嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第百二十六話:歩みは歴史の始まり

 

 

 

「シャバの空気うんめェ~!」

 

 

 

 クラーケン襲撃の翌日、俺達は座敷牢から解放された。

 解放してくれたのは赤鬼の看守・シャクドウ──ではなく、『クロガネ』と黒鬼の大男である。

 

「おい、あまり騒いでくれるな」

「分かってますって。へへっ、その節は色々と世話になりまして……」

「どの節だ」

「俺達が釈放される節目の日の節」

「まさに今この瞬間だな」

 

 それなら間違いねえ、と。

 黒くて硬くて雄々しい頭に反し、意外とツッコミは柔軟だった。俺、こういう人大好きよ。

 

 しかし、クロガネの表情は険しい。

 

「今回お前達には世話になった──だが、疑いが全部晴れた訳じゃねえ。今回の礼と今後のことを話し合う為に、お前達にはこれから族長に会ってもらうことになった」

「あら、そうなのん?」

「そこまでの案内役……それと監視役に任されたのが俺だ」

 

 包み隠さず話したクロガネは、背負った大太刀の柄を指でトントン叩く。

 どうやら、仮に逃げたら俺は首チョンパされてしまうらしい。そうなった場合、俺は嘘吐きお喋り鉄仮面から嘘吐きお喋りデュラハンに進化してしまうだろう。

 

「間違っても逃げようなんて思わないことだ」

「だそうです、ボス」

「え? なんで私に言うの?」

「なるほど……その嬢ちゃんが……」

「また冤罪が積み上げられてってる!?」

 

 うちのボスであるアータンは、あらぬ疑いの目を向けられて俺に抗議の声を上げた。

 ちなみにうちのパーティー、書類上のリーダーが俺、立場的なボスがアータン、精神的トップがベルゴ、おしゃれ番長がアスだ。完璧な布陣である。

 

 ……あ、そう言えば。

 

「自己紹介がまだだったな」

「あん? 別にその必要は……」

「俺はアスの仲間のベルゴの仲間のアータンの仲間のライアーだ」

「誰が誰で誰だって?」

「俺はアスの仲間のベルゴの仲間の……」

 

「アータンです」

「ベルゴだ」

「アスです」

 

「お、おぉ……」

 

 俺の自己紹介鉄板ネタに困惑するクロガネを見て、すかさず三人がフォローに入った。

 そして、俺は三人からそれぞれ掌打と手刀と蹴りを貰う。鎧の隙間を縫って叩き込まれる打撃の数々は、俺を十秒ほど蹲らせるには十分過ぎる威力だった。とても痛い。

 

「ごめんなさい。うちの人、いつもこんな感じですけど悪い人じゃないんです」

「……苦労してるんだな」

 

 むしろ、今のやり取りを見て俺以外との距離が縮まったようだ。頭を下げるアータンを見て、クロガネも同情した表情を禁じ得ていなかった。

 

「……まあ、俺もお前達が悪い間人(げんじん)じゃねえことは分かってるつもりだ。それでもやっかみを掛けてくる野郎が居るかもしれんから気を付けてくれ……そういうこった」

「気遣い痛み入る」

「ライアーさん、分かりましたか?」

「何故俺だけ名指し?」

 

 アスに名指しで注意される俺。誠に遺憾である。

 そんなこんなで俺達は族長の下に案内され始める。戦闘中のような落ち着けぬ状況とは違い、ようやくゆっくりと眺められる里の風景は中々に趣を感じられた。

 茅葺屋根の平屋がいくつも並び立ち、額から角を生やした、文字通り十人十色な体色をした鬼人達が談笑をしている。

 

 ただし、近くを俺達が通り掛かれば談笑は止まる。

 ひそひそ話をしつつ、横目で俺達をチラリ。しかし、その視線に敵意や害意は感じられず、どちらかと言えば珍しいものを見る奇異の目に近かった。

 

「やれやれ。フェルムだって居るのに間人がそんな珍しいかねぇ~」

 

『見て。あの鎧……』

『不思議な形ねぇ……』

『後ろのヒラヒラ、なんなのかしら……』

 

「いえ、どちらかと言えばライアーさん限定では?」

「カニぃ~……」

 

 確かに。

 確かに過ぎて、俺はカニの鳴き声を真似してしまった。カニが鳴くかは知らんけど。

 

