リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
長いバトルにもようやく決着の時が
「ルブリス・FE(フォールンエンジェル)!
そうか、それが君たちの隠し玉か」
初期位置にとどまったままのダリルバルデのコクピットで、ボブは静かに呟いた。
ルブリス・FEとダリルバルデの両機は互いにロックオン可能な中距離、地上で遮蔽物もなしに向かい合う。
白とピンクが基調の機体が、黒一色に塗り替わっていた。
確かに悪魔か堕天使か。モニターに映るルブリス・FEは闇に与する何かを思わせる。
ベースは同じ機体だというのに、色の違いでイメージはまるで違って感じる。
「はい!
僕達の、強くてサイキョーにカッコいいガンプラです!」
『製作者のセセリアも、堕天使とは大きく出たものだ。
だが確かに、ガンプラ愛を感じるかなりの作りこみらしい』
『間違いなくあのセンスはロウジの趣味。
それをガンプラに落とし込んだセセリアはすごいよ』
『ロウジくん、絶対すごいテンション上がってるわ。
ああなった時のロウジくんは止まらないわよ』
ロウジのセリフに続き、実況解説のアリヤ、ハサウェイ、マリコの言葉が流れる。
あの朗々たる詠唱、事前に考え、しっかり練習もしてきたに違いない。
この戦いにかけるロウジの意気込みがわかる。
「だが、ガンプラ愛だけで俺には勝てんぞ!」
「わかっています。
観客とボブさんに、新型のお披露目といきましょう!」
ならば、まずはこちらからだ。先手を取ったのはボブだった。
初期位置のサークル内にとどまるダリルバルデが、背面腰部から武器を取り出す。
後期型ダリルバルデが使用する射撃兵装、ビームショットライフルだ。
何の変哲もないライフルが、危険な威力のビームを銃口から二連射する。
「ロウジ、受けて!」
「おっけー、防御だ、シールドバインダー!」
ルブリス・FEが射撃に対し、足を止めて防御姿勢をとる。
ロウジの叫びに、ルブリス・FEの両肩アーマーにさらに増設された大型のアーマーパーツが稼働する。
アーマーパーツに接続した大型のバインダーが稼働し、ビーム射撃へ対し正面に盾のように展開する。
ダリルバルデの痛烈なビームが磨き上げられた分厚いバインダーに着弾し、あっさりと霧散する。
「……ほう?」
「稼働可能な大型のシールドバインダーを肩部に増設し、両腕を使わずとも防御を可能!
これぞ自慢の、フレキシブルショルダー!」
得意げなセセリアが、勝手に性能を解説してくれた。
かなりの表面圧、当然のように対ビーム処理もしているようだ。
しっかりした防御性能にボブは目を見張る。
「セセリア、しゃべりすぎ。
こっちも、お返し!」
防御姿勢をとった両肩のシールドバインダーが、そのままダリルバルデを正面に捉える。
構えかけたライフルを下げ、ボブはダヤ・アンビカーへ防御を指示する。
切払いは狙わない。アレは危険な砲撃にしか狙わない、集中力のいる魅せ技だ。
「まずは、ご挨拶!」
ビームの輝きがルブリス・FEのシールドバインダーの先からほとばしった。
並行して迫る二連のビームがダリルバルデの大型ドローンシールド、ダヤ・アンビカーの表面で弾けて散る。
初手のチャージ弾までの威力ではないが、被弾の衝撃はずしりと重い。
「くっそ、やっぱその盾ずるい!
しかもそれ後期型ダリルバルデの武装じゃん」
「……なるほど、やたら大型の肩部は分厚い盾と遠距離兵装を兼ねる。
あのシールドバインダーにガンビットを接続し、ビームキャノンとして運用しているわけか」
嘆くセセリアめがけ、ボブはにやりと笑う。
厄介だな、フレキシブルショルダー。
牽制にビームショットライフルを撃ち込むが、2枚のシールドバインダーにがっちり受け止められる。
ルブリス・FEも両肩からビームで応戦し、中距離の射撃戦が続く。
『さぁ、両者中距離でのビーム兵器の射撃戦が続く!
