先生の護衛ね……うん、なんで?   作:やまたむ

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アビドス対策委員会編
まずいですよ先生!迷いました!


 あれから数日がたち、僕はまだアビドスに行けないでいる。

 理由は単純。

 

「シャーレの業務多すぎません?」

「引き継ぎ直後だからね。忙しいのは当然だよ。それよりもよかったの?」

「なにがです?」

「こうやって仕事手伝ってもらっちゃって」

 

 あぁ、なんだ。

 

「別にいいんですよ。もともとこういう雑務の方が得意ですし」

「そうはいっても、生徒に手伝って貰っちゃうのは……」

「僕は護衛ですよ? どこの学校にも所属してないから生徒でもありません」

「でも、君が中学生であることには変わらないんだろう?」

「……そうですね」

「なら、君も私の生徒だよ」

「……はぁ 。アロナさん、事務業務以外のものありますよね。たしか、何通か依頼のメールが来てるみたいだけど」

『はい。アビドス対策委員会の奥空さんから届いてます。他にも何通かありますが、どうしますか?』

「とりあえず、アビドス対策委員会のメールが先かな。アロナ、読み上げてもらっていいかな?」

『分かりました。先生』

 

 シッテムの箱のメインOSことアロナさん。僕たちがキヴォトスに来た当日に起きたシャーレ襲撃騒動の時、サンクトゥムタワー奪還と同時にシッテムの箱の回収を先生が果たし、僕が合流した時に変な領域を観測して発覚した存在だ。

 アロナさんが奥空さんから届いたメールの内容を読み上げているのに耳を傾けつつも、事務作業を継続する。

 

「よし! 今すぐ行こう!」

「待ってください! アビドスって砂漠地帯なんですよね?」

「そうだね。でも、困っている生徒がいるなら、助けないと!」

「だったら、水は十分に持っていきましょう! カバンは大きめのものを持って!」

『そうですよ先生! 大自然を舐めてはいけません! それに、アビドスでは定期的に砂嵐が起きるんです。そうなんだってしてもおかしくないんですよ』

「動いてないのに暑いよーで干からびたら元も子も無いんですから。準備しますよ!」

 

 強引に先生の手を引きエンジェル24に向かい、アビドスへ向かう準備を整えた。

 

 

※※※

 

 

 さて、準備を整えさー行くぞーとしたのは良かった。コンパスも持って迷わないぞー! と意気揚々にアビドス高校へ向かった。そして僕たちは

 

「迷った」

「迷ったね」

『完全に迷子です』

「近くに人がいてくれると助かるんだけど……」

「居そうにないですね」

 

 領域内に生体反応がないから、間違いない。人気もなく、家が砂に埋もれた住宅街だから、当然ではあるのだろう。

 

「じゃあ、ちょっと私は誰かいないか探してくるから、ヤクモはここに居てね!」

「ちょっ、先生! 勝手に動かないでくださ……行っちゃったよ…… 」

 

 あーもう! 追いかけないといけないじゃん! 

 とはいえ、僕の身体能力はさほど高くない。だから、追いかけてもたぶん見失う。

 

「しょうがない……能力で……」

 

 領域内で得られる情報で先生の追跡を開始する。……それと同時に見知った気配。

 僕は地面に手をつけ、恐らく起こるであろう事象に対処する準備をする。

 

 次の瞬間に一筋の熱線が僕に向かって放たれた。赤色の炎。それを防ぐため、目の前に地面を隆起させその影に隠れる。その間に背中に担いだライフルを構え、照準を合わせた時には、その下手人は正面にはいなかった。

 

「遅せぇよ」

 

 そんなつぶやきが聞こえできたのは、熱線の主が僕の後ろに回り込んだ後のこと。

 

「あなたが早いんですよ。先輩」

「違ぇねぇ。なまってんじゃねぇ……かっ!」

 

 赤髪で手入れの行き届いていない褐色肌の女性。その人が再度熱線を放ってくる。何とか瞬間移動で避けたものの、かわしきれなかったのか、軽い火傷を負った。

 

