嘘吐きは勇者の始まり   作:柴猫侍

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第百五十話:遅参は真打の始まり

 

 

 

 体格差は圧倒的。

 ただの一撃が致命打に成り得る。

 

『アータン、掴まっていてください!』

 

 だからこそ、マインには『直撃を避けること』が求められた。

 巨体を修復する魔力もタダではない。仲間と騎士団より分け与えられた魔力が尽きれば最後、マインはあの巨神と立ち向かう力を失ってしまう。

 

 なればこそ、無駄な損傷は避けねばならない。

 

 その一心で迫り来る二本の巨腕を、背中に生まれた〈Fe-C(騎士の鉄十字)〉で斬り飛ばす。

 分厚い肉をぶった切り極太の骨を断つ鈍い音が、轟音となって空に木霊した。噴き上がる血飛沫の量は凄まじく、文字通り血の雨となって地表に降り注ぐ。

 

 だが、その間にも別の腕が迫っていた。

 〈Fe-C(騎士の鉄十字)〉は刃を振り抜いた直後。超重量も相まって、どうしても攻撃後には硬直時間が生まれてしまう。

 

『フンッ!』

 

 だからこそ、肉弾戦を捨てて空いていた両腕に意味が生まれる。

 

『おおおおお!!』

 

 迫る拳を真正面から見据え、受け止めるのではなく()()()()

 急停止することもままならぬ拳が向かう進路上には、反対側より敵を狙っていた自身の腕が近づいてくる。

 

『打ち!! 砕!! けェ!!』

 

 駄目押しと言わんばかりに、受け流した腕に勢いづけて手放すマイン。喉より迸る声にも鬼気迫る感情がこれでもかと乗っている。

 

 そして、着弾。

 

 同士討ちではなく、ほぼ自爆と言うべき惨状が目の前で繰り広げられる。

 激突する拳が互いを壊し、腐臭漂う血と肉と骨とを、踏み荒らされた森と目の前の街並みに撒き散らしていった。

 それでも破片は巨大である。たとえば肉片が衝突した家屋は、その重量と衝撃に耐えられず、砂煙を巻き上げて倒壊していった。

 

『申し訳ございません!』

 

 すぐさま謝罪を口にしながらも、マインの巨体はすでに相手の懐を目指していた。

 迫る腕を叩き斬り、攻撃直後の隙は自分の腕で切り抜いていく。そうする内に一本、また一本とネフィリムの腕は数を減らす。

 

 巨大な腕が積み上がる光景は、凄惨の一言に尽きた。

 

 だがしかし、彼の破壊神に立ち向かうことすら叶わぬ民衆にとって、それは何よりの希望に他ならぬ光景だった。

 

 斯くして、希望は絶望の懐に潜り込む。

 

(狙うべきは──)

 

 マインは己の居る場所を思い返す。

 必要以上に煩雑な魔術式を組むロスを鑑み、今回は肉眼で外を確認する方式を取っていた。そうとなれば必然的に彼女は高い位置に搭乗しなければならない。

 

(頭部!)

 

 つまりは、巨体を動かす“核”だ。

 

(同型機──同じ〈(シン)〉である以上、巨体を制御する方法にそこまで差異はないはず!)

 

 狙いを澄ませる。

 切っ先は、血走った一つ目を向いていた。

 

「マイン! 前、前ぇ!」

『!』

 

 しかし、敵が無抵抗であるはずもない。

 着実に距離を詰める金色の巨人に対し、巨神はアプローチを変えた。巨大な掌が大地に突き立てられるや否や、引っぺがされた地表が弾丸となってマインを襲う。

 

『アータン、揺れます!』

「へっ!? 今までも結構揺れてたと思うんだけどぅぉぉお──!?」

 

 途端に身に降り掛かる浮遊感は、金色の巨体が姿勢を低くしてスライディングしたが故だった。迫りくる巨弾に対し、極限まで速度を落とさぬまま回避と接近を両立させる。

 

「わたっ、私今天井に張り付いているゥー!?」

『申し訳ございません!』

 

