僕ら超能力者というのは、基本単一の能力をもっている。僕みたいな応用が効きやすいものや、逆にシンプルすぎて使い方を一点に絞った方がいいものまで様々だ。
まあ、その副作用というものなのだろうか? 僕は昔から眠ると夢の世界というものに入ることが出来て、その世界には必ず大樹が目の前にそびえ立っているのだ。
「今日は私の方が早かったようだね。ヤクモ」
夜になって眠るとそこに金髪ジト目の脇出しセクシーフォックスがそこに居た。
「珍しいね、セイアが早くここに来るなんて」
「こっちもゴタゴタしててね。明日は外部から『大人』が来るみたいでね、色々と調整したりしてたんだよ」
「あー、そっか。セイアは総理大臣的なやつなんだっけ?」
「外部のことはよく分からないけど、政治家という意味では間違ってないかもしれないね。正確には与党の各派閥の長が正解なんだけどね」
「ほへー」
「それと、1つ確認したいことがあってね。ナギサやミカに無理を言って早めに帰らせてもらったんだ」
「確認?」
「君、明日キヴォトスに来るのかい?」
……どうやってその情報を? え? 僕今日伝えられたばっかりなんだけど?
「ヤクモは私の予知を知っているだろう?」
「それはそうだけど……この樹の性質的にセイアの予知の範囲外のはずなんだけど……」
「やはり、この
「流石にね……僕だって下っ端とはいえ超能力集団の一員だし」
「そうだったね……夢でしか会わないからその事を忘れていたよ」
「酷くない!? それより、なんで僕がキヴォトス行くってこと知ってるの?」
それを尋ねるとそこの金髪美少女セクシーフォックス様は、大樹に手を添えて応えてくれた。
「この樹に教えてもらったんだよ。この意味、君ならわかるだろう?」
「……よく、精神保っていられたね」
「これもひとえにヤクモとの……いや、今はやめておこう。そのときじゃない気がする」
「そっか……じゃあ、しょーがない。僕は何も聞かないでおくよ。セクシーフォックス様」
「そう呼ぶのはやめてくれって以前から……」
「やーだね。そのセクシーな脇を見せつけてる方が悪いー」
「君ってガキは……仕方ない。明日、用事が終わってからでもいい。トリニティまで来てくれないか? 君に紹介したい人がいる」
「え……? 紹介したいって……まさか!」
「とりあえず、君が考えてるようなものじゃないよ。友人に君を紹介するだけだよ」
えぇー、めんどーいという言葉は口に出さず、じーっとセイアの目を見て抗議する。
「そんな顔をしたって何も変わらないよ」
「デスヨネー」
「別にそこまで嫌がるようなものでもないだろう? 政治的に利用しようとしている訳でもないのだから」
「まあ、僕も特段特殊な立場って訳でもないしね」
「そういうことさ」
なら仕方ない……明日用事が終わったらセイアのとこまで行きますかね……
「あ、それじゃあ、これ持っててよ」
僕はそう言って1枚の葉っぱをセイアに差し出す。
「なんだい……これは? 何となく君と同じ気配を感じるが」
「僕の能力の応用で作った拡張個別領域だよ。用事が終わったあとにすぐ行けるかわからないから、連絡してコンマ1秒で現れることができる端末だと思ってくれればいいよ」
「だが、夢でこれを貰っても意味が無いんじゃないかい?」
「忘れたの? 僕の領域においてのルールは僕だよ? なら、夢の中の領域であれ、僕のものは現実にだって作用させられる」
「それで、君は後方支援なのが外の恐ろしさを物語ってるよ」
「そんなことは無いよ。むしろ、銃撃戦が当たり前のそっちの方が僕からしてみたら怖いよ」
「価値観の違い……か」
「ま、どっちもおかしいってことだね!」
「そういうことにしておこうか」
うん、そうしよそうしよ。面倒なことは避けるに限る……にしても、明日から単独任務か……先輩たちがいればある程度なんとかなると思うのに……僕一人だけ……
「ヤクモ?」
そんなことを思っていると、セイアが何かを察したのかじっと僕の目を見つめてくる。
「いや、なんでもないよ?」
「目が泳いでいるよ。まあ、無理もない。君自身今まで後方支援に特化してきたのだから、不安になるものだよ。だが、その点においては大丈夫だと思うよ」
「え? そうなの?」
「連邦生徒会と協力が取れた上での護衛なのだろう? そうとなると、大体の自治区であれば君への負担は少ないと見ていい」
「そうなの?」
「あぁ。キヴォトスにおいて銃火器は当たり前な分、戦闘経験は君より積んだという生徒も多くいるだろう。友好的な生徒ばかりとは言い難いが、それでも人一人を守る分には十分な人材は確保できるとみていい。そもそも、キヴォトスには私がいるだろう?」
「あ、たしかに。困ったらセイアに頼めばいいじゃん! よし、憂いも良く考えればないようなもんだし、気楽に寝よっと……って寝てたわ」
「ここは夢の中だからね。それはそれとして、明日は早いんだろう? 今日は私の番だ。ほら、ここにおいで」
そう言ってセイアは地面に腰を下ろすと、ポンポンと膝を叩く。
「ねぇ、ホントにそれ毎日いる?」
「君もノリノリでやるだろう? 自分の番は」
「いや、それはセイアがしろっていうから……」
「それ以前に不平等だからと言ったのは君だよ」
「何年前の話だと……」
「6年くらいかな?」
「なんで覚えてるのさ……」
「君が覚えて無さすぎるだけだよ」
そうかなぁ……ちょっと不満ではあるが、セイアの細い太ももに後頭部を乗せる。
「セイア、ちゃんとご飯食べてる?」
「幼馴染の膝枕で最初の感想がそれかい?」
