リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。 作:ゼラチナマスター
12/28(日)に6話のエンディングを投稿します。
その後ちょろっと間空くかもしれませんが
来年はじめにエピローグといつものあとがきなどが来ます
ロウジとボブが激戦を繰り広げている同日、ほぼ同時刻。
『ごめんね、みんな。もうすぐ無事に帰るから。
ありがとう、みんな。絶対に、勝つから!』
「……泣き虫はまだまだ治らないな、あの子も」
「いったい誰に似たのかしら、ね」
泣きそうな笑顔のまま、モニターの中の我が子が力強く宣言する。
目尻からこぼれそうな涙をそっと拭い、トロンは微笑を浮かべた。
ここはGBNのいつものPVP可能サーバー、レイドバトル後に設営されるリザルトロビーだ。
モニターに映るロウジが、皆が送ったメッセージ一つ一つに万華鏡のように表情を変えていく。
あれは間違いなく本物のロウジであり、行方不明の我が子だ。
「だが、涙は再会までとっておくんだ、ママ。
ここの皆のほとんどは事情を知らない」
「……! ええ、そうよ、そうね。
ありがと、パパ」
寄り添うように腰掛けた“仮面の父”が耳元でささやき、トロンは表情を引き締める。
リザルトロビーは参加者達が終了後に残り、健闘を称え合うための場所だ。
ちょっと大きめな会議室の広さぐらい、本来簡素なスペースが多くのダイバー達でごった返している。
「さて、間もなくバトル再開だ。
この“決闘”はいわばサブマスターボブからロウジくんへの卒業試験……」
「さて、ボブくんにそんなつもりはあるかどうか。
ロウジくんの本気の全力で応えているのは確かだが。
勝敗の読めない、実に楽しい勝負だね」
即席で作り上げた実況席に座るエニルが真相を適度にごまかし、ロンメルがそしらぬ顔で追随する。
グレミーがうなずき、プルツーが渋面で呟く。
「……ええ、このダリルバルデ、おそろしい強さです」
「ああ。認めざるを得ないな。
我々があれほど苦戦した“最強グエル”よりさらに凶悪かもしれん」
壁際に設置された大型モニターを前に仲の良いメンバーで固まり、さながら簡易のシアタールームだ。
リアルの事情あるメンバーを除き、レイドバトル参加者の半数以上がまだロビーに残っている。
「ボブのヤツ、アレほどメンタルがメタクソやったのに……
何かふっきれたみたいやん」
「……そうね。
オフラインサーバーの仕様で、あの中は体感2週間ほど。
きっと何か感じ入るものがあったのでしょう」
エセリアが複雑な表情でうなずく。
神妙な表情でトロンもうなずき、 膝の上に抱えた黒錆びた掌代のサイコフレームをそっと撫でる。
あなたの献身も、無駄ではなかったということね。”白鳥”
「だが、ロウジくんの新型ルブリス、なかなかユニークな性能のようだ」
「確かに、見た目と違い堅実な中身だったデコトレーナーとはまるで真逆です」
クランプの言葉にコズンが無言でうなずき、ラカンが興味深げにモニターを見やる。
「セセリアちゃんの若いながらしっかりしたビルダー技術と、ロウジの奇抜な発想のあわせ技ね」
トロンがセセリアを褒め、師匠である“仮面の父”が無言で口元を緩める。
パパもたまにはかわいい弟子を褒めてあげればいいのに。
「両肩にシールドバインダーを装備したフレキシブルショルダーが実に堅牢だ。
両腕もあわせれば、近接戦の防御の手数がかなり多い。
機体設計の基礎に、ロウジが苦戦したグラン・ジオングを参考にしているのかもしれんな」
「ムーンクライシスを出典とする、ミネバ様の御座船として設計されたという機体だな。
操作はかなり複雑に思えるが、実際対面してみてどうだったのかね?」
エニルがモニターにグラン・ジオングの映像を呼び出し、解説を始める。
物知りなロンメルがさっそく食い付いた。
グラン・ジオングの見た目は、確かに威圧感溢れる大型のMSだ。
特筆すべきは、両肩から一本ずつ生えた有線投射も可能な白兵用クローアームだ。
通常の両腕とあわせれば腕は四本、人型こそ崩れていないものの異形の威圧感を発する悪魔的な機体だ。
「アンチ・ファンネル・システムによる足切り性能がまず厄介です。
クイン・マンサでは満足なバトルもさせてもらえませんでした」
「何よりもグラン・ジオングを操るタウ・リンの腕がすさまじいものだった。
強化された反射速度と高い攻撃性を持ち、
近接戦においては四本の腕を巧みに操り、鉄壁の防御を誇っていたよ
グレミーの言葉に、エニルが評価を重ねる。
分厚い装甲と高い近接白兵戦能力、まさしく今のルブリス・FEの戦い方だ。
たしかに、あの映像ログは確かに凄まじい激戦だったわ。
“異邦人”タウ・リンとの激戦の映像を思い返し、トロンは頷く。
「なるほど、苦戦の記憶をベースに乗機に取り込んだ可能性はあるな。
ではエニル女史、この決闘の勝敗はどう見るね?」
「……このままではロウジが負ける。
おそらく、ロウジはまだルブリス・FEの真価を引き出せていない」
ダリルバルデの武装を呼び出し、エニルは解説を続ける。
「ダリルバルデの鉄壁の防御の秘密は手数の多さだ。
ドローン制御される大型盾のダヤ・アンビカー、
同じくドローン制御で攻撃に回る自律型サーベルの4基のグスサー・イーシュヴァラ。
当然ながらダリルバルデ本体の両腕も攻防を行う。
この全てを打ち破り、致命的なダメージを与えるには、
今のルブリス・FEでは手数が足りまい」
『以上、セセリアちゃんのおたよりコーナーでした!
