嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第百二十四話:襲撃は脱獄の始まり

 

 

 

「だぁーかぁーらぁー!! 俺の話を聞けぇー!! 二分だけでもいい!!」

「るせェー!! 素人がガタガタ抜かすんじゃねェー!!」

 

 

 

 獄卒島の一角に存在する座敷牢は今、ヒリついていた。

 いや──正確に言えば二名だけがヒリついている。残る三人は座敷牢に遊びに来た子猫とにゃんにゃん戯れている為、すぐ近くで繰り広げられる喧騒に『まだやってる……』と呆れているだけだった。

 

「ウチの製法に文句付けようってのか!? 金時作るんなら伝統の作り方に倣うのが道理ってモンだるォ!?」

「それが間違ってるから作れてねーって話だよぉ!! 俺の聞きかじった知識舐めんなよ!? 知恵の樹ペロペロしたからそんじょそこらの歴史書より知識はあんだよ!!」

「ペロペロ舐めてんじゃねェーよ!! 齧れ!!」

「ガジガジガジ!! あぁー、鉄格子旨ェー!! 鉄の味がするぅー!!」

「うわっ……」

「急に引かないで? 傷ついちゃう」

 

 口論すること早一時間。

 最初こそ『金時』という業物の話題に華を咲かせていたライアーとフェルムであったが、いざ製法の話になった途端空気が一変。

 鍛冶に精通するフェルムと知識だけは持っているライアー。あーだこーだと話し合っている内に口論はヒートアップ。今や半分鉄格子に顔面をめり込ませながら怒鳴り合っている有様だ。醜い。

 

「ライアー、もうやめなよぅ……鍛冶師さんに鍛冶を語るなんて百年早いよ」

「おっとぉ? アータン、今日はやけに切れ味が鋭いな」

「鉄仮面が分厚いよ」

「もしかして面の皮が厚いって言いたい?」

 

 そしてアータンの援護射撃(ツッコミ)

 何故だかいつもより数段と切れ味を増している言葉は、アータンが大好きなライアーの心を的確に抉り取っていく。

 普段ならこれだけでもう挫けてしまうだろうが、今日の彼は違った。

 

「いや、分かるぜ。知識だけのトーシロに一端の口利かれても納得いかねーってこたぁ。でもよ、全部が全部無駄だって切り捨てるにゃあ早いぜ?」

「無駄だろ」

「にゃ~ん」

 

 ズバッと切り捨てられ、ライアーはネコちゃんになってしまった。

 これには座敷牢でくつろいでいた子猫もシンクロして鳴き声を上げてしまう。座敷牢はあっという間ににゃんにゃんオーケストラと化してしまった。

 

「にゃん……うなぁん……」

「ああ!? ライアーさんがショックでネコちゃんから戻らなくなっちゃいました!」

「なあ、フェルム殿。あやつはこう見えてちゃんと博識なのだ。本人の技術はともかく、知識に関してはオレが保証しよう」

 

 立ち直れなくなったライアーを見て、流石にベルゴが助け船を出す。

 フェルムはそれを聞いてからようやく耳を貸す気が出てきたようだ。『そうか?』と、まだ怪訝そうな表情ながらも持ち上げた腰を下ろした。

 

「……仕方ねェ。現状足踏みしてる事実は否定できねェからな。話半分に聞いといてやるよ」

「ほら、ライアーさん。フェルムさんが聞いてくれるらしいですよ?」

「……ホント?」

「ああー! わたし、ライアーさんの話聞きたくなってきたなぁー! 金時の製法、とっても聞きたいなぁー!」

「──そこまで言われちゃ仕方ねえ!」

 

 献身的なアスのフォローにより、ライアーのオタク魂に火が点いた。

 普段は話し始めたら小一時間は続くライアーのオタク語りだ。普段は仲間内でも細心の注意を払い、刺激しないように心がけてはいるが、今回のように涙で湿気た導火線に着火するには、これくらいの発破が必要になってくる。

 

「それじゃあ語って進ぜよう。そもそも金時を作ったのは誰か、まずはそこから何だが──」

 

 しかし、一度着火された火は中々消えない。

 どれくらい消えないかと言うと、見た目は一見消えている炭火ぐらい消えていない。消えていると思って触れれば火傷するので注意が必要だ。

 