 謝られては何も言い返せない。

 絶叫マシンの天井に張り付いたまま、アータンは静かに涙を呑む。随分久しぶりに呑んだ涙の味は塩辛く、若干旨味も感じられた。

 

 アータンが現実逃避している間にも、グングンと両者間の距離は縮まる。

 

 巨神の眼球に刃が届く間合いまで──あともう少しだ。

 

『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!!』

 

 その時、巨神が吼える。

 魔物の雄叫びを前に、世界は恐怖に竦むように震え上がっていた。

 

 ゆっくりと山のような巨躯が動く。

 それを見たマインは目を剥いた。

 

『アータン!』

「今度は何ぃ!?」

()()()()!』

「はい? えっ、ちょっと待って跳ぶってどういう──」

『体に教えます!』

「それは味方に使っちゃダメな言葉ぁーーーっ!?」

 

 有言実行。

 アータンの叫びも虚しく、少女は間もなく格納空間の床に全身を押し付けた。

 

──『跳ぶ』と言ったからには『跳んでいる』のだろう。

 

 朦朧としてきた意識の中で考えるアータンの想像通り、陽光を照り返す金色の巨体は跳んでいた。

 最早空と呼んで差し支えない高度の下では、跳躍した理由が不気味に蠢いている。

 

(ですがこれで!)

 

 届く。

 ここまで駆けて跳んだ勢いがあれば、あとは走り幅跳びの要領で、慣性が巨神の頭部まで届けてくれる計算だった。

 

──邪魔が入らなければ。

 

 翼を持たぬ生物にとって、空中とは無防備を晒す特大の()だ。

 バキバキと。

 

 何かがひび割れ、筋繊維が千切れる不協和音が空まで飛来する。

 

──()()()()()()()()

 

『再生……!』

 

 ただし、叩き斬った腕の断面からではない。

 切られた腕を杖にし、元々杖にしていた腕を攻撃に回す。ただそれだけの話だった。

 

『くっ!』

 

 苦しそうな声を上げながら、マインは巨体の制御に全神経を注ぐ。

 二本の腕と二本の剣を振るい、何とか途中で叩き落されまいと必死の抵抗を続けた。

 

 だが、金色の巨体は空中で停止する。

 何かの魔法でも不思議な念動力でもない。マインの抵抗を潜り抜けた腕の数本が、彼女の巨体を掴んだのである。

 

『ハァアアア……!!』

 

 巨神の口角が歪に吊り上がる。大型船を繋ぎ止める係留策が千切れるような音が、黄金の巨鎧越しにマインの耳朶を打った。

 

 巨神の単眼には、複数の腕に掴まれる己の姿が映る。

 

 身動きは──取れない。

 

「マインっ!?」

『──想定の範疇です』

 

 切羽詰まった声を聞き届けた瞬間、背中の白銀が()()()()()

 

 さながら孵化する蟷螂。

 ただし両腕に構える得物は鎌ではなく、(Fe)炭素(C)を加えて鍛え上げられた鋼の剣だ。

 

 鋼の意志を以てすれば、貫けぬものなどない。

 

 

 

『──〈独立せし意志(コナトゥス・レケデンディ)〉』

 

 

 

 学びは、すでに得ていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……手応えがないな」

 

 

 

 巨人が戦り合う背景で、ベルゴが小さく零す。

 猛き獣人と化した彼は今、背中に炎の巨人──聖霊を背負っていた。その光は禍々しい闇に覆われる大地の上でも煌々と輝き、迫り来る闇と敵を打ち払わんと剣を振るう。

 

 そして、飛ぶ斬撃──〈月天〉がルキフグスの影なる肉体を切り裂いた。

 が、裂けた肉体はみるみるうちに繋がっていき、数秒後には元の悪魔のシルエットに修復される。

 

 嫌な風が、俺達の頬を撫でた。

 

「──〈極大闇魔法(ネブラエル)〉」

十天流(アストラ)、第四天──〈太陽天(たいようてん)〉!!」

 

 ルキフグスの手より暗黒の塊が放たれる。禍々しい魔力を感じる〈闇魔法〉の上級魔法、〈極大闇魔法(ネブラエル)〉だ。

 しかし、ベルゴより噴き上がった炎が、それを真正面から掻き消してみせる。

 