「篝先輩。なんでここに」

「仕事だよ仕事。お前とは別口のな」

 

 手に炎を浮かべながら楽しそうに口角を上げる先輩の姿に辟易とする。とはいえ、とはいえ、だ。先輩も仕事だと言うのなら、

 

「なんで僕に襲いかかってくるのか分からないんですよ」

「んなもん決まってるだろ。お前の気配を感じたから、お前の戦闘訓練担当のアタシが直々に鍛え直してやろうって魂胆よ」

 

 炎を弄びながら言ってくる先輩は心底楽しそうで……控えめに言って不気味だった。

 

「別に今そんなことする必要は……」

「ねえっていいてぇのか? んなわけねぇだろ。お前、実戦経験ほぼねぇんだからよ。アタシ程度に手こずってんのに護衛が務まるかって話だ。それも、お前の能力を使わずに。無理だろ? お前。フィジカルクソザコなんだからよ」

「それはそう……ですけど。ただ、僕だって仕事なんです。邪魔するなら、例え先輩でも……」

「『先輩でも』なんだ? 倒さなきゃいけないってか? 無理だな。今のお前には」

「そんなこと……」

 

 ない。と続けようとして意識が朦朧とする。まさか……

 

「初めての土地で迷って、水分もからっきしだったんだろ? そんな中、アタシの攻撃を『消滅』させずによけりゃ。そうなるに決まってる」

 

 やばい、ほんとに意識が……

 

「よかったな。八雲。お前の護衛対象が来てくれたぞ。このまま成長しろよ。アタシくらい平気で倒せるくらいにはよ」

 

 篝先輩は両手で炎を噴射し、空へと消えていった。

 ……まさか、脱水で倒れるなんて……。そんな悔しさと共に僕は気を失った。

 

 

※※※

 

 

 目を覚ますと、知らない天井が目に入った。

 

「あ、起きた? 道端で脱水で倒れるなんて不幸なことがあったもんだねぇ」

「あなたは?」

 

 ピンクの髪の女の子が僕の視界に入りながらそんなことを言ってきた。

 

「私? 私は小鳥遊ホシノ。アビドス高等学校対策委員会の委員長。君は運がよかったね。道路に突っ伏してるところを先生が偶然見つけてくれたんだから」

「たぶん、それは偶然じゃないですけど……」

 

 グッと力を入れて体を起こそうとしたけど、力が入らない。

 

「あ、ダメダメ。君、熱中症で倒れてたんだよ? おじさんの後輩と先生がいなかったら、そのまま死んでたかもしれないんだから」

「助かりました」

「いいのいいの。それに、私も君には聞きたいことがあったから、ウィンウィンってやつだよ」

「聞きたいこと?」

「そう。その銃。トリニティのだよね。君、何が目的でアビドスに来たの?」

 

 僕の隣に転がされているスナイパーライフルを指さし、ホシノさんは尋ねてくる。

 というか、これが本題か……

 

「仕事ですよ。シャーレの先生の護衛」

「あぁ、なるほどね。さっきの偶然じゃないって言うのは」

「はい、先生がちょっと離れてる間に脱水症状起こしちゃって」

「ふーん。じゃ、次の質問だけど、百合園セイアって子、知ってる?」

「セイア? 友達ですけどそれが何か?」

「なるほど。じゃあ、君が……うん、ありがと。じゃあ、君は当分起きちゃダメだよ。経口飲料水は置いておくから、こまめに飲んで、ちゃんと寝てね。脱水で死んじゃうなんてこと、そうそうあってほしくないし」

「はい。ありがとうございます」

 

 なんか、優しい人だな。深く事情を聞いてこないことにムズムズする所はあるけど、それでもなにかこう、心配してくれてるって感じがする。

 

「あの、ホシノさん」

「ん? なに?」

「もし、何かあった時、呼んでください。今度は僕が助けるので」

「それはシロコちゃんに言ってあげてよ。私は君を助けたわけじゃないんだから」

 

