リアルではモブなわたしは、GBNでずっと暮らしたい。   作:ゼラチナマスター

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キルケーの魔女、見てきました
転回はヘビーでしたがとても面白かったです。

それとはまったく関係なく、リアルワールドでのエピローグその2です。
これにてGBNとロウジ達の物語はこれにて完結となります。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。


インターミッション 6toF 可能性は万色に輝いて(後編)

 

「やー、ちょい今日は無理やわ。

 打ち合わせに、この後雑誌の作例を仕上げなあかんねん。

 

 スマホを耳に当てたまま、エセリアは軽い仕草で謝罪の仕草をとる。

 ここはリアル、自室に作ったガンプラ作業スペースだ。

 目の前のモニターには別の映像通話相手が映っている。

 

「せっかく誘ってくれたのに、堪忍な。

 うちの分も復帰祝いしたってや」

「ふふ、さすがだな。

 キミが忙しくて安心するよ」

「ガンプラ心形流師範殿の実力を味わいたかったが、残念だ」

 

 スピーカーホンの向こうから、エニルとボブの声が続いて聞こえてくる。

 ボブのやつ、エニルさんとこお邪魔しおるとか、ほんと運のええヤツやな。

 友人であるELダイバーの幸運に軽く嫉妬しつつも、エセリアはにこやか笑顔で通話を続ける。

 

「それで、来週末に何かやるんやて?」

「ああ、来週末にレイドバトルを組むつもりでいる。

 参加者予定は今送っておいた。

 そっちならどうだ?」

 

 サブモニターにメールの着信があった。

 こりゃすごい、ほとんど同窓会みたいなメンバーやん。 

 メールを一読し、エセリアはにやりと笑う。

 レイドバトルのテーマはロウジとセセリアの復帰祝い。

 ガデム、ラカン辺りの毎日ログインするメンバーはもちろん参加。

 多忙なロンメルまで解説に名を連ねている。

 

「おろ、クランプのおっさんおらんやん。

 こーゆーの必ず顔出すタイプの人や思ったんやけど」

「最近、お子さんが産まれたらしい。

 家庭状況が落ち着くまでは難しいだろうな」

 

 それはそれはおめでとさんと言ったところやな。

 他人の幸せを妬むほど心が小さいつもりはない。

 それでも心のつぶやきがやっかみのように聞こえるのは独り身の辛いところか。

 

「うちも多分、参加はちょい難しいんちゃうかな。

 でも、セセリアちゃんとロウジくんの成長見てみたいのはあるねん。

 終わり際に顔ぐらい出させてもろてもええ?」

「残念だ。エセリア先生とバトルをしてみたかったのだがね」

 

 冗談めかした口調でボブが残念がる。

 まったく、忙しい中スマホで話してやってるっちゅーのになんと失礼な。

 牙を剥くような笑みを口元に浮かべ、エセリアは声を強める。

 

「じゃかましいわボブ。

 ウチのバトル指南は普通有料やねんぞ?

 ……それはまた、今度な」

「助かる。

 ……本当にエセリアが時間のある時に、な」

「ああ、わかった。

 忙しい時にありがとう。

 では……」

 

 通話の切れたスマホを握り締めながら、エセリアはふと感慨にふける。

 ロウジは志望校合格、ボブはELダイバーとしてリアルワールドで戸籍を得た。

 この半年の間に、知人二人には大きな変化があった。

 

「半年なんて、あっという間に過ぎるもんやなあ」

 

 対して、自分はどうだったか。

 学生時代の一年は、あんなに長く濃密であったのに。

 社会に出てからの一年がなんとあっさりと過ぎていく。

 

『そうね、ほんとあっという間!

 番組もレギュラー安泰とはいかないし、まだまだ気は抜けないね』

 

「待たせてごめんなロージィちゃん」

 

 机の上のモニターに向き直り、エセリアはにっこり笑顔を向ける。

 相手は、ロウジそっくりのELダイバー、木星妖怪のロージィだ。

 

『いえいえ、リアル関係は大事にしましょう。

 今の、エニルさんとボブさんですよね?

