生徒登録を行うからと連れてこられたのは……防衛室という所だった。
「おや、珍しいですね。リン行政官」
「緊急を要するので、無駄話はなしで行きましょう、カヤ防衛室長。現在シャーレが襲撃されています。差し当たってシャーレの先生の護衛である彼に武器の支給を」
「……それをすんなり『わかりました』なんていえるとお思いで?」
「……一時的な貸与という形でよろしいでしょうか?」
「そういう話では無いのですが……まあ、緊急を要する事態であることはこちらも認識しております。どうやら、当の先生も戦場におもむき、護衛として彼も行かなければいけないところを、武器もなし丸裸で出す訳にも行かない……故の武器の支給なのですよね?」
「はい。生徒登録の手続き、その後のシャーレまでの道のりまでの護送、急いでいるので早めに回答が貰えると助かるのですが?」
「……全く、強引ですね……わかりました。中学生位の少年となりますと、サブマシンガンやハンドガンと言った所でしょうか? 至急用意させましょう」
……なんかすごい勢いでトントン拍子に僕の武器が決められようとしてる気がする。とりあえず、なんかよくわかんないうちに武器決められたり、合わないとかが起きると困るから……
「あ、あの。できれば対戦車ライフルとか借りれたりは……? スコープでしたらここに来る前に自分用のヤツありますし……」
「……なぜ、スコープを用意しているのに武器を用意していないのですか。バカなんですか……全く……」
……本当は武器とか用意してきたかったよ? でもね? キャリーバッグに詰められなくなっちゃうから、現地調達でいいかなーって思ってアタッチメントの方だけ用意してきてたんだよね……あとなんか社長いわく『年単位の任務です。ほぼ引越しだと思って重いものや不用品は、置いていってください』ということ。
……そうなると、元々会社のものだった僕が愛用してた武器は置いていくことになるわけで……
「まあ、わかりました。……一応、サブウェポンとしてのハンドガンも用意しておきますね」
「ありがとうございます!」
至れり尽くせり! ありがとう。セクシーフォックスと同じような体型のピンク髪さん!
「とはいえ、ヴァルキューレにアンチマテリアルライフルが無いのが問題ですね……SRTならあると思うのですが……」
あ……ないんだ……SRTって言うのが何かわからないけど、そこなら借りれるかもしれないけど、時間はかかりそうだし……まあ、そこら辺は僕の能力で何とかするか……
みんなが見てない意識外だったらバレることもないだろうし、しれっと弾作ってそのまま装填しててもほとんどバレないだろう。
「失礼します! ヴァルキューレで使用されてるハンドガン各種、公安局使用のボルトアクションライフルをお持ちしました」
……手入れは行き届いてるし、いつでも使える状態ではありそう……うん。想像してたよりましな状況で援軍に行けそうで何より。
そうして、防衛室長のカヤさんから、ボルトアクションライフル一丁と8発装填できるリボルバーを一丁借り受けた。
「では、次は生徒登録ですね。ロビーに戻ることになりますがよろしいですね?」
「はい」
……それなら、ここに着いた時にさっさと済ませれば良かったような気が……と思ったけど、リンさんの感じから変につついたら、にこやかで冷たい怒気をはらんだ視線を向けられそうなので何も言わない。
「あ、そういえば生徒登録ってなにするんですか?」
「生徒IDの発行と学生証の発行、それと武器の登録です。ヤクモさんの場合、シャーレ所属になりますので、シャーレの職員IDとなりますね。武器については今後どうなさいますか? あくまで今回の武器は貸与という形なので、シャーレ奪還後は返却してもらうことになると思いますが」
「うーん……ハンドガンってコンビニとかに置いてたりしないですよね。普通」
「置いてありますよ。自地区の色が出ているとは思いますが」
「……そうなんですね……」
うん、後でコンビニ寄ることあれば買っておこ。
「そうなると、登録するのはハンドガンでサブウェポンとしてスナイパーライフルということで?」
「それじゃあ、そんな感じでお願いします」
「わかりました」
リンさんは受付から書類を受け取り、近くにあったテーブルについて、書類に必要事項をまとめて行く。
「ヤクモさん。年齢は?」
「14です。今年で15ですね」
答えるとリンさんはさささっと書類の年齢のところに14と書き込んだ。
「これで、良いでしょう。それでは、私達もシャーレに向かいましょう。準備は大丈夫ですか?」
「あっ……ちょっと待ってくださいね……」
僕はカバンの中身を確認する。
うん。いつものセット……これ使う日が来るとは思ってもみなかったけど……
「はい、大丈夫です。ところで、向かうってもしかして車とかになります?」
「……そうなります。何か問題でも?」
「あー、いや……特に問題は……」
車で移動ってなると、路地裏から瞬間移動で時短っていうのは無理そうだなぁ……仮にも護衛任務なのに、戦地に護衛対象が出てって、僕がのんびり移動っていうのは……でも、ここで「徒歩で行きます!」ってやったら怪しさしかないしなぁ……ここはリンさんに従うか……
「モモカ。装甲車の手配を」
「えぇー」
不服そうなピンクの髪にドラゴンの様なしっぽの人、モモカさんにリンさんがひと睨みすると、そそくさとモモカさんがどこかへと向かっていった。