「──で、だ。シュテン、トラクマ、ホシグマ。三人の鬼人達が力を合わせて打ち上げられたのが稀代の名刀『金時』って訳よ……」

「ふんっ! ふんっ!」

「せいッ! せいッ!」

「よし、にゃんこ共。あそこで腕立てしてる雄を二匹ほど討ち取って参れ」

 

『ナ~ン』

 

「何ッ!? 待て、ライアー! オレはちゃんと話を聞いていた──ぞうッ!?」

「あっ♡ 待ってください、そこはわたしの──ぱおん!?」

 

 腕立てをしていた雄二匹、子猫にタマを殴られてダウンした。ノックアウトだ。10カウントは要りそうにない。

 と、このようにライアーの話は長時間に渡った。眠気を誤魔化そうと体を虐め抜いていた二人の他に、アータンは座敷牢の中ですやすやと夢の世界に入っている。

 

 対する鍛冶の鬼・フェルムはと言えば。

 

「──そうか……そういうことか!」

「みゃ!? な、何々!?」

「事実だけを端的に切り取るんだったら、炉の温度と折り返しの回数が足らねえんだ! 火床(ほど)の火力を高めるには……そうだ、炭の種類を変えよう! 大火力を長時間維持できるように! それに焼き入れに使う水に酒を使うなんて考えもしなかったな……。酒精で発火するだろうに……いや、逆にそれがいいのか? 酒の種類も出来るだけ当時と同じモンがいい。酒屋のじいちゃんにヤシオリの酒が貰えねえか訊いとかなくちゃな……」

 

 大声を上げるフェルムに飛び起きたアータン。

 その後も延々とブツブツ独り言ちる彼女の姿を見て、黒魔術の儀式めいた光景に怯えて震えていた。心配して寄り添う子猫もバイブレーションで『うにゃにゃにゃ』と震える始末である。

 

「ふふふふふ……居ても立っても居られなくなってきた!! 早速試しに打ってくる!!」

「焼き入れの時は気を付けろよぉー。控えめに言って爆発するからなぁー」

「望むところだッ!!」

 

 鍛冶魂に火が点いたフェルムは颯爽と座敷牢を後にする。あとは獄卒島で爆発が起こらぬことを願うばかりだ。

 

──ゴゴゴッ。

 

「……お? なんだなんだ?」

「地震かな?」

「ムゥ……こんな形の島で地震とは、不安になってくるな」

「ベルゴさん! なんで言っちゃうんですか!?」

 

 怖くなってくるじゃないですか! と自分の肩を抱き、アスは悲鳴を上げる。

 獄卒島は傍から見れば海に突き刺さる逆円錐状の島。島の大部分の質量が一点に集中している以上、何かの拍子にボッキリ折れて倒れる可能性がゼロではない。

 

「けど、これ地震じゃなくね? 地震大国に生まれた俺が言うんだから間違いない」

「どこ生まれだ、お前は」

「……この魔力」

「アータンちゃん?」

 

 一人、座敷牢の中で神妙な面持ちを湛えるアータン。

 その様子から尋常ではない事態を感じ取ったのだろう。他三人の顔も自然と険しくなる。

 

「──まさかッ!」

 

 立ち上がるアータン。

 その瞳は畳の下へと向けられたが、次第に視線は高くなっていく。じわりじわりと。ついには床と平行線を辿った視線の先に、彼女が見たものは──。

 

「あの時の……魔物!」

 

 海中より這い上がりし海の魔物が、来た。

 

 

 

「クラーケンが!」

 

 

 

「クラーケン来ちゃったって。困ったにゃ~」

「ナ~ン」

「危機感!」

「危機感も何も……俺達今牢屋だから何もできないし」

「な~ん……」

 

 正論を返され、アータンもネコちゃんになってしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「女子供はこっちだ!」

「さっさと逃げろ! 家財なんて後だ!」

「命惜しくねえのか!?」

 

「……んだ、こりゃあ?」

 

 フェルムが座敷牢を飛び出してすぐの出来事だった。

 パニック状態であちこちに逃げ回る住民達。鬼人で構成されている住民が泡を食って逃げる光景は、たとえ荒事に慣れていない人間だとしても一大事と理解できる。

 

 そんな中、フェルムは避難誘導に徹している青肌の鬼人を見つけた。

 長身ながら細身の体はいささか頼りなさを覚えるものの、彼が里の治安を守る若衆の一人だ。

 