それじゃみんな、また後で。
バトルの観戦、楽しんでね!』
エニルの解説にかぶせるように、セセリアの宣言が響き渡る。
難しい顔のエニルが、誰よりも楽しげに口元を緩めて椅子へ深々と腰掛け直す。
「だが……あそこにいるのはロウジだ。
いつも想像を軽々と飛び越える子だ。
見せてもらうとしよう、あの子が導き出す答えを」
まったくその通り、我が子が親の望んだ通りに育ってくれるわけではない。
エセリアの言葉にトロンが実感を込めてうなずく。
「確かに、レイドバトルの開幕で、自分はここだって叫びだすような人でした」
「別にあっさり負けてくれても良いんだがな……」
グレミーが笑みを含んだ声で呟き、プルツーが憎まれ口をたたきながらかすかに笑みを浮かべる。
『カウントダウン開始、ムービーシーン終了まであと30!』
隣の“仮面の父”と視線を見交わし、トロンも視線をモニターへ向ける。
膝の上に置かれたサイコフレームをそっと撫で、トロンは静かに語りかける。
「……いっしょに、見届けましょう。
大事な晴れ舞台なのですものね」
“白鳥”から言葉は返らない。
だが、かすかにサイコフレームが震えたのは答えなのだろう。
皆が見守る中、最後の激突が始まる。
『バトル、リスタート!』
アリヤの宣言と同時、モニターに映るダリルバルデが後ろへ跳ぶ。
これは予想外! 激突の予感をスカされ、ロウジは目を見開く。
ダリルバルデの斜め上方に浮かぶダヤ・アンビカーが、固定されたビームショットライフルで拡散ビームを放つ。
「変な挙動。
いったい何を……」
「そんな豆鉄砲!」
逃さない! セセリアの呟きを振り切るように叫び、ロウジは反射的にブーストボタンを全開した。
拡散ビームをビームコートされたショルダーで受け流し、低い姿勢で構えたルブリス・FEがスラスターを全開する。
こちらの突進にあわせ、ダリルバルデが再度後方へ跳びのく。
そのまま建造物に挟まれた狭い路地へ赤い機影が飛び込む。
それでも追い足の方が速い!
ガンビットブレードを構えて飛び込んだ瞬間、前方モニターに黒い連装機雷が浮いていた。
「ペレットマイン!?」
「しまっ……!」
バルカンの迎撃もわずかに遅い、爆発の小よろけと爆炎の中、真紅の甲冑のモノアイが獰猛に輝く。
爆炎を縫ってビームジャベリンが飛んでくる。反射で両手持ちのガンビットブレードが叩き落とす。
次の瞬間、ダリルバルデ本体が爆炎の中から飛び出して来た。
ダヤ・アンビカーを正面に構えてのシールドタックル。
響くダメージアラート、速度と質量の暴力がコクピットを激しくシェイクする。
至近距離、メインカメラの視界を覆うように押し付けられたダヤ・アンビカーの向こうでダリルバルデが吠える。
「赤甲抜刀術……三の太刀!」
「……っ、このっ!」
まずい、太刀筋が見えない!
フレキシブルショルダーもダヤ・アンビカーで抑え込まれ、閃光のような一撃がコクピットを襲う。
辛うじて盾にした右腕がガントレットごと肘から先を切り飛ばされた。
「ブレード投棄!」
やられた! 反射神経勝負なら負けないとおごり、罠を踏み破り損ねた。
片手じゃまともに振れないガンビットブレードを放り捨て、同時にウェポントリガーを押し込む。
追撃にかかろうとするダリルバルデへ、すかさず右の肩口から体当たり。
激突と同時に、空いたルブリス・FEの左腕で、ビームカタナを握る敵の右腕をすかさず抑え込む。
このまま、ただで返してなるもんか!
両肩のサブアームをフルパワー。ダヤ・アンビカーを逆に押し返す。
密着距離で、敵の左マニピュレーターに痛烈な飛び膝蹴りを叩き込む。
ぐしゃり、鈍い衝撃が伝わる。ダリルバルデの左マニピュレーターの指が捻じ曲がっていた。
だが同時、上方から激しいロックオンアラート!
「上方からグスサー・イーシュヴァラ!」
「ガンビット、防御っ!」
投棄したガンビットブレードのガンビットを呼び戻し、フレキシブルショルダーを全力で跳ね上げる。
ダヤ・アンビカーを振りほどき、ダリルバルデを突き飛ばして近接距離から離脱する。
放たれたビームバルカンに頭部バルカンで応戦し、降り注ぐグスサー・イーシュヴァラをガンビットに任せる。
かいくぐってきたグスサー・イーシュヴァラの一基には、左で抜き放ったビームサーベルの防御が間に合った。
逃がさんとばかりに射出されたシャクルクロウを、左のフレキシブルショルダーを振り回して弾く。
距離はとれた、だがオートマ操作のガンビットがマニュアル操作のグスサー・イーシュヴァラに一基落とされた。
ビームショットライフルをじぐざぐのステップで回避しながら、ロウジは悔しげに唇を噛みしめる。
「どうした、ロウジ・チャンテ。
そんなものか?」
「たかが腕の一本や二本で!」
意気軒昂に言い返す。とはいえ状況は有利とは言えない。
こちらは右腕を失い、敵のマニピュレーターを中破させた。
だがダリルバルデが左腕を自切し、その先にグスサー・イーシュヴァラの一基が接続される。
鈍い音と共に、ダリルバルデの左マニュピレーター部からビームダガーが生える。
「うわ、ずっる!」
ほとんど白兵戦能力落ちてないじゃん!