 ちらっと聞こえたんですけど、ロウジさんがめでたく復帰だそうで」

 

「ああ、そやでー。

 無事にリアルが片付いたみたいで、今夜から復帰らしいわ」

 

 姿と声がロウジそっくり、キャラの性別と設定だけが違うというややこしさだ。

 最初は頭が随分と混乱したものだが、今はもう完全に別人と脳も認識している。

 エセリアの説明に、ロージィが笑顔でうなずきを返す。

 

『じゃ、打ち合わせ終わったらGBN行くわ。

 マリコも来るんでしょ?

 せっかくだしマイケルさん達にも声かけておくわね』

 

「おう、楽しんできぃや。

 ロージィちゃんの成長ぶり、本家に見せつけてやるんや」

 

 木星妖怪の面々の学習能力は、本当に恐るべきものがあった。

 今では人間そっくりで違和感もほとんどなく、ガンプラ作成においても技術の上昇は著しい。

 ただ創意……オリジナリティに関してだけはまだ物足りないところが多い。

 やはり、作品や物語に触れた総数がまだまだ足りないのだろう。

 

『ええ、どっちが本家かロウジくんに思い知らせてあげる。

 勝ったらわたしが本家ってことでいいよね?』

 

「こわいこと言うわぁ。

 ほとんどSF系ホラーやで、ロージィちゃん」

 

 やけに意気込むロージィに、エセリアは冗談めかして返す。

 ふっと笑顔の質を変え、ロージィがしっとりとした表情でエセリアを見つめる。

 

『わたし、負けませんよボブには。マリコやマイケルさんにも。

 もちろんロウジくんやエニルさん、トロンさんにだって』

 

 ん? かすかな違和感にエセリアはモニターを二度見する。

 いつも見せる親切でやさしい笑顔とは違う、熱のこもった表情だ。

 

『わたし、あなたの一番になるんだって決めてるから。

 きっとそれが、この世界に生まれた意味だと思うの』

 

 ヤっバい。教育間違えたかもしれへん。

 ロージィに熱っぽく眼差しで見つめられ、全身から血の気が引く。

 

「ちょいちょい。

 それはうちの一番、甘く見すぎやで?」

 

 下手するとこれは土下座ものの案件かもしれへん。

 胸の内を隠しながら、エセリアは軽い仕草でおどけてみせる。

 

「それには、まずは次回の放送よろしく頼むで。

 ギギちゃんにも負けないセクシーなMCっぷり期待してるで」

 

『はぁい、お任せ。

 いつか本気にさせてあげますからね、エセリアちゃん?』

 

 やれやれ、こわいこわい。

 話題がそれて、心の中でほっと一息。

 ひょっとして、これは木星妖怪なりのジョークかもしれんけど。

 

「乙女って怖い生き物やな、ほんとに」

 

 自分は専門家ではない。軽い気持ちの判断はやめよう。

 乙女心に詳しい運営の面々へ一声かけることをエセリアは決めた。

 まったく、ボブが一皮剥けて幸せになったと思えば、次はロージィとは。

 

『AIだって、こわいんですよ。

 知りませんでした?』

 

「こわいことなんて知らずに終わるのがええことやん?」

 

 軽い口調で応えながら、エセリアは苦笑する。

 AIを人間として扱うのを選んだのは運営達、そしてエセリア自身だ。

 これからもきっと、無数の課題や問題があふれ出てくるのだろう。

 ならばテストプレイとブラッシュアップを繰り返していかねばならない。

 

『未知との出会い、それは喜びです。

 宇宙に進出した人類も、きっとそうだったんじゃないですか?』

 

「……うん、まぁ、そうかもしれへんけどな」

 

 ひとまず、うっかりニッパーで脇腹刺されへんよう気をつけよう。

 へらりと笑い、エセリアは運営放送の台本のチェックへと移る。

 何度だって作り直す。基本から丁寧に。

 ガンプラと同じぐらい手間暇かけて、これからも試していくしかないのだろう。

 

 

 

「では、僭越ながら乾杯の挨拶を……」

 

 ドリンクが行きわたったのを確認、ロウジのパパはグラスを手に立ち上がる。

 ここはリアル、我が家のダイニングルームだ。

 今日は愛娘の受験終了祝いのホームパーティ。

 いつもは半分しか使われていないテーブルの上に料理がいっぱいに並ぶ。

 家族と来客で、六つの椅子が全部埋まっている。

 