 霧散する漆黒の魔力の残滓を一瞥し、ルキフグスがハッキリと舌打ちするのが見えた。ざまあ見やがれ。

 

「〈聖書の庭(ホルトゥス・ビブリクス)〉──〈大麦(ホルデウム)〉!!」

 

 一方アスは、罪器より伸ばす根で〈聖域〉を展開していた。

 今回は一面を絨毯のように覆い尽くす青々しい穀物、〈大麦(ホルデウム)〉。その生命力溢れる色彩に違わず、踏み締める者に癒しをもたらす──つまりは自動回復効果を持つ〈聖域〉だ。

 

「結局、こういうのがいっちゃん嬉しいんだよなァ!!」

 

 破魔の剣(イリテュム)で死守する安全圏から、浄罪の聖剣(ヴァニタス)より迸る炎刃でルキフグスを狙う。

 

「フンッ」

 

 が、それは奴の振るう金時によりまんまと打ち砕かれた。

 

 霧散する魔力の残滓が、星屑のように散って消える。ああ、無常……。

 

「屑が。……燃え尽きろ」

 

 お返しにと返ってくるのは、断罪の聖剣から放たれる業火。罪深い──つまり、悪い方に業を積んでいる人間ほど効きやすい攻撃だ。

 

 要は、〈堕天〉を極めている奴ほど喰らうってワケだ。あっはっはー。

 

「ダメージレートが違ぅう!!」

 

 なので、死ぬ気で凌ぐ。

 なんで避けるかって? そりゃアレよ。ここまで〈(シン)〉を仕上げる日には眠れない夜が千夜一夜ぐらいあったんだよ。

 

 ああ、走馬灯が見える。

 毎晩妹に御伽噺という名の嘘を吹き込んだ日々が……。

 

 とまあ、現実逃避だけしていても目の前の危機からは逃れられない。一旦変化が解けたヴァニタスを今一度浄罪の聖剣に変化させた上で、込める魔力を増やす。すると生まれた炎の壁が断罪の聖剣の攻撃は通さなくなるのだ。

 

「あの日の俺が責めたり守ったりしてくる今現在!!」

「そんなものだ、人生は!!」

「含蓄がすごいです!!」

 

 活を入れるベルゴと支えてくれるアスのおかげで、何とか攻撃は凌ぎ切った。

 だが、そうそう何度も使える手法ではない。

 

「無様だな、〈虚飾〉。あれだけ息を巻いてその程度か?」

 

 悠々と翼を羽搏かせながらルキフグスが、挑発してくる。

 奴も奴で同種の聖剣を使っているにも拘わらず、魔力切れの素振りはこれっぽっちも窺えない。魔力量ってのは生まれ持った才だからね。涙が出てくるぜ。

 

「ハッ、何言ってやがる。俺の聖剣はまだビンビンのギンギンよォ! お前のしなびた聖剣とは若さも持続力も違うってことを証明してやんぜ!」

「ライアーさん?」

 

 よし、うちの聖剣もまだまだ余力があるようだ。

 いつ尻に一発喝を入れられるかビクビクしつつも、俺は二人とつかず離れずの距離を保つ陣形を取る。

 

 これが現状最適のフォーメーション。

 ルキフグスの凶悪な〈聖域〉に、唯一対応できる生存術であった。

 

「ライアー、魔力はあとどれくらい持つ?」

「この調子だと長く見積もって10分ってとこか」

「最短は」

「……」

 

 背中側の二人に見えるよう、俺は後ろ手で指を三本立てる。

 

「ずっと全力出したらな」

 

 一応補足を入れたものの、二人の眉間から険が落ちることはない。

 そりゃそうだ。

 たったそれだけの時間で敵方の大幹部、それも実質トップ張ってる奴をどうにかしろと言ってるんだ。

 

 ゲームで例えたら、超高難易度ボスの制限時間が通常より明らかに短い……といった具合だろう。俺だったら時間切れになった瞬間、悪態ついてFワード吐き散らすね。

 