ダリルバルデはご存じ、近距離で猛威を振るう機体です。
ですがダリルバルデは開始1分経った今も、初期位置のサークルからまだ動いていません!』
『ロウジは中距離戦で生きる手持ちのライフルを壊されたのが痛かったね。
アレがあればこの距離でも火力有利だったはずなのに。
けど、ロウジだって近接白兵が大好きなんだけどな?』
『両者、互いに苦手分野で牽制しあってる。
次に大きく動くのはどちらかしら』
この中距離射撃戦でも優位は渡さない。
グスサー・イーシュヴァラによるドローン射撃や白兵を混ぜれば手数でも優位になる。
とはいえ、このまま楽に推移する相手でもないはずだ。
視野を広くとり、ボブはロウジの出方をうかがう。
「どうした、ロウジくん。
俺はまだ初期位置から一歩も動いていないぞ?」
「めっちゃ挑発されてるぅ!」
「でも、動くつもりがないのなら……好都合!」
動きがない間も、舌戦は止まらない。
ボブの言葉にロウジが叫び、セセリアがにやりと笑う。
「ロウジ、秘密兵器その1!」
「おっけー、セセリア!」
動くか、ロウジ・チャンテ!
砲撃戦で未使用だったルブリス・FEの両腕が高々と天へ掲げられる。
左右肩部2個ずつ計4、脚部左右1の計2、あわせて6基のガンビットが分離し、
ルブリス・FEが廃部バックパックから引き抜いた大ぶりのビームサーベルの柄へ合体していく。
その柄からガンプラの全長ほどもある巨大なビームの刀身が形成され、黒色にビームの刀身が染まる。
「形成、ガンビットブレード!
出力異常なし、エネルギー消耗想定通り」
「そしてぇ……すかさず、納刀!」
だがその武器を、ロウジがすぐに振るおうとはしなかった。
高らかに叫び、大きく振りかぶったブレードの柄を背面バックパックへ差し込む。
巨大なビームの刀身がルブリス・FEの機体を傷つけることなく、澄んだ音と共に再収納される。
『おおっと、ルブリス・FEの秘密兵器は、
ガンビットの出力を集中した恐るべきパワーの大型ビームブレードだ!
だがこれをロウジ選手は使用せず、再度収納する!』
ボブと同じ戸惑いを実況のアリヤが口に出す。
ボブが積み重ねた高難度ミッションの運営経験が警鐘を鳴らす。
挑戦者がこんな挙動をした時は、いつも危険な一撃の前兆だった。
「これなるは堕天使が携えし復讐の剣」
ロウジが朗々と叫ぶと同時に、ルブリス・FEの背後でゆらめく黒い炎が膨れ上がった。
そして背面に収納した剣へと黒い炎が吸い込まれていく。
なんだ、あの炎は!
ボブは警戒を強めながら、ビームショットライフルを三連射する。
「冥界より出でよ、激情の炎。
我が渇望は冥界の番犬の焔よりもどす黒く、真竜の吐息よりも赤き。
炎のごとき渇望が、かの刀身を焼き焦がさん」
ルブリス・FEの両手が祈りの形に組み合わされる。
ロウジの言葉はスムーズに詠唱へと移行する。
牽制の射撃も、詠唱を止めるには至らない。
『呪文の詠唱……まるで、極大殲滅魔法を使った時みたいね!』
『魔法じゃない。アレはファンタジーじゃなくテクノロジー系ガンプラだよ。
でも、詠唱と同時にすごいエネルギーがチャージされてるのがわかる!」
解説のマリコとハサウェイが興奮した声で語る。
ダリルバルデの牽制射撃を、ルブリス・FEが軽いステップで三つのビームのうち二つを回避する。
命中した一つはフレキシブルショルダーのシールドバインダーが余裕をもって受け止める。
回避の間も祈る両手の形は変わらない。
そしてロウジが詠唱を結ぶと同時に、ダリルバルデのセンサーが甲高い警告音を発した。
「この剣振るいし時、闇の炎が全てを打ち滅ぼす!」
「呪文の詠唱……
エネルギーチャージ式の白兵型必殺武器か!」
ルブリス・FEが納刀したガンビットブレードへ、恐ろしいエネルギー量がチャージされていくのがわかる。
ダリルバルデのセンサーが推測するチャージ官僚はカウント60。
恐らく、戦略級兵器に匹敵するエネルギー量!
