セイアの案内の元、セイアのセーフハウスに着く。
そこは、セイアに『見せて』貰った通りの豪邸。少なくとも外で生活してた僕とは無縁の建築物だった。
「ねぇ、セイア」
「なんだい?」
「もしかして、最初僕をここに住ませようとしてた?」
「いずれ君の家になるんだ。それが早いか遅いかの違いでしかないだろう?」
「そんな未来確定してないはずなんだけど!?」
「君の中ではそうなんだろうね。さあ、ぼうっとしてないで着いてくるんだ」
下着姿のセイアはセーフハウスに足早に向かっていく。
あ、そっか。一応女の子だから下着で外で歩くのって恥ずかしいものだよね。うっかりうっかり。
「うっかりでは済まないんだよ。普通は」
「しれっと心の中読まないで!?」
「わかりやすすぎるんだよ。君は」
そうはいってるけど、セイアいま僕の顔見えないじゃん……
「半分は君の影響だよ」
「残りの半分は?」
「経験だよ。あぁ、あと」
セイアがなにかいい切る前にドアの前から僕の元に転移させる。
「ねぇ、セイ「救護!」ア……」
セイアを腕の中に収めつつ、自体について聞こうとすると勢いよくドアが開かれ、今にも『発進』しだしそうな勢いの女性が現れた。
そして、次の瞬間にはもう既に走り出し、僕たちの隣を通過していた。
「ヤクモ、彼女を止めてくれ」
「了解」
とりあえず、セイアの指示通り彼女を『掴む』
「ちょっ……おも……」
グンッと一瞬、後方へと引っ張られる。僕の領域は別に万能という訳では無い。質量を持つものが速度を持って移動していて、それが莫大なエネルギーを持っていたら当然だが僕にも影響は出る。
正確に言うと『止めようとしたら』影響が出るかな。
「セイア様の救護に向かう私を止めるということは、あなたにも救護が必要……という事ですね」
「……え? 」
どゆこと? そんなことを言う前にショットガンを向けられた。その瞬間にセイアを屋敷の中に転移させる。
セイアが腕の中から居なくなったと同時に、目の前の女性は躊躇無く引き金を引いた。
咄嗟に体勢を地面スレスレまで伏せ、地面を蹴り接敵。その後直ぐに足払いをするも、ジャンプしかわされてしまう。
「げっ……」
そのままの体制で女性は盾を僕の方に向け、重力に任せ落下してくる。幸いにも盾の影で彼女は見えない。だから、今なら超能力を使ったところでバレる可能性は低い……はず!
僕は超能力を使い、彼女の背後をとる。直後、ものすごい砂埃が立った。
「えっ……?」
「後ろ !」
その掛け声とともに盾が僕の脇腹に突き刺さる。大振りなぎ払われ、地面を数回バウンド。軽く背中が擦れて傷になった。
とはいえ、一旦距離ができたことで仕切り直しになったのは幸いだろう。うん、なれない近接戦はするもんじゃない。そういうのは先輩たちの役目だし。
「……先程ので2回。セリナのようなことを自発的に?」
ボソリと何かをつぶやく女性。ただ、まあ、セイアの指示通り足止めできてるし問題は無いのかな?
とりあえず、セイアが出てきてくれるまで耐えるのが正解……なような気がする!
立ち上がろうとして、僕は体の異変に気づく。
「ごふっ……」
口から軽く血が流れる。
あぁ、今ので内臓やっちゃったか。うっかりうっかり。目の前の女性は一瞬思考が止まっていた。
とりあえず、治さないと。
目をつぶることはできない。普段の感覚で自身の体を解析する。よし、内臓いくつかやっちゃってるけど、この程度なら軽傷だな。
超能力を使って損傷した部位を補強し回復する。さすがに目の前で血を吐かれた影響か、女性……いい加減名前知りたいな……情報見るか……蒼森ミネさんね。オーケー把握。ミネさんは目の前で血を吐かれた経験がないのか、動揺しているように見える。
医療関係の人みたいだけど、血を見ることは少ないのかな?
「意外と脆いのですね」
「ん? どういうことですか?」
突然の質問に、つい素で返してしまう。
「私を足止めするための『手』の様なものが1回。一瞬で移動するようなものが2回。あなたを『一般人』として見ることはできません。ですが、今の脇腹への盾での攻撃。キヴォトスの住人であれば咳き込みはするでしょうが、血を吐くほどの力は入れていません。あくまで治療可能な範囲での救護にすぎないのですから」
……意外と冷静だな。
「その上で確認します。救護される意思は?」
「気を使ってくれるのはありがたいですけど、この程度軽傷なんで気にしなくても」
「そうですか。分かりました」
なんか、僕ひとつ誤解してたのかもしれない。この人ちゃんと声かければ止まってくれる人だ。無理に超能力とか使わないでよかったかもしれない。
咄嗟にセイアに言われたから超能力使ったけどさ。
「それでは、救護します!」
「え?」
あれ? え? 肉体的にはもう回復してるし平気、話も通じそうな気配がしてきたし、そっちで済ませよう。そうしましょうって感じじゃないの?