「だが、やるしかないのだろう? ならばやるだけだ」

「無理でもなんでも、どうにかこうにか通すしか……!」

 

 

 

「反吐が出る」

 

 

 

『!?』

 

 ルキフグスが呟いた瞬間、背後から轟音が鳴り響く。

 最小限向けた視界には、ネフィリムの目ん玉……もとい頭を貫くマインの姿が見えた。

 

 貫かれた急所から、腐敗して黒く染まった血が滝のように溢れ出る。

 誰がどう見ても勝敗は明らか。

 

 しかし、湧き上がる歓喜は悪魔より垂れ流される負の感情に押し潰される。

 

「ほとほと、貴様らの無知にはな」

「……どういう意味だ?」

「あの程度でネフィリム──〈大罪〉を冠した兵器がやられるとでも?」

「〈大罪〉? ……アイのことか」

「そうだ」

 

 ルキフグスに連れ攫われた人造人間、アイ。

 わざわざ蘇らせて持ち帰ったのだ。その先でネフィリムが暴れているとなれば、誰が核になっているかくらいは予想がつく。

 

「ネビロスの研究により、俺達はネフィリムという強大な戦力をさらに上の次元へ押し上げることに成功した」

「まさか……死者に〈罪〉を使わせる、あの外法か!?」

「ほう、知っていたか。悪くない技術だろう? 有用な死体を再利用できるんだ。貴様らも喉から手が欲しいんじゃないか?」

 

 ルキフグスの言葉に憤慨しかけるも、ベルゴは辛うじて留まる。

 だが、その表情は余りにも凄絶だ。眉間と刻まれた千尋の皺は、彼の怒りと悲しみの深さに他ならない。

 

 ……けど。

 

「……悪趣味だな」

 

 鉄仮面がなけりゃあ、俺も似たような面を晒していたところだ。

 家族同然の親友と初恋の人を弄ぶような真似されたら、とてもではないが平静では居られまい。

 

「下種が」

 

 人伝で聞いたアスでさえ憤怒の(この)形相だ。

 口にしたことのないような罵倒を口にしては、罪器が軋むほどに握り締めている。

 

「何故憤る? 死人に、貴様の親しい人間としての価値はないはずだ。ましてや赤の他人なら尚更だ」

「死者を! 死者を冒涜する行為に憤ることの何が可笑しいッ!?」

「“冒涜”か……倫理や道徳に縛られた人間らしい言葉だな」

 

 義憤に燃えるアスに対し、ルキフグスは冷たく笑い飛ばした。

 

「そんなもの命のやり取りにおいては何の意味も成さない。価値も。むしろ、そんなくだらない価値観のせいで敵に利する方が、死人への冒涜ではないのか?」

「……悪魔め」

「誉め言葉だな」

 

 見ろ、と。

 悪魔は顎をしゃくり上げ、俺達の後ろを指し示す。

 

「使えるものなら死体でも使う……それが悪魔だ。その点、俺は人間にも一定の感謝の念は抱いている。使える死体を残してくれたおかげで、巨神兵(ネフィリム)は再びこの世に蘇ったんだからな」

 

 奴が指し示すは、無数の腕が生えた歪な巨人の方だろう。

 巨神兵(ネフィリム)の素体に〈強欲(アイ)〉を組み込んだと思しき、強さも倫理観も最強最悪の破壊神は、十数本の腕で頭部を貫いた巨人の分身を掴み上げる。

 

「──〈百手の巨鬼(ヘカトンケイル)〉」

 

 そして、握り潰した。

 

「今日、アヴァリー教国を亡ぼす破壊神の名だ」

 

 バリバリバリと雷鳴が轟く。

 それは〈百手の巨鬼(ヘカトンケイル)〉と名付けられた巨神兵(ネフィリム)が、マインの分身を引き裂く音だった。

 

 あっという間だ。

 ものの数秒で鋼鉄の巨躯は、一山いくらのスクラップと化して周辺に放り捨てられる。

 

「マイン……!?」

「アータンちゃんが!」

 

 分離(パージ)した攻撃手段が破壊され、本体は今も尚拘束されている。

 