「そうか、俺に届きうる牙を用意して来たのだな」
静かに呟き、ボブはセンサーの示す予測数値を見やる。
完全にチャージされた状態で引き抜けば、アクシズすら一刀両断するような恐るべき剣が完成するだろう。
完成を座視すれば、俺が負ける……?
『おっと、挑戦者ロウジ、ここで待ちの姿勢をとった!』
『攻めのための守りとはいえ、ロウジには珍しい選択だね』
『さぁ、ボブさんはどう出るかしら……?』
「”復讐の剣”、チャージ完了まであとカウント50!」
「あ、言っちゃうんだ。それ?」
距離を置いてルブリス・FEを立たせ、ロウジが高らかに叫ぶ。
呆れたようなセセリアの声にあわせ、ボブはモニターを決然と睨む。
どうやらロウジはこちらを挑発しているらしい。
敗北の可能性を前に、まだそこを動かないつもりか、と。
「右アンビカー、ビームショットライフルをセット。
左アンビカー、ビームカタナを抜刀準備でマウント。
近接連携射撃用意!」
ドローンシールドが戦闘準備を整え、ダリルバルデがビームジャベリンを両手で構える。
深く長く息を吐き、ボブは牙をむくように笑う。
けして、この笑みは侮蔑ではない。
ただの睨み合いで、なんと楽しませてくれることか。
「残念ながら座して待ってやるわけにもいかんようだ。
良いだろう、ロウジ・チャンテ!
試させてもらおう、貴様が真にこのダリルバルデを倒し得るかどうか!」
強敵を前にした時、いつも笑みが浮かんだ。
自然とグエルのような高圧的な物言いが口をつく。
バトルの高揚が、ボブ自身の何かを沸き立たせるのがわかる。
「俺はボブ、そして……
最強のグエル・ジェタークだ!」
叫びと共に、ダリルバルデが前へ出る。
その動きはまさに、獲物へ狙いを定めた獰猛なケモノだった。
「来た来た、怒髪天のボブさん!」
「挑発大成功!
……いや、効きすぎかも?」
牙を剥くようにボブが笑い、ロウジが楽しげに笑う。
まったくもう、バトルマニアなんだから!
決闘の当事者二人を一歩引いて眺め、セセリアは冷静に状況を見定める。
とにかくダリルバルデは守りの固い強敵だ。
動かずがっちり守られたら攻めにくい。
ダリルバルデの攻勢を引き出す、これは事前の作戦通りだ。
「まぁ問題は。しのぎきれるかどうかだよね」
「なんの、当方に迎撃の用意あり!
セセリア自慢のフレキシブルショルダーの力みせたげる!」
猛然と迫るダリルバルデを前に、ロウジは意気軒昂だ。
守りの硬さならルブリス・FEだって負けてない。
ロウジの苦手なファンネル兵装のガンビットではなく、
新造したフレキシブルショルダーは半マニュアルでの動作も可能だ。
モーションもロウジと協力して作成し、反射的に使えるよう付け焼刃ながらしっかり叩き込んでいる。
チャージしながらだって、攻勢に耐えるポテンシャルは十分あるはずだ。
「ロウジ、チャージに拘りすぎちゃダメだよ!
“復讐の剣”は見せ札の一つ。
元々タイマン用で使える技じゃない」
「おーけーおーけー、臨機応変、でたまかで行こ……ぉぉっとぉ!」
あえて厳しく注意を促した次の瞬間だった。
ダリルバルデが近距離間合いの外からビームバルカンと肩にマウントしたビームショットライフルを連射する。
両手を祈るに組み合わせたまま、ルブリス・FEが左右に軽いステップで攻撃を回避する。
「ロウジ、上!
グスサー・イーシュヴァラが来る!」
「わきゃっ!?」
展開されていたダリルバルデのドローン兵装が多角的な攻撃を行う。
2基のグスサー・イーシュヴァラからビームが放たれ、時間差でもう2基がビームダガーを展開し、突撃してくる。
正面からはダリルバルデが建物を遮蔽に、回避機動を制限するように猛烈なビーム弾幕を浴びせてくる。
頭上から迫るビームの刃を、受けるほかルブリス・FEには選択肢がない。
「ビームサーベル励起!