「パパ、手短にね」

「お小言はまた明日ね」

 

 さっそく妻と愛娘から困ったような顔で言葉が飛んでくる。

 わかっている。今日はめでたい日だ。お客人たちだっている。

 ……出来るだけ手短にしよう。改めて頭の中で言葉をさらに平易に削っていく。

 ロウジ、トロン、セセリア、ハサウェイ、マリコ。着席する全員の顔を見回す。

 

「まりあ、お前は本当によくがんばった、おめでとう。

 積み上げてきた努力の価値が結果で左右されるわけではないが、それでも努力の結実は喜ばしい。

 そして、その努力を皆が支えてくれた。

 改めて私からもお礼を言わせてほしい。ありがとう」

 

 努力が実るとは限らない。この場で誰よりもパパは判っている。

 自分はメイジンやチャンプ、ガンプラバトルの頂に挑戦し、ずっと敗れ続けてきた人間だ。

 

「私がこうして娘や妻とめでたい席を囲むのも久しぶりだ。

 私達家族の関係は、大きく回り道をしてしまった。

 けれど、そのことが今日のこの祝いの席の価値を貶めるものではない。

 回り道で得たものは、けして無駄ではないだろう」

 

 自分が妻と娘と別居していなかったとしたら。

 自分が幼いロウジのガンプラに心無い言葉をかけていなかったとしたら。

 今でもたまに後悔が頭をもたげる。

 けれどそれは意味のない仮定だ。

 その時はきっと、ハサウェイ、マリコ。この二人はこの場にいないだろうとも思う。

 

「若い君達の未来には万色に輝く可能性で満ちている。

 自らが積み上げてきたものの価値を決めるのは、それからの生き方だ。

 つまり、今日はめでたいと思いっきり騒いで!

 明日からもまたがんばっていってほしい」

 

 結局、また話が長くなってしまった。

 年寄りの感慨は置いておくとしよう。

 強引に話を畳み、うなずいてグラスを高々と掲げる。

 

「パパ、お小言はあとって言ったじゃん!」

「師匠、やっぱお話長い〜」

「最愛の我が子の輝ける未来と、

 皆の健康と幸福を祈って……乾杯!」

 

 ブーイングするロウジとセセリアを視線でだまらせ、強引に乾杯の挨拶を結ぶ。

 

「かんぱーい!」

「乾杯!」

「……かんぱい」

「はい、かんぱい」

「はい、お疲れ様」

 

 ロウジがテンション高く分厚いグラスをかちんかちんとぶつけあわせる。

 まったく、危ない、落とすぞ。

 セセリアが笑顔で乾杯しながら、ロウジをハラハラしながら見守っている。

 ハサウェイが楽しげに口元を抑えながら控え目にグラスを触れ合わせる。

 マリコが小さなグラスでロウジのグラスとそっと触れ合わせる。

 トロンが軽くグラスをあわせてやさしく微笑む。

 愛娘が満面の笑顔でぶつけてくるグラスを受け、パパ自身も慌てて両手でグラスを握りなおす。

 

「いっただっきまーす!!!」

 

 ロウジがそのまま手元の更にサラダから鳥の手羽先から山盛りにしていく。

 グラスに入ったビールをなめる程度にしておく。

 つごうとビール瓶を手に取ったセセリアを手で制し、首を振る。

 

「そんな気遣い、今日はしなくて構わない。気楽に楽しみなさい」

「ええ、そこはパパの言う通りよ。

 それじゃローストビーフみんなの分切っていくわね」

「じゃ、サラダ取り分けますね」

 

 トロンの仕切りに合わせ、ハサウェイが行儀よく声をあげる。

 マリコが皿を手早くハサウェイの手元に集め、ハサウェイがボウルからサラダをとりわけていく。

 一方ロウジは一人先にごちそうをおいしそうに食べている。

 我が娘ながら、少し思うところがないでもない。

 セセリアに視線を向けると、かすかに苦笑されてしまった。

 

「ママのローストビーフ、すっごいおいしいんだよ!