そんなこと考えてる暇なんて与えないとばかりに、盾を地面に突き立て、握り拳を作り突撃してくる。もしかしてぶん殴って気絶させに来てる!? さっき盾で血反吐吐いたから!?
「なんで、戦わないといけないんですか! 流れ的に話し合いで何とかなりそうじゃなかったですか!?」
ミネさんの拳をいなしつつ尋ねる。
「大人しく救護を受けてください。先程の攻撃で内臓に損傷が入っているのはわかっています。あなたは救護が必要な体のはずです」
「別にいらないですよ!?」
「救護が必要な人ほど、拒否するというもの」
だめだ……話を聞いてない。こうなった人を止めるのって僕やった事ないんだよね……こういうのは先輩たちの仕事だし。でも今は先輩たちも居ない……自分でなんとかしないと……
「救護ッ!!」
ミネさんが一息で接近してくる。さすがに早い。恐らくそれなりに格闘には慣れているのだろう。躊躇いなく鳩尾を狙ってきた。
転移は恐らくすぐに対応される。ここはガードして耐えるしかない。僕は、咄嗟に右手で受け止めた。
……おっもぉ
なにかズキズキとした感じが右手からしてくる。ヒビ入ったなぁこれ。とはいえ、治せない範囲じゃない。すぐさま回復して次の攻撃に備えようとして、ガードに使った右手を掴まれた。
「え?」
視界が反転する。空が見えた。思いっきり地面に叩きつけられ一瞬視界が朦朧とする。とはいえ、意識を失う訳にも行かない。
未だ僕の右腕を掴んでいるミネさんの左手に僕の左手を当てる。
「ごめんなさい、あんまり、こういうことはしたくなかったんですけど」
「なにを……」
続けざまに左手と両足を『見えない手』で掴んだ。
「セイアからあなたを止めるように言われてますので」
僕はミネさんを『見えない手』で掴んだまま宙へと浮かばせた後、転移で拘束から抜け出す。
「それじゃあ、おやすみなさい」
ミネさんの顔を両手で抑え、顔を近づけ目を合わせる。ミネさんは訝しげに僕の瞳を見て、直ぐに生気を失ったかのように意識を失った。
『見えない手』で掴み浮かばせているため、倒れ込んでは来なかったけど、ミネさんの体重を支えるのが何気に辛い。
宙から地面に足を付け直し、ミネさんをそのままゆっくり下ろしながら、能力を解除する。一気に来るミネさんの全体重。思いのほか重い。
とはいえ、昔から人よりちょっと力が強かったおかげで持ち上がらないというほどでもない。
とりあえず、ミネさんをおんぶしてセイアの元へ転移する。
「お待たせー」
「意外と時間が掛かったね。さすがミネ団長と言うべきかな」
「ほんとだよ。なんで素手で骨折ったり内臓にダメージ入れれたりするの? キヴォトス基準だとあれくらい普通なの?」
「そんなことはないよ。彼女が人より力が強いだけさ。それはそれとして君が『外基準』でも脆弱というところもあるけれどね。そもそもの話、君は何度か訓練で心臓が破裂した経験があるだろう?」
「……先輩が強かっただけだし」
「訓練で命の危機に陥っている時点で問題なんだ。それくらい君の言う先輩たちも指摘していただろう?」
……そうだけどさぁ……とはいえ、外にいた時も内臓破裂したり骨折れたりなんて当たり前だったから、超能力で補完するのなんて慣れたもんだし……それが癖になったっぽいのはよくないかもしれないけどさぁ。
「まあ、とりあえず、問題ないわけだし! ミネさんどうしようか?」
「私のベッドにでも寝かせておいてくれ。それに、そろそろ来る頃合だろう」
「来る?」
「君のために用意した武器だよ。使用人に取りに行かせていたんだ」
「だから、出てこなかったんだ……セイアが来たらもっと楽できたのに」
「彼女は私が入ったくらいで止まるような人じゃないさ。それに、彼女の目的も私ではなく君の救護に変わっていただろう?」
「……たしかに?」
「そもそも私が言って止まるなら、救護騎士団は『ミネが壊し救護騎士団が救護する』なんて噂は広まらないさ」
……えぇ……なにそれこっわ……うん、能力使って催眠かけてよかった。下手に拘って病院送りになっちゃったら元も子もないからね。
そんな他愛のないことを考えていると、なにやらドタドタと慌ててるような足音が聞こえてくる。
気になりドアの方を見ると同時、勢いよく扉が開かれた。
「セイアちゃん! 大丈夫! ミネちゃんが急に飛び出して行っちゃって……」
そう言いながら入ってきた人物は僕の顔を見てくる。
「セイアちゃん」
