先生の護衛ね……うん、なんで?   作:やまたむ

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あえて誰も口にしないことってあるよね

 必死になって追いかけたものの、変な輩からの足止めがあったせいで、先生に追いつく頃には既にシャーレまでの間のチンピラたちは制圧され、なんならシャーレに先生やリンさんが着いている始末……

 

「踏んだり蹴ったりってこういうこと言うんですかね……」

「大丈夫だよ。ヤクモのお陰で私達も楽に制圧できたんだし」

「とはいえ、護衛対象に追い付けなかった時点で護衛失格ですよ……モモカさんにそのまま先生たちの所まで送ってってもらってた方が何万倍も早く着きましたよ……」

 

 能力の調整とかもしたかったから、あそこで下ろしてもらったけど、よくよく考えなくても非効率的だったよね……失敗失敗……

 

「それにしても、2キロ先から狙撃とかもしてくれてたんだよね?」

「あー、それは仕事柄そういうのやってたので……それより、先生。荷物の整理した方がいいんじゃないですか?」

「あっ……そうだった……」

「大掛かりな引越しですもんねぇ……」

「連邦生徒会の子達には頭が上がらないね……」

「救いだったのは、僕らともあまり物を集めなかった事ですかね……」

「……ソウダネ」

 

 先生? なんでカタコト? 

 

「……先生?」

「そ、そんな! わ、私だって男だよ!」

「先生?」

「仕事の都合上なかなか組み立てれなかったプラモデルとか、生徒の相手をするからと思って必要になりそうなおもちゃとか、色々持ってこないとじゃん!」

「いや、別にそれ隠す必要なくないですか? 」

「ヤクモ……!!」

「まあ、無駄遣いにだけは気をつけてくださいね? 僕の先輩たち、揃いも揃って無駄にお金使って毎日金欠でたかってきてたので……」

「中学生にたかる様なかっこわるい大人にはなれないかな」

 

 なら安心安心……それはそれとして……

 

「先生、ちょっと僕用事あるので出かけてきてもいいですか?」

「用事?」

「ほら、連邦生徒会に武器は返したので買っておきたいなーって……」

「そう言えばそうだったね。うん、いってらっしゃい」

「いってきまーす」

 

 シャーレの先生のデスクに1枚葉を置いて、僕は部屋に移動する。

 

「ダンボール……多いなぁ…… 」

 

 一応ここにも置いとくか……積んであるダンボールの1番上に葉を置き、セイアに渡した葉の元へと瞬間移動する。

 

「お待たせー、セイア……って。どちら様です?」

「……わぁお」

「本当に虚空から現れるとは……」

 

 セイアの元に出たつもりが別の人の前に来てしまったっぽい……。

 

「あ、すみません、人違いでした」

「待ってください、貴方がここに来ることはセイアさんから聞いています」

「セイアから……?」

「そうそう。セイアちゃん、『明日、ここに私の友人が来るから対応してくれ』って」

 

 あんのセクシーフォックス……なーにが明日が楽しみだ。だよ。しっかり逃げてるじゃん……。

 

「まあ、セイアちゃんがここにいないのにも理由あるから仕方ないんだけどね」

 

 ……とりあえず、周囲50メートルの範囲には……うん、引っかからなかったな……やっぱり、能力バレてると対応されるよね。

 

「あ、そういえば、キミ、なんて名前なの? セイアちゃん何ひとつとして教えてくれなくってさ」

「八雲です」

「そっかそっか。ヤクモくんね。うん! それでそれで、セイアちゃんとは……」

「ミカさん。ヤクモさんが困っていますからほどほどに」

「えぇー、でもあのセイアちゃんが肩入れしてる子だよ? こういう時に色々聞いておく方が良くない?」

「えぇーっととりあえずセイアは……?」

「諸事情で療養中と言ったところでしょうか」

 

 ……なるほどなるほど……昨日のセイアの感じからこの2人と何かあったという訳ではなさそう。

 ただ一つ気になるところがあるならば

 

「療養?」

 