 みんな冷めないうちに食べて食べて!」

 

 トロンが切ったローストビーフもロウジの手元へ一番にやってくる。

 両手を合わせていただきますの構えを取り、フォークとナイフで豪快に切ってかぶりついていく。

 まぁ今日は無粋は言うまい。この子の笑顔が一番の報酬だ。

 幸せそうに、おいしそうに食べる姿を眺め、パパはもう一口アルコールをなめる。

 ハサウェイからサラダを手渡され、パパは穏やかに笑顔を浮かべて会釈する。

 

「ありがとう。もうあとは自分でお皿に取るようさせてもらうよ。

 お客さんもしっかり食べなさい。うちの子に全部食べられてしまう」

「ふっふっふ、今日のお昼は少なめでしたからね!」

「あー、わたしの取り分まで食べる気だー!」

 

 食欲旺盛な学生らしく、セセリアも猛然とローストビーフにかじりつく。

 ハサウェイも小さく会釈し、まずはサラダから食べ始める。

 まったくうらやましい。今はもう油ものがほとんど食べられなくなってしまった。

 そしてトロンもあいかわらず細の身のわりによく食べる。

 パパはマリコといっしょに、皆の食べっぷりを眺めるばかりだ。

 

「パパさんも遠慮なくどうぞ」

「ありがとう、マリコ。

 わたしはこの光景だけで胸いっぱいだよ」

 

 ドールフェイスに気遣いの笑みを浮かべるマリコに、パパは心からの笑顔で首を横に振る。

 手羽先を奪い合い、ロウジとセセリアがにらみ合う。

 ハサウェイが口元を抑えながら、にらみあう二人にスマホを構える。

 気づいた二人が顔を見合わせ、ふざけながら小さな手羽先を握ってスマホ目線でピース。

 

「これからも三人仲良くしていって欲しいものだ……」

「そうね、この先どうなるかなんてわからないけれど。

 でも、たとえ仲違いしたって今この時は無駄じゃない、そうですよね?」

 

 長々した乾杯の挨拶を、マリコはちゃんと聞いておいてくれたらしい。

 いたずらっぽく見上げるマリコに、パパは大きく口元を緩めてトロンを見る。

 よかったわね、パパ。そんな顔でトロンがウィンクを返してくれた。

 

「パパ、スマホとって!

 お題:手羽先ウォーズの末の友情!」

 

 セセリアとハサウェイ、大切な友達二人をロウジが右と左にはべらせる。

 手羽先の皿の後ろで二人の肩を抱いた愛娘が満面の笑みで写真撮影をねだってくる。

 

「まったく、行儀の悪い。

 お外ではやるんじゃないぞ?」

 

 笑顔を浮かべてたしなめてやりながら、愛娘のスマホで写真を撮ってやる。

 自分のスマホでもついでにもう一枚。

 スマホの中の若者たちは、とびっきりの笑顔でそこにいる。

 これからきっと愛娘にはいくつもの挫折が待っている。

 だからこそ、今日ぐらいは最後まで笑顔で終わってほしい。

 未来の輝きに明るく照らされた若者たちの笑顔を見つめながら、パパは静かにそう願うのだった。

 

 

 

 ロウジは半年頑張った。

 自分は果たして、その頑張りに見合うだけのものを積み上げられただろうか。

 

「じゃ、わたしハサウェイくんをご自宅へ送って来るから。

 お風呂早めに入って……眠たくなったら素直に寝なさいね?」

「はぁい、ママ」

 

 お見送りのロウジに付き添い、セセリアはガレージまで降りていった。

 暖房のないガレージは正直結構寒い。

 後部座席の窓を開け、ハサウェイが名残惜しそうに手を振って来る。

 

「それじゃ、また後でね」

「うん。お先にログインしとく」

「またしばらく腐れ縁、よろしく」

 

 笑顔のハサウェイに、ロウジもにっこり笑顔で手を振る。

 セセリアもにやっと笑い、ハサウェイへぞんざいに手を振る。

 寂しくなんかない。どうせこの後GBNでまたすぐ会うのだから。

 

「明日、キルケーの魔女でマフティーと会いに行って来る。

 時間ある時、感想会しようね」

「ふふ、久々のデートなんでしょ?