「ウメ。言っておいた物は持ってきてくれたかい?」
セイアの語気が少しきつくなった気がする。切り替えろ。そういう意図なんだろう。
一応、セイアの従者ってことだし、僕の方でも見ておこうかな。
能力を使い、ウメさんの情報を得ようとした時、電気が走った時のような痛みが頭を穿つ。
咄嗟に頭を抑えたことで、異変に気づいたのか、セイアが心配そうにこっちを見ていた。
「ヤクモ? なにかあったのかい?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと頭痛がしただけ」
少し痛みが引いたあたりで、ウメさんを見てみる。
「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」
「う、うん。どうかしたの?」
「なんであなたも下着姿なんです?」
「え? あ……あっ!? ちょ、ちょっとごめんね! あと、これ。セイアちゃんからヤクモくんにって!」
大型のスナイパーライフルを押し付けられるようなカタチで受け取ると、ウメさんは足早に部屋から出ていった。
何となく、空の旅でセイアが言っていた事がわかったような気がする。
「もしかして、僕が転移させた時、あの人とお風呂入る前だった?」
「そうだよ。彼女が足を滑らせて私に紅茶を被せてしまったからね」
なるほどね。……いや、でもそれってウメさんが下着のままな理由にはならない気もする……いや、気にしたら行けないやつだ。たぶん
「それで、これがセイアが僕に渡そうとしてたもの?」
「その通りだよ。それがないとこの先、君が苦労するだろうから、あらかじめ用意させてもらったんだ」
「うーん、やっぱり、対戦車想定のライフルは大っきいねぇ」
「不服かい?」
「満腹!」
「ならよかった。正義実現委員会で使用しているものを君に合うよう調整した甲斐があったというものだ」
「でもよく僕に合うような調整とかできたね。セイアそういう整備とかあんまりしないでしょ?」
「必要が無いからね。とはいえ、君が使うんだ。ちゃんとしたものを渡したいのは当然というものだろう?」
「それもそっか」
「では、私の用事も終わった事だし、君もシャーレに戻るのだろう?」
「まあ、そうだね」
「なら、先生に『最初の仕事はアビドス高等学校がいい』と伝えておいてくれるかい? 私の関与は伏せて」
「なにかあるの?」
「ウメの故郷でもあるんだ。私の計画の都合上帰してあげることが出来なくてね。アビドスの様子を報告してはくれないか?」
あー、なるほど。確かに、セイアはこれから長期間の睡眠にはいる訳だし、その面倒をウメさんが見るってなると故郷に帰ることは出来ないもんね……
「うん、わかった。セイアが寝てる間はウメさんに連絡したらいいのかな?」
「あぁ。それがいいだろう。あとでウメとモモトークの交換でもしておくといい」
「モモトーク?」
「君たちのところで言うLINEのようなものだよ。スマホは持っているのだろう?」
「一応。えっと……確か。ポケットの中に……」
スボンのポケットから普段使っているプライベート用の携帯を取りだし、セイアに見せる。
「ガラパゴス携帯とは……また随分と古いものを……私はスマートフォンと言ったはずなのだけど?」
「……あ、こっちか!」
仕事用のタブレットを『領域』から取り出し、セイアに渡す。
「それは仕事用だろう? ……はぁ、仕方ない。ほら、ヤクモ」
「これは?」
セイアは机の引き出しから、こうなるだろうと予想したかのように、仕事用のタブレットを小さくしたような物をとりだし、渡してくる。
「それがスマートフォン……スマホだよ。使い方はタブレットと大差はないから問題はないだろう? ないといってくれ。なんなら、先生から使い方も教わってくれ」
「……これがスマホ? 先輩から貰ったやつと全然違う……」
「……ちょっとした冗談を君が信じ込みすぎた……と解釈するのが良さそうだね。君の口から聞く『先輩』はだいぶヤンチャ人だと想像が着く。本来なら学校で認識を改めるはずが不登校かつ活動も室内が多かったゆえの弊害か……これは『社長』の判断が君の社会性の向上と見れば、ヤクモ以上の人材を追加で派遣しなかったのにも納得がいく」
「…………そんなことないしぃ?」