「それは自分の体の細さを自覚してから言って欲しいね」
「……痩せていること自体は悪いことじゃない」
「年齢に対して小さすぎるってことでもあるよ? 色々」
「胸を見ながらそれを言うのは少し作為的なものを感じるね。いや、そもそも君は小さい方が好ましいと感じるはずと認識しているのだけれど?」
「……なんだよ……そのドヤ顔。まるで僕のことなんでも知ってるって感じがする」
「実際なんでも知っているよ」
そう言ってセイアはポンポンと背もたれにしている樹を叩く。
「そうでしたね……」
じとっと僕が睨みつけると、セイアはクスクスと笑みを浮かべるだけだった。
「そう不貞腐れないでくれ。そして、不貞腐れたままお腹に顔を埋めるのもやめてくれ」
「いやですぅ」
「わかった。わかったから、私のお腹で深呼吸するのはやめて……」
「言葉の割に嫌そうに聞こえないんだけど?」
「そういう君こそ、嫌そうにしていた割に私の堪能しているようだが」
……僕は無言でセイアの腹部におでこをグリグリと押し付ける。押し付けられてる本人はというと、慈悲を感じるような手つきで僕の頭を撫でていた。
「それにしても、明日から……か。楽しみだよ……本当に」
「どしたの? 急に」
「もう、10年だ。君と夢の世界で会ってから」
「あ、そんなに経つんだ……」
「あぁ。そんなに経つのに未だ現実世界では会ったことがないんだよ」
「そう考えるとだいぶ不思議な関係だよねぇ……」
「だけど、そんな毎日も明日から変化するだろうね」
「……そうだねぇ」
「ふふ。明日……明日かぁ……」
なんか、いつもよりテンション高めなセイアにちょっと引き気味になる。まあ、でもセイアが楽しそうならそれでいいか。
とはいえ、やっぱりちょっと不気味ではある。
「なんだか、ヤクモに失礼なことを考えられているような気がする」
「そ、そんなことないよぉ? そ、それよりセイア、キヴォトスについて教えてくれない? 僕ほとんど知らないわけだし。そっちの事」
「……誤魔化されているような気はするけど……目を瞑ろう……君も任務の都合上事前準備もいるだろうしね」
「まあ、可能な限り能力は使いたくないしね」
「君の能力はかなり目立つようだからね。それに無から銃を生み出し、弾丸も精製するのはあまりにも無法というものだよ。戦力としてみたら、キヴォトスだと引っ張りだこだろうね」
「そうならない為にも、最低限の支給がある方が楽なんだけどね……」
「どうせならトリニティの武器と弾薬でも使うのはどうだろうか? 私の権限である程度の融通は効くだろうし」
「いや、それはいいよ。普通に作った方が早いし、それにあれだよね? たしか僕の護衛対象って……」
「連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』これから設立される予定の連邦生徒会直属の超法規的な中立の組織。少なくともどこか一つの学園に肩入れするようなことになったら政治的に大変なことになるね」
……ですよねぇ……そうなると、どう足掻いてもセイアの恩恵受けられないんじゃないでしょうかー?
「そうだね。だが、私としては旧友がキヴォトスで生活をすると言うのに、連邦生徒会が独占するのは少々思うところがあってね。可能ならば『先生』はさておき、君だけでも私のセーフハウスで生活してもらいたいくらいなんだ」
うーん、ちょぅっと何言ってるか分からない。え? 何をどう解釈したら、僕がセイアのセーフハウスで生活しないといけない状況になるの? いや、普通に寮とかあるならそっちで僕満足なんだけど……?
「いや、いっそのこと一緒に住むのはどうだろうか? いつヤクモが来てもいいように昔からヤクモの着替えは用意してたんだ」
「え? いや、いらない。大丈夫。僕シャーレの関連施設で生活するから」
「……君がそう言うなら従おう……どのみち、またここで会えるのだから」
「そうそう。んで、いつになったらキヴォトスについて教えてくれるの?」
「あー、すまない。君のことになるとつい熱が入ってしまうんだ。わかってるだろう?」
「……ノーコメント」
「君は都合が悪くなるとすぐそう言うね。もう少し語彙力を鍛えた方がいいんじゃないかな?」
「……うるさい」
ぷいっと反対側を向く。
暫くするとなにかの干渉を感じた。
「……さて、今日はここまでみたいだ」
「だね……また明日ね」
「……いざと言う時は私を」
「今度からは躊躇わなくていいからね? 明日からは僕もそっちに居るんだし」
僕はセイアが何かを言おうとしたのを遮る。分かりきってる事だ。10年夢の中でほぼ毎日顔を合わせてたんだ。
「……君も、困ったことがあったら言って欲しい。私も君の力になりたいから」
セイアは大きなため息をつきながらそういう。
「わかってるよ。じゃあ、セイア」
「うん……」
「行ってらっしゃい。怖くなったらちゃんと『お守り』使うんだよ」
僕は立ち上がり、セイアの頭を軽く撫でながら言った。それにセイアはムッとしたものの、すぐ俯いて『行ってくる』と小声で返してきた。
……まあ、色々不安だとは思うけどセイアなら大丈夫だろう。
そんなことを思いながら白と黄色の粒子に変わっていくセイアを見送る。全く……わざわざ見せる必要も無いと思うんだけどねぇ……
「未来の観測……それも夢で……ってのは中々に酷なことをするよねぇ……神様って奴は」
僕は樹に背中を預けながら地面に腰を下ろす。それなりに勢いが着いていたので少し痛かった……