ロウジ、かっこつけてる場合じゃないよ」
「おっけー!」
セセリアの叫びとグスサー・イーシュヴァラの突貫は同時だった。
祈りの両手を崩し、ビームサーベルを引き抜いたルブリス・FEが甲高い鍔迫り合いの音と共にドローンのビームダガーを弾く。
殺到した二つのグスサー・イーシュヴァラのもう一つを弾いたのは左のシールドバインダーだった。
「……なるほど、やるものだ!」
「ルブリス・FEは手数じゃ負けないぞ!」
「ロウジ、本命が来る!」
ボブの叫びにロウジが吠える。セセリアはついていくのに必死だ。
間髪入れず、ビームジャベリンを構えたダリルバルデが飛び込んで来る。
右手に構えたビームサーベルを構え、ルブリス・FEが迎え撃つ。
ビームジャベリンの強烈な払い突きに、ロウジの反射速度がビームサーベルの防御を間に合わせる。
激しい鍔迫り合いエフェクトが発生し、両者が飛び退る。
ダリルバルデがビームバルカンを、ルブリス・FEが頭部バルカンの弾幕を張る。
互いに横ステップしながら、赤と黒の影が間合いを図る。
「セセリア、フレキシブルショルダー、いい感じだよ。
オーダー通り!」
「両腕、バインダーの関節部損耗ほぼなし。
けど油断はNGだよ、ロウジ!」
「なるほど、フリーの右腕に加えてフリーに動くシールドバインダー、実に厄介だな。
そのショルダーアーマーはずいぶん多機能な増加装甲だな!」
お褒めの言葉の直後、ダリルバルデが動いた。
バルカンを斜めにした装甲で受けながら、まっすぐに突進してくる。
ダリルバルデがビームアンカーとビームクナイが両手に構え、素早い連撃で攻め立てる。
「まずい、手数で攻めてきた!」
「……なめるなぁっ!」
セセリアの焦りを、ロウジの叫びが打ち消す。
ブーストを全開、シールドバインダー裏のスラスターが点火。
鋭いシールドタックルがダリルバルデの右腕をかちあげる。
ねじこまれるビームクナイを右手のサーベルで受け止め、至近距離でフレキシブルバインダーがビームを放つ。
しかしその一撃もすかさず割り込んできたダヤ・アンビカーががっちり受け止め、ダリルバルデが後方に飛び退る。
ビームショットライフルが拡散ビームを吐き出し、ルブリスの追い足を止める。
「シールドバインダー裏にスラスターまで仕込んであるか。
重さを水力でごまかすとは……じゃじゃ馬をよくもこうも!」
「Xディバイダーのハモニカ砲っていいお手本があったからね!」
「使いこなすさ、セセリアが作ったんだから!」
展開が早すぎる! 熱いセリフを吐くロウジをよそに、セセリアは内心悲鳴を上げる。
激しく白兵を繰り出す二人の攻防に、とてもついていけてない。
チャージは継続、あとカウント40だ。
これチャージ完了までとか絶対無理でしょ!
「だが……その余裕、突き崩してくれる!」
ボブが叫び、ダリルバルデが中間距離から足を大きく振り上げた。
足先がワイヤー射出され、右のフレキシブルショルダーに食らいつく。
拘束兵器、シャクルクロウだ。
ぴんとワイヤーが張り詰め、両者の動きが止まる。
「出力勝負で、負けるもんかっ!」
「そうだろうな!」
ルブリス・FEがワイヤーを手繰るように前へと跳ぶ。
その瞬間、ダリルバルデが両腕に構えたビームジャベリンを投擲した。
必殺の間合いの想い一撃を、右手のビームサーベルで受けるが、あまりの重さにサーベルが手から弾かれる。
その瞬間、ダリルバルデがさらに距離を詰めた。
片足で飛び、膝をつくようにして姿勢を固定。
そのまま腰をひねり、斜めに身体を傾け、ダヤ・アンビカーに納刀されたビームカタナへ手を伸ばす。
まずい、完璧な間合いの、完璧な一撃が来る。
「赤甲抜刀……!」
「僕が、欲しいのは……!」
ダリルバルデがビームカタナを抜き打ち様に横薙ぎで振るう。
その瞬間、ルブリス・FEがほんの一歩後ろへ跳んだ。
身体を弓のようにそらし、空いた両手が背中のガンビットブレードへ伸びる。
「一の太刀!」
「勝利!」
ダリルバルデが斜め下から上へ、首を狙う角度でビームカタナを振り上げる。
ルブリス・FEが全身をばねのように振るい、神速の抜き打ちで叩きつける。
遅れたのはこちら、つばぜり合いエフェクトが発生し、大きくルブリス・FEが後方へ吹き飛ぶ。
【チャージ中断。”復讐の剣”使用不可。
再チャージまでカウント60です。
ガンビットブレード通常モードで起動中】
「な、な……!?」
なんでボクら、生きてるの!? なんとか、間に合った……の?