「普通はスマホと言われれば今渡したものが出てくるはずなのだよ。それが出てこない時点で君はいくつか常識が欠如しているといえる。矯正していくなら、間違いなく外で仕事をしながらというより、同年代の者の多い学園都市キヴォトスに行かせる方が手っ取り早い。それに、君は先生の護衛だ。否がおうにも生徒との関わりができてしまうというもの。当たり前だが、そういった近い歳のもの同士での関係というものが知らずのうちに成長を促すというものでもある」
「セイアは僕の親か何かなの……?」
「姉であり幼馴染み。それが君にとっての私だろう?」
「そうだけどさぁ」
不満ですと睨みつけていると、セイアはふふふと笑う。
「モモトークでウメとアカウント交換をしてくるといい。なに。既に私のアカウントはその端末で交換済みだし、ちゃんと君のアカウントとして作っているよ。IDとパスワードは能力で聞き出せるはずだよ」
「おっけー」
貰ったスマホに能力を使い、情報を得る。えっと……ふむふむ。
「ねぇセイア」
「なんだい?」
「どれで電源つけたらいいの?」
「……パスワードは分かっているんだろう?」
「……何個かあるけど、一応? モモッターIDとパスワードとか画面ロックの解除番号とか何故か登録されてるセイアのクレジットカードの暗証番号とかは取れたけど……操作自体の情報は取れなかったかな」
「……世間一般で当たり前とされているものに関してはなにも得ることが出来なかった可能性が高い……と?」
「かも?」
「仕方ない……とはいえ時間も時間だ。君もそろそろ帰った方がいいんじゃないかい? 片付けの途中で抜け出してきたんだろう?」
チラリと時間を確認するとそろそろ7時になろうとしている。
……銃を買いに行くとは言ったものの、さすがに夕方までに戻らないのはまずい。それも、銃撃戦が当たり前のキヴォトスで。
「それじゃ、セイア。僕帰るからね。ちゃんと暖かくして寝るんだよ」
「君もね。ウメとモモトークの交換も忘れないように」
「あいあいさー」
対戦車ライフルを能力でいじり、肩紐を取り付け僕はセイアの部屋から出ていく。
えぇっとウメさんは……あ、いたいた。
恐らく着替え終わっているとは思うのだけど、いきなり開けたら悪いし、ウメさんのいる部屋の前のドアをノックする。
「はーい。ちょっと待ってー」
その返事の後、すぐに扉が開かれた。
「あ、ヤクモくん。セイアちゃんとのお話はもういいの?」
「時間が時間なので。それで、セイアから今後の連絡手段としてウメさんとモモトーク交換しておけって事で」
「うん、わかったよ。やり方わかる?」
「ちょーっと待ってくださいね」
能力でスマートフォンとやらの扱い方を学習する。よし、えっと、上の長い奴が音量調節で、その下の黒いところが指紋認証と電源ボタン……だから、ここのボタンを押してスリープ状態の解除……。
画面ロックの番号にセイアの誕生日を入れて、画面ロックを解除して、モモトークのアイコンをタップ……っと。
「おぉー、すぐ使えるねぇ。若いっていいなぁ」
「ウメさんも若そうですけどね」
「そう言ってくれて嬉しいよ。留年しちゃってまだ高校三年生なんだけどね」
「なにか事情があったんですよね? 元々アビドスってところ出身ってセイアから聞きましたよ」
「うん、そうだよ。アビドス高等学校、大事な後輩残して私はトリニティに来ちゃったんだ。どうしようも無いことだったけど」
ウメさんは一瞬目を見開き、どこか懐かしむような目をして言った。
「あの、僕、なんか聞いちゃいけないこと聞きました?」
「ううん。違うの。あれは本当にどうしようもないことだったの。ヤクモくんもいずれわかるよ」
「セイアみたいなこと言いますね」
「そうかな? でも、うん。ヤクモくんなら大丈夫だと思う。それに、ヤクモくんが頑張ったらいつか……あ、これはまだ言っちゃダメなんだった」
「途中で言葉区切る所まで似なくても……」
「あ、違う違う。これは私のうっかり。セイアちゃんの真似した訳じゃないよ? セイアちゃんは意図的にヤクモくんを揶揄うためにやってるから」
それはそれで困るんですけどぉ……まあ、いっか。
「それで、セイアからアビドスで起きたことの報告をウメさんにしてあげるといいって言われたんですけど、なんかダメそうならやめときましょうか?」
「それはして欲しいかも。出来れば写真とかも一緒にもらえると嬉しいなぁって」
「分かりました。それじゃ、僕はこの辺で」
ウメさんとモモトークの友達になったのを確認し、シャーレに置いてきた葉の所まで転移した。