「ねえねえ」

「なんだい、アータン?」

「さっきから言ってる、その……間人ってなぁに?」

「良い質問だな、アータン。では説明しよう!」

「ねえ、ライアー。その後ろから飛び出てきたお猿さんは何?」

「えっ? 嘘……うわっ、ホントに知らない奴だわこれ。怖っ」

「なになになに!? なんで急に恐怖体験始まってるの!?」

 

 いつの間にか後頭部に張り付いていたお猿さんは山の方へ帰し、アータンの質問に答える。

 

「間人は俺達──要は魔人じゃない人間のことだな」

「……鬼人とか木人とか、そういうのを抜いた?」

「うんうん」

 

 魔人には広義の意味と狭義の意味、二つの意味がある。俺が言ったのは狭義──悪魔のように“魔”の要素が発現していない人間を指す方だ。

 というか、この場合初代ギルシンを例に挙げた方が早いだろう。

 

「人間って罪化してやっと魔人になれるだろ? それこそ色んな魔人に。どの魔人にもなれるけど、どの魔人にも属さない──つまり、全ての種族の中間に居る魔人。だから“間人(げんじん)”」

「今じゃ全然聞かないね」

「そりゃ、悪魔以外ほとんどの魔人が居なくなったからな」

 

 ギルシン世界で“間人”の呼び方が通っていたのは、それこそ魔人と共存していた初代時代ぐらいだ。

 それ以降、地上の魔人族はほとんど姿を消した。

 その為、自然と“間人”という言葉も消えていったのである。

 

 この解説を聞いていたクロガネも静かに頷き、口を開いた。

 

「うちの里も今じゃ使ってない奴らも多い。というのも、昔ほど里の鬼人も多くないからな」

「そうなんですか?」

「見てみろ。肌色の奴が多いだろ?」

「……言われてみれば」

 

 たしかに、とアータンは周囲を見渡してから言った。

 案内される道すがら、見かけた鬼人の肌色は色々だ。しかし、よくよく数を数えてみれば普通の人間と変わらぬ肌色の者が多いと分かる。額の角さえ見えなければ、ほとんど人間と変わらぬ見た目だ。

 

「年々鬼人の血も薄まってってる。俺みたいに片方が純血でもなきゃあ、大概は間人の方の特徴が強く現われんのさ」

「片方が、って……じゃあ、クロガネさんの親御さんは?」

「母親が間人。もう死んじまってるがな」

 

 それを聞いたアータンはハッと口を手で覆う。

 だが、クロガネは別に気にしてもないと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 

「そういう訳だ。うちじゃ間人もそう珍しいもんじゃない。あんまり気ぃ張る必要もねえ」

 

 

 

「おぉう、嬢ちゃん達! クラーケン追い払ってくれたんだってなぁ!? 酒分けてやるよぉ!」

「わあ! ありがとうございます!」

 

 

 

「ゆるゆるにしろとも言ってねえ」

 

 クロガネが話している最中、酔っぱらっているのか元からそういう顔色なのか分からない鬼いさんが酒器に注いだ酒を分けてくれた。

 受け取ったアータンが酒器──たぶん、ぐい吞みだろう。そいつをグイッと呷って喉を鳴らす。

 

「っ~!? キュ~っと来るっ……でも、果物みたいな爽やかな後味が来て美味しい~!」

「おっ、嬢ちゃんいける口だな!」

「どれどれ、俺も一口……うえ゛っほっほっほ!? ──A Whole New World」

「ライアーさん!? 戻ってきてください!?」

 

 アータンに続いて俺も頂いたが、余りの酒精の強さに新世界を視た。

 あ、危なかった……。

 酒は百薬の長とは言うが、薬も過ぎれば毒となる。つまりはそういうことだ。

 

「だから忠告したんだ。鬼人の体は酒に適応してる奴が多いから、酔っぱらう為に自然と酒精が高いのを飲む奴が多いんだ。間人には毒だぞ」

「でも美味し~♪」

「おい、この嬢ちゃんの肝臓どうなってんだ?」

「毒に強いんです、この子」

 

 〈嫉妬〉だからね。鍛えられてんのさ。

 たぶん毒キノコとかフグの肝臓とか食ってもお腹を壊すだけだと思う。それくらい〈嫉妬〉の毒耐性って凄まじいのよ。

 

