気にいくよ!』
やたらファンシーな言葉選びでロウジが叫び、新型ルブリスがさらに高度を上げる。
太陽の逆光を背負い、セセリア作のガンプラが翼を広げた。
初期位置から動かないダリルバルデのコクピットで、ボブが叫ぶ。
『見せてみろ、お前達人間だけがもつ”未来”の輝きを!』
『奥の手だ、ロウジ!』
『オーケー、セセリア!』
二人のコクピットの様子がモニターにカットインする。
多分これは、見せ場を悟ったガンプラ委員会のプロのカメラワークだ。
『新型ルブリスの!』『真の姿を見せてやる!』
ロウジが操縦桿をX字にクロスさせ、セセリアがコクピットに設置された大きなボタンを押し込む。
『ウィング、分離!
ヘイロー、消滅!
アーマー外装パージ!』
『ウィング変形!
フレキシブルショルダーアーマー、再合体!』
セセリアが手元のキーボードへブラインドタッチでコマンドを打ち込んでいく。
新型ルブリスのウィングが分離し、変形を始める。
頭上に輝く天使の輪が消失し、新型ルブリスが重力にひかれて落下を始める。
『天地よ逆転せよ、
陰陽は流れを転ず!』
寄ったカメラの中央、ぐるりと太極図のエンブレムが180度回転する。
新型ルブリスの胸部から黒い光が炎のように溢れ、エンブレムを弾き飛ばす。
そこには漆黒の†マークが刻まれていた。
『サタンソウル!』『起動!』
互いにモニター越しで視線を見交わし、ロウジとセセリアが楽しげに笑う。
声を揃え、掌をモニターに掲げ、二人が叫ぶ。
『『堕天・身!』』
その瞬間、天から落下するルブリスの全身が漆黒に染まった。
激しく道路の舗装をえぐりながら、漆黒のガンプラが大地へ降り立つ。
その両肩に、ウィングから変形した黒く染まった巨大なショルダーアーマーが合体する。
『天は聞け、冥は見よ!』
『全てをなげうち、天の使いは力を欲す!』
『ただひたすら』『勝利を求めんがために!』
ロウジとセセリア、二人の詠唱が朗々と響く。
間違いない。満面の笑みと共にハサウェイは確信する。
絶対この文章、ロウジのセンスだ。
それをセセリアがガンプラに昇華させたんだ!
『ここに現れしは!』
『勝利を渇望せし漆黒の堕天使!』
ガンプラの着地によって舞い上がった舗装の破片が落ちてくる中、漆黒のガンプラが胸の高さの前で両の拳をあわせる。
闇のように黒くまがまがしい外装に包まれた、新型ルブリス。
『『ルブリス・FE(フォールンエンジェル)!』』
たくさんの空想の限りを詰め込んだ、漆黒の堕天使。
その名が、高らかに告げられたのだった。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・オフラインサーバーでは体感一週間が外の一日 その2
前回述べた通り、GBNおよびリアルワールドと比べ、オフラインサーバーは7倍の時間差がある。
外の世界の10分が中の世界の70分であり、ロウジの体感時間は外の世界では圧縮される。
では、オフラインサーバーの様子をそのままリアルタイム放送すればどうなるか?
あまりに速度が速すぎ、バトルは残像のようになり、会話は聞き取れないのである。
対策として、ガンプラバトルを放映する際には映像ならび音声を録画し、GBNの速度に編集して再放送している。
そのひと手間をかけることがガンプラ学園によるガンプラバトル実行委員の真の役目であり、
サブマスター権限を与えられたアリヤが深夜にタスクをこなしているようだ。