「セイドウ! こりゃあ一体なんだ!?」

「フェルムの姉貴!? まだ避難してねえんスか!?」

「避難ゥ?」

「聞いてなかったんスか!? 里ん中に魔物が入り込んだんスよ!」

「はぁ!?」

 

 セイドウと呼んだ青鬼の説明に、フェルムは素っ頓狂な声を上げる。

 

「若衆はどうしたんだ!? いつもならとっくに撃退に出てんだろ!?」

「実は今朝、クロガネの兄貴らが船で魔物退治に出て……」

「まだ戻ってきてねえってことか!?」

「……か、返り討ちに遭ったんスよ~!」

「……なんだってェ!?」

 

 眼球が飛び出さんばかりに目を剥いたフェルムはセイドウの胸ぐらを掴んだ。

 頭二、三個分ほど身長差があるというにも拘わらず、フェルムの気迫にセイドウはタジタジ。鬼の目にも涙というには、あまりにも情けない光景である。

 

「じゃあクロガネは!? 無事なのか!?」

「報せに来た使い魔が言うには、全員命は無事みたいっス。けど、取り逃がした魔物が里の方面に逃げてきて、それで……!」

「クソッ! 結局里に戦える奴が居ねえってことじゃねえか!」

「い、居るには居ますよ……族長様とか」

「テメェが名乗りを上げろや!」

 

 正論と正拳を貰うセイドウ。

『はぐぅ!?』と背中をくの字に曲げる彼であるが、流石は鬼人だ。たっぷり三十秒ほど使って立ち上がった後は、泣く泣く『分かりました……』と承知の意を見せる。

 

「と、とりあえずフェルムの姉貴はさっさと逃げてくださいよ! 姉貴になんかあったら、ぼくがクロガネの兄貴になんて言われるか……」

「シャクドウと同じこと言ってんじゃねェ! 仕事しろ!」

「ひぃ!?」

「……あっ、そうだ」

「姉貴? ちょっ……どこ行くんスか!?」

 

 突如、踵を返して走り出すフェルム。

 その背中に手を伸ばすセイドウであったが、押し寄せる人波のせいで彼女との距離はグングン引き離されていく。

 

「あ、姉貴ぃー!」

「座敷牢の囚人! あいつらも避難させなくちゃなんねェだろうが!」

「囚人ぅ!? そんなの放っときゃあいいじゃないスか!」

「馬鹿! 里の恩人でもあんだろうが!」

「それはそうっスけど、だからって姉貴が……あぁー!?」

 

 引き戻そうと試みるセイドウであったが、最終的には誰かが引き連れてきた家畜の牛の群れに押し流されて叶わなかった。

 

「誰っスか!? 憂牛(ブルーブル)も連れてきたのは!?」

「ンモォ……」

「んもぉーはこっちの台詞っスよー!」

 

 牛の大群には勝てない。これは真理であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうするの、ライアー!?」

 

 

 

 地震にも似た地響きが鳴り響くこと数分。

 未だに鳴り止まぬこの音が魔物の這い寄る足音だと分かった今、本来ならば悠長にしていられる時間などはない。アータンも切羽詰まった顔で問いかけてくる。

 

 でもねぇ。

 

「どうしましょ」

「何も考えてないの!?」

「だって俺達虜囚だし……」

「さっきも聞いた正論!」

 

 どうやらこの答えはアータンのお気に召さなかったらしい。

 とはいうものの、実際閉じ込められている間に俺達ができることはない。

 

「逃げ出そうにも、この手枷があるんじゃ魔法使えないし……」

「それはそうかもしれないけど……!」

 

「……む? 頑張ればこの鉄格子、曲げられそうだな」

「あっ、わたしもです」

 

「マ法が使える奴は居たみたいだな」

「マ法って何?」

 

 マッスルな方法、略してマ法である。

 魔法に頼らずとも日々鍛え上げた筋肉は、時に魔力を介在せずとも窮地を打開するという訳だ。

 

「だが、今マ法を使えば俺達は言い逃れができなくなる……その覚悟はあるかっ!?」

「やっちゃえ、ベルゴさん! アスさん!」

 

「「応!」」

 

「思考の時間がノータイム~」

 

 男らしい掛け声を上げ、漢二名がそれぞれ鉄格子に手や脚を掛け始めた。

 