 体が元から強いわけじゃないのは理解してる。とはいえ、なにか治療しなきゃいけないような持病とかにはかかってなかったはずだ。……まあ、未来視を治療必須の障害と捉えると話は変わってくるけども……

 

「はい。半年ほど前、セイアさんが寮で襲撃を受けまして」

「???」

 

 ん? どういうこと? セイアが襲撃? いやいやいや、ないよ。あれだけ元気だったんだし。

 

「あの、ショックなのはわかるのですが」

「あ、いや、そうじゃないんです。セイアが襲撃受けたって言う嘘をつく理由がわからなくて」

「……嘘……ですか。どうしてそのように思われるのですか?」

「……まあ、嘘見抜くのは得意なんで」

 

 うん、嘘だ。別に僕は嘘を見抜くのは得意ではない。とはいえ、嘘だと断言できるのにだって理由はある。

 そもそもなのだが、僕の夢の中において、セイアは嘘をつくことができない。より正確に言うなら嘘をついたとしてもすぐ気づくからセイアは嘘をつかない。

 

「それで、『なんでセイアが襲撃を受けた』なんて嘘、ついたんですか?」

「……はぁ……」

 

 ナギサさん……であってるはず……は諦めたように大きなため息をつく。

 

「セイアさんからは何も聞いていないのですか?」

「セイアから? 何も聞いてないですけど……」

 

 強いて言うなら昨日ごたついてたみたいなのくらい? 

 

「……なるほど……だからでしたか。でしたら、少し、お時間を頂きますがよろしいでしょうか?」

「……その前にちょっと……」

「え? なになに? なにかするの?」

「まあ、ちょーっと隠し事してた友人呼ばないとなって思いまして」

 

 僕はそう言って『領域』を探る。

 何年前だったかな……試作した1枚がセイアの髪にあるはず……領域の気配が希薄すぎて見つからな……いや! 見つけた! 

 凡そ数十キロ離れた所に操作可能な『領域』を見つけた。

 

「セイアには色々話を聞かせてもらわないといけないですからね」

 

 グッと力を入れると僕の頭上に夢でよく出会っていたセクシーフォックスが現れる。

 そのまま、重力に従うように落ちてくるが、1歩下がり両腕で受け止めた。

 

「ヤクモ……せめて初めての邂逅は2人にきりのときにしないかい?」

「どこぞの誰かさんがちゃっちゃと合流するためのアイテムを人に渡してたのが悪いんですぅー」

「全く……君って子は……」

 

 ……な、なんだよ……まるで出来の悪い弟を見るような感じの目は……

 

「セイアちゃんができの悪い弟を見るような目をしてる!? 私以外に、そんな目をすることあったんだ!」

 

 ……え? なにそれ? 初めて知った件。

 

「ヤクモ、変なところで嫉妬するんじゃない」

「へ? 嫉妬?」

「……別に嫉妬とかしてないしぃ?」

「え? 嫉妬してたの? ヤクモくん。かわいいとこあるじゃん」

「違いますぅー。セイアの偏屈な言い回しで僕以外にちゃんと関係値が築ける人が居ないと思ってただけですぅー」

「ヤクモ、さすがに今の言い草は看過できないのだが」

「うーるーさーいー」

「都合が悪いからと言って頭を掴んで振り回すのは止めるんだ。ヤクモ」

 

 うーるーさーいー。

 

「……うわぁ……振り回されてるのにセイアちゃん楽しそう」

「それがセイアさんたちなりのコミュニケーションなのでしょうね」

「セイアちゃんが楽しそうにしてるとこ見るのも珍しいし放っておく?」

「こちらの事情も話したいのですが……」

「無理じゃないかなー。あの2人、もうそこら辺どうでも良くなってるよ?」

「そんな事ないですよ。普通に気になりはします」

「うわぁ!? 急に冷静になったぁ!」

 

 失礼な……まるで、いつも以上に正気を飛ばしてハッスルして聞く耳持ってないみたいな扱い……否定はしないけど。

 