 しっかり甘えときなって」

 

 女子同士の会話で、ロウジの顔がぼっと赤らむ。

 まったく、あんまりたきつけないでほしいな。

 苦笑しながら、ロウジの肩を抱いてハサウェイに見せつけてやる。

 

「ほら、部屋戻ろ。

 風邪ひくよ」

「……ぅ、うん」

「二人ともおしあわせに!」

 

 目をまん丸にしてにんまり笑うハサウェイに手を振り、セセリアはロウジを促した。

 乙女チックに硬直するロウジをエスコートし、暖房の効いた室内へ戻る。

 顔の赤いロウジをソファに座らせ、さてどうしようかと思った時だった。

 

「はい、二人とも。

 ここからはお手伝いの時間です」

「はぁい、おねえちゃん」

「え、俺らゲストじゃないの?」

 

 鬼軍曹みたいな語調で胸を張るマリコに睨まれ、セセリアは思わず聞き返す。

 ロウジとか今日の主役な気がするんだけど、お行儀よくすぐに立ち上がる。

 仕方ない。セセリアもさっと立ち上がり、マリコの指示を待つ。

 

「家事の負担は皆で分担するもの!

 遊ぶのはお片付けしてからです」

「へぇい」

 

 なんてこわい小姑さんだ。

 どうやらマリコは昭和めいたジオンからリアルの現代へ価値観をアップデートしたらしい。

 ガンプラサイズのボディで机の上に乗り、マリコがてきぱきと動き回る。

 セセリアの役目は食器の運搬だ。重ねられたお皿やカップを受け取り、キッチンへ。

 ロウジに渡して大きな食器洗浄機に手際よく入れてもらう。

 行って帰って約3往復。ふきんを最後にマリコさんへ渡して、ゴミをまとめてもう一度キッチンへ。

 

「はい、ご苦労様。

 二人ともご褒美のコーヒーとドーナツをセルフでもっていきなさい」

「わーい、おねーちゃん大好き!」

 

 マリコさんのお許しをもらい、お手伝いはここで免除してもらえた。

 にっこり笑顔のロウジを横に、コーヒーメーカーからコーヒーを注ぐ。

 ロウジ用に牛乳を出して角砂糖を3個。セセリアはブラックのままにする。

 

「シショーのコーヒー、持っていこうか?」

「パパさんにはわたしからもっていくわ。

 じゃ、またGBN(むこう)でね」

 

 マリコに気を遣われ、遠慮なくお言葉に甘えることにする。

 ロウジのお部屋に二人して引っ込み、GBNプレイ用の椅子に横並びで腰かけた。

 ぐるっと椅子を横に回して向かい合い、向かい合う。

 

「マリコさんってば、

 完全におうち掌握してるじゃん」

「えへへ、頼れるお姉ちゃんです」

 

 学習机の上に、ミルクとお砂糖たっぷりのコーヒーとドーナツがある。

 自分の親に連絡し、ロウジのおうちへお泊りする許可はいただき済みだ。

 もちろん健全な意味でだ。今日は揃って朝までGBN三昧しちゃう。

 

「ところで今日のシショーめっちゃ俺に厳しいんだけど」

「あっははは、何かあったら土下座だね?」

 

 ロウジのパパさん、いつになく弟子のセセリアへの当たりがきつい。

 まぁそりゃ、かわいい娘が男といっしょに夜更かしとか心配なのはわかる。

 いくらロウジがかわいいからって、うっかりしたりしないようにホント気を付けなきゃ。

 

「土下座で許してもらえればいいけどね……」

「あはは、まちがわないよーまず気をつけよ、ね?」

 

 うーんダメだ。何気なく笑うだけでかわいい。

 パジャマの上にもふっとした上着着てるのもかわいい。

 これ以上、頭の中をかわいいで埋め尽くされる前に仕掛けるしかない

 唇をかんできりっと顔を引き締め、セセリアはロウジへ働きかける。

 

「改めて、合格おめでと。

 ほんと半年頑張ったね、えらいよ」

「えへへ。もっと褒めてくれていいんだよ」

 

 はにかむロウジがかわいい。いや、そんな場合じゃない。

 ここが勝負どころ、セセリアにとってのバトルフィールドだ。

 

「……というわけで、がんばったキミにこちら!」

「ん、なになに?」

 

 背筋を伸ばし、セセリアはリュックの中から丁寧に包装された箱を取り出す。

 ロウジが受験を頑張っていた間の時間を使って作り上げたもの。

 この半年、禁ロウジしながら作り上げてきた、ビルダーとしての成果物だ。

 

「わ、プレゼントボックス!