「どうした? 仲間が死ぬ瞬間を目に焼き付けなくていいのか?」

 

 黒影に浮かぶ双眸が卑しく歪んだ。

 

「ったく、どいつもこいつも……」

「……その指はなんだ?」

「あ~ん?」

 

 俺の人差し指を注視するルキフグス。

 一挙手一投足に注意を払ってもらえるとは、俺も高く買われているようだ。

 

 でもな。

 

「ずぅ~~~~~~っと思ってたんだけどさぁ……」

 

 魔王軍(おまえら)()()()()()()()()()は別にいるんだよ。

 

 

 

 それを今から教えてやるってんだよ。

 

 

 

「お前らさぁ……“人”を見下すから上が見えねえんだよ」

 

 

 

──ボコッ。

 

 刹那、()()()()()()()()

 俺の爪先を警戒し、空の方を眺めていたルキフグスは一瞬反応が遅れる。

 

「これは……!」

「あとお前ら、見下す癖して足元も見えてねえよなぁ?」

「!」

 

 違和感は続々と増えていく。

 〈聖域〉の中心──ルキフグスを取り囲むようにして円形に。

 

 地面は真っ黒な闇に覆われている。聖剣から放たれる浄火や強い光がなければ、瞬く間に飲み込まれてしまうほどの深淵でだ。

 

 だが、それが〈聖域〉であるならば境目がある。

 

()()()()、あるぜ?」

 

 盛り上がる影が、遂に破られる。

 

 さて、ここで問題だ。

 マインに魔力を分け与えてくれた騎士団の皆は、結局どうしたでしょ~か?

 

 

 

「人間様を──舐めんじゃねえよ」

 

 

 

 答えは、この悪魔に一泡吹かせてからだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

『──!!?』

 

 

 

 黄金の巨躯を掴んでいた腕より血の花が咲く。

 

 マインも、アータンも。

 さらにはヘカトンケイルでさえ、その光景に息を呑んだかのような空気に周囲が塗り替えられた。

 

『あれは……人間?』

 

 凝視するマインは、空を翔ぶ人影を目にする。

 烏のようなお面を被り、黒翼を羽搏かせる三本足の剣士。

 

 しかし、顔をよく確認するよりも早く、()()を脅威と見なしたヘカトンケイルが動き出す。

 まるで人が蠅でも叩き落すかのように、全力で開いた手を空中の人影に叩きつける。

 

「……鈍間」

 

 が、しかし。

 今度は花束、それこそブーケトスでもしたかのように血の花は乱れ()()。ものの一瞬で斬り飛ばされたヘカトンケイルの腕からは、大量の腐血が轟々と噴き上がっていたではないか。

 

「あの人って……!?」

 

 マインの中よりアータンは感じ取っていた。

 静謐ながら、どこか血腥さを拭えぬ魔力の感触。忘れるはずがない。強者はいつだって、深海のように底知れぬ“魔”を内に秘めているものだ。

 

(聖堂騎士団団長の──!)

 

 

 

「遅参……極まれり」

 

 

 

──〈無欲のレイム〉、推参。

 

 

 




Tips:Fe-C(騎士の鉄十字)
 〈勇者の証明(フォルティス・ウィロス)〉によって再現された〈怠惰の聖騎士〉の御業。背中より生えた上半身のみの分身体は両腕は剣を備えている。
 Fe()C(炭素)より精錬された鋼鉄の刃は重く、鋭く、柔な防御などその質量で叩き斬ってしまえるほどの威力を誇る。

 さながら〈怠惰の聖騎士〉の繰り出す聖霊の如き働きを見せる技だが、その真価は一定時間本体より分離し、自律稼働してくれる点にある。
 本体から攻撃手段を減らしてしまう欠点こそあるものの、これだけの巨躯と質量を持つ分身が自動で攻撃を加えること、それそのものが欠点を上回る利点となり得る。

 分身は全身が鋼鉄で成立している訳ではなく、あくまで刃部分のみに鋼鉄を用いている。その他の部分は出来得る限り周囲に存在する物体を取り込みつつ、徹底的な軽量化を図っている。その巨体も相まってか長時間の稼働は難しい。
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