叫びの後から、焦りがほのかに芽生える。
バトルは楽しい、でも勝ちたい。でもどうやって?
「……うっぐ、ヤバい」
思考がぐるぐる回る。動きが鈍る。
パパが言ってた。楽しいだけじゃ、けしてたどりつけない先があるって。
わからない。バトルの楽しさの先ってなんだろう。
「ロウジ、アレだ!
コズンさんとのバトル!」
「コズンさんとの……?」
セセリアの叱咤が、余計な迷いをこそぎ落としてくれた。
……そうだ、コズンさんのドムトローペンと白兵でやりあったとき。
長くて重いヒートアクスでヒートソードの鉄壁の防御が崩せなかった。
僕は、あの時どうした? 一本化された思考が、答えへ瞬時にたどり着く。
「セセリア、アレだ!
アレで行くよ!」
「任せろ、相棒!」
一人では、まだこの先は見えない。
けれど今はロウジが迷った時、セセリアが背中を蹴り飛ばしてくれる。
どんなに苦しくたって、二人なら!
「ガンビットアームズ・再装着!」
「インストール、”悪鬼”!」
セセリアの指示に合わせ、ロウジは拳を胸の高さに構え、高らかに叫ぶ。
フレキシブルショルダーが大きく展開し、シールドバインダー裏から隠し腕のようなサブアームが一本ずつ伸びる。
残り5基のガンビットが左手、新たに増えたサブアーム二本、両足へと一基ずつ装着される。
そして、装着されたガンビット達からビームの刃が5本形成される。
強いが重くて攻撃が単調なガンビットブレードでダメなら……手数で勝負!
「モード、”ヘカトンケイル”!」
「百の腕もつ巨人にとって、右腕一本ごとき!」
セセリアの名乗りに合わせ、ルブリス・FEがゆらりと低い姿勢で獣のように構える。
恐るべき強敵として立ち塞がったグラン・ジオングを心に思い描き、ロウジは吠える。
鉄壁の防御とすさまじい攻撃性、そして強く、揺らがぬ心をもった敵をリスペクトをこめて!
「ほう、なるほど。
確かに手数は増えたな。
だがそれで何が変わるというんだね?」
慢心もなく、ボブが冷静な声で指摘する。
オートマ制御しか出来なかったガンビットを能動的に同時操作するため、手足に装着する。
サブアームを増やし、装着して手数を増やす。
確かにこれだけなら小手先の技に見えるかもしれない。
「吼えろ、サタンソウル!」
「決めるよ、ロウジ!
パーメットスコア……666!」
だからここで、真の奥の手だ。
ロウジの叫びに、セセリアが隠し機能を全開する。
全身の関節とスラスターから黒い炎が噴き出し、モニターに666の数字が刻印される。
トランザムやEXAM相当、短時間だけ機体の機動力を爆発的に底上げする機能。
ここで決める。決意を胸にロウジは声を張り上げる。
「この百の腕が! 悪魔の力が!
貴様の鉄壁の防御を食い破る!」
牙を剥く悪鬼のような笑顔で、ロウジは高らかに言い放つ。
必要なのは、漆黒の堕天使が身に秘める勝利への渇望!
今の自分は、バトルを楽しいとしか思えない未熟者だ。
だから今は仮面をかぶる、どんな犠牲を払ってでも勝つという覚悟をもった人の。
タウ・リン。今だけ、あなたのセリフを借ります!
「どんなに望み焦がれても圧倒的な力の前に捩伏せられる!
その苦しさを思い知って死ぬがいい!」
タウ・リン。 ヌーベル・エゥーゴ所属のテロリスト。
あなたを理解出来たなんて思い上がりはしないけれど。
ニセモノの戦争しかないこの世界でも、あなたの勝利への執念はホンモノだった。
かつての強敵のセリフを借り、ロウジは傲慢な笑顔でモニターを睨みつけた。
異形のシルエットに変じたルブリス・FEの全身が、黒い炎に包まれる。
機体能力を上昇させるリミッター解除系の能力!
ボブの心でアラートが大音量で鳴り響く。
「どんなに望み焦がれても圧倒的な力の前に捩伏せられる!
その苦しさを思い知って死ぬがいい!」
強気な笑みでロウジが吠える。
大人しく柔和な今までのロウジとはまるで逆の姿だ。
慎重に対応せねば、即座に足をすくわれる!