 ……開けていい?」

「もちろん、どうぞ」

 

 息を吸い込み、セセリアは包装が解かれるのを固唾をのんで見守る。

 こっそりエセリアパイセンには採点してもらった。

 師匠であるパパさんにも及第点はもらえた。

 けれど、大事なのは何より、愛機として使用するロウジの点数だ。

 

「……わ、これ。

 ひょっとして!」

「はい、その通り。

 ルブリス・FEP(フォールン・エンジェル・プロトタイプ)でございます」

 

 黒とゴールドで丁寧に塗装された機体。大きなショルダーアーマーとシールドバインダー。

 手持ちの武装はガンビットを接続した大型のビームブレードとレシーバーガン。

 仮想世界”ガンプラ学園”でセセリアの作り上げたガンプラがリアルでそこにあった。

 

「プロトタイプ……?」

「サポートメカとの変形合体をオミットし、アーマーパーツとして再現しました。

 フレキシブルアーマーとシールドバインダー、ビームキャノンも搭載。

 ただ、変形合体機能が搭載できなかったため、

 複座ガンプラに先祖返りしてしまっております」

 

 まずは仮想世界で出来たことと自分の技術のすり合わせ、要素の取捨選択だった。

 塗装が正直すごい大変だった。黒一色はごまかしがきかない。

 次にアニメチックな合体ギミックの再現が難しすぎ、あきらめるしかなかった。

 モードチェンジはパーツ差し替えで再現し、パーツ強度を何とか保つ。

 どうしても重心バランスがトップヘビーなので、立てるときはバインダーを支持肢として使う。

 

「なるほど。完成形を作る前に機能を再現するために作った機体なんだね。

 ゆえに……プロトタイプ!」

「GBNで再現してどっちか強いかはわかんないけどね。

 ガンダム世界なら強いプロトタイプもありありっしょ?」

 

 あの時の”ボク”にはまだ追い付けてない。これが今の俺の精一杯。

 軽くおどけつつ、ロウジの反応をじっと待つ。

 

「……いかがなものでしょうか?」

「ありがと、大好き!

 最っ高の合格プレゼントじゃん」

 

 満面の笑顔で、ロウジが抱き着いてきた。

 もう、うれしいけど採点甘すぎ!

 いやヤバい。正直すっごいいい香りする。

 男の子の衝動に頑張って耐えること数秒。

 とってもいい笑顔でロウジが笑って聞いてきた。

 

「……ね、複座ってことは後ろでサポートしてくれるんだよね。

 起動テストは?」

「ばっちし!

 後は、実際に触っていただくということで」

 

 よし、今日一がんばったぞ俺の理性。

 今日はそんな日じゃない。ロウジをGBNへ連れていってやらなきゃならない。

 何気ない顔で笑って見せながら、横並びでダイバーギアをセットする。

 

「デミ・ダイバーズ再結成だね」

「そうだね。まだまだ二人でようやく一人前だもの」

 

 今日は新たなスタートライン。

 めでたい勝利と祝福のパーティの次は、また明日から挑戦の日々だ。

 ここから新しい何かを積み上げていかなきゃならない。

 

「ハサウェイとマリコさんで二人前だね!」

「ナチュラルに二人も半人前扱いするの失礼じゃない?」

 

 セセリアがビルダー、ロウジがファイター。

 いったいどこまでいけるだろう。

 ガンプラ道はまだまだ険しく、頂どころか道行すらもよく見えやしない。

 

「ふふ……今夜は、寝かせないぞっ」

「……おバカ。

 ほんとに理性が消し飛びそうだからマジやめて?」

 

 甘い声でふざけてささやくロウジの頭に本気チョップ。

 二人してダイバーギアをつけて並んで座り直す。

 食べ終わったドーナツのお皿とコーヒーカップを部屋の外に出してマリコさんにお任せだ。

 

「……ヤダなー、ちょっと怖い。

 作りたてのガンプラでの復帰戦とか、

 ぼっこぼこにされる予感しかしない」

「どんまい、どんまい。

 使いこなせないわたしのせいじゃん」

 

 いつまでも、こんな風に横並びでいられるだろうか。

 コンテストにガンプラを提出して、選手権に二人で挑戦して。

 就職したり、一人暮らししたり、イベントはいっぱいあるだろう。

 