「一応言っておくけれど、私としてはヤクモと遭うのはもう少し後のつもりでいたんだ。まさか、もう1枚『葉』を用意しているとは思っていなかった……」

「まあ、5年前に作った試作中の試作だからね。反応がほとんど無くてちょっと扱いに困ったよね」

「キヴォトスに来たから反応も感知しやすかったってことかい?」

「そういうこと」

「……少し気になっていたのですが……ヤクモさん、あなた、何者なんですか?」

 

 何者……何者かぁ……そう言われるとひとつしかないんだよね……

 

「超能力者ですよ。どこにでもいる。普通の」

「ヤクモ、君は『どこにでもいる、普通の』超能力者じゃないということから認識すべきじゃないかい?」

 

 ……テンプレートどおりの回答をしたらセイアに突っ込まれた……酷くない!? 僕ほど超能力を自由に使えて超能力者っぽい超能力者なんて居ないと思うんだけど!? 

 

「ヤクモみたいに超能力を自由自在に操れる者の方が少ない。少なくとも私はそう記憶しているよ」

「……セイアの言う通りです……できる事が多くて一芸特化になりきれなかった器用貧乏能力者です……」

 

 聞きたいのはそういう事じゃなかったのですが……と、ナギサさんの呟きが耳に入る。とはいえ、僕自身、僕のことなんて割とあやふやで生きているのは間違いない。

 能力の源泉だったりはわかるし、何ができるのかとかも認識はしてる。やろうと思えば世界を壊すことなんてすぐにできる。

 

「ただ、一言で表すなら……外で育ったキヴォトス人が1番近い表現かもしれないです」

「……貴方の立ち位置……地位とかの話なんですが……」

「あっ……そっち……」

 

 わりと超能力者やってるとあるんだよね。『あなたは何者!?』って言われる時って……その時だいたい超能力とかそっちの方聞かれるから……

 地位とかそういうのってなると……

 

「平社員のシャーレの先生の護衛……かな?」

 

 セイアの顔をグッと僕の方に向ける。

 

「首が痛い……が、大体合っているよ。ヤクモはキヴォトスの外で活動してる企業の超能力者で、今は連邦生徒会長の依頼で先生の護衛をしている」

「となると、連邦生徒会長とお会いしたことが?」

「……それ僕もわかんないんですよねぇ……記憶に欠片もなくて……」

「そうだろうね」

 

 あれ? セイアは何か知ってる感じ? 

 

「ということは、ヤクモくんはなんでキヴォトスに来ることになったのか分からないんだ」

「そうなんですよねぇ……キヴォトスのことなんてセイアが知っているもの以外ほとんど知らない……なんなら、セイアが知ってる事の1ミリも知らない気がしますし…………」

「そんなことは無いよ。私から教えられるものは教えているよ」

 

 まあ、そうだよねー。うん、知ってた。

 

「ところで、なんでセイアは襲撃受けたって事になってたんです? たぶん、元から組まれていた構想ですよね?」

 

 クイッとセイアの顔をナギサさんに向けながら尋ねる。ミカさんの「セイアちゃんが玩具にされてるぅ」という笑い混じりの声には僕もセイアもナギサさんも無反応だ。

 

「そうですね。いくつか理由はありますが、発起人であるセイアさんから説明していただいた方がよろしいかと」

「そうなの?」

「あぁ。そもそも、ヤクモがいる前提でないとできない事だからね」

 

 そうなんだ……でも僕がいないとできないことって……

 

「僕の能力で干渉したい相手が居るってことだよね?」

「その通りだよ」

「でも、それって相手に気づかれてるんじゃないの?」

「いや、今はまだ大丈夫だよ。『彼女』はまだ私に気づいていない……今のうちなんだ……準備を整えれるのは」

「準備……?」

「詳細は省くけどね、『彼女』と戦う……いや、彼女を表舞台に上げるために必要なことなんだ」

 