 それもそうだ。何となくホシノさんが助けてくれたって思ったけど、ホシノさんの後輩さんが僕を助けてくれたんだ……その、シロコさんって人のおかげで何とか生きている……いや、よくよく考えたらあそこで死んだ方が僕的には得だったな。死ねば肉体の再構成で脱水も無くなってたと思うし、体力も元通りじゃん……やっちゃったなぁ……

 いや、待てよ? ここで自殺を計って再構成すれば……いや、ダメだ。床が血でいっぱいになって余計な心配かけちゃう。

 

「体力の回復を待つしかないかぁ……」

 

 ゴロンと硬い床に寝そべって目を閉じていると、お腹の辺りに重量を感じた。

 

「…………」

 

 目を開け確認してみると、何故か僕のお腹を枕にして寝ているホシノさんが居た。声をかけるべきか悩み、声をかけないことにした。

 

「こんな気持ちよさそうに寝られると怒るに怒れないしね」

 

 気持ちよさそうに眠るホシノさんに怪我がないか確認して天井を眺めることにした。

 

 

※※※

 

 

 目を覚ましてすぐに視界に入ったのは、見たことの無い大樹だった。アビドスにそんなものがないのは私がよくわかっている。

 そうなるとここはどこだ? 

 

「やあ、久しぶりだね。小鳥遊ホシノ」

 

 背後から声をかけられた。聞き覚えのある声だ。去年の春、突然アビドスに着て『借金の一部』を肩代わりしたいと言い出した変なトリニティ生。

 

「百合園セイア……?」

「そうとも。君たちと取引してからちょうど一年くらいかな?」

「そうなるのかな……? それより、ここはどこ? 見た感じアビドスじゃないみたいだけど」

「夢の中さ。もっとも、君の夢でもなければ私の夢でもない。この夢の主は先刻、君と話していた彼のものだ。我々は彼の夢を間借りして密会をしているというわけさ」

「それで? 私にこうやって接触してきたってことは何か用があるんじゃないの?」

 

 そう尋ねると、百合園セイアは「そうだね」と返答をしてきて、少し逡巡してから話し始める。

 

「君に接触した理由は単純だ。これから、君たち3人と結んだ契約の履行へと移ろう。そういった話をしたかったんだ」

「去年の『アレ』は嘘じゃなかったんだね。まあ、彼をシロコちゃんが連れてきた時、嘘じゃないんだとは思っていたけど」

「珍しいね。ヤクモが案内を必要とするなんてそうそうある事じゃない」

「熱中症で倒れてたんだよ。先生とそんなに離れてなかったみたいだから、すぐに対応できたみたいだけど」

「ふむ……それは感謝しておかないといけないね。とはいえ、やはり、珍しいことではある。ヤクモは迷子と熱中症とは無縁だと思っていたのだけれどね」

「そうなの? 彼、トリニティの生徒会長がわさわざ気にかけるような感じはしなかったけど」

「否定はしないさ。ヤクモはキヴォトスに来るまで、戦闘を行うことが少なかったからね」

「なら、なんであの子が先生の護衛なんて」

「彼以上に適任はいないから。だね」

 

 即答だった。彼とそんなに信頼関係を築いているのかと感じさせられる一言だった。

 だからこそ、より、気になることがある。

 

「彼と先生が私たちを裏切らないって保証はあるの?」

「それがないと私に手を貸す気はないと?」

「そうでしょ? 君が提示してきた条件があまりにも私たちにとってメリットが大きすぎる。アビドスの借金の3割を肩代わりしてくれる上に、その取り立てもしない。去年、その契約を交わした上で、アビドスとトリニティ合同で治安維持を行う協定まで結んだ……それもトリニティの生徒がアビドスで問題を起こした場合、私たちがその子たちの裁判権も保持する形で」

「悪い条件ではないだろう?」

「だからこそ、君の目的……いや、君が隠していることについて、教えて貰えないと私も協力することが出来ない」

「なるほど。それも一理ある。私も君と同じ立場なら、君と同じように疑うだろうからね。そうだね……ならひとつ、約束して貰えないだろうか」

「約束……?」

「あぁ、今から私の目的を包み隠さず教えよう。この空間において私は一切の嘘がつけない。その点は留意しておいてくれるとありがたいかな」

「……嘘が付けないって言うのも本当なんだね?」

「もちろん。隠し事はできても、嘘はつけない。そういう制約なのさ」

 