「どんな寄り道も、君といっしょなら楽しいよ」

「まっすぐ最短ルートで楽したいんだけどなあ」

 

 いつも通りのやりとりしながら、IDとパスを入力していく。

 きっと仲違いぐらいするだろう。わがままでノンデリな自分を責められたりするかもしれない。

 でもきっと大丈夫。修復作業ならガンプラでお手の物だ。

 

「さ、それじゃあいさつ回りはじめるよ!」

「その挨拶まわり、”バトルしまくり”とかじゃない?」

 

 いつもどおりのやりとりしながら、ログインボタンをタッチする。

 歩けるだけ一緒に二人で歩いていこう。

 それこそ、死が二人をわかつまで。

 信じてるよ、ロウジ。

 大好きだよ、まりあ。

 

 

 

 数学、国語、英語。

 つまらない日常に立ち塞がる、高校受験っていう巨大なミッション。

 リアルのミッションを乗り越え、久々に勉強机を勉強以外の仕様へ切り替える。

 

 明日からまたしばらく、卒業までのリアルミッションが始まる。

 現実ってどうしてこうつまらないんだろう。前はそう思ってた。

 当たり前のようにやってくる明日のありがたみ、今は少しわかるようになった。

 

 そんな当たり前の灰色な毎日を、GBNが万色に変えてくれた。

 誘ってくれた友達、遊び続ける友達、待ってくれている友達がそこにいる。

 

 時計を見たら、ちょうど皆がたくさんログインしてる時間帯だった。

 過去問と自己採点を片付けて、椅子を踏み台にクローゼットの上へと手を伸ばす。

 クリアケースにしまった大切なガンプラを取り出し、

 たくさんの機器といっしょに勉強机へセッティング。

 椅子に深く腰掛け、ヘッドセットとバイザーを装着し、手探りで機器を起動する。

 

 起動音声とガイダンスが流れ始め、なつかしいBGMが意識を埋め尽くす。

 初めてのあの時は、もたもたしながらキャラメイクをしたっけ。

 さぁ、行こう。たぶん友達がみんな、待っている。

 

「おーけいロウジ、こっちはいけるよ!」

「”わたし”もおっけー!」

 

 運営さんから再使用許可をもらった”僕”を選び、ボタンを押す。

 涼やかな音楽と共に、視界を景色が流れていく。

 VRの世界へ、フルダイブ。

 胸が高鳴る。

 リアルでがんばった自分に、GBNはどんな色を見せてくれるだろう。

 

 目の前に広がる宇宙と、星々と……スペースコロニー。

 

『ガンプラバトルネクサスオンラインへようこそ!』

 

 機械音声に歓迎され、ひさびさのGBNが幕を開ける。

 

「ただいま、GBN

 ただいま、みんな

 ただいま……”僕”」

 

 万感の思いを込め、静かに呟く。

 ”卒業生”の帰還を、GBNは変わらぬ姿で迎えてくれていた。

 

 

●読み飛ばしても構わない巻末プチ解説

 

・ガンプラ同好会

 

 部長のプレゼン能力によって部室を勝ち取った幸運な同好会。

 部長、先輩、ハサウェイの3人が在籍する。

 部日は出ていないため、部室に置かれているものは私物ばかりだが、

 親にお見せ出来ないガンプラや漫画などのお小遣いの仕様先のため、非常に充実している。

 実体はゆるいインドア系サークルで、広くアニメや漫画の話が主体。

 キルケーの魔女は公開初日に三人で仲良く見に行ったらしい。

 個人のダイバーギアを持っているのはハサウェイのみ。

 ハサウェイの熱烈な勧誘により、ロウジが所属することとなる。

 その先の話が語られるときは、別タイトルとなるでしょう。

 

 

 

 

 




分量ばかりあるこの物語をここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました

現在、オリジナルのファンタジー系ロボットをちょっと書き溜めてみたりしています
あくまで自己満足のレベルですが、
自分が見せたくなるようなものになったら、また投稿させていただきます

気楽にかける筆者がまたロウジ達に会いたくなったら、
タイトルを変えてリアルのロウジとセセリアを中心に短編を書いたりするかもしれません。
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