「間人も色々居るんだな……」

「でも、鬼人の人達も色んな肌の色をした人が居ますよね? 何か理由があるんですか?」

「ん? ああ、そうだな。間人と違って、鬼人は環境に適応する力が強いんだ」

「環境に適応?」

「そうだ……おっ、ちょうどいいところに」

 

 そう言ってクロガネは近くを通った緑色の小鬼を指差す。

 初めて見るはずなのに何度も見たことのある姿だった。それくらい人間にとってなじみ深い亜人、その名も──。

 

「──小鬼。間人で言うところのゴブリンだな。あいつにはその種族の血が強く出てる」

「ゴブリン? って、あの本とかに出てくる?」

「ああ。小鬼は鬼人の中でも森に適応し、進化した種族だ。あの緑の肌色は緑溢れた風景に溶け込む為……いわば迷彩柄みたいなもんさ」

 

 緑色の肌は風景に溶け込む為。

 低い背丈は茂みに身を隠す為。

 さらに、そうした特徴は薄暗い洞窟を住処とする上でも役に立つ。ゴブリンとは、そういう環境に適応した種族なのだとクロガネは語った。

 

「他に馴染みが深い鬼人と言やぁ……ほら、あそこ。あいつは鉱鬼人だ」

「あの姿……もしかしてドワーフ!? あの鍛冶が得意な!?」

「鉱鬼人は鉱山生活に適応した鬼人さ。狭い坑道で作業する。その為には背は小さく、それでいて筋肉はついてた方が望ましい。そういう環境で生きていたからこそ、鉱鬼人はああいう体型になった」

「そうだったんだ……!」

「大体、どの挿絵の鉱鬼人にも角ついた兜描かれてるだろ? ありゃ兜に角が生えてるんじゃなくて、角が兜から飛び出してるんだ」

 

 言われてみれば確かに、と四人全員で唸る。

 大体どの本で見かけるドワーフも角つき兜を被っているものばかりだ。しかし、まさかそれが自前のものとは思うまい。

 こうした鬼人関連のうんちくが琴線に響いたのだろう。アータンは目をキラキラと輝かせながらクロガネを見上げていた。

 

「タメになります! もっと聞かせてください!」

「そうか? じゃあ吸血鬼はどうだ? あいつらは実は食料に乏しい地域発祥の鬼人でな。獲物をどうにか食い尽くさないよう、殺さず腹を満たす手段として血を吸う性質を獲得したらしい」

「へー! へー!」

「他には単眼鬼……島の外じゃサイクロプスって呼ばれる奴らだが、あいつらは生まれた時から単眼な訳じゃねえ。奴らは鍛冶を生業にしていた鬼人の末裔さ。火の温度を見極めんのに片目を閉じてたのが、いつの間にやら目が一つしかねえ鬼人が生まれたのが始まりさ」

「そんな極端なことが!?」

 

 ゴブリンやらドワーフならまだ理解できるが、親の仕事の影響で子供が単眼になるなど、にわかに信じ難い話である。

 けれども、鬼人特有の性質の存在を知れば話は別。最初に語った“環境に適応する力”に繋がる訳だ。

 

「──百の地あれば百の鬼あり。そう謳われていたのも随分昔の話だ。今じゃ連れを探す為だけに島を出る若ぇ鬼人も多い」

「ああ、だからフェルムさんに『婿を取れ』って」

「……そういうつもりじゃあなかったんだがなぁ」

 

 ざんばら頭を掻くクロガネは、複雑な面持ちを湛えていた。

 

「島の外に追い出す方便を、何を考えたのか真に受けやがって……それで島に居座ったかと思やぁ、婿も取らねえで鍛冶ばっかしてやがる。里の奴らも呆れてるよ」

「クロガネさんはどうなんですか? フェルムさん」

「ぶっ!?」

 

 アータンから投下される突然の爆弾発言。

 これには不意を突かれたクロガネも噴き出し、キョロキョロと辺りを見回している。まるで特定の誰かに聞かれていないか心配するような素振りである。

 

 あらあら。

 

「青春ねぇ……」

「あの頃が懐かしくなってくる」

「異種族恋愛……! ……純愛ですねぇ」

 

 これには我ら井戸端マダム‘sも出動せざるを得ない。

 三人で微笑ましい眼差しをクロガネに送れば、みるみるうちにクロガネの表情が羞恥に歪んでいく。

 

「おい! 俺があいつに惚れてる前提で話し進めるな!」

『うぃ~、クロガネ~☆ もうとっくに里中にバレてんぞ~♪』

「るっせえぞ、スズ!」

 