 見た感じだと嘘はついてないように見える。だけど……私は……私たちはいっぱい騙されてきた。だから、全部を信用することはできない。

 でも、もし、本当にアビドスのためになるなら……ユメ先輩が守りたかったアビドスが守れるのなら……

 

「わかった。それで、その約束っていうのは?」

「今から話す内容を例え後輩であっても話さないで欲しい。それだけだよ」

「わかった」

「それじゃあ、少し長くなるが、しっかり聞いてもらいたい」

 

 そういって、百合園セイアは語り始めた。

 彼女の目的を、私たちに去年話さなかった本当の目的というものを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 百合園セイアが語り始めて1時間くらい経っただろうか。

 

 私は色々真剣に考えていたことが馬鹿らしくなって、笑ってしまっていた。

 

「何をそんなに笑っているんだい? ……いや、大丈夫だ。私とて君がどうして笑ったのか分からないほど、頭が回らないわけではない。とはいえ、私としても羞恥心というものを持ち合わせているんだ。そう、端的に言うならば……めちゃくちゃ恥ずかしいんだ」

「うん、うん。わかるよ。うん。そっか。うんうん。トリニティの生徒会長自らが隠したがってた目的って……うん、なんだろう。君って結構バカなんだね」

「バカは言い過ぎだろう!? 私の一世一代の大勝負でもあるんだ。これくらい手を尽くしておいて損は無いだろう」

「君の目指してるところは損も得も関係ないって、おじさん思うけどなぁ。けど、うん、わかったよ。これは確かに他の子に聞かれたくない理由だし、約束は守るよ。ノノミちゃんにもシロコちゃんにも、もちろん他の子達にも君の隠し事は話さないって約束する」

「全く、とんだ恥をかいた気分だよ」

「そう? おじさんとしては結構親近感湧いちゃったよ」

「あまり嬉しくない親近感の沸き方だが、目をつぶろう」

 

 そういって、セイアちゃんが大きく深呼吸して、真剣な眼差しを私に向ける。

 

「安心してくれ。契約も協定もきちんと履行することを保証しよう。明日、君たちの元に白州アズサという少女が向かう手筈になっている。案内して貰えるとありがたい」

「うん。わかったよ。アズサちゃんだね」

 

 白州アズサちゃん……どんな子か分からないけれど、セイアちゃんが選んだ子なのだろうから、きっと変な子なんだろう。セイアちゃんがだいぶ変な子だったから。

 

「なにやら、失礼なことを考えている気配を感じるが、アズサもだいぶ変わった子だ。きっと、君たちも一目みたらわかると思う」

「やっぱり変な子なんだね」

「やっぱりとはなんだい? 私の発言に、『やっぱり』という枕言葉が着くような要素などなかったと思うのだが」

「ううん、こっちの話だから」

「そういうことにしておくよ。それじゃあ、小鳥遊ホシノ……いや、もう私の秘密を共有したんだ。ホシノと呼ばせてもらうよ」

「あ、うん。私もセイアちゃんって呼ぶから、気にしないで」

「……その髪色と君の戦闘能力でそう呼ばれると別の子が頭に浮かぶよ……と、関係ない話は置いておこう。そして、ホシノ。この時間も終わりのようだ。君を起こしに後輩が来たみたいだ」

「外の様子もわかるんだ……そういえば、この空間ってヤクモくんの夢……なんだよね?」

「そのとおりだが。それがどうかしたかい?」

「いや、ヤクモくんが居ないなって思って」

「あぁ、その事か……まあ、難しい要素は省かせてもらうが、単純な話さ。ヤクモは今眠りについていない。それだけの事だと思ってくれればいい」

「そっか。それじゃあ、またね? でいいのかな?」

「あぁ、次会うときがこの空間ではなく、トリニティの教室であることを願うよ」

 

 そうセイアちゃんが言ったのを聞くと、何故か眠気のようなものを感じ眠ってしまった。

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