「ならば、見せてもらおう!」
中距離からボブは先手を取った。隙の少ない射撃による牽制だ。
ビームショットライフルの二連射から、浮遊機雷ペレットマインを投射する。
ルブリス・FEが前傾姿勢のままビームの射撃をぬるりとステップで回避。
すかさず左腕に接続したガンビットからビームを放ち、ペレットマインを誘爆させた。
この程度はやってくる。想定にあわせてボブは動く。
ブーストをチョン押し、ダリルバルデがビームジャベリンを突き出し前へ。
その瞬間、激しいロックオンアラートがコクピットを突き上げた。
ペレットマインの爆風の中から、ルブリス・FEが猛然と飛び出す。
「ぬるい!」
「……ほう!」
ボブの口から驚嘆が漏れる。
こちらの想定を超えてきたか! 爆炎に装甲を焦がし、ルブリス・FEが至近距離へと飛び込んで来る。
漆黒の機影がビームジャベリンの穂先の下へもぐりこみ、柄を右肩がかちあげる。
そのままルブリス・FEの左腕が最短距離でコクピットへ突き込まれる。
左腕がグスサー・イーシュヴァラに換装されていなければ終わっていた。
短いビームダガーの刃先が辛うじてコクピットを守り、つばぜり合いで両者が後方へ弾かれる。
その瞬間を狙いすまし、上空待機のグスサー・イーシュヴァラが降り注ぐ。
「それを……待ってた!」
「なんだと!?」
だが、狙いすましていたのはロウジも同じだった。
三つの斬撃を両肩のサブアームで受け、シールドバインダーで止め、一つを避けてすかす。
すかされ、地面付近で向きを変えるグスサー・イーシュヴァラの1基を、ルブリス・FEの右足が蹴り飛ばす。
右足に装着したガンビットのビームの刃が、正確にドローン端末がまた1基破壊する。
なんて手数、見事なカウンター! ダリルバルデの豊富なはずの防御の手札がどれも一手届かない。
「ちぃっ!」
「来るか!」
人工の心が泡立つ。舌打ちするようにボブが叫び、ダリルバルデが動く。
守ったら押し切られる! ぞっとする確信を噛み潰し、ボブは動く。
ダヤ・アンビカーがビームショットライフルを斉射するにあわせ、ビームカタナを納刀して前へ。
「赤甲抜刀……二の太刀!」
鋭い一撃が、コクピットを固く守る右のフレキシブルショルダーを斬りとばす。
だがその瞬間、ロックオンアラートとダメージアラートがほぼ同時に響く。
ルブリス・FEの左腕の刃が残身をとろうとする右腕を切り飛ばす。
同時に左のフレキシブルショルダーが投射され、ダヤ・アンビカーのビームショットライフルへ突き刺さる。
ダメージ覚悟のカウンター攻撃!
しかも有線操作の投射攻撃だと!?
「貴様!」
「まだだっ!」
緊急防御!
ボブとロウジの叫びが交錯し、ゼロ距離で膝から射出されたペレットマインが起爆する。
激しい爆発が両機の間で巻き起こり、漆黒と真紅の機影を密着状態から強引に引きはがす。
至近距離の爆発で二機が強よろけに陥り、回復は同時だった。
ルブリス・FEが左フレキシブルショルダーを有線ワイヤーで引き戻し、再度肩部へ装着する。
ダリルバルデが中破した右腕をグスサー・イーシュヴァラに換装し、両腕のサーベルを構える。
白兵距離のやや外、静かに二機がにらみ合う。
「自爆覚悟のゼロ距離起爆とは……!」
「フレキシブルショルダーの有線操作とはよくも……!」
称賛の言葉を述べながら、互いに間合いを読み合う。
高まる緊張の中、すり足のような動きで立ち位置を少しずつ変えていく。
まさか緊急防御に機雷自爆まで使う羽目になるとは。
危険な間合いから離脱こそ出来たが、膝のペレットマイン射出口は大破し、リロード不可だ。
こちらはビームカタナとジャベリン使用不可、向こうも右腕右肩を失った。
手ごわい。漆黒の異形のシルエットを見据え、ボブは確かな称賛を抱く。
武装配置を変え、バトルスタイルを的確に変えてきた。
一撃の威力より手数を重視し、にじりよるようにこちらをじわじわ追い詰めてくる。
「決着は近いな、ロウジ!」
「死は誰にでも平等だ」
意味の通らぬ問答が次の交錯の合図だった。
だが、それでも!
ビームバルカンの牽制射撃と同時、左右腕のビームダガーを構えて低い姿勢でダリルバルデが前へ。
右肩ガンビットのビーム射撃をダヤ・アンビカーでかわし、ビームダガーで敵コクピットを狙う。
「赤甲抜刀……一の太刀!」
大きく振りかぶった右の抜き打ちの一撃を、フレキシブルショルダーが硬く受け止める。
硬い、やはりダガーでは威力が足りんか!
フレキシブルショルダーがこちらの右腕を大きく跳ね上げ、即座にカウンター。
ルブリス・FEの左腕がダリルバルデの右腕の付け根を狙う。
だが、それは、先ほど見た!
「割り込め、グスサー・イーシュヴァラ!」
攻撃型ドローンを身代わりに差し出し、攻撃をしのぐ。
カウンターに完璧なカウンターをあわせ、左のビームダガーをコクピット目掛けて突きこむ。
とった! 確信するほど完璧なタイミングだった。
「うわぁっ!?」
だが、その確信を、ルブリス・FEの速度が上回った。
悲鳴と共にルブリス・FEが全力で飛び退り、地面へ転がるようにして一撃を避ける。
追撃に放ったビームバルカンを転がって避け、シャクルクロウさえも弾く。
転倒姿勢からバネ仕掛けの人形のように跳ね飛び、ルブリス・FEが間合いの外へと逃げ延びる。
必殺だったはずの一撃が、わずかに浅く胸部装甲をえぐるだけだで終わってしまった。
これもしのぐ、なんと恐るべき反射速度か!