「おいおい……本当に鉄格子メキメキいってんじゃん。マジでマ法で脱獄叶っちゃうじゃん!」

「ライアーはそれでいいの!?」

「ん?」

「いつものライアーだったら困ってる人を見捨てない! 私……そんなライアーが好……凄いと思ってたんだよ!」

 

 鉄格子に見える涙目のアータン。

 ウッ……やめてくれ。流石にその表情は俺の良心が痛む。

 

「私の知ってるライアーだったらこんな時、ジッとなんかしていない! 迷わず助けに行くはずだよ!」

「アータン……俺だって助けに行きたいさ。でもな、時にはジッと堪えることが正解の時もある。大丈夫だ、万が一には分身の俺が報告に──」

 

 

「よう、本体(おれ)。出番そうだぞ」

 

 

「唸れ、俺のマ法ッ!!」

「ライアー!!」

 

 分身の報告を受け、俺も鉄格子に手を掛ける。

 分身が来るってことは外が相当不味そうな事態という訳だ。こっそり援護してもどうにもならないからこそ、分身は来てくれたのである。

 

「うおおおおお!!」

「よしっ、オレの鉄格子は開いたぞ!!」

「わたしもです!!」

「うおお!! うおおおおお!!!」

「ライアー、お前も早く!!」

「何してるんですか!? 真面目にやってください!!」

「うおおおお──って、できるかァ!!」

 

「綺麗なノリツッコミだったね」

 

 アータンにも賞賛されるくらい、ベタなノリツッコミをしてしまった。

 

 知ってる? 常人は鉄格子をこじ開けられねぇの。

 『開けられた二人は』って? あいつらは化け物。

 

 仕方なく俺とアータンの鉄格子はベルゴとアスがこじ開けてくれた。実に素晴らしい馬鹿力だ。ちょっと後ろで牢屋の鍵を背中に隠す分身(おれ)の姿はスルーしておこう。

 

「んなっ……アンタら、どうやって!?」

 

 と、その時だ。

 通路の奥にいつの間にか立っていたフェルムが、目を点にしてこちらを凝視していた。あっ、ヤベ。

 

「これはこれはフェルムさんじゃないですかぁ……ヘヘッ、あっしらに何の御用で?」

「なんで卑屈な三下振ってんだ。いや、里が魔物に襲われてるからアンタらも危ないと思って……」

「それでわざわざ? あー……なんか、ごめん」

 

 きっと色々葛藤してくれたんだろうね。

 でも本当にごめん。筋肉馬鹿が二人居たせいで、彼女の決意が無駄になったみたいで申し訳なさが天元突破だよ。

 事実、俺の後ろに居るベルゴとアスも気まずそうに床をジッと見つめている。

 

「おら、てめえら。反省して鉄格子元に戻しとけ」

「「はいっ……!」」

「そんなことより先に避難だ! オレに付いてこい!」

 

 フェルムに案内されるがまま外に出る俺達。

 島に流れ着き、連行されている間は目隠しされていたから分からなかったが、ここでようやく目にした里の全貌を目にすることができた。

 

 まず目についたのは里中に並ぶ木造の平屋建て。まるで一昔前の漁師町のような趣がある。

しかし、今は嘘のように人気は感じられない。どこももぬけの殻であった。

 

「こんな時じゃなけりゃゆっくり観光したんだけどな……」

「観光なら疑いが晴れた後にすりゃいいさ! 避難所はこっち──あぁ!?」

「っ、フェルム!?」

 

 突如、フェルムの体が何かに持ち上げられた。

 一見すると何もない空間に浮かんでいるフェルムであるが、その体勢を見るに何かに締め付けられているのは明らかである。

 

「どこだ!?」

「魔力の反応は……こっち!!」

 

 不可視の敵に警戒を最大限に高める俺達。

 だが、ここで真っ先に察知したのはパーティーで最も魔力感知能力に長けたアータンであった。敵の居所を察するや否な、不自然に景色が歪み、その正体が露わとなる。

 

「やっぱりてめえだったか……ケミカルクラーケンめ」

『──』

「さっさとその娘を返しな。今だったら足十本で許してやるぜ」

 

 たしか、正確にはイカの足は八本で触腕が二本だった気がするが……まあ、どっちでもいい話だ。

 