理解は遅れ、セセリアの全身にぶわっと冷や汗が噴き出る。
すかさずビームカタナを構えてダリルバルデが追撃に飛び込み、ルブリス・FEがガンビットブレードで迎え撃つ。
縦切り、横切り、互角の鍔迫り合いを二度発生させ、ダリルバルデが飛び退る。
その際、抜け目なく投擲したビームジャベリンを左腕で拾い上げて回収していく。
きちんとグスサー・イーシュヴァラの攻撃で隙を消す用意周到ぶりだ。
「受けたか、初めて見せる一の太刀を……!」
「きぃーっ!
”復讐の剣”お披露目できないじゃん。
おのれボブさん!」
ボブが感心したように笑い、ロウジが子供っぽく地団太を踏む。
まったくもって、二人の反射神経は卓越している。
セセリアでは目で追うのが精いっぱい。
「ロウジ、ボクじゃ反射速度が厳しい。
武装変更はそっちのマニュアル操作でお願い!」
「わかった、セセリアは特等席で見てて!
キミが縫ったドレスでシンデレラが王子様とダンスするよ」
相変わらずたとえ話のセンスがズレてるよ、ロウジ。
力の抜けた笑みで息を吐き、セセリアは小さく首を横に振る。
「なるほど、必殺武器はその大型ビームブレードのさらなる強化形態だったと言うことか。
確かに高火力の大型近接兵装だが……それだけだ!」
「重さは強さ!
チャージなしでもガンビットブレードを舐めないでよね!」
舌戦と並行しながら、ロウジとボブは激しい近接白兵戦を繰り広げる。
ことこうなってはセセリアに出来ることなんてほとんどない。
セセリアの得意分野はガンプラ作りと並列作業だ。
この近接白兵戦で出来るのは、視野を広げて奇襲警戒ぐらいか。
「こうなったらボクもアリヤといっしょに実況するかぁ?」
ロウジの操作で、ルブリス・FEが猛然とダリルバルデへ突撃する。
上空の敵ドローン4基へ意識を割きながら、セセリアは実況解説席へ意識を向ける。
集中しすぎてまるで聞こえていなかったが、アリヤやハサウェイの実況解説はずっと続いていたらしい。
実況解説モードに割り振られたサブモニターの一つに大量の未読ログがたまっているのがわかる。
ちょうどその時、セセリアの広い視野が何かを見つけた。
「おろ? なんぞ、これ。
アリヤ、なんかめっちゃ光ってるとこあるよ」
『……む、実況チャンネル宛に未読メッセージ多数?
なんだろうな、しばし待て』
ポチっとな。しかし待てと言われて待つボクではない。
セセリアの操作で、たくさんたまったメッセージが流れてくる。
『あ、こら、セセリア。
勝手に!』
「ははん、なるほどなるほど。
ねーねーアリヤ、これ、いいんじゃない?」
ルブリス・FEとダリルバルデは、一進一退を続けている。
楽しげに笑い、セセリアはアリヤと内緒話を開始する。
「ほら、リアルタイムで反応してみせよう?