 ……ふむふむ……なるほどなるほど……いつもの隠し事フェーズ把握ぅ。それにしても準備……準備ねぇ……相手がどんな存在、どんな人かはわからないけど、セイアが危険視してる相手であるのには間違いはないかな。

 

「猶予はひと月くらいかな。それ以降は私は夢の世界に居座ることになるだろうね」

「……とりあえず、僕にできることは?」

「ナギサとミカが暴走しないように監視してくれればいいさ」

 

 ……その言い方大丈夫なの? 2人揃ってセイアを睨みつけてるけど……

 

「ひと月でできることはやるさ。ヤクモは今、武器を持っていないんだろう?」

「そうだけど……」

「君の能力があるとはいえ、無いのは不便であることは確実だ。私の方で以前から用意していた物がある。後で渡すよ」

「昨日、別にいらないって言ったのに……」

「ないよりある方が良いだろう? それに、能力も可能な限り使いたくないんじゃなかったのかい?」

「うぐぐ……」

 

 セイアの……言う通り……です。実際問題、今日だって武器があれば追いつけていてもおかしくないタイミングでの合流だった……そう言われるとありがたく貰う方が得な気もする。

 

「……ですが、本当にトリニティのもので良いのでしょうか? シャーレは超法規的機関……その上連邦生徒会の直属に当たるんですよね?」

「その問題もヤクモに限っては関係がないことではある」

「その場で作れってこと?」

「……そもそも君の能力に耐え切れるだけの銃が今の世に無いだろう?」

 

 言われてみれば……ってそんな事ないよ!? 別に僕が加減したらちょーっと改造された巡航ミサイルくらいの銃になるだけだよ!! 先輩とかよりマシだよ!!

 

「一応言っておくけれど、超能力者視点での普通とキヴォトス人視点での普通は大きく異なっているというのも理解しておくんだ」

「……僕別に強くないし……」

「いじけるんじゃない。別に本気を出せとは一言も言っていないだろう? 君の任務である『先生の護衛』その為に必要なものを提供する。それ自体は何も問題ないだろう? どの道あの連邦生徒会からも支給はなかったのだろうし」

「……そういえばチンピラ捕縛のために臨時で借りたのあったけどその程度だったような……」

「連邦生徒会らしいといえば、らしい判断だね」

「まあ、現地調達しろって社長から言われてるからいいんだけどね……」

「君の武器にお金をかけるほど無駄なこともないからね」

 

 ダメだ……否定できない。少なくともその場で作れるせいで、銃の整備やらなにやらに掛ける金額全部無視できてしまうんだから、本当に銃にかけるお金が勿体ないのは間違いないんだ。

 

「とはいえ、能力を使わない範囲でとなると、相応のものが必要なのは間違いないのだろう? 故に、校章の部分を消した上で、君の使い易いように改造してくれれば、恐らくだが他校との問題にも発展しにくい。それに、捕縛にはトリニティの生徒が二人いたのだろう? そこからの繋がりということなら、問題もないだろう」

「セイアさん。それはいつ起きたことなのでしょうか?」

「いつもの予知夢だよ。今日起きたことだからナギサもミカも知らないのは無理もないさ。明日にはシャーレに先生が赴任したという旨が正義実現委員会から上がってくるだろうね」

 

 ……たしか、ハスミさんがその委員会の副委員長なんだよね? あの人の服装的にスリッドえぐい委員会なのかな……? 

 

「ハスミさんが連邦生徒会に出向いていましたから……あぁ、そういうことですか……」

「え? なになに? ナギちゃん、何か分かったの?」

「いえ、ハスミさんが連邦生徒会に出向いたこと、これ自体がひとつのキーになっていると言うだけのことですよ。そうですね……今回の場合は『先生』が来る合図だったのでしょうね。それと同時に、連邦操作部『シャーレ』の設立が確定する。ここまではセイアさんの予知通りなのでしょうね」