 通りがかった銀髪ギャル風の鬼娘に図星を突かれ、クロガネは怒声を上げる。

 しかし、返ってくるのは住民の笑い声だ。クロガネは黒い肌の上からでも上気していると分かるくらい、顔からポッポと熱を発していた。

 

 だが、この場で一番盛り上がっている人間はと問われれば彼女をおいて他には居ない。

 鬼人のうんちくの時以上に瞳を輝かせる少女、アータン。他人の色恋沙汰は、三度の飯の次点に位置するくらい大好物の彼女は、鬼人と間人の恋愛模様に食いついた様子を見せていた。

 

「馴れ初め──聞かせてください」

「はあ!? なんで赤の他人にんなこと話さなきゃ……!」

「馴れ初めを──聞かせてください」

「うおっ!? な、なんて圧だ……は、背後に巨大な龍が見える……!?」

「馴れ初めを──聞かせていただけませんか?」

 

 丁寧さに比例して増す威圧感。

 これには頭五つ分以上背丈が大きいクロガネも圧倒されていた。流石はうちのパーティーでも随一の魔力量を誇る存在。本気になれば『今のは〈極大火魔法(イグニエル)〉ではない……〈火魔法(イグニ)〉だ』ぐらいやってのけそうな魔力オバケぶりは、こういう時に遺憾なく発揮される。

 

 ちなみに背後に見える龍の幻影は俺が出している。

 演出なら……お任せあれぃ!

 

「残念だがもうすぐ族長の家だ。この話はまた今度だ」

「くっ! ……あとであのスズって人に聞こうっと」

「おい、やめろ。人脈を築こうとするな!」

 

「後でお土産持ってお邪魔しようぜ」

「そうだな。タオルなんかどうだ?」

「いいですね。ラーディクスで作りましょう」

 

「全員乗り気になるんじゃねえ!」

 

 かくして、あとで銀髪ギャル鬼娘(スズちゃん)家にお邪魔する計画は立ち上がった。

 それはさておき、ようやく目的地の族長宅に到着する。平屋ばかりの風景が広がっていた里の中で唯一の二階建てだ。自然と存在感は際立っているし、その上厳めしい見た目をした魔物の屋根飾りが施されている。

 

 来訪者に威圧感を与える外観。

 敷居を跨ごうとするも足踏みしてしまいそうな雰囲気を放つ建物の中からは、誰かが言い争っているのか怒鳴り声が聞こえてくる。

 

 だが、いつまでも門前で立っている訳にもいかない。

 『あいつら……』と溜め息を吐くクロガネに続き、堂々たる門構えを抜けて、屋敷の中へと踏み入った。

 

 そのまま廊下を歩いていけば、襖一枚に隔たれた部屋の前に辿り着いた。

 ワンワン響き渡る怒声の大本も、どうやらここからのようだ。

 

「──親父、入るぞ」

 

 クロガネは襖を開けた。

 そこには──。

 

「──だから、事が収まるまで間人は島に留めておくべきだ!」

「でも、こんだけ色々助けてもらったんなら釈放で良くな~い?」

「良くない! 金時はまだ行方不明なんだぞ!?」

 

 俺達の目の前で怒鳴り合う二人の鬼。

 片や金色、片や銀色とさりげなく生きるにはギンギラギン過ぎる色合いだ。しかも、装いからして不良は不良でも古風なヤンキーとイマドキのチャラ男風と、選り取り見取りである。なんで絶海の孤島なのに、こんな見た目のバリエーション豊かなんだよ……鬼人だからか。

 

「──おい」

 

 だがしかしだ。

 

「お客人がお見えだ。そこまでにしとけ」

 

 部屋の最奥に鎮座する人影。雄々しい角を額からそそり立たせた彼が、地響きに似た声を低く発した瞬間だ。喧騒はピタリと止み、あれほど怒鳴り合っていた二人の鬼人は冷や汗を流し、口を堅く噤んだ。

 

「ぴぇ……」

「ライアーさん? なんで正座してるんです?」

「はっ!? つい……」

 

 そして、俺もいつの間にか正座してしまっていたことをアスに指摘された。

 この感覚はあれだ。小学校の時、他人に向けた先生の説教を聞いて、自分も叱られているような感覚に陥った時と似ている。

 

 今はこんな俺でも、学校じゃ品行方正で真面目な生徒だったんだよ。

 嘘だろって?