「に、逃げろアンタら……!」

「待ってろ、フェルム。今助けてやるからなー」

「馬鹿! 忘れたのか……アンタらは今、魔力が……!」

「ああ、これのこと?」

「!」

 

 心配して逃げるよう促すフェルム。

 けれど──もう遅い。

 音を立てて落ちる手枷。そんな俺達の後ろには使い終えた鍵をクルクル回す分身が立っている。

 

「持ってきたのが牢屋の鍵な訳ねーだろ?」

「ヘッ! ところで分身(おれ)よ」

「どうした、本体(おれ)

「武器は?」

「……」

「……」

「お前達にはちゃんと武器があるじゃねーか。誰にも負けない──“心”って奴がな!」

「おい! まずはこいつからやれぇ!」

「ごめんて!? ホントごめんて!?」

 

 肝心の武器を持ってきてくれなかった分身には一発拳を叩き込んでおく。

 トントンッ! じゃねーんだよ。胸叩いてんじゃねえ。

 

「ったく! こうなったらあれしかねえか!」

「あれもこれも……私は最初からそのつもりだったけど」

「オレも」

「わたしもです」

「素手で十二分に戦える奴らに俺の気持ちが分かってなるものか……ッ!」

 

 少なくとも戦力三割減ぐらいしてしまうが致し方ない。

 

 罪使いは武器がなくとも戦える。

 その理由は──説明するよりも、まず見た方が早いだろう。

 

 俺は鉄仮面を。

 アータンは指輪を。

 ベルゴはピアスを。

 アスは首輪に手を当てる。

 

 そして、同時に告げた。

 

 

 

『──告解する』

 

 

 

 魔力さえ使えるなら罪化も可能だ。

 そして、罪化さえしてしまえば俺達は罪化の極致──罪度Ⅲに至ることができる。

 

「我が〈罪〉は〈虚飾〉」

「我が〈罪〉は〈嫉妬〉」

「我が〈罪〉は〈怠惰〉」

「我が〈罪〉は〈色欲〉」

 

「俺は──」

「私は──」

「オレは──」

「わたしは──」

 

「──〈虚飾のライアー〉!」

「──〈嫉妬のアータン〉!」

「──〈怠惰のベルゴ〉!」

「──〈色欲のアデウス〉!」

 

 四人全員が魔人と化す。

 

 さて。

 

 

 

「リベンジと……いこうじゃねえの?」

 

 

 

 懺悔するなら、今の内だぜ。

 

 




Tips:憂牛(ブルーブル)

──ブルーブルがブルー過ぎる。

 この顔色が悪い牛はブルーブルといい、主にプルガトリア大陸に生息するウシ型の魔物です。ブルーブルの特徴は何と言ってもその体色にあります。見てください、この大海原のような青色を。微塵も食欲が湧いてきません。
 ブルーブルは本来、乳牛用の青と白のまだら模様の個体と、青一色である肉牛用の個体が存在しますが、どちらもこの食欲減退効果がありそうな青色であることには変わりません。

 しかし、これには理由があります。
 青色とは脳が食用と認識しづらい色である為、実際に獲物がブルーブルを視認した際に『あれは食べ物ではない』と認識し、手を引く確率を高めるという生存戦略なのです。
 その他、ブルーブル自身も細やかながら自分から発する魔力で、自分を見たものの食欲を減退させるため、二重の減退効果で獲物に狙われにくくするという手を取っているのです。

 このように生物の本能をも利用した賢い生存戦略を確立したブルーブルでありますが、一つだけ天敵が存在しました。
 それは人間です。
 人間はアホみたいにあれこれ食べようとする究極の雑食性を兼ね備える生物です。それに加えて食べられない毒物であろうと、あの手この手で食べられるよう試行錯誤を繰り返すのですから救いようがありません。場合によって原理不明の解毒の過程で食べられるようになるフグの卵巣の糠漬けといった狂気の食べ物も存在しますが、彼らにとって重要なのは食べられるか否かであり、過程は二の次です。
 そのような人間にとってただ青色の牛など、パッと見の食欲が減退するだけであり、彼らの食べようとする意思をどうこうできるほどの強制力はありません。それ故にブルーブルは敢え無く家畜化され、今日も乳や肉を搾取され続けているのです。

 これが憂いを帯びた表情の理由も分かるブルーブルなのです。

*【嘘吐きは勇者の始まり】第2巻、5月30日発売予定!

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