「となると、ヤクモくんのセイアちゃん召喚は本当に予定外だったとか?」

「どこをどう繋げたらそうなるんだい? ミカ。可能性自体は考慮していたとも」

「ま、そんなことより、外交的に校章が付いたままの武器って割と不味いよね。消すことはできるみたいだけどさー」

「なんとかなるんじゃないですかね? 僕、誤魔化したり裏工作したり、割とよくやらされてたんで」

「へぇー、政治には自信あるんだ」

「ちょっとした処理が上手いだけですよ」

「ヤクモは後方支援員だったわけだしね。今回のような護衛任務の方が稀なのさ」

「そそ。そういうことです」

 

 セイアの頭をミカさんに向けつつ、一緒にドヤ顔を決める。

 

「2人ともほんとに仲良いよね。まだ、セイアちゃんの頭掴んで離してないし」

「10年来の付き合いですからね」

「永年の交流の成果だよ」

 

 セイアの言葉を聞きながら、僕はセイアを上に投げ、胴を抱き込むように抱えた。そして、頬をセイアの頬に当てる。

 

「セイアはひとりで抱え込む癖がありますから。こうやっておふたりにちゃんと話してたことが驚きなんですよ?」

「お陰で色々うまーく立ち回らないといけないけどねー。私そういうの苦手なのに」

「ミカにはある程度自由に動いてもらえる必要もあるからね。ヤクモがいるとはいえ、あの計画を遂行するためにはミカの力とコネクションが必要不可欠なんだ」

「……セイアちゃんを出し抜こうとして、逆にセイアちゃんに利用されちゃったから自信なくしちゃうよね」

「ミカやナギサならどうするのか分かるという信頼の表れでもあるんだから、問題は無いだろう?」

「セイアちゃん……」

「なんだいミカ」

「セイアちゃんってたまーにすっごいデレてくれるよね」

 

 なっ……っといってセイアがかたまる。うん、ミカさんに激しく同意だ。セイアってふらっとした調子でなんの気なく突然お気持ち表明してくるからね。

 

「え? もしかして無自覚だった?」

「認識が違う。別に私はデレてる訳ではなく、事実を語っているだけで」

「はいはい。それ以上は墓穴掘るからやめようねー」

 

 ウリウリとセイアの両頬を手の平で潰しながら口を閉じさせる。その光景がよほど珍しいものだったのか、ミカさんとナギサさんは上品に吹き出していた。

 

「はぁ……とりあえず、武器に関する問題はもういいね。これ以上話していても何度も脱線していくような気がする」

「そうですね。対外的にはこちらでなんとか誤魔化していきましょうか」

「そうしよう。私も色々疲れた……ヤクモ。目を見てくれ」

「ん? あー、了解」

 

 セイアを放し、クルッと一回転半させてこっちを向かせ、頭をつかみ瞳を覗き込む。グッと目に力を入れ、セイアの目がトロンと溶けた後に、いくつかの光景を見たあと、1軒の屋敷とその住所が頭の中に流れてきた。

 そして、もう一度一回転半回し抱き直す。

 

「次の目的地はここ?」

 

 今見た情報を元にセイアに尋ねる。

 

「あぁ。私のセーフハウスだよ。君に渡すための武器があるからね。行き方は……私がついて行くから大丈夫だろう」

「あ、転移しろとかそういうのじゃないんだ」

「君の領域外だよ」

「じゃあ、なんで見せたのさ」

「外観だけでもと思ってね。目的地も分からずただ歩かされるのは苦痛だろう?」

「たしかに」

「という訳でナギサ、ミカ先に失礼するよ」

 

 セイアはそういうと、クイッと首を動かし退室するように促してくる。

 

「それじゃあ、失礼します」

 

 僕はセイアを抱えたまま、ぺこりとお辞儀してちょっと遠目の扉を開き退室した。

 

 

※※※

 

 

 八雲とセイアを見送り、ナギサはホッと肩の荷が降りたのか、大きなため息をついた。

 

「さすがに疲れちゃった?」

「そうですね。ヤクモさんのこともそうですが、セイアさんの予知が確定した事象である裏付けが取れてしまったこと……そちらの方が重要です」

「ナギちゃん、まだ信じてなかったんだ……」

「確信がなかっただけですよ。いずれキヴォトスを襲う未曾有の災害……いえ、正確には侵攻……ですか? 現実味を帯びていなかった事が肉付けされてしまった。そんな感じです」