「それでは、私は先生のオペレーションに向かいますので、モモカが戻ってくるまでお待ちください」
「はーい」
とは言われたものの、ほんの数分も経たずモモカさんが現れた。
「ほら、こっちー。ちょーっと面倒だけどあたしが現場まで送ってくよ」
自動ドアの前で手を振り、モモカさんが僕を呼んだ。
「はーい、いま行きまーす」
僕は急いでモモカさんのところに向かい、車に乗り込んだ。
※※※
八雲を乗せた装甲車は、法定速度というものを知らないかのように道路を走り抜ける。
「……どんな価値観したら公道を200キロで飛ばすんですか」
「ここじゃこんなもんだよ。ちなみに、今は300キロ出してるから、200キロは不正解だねー」
「出しすぎじゃないです?」
「緊急なんだし問題ないっしょー。まあ、どっか襲撃したりとかなんてよくある事だからゆったりでもいいんだけどね」
「……そんなこと良くあって欲しくないんですけど……」
「あっ、曲がるからちゃんと捕まっててー」
そう言われる前から、上部に取り付けられているグリップを握っていたため、速度を大きく落とすことなく綺麗に決められたコーナリングに体が大き持っていかれることは無かった。
大体そこから5、6分とかからないうちに発砲音と砲撃音が八雲の耳に入ってきた。
「ここら辺で大丈夫ですよ」
「まだ合流地点まで2キロ残ってるけどいいの?」
「まあ、ここから一旦上まで登らないといけないので」
D.Uにはオフィスビルがずらりと並んでいる。その都合上、射線がほぼ一直線。路地裏などに逃げられよう物ならほぼ射線を通すのは不可能だろう。そうなると、必然的に上をとる必要が出てくる。
「それじゃ、モモカさん。ありがとうございました」
「いいのいいの。そんじゃ、またねー」
モモカが車をUターンさせたのを確認すると、八雲はカバンの中からワイヤーガンを取り出す。
「大体あそこでいいかな……」
銃撃戦の音を聞き、戦場に最も近いビルへとワイヤーを射出する。ガチャっとアームがビルの外壁を掴み、八雲を引き上げる。 ざっと10階分をショートカット。その後に屋上まで転移する。
「今の見られてはないよね……」
大胆な移動をしたことを少し気にしていたが、あまり気にしているような人が居ないことに安堵する。
「さて……先生たちは……」
そう呟きながら、八雲はスコープと左耳用がないヘッドホンにモニターが着いたヘッドギアを付け、ヴァルキューレ警察学校で支給される対人狙撃銃を装備する。
「ん? 戦車?」
一市民の暴走にしてはあまりにも物騒なものがスコープ越しに写り、一瞬困惑する。だが、それで冷静さを失っていたら後方支援員としての名折れだ。ターゲットは現状不明。明確に先生への驚異となりそうなものを排除する必要がある。
「となると、戦車が1番危ないよね……とはいえこれ、対人用だからなぁ……」
──仕方ない……
そのつぶやきと同時、八雲の持っていた狙撃銃が砂鉄へと変貌する。そして、その砂鉄が集まり、八雲の手の中に大型の狙撃銃の形を成していた。
「よし……」
ヘッドギアに映し出される風向きや対象との距離、また、ターゲットの素材情報から算出される必要最低限の火力。それらの条件にあった弾丸を生み出し、装填。角度を調整してから大きく息を吐く。
次の瞬間、パンッと乾いた音がビル群に鳴り響く。戦車の装甲は軽々と撃ち抜かれ、爆発した。
急な事態に前線で戦っていたユウカ達4人は困惑する。とはいえ、シャーレに向かうことに変わりなく、よく分からないけどラッキー程度の感覚で進んでいく。
「さて……移動移動……」
先生たち5人が移動を始めると同時、八雲は屋上を走り、ビルの間を飛び越える時に、転移をしショートカットをして距離を詰める。
「あと800かぁ……」
モニターに映し出される先生たちとの距離、その間にも何度か戦闘の援護射撃をしたこともあってか、護衛と言うにはあまりにも距離が離された状態で追いかけることになっている。
「…………」
そんな時、八雲は変な気配を感じ足を止める。
「誰です?」
「おやおや、驚きました……私を観測……いえ、捉えることができる方がいるとは」
「もう一度聞きます。誰ですか?」
後ろに誰かいる。そう感じ、気配の方向にリボルバーを向け尋ねる。
「私のことは……そうですね……トリックスターとでもお呼びください」
姿は見えない。けれど、確実にいる、否話している以上存在はしている。であるならば……そう考え、八雲はリボルバーの引き金を引く。
「おや、話を聞く気はない……そういう事ですか」
「一応言っておきますけど、貴方、人じゃないですよね? 強いて言うなら……」
「えぇ。あなた方『超能力者』と呼ばれるものと同位の存在です。こうした繋がりも何かの縁。仲良くしませんか?」
「無理ですね」
「即答……ですか。少々悲しいですね」
「物騒な気配をたずさえて言うような事ですか?」
「形まで捉えているとは……やはり、あなたを手中に収めるべきか……いえ、ここは1度持ち帰った方が良さそうです……では、いずれまた」
結局、その気配の主が自身の領域外に出たのを認識すると、八雲はあーだこーだしている間に開いてしまった先生たちとの距離を縮めるため、再び走り出した。
※※※
結局、八雲は追いつくことが出来ず、シャーレに到着するのだった。