ライフルの大破が、なんといまわしい。驚嘆と賞賛が思わず口からこぼれ出る。
「よくもここまで……!」
ルブリス・FEが低い姿勢で構え、全身にまとう黒い炎を強める。
強い。おそらく自分よりも。
冷静に認めながらも、それでもなおボブは勝利を諦めない。
30カウントをしのいだ。相手の限界もおそらく近い。
「ボブさん、それは……
あなたが強くあったから!」
傲慢な笑みの中に素直な称賛を込め、ロウジが笑う。
ロウジの息が荒い。集中力の限界も近いだろう。
だからこそ、ぞっとするような確信がある。
何かが来る、全てを振り絞った最後の攻撃が。
「予言する。
次の交錯で貴様は心の臓を食い破られて死ぬ」
「来い、挑戦者!
どんな攻撃をも受け止めてやる……」
そのしぶとさで相手に絶望を与えることこそ、ボスエネミーの矜持!
ロウジの宣告を受け止め、ボブは静かに反射速度を研ぎ澄ます。
次の瞬間、凄まじい速度で左フレキシブルショルダーが投射された。
一度見せた、投射攻撃!
反射的にダヤ・アンビカーを前に出し、一撃を弾く。
その瞬間、強烈なロックオンアラートがコクピットを突き抜けた。
左フレキシブルショルダーとダヤ・アンビカーで半ば覆われたメインモニター。
その影からルブリス・FEが勢いよく飛び出す。
「フレキシブルショルダー……パージ!」
「なんとぉ!」
最大の強みを、ここで捨てるだと!?
重量感溢れる両肩のフレキシブルアーマー、そしてサブアームを切り捨てたルブリス・FEの動きは神速だった。
突進にあわせてダリルバルデが放った右ビームダガーを、漆黒の機影が軽々と跳躍で越える。
敵機の左掌がダヤ・アンビカーの上端を掴み、そこを支点に軽業のように倒立前転の動きで越えていく。
動きは見えた、対処の方法も浮かぶ。ただ動きだけが追い付かない。
ルブリス・FEが機体を捻り、ダリルバルデの真後ろへ漆黒の堕天使が降り立つ。
完璧な死角、そして死地。恐怖と確信が突き抜ける。
「まだだ!」
左腕を後ろに構え、咄嗟にバックダッシュ。
ビームダガーの刃でコクピットを狙う。
だがその一撃をガンビットが受け止め、同時に激しいダメージアラートがコクピットに響く。
右足切断。脆い膝裏に敵の右足のビームの刃が突き刺さっていた。
オートジャイロつきの操作でも支えきれず、機体が大きく傾ぐ。
動きを止められたダリルバルデの背後で、ルブリス・FEが拳を固めて貫手の構えを取る。
両腕のグスサー・イーシュヴァラを真後ろへ闇雲に投射する。
「おおおおおお!」
「サタン・スティンガー!」
ドローンのビームダガーが敵機の頭部へと突き立つとほぼ同時。
ルブリス・FEの貫手がダリルバルデのコクピットへ背後から突き刺さる。
ビームの輝きをまとったマニピュレーターが、コクピットシートの真後ろから生える。
激しい衝撃がアバターを揺らし、視界が暗転する。
勝利を認めるさわやかな気持ちと、猛烈な悔しさが胸の中で渦巻く。
そうか、負けか。
静かに呟き、目を閉じた。
その瞬間だった。
【Have your wishes been granted?】
“盟友”の、声が聞こえた。
ラ、ラ。という静かな音と、光が目の前に広がり……
ボブの意識は、不思議な空間にあった。
「“白鳥”……お前!」
“盟友”の問いに応えず、ボブはまず戸惑いの声をあげる。
辺りに広がるのはララ音響くニュータイプ空間。
ボブの前に現れたのは黒錆びたサイコフレームのオブジェクト。
そして、その前にうずくまる“白鳥”が一羽。
ボブの望みのために奔走した“盟友”の、あまりに弱々しく痛ましい姿だった。
「……俺のために、そこまで」
【役目がために身を粉にするは道具が本領。
案ずるな、これは我が終着駅ではない。今は、まだ】
首をもたげ、弱々しくくちばしを震わせ、けれど“白鳥”がきっぱりと断言する。
そうだ、お前は常に道具を自認していた。
人でもなく道具でもない自分とは違う。
ボブは胸に手を当て、静かに己を省みる。
【決闘、最後まで見届けたぞ、“盟友”よ。
本当にもう、良いのだな?】
「……答えは出たとも。
俺は“人間になりたかった”のだ……“盟友”よ」
静かな口調で、ボブはきっぱりと言い放つ。
妬ましかっただけではない。
自分は人に憧れていたのだ。
「ロウジくんに負けたのは必然だったのかもしれん。
あの眩い輝きは、今の俺にはないものだ。
手に入れたはずなのに、気付かずにいた……」
ボブは静かに言葉を重ねる。
自分は、人に憧れていたのだ。
人が見せる可能性の輝きに、どうしようもなく想い焦がれていた。
人は努力して、成長することが出来る。
人は絆でつながり、何かを与え、何かを得る。
「自分にもあったのだ。
戦い以外に得られたものが。
お前もずっと見ていてくれたのだな、“白鳥”よ」
バトルに夢中で省みる余裕こそなかったが。
ログを振り返ればたくさんのメッセージが届いていた。
フェルシーが、アリヤが、エセリアが。
エニルも、トロンも。
AI達、そして同僚のサブマスター達が激励をいくつも届けてくれていた。
「己の望みと“未来”に目をつぶり、なんと無様にもがいたことか。
けれど……答えは出せた。
何より、“盟友”たるお前と出会えた。
それだけは無意味ではなかったよ」
ボブは穏やかに、“盟友”へと笑いかける。
差し伸べられていた手に気付かず独りもがいていただけだ。
自分にも、未来と可能性はあったのだ。
【ならば、せめて……
“盟友”の“未来”がより良く、長くなるよう我も努めよう】
静かに、ララ音が遠くなる。
ニュータイプ空間が消えていく。
罪を重ねた自分にもうこの先はあるまい。
さぁ、未来ある子達を外に届けよう。
ボブは穏やかにうなずき、静かに目を閉じる。
【Your wish has been granted】
機械的なその声が、穏やかに響く。
淡い夢の終わりを告げていた。
完璧な一撃で、勝負は決まったと思っていたのに。
勝敗すら宙ぶらりんで待たされるこのもどかしさといったらもう。
「これって、まさか、ラスボスの第二形態があるんじゃ……?」
「ロウジ、落ち着いて。
確かに一度大破判定は出たよ!」
どこかわくわくした顔で呟くロウジへ、セセリアはルブリス・FEのサブコクピットから静かに声をかける。
しょーじき、混乱しているのはセセリアも同じだ。
キラキラしたニュータイプ空間を外側からガンプラカメラで眺め、臨戦態勢のまま待機中。
ここはまだオフラインサーバーのバトルフィールド、二人がいるのは愛機の中だ。
「ちょっと、アリヤ。
クリティカルな一撃が入ったはずだよね。
この状況、どーゆーことさ!」
「こちらも調査中!