「私も下手したら死んじゃうかもしれないってやつだよね。だから、アリウスの子を転入させた。それも私を通じて」

「ミカさんの方はどうなってますか? 白いドレスの女性と接触はできましたか?」

「それが全くでさー。皆こぞって触れられたくないって感じ」

 

 パタッとチェスの駒を倒しながらミカは続ける。

 

「でも、露骨に触れられないようにしてたら、何かあるって言ってるようなものだよねー」

「そうですね。そうなると、やはり当初の予定通りセイアさんに干渉してもらうしか……」

「夢からの干渉がどこまで行けるかにもよるよね。ヤクモくんがいればそこは解決するって言ってたけど、どうするつもりなんだろう?」

「セイアさんから聞いた情報だと、彼を中心とした半径50メートルを領域と定義して、その空間を操ることが出来るというもの。キヴォトスにおいて銃弾の無効化を可能にする能力として見ると、護衛として1番有用かも知れませんね。ミカさんから見てどうでした?」

「んー、なんだろうね。たぶん、私なら負けないんじゃないかな? 身のこなしとか隙を見せないって言うのはできてたけど、能力を使いこなしてるかって言われるとわかんない。こう、無邪気に振り回してるようにも見えたから。ほら、わかんない? 『僕にはこれだけ自由にできる力があるんだ!』みたいな感じ」

「そのようには見えませんでしたが……」

「まあ、どっちかっていうと、セイアちゃんとあって興奮してる感じだったよね。セイアちゃんの格好含めて」

「ミカさん」

「ヤクモくんとセイアちゃん、2人揃って何も言わなかったから黙ってたけどさ。なんでセイアちゃん下着だけだったんだろうね」

「ミカさん!!」

「あれ? ナギちゃんもしかして今になって恥ずかしくなってきたの? かーわーいーいー」

「違います! ロールケーキぶち込みますよ!」

「きゃーナギちゃんが怒ったー」

 

 全くもぅ……そんな大きなため息と諦観の一言がティーパーティのテラスに響いた。

 

 

※※※

 

 

「そういえばさ、セイア」

「なんだい?」

「なんで服きてないの?」

「今になってそれを聞くのかい?」

「いや、だって、あの時セイアが襲撃されたって聞いたから咄嗟に呼んじゃっただけだし……」

「君は稀に気分でなにかやらかす傾向がある」

「……で、なんで服きてないの?」

「その話を続けるのかい?」

「お風呂はいってた訳じゃないんでしょ?」

「そうだね。これから入るところだった。ただそれだけだよ……」

「別の理由もありそうだね」

「……セーフハウスに着いたらわかるさ」

「はいはーい。くれぐれも落ちないでね。人を背中に乗せて飛ぶのって初めてだから」

「わかっているよ」

 

 ペタッと全身をヤクモに預けながらセイアは返答する。

 

「君の能力の応用で空を飛べるということは既知の事だったが、私を乗せることまでできるとはね……一応人一人分の重量は感じているわけだろう?」

「ふふふ、情報が古いね。僕が領域で扱える能力の指向性が一種だった時代はとうに過ぎているんだよ」

「夢でもないのに……いや、夢から引き出すことができるようになった……という表現が正確かな? 2年前に武器を作れるようになってから大きく変化したんだろう?」

「……なんでネタバレするのさ……そうだよ……セイアにかかってる重力を僕の領域内だけ夢で感じるものと同じにしてるだけだよ……」

「夢だから質量も無いわけだ。ふふ、ヤクモの成長が私は嬉しいよ」

「うるさい」

 

 よしよし、母性を感じさせるには小さなセイアの手で頭を撫でられ、ヤクモは照れくさそうに不貞腐れる。

 そんなヤクモの体温を噛み締めるようにセイアは背中に抱きついていた。

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