多分外はその方がもっと安心するよ」
「む……それは確かに。
声が届いている証拠になる。
黙殺し続けるのはまずいか」
真面目な顔で笑いを隠し、セセリアはアリヤと悪巧みを続ける。
このメッセージ、ロウジに届けてあげなきゃならない。
多分、それが一番この場を盛り上げてくれるはず。
「ならば、これならどうだ!」
「こなくそっ!」
猛然と真下から振り上げられたビームカタナをガンビットブレードで受け、ルブリス・FEが大きく跳び退る。
なんて鋭い撃ち込みだ! 戦慄が頭の上から下まで駆け抜ける中、ロウジはなおも笑う。
ヤバい、楽しい。操縦桿を握り締め、ロウジは愛機へ鞭を入れる。
機体の重さもなんのその、多数増設されたスラスターで機体を強引に振り回す。
「どっせぃ!」
一歩跳び退った距離を、低い姿勢に構えたルブリス・FEが駆け抜け、詰める。
フレキシブルショルダーが構えるシールドバインダーで守りながら、強引に白兵距離まで飛び込む。
構えたビームカタナへ、ガンビット・ブレードを横薙ぎに叩きつける。
とった! 防御の隙。重さと出力で勝る得物の威力がダリルバルデの体勢をわずかに崩す。
すかさずそのまま、ルブリス・FEが下から伸びあがるようにフレキシブルショルダーを叩きつける。
確かな固い手ごたえと共に、ダリルバルデが吹き飛ぶ。
「やるっ!」
「……ああもー、ずっこい!」
賞賛と悲鳴が同時に上がる。
致命の一撃を入れる隙はなく、ロウジは悔しげにビームキャノンの牽制を入れる。
ダリルバルデは軽傷だった。手ごたえあったタックルも直撃をしていない。
ドローンの大盾、ダヤ・アンビカーが辛くも割り込み、衝撃をしっかり受け止めていた。
「これだけ防御を固めて攻め手を増やしてるってのに!」
「ミッションボスを務めた場数、なめてもらっては困るな」
やっばい、ほんとに楽しい。額に汗を浮かべながらも、ロウジは笑う。
思い描く攻め手の限りを、セセリアの作ったルブリス・FEが忠実に実行してくれる。
君のくれた翼なら、僕はきっとどこまでも飛べる。
もっとも今のロウジは魔女さんのくれたドレスで王子様と舞踏会を楽しむ浮気者なんだけれど。
「どうした、ロウジ・チャンテ。
攻めが雑になってきているぞ?」
「……見切られ始めてるってことかな?
さっすが、ボブさん」
多分、疲れも少しある。
舌戦と射撃武器の牽制を行いながら、ロウジは静かに息を整える。
打開策はどうしよう。頭が回らなくなってきた。
そういやセセリアが静かだ、そーゆーのキミの役目でしょ?
横道にそれ始める思考、疲れを実感し始めた時だった。
『こちら、ガンプラバトル委員会のアリヤだ。
委員会権限により5分間のムービーシーンを開始する』
「はーい、緊迫のバトル中のお二人さん!
そして息詰まるバトルに見入ってる観客の皆さん!
ここで、セセリアちゃんのおたよりコーナーでっす!」
「……は?」
「どういうことだ、アリヤ」
そのセセリアが、また突拍子もないことをし始めた。
休息はありがたいけれど、さすがのロウジも困惑だ。
どこか楽しげだったボブの表情が、露骨に不機嫌になっている。
そりゃそうだ、楽しいバトルの水入りはいろいろ困る。
『ボブさん、事情の説明を……』
アリヤが声をかけ、ボブの顔が一時モニターから消えた。
ん、ん? どういうこと?
『ちょっとセセリア、悪ふざけはよしなよ!』
『まぁまぁハサウェイくん、ひとまず黙って聞きましょ?』
ハサウェイのおしかりとマリコさんのとりなしを聞きながら、ロウジは静かに息を整える。
そうだ、いくらセセリアでもライン超えの悪ふざけは多分しない。
「ほら、このバトル、ボブさんのサブマスターチャンネルを通して放送してるっしょ?
そこ宛にGBNからおてがみが届いてたんだよね」
隔絶したオフラインサーバーだけど、放送してるところが接点となったと。
うん、なるほど? ロウジは回らない頭でうなずいてみせる。
「なので突発! 闘技者のお二人へのおたよりを紹介コーナー!
ではまず、たとえばペンネーム“カーネル・オコジョ”さんからのメッセージ!