想定外なんだ、待ってて!」
セセリアの問いに、さしものアリヤもいらだたしげに叫ぶ。
敵の背後をとったロウジが左の貫手を完璧にコクピット決め、ダリルバルデが確かに一度は機能を停止した。
だがその直後、ダリルバルデのコクピットからキラキラの光があふれ出し、機体を包み込んだ。
巻き込まれないようルブリス・FEの後方に飛び退った瞬間、パーメットスコア開放の限界時間が来た。
今は奥の手の代償に重い機体を酷使し、状況の推移をただ見守るばかり。
【Your wish has been granted】
その不吉な響きに、セセリアはぎょっと身をすくませる。
ダリルバルデを包むキラキラ空間が歪み、消え去ろうとしている。
いつもこの声は騒乱の前触れだった。
このズタボロな機体状況で、まさか容赦なく第二ラウンド!?
「やったね、第二形態!?
隠しボスとの第2ラウンドだ!」
「ロウジ、ワクワクした顔で言わない!」
バトル再開の覚悟を決め、セセリアはもう一度モニターに意識を集中する。
けれどキラキラ空間が消え去った後、バトルフィールドに現れたのは大破したままのダリルバルデだった。
ぽっかり大穴が空いたコクピットの前にうずくまっていた白衣のアバター……ボブが立ち上がり、顔を上げる。
悔しげに身を震わせ、唇を噛み、それでもボブが大げさな仕草で拍手を始める。
静かな拍手がバトルフィールドに響き渡り、遅れて観客席から歓声が静かに上がる。
「ゲームクリア、おめでとう、ロウジくん。
聞こえるな、アリヤ。
決闘は俺の負けだ」
「……ぇ?
ちょっと待ってよボブさん。
ないの、第二ラウンド!?」
通信機を口元に充て、ボブが笑顔を浮かべる。
唖然とした顔でロウジが食ってかかる。
なぜ敗者が満足気で、勝者が悔しげなんだろう?
「ダリルバルデ全損を確認!
勝者……“自由人”ロウジ・チャンテ!」
アリヤの高らかな宣言と共に、学園をバックに静かに花火が打ちあがる。
このやかましい音は、ゲームクリアおめでとうの祝福なんだろう。
「魔王を操る真の黒幕ダークスワンとか。
陰で糸引く”あのお方”とか。
漁夫の利を決め込んでいた第三勢力の乱入とかはっ!?」
「俺としても再戦は望むところだ。
けれど、全力を尽くして得たこの”敗北”という結果。
手放すにはいささかもったいないな」
とっても気取った口調でボブが言う。
……まるで、師匠みたいなこと言うじゃん。
「ロウジ、リアルで隠しボスの皆が待ってるよ。
パパとママにボクのおふくろさん、運営の人達。
寝言はそれに勝ってから言おう?」
「……うっ。はい、ごめんなさい」
穏やかに首を振りながら、セセリアはロウジをたしなめる。
縮こまるロウジに苦笑を浮かべながら、セセリアは小さく長く息を吐き出す。
この長いようで短い夢が、もうすぐ終わる。
「アリヤ。ルブリス・FEの即時リペア処理を。
フェルシー、ハサウェイくんとマリコさんのエスコートを頼む。
さぁ、ロウジくん、セセリアさん。
帰ろう、外の世界へ。
勇者の……凱旋だ」
色とりどりの花火が上がる中、ボブが朗らかに告げる。
あまりに大げさないいように、セセリアはこっそり笑いをかみ殺す。
凱旋なんて、そんな恰好いいものじゃない。
夢が覚めたら、目覚まし時計を止めて顔を洗って。
まずは子供らしく、両親にたっぷりしかられるだけだ。
舗装されたアスファルトの道路を踏みしめ、フェルシーのディランザ・Gが先を進んでいく。
自分の操作で、ルブリス・FEが現実感ある街並みの中を駆けていく。
何度見ても、夢のような光景だ。
愛機のコクピットでモニターを眺め、ロウジは静かに感慨に浸る。
「え、フェルシーもアリヤも、
ボブさんといっしょで自律型のAIさんなんだ?」
「……なんでボブ様だけさん付けなんだ。
こっちもさん付けしろよ」
「ああ、そうだ。
我々はヒトツメ型AI、”モノ”達からの昇格組だよ」
セセリアが楽しげな笑顔で会話している。
相手はディランザ・Gに複座搭乗する二人だ。
フェルシーが不機嫌顔で睨み、アリヤが穏やかな表情で答えてくれる。
「そっか、じゃあボブさんみたいに、GBNでもまた会える?」
「その時は次こそ手加減なしでぶっ潰す」
「配属先次第かな。
すまないが、今は何も言えない」
セセリアと二人の会話が、ロウジのアンニュイな気持ちを加速させる。
そっか。やっぱり二人の物語もいったんここで終わりなのか。
空から眺めていた通学路を愛機の足で駆け抜けながら、ロウジは静かに目を伏せる。
「わきゃ! ちょっと、ロウジ!