 うん、俺も今思い返してみたけれど品行方正は言い過ぎたわ。バカでアホでマヌケなクソガキだった気がする。スリーアウトだがチェンジは利かない。先生、本当にすみませんでした。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

「見苦しいとこを見せちまったな、お客人。ささっ、どうぞお掛けになって」

 

 促されるがまま座布団に腰を下ろせば、眼前の老鬼は巌のような唇を開いた。

 

「おれはこの里の族長……ハガネだ。まずは二度も里のモンが助けられたこと、族長として礼を言わせてくれ」

 

 ありがとう、と。

 ハガネと名乗った老鬼は、威厳ある角諸共深々と頭を下げた。

 たっぷり数十秒ほどだったろうか。彼なりの誠意が十二分に伝わってきた頃、ようやくその俯いた面は再び俺達の前に晒される。

 

 うん。

 やっぱ、怖ぇわ。

 

「初めまして、族長さん。俺は冒険者のライアーです」

「……? ライアー、いつもの()()やらないの?」

「アータン? アータン?? アーてゃん?? 俺も時と場所と場面は使い分けるのよ?」

 

「いつものあれ? ──気になるな。やってみてくれ」

「族長さん? 族長さん?? 族長しゃん??」

 

 無難な自己紹介から始めようと思ったら、味方から背中を撃たれた。とんだフレンドリーファイアだ。

 それどころか消火しようとした火を族長が広げやがったではないか。大炎上である。

 

「えっと……」

『……』

「くぅ~ん……」

 

 全員の視線が俺に集まっている。

 ある者は純粋な興味の目を、ある者は憐みの目を向けてくる。

 

 仕方ない──やるしかないのか。

 

「俺は──アスの仲間のベルゴの仲間のアータンの仲間のライアーです」

「……」

「……アスの仲間のベルゴの仲間のアータンの仲間のライアーです」

「……なるほどな。初対面で誰が誰かも分からねえ手前ぇに『いや、誰が誰なんだ』ってツッコませるボケってことか」

「殺せよ」

 

 初対面の相手に鉄板ネタを解説されて、俺はどんな顔をすりゃいいんだよ。

 ……あっ、俺鉄仮面被ってるから見えないか。ハハッ!

 

「ア゛ー゛タ゛ン゛ッ゛!!」

「むみゃあ~~~!?」

 

 こんな地獄を見せてくれたアータンには……ほっぺモミモミ地獄の刑だ!

 悔い改めよッ!

 

「わたし達、こんな感じの冒険者なんです」

「仲ぁ良いんだな」

 

 族長さんは『結構結構』と頷く。

 理解してもらえてなによりだ。

 

 




Tips:鬼人族(きじんぞく)
 七つの魔人種の内の一つ。筋骨隆々な肉体より発揮される力と、怪我をしてもすぐ治る治癒力が特徴的。
 一見、額に生えた角と個体ごとに違う色鮮やかな肌の色が最たる特徴だ。しかし、そんな鬼人を鬼人たらしめる最大の特徴はその環境適応能力にある。
 人間が環境に合わせた道具や文明を作って適応するように、鬼人は自らの肉体そのものを環境に適応させるように進化する。その進化の速度はすさまじく、親子三代を経れば完全にその環境に適応してしまう肉体に作り替わるほど。

 具体例を挙げれば小鬼(ゴブリン)は、鬱蒼とした森に適応する為、茂みなどに隠れて見つかりにくくなるよう緑色の肌となった鬼人族である。その為、植生によっては様々な色のゴブリンもいる。
 その他、鉱鬼人(ドワーフ)単眼鬼(サイクロプス)吸血鬼(バンパイヤ)といった種族を始めとし、鬼人は環境や生活に合わせた独自の進化を遂げた個体が数多く存在していた。

 しかし、時を経るにつれて地上の鬼人族は数を減らしている傾向にある。
 かつての血筋も薄まった今、鬼人然として風貌で生まれてくる者はそう多くない。普通の人間に角が生えているだけのような見た目の者も数多く存在する。
 反面、地獄に存在する鬼人系の悪魔は他者を恐怖させる外観の者が数多い。これは力こそが絶対的な正義である地獄において、自らの力を誇示する為、そうした見た目をしているのだと一説には言われている。

*【嘘吐きは勇者の始まり】第2巻、5月30日発売予定!

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