【聞いたぞ見たぞ、戦え若人!】」
『大佐!?』
「ロンメルさん!?」
ハサウェイが声を上げ、ロウジも驚きの声を上げる。
ロウジの知り合いでかわいらしいオコジョアバターの知り合いなんて一人だけだ。
「続いてペンネーム“謎多きのセクシーマーチャント”さん。
【自由な旅の帰路の無事を祈る】」
「ちょっとこらセセリア!
君、エニルさんのカラダしか見てないの!?」
ゼッタイこのペンネーム、セセリアが今即興でつけてる!
大声でツッコミを入れながら、ロウジは安堵にほっと肩の力が抜けるのを感じていた。
フレンドの人達が、今バトルを見てくれてる。
ちゃんと僕らの声は届いていたんだ!
「ははぁい、というわけで全部は紹介出来ないので、
フレンドの皆さんのメッセージをどばっとモニターへ流します。読んでね〜」
ロンメル【聞いたぞ見たぞ、戦え若人!】
エニル【自由な旅の帰路の無事を祈る】
ボスアッガイ【友情と愛で立ち向かえ!】
ガデム【ミラクルパワーで大逆転じゃ!】
ラカン【ハサウェイくん、あんな無茶はもうやめなさい】
マイケル【マリコ、たまにはうちにも顔を出しなさい】
ロージィ【がんばれロウジ!】
モニターにメッセージが文字となって次々に流れてきた。
じんわり胸が温かくなり、ロウジは身体を小さく震わせる。
ただの文章なのに、イキイキした声が脳裏で蘇る。
ありがとう、このGBNで出会い結んだ絆たち。
僕はあなたたちに支えられてここにいる。
「最後にほい、もちろんこのお二人も。
ペンネーム“ヘビメタママン”“マスクドシショー”さんから!」
トロン【かえったらローストビーフよ。たっくさん焼いてあげる!】
“赤い彗星のひと”【今は楽しみ、無事に帰ってきなさい】
途端に視界が涙でボヤける。
心配かけてごめんなさい、ママ、パパ。
会えない間の寂しさが、一気に心の表面へ噴きあがる。
パパだって、ママだって、自分と同じかそれ以上に心配で不安だったろう。
「だいじょぶロウジ、戦える?
すっごいブスな顔なってるよ」
「わがっでるよ、イジワル!」
わざとらしい声のイジワルなセリフは、セセリア流の慰めだ。
作り物のアバターだってのに、想いと一緒に涙があふれてとまらない。
ハンカチを取り出し、ぐしゃぐしゃになった顔の涙の後を乱暴に拭う。
「ごめんね、みんな。もうすぐ無事に帰るから。
ありがとう、みんな。絶対に、勝つから!」
荒く大きく深呼吸して、心と身体をゆっくり整える。
大丈夫、疲れは吹っ飛んだ。心のエネルギーは満タンチャージ。
ムービーシーン終了のカウントが迫る中、ロウジは静かに決意をみなぎらせる。
目が真っ赤だろうと関係ない。
見ている皆にみっともないバトルだけは見せらんない!
「メッセージへのロウジの反応、見せておくべきです。
この放送がやらせでは無いと証明するべきかと」
「なるほど、そうだな。
ロウジ達の反応を見せることで、外部の関係者もより安心するだろう」
短く息を吐き出し、アリヤの説明にボブは理解を示した。
マリコの提言に乗り、一連のバトルはサブマスターチャンネルを使用して録画放送を行っている。
外の世界の速度に合わせた変換処理を行っているだけで、ほぼリアルタイムに近い。
白鳥の力によって隔絶されていたオフラインサーバーだが、そこへのコメントという形で接点が開いてしまっていたようだ。
「水入りは不愉快だが、必要な提言だ。
すまないアリヤ、あとわずかだが、職務を続行してくれ」
「了解です」
うやうやしく敬礼の真似事をして、アリヤとの通信が切れる。
まったく、自分には分不相応な部下だ。
この後が自分にあるなら、アリヤ達だけは罪に問われないよう尽力せねばなるまい。
「ごめんね、みんな。もうすぐ無事に帰るから。
ありがとう、みんな。絶対に、勝つから!」
声を震わせ、ロウジが力強く宣言する。
グエルのダリルバルデのコクピットへ意識を戻し、モニターへ目を向ける。
赤い頬、泣きはらした瞳、けれどその瞳の奥には得体のしれないすごみを感じる。
「なるほど、君には必要な時間だったようだな」
「……はい、ボブさん。
はっきり理解出来ました、僕は一人なんかじゃないってこと!」
ロウジが力強くうなずき、精悍な顔つきでモニター越しに鋭い眼差しを向けてくる。
家族、友人。無数の手がその背中をそっと支えるのが見えるかのようだ。
人間ではない自分にはけして持ちえない絆は、いったいどれだけの力を持つものか。
どこか他人事のように淡い笑みを浮かべながら、ボブは静かに唇をかみしめた。
「ありがとね、アリヤ。そしてボブさん。
でも、まだおたよりコーナーは終わってない」
「……ふむ?」
ボブへ向け、セセリアがいたずらっぽく笑う。
わずかな残り時間を確認し、ボブはかすかに首をかしげて見せた。
「ボブさん宛のメッセージだよ、誰かわかるかな?
”パチモンセセリア”さんから。
【きばれ、ボブ!サブマスター魂や!】【お前のなりたい自分をみせてみぃ!】」
ボブにも誰かははっきりと判る。
同僚のエセリアだ。
だが、なぜかはわからない。
期待を裏切り、役目を放棄した自分にメッセージを送る理由がどこにある?
エセリア【きばれ、ボブ!サブマスター魂や!】【お前のなりたい自分をみせてみぃ!】
グレミー【判官贔屓させてもらいます】
プルツー【最強グエルで有終の美を飾れ】
フェルシー【グエル先輩、必勝!】
キャプテンジオン【その行為、マナー違反。だがその信念までも否定はしまい】
セセリアの言葉に続き、応援のメッセージがモニターに流れてくる。
ロウジと比べれば、数も熱量も少ない。
わからない。なぜだかわからない。
けれど、なぜだか震える、プログラムされた心が奮い立つ。
「あと、最後。
”匿名希望”さん……いや、ほんとこれ誰?
【答えは見つかったか?】」
静かに、ボブは天を仰いだ。
アバターの身体が小さく震える。
喉の奥から笑いがこぼれ、大きくなっていく。
それは全てをなげうち、ボブの無謀な挑戦に手を貸してくれた存在からのメッセージ。
声を殺して笑いながら、ボブは呟く。
そこにいたのか、”白鳥”よ。
【答えは見つかったか?】
機械的な声が、耳元でささやいたかのようだった。
意地だけではじめた、最後のガンプラバトルだった。
だが、今はもうそれだけではない。
「そうか、見ているのか、”盟友”よ」
同僚が、観客が、そして”盟友”がこのバトルを見ている。
無限に力が湧いてくるような、この高揚感。
AIである自分には縁がないはずのものだと思っていた。
「……いけるか、ロウジくん?」
「はい、絆エネルギー満タンです。
ボブさんこそ、大丈夫ですか?」
まだ少し赤い目で、けれどロウジは不敵に笑う。
ボブは静かにうなずき、笑みを浮かべる。
自分も、孤独ではなかった。
きっとロウジとそっくり、不敵な笑みを。
「……無論だ。
勝負だ、挑戦者ロウジ・チャンテ。
我が全霊をもって迎え撃つ!」
魂を振り絞るようにボブは叫ぶ。
戦いぶりをもって示さねばならない。
このバトルは”盟友”が稼いだ時間で得たものなのだから。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・エネルギーチャージ式の必殺武器
GBNにおけるサテライトキャノン、月光蝶などの戦略兵器は一定時間チャージを行うことを代償として威力を引き上げている。
また、バスターライフルなどの通常使用する武器を一定時間のチャージによって大火力モードに切り替えるなどのパターンもある。
チャージ中は移動できない、出力低下などのペナルティを受けるため、対多数のレイドバトルなどで護衛機と併用して使うことが多い。
爆熱ゴッドフィンガーなども前口上とチャージを併用して威力を上昇させる。
チャージ時間やペナルティ内容によって威力の上昇量は変わり、細かく設定が可能。
そのため、切り札として搭載するガンプラも多い。
チャージを途中で中断した、させられた場合、必殺武器は使用出来ないが、チャージなしで使用出来る機能は変わらず使用出来ることが多い。