もうちょっと操縦、丁寧にお願い?
「セセリア、狭いところで騒がない!
副操縦席だからってもうちょっとスペース何とかならなかった?」
信号変わりっぱなに突っ込んできた車両を慌てて避け、腕を振って大股で着地。ぐらりとコクピットが揺れた。
背中のサブコクピットはもっと揺れたんだろう。
セセリアとハサウェイの抗議が続けざまに飛んでくる。
「ごめんなさいね、二人とも。
こっちだけ広くって……」
「マリコさんはいいんです」
サポートメカの副操縦席とは違い、ロウジ達の主操縦席は広さに余裕がある。
後ろで申し訳なさそうなマリコに、ロウジは笑顔でうなずく。
だってマリコさんを副操縦席に乗せたらセセリアがどこ触るかわかんないもん。
「ははん。
ロウジ、さてはいつものアンニュイ病だな?」
「エンディングの間ぐらい、ひたらせてよ」
にやりと笑うセセリアへ甘えるように、ロウジは唇を尖らせる。
小さいころ、物語の終わるのが大嫌いだった。
この先に進んでしまえば、自分の中で大切に浸った世界が消えてしまう。
あと少しで終わるところで積みかけたゲーム、幾つあっただろう。
「ロウジは余裕あるからいいけどさ。
これはもはや侵略だよ、おのれマフティー!
ボクのパーソナルスペースがっ!」
「オレの中ではさ。
ハサウェイがこんなに密着していいのはガウマンかクエスだけなんだよね」
まったくもう二人ともさわがしい。
わざとらしくため息ついて、ロウジは言葉を投げかける。
「狭いからっていちゃつくのやめなー?」
「ちげーし!」「失敬な!」
すねた顔でからかうと、びっくりするほど即座に否定された。
操縦桿を握ったまま、ロウジは声を殺して身を震わせる。
息ぴったりに声を揃えるとか、笑うしかないじゃん。
「お前ら……デキてんだろ、さては!」
「フェルシー、それはない、それは……
ふ……っはは、あはは……!」
「ちょ、アリヤ。
それひどい……!」
フェルシーの追撃とアリヤの爆笑に、ロウジも耐えきれなくなった。
2機のガンプラが路肩で足を止め、ひとしきり笑いあう。
【しんみりしたいなら付き合うけどさ。
違うよね?】
【うん、大丈夫。
いつも通りにさわがしくいこ!】
こっそり飛んできたセセリアの気遣いメッセに、ロウジはにんまり笑う。
そーだよ、デキてるのはこっちだもん。
笑いながらコンソールを操作し、操縦権をセセリアに投げ渡す。
「セセリア、任せた!
ゆーはぶコントロール!」
「い、いえすあいはぶコントロール!
んもうロウジのおバカ、事故っても知らないんだから!」
そんなこと言いながら、セセリアがおっかなびっくり慎重な操作でルブリス・FEを動かし始める。
ロウジのフィーリング操縦より全然揺れない。
優しいセセリアに甘えながら、ロウジはのんびり通学路の景色を眺める。
「こっちの世界も、“卒業”かぁ。
勉強頑張らなきゃ……だね」
「予想外の寄り道だけど、
楽しい“卒業旅行”だったじゃん」
楽しげに笑うセセリアの顔を見ながら、ロウジはふと思い出す?
ゲームを積まなくなったのは、いつからだったっけ。
多分きっと、セセリアが手を引いてくれるようになったからだ。
モブみたいに生きる毎日でも、ほんの少しずつ楽しいものがあって。
何かが終われば、当たり前のように新しい何かが始まること知った。
「2週間分の遅れは大変そう。
がんばれ、ロウジ」
「もう、セセリア。
他人事だからって!」
「いいや、2週間ではなく2日だよ。
とはいえおそらく1日くらいは検査やらするだろうがね」
穏やかなボブの声がやりとりに割り込み、空からスラスター飛行で1機のガンプラが舞い降りる。
緩やかに着地寸前にスラスターをふかし、柔らかに着地。
スムーズな機体さばきで先行するディランザ・Gに並走する。
「改めて“卒業”おめでとう、ロウジくん」
「ありがとうございます、ボブさん!
えっと、その機体は……?」
「ひゅー、デスルターだ。
限定品のレアモノじゃん!」
セセリアのヘタクソな口笛でロウジは機体名を思い出した。
グリーンを中心のごつごつした、いかにも量産機めいたフォルム。
デスルター……水星の魔女でグエルがボブだったころに乗ったジェターク社の旧式の量産機だ。
「ああ。その通り、デスルターだ。
ボブと名付けてもらったなら、外せない機体だろう?」
「ボブ先生、お疲れ様。
わざわざ見送りに来てくれたのね」
通信ウィンドウに浮かぶボブが、ほがらかに笑う。
マリコがやわらかく微笑み、お礼を言う。
「見送りぐらい当然だろう。
ロウジくん達にはとても迷惑をかけたからな。
これがオフラインサーバーの管理者として、おそらく最後の仕事だ」
「殊勝なことで」
ハサウェイが静かに呟き、フェルシーが無言で目つきを険しくする。
そんなフェルシーを手で制し、ボブは穏やかな表情で言葉を続ける。
「君達を送り出した後、俺は運営に全て包み隠さず話して沙汰を待つ。
まぁ、サブマスターからの解任は確実だろう」
操縦桿を握り締めたまま、ロウジはきゅっと唇を引き結ぶ。
確かにこの人のやり方は間違っていたんだと思う。けれど……
複雑な感情がロウジの胸中で渦巻く。
僕はこの人に、何がしてあげられるだろう。
「そんな顔をするな、ロウジくん。
”楽しかった”のだろう?
それが我々運営への何よりのエールだ」
穏やかに微笑むボブの顔を、モニター越しにロウジは見つめる。
ボブの物語は、今日ここでいったん終わるのだ。
新しい物語が始まるかどうかも、ロウジにはわからない。
明日があって、新しい物語が始まるのは、当たり前じゃない。
ロウジは静かに心に刻んだ。
「さ、ロウジくん。外へのゲートはここだ。
アリヤ、処理は正常に行われたか?」
やがて、先を行くデスルターが足を止め、フェルシーのディランザ・Gが横へ道を開ける。
スタート地点……オフラインサーバーのロウジのマイホームがそこにはあった。
二階にあるロウジの部屋、そのベランダの出入り口に大きなログアウトゲートが開いている。
「はい。ログアウト処理の試行、正常に完了しました。
ここを通れば、中断されたログアウト処理が正常に行われる」
「よし。ではデミダイバーズ諸君のアバターを2階ベランダへ」
ロウジはルブリス・FEをおうちの前で慎重にひざまずかせ、コクピットの高さをベランダと合わせる。
マリコさんが身軽な動きでささっとベランダへ移る。ロウジはおっかなびっくり手を伝って渡る。
背面のサブコクピットのセセリアとハサウェイは、デスルターとディランザ・Gが手を添えてそっと渡してくれた。
「さぁ、行きたまえ。運営とご家族が待つリアルへ」
デスルターのコクピットからボブが顔を覗かせ、白い歯を見せる。
ディランザ・Gの掌の上で、アリヤが穏やかに微笑む。
コクピットに座ったまま、フェルシーが仏頂面で一応手を上げてくれた。
「ありがとう、ボブ先生。
ロウジくんを無事に返してくれて」
「サンキュー、アリヤ。
次に会ったらデートしてね」
「フェルシー。
次あっても、オレが勝つよ」
マリコが、セセリアが、ハサウェイが、それぞれに短く挨拶する。
ありがとう、ガンプラ学園。作り物のリアルワールド。
ロウジはひざまずく愛機ルブリス・FEと、青空をもう一度ゆっくり眺める。
「……ボブさん、ありがとうございました。
この世界に僕が望む”未来”はないけれど、それでも楽しい日々でした」
確かな感謝の想いと共に、ロウジは告げる。
この世界がなければ、ルブリス・FEが生まれることはきっとなかった。
ボブがもたらしてくれた出会い、けして無駄にはしない。
「勉強、せいいっぱい頑張って……
またきっと、GBNに必ず戻って来ます。
だから、その時は僕とフレンドになってください!」
「すまないが、それは無理だ」
全身全霊のお願いをすげなく断られ、ロウジはがっくり肩を落とす。
セセリアが?マークを浮かべて腕を組み、ハサウェイとマリコさんが顔を見合わせる。
微妙な空気の中、呆れ顔でフェルシーとアリヤが言葉を発した。
「運営とダイバーのフレンド登録はNGだぞ」
「ボブさんが運営をクビになる可能性ももちろんあるけれど……」
「……あ、いや違っ、クビを願うつもりなんかじゃなくって!?」
やらかした! なんで自分はこう、しまらないんだろう。
大慌てで弁解しながら、ロウジは内心天を仰ぐ。
デスルターがひざまずき、ボブがコクピットの高さをあわせて穏やかに手を差し伸べる。
「フェルシーの言う通り、フレンドはダメだ。
だから、もし俺に”次”があるのなら……
その時は、個人的に友人になってくれるか?」
「……はい、喜んで!」
ボブと握手を交わし、ロウジは満面の笑みで応える。
たとえサブマスターでなくなったとしても、ボブはきっと運営に必要とされるだろう。
だからきっと、ボブにだって当たり前のように”未来”があるはずだ。
今はただ無邪気に、そう信じることが出来た。
●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説
・赤甲抜刀術
ビームカタナで抜刀術とはなんぞ?
とお悩みの皆様もいらっしゃることでしょう。
特注の鞘が一時的な出力増幅器になっており、納刀することにより一時的に威力が増幅する……という設定。
納刀して隙を作るというデメリットにより、次撃の速度と威力を増幅する技である。
なんでそんな設定が許されるのかと言えば、抜刀術はカッコいいからである。
グスサー・イーシュヴァラのビームダガーも納刀することにより抜刀術が適応可能。
ビーム剣術を使用するガンプラは多く、ベスパ示現流やエゥーゴ新陰流などの流派